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運転取り扱いにかかわる「合図」は、信号に準じる性格をもっていることから鉄道信号の一種として取り扱っているのは前項鉄道運転規則第165条でご紹介した通りです。列車の出発に関する係員相互間の合図には「出発合図」と「出発指示合図」があり、その為の合図器としてここでご紹介する「出発合図器」、そして次項でご紹介する「出発指示合図器」の二種が存在します。この二種の合図器、名称だけを見比べると大変紛らわしいのですが、その意味は全く異なりますので混同しない様に注意して下さい。
ここではまず最初に出発合図についてご説明します。
鉄道運転規則第226条
列車を出発させるときは、これに対して出発合図を行わなければならない。ただし、線区の状況、列車の運行状況等により列車の運転に支障がないと認められる場合は、この限りでない。
2.列車が運転の途中で停止して再び運転を開始するときは、必要に応じて、出発合図を
行わなければならない。
列車が停車場から出発する時は、「発車時刻になったこと」、「列車の組成が完了していること」、「旅客、荷物扱いが終了していること」等の条件が整っているのを確認して、出発してもよい旨の合図を運転士に対して送ります。これが出発合図です。
貨物列車については、貨車の解結作業や貨物扱いの終了等を確認する必要があるので駅長の判断が必要ですが、電車列車や気動車列車等の車掌が扉の開閉作業を扱う列車では、車掌の扉閉扱い完了が出発タイミングとなりますので、運転台の「運転士知らせ灯」というランプの点灯を出発合図としています。つまり電車列車、気動車列車の出発合図者は車掌となります。
JR西日本のアーバンネットワークエリアでは、「運転知らせ灯の点灯」を「出発合図」としていますが、JR四国管内で車掌が乗務する列車では、扉閉操作後にブザーによる出発合図を送っています。岡山発高松行の快速マリンライナーに乗っていると、茶屋町迄の各停車駅の発車は「扉閉知らせ灯」の点灯によって発車しますが、乗務員が交代する児島駅の発車からは連絡ブザーによる出発合図に変わります。
ところで、鉄道事業者毎あるいは支社毎に定められた運転取扱規定により、例え電車列車や気動車列車といえども駅長が出発合図をすることが規定されているケースがあります。JR西日本のアーバンネットワークエリアでは、大阪駅・新大阪駅・そして大阪環状線天王寺駅を発車する車掌の乗務しない回送列車がこれに該当します。(注1) これらの駅で、駅長から該当列車の運転士に対して出発合図を行う為の合図器が「出発合図器」です。
出発合図器は「音による合図」と「燈による合図」組み合わせた装置で、運転士からその合図が容易に確認出来るように、列車の停止位置附近又は出発信号機に併設して設けられています。駅ホーム上で駅長が「出発合図」のボタンを押すと、白色灯が点灯すると同時に「ブゥーッ」と鳴って、運転士に対して合図を送ります。
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大阪駅3番線の神戸方出発信号機に併設された出発合図器 左と中央のどちらの写真も大阪駅3番線の神戸方出発信号機ですが、中央の写真は丁度出発合図がされた瞬間で、矢印で示される「出発合図器」に白色灯が点灯しています。これはホーム中央で、駅長が操作箱の中にある「出発合図ボタン」(写真右の「出」と記された赤いボタン)を操作しています。
ところで鉄道運転規則第226条2に定める「列車が停車場間の途中で停車して、再び運転を開始する場合」の出発合図ですが、これは何らかの事情で乗客が車外に出ている恐れがある場合、若しくは車掌が列事防護やその他の取扱いの為に降車している可能性を考えてのことで、「必要に応じて」と条文に明記されている様に、この当たりの取り扱いは各鉄道事業者毎に定める運転取扱規定により細則が定められています。いずれにせよこのケースでも合図者は車掌となります。
一般には、信号機の停止現示で一旦停止した後に現示アップにより出発する場合は車掌の出発合図は必要なく、現実には合図無しで発車しているのはご存じの通りです。筆者のこれまで経験では、踏切支障で緊急停止した後の再出発時に、まず運転士から車掌に対して「出発合図を送って欲しい」旨を車内電話で依頼し、それを受けた車掌が周囲の安全を確認した後に、ブザーにて出発合図を送って発車したケースを目撃したことがあります。
こうした出発合図は列車の運転にとって必ずしも必要な行為ではありませんし、特に車掌が乗務していない列車では合図者がいませんから、鉄道運転規則第226条に示されるようにその線区の状況や列車の状況によっては、省略することも認められています。(完)
(注1)
2001年4月1日より運転取扱いが変更となり、大阪駅・新大阪駅・そして大阪環状線天王寺駅における車掌の乗務しない回送列車に対する出発合図が省略されることになりました。従って、これらの駅では本項でご紹介した出発合図器が設けられてはいますが、現在は使用されていません。