この裁判の判決にもいささか首を傾げざるを得ないが、それよりなにより理解に苦しむのは、自社の輝かしい報道の成果を自ら貶めるという道新幹部の行動である。
メディアの調査報道によって不祥事を暴かれた権力や組織が、報復の脅しや嫌がらせをするケースは珍しいことではなく、それに対して最も大事なことは、当のメディアの幹部がいささかも揺らぐことなく、毅然とした姿勢を保つことだ。
米ワシントン・ポスト紙のウォーターゲート事件報道で、ニクソン政権からさまざまな脅しや嫌がらせを受けた同社のグラハム社主が「私が刑務所に行けばいいのでしょ」と平然としていたという話は有名だ。
また、道新に対する道警のあからさまな嫌がらせをそばで見ていながら、見て見ぬふりをしている他紙の姿勢も、いただけない。特ダネ競争は競争として、権力と闘うときにはメディアの連携が重要だ。
メディアの連携といえば、米ニューヨークタイムズ紙のペンタゴン・ペーパーズ報道で、政府から掲載を止められるやワシントン・ポスト紙やロサンゼルスタイムス紙が次々とリレー掲載した話を思い出すが、何もそこまでいかなくとも、道新の孤立化を黙ってみていることはなかったと思う。
ところで、こうした道新の「変身」ぶりに嫌気がさしたのか、裏金取材班のデスクとして中心的な役割を果たしてきた高田昌幸氏が、この6月いっぱいで途中退社するという。社内に残って闘ってほしかったが、前途に希望が見出せなかったのだろう。
政治家の介入によるNHKの番組改変事件で、内部告発や法廷証言などで闘った永田浩三氏や長井暁氏らも相次いで途中退社している。
こんなことで日本のジャーナリズムは大丈夫なのだろうか。
もちろん、戦後の日本のジャーナリズムの歴史に燦然と輝く、あの道新ともあろうものが、こんなことで魂を失うとは思いたくない。いや、必ず立ち直ると、私は信じているが…。