丸紅パソコン9割引のツケ--損失2億円超

 丸紅がインターネット通販で価格表示を誤り、19万8000円のパソコンを1万9800円で売る羽目に陥った。最大2億6000万円と見られる損失もさることながら、勝俣宣夫社長が「(事業そのものを)清算することもあり得る」と話すように、なお尾を引きそうだ。
 パソコンやソフトウエアなどの販売を手がけていたインターネットサイトの丸紅ダイレクトが値段をつけ間違えたのは、10月31日午後。19万8000円と表示すべきNECの「バリュースター F VF500/7D」を1万9800円と表示したことに端を発する。

「2ちゃんねる」が発端に

 11月2日の午後になって、異常な低価格に気づいた消費者がネット上の掲示板「2ちゃんねる」に「激安パソコンが売られている」などと書き込んだところ、注文が殺到。およそ1000人から約1500台の注文があった。事態に気づいた担当者が、3日午後にその商品をサイトから削除、翌4日にお詫びと売買契約のキャンセルを通知するメールを、申し込んだ全員に送った。

 ところが、申込者が反発、6日の午後になって勝俣社長ら経営陣の判断により、「再度、購入の希望を確認したうえで、希望者には1万9800円で販売する」と方向を180度転換、文字通り出血サービスに踏み切った。

 方針転換の理由について丸紅広報部は「当社の名前を信頼して申し込んでくれた消費者を裏切るわけにはいかない」と説明する。裁判沙汰になってブランドに傷がつくことも恐れたようだ。

 ただし、電子商取引やインターネット法に詳しい山口勝之弁護士は、「売買契約は成立していたが、要素の錯誤は認められるので、丸紅は契約をキャンセルすることは可能だった。申し込んだ側も価格が意図したものではなく、間違いであると認識していたはず」と指摘している。

 丸紅が警戒した裁判についても、「消費者による企業への集団訴訟が一般的な米国とは違い、現状の日本で、こうした件は裁判にはなりにくい。仮にそうなっても、丸紅が敗訴する可能性はかなり低いのでは」と山口弁護士は見ている。

 それでも1万9800円での赤字販売という決断に至ったのは、消費者への最初の対応に問題があったからと言えるだろう。丸紅が4日に顧客に送信した、パソコン注文のキャンセルを告げるメールには、クレジットカードによる商品の支払いを一方的に停止したことなどを、顧客への事後承諾の形で通知していた。こうした対応が申込者を刺激したのは想像に難くない。

 前述の山口弁護士も「最初の対応次第で、『契約は無効でキャンセル』とまでいかなくても、間違いを認めたうえで、希望者には19万8000円から2〜3万円割り引いた価格で販売するなどの妥協案は提示できたはず」と指摘する。勝俣社長も「弁護士とよく相談してから対応すべきだった」と当初の一方的なキャンセルについて振り返る。

営業再開のメド立たず

 丸紅ダイレクトは1998年にパソコンソフトの通信販売を目的に会社組織として設立されたが、近年は競合が増えており、赤字に陥っていた。一昨年12月には、丸紅が立て直しを図り、本体に吸収した。

 こうした中で、起きたトラブルでもあり、勝俣社長も清算を検討していると見られる。同サイトは、6日以降閉鎖されたままで、営業再開の見込みは立っていない。

 赤字ながら本社に吸収してまで事業を継続してきた理由について、丸紅側は「消費者との接点を持つアンテナショップ的な存在だから」(広報部)としていた。だが、今回の事態は、まさに狙いとしていた消費者とのコミュニケーションが不慣れなことを、図らずも露呈した格好だ。

 現在、丸紅は新中期経営計画を遂行中で、12日には755億円の優先株の発行を発表したばかり。資本を増強する一方で、不採算事業の見直しをさらに進める必要が強まっている。この点でも、丸紅ダイレクトは思わぬツケを払うことになりそうだ。