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きょうの社説 2011年7月1日
◎原発再稼働 玄海では先例になりにくい
停止した原発の運転再開にめどが立たないなか、九州電力の玄海原発で立地自治体が再
開を容認する兆しが出てきた。原発再稼働問題では、どこが最初に判断するのか、自治体間で腹を探り合う姿もみられただけに新たな動きといえる。玄海原発では、地元の玄海町長が早々と再稼働を容認する姿勢をみせていた。原発の立 地場所も津波のリスクは低いとされる。海江田万里経済産業相が佐賀県を最初の訪問地に選んだのは、地元の同意が最も得られやすいと判断したからだろう。だが、玄海を突破口にしたい思いは分かるとしても、結論ありきの再稼働では、後が続く先例にはなりにくい。 経産省は先日、県民向け説明会を開いたが、質問者は経産省が選ぶなど、住民の幅広い 理解を得るには不十分な内容だった。政府の要請で運転を停止した浜岡原発との違いについても、浜岡は大地震の発生確率が高いという従来の説明の域を出なかった。 原発の「安全神話」が崩れ、「脱原発」の流れが鮮明になってきた今、既存の原発につ いては国が責任をもって安全を保証する新たな仕組みがいる。合意形成のプロセスにしても、立地自治体の首長による政治判断を超え、安全性の厳密な判断に基づいたものにすべきである。 玄海原発で新たな動きがあっても、志賀町や石川県は志賀原発について慎重な姿勢を崩 していない。立地場所ごとの災害リスクに沿い、現段階で講じられている原発の緊急安全対策がどの程度、自然災害に対応でき、中長期的な対策が完了するまでどんなリスクが潜んでいるのか。政府には個別の原発で丁寧かつ分かりやすい説明が求められている。 立地自治体の不信を高めているのは、浜岡原発を停止させた菅直人首相が、再生エネル ギーという将来の問題ばかりを語り、喫緊の課題である原発再稼働について説明を避けていることにある。原発の専門機関である内閣府の原子力安全委員会がこの問題に積極的に関与していないことも腑に落ちない。政府一丸となって原発再稼働問題に取り組む体制を整える必要がある。
◎社会保障一体改革 混迷深めた増税頼みの議論
政府・与党がようやく最終案をまとめた社会保障と税の一体改革論議は、消費税率引き
上げが既定路線だったために、終盤になっても増税の文言をめぐって混迷を深める締まりのない展開となった。そのあおりを受け、年金、医療、介護の構造的な見直しや、給付と負担の関係などについては踏み込み不足に終わった印象が強い。増税頼みの議論の限界が見えたと言ってよいだろう。消費税率引き上げ時期はあいまいな表現で決着したが、そもそも景気が安定軌道に乗ら ない段階で時期を示すのは無理がある。将来的な増税は否定しないが、その時期や引き上げ幅は経済情勢を慎重に見極める必要がある。一体改革の議論で、増税が景気に及ぼす影響を幅広く検証する場面がみられなかったのは極めて残念である。 歳出構造の徹底的な見直しや民主党マニフェストの修正、政府保有資産の売却、埋蔵金 の活用など財源確保へ向けた課題は山積している。国会議員の定数削減なども手つかずのままである。それらの議論を詰めないまま、国民に負担を強いるのは虫が良すぎないか。 東日本大震災の復興構想会議がまとめた提言では、復興債の償還財源として所得税、消 費税、法人税の基幹税を臨時増税する方針が打ち出された。国と原告が合意した全国B型肝炎訴訟の和解に関しても、和解金の財源として臨時増税が検討されている。 打ち出の小槌のように増税に頼るのはあまりに安易すぎないか。税収を上げるための成 長戦略やデフレ脱却策を脇に置いて増税一色になれば、企業活動や消費行動に深刻な打撃を与え、日本経済が冷え込むのは明らかである。 菅直人首相は社会保障と税の最終案について「歴史的決定」と位置づけ、野党に協議を 呼びかけた。だが、与党内でさえ異論が収まらない状況で果たしてまともな議論はできるだろうか。 社会保障は国民の安心の基盤であり、国の根幹をなすものである。これほど重要なテー マが首相退陣をめぐる混乱が続くなかで一応の決着をみたことに強い違和感を抱かざるを得ない。
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