【序章】
ゼェゼェ…
ハァハァ…
息も絶え絶えの音と共に悲鳴にも似た声が木霊する。
「主!主!!しっかりせい、なぜ妾のチャクラを、妖力を使わなんだ!?」
麗しい美女が血だらけの青年に縋りつき叫んでいる。その向こうに膝をつき肩で息をしている者がいるが美女はそんなものには目もくれず青年に自身のチャクラを送り込んでいる。
だが、青年の傷は一向に直らない。
「ハァハァ…玉藻…、もう…いい…どの道俺は助からん…」
青年は自分にチャクラを送ってくれる美女の手を握り返しながら答える。
玉藻と呼ばれた美女はその声に耳を傾けずにひたすら自分のチャクラを送り続ける。
「黙れ、妾の力を持ってすればこのくらいの傷、容易く治してみせる!!」
絶叫にも似た声を張り上げながらも次第にその目から涙があふれてくる。治せるはずの傷が治せないのである。送り込むチャクラを更に増やそうとした時
「無駄だ、その傷は我がつけたもの、如何な妖力甚大な九尾殿であってもその傷は治せぬ」
肩で息をしていた者が近づき青年と玉藻へと話しかける。
「主と主が護るあの里を襲っておいてよくもぬけぬけとモノが言えるな!!」
話しかけてきた者に対し殺気隠しもせずに言い放つ。が、青年へチャクラを送り続ける玉藻。
玉藻とてこの傷が治せないのではないかと思い始めているが、この青年を待っている者がいることを知っている玉藻は無駄だと頭の中では思い始めているにも関わらずチャクラを送る力を緩めることが出来ない。
それは玉藻自身も、この青年を待つ者の代表として青年の制止を振り払い共に戦ったから。青年と共に必ず戻ると皆に伝えてきたから。
「……我も先ほどの術でようやく正気に戻ったのだ、言い訳の仕様がない……」
「な…に…」
その言葉に放っていた殺気を弱めつつつぶやく玉藻。
「…やはり…な」
「主にはこの者が操られていたのが分かっていたのか?」
やはりとつぶやいた青年に問いただす玉藻。その間もチャクラを送る力を止めていない。
だが、その行為は死出の旅への時間を遅らせているだけであるということを、この場にいる者は感づき始めている。
「…考えてもみろ…、地獄の鬼がそう簡単に…現世に現れるはずがない…」
「ではなぜ妾の妖力を使わなんだ。妖力はまだしもチャクラまで…」
「…それは…」
「先の攻防で九尾殿を巻き込みたくなかったから、ではないのか」
青年の言葉を地獄の鬼と称された者が繋ぐ。
「…ッ、主!?今の話は真か!」
「・・・」
「そうなのじゃな…」
沈黙を肯定と受け取った玉藻はみるみる顔を赤めらせ
「このたわけ、妾を巻き込みたくなかったじゃと!妾は九尾ぞ!!主は妾の力を侮っておらぬか!?いくら妾を大泣きさせるからといって、そこ等の女子と一緒にするでない」
殺伐とした空気を一掃するとんでもない言葉が出たが、玉藻は気にせず自ら主と仰ぐ者を見据える。その目は…顔以上に真っ赤に染まっている。
「なんでこんなときにそんな話が出る!?」
青年の返答は妥当なのだがそんな正論、正気を失いかけている玉藻にとって火に油を注ぐようなものである。
「いやまて、話せば分かる!だから死に掛けてるものに対して術を放とうとするな」
血だらけで倒れていたにも拘らず、立ち上がり後ずさりを始める青年。その青年に対し印を組む玉藻。
「問答無用!火遁 狐火の術!!」
「本気で放つな~~~~!」
さっきまで死に掛けていた青年は助けようとしていた玉藻の十八番である狐火の術に追いかけられ走り回っていた。先ほどの殺伐とした雰囲気から一転、その光景を見ていた鬼は…
「なんなんだ、この二人は…我はこんな者達に助けられたのか…」
等と呟いていたとかいなかったとか。
--- 十分後 ---
「死に掛けておった癖によく動けたのう…主よ」
「…死に物狂いで動けば出来ないことは何もないと改めて思ったよ…」
「…(ギン)」
「すみませんでした。自分チョーシ乗ってました m(_ _)m 」
口と態度で怒ってはいても、自身がつけた傷をしっかり治している玉藻と土下座している青年。この場面だけ見るとこの青年が本当に死に掛けているのか疑問である。
「…すまんが話を戻してよいか…」
「ああ(ええ)」
咳払いをして自分の存在を思い出させる鬼と、すぐに真面目な顔となり返事をする青年と玉藻。どうやらこの下りは日常茶飯事なのだなと鬼は思いつつ言葉を繋ぐ。
「ともかく助けてもらった礼をしたいのだが…」
「主の傷を癒せぬのか」
鬼の言葉にすぐ反応した玉藻だが、
「残念だが不可能だ…普段であればその程度の傷、我の力をもって癒せるが…」
「なぜじゃ!なぜ癒せぬのじゃ!!」
尚も追いすがる玉藻だが
「それは俺の生命力が原因ではないのか」
九尾:玉藻の力をもってしても癒せぬ傷の原因を青年がつぶやく。
「分かっておったか・・・」
「まあな、最後の一撃は玉藻の力ではなく俺自身のチャクラを使ったからな…足りない分は無意識の内に自分の生命力で補ったんだろう」
こともなげに言い放つ青年に対し、
「…やはり主は大馬鹿者じゃ…」
「昔から馬鹿ばっかりしてきたのを見てたろ」
「…まあな、その度何度狐火で焼いてきたか…」
「…その話はもういいだろう」
何か思い出したのか頬を膨らませつつ赤くなる玉藻と脱力する青年。その目には涙が滲んでいるのは気のせいではないだろう。
「話の腰を折らんでもらえんか」
もう一度咳払いをしつつ鬼が話す。
「すまん(すまぬ)、続けてくれ」
「…その傷は癒せぬが傷を受ける前に戻すことは出来るぞ」
「なに!?」
「それは真か!?」
鬼の言葉に青年、玉藻は驚きつつ聞き返す。それもその筈、傷は癒せぬが傷つく前に戻せると言ったのだ。
「傷…つまり生命力は失ってしまえば戻すことは叶わぬ。だが、時を戻すことは可能だ。時を戻れば生命力を失う以前に戻れるからな」
こともなげにいう鬼であるが青年と玉藻は言葉を失っている。だっだら生命力だけを戻した方が楽なんじゃないのかという目を向けるが鬼は気にしない。
というよりそんなことをしたらこの話も進まないので、作者的にも鬼に賛同する。
「まあ、どこまで戻るか実際にやってみなければ分からんからこのまま死ぬよりはマシかもしれんが…どうする?」
「受けるに決まってる(おろう)」
時を戻るという意味を飲み込んだ二人は即答する。
(即答か。どこまで戻るか分からんと言っておるのに…)
と鬼が考えつつ言葉を繋ぐ。
「但し、この術を受けられるものは一人だけぞ。九尾殿は…」
つれて行けないと話そうとした鬼だが、
「それには及ばぬ。主よ」
「ああ。禁術 八卦封印式!!」
青年が叫ぶや否や玉藻の体が光に包まれそのまま青年の体、臍のあたりに集まり消えた。
「いったい何をした。九尾殿はどこへ」
突然いなくなった玉藻を探す鬼。そこへ
≪ここじゃ、主の体内じゃ≫
玉藻の声が聞こえ青年に視線を移す鬼。
「俺は玉藻の人柱力…要は入れ物だからな。本来、玉藻は俺の臍に封印しているんだが、ふとした事がきっかけで玉藻と話が出来た。そのときに玉藻と和解した後、修行してこの封印を解いたんだ。その後、玉藻と契約し口寄せの術で呼び出せるようになったんだが、まぁその話は置いとくとして、この状態なら俺が時を戻っても玉藻を置いていく事は無いだろう」
≪まぁ、実際にやってみなければ分からぬがな≫
「誰に何と言われようとも玉藻、お前だけは死んでも離さん!」
≪…主よ≫
自らの臍に手を当て真顔で殺し文句を言う青年と、青年の体内でその言葉に頬を真っ赤に染めているであろう玉藻を想像しつつ鬼は思った。
(…本当にこの男は…九尾殿をとても大切にされておるのだな。そして九尾殿もこの青年を慕っておる)
「では準備は良いな?」
「ああ」
≪良いぞ≫
鬼が青年へ手をかざし術式を口ずさむ。青年はおろか玉藻も何と言っているか分からないが鬼が片手を天にかざすと青年の体が光に包まれていく。そして青年の上空に穴が開き青年を包んだ光がその穴に吸い込まれていく。
「ではお別れだ。我を助けし者達よ、時を戻りし先で幸在らんことを祈る」
青年と玉藻はその言葉を最後に意識が無くなった。
「では、我も元いた場所へ戻るか…」
青年を包む光が穴に半分以上吸い込まれ、鬼がそう呟きつつ振り返ったときであった。
「「「ナルト!!」」」
背後から声がし鬼が振り返った先で、三つの影が青年を包む光に突っ込んでいた。
「何!?」
鬼が静止する間もなく三つの影も青年を包む光に包まれ穴に吸い込まれた。
(いつの間に…しかも何の躊躇無く飛び込むとは。もしや、九尾殿が言っていたあの青年の帰りを待つ者達か?)
鬼がそう考えている間に光を吸い込んだ穴が小さくなりやがて消えた。
(あの青年と九尾殿には一人と言っていたが、本当は何人でも一緒に連れて行けた。だが、そんなことを言ったら一緒に戻る者達を集めに戻る事は明白であったし、何より青年の命が持たなかったであろう)
そう鬼が思いながら地面に手をかざすと、かざした地面に穴が開く。
(この時代に生きる者達にとってあの青年がいないということは辛いだろうが・・・耐えてもらうほかあるまい。その原因をつくりし我が言うことではないかも知れぬが)
そう思うと鬼は、人の気配がする方向を見て
「青年が護りし里に幸在らんことを・・・」
そういい残し地面の穴へ入っていった。
そして地面の穴も消えこの場には破壊しつくされた大地だけが残った。
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初めまして。他のSSに感化され想像した作品です。
上記内容を見ていただければ分かる通り、登場人物の他に第三者(作者)からの意見及び突っ込み等があります。
また、シリアスと言うよりはパロディーに重心を傾けて話を展開していくと思いますので、見苦しい内容になるかもしれません。
それでも頑張って想像しながら(調べながら)コツコツ投稿できたらと思っています。
よろしくお願いします。