「菅直人首相さえいなくなれば問題のすべては解決する」。そんなことはありえない、ということを知りながら、永田町は与野党ともに安直な発想に陥っていないか。
視点を変えるとこう見える。ポスト冷戦政治には、四つの原罪があった。一つは、選挙民の歓心を買うために税収をはるかに超える公共事業、社会保障サービスの大盤振る舞いを続け、いたずらに財政赤字を膨らましてきた罪。二つ目は、米国におんぶに抱っこの安保・外交政策の居心地の良さにかまけて、冷戦崩壊、中国の台頭という新事態に対し自分の頭で考え自ら対応することを怠ってきた罪。
三つ目に、少子高齢化・人口減への抜本対策をなおざりにしたまま、バブル崩壊後の成長戦略を真剣に模索してこなかった罪。四つ目は3・11で顕在化してしまった。原発安全神話を過剰に演出し、唯一の被爆国であるにもかかわらず原発事故、放射能対策への感度を大甘にし、事故を必要以上に過酷化させただけでなく、本来あるべきエネルギー政策をゆがませた罪だ。
たまたま、時代の巡り合わせとしてこの自民党政治による4原罪への対応を迫られたのが菅民主党政権だった。原罪1に対しては、消費税増税と社会保障制度の一体改革、原罪3は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加をぶち上げた。原罪4は、原発制御、事故賠償、節電、発電固定価格買い取り制導入で対処しようとしている。原罪2だけはどうにもならなかった。当初の日米対等、普天間県外移設、東アジア共同体という構想が崩れ、その反動からさらに解決が遠のいている。
これを思いつきで終わった、とけなすか、一定の路線は敷いた、と評価するか。私には、原罪を背負って十字架にかけられる人のようにも見える。
毎日新聞 2011年6月30日 0時04分
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