福岡県筑紫野市の山中で2008年7月、自営業伊東孝訓(たかのり)さん(当時42)の遺体が見つかり、殺人罪に問われた元指定暴力団道仁会系組幹部、高田真一(しんいち)(48)と同、中原義生(よしお)(46)の両被告に対して、福岡地裁は29日、無罪判決を言い渡した。野島秀夫裁判長は、両被告の指示で殺害を実行したとされる男の自白調書を「信用性に疑いがある」などと指摘した。
野島裁判長は、高田被告には監禁と暴力行為等処罰法違反で有罪と認め懲役5年6カ月(求刑懲役30年)、中原被告には監禁のみ有罪として懲役4年(同)を言い渡した。
この事件では、中原被告の養子で同組員の中原和文(かずふみ)受刑者(37)が伊東さんを射殺したとして殺人罪などに問われ、最高裁で懲役28年の実刑判決が確定している。
野島裁判長は、両被告が中原受刑者に殺害を指示したことは認めた。だが、遺体や現場付近に拳銃を発射した痕跡が見あたらず、中原受刑者の自白が不自然で信用できないとして、中原受刑者が伊東さんを射殺したと認めるには合理的疑いがあると指摘。伊東さんは山中に連行される前、高田被告を含む5人による暴行の結果、死に至った可能性があると判断した。
政府の司法制度改革審議会の意見書が出されてから10年。裁判員制度などが定着してきた一方、「身近で頼りがいのある司法」の実現は道半ばだ。