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光る車
作者:茶和
嫌いなもの、苦手なものはないほうが良いのです。人生の選択肢が広がるから。私もひとつ、広がった。
 子どもの頃、車が大の苦手だった。バスだろうがタクシーだろうが、乗ってものの5分もすると顔面蒼白になる。生唾が出、頭痛がする。肩が急に凝ってくる。ビニール袋は必需品だった。
 ところが小学校では、春と秋の遠足は必ずバスだった。バスに乗るのは課せられた憂鬱な義務だった。三年生の遠足は秩父方面の山へ行き、一日中バスに揺られて連れ回される日程だった。酔い止めの薬は当然効かない。出発して一時間もたたないうちにグロッキーになり、「バスはもう無理、家に帰る」と駄々をこねた。親切にもバスは近くの私鉄の駅に寄ってくれて、ひとりの先生と、多分遠足気分でなかった児童がひとり便乗して加わり、計3人で電車で帰宅してしまった。
 高学年になると、さらに夏の林間学校と臨海学校が加わった。六年生の臨海学校は、片道バスで6時間の殺人的行程だった。迷うことなく欠席を決めた。クラスでただひとり欠席だったが、そんなの何でもないことだ。
 そういう訳で大人になっても、車には縁のない生活を送っていた。ところがどうしたことか、息子はハンドルを手に握って生まれて来たような子で、幼い頃から車大好き、排ガスの臭いを「いい匂い」と言う、信じがたい性向をしめした。16才になった途端原付免許を取り、すぐに自動二輪、さらには当然普免へと進んだ。「このままではペーパードライバーになってしまう!」という悲鳴に、仕方なく安い中古車を買った。初運転に同乗する際、私は酔い止め薬をしっかり飲み、飴玉を立て続けになめた。すると、非常な緊張感の助けもあり酔わなかった。
 ふと、運転席の息子を見ると、どうだ。なんと気持ち良さげなんだろう!
 ウィンカーを出し、滑らかにステアリングを回し、緩やかに右折する。心地よいGが体にかかり、景色が回る。徐々に加速し、滑るように車線変更する。バックで一発で車庫入れをする。なんとしなやかで優雅なひとときなのだろう。突然私は、シルバーのステージアを運転している自分を想像した。そして勢いで教習所に通い始め、三ヶ月後には憧れの普免を手にしたのだった。
 私は難なく車酔いを克服した。こうして隠されていた私の車好きの性向は遂に陽の目を見ることになり、以来八年、我が家では計八台の車たちを飼ってきた。今は赤と黒、二台の車が仲良く住んでいる。


ゲートを通過すると
少し胸が苦しくなる
右ウィンカーを出し
キックダウンする

一気に加速だ
一気に加速だ
気流に乗る
オオワシのように
軽々と流れに同化する
右側を
赤いカウンタックが抜き去って行く
真ん中の走行車線を
斜めに突っ切り
追い越し車線に移る

もう 当分
走行車線には戻らない
空の青 雲の白
木々の緑 
すべて透明にまざり合う
光のリボンのように
流れる景色
振りきりながら全身で風を感じている

目的地は
走るために決めた
ただ走るために
ここに来た

これからの季節、緑濃い中を疾走するもよし、夜景に抱かれて、走るもよし。
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