[評者]温水ゆかり
[掲載]週刊朝日2011年6月17日号
■復興会議に必要では? 元組長の突破力
昨年の今頃増刷を重ねていた単行本がもう文庫に。富士宮のチンピラから山口組直参となり、武闘派、経済ヤクザとして名を馳せた元後藤組組長の回顧談だ(08年引退)。
祖父は後藤新平や蒋介石、阿南陸軍大将らと親しかった駿河の実業家。電力、鉄道、銀行などの創設に携わり、終戦後、陸軍が東京湾に沈めた金塊を引き揚げた。その孫である著者は敷地千坪の家で育つが、出てくる言葉はドス、日本刀、滅多斬り、懲役、指詰めなどだったりするから、あまりの落差に目が回る。浅沼委員長刺殺事件が起こったのは17の時。同い年の山口二矢が犯行後自死したのに感銘を受け、「男としてみっともないことはしない」と生きる道が決まっていったと言う。創価学会との攻防、糸山英太郎や伊丹十三への襲撃事件、ITベンチャーに流れたとされる後藤マネーなどにヤクザの底知れぬ凄味を、右翼の野村秋介、背中に著者の名を彫って得度したいと言い出すのを待ち構えていた僧侶との男の友情に極道の男気を感じる。
本書の印税は全額東北復興に寄付。今復興会議に必要なのは“学”ではなく、任侠道まっしぐらの突破力。ナントカ塾出身のお坊ちゃま達よ、メンバーに勧誘してみては?
著者:後藤 忠政
出版社:宝島社 価格:¥ 620