29日の中国電力の株主総会は、福島第1原発事故を受け、上関原発(山口県上関町)の計画中止を求める株主の発言が相次いだ。会場の中電本社(中区)前では、上関原発予定地対岸の祝島の住民らが計画反対を訴え、騒然となった。「脱原発へ!中電株主行動の会」の呼びかけで、上関原発計画の中止や島根原発(松江市)の運転停止など脱原発関連6議案が株主提案されたが、すべて反対多数で否決された。【樋口岳大、加藤小夜、寺岡俊】
山下隆・新会長と苅田知英・新社長ら役員が総会後に記者会見し、改めて原発推進を明言した。
山下会長は「原子力開発の先頭に立って取り組んだが、(島根原発の)点検不備問題や(福島)原発事故の影響もあり、残念ながら次の世代に託すことになった。新社長を支援する」と語った。
苅田社長も原子力開発について「エネルギーセキュリティー、安定供給の確保、価格の安定性を考えれば今後も必要な電源の一つ」と従来の方針を繰り返した。多数の点検漏れが発覚した島根原発1号機の運転再開と、制御棒駆動機構に不備が見つかった同3号機の運転開始時期は、いずれも「見通しが立っていない」と語った。
「脱原発へ!中電株主行動の会」世話人の木原省治さん(62)=佐伯区=は「上関町民を29年の長きにわたって賛成、反対に分断させたことに謝罪をしてはどうか」と迫り、山下隆社長は「謝罪したい」と答弁した。木原さんは「総会を休憩して、中電本社の玄関にいる反対派の人たちに、社長が出向いて謝罪すべきだ」と求める動議を提出したが、否決された。
ある男性株主は「今まで原発は必要と思っていたが、福島原発で事故が起き、死者まで出た。上関原発の計画は中止すべきだ」、別の女性株主は「原発事故が起こったとき、私財を投げ出して賠償する覚悟があるか、選任される取締役に問いたい」と提案したが、山下社長は「不要」と議事を進めた。
山下社長は総会後の会見で「謝罪」の趣旨について「29年もの長い時間がかかり、賛成派、反対派の方が反目されていることに対して、申し訳ないという意味だ」と説明した。
株主の声はさまざま。広島市の主婦(70)は「原発は『必要悪』と思っていたが、福島の事故を見ると、切り替えないといけないと強く感じる。いまその時に来ているのではないか」と話した。尾道市の無職、平原伝さん(85)は「脱原発を訴える人の感情は分かるが、日本の経済などの現状を考えても難しいのでは」、府中町の無職男性(81)は「原発が危険というのはみんな分かっているが、新しいエネルギーをつくってからやめないといけない」と語った。
総会終了後、山下社長の「謝罪」発言について「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の山戸貞夫代表(61)は「謝罪の気持ちがあれば、具体的に原発をやめることだ。そうして初めて、中電が原発問題で30年間混乱させた上関町などに対する責任を果たすことになる」と話した。
毎日新聞 2011年6月30日 地方版