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[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(1)
Name: 林檎◆31536b05 ID:26ce5d89
Date: 2010/07/02 23:11
時、戻る


ここは木の葉病院のとある病室。清潔感溢れるこじんまりとしたこの部屋で、皆に見守られながらその命を終えようとする1人の男がいた。


本当ならもっと待遇のいい部屋がいくらでもある。そう、『火影』にふさわしい部屋が。しかし、狭くても人々が気後れせず見舞いに来てくれるほうがいいという彼の意向により、ごく普通の部屋があてがわれたというわけだ。


「ナルト……まさか、アンタが一番乗りだなんてねえ……」

「……サクラ、ちゃん……」


そう――8代目火影、うずまきナルトなのであった。


考えてみれば、別におかしなことではない。いくら九尾の力があると言えど……いや、九尾の力があるからこそ、ナルトは体を鞭打ちすぎた。火影になるまでは自分を疎う人々を見返すために、火影になってからは人々の期待を裏切らないために。


真の平和の実現の難しさに歯噛みしながらも、忍大戦で先陣を切って戦った。

火影の仕事である慣れない事務作業や政略思考に追われた。

幾度となく他国、自国問わず暗殺者に狙われた。

一生懸命頑張っても時には報われず責められた。

何より、自分のふがいなさのせいで犠牲となった人たちの存在が自身を苦しめた。


「72歳、か……。もうちと長く生きて、老後の隠居生活ってやつを謳歌してみたかったってばよ」


むしろ、この歳まで生きながらえたことを奇跡と呼ぶべきなのかもしれない。


「うう……ナルト、死ぬ前に何か食べたいものある?なんだって用意しちゃうよお」

「おいおい、ここまで来て食べ物かよ。……ナルト、お前がそう簡単にくたばるかよ。IQ200の俺が保証してやる」

「IQぜんぜん関係ないって。ほら、あんたが好きな花、持ってけドロボーって感じで繕ってきてあげたわよ~」

「チョウジ、シカマル、いの……ありがとうな」


癖はあるけれど、大切な仲間。


「チッ、さっさと元気になりやがれ、このウスラトンカチが」

「サスケ……そんなに目を腫らしながら意地張っちゃって、かっこ悪いわよ」

「う、うるさいぞサクラ!人のこと言えるか!」

「僕はナルトに救われたからね、命に代えてもなんとかしてあげたいところだけど……あ、ついでに言うとナルトはまだ71歳でしょ、ボケた?」

「今日は俺が原因だけど……サスケ、サクラちゃん泣かすんじゃねーぞ。あとサイ、お前のその毒舌がなんだか心地いいってばよ」


思い出の宝庫の、新旧7班組。


残念だが、彼らともまもなくお別れだ。だが、やって悔やんだことはあれど、やらずに悔やんだことはない。自分の忍道は貫けたと思う。あとは……。


「なあみんな……ゴホッ……最後にさ、一つだけお願いがあるんだってばよ」






ナルトの病室からそれ程遠くない別の病室――一族の懇願でナルトの部屋よりはそれなりに立派な造りだが――に、もう1人の患者、日向ヒナタがいた。そばに控えるのは、班員だったキバとシノ、そしてネジ。リーとテンテンは、歳のせいで涙もろくなったのか号泣するネジにちょっと引いていた。


……失礼。火影婦人、『うずまき』ヒナタ、である。


入院理由はちょっとした流行り病。年齢と共に低下するもともと高くない回復力、火影婦人としての疲労の蓄積、そして運の悪さというファクターのせいで、合併症をもたらしてたちまち重篤患者となったというのだから笑えない。医療班曰く、『ナルト同様』もう3日持たない。


「あは……『これでナルトに置いて行かれずに済むね』って冗談言ったら怒られちゃったー」

「バ、バカ!ヒナタ、お前何言ってるんだ!……ちっくしょー、ナルトの死亡宣告で気が弱くなったせいだ!いつかあの世で会ったらあいつぶん殴ってやる!」

「それはやめておけ、キバ。何故なら、死人に口なし、死んでいった者の追い討ちを考えるなど建設的でないからだ」

「くうっ……ちょっと待ってください、皆さん!ナルト君は死んだりしません!どんなに低い確率でもひっくり返すど根性の持ち主、それが彼です!」

「ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様ヒナタ様……」

「ネジ、不謹慎と言われるかもしれないけど……アンタにその泣き方は違和感ある」


――みんなみんな、かけがえの無い仲間。感染の危険もゼロではないのに何のためらいもなく見舞いに駆けつけてくれて、とても幸せ。でも、その余韻に浸れるのもあと僅かみたい。ああ、最後に……。


「ナルトに、会いたい……」



「おう!会いに来たぜヒナタ!」


……………………


「え、ええええ!?」

「そんなに大声出しちゃ体に毒だってばよ……ゴホゴホッ」

「ナ、ナルトのほうこそ何してるの!?寝ておかないと駄目じゃない!」

「へへっ……なんだかさ、無性にヒナタの顔をみたくなったんだってばよ」

「…………ナルト」


おそらく、死を感じたのだろうとヒナタは理解した。自分の死か、相手の死か、はたまた両方か……一瞬絶望してしまったが、体を押してここにきてくれたことが何より嬉しかった。


「さーてと、じゃあ邪魔者はとっとと退散しますか」

「そうね」


不敵な笑みを浮かべるシカマルにいの。


「ど、どういうことですか?」

「いいからいいから。全員撤収~」


サクラが首根っこ掴んで連れ出した朦朧状態ネジを含め、ナルトとヒナタ以外全員が去っていく。さすがサクラ、70過ぎてもあの怪力は健在だ。


「え?え?え?」


混乱するヒナタをよそに、ちゃっかりとベッドにお邪魔するナルト。……別にいかがわしい意味ではない、純粋に居座ることにしただけである。幸い豪華なだけあって2人で寝るには十分すぎる幅のベッドだ。


「ごめん、俺の独りよがりでさ。皆に納得してもらったんだ、『死ぬまで2人っきりにしてくれ』って。……怒る?」

「……怒る。私が言いたかったのに、ずるい」

「おお、ヒナタは信じられないくらい独占欲強くなったってばよ」

「ふふっ、自慢の愛する夫ですから」

「うわー、かつてなら卒倒必至の大胆発言!」


微笑みあう2人。とても死期迫る状況とは思えない穏やかな空気が漂う。そして、その穏やかさを確信していたからこそ、仲間たちは2人に全てを委ねる気になったのだ。回診や給仕を受け持った人々は口々に、その仲睦まじさを称えた。


そして――きっかり3日後。寄り添うようにして深い眠りに就く2人が確認された。
ちょうど、ナルトの72歳の誕生日のことであった。


偉大なる火影として名を残し、仲間たちのみならず里の者たちに惜しまれながら、ナルトはその生涯を閉じた。











「……はずなんだよ……な?」


あの世に着いた心意気で目を開けると、夢でも幻想でもない……少年時代のかつてのアパートで、かつての自分に戻ったという『現実』がそこにはあった。




 
初めまして。林檎です。
決してナルサク嫌いじゃないけど、二者択一なら99%ナルヒナを選ぶ人です。
主にアニメ由来で、神回『告白』を契機にいっちょやってみようかと無謀な挑戦。
ナルヒナ許すまじって人はまことに申し訳ありませんがお戻り下さい。
テーマとしては至ってありがち、『ヒナタと結ばれたナルトが逆行』。
感想、批判お気軽にお願い致します。



[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(2)
Name: 林檎◆31536b05 ID:75c6ae5c
Date: 2010/07/02 23:13
ナルト、発進


「さってと……原因を考えなきゃな」


とりあえず懐かしい部屋の中央に座り込んで落ち着いてみる。なんと言っても火影になった男、慌てふためくのは得策ではないことくらい重々承知だ。……とはいえ、時間を掛ければひらめくようなものでもない。


火影になって秘蔵書を盗み見する機会も増え、ある程度の大術、禁術を理解しているつもりになっているが、こんな現象は知らない。高レベルの幻術にでも嵌っているのかと思ったが、勝手に死んでいく人にわざわざ過去を体験させて得する人間がいるとも思えない。


とりあえず、窓の外を見てみる。うん、幸いなことに星空輝く見事な夜だ。いきなり事件に巻き込まれることはないだろう。考える時間は十分ありそうだ。






――あっという間に1時間経過。






「あー、原因追求なんてやめやめ!俺にそんなことできるかって!今はそれよりも、その結果を把握するべきだってばよ!過去の自分の体に乗り移っちまったみたいだけど、一体いつの俺だ?」


いくつになっても考えることは苦手である。シカマルの『頭脳プレイで人を当てにしすぎたからだ』という呆れ声が脳内に響いてきたが、ナルトは開き直った。賢い俺なんて俺じゃない、と。


鏡を勢いよく覗き込む。うむ、見た感じ10歳前後。詳しいことは分からない。

カレンダーを見てみる。うむ、年は分かったが1年カレンダーかよ、ふざけんな。

冷蔵庫の中の製品の賞味期限を見てみる。うむ、製品によっててんでばらばら、半年以上開きがあるってどういうこった。そういえば、もともと自分は過ぎまくった奴を平気で食べていた気がする。信用できない。


「……駄目じゃねーか過去の俺!情けなくなってくるってばよ!」


まさに八つ当たり、というか自虐である。


「こうなったら、外に出て近所の人に聞くか……」


(想像)
『あのー、今日って何月何日でしたっけ?』

『はあ?お前からかってるのか?……フン、九尾のガキはこれだから困る』


……やめておこう。この時期の自分じゃ立場が悪すぎる。まあ、今の俺に取っちゃへこむようなことでもないんだけど。明るくなるのを待って自分で調べに行くしかなさそうだ。


「……寝ようにも起きたばっかだしなあ……よし、これから起こるビッグイベントでも書き出しておくか、役に立ちそうだし」


我ながら冴えている、と思わず自画自賛してしまった。なんせ、経験したこと全てが大きなアドバンテージになる。情報戦は忍びの世界の戦いでは超重要なのだ。『前の』歴史に比べて被害を小さく、利益を大きくできるかもしれない。活かさない手はないだろう。


「えーっと、下忍になって、第7班がスタートして……(カキカキ)」





……………………





夢中になりすぎて、いつの間にかもう朝になった。さぞかし達成感溢れているだろう、と思っていたが。


「迂闊だったってばよ……」


繰り返すが、頭脳面で評価したナルトは、酷いとは言わないが少なくとも良くはない。当然記憶力についても例外ではなく、一個一個のイベントの内容を、発生順番も含めて綺麗に並べ挙げることなどそもそも不可能だった。


「白と戦ったのって、どの橋だったっけ……天地橋?」


それじゃ大蛇丸だ。


「うがー、木の葉崩しと中忍試験本選ってどっちが先だったっけー!?」


同時である。


「……あれ?木の葉大運動会っていつやったんだってばよ?」


それはナレーターが聞きたい。



結局収穫があるのだかないのだか。下手に誤解したままで損をしたら目も当てられない。ナルトは思いっきりため息をついた。


「……はあ、もう夜も明けたし探索に出かけるってば……あ」


ササッと準備していざ外へ、と言うところへ違和感なしに付けた――額当て。


「そうか、なら!」


一番肝心な情報を見落としていたようだ。息を吹き返し、勢いよく第7班の写真立てを探す。――今度は見つからない。つまり、アカデミー卒業からあの鈴取り合戦までの短い間に一気に絞り込めたことになる。これは大きな収穫だ。任務予定も立てられていないことまで判り、これでゆっくり調べ物ができそうだ。


「…………」


これでもかというくらいガッチリ額当てを装着し直し、鏡の前に立つ。写っているのは、火影に絶対なってやると散々叫んでいた無邪気な少年。


「へへっ、お前の『夢』はそのうち『目標』になり、やがては『現実』になるんだぜ」


あの頃は強がっている部分もあったが、今の俺なら臆することなく堂々と言える。『また』火影になってやる、と。そう言えることに、底知れぬ喜びが湧き上がってきて思わずにやけてしまう。原因なんて糞食らえ、今度こそは誰も死なせやしない。


「……おっと、慢心は禁物だ。いいか、お前はまだまだなんだからな、そんなへなちょこな状態じゃとてもじゃねーが皆を守れる凄い火影になんてなれねーぞ!へんっ!」


鏡に指を突きつけてそう自分自身を挑発する。それすらも楽しくてたまらない。


「なんだなんだぁ、その不服そうな顔は。悔しかったら、超高難易度のこの術を覚えて見やがれ!行くぜっ、本気の螺旋がーん!!な~んちゃっ……」





ドッカーーーン。





某日午前7時すぎ。轟音を伴う原因不明の爆発によって、アパート一軒全壊。
現場に気絶した少年1名確認、ただし目立った外傷なし。







「まーったく、何をどうやったらこんな爆発を起こせるのかねえ」

「どうせガスの不始末でもしでかしたんでしょ。いっそ怪我で休んでくれたらよかったのに、ねえサスケ君」

「相変わらずのウスラトンカチだな、ナルト」

「…………」


爆発事故で大騒ぎになった俺のアパート。もっとも、九尾を抱える俺の近くに住もうとする住民などいない。憎き子の仕業か、はたまた『勇気ある』誰かの暗殺計画かを知りたがる野次馬が集まったというだけだ。駆けつけたカカシ先生が皆を抑えつつ気絶した俺を担ぎ上げ病院まで運んでくれたらしい。目が覚めた後の診断で異常が見られなかったため、そのままカカシ先生に促されるようにメンバーのもとへ。というか、今日がドンピシャ鈴取り合戦前日のあの日だったのか、ラッキー。




……なーんて言っている暇ではない。なんで『俺』が螺旋丸なんて使えるんだ!?


(もしかして、前の歴史の力をそっくりそのまま引き継いだとか!?そーだよな、螺旋丸を、しかも影分身なしで使えるようになるなんて、上忍時代の俺の技術力の賜物としか考えられないよな!だとしたら最高だぜ……待てよ?だったら、螺旋丸1発くらいでなんで気絶するんだってばよ?)


自分の気絶原因は、実は爆発によるダメージではない。術の発動による急激なチャクラ枯渇のショックである。第一、全盛期の螺旋丸だったらアパートの壁ごとき一瞬で破壊して、衰えることないその勢いで障害物をひたすらぶっ飛ばしてしまうはずである。この被害状況では威力が低すぎるのだ。


(ってことは、俺のチャクラを使い切った威力不十分の螺旋丸が生み出され、同時に俺が倒れたってことか。チャクラ量は引き継がなかった……というか、むしろ本来の歴史より減ってる!?)


「おーいナルト、聞いてる?いつまでもぼーっとしてると流石に先生怒っちゃうぞ」

「あ、はいはい、バッチリ聞いてるってばよ」

「はいは一回」

「はいっ!!」

「うん、元気でよろしい」


なんとかごまかせた。危ない危ない。


「そーだな、じゃあ改めまして、まずは自己紹介でもしてもらおうかな」

「自己紹介って……どんなこと言えばいいの?」

「そりゃあ、好きなもの嫌いなもの、将来の夢とか趣味とか……ま、そんなのだ」


懐かしい自己紹介タイムが始まった。……とりあえずさっきの疑問への解答は保留しておこう。


「まずは、お前から」

「オッス!俺の名前はうずまきナルト。好きなものは一楽のラーメン、嫌いなものは暇なのに修行をしてない退屈な時間!でもって、将来の夢は……」

「……将来の夢は?」

「そりゃあもちろん、火影になること!……とちょっと前までは思ってたんだけど」

「ふむ、今は違うのか?」


少し思案したのち、高らかに答える。


「……今の夢は、『仲間を誰一人として裏切らない火影』になることだってばよ!」

「……何だって?」


あどけない顔に似合わぬその言葉の重さに思わず面食らうカカシ。


「うーん……確かに火影ってば、国同士の諍いとか内紛とかで厳しい選択を迫られることも多い大変な役だってばよ。でもさでもさ、だからって少数を切り捨てて国の安定を守って満足しちまうような火影なんて、俺はぜってーなりたくねえ。助ける対象が強かろうが弱かろうが、助けるリスクが高かろうが低かろうが、かっこ悪くもがきながらでもいいからいつだって命を掛けて頑張れる……俺はそんな火影になりたいんだってばよ!」


(こ、こいつは……)


カカシは言葉がでなかった。出せるはずがなかった。


「ナルトが火影?なに調子こいてんの、無理無理」

「ああ、無理だな、現実を見つめたらどうだ」


あまりの現実味のなさにあきれ果てるサクラとサスケであったが。


「……じゃあ先生は、ナルトが火影になるって話、信じてみるぞー」

「ええ?カカシ先生、頭大丈夫ですか!?」

「ちょっと、その言い方はないんじゃないー?」


その後、サクラ、サスケの自己紹介が続く。サスケが夢、というか野望を語ったとき一瞬場が凍ったが、経験済みのナルトは全く気にしなかった。





そして、あくる日。





「よし、12時セット完了。本日の課題……それは昼までに俺からこの鈴を奪い取ることだ……」


サバイバル試験の説明をしていくカカシ。そのきつさに顔が強張る3人……いや2人。


(先生の指示通り『腹一杯』食ってきたってばよ。こんくらいのカンニングはいいよな、うんうん)


ナルトがビミョーにセコかった。






「じゃあよーい……スタートー!!」


一瞬にしてカカシが消える。

それを見て、いきなりナルトが林の中に突進した。


「「……?」」


取り残された二人が固まる中、程なくして戻ってくる。


「あはは、灯台下暗しってことでそこにいるかと思ったけどいなかったってばよ」

「お前、アホだな」









カカシは、ある程度はなれた所で気配を隠して、相変わらず(笑)読書に勤しんでいた。別に鈴を取られるなど思っていない、チームワークを確認できるかだけが真の狙いなのだから。


(というか、さっきの段階でナルトは合格にしても十分なんだがなあ)


いきなりそんなこと言ったら後の二人に狙いを勘付かれるだろうからやめたが。


(しかし、ナルトの評価も低くされたもんだ、アカデミーの資料を見た限りじゃ成績悲惨な生徒なのに。やはり……ん?)


それほど近くはないが、ナルトの声が聞こえた気がする。警戒しつつ様子を伺う。――いた。木陰に隠れるような位置関係にナルト発見。どうやら1人ではないらしい。


(あいつ……誰と話してるんだ?)


サスケやサクラにしては声が低い。一体誰と……。


「おいおっちゃん、俺たち今カカシ先生とテスト中なんだ、どっか行ってくれってばよ!」

「まあまあ慌てるな小僧、テストとな?あっはっは、その様子じゃ苦戦しとるようじゃのう」

「何を~!」


(……じ、自来也先生、なぜここに!?今は世界を放浪中のはずでは!?)


「わかったわかった、さっさと退散してやろう。……おおそうだ、お前さんのテストが終わったらでいいから、ワシの新作の本をあやつに渡してくれんか?」

「新作の本?一体なんだってばよ?」

「気になるか?気になるか?この『イチャイチャパラドックス』が!まあ、どうしてもと言うなら、テスト中にこっそり隠れて読むとよい。ワシが許可する。青春の第一歩を歩めるぞ、グッフッフ」

「マジで?おっちゃん、ありがとー!じゃあカカシ先生見つかる気配もないし、さっそく読んでみっか!」

「刺激が強すぎるかもしれんから、気をつけるんじゃぞ~。ではまたな!」






「イッシッシ、一体どんな凄い本なんだってばよ。よし読むぞー!」


自来也が去っていき、ナルトがページに手を掛け……。




「くおらーー!お前が読むにはまだ早い!!」


悲しい性か、班員を戒めるため、もとい新作を奪い取るため飛び出してしまったカカシさん。




ボンッ。




周りにあった木が、一斉に変化の術を解いてナルトの姿に戻った。


「……え」



「へっへーん、引っかかったー!カカシ先生、覚悟!」

「くっ!」


しかし流石はカカシ、誘い込まれたと理解するや否や即対応。目一杯足腰を使って切り返し後退、巧みな動きで突撃を仕掛けるナルトの影分身たちをかわし切った。


(あ、危なかった……。それにしても、これほどの数の影分身だと!?ったく、マジで恨むぞアカデミーの採点者!)


こりゃちょっとマジにならなきゃマズイな、と考えたところで、あっさりと残った影分身を消してしまうオリジナルのナルト。


「……あれ?もう諦めるの?」

「へへ、こいつら程度じゃ結局は逃げられるし。カカシ先生を驚かせただけで満足だってばよ!一時退却~!今度は『みんな』で行くからな先生!」


愉快そうに笑って、本当に自分から離れていく。


「やれやれ、たいした奴だよ」


もう驚くのも疲れて、一応回収しておいた新作の本を読みに……。


(遠くから)「そうそう、分かってると思うけれど、その本も俺の影分身が変化したやつだから~」


「……ぐおおおおお!そうじゃないかー!!」


慌てて地面に叩きつけると、そのまま消えていった。ほんと、恐ろしい奴だ。


「……あれれ?そういや、なんであいつが自来也先生のこと知ってんの?」




[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(3)
Name: 林檎◆31536b05 ID:75c6ae5c
Date: 2010/07/02 23:15
「……くっそー、ここまで酷いとはなぁ。多重影分身、10人が限界かよ」


カカシ先生を一泡吹かせるという大健闘をしていながら結構ナルトは落ち込んでいた。とにかく、チャクラの少なさが異常だ。イルカ先生にアカデミー卒業を認められたときだって、100人以上に分身出来ていたのにもかかわらず。さっきの冷静そうな判断も、実は体が悲鳴を上げたため分身体の残留チャクラを少しでも還元回収しようとした苦肉の策である。


――もっとも身体能力はバッチリ引き継いでいるため、それに合わせて分身体の能力も格段に上がっている。そのせいで一分身当たりの消費チャクラが急増したのだから、ナルトが思っているほど劇的に減ったわけではない。ナルトは知る由もないが。


「みんなの所にいる奴……何気にあの1人分が効いてくるってばよ」




どうなる、チームワーク?





「だーかーらー!ここはみんなで協力するのが一番だってばよ!」

「うるさいぞナルト、最後の最後で抜け駆けしようって魂胆か?俺は1人で戦う、お前たちも勝手にやれ」

「そーよそーよ。じゃあ私はサスケ君についてこーっと」


ナルト(実は最初の突進時に入れ替わった分身体)の説得もむなしく、サスケは単独行動、サクラはストーカーに決まりそうだった。まあどうせカカシ先生の追試験のおかげで全員めでたく合格できるはずだが、どうせなら一発合格したいという欲が出てきたナルト。


「サスケ、サクラちゃん、このテストでのカカシ先生の狙いを考えてみるってばよ!合格の条件に囚われてばらばらに仕掛けても何の意味もないって!」

「はぁ?だったらその狙いとやらを言ってみなさいよ」

「そ、それは……言えないってばよ」


ここで自分が言うのは駄目だ。二人の忍としての成長を遅らせることになる。自分たちで気付くか、上の立場のカカシ先生から諭され納得する形にしなければ。……仕方ない、奥の手を使おう。サスケさえどうにかすれば、この時点でのサクラちゃんなら異論を出すはずがない。


「じゃあサスケ、取引だ」

「なんだと?お前が俺に取引?」


とうとう痺れを切らして離れようとしたサスケの腕を掴んで、ナルトが不敵に笑った。


「もし俺の意見を聞き入れて全員で戦ってくれるなら……」


おもむろに懐にあった包みをサスケの眼前にグイ、と差し出す。ちなみに、オリジナルから預かった本物。





「いい感じに冷えて最高にウマイ、1個500両の超一級品トマトをプレゼント」


「チッ、人の足元見やがって。仕方ねえ、お前の顔を立ててやる」


「……ええええええ!?」





サクラの絶叫が響き渡った。









弁当ではないからと即座にトマトを完食したサスケ。どことなく幸せそうなのはきっと気のせいだ。サクラが『今度トマト料理覚えないと』と意気込んでいたのも気のせいだ。……ともかく、大枚はたいた甲斐はあったようである。


「で、作戦を聞こうか」

「了解!……まず、声を掛けなくても動きを確認し合える程度に距離をとって3人で移動、トラップを適当に仕掛けながらカカシ先生を探す!発見するかトラップに引っ掛けるかして場所を特定できたら、二手に分かれて接近するんだ。俺が一人役を務めるってばよ」

「え、ナルトが?」


てっきり自分と一緒に二人役をこなしてウハウハ、みたいなことを狙っているのだと思っていたサクラは驚いた。


「カカシ先生は強い。こっちが迫ったら、慌てて逃げる振りをして返り討ちにするつもりだと考えておくべきだってばよ。だから、一回殺されるのを覚悟する!」

「殺される?」

「へっへーん、実は俺ってば、影分身が使えるんだってばよ」

「……なに?本当か?」


サスケが目を見開き、聞いてくるサクラに簡単に内容を説明する。


「まず俺が影分身を2人作って、それぞれサスケとサクラちゃんに変化させる。で、カカシ先生の目の前にオリジナルの俺が現れて適当に戦う。十分注意を引いたところで、変化した影分身を超スピードで突っ込ませるってばよ」

「それって、私たちいらないんじゃないの?」


サクラが疑問を投げかけたが、サスケは意図を理解したようだ。


「……そうか、カカシにしてみればナルトを囮に俺たちが全精力を注ぎ込んだ一撃を仕掛けてきた構図になる。それをあっさり叩き潰し、全員倒したと油断したところを本物の俺たちが狙い撃ちする――」

「あったりー!サスケ、お前なかなかやるなー」

「フン……だが、影分身が消えるところを見られてしまっては意味がない。一撃食らって、立ち上がろうとするも倒れる……くらいの演技をする間、影分身が持つのか?」

「あ、ああ。食らってから10秒くらいなら大丈夫だってば……よ!?」

「どうしたのナルト?」

「な、なんでもないってばよアハハ」


実はナルトには大丈夫なんて自信どこにもない。多少チャクラの込める量を増やしたら、あとはカカシ先生の手加減を願うだけである。ついでにこの分身ナルト、オリジナルが深刻なチャクラ不足に陥っていることをようやく察知して慌てだした。


サスケは腕を組んで作戦を分析した。……別に間違っているわけでも非効率なわけでもない。それに、作戦通りなら最終的に鈴に近付けるのは俺たちの方だ。むしろ考えられる限りでは上策に思われる。ナルトが影分身を宣言通り使いこなせればの話だが。とりあえず、今のところ自分に異存はない。





「でも……やっぱりナルトが私に変化するなんて嫌なんだけど」

「え、そう来るの!?酷いってばよサクラちゃん!」

「俺は別にその作戦でいい。ナルトにしちゃ上出来だ」

「……仕方ないわね、じゃあ特別に許可してあげる。た・だ・し、私の体使って変なことしたら……」

「しないってばよそんなこと!!」









ピコーン。

ナルトの サクラへの 好感度が 2下がった!







「(なんだか変な音が聞こえたような……俺の気のせいか)おい、時間もそれほどない。さっさと作戦開始と行くぞ、『隊長さん』」


















……で、結局どうなったかって?


タイミングを見計らって再度すり替わりオリジナルがメンバーと合流、作戦決行したはいいものの。

少ないチャクラ残量とはいえ、無理をして可能な限り能力の高い影分身を作り出したせいで、前半の小競り合いを経験したカカシ先生に一発で『ナルト』だと見破られ。

サスケ、サクラちゃんたちの『3度目の正直攻撃』もあえなくはじき返されてしまったのでした。最終的にはチャクラすっからかんの俺も混じって3人で我武者羅に突撃したけど、それも実らず時間切れ……トホホ。

でもカカシ先生は、『ま、いっか。お前たち、全員合格~』と笑いながら言ってくれた。テストの趣旨を説明し、『お前たち2人の合格はナルトのおかげだぞ』と言ってくれたのが照れくさかったってばよ。











合格に喜ぶサクラちゃん、俺に負けて(?)つまらなさそうなサスケ。テストが終わって二人とも家に帰っていくが、俺はカカシ先生に連れられていった。いろいろ行かなきゃならないところがあるらしい。……アパート壊しちゃったもんなあ。


「賠償金とか請求されたらどうしよ……」

「あ、アパートの件なら大丈夫らしーよ?もともと取り壊すような建物ばかりだったらしいし。というか、タダ同然の家賃で気付かなかった?」

「あ、ああ。そーだったの。へー」


つくづく自分は押し込められていたらしい。


「問題はこれからの住居だな……火影様にお伺いしてみるか」

「い、いいってばよそんなの。自分でなんとかするってばよ」


あんまり頼ると火影に対し悪い噂が出てくる。ここは我慢だ、我慢。この程度、どうってことはない。最悪野宿でも構わない。


「いや、しかし……」

「そ、そうそう!俺ってば、カカシ先生に聞きたいことがあるんだってば!悩める少年の話を聞いてくれってばよ!」

「……ふう。わかったわかった、ごまかされてやるよ。で、悩みって何だ?」

「カカシ先生ってば、噂に聞けば超エリート忍者だそうだけど、本当なの?」

「うーん、さあねえ……って、それが悩み?ただの質問じゃない」

「え、えっと……そんなカカシ先生と言えど、あと50年も60年もすれば当然年寄りになって衰えてくるよな?」

「そりゃあそうでしょ。いつまでも若いままの、不死身の忍者がいたら会ってみたいねー」

「それでさ、例えばそのときになって『俺の今までの活躍は素晴らしかった。ぜひ自伝にまとめて後世に残したい』って考えたとき、カカシ先生ならどうするってばよ?」

「俺がそんなこと考えるはずがないからその質問には答えられないなあ」

「『もしも』だってばよ、『もしも』!」

「うーん……普通に『ひたすら思い出して書いていく』?」

「もし思い出せない部分があったら?」

「『人に尋ねて穴埋めする』……でもそれじゃ感情までは思い出せないか」

「感情は無視!事実さえ掴めればいいってばよ。で、単独行動とか目撃者の死亡とかで、証人の発見が無理だったら?」

「『多少は想像でごまかす』?」

「絶対、真実を知りたかったら?」

「……あのねえ、そんなに条件付けられちゃどうしようもないでしょー。一体なんでそんなに真剣なんだ?」

「あ、あれ?え、えっと……あはは、なんでだろ」

「やれやれ……そんな厳しい条件なら、さっさと自分じゃ無理だと諦めるね」

「そ、そうだよな。いくらなんでも無理だってばよ!」


思わず熱くなってしまった。もしかしたら、自分が抱える問題の解決策が見つかるかもしれないと思うあまり。全くしょうがないな、俺……。










――だから、次の言葉に耳を疑った。







「いやいや、誰も無理だとは言ってないよ。『自分』じゃ無理だ、ってだけ」

「……え?」

「そこまで俺がこだわるなら、『それ専門』の人の所に行けばいいんじゃない?プロテクトが掛かった死人の記憶まで引っ張り出せるくらいだもの、こちらが拒絶しなければ楽勝で記憶を紐解いてくれるでしょ。ま、自分の過去大公開だから、恥ずかしいったらありゃしないけ……」



「それだーーーー!!」







[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(4)
Name: 林檎◆31536b05 ID:7ca56c4d
Date: 2010/07/02 23:17
やあ諸君、いきなりだがごきげんよう。


私は山中いのの父親、山中いのいちだ。一応上忍。


……え?親バカとか子煩悩とかしか思い浮かばない?


失礼な。情報部としてそれなりに結果を出しているぞ。


まあ否定はしない、いのは最高の娘だからな、うん。


ついでに、登場回数も決して多くないサブキャラだから


『名前、いのいちだったんだ』と驚かれたり、


そもそも存在を忘れられたりしても別に構わないがな……グスン。


まあそんなわけで、大抵の二次小説とも当然無縁のはずの俺が……


なんと、準主役級のポジションを貰えるフラグが立っているとは、


思っても見なかった。
















「あなた、さっきから何をブツブツ言ってるの?」

「……む、俺は一体何を言っていたんだ?まさか敵の幻術か!?」










協力者、同行者








被害報告やらなんやらの諸手続きをカカシ先生と速攻で終わらせて、俺は情報部のもとへ走り出した。どこにどんな人員がいるかは、上忍、火影時代に十分すぎるくらい把握している。ついでに、情報部はその守秘義務上世代交代が少ない。だったら、このくらいの時期の差くらい、きっと……。



「こ、こら。部外者が勝手に入るんじゃない」

「すいません、ここに山中いのいちっていう人、勤務していませんか!?」

「あ、ああ。いのいちさんなら確かにここで働いておられるが?」

「よっしゃあ、ビンゴ!!」


狂喜する俺にドン引きする警備係。ま、そりゃそうだろう。喜ぶ意味が分からないのだから。ちなみに俺がいのいちさんを選んだのは、かつて幾度となくお世話になった頼れる情報部エースだったからである。冷静沈着、洞察力抜群。おまけに口が無茶苦茶固く、重要性と隠匿必要性を説明すればこちらの説得の仕方次第では完全にこちらの陣営に引き込める。情報部内で情報を共有しないというのは反則かもしれないが、どうしてもというときは彼が良しと判断した情報だけを順次流してもらった方が安全というものだ。なんせ内容が内容である。


警備の人は続けてこんなことをのたまった。


「あ、でもね。いのいちさん、今日は非番だぞ。あの人に用があったっていうのなら、運が悪かったな」


(え……いや、待て。さらに好都合じゃん!)


再度言うが、情報部の内部という限られた範囲ですら、あまり自分の持つ情報を広められることは得策ではないのだ。いのの家に押しかける形で記憶を読み取ってもらえれば、とりあえず知られるのはいのいちさんだけになる。





とりあえず礼を言ってそこを離れ、目的地に向かう。おそらくはじめてのケース、具体的にどれほどの時間がかかるのかさっぱり分からないので、明日に響かないように早いにこしたことはない。ポイントは、『どうやって説得するかということ』と『絶対いのにばれないようにすること』だな。いのは父親と打って変わって口が軽すぎるのが怖い。


猛ダッシュをかけていると、懐かしいコンビに出くわした。


「ナルト……か。それほど急いでどこに行く」

「よう、ナルトじゃねーか。どうだ、そっちもテストあったか?」

「お、キバにシノじゃん!久しぶり……じゃなくて、また会ったってばよ!テスト?もちろんあったぜ!らくらく合格してやったけどな!」

「嘘付け」


キバにばっさり切り捨てられた。もうちょっとやんわりとだな?まあお前らしいけど。よーし、中忍試験のとき覚えてろよー。


「しかしよう、お前もよかったじゃねーか。嬉しいだろ?」

「え?何が?」

「おいおい……憧れのサクラと一緒の班になれてハッピーだろってことだ」

「…………そ、そうだってばよ、俺ってば今、最高にハッピーだってばよ!」

「……」


なんだあ今の間は、という感じにキバが不審な目で俺を見やる。表情ははっきり伺えないが、シノも同意見のようだ。でも……悪いけど、今の俺にとってサクラちゃんは『かけがえのない仲間』ではあっても『好きな人』ではさらさらない。向こうから告白してきたとしても断れる自信がある。俺が好きなのは……。


「そういやナルト、ヒナタ知らねえか?」

「ヒ、ヒナタ!?ししし知らないってばよ?」

「……?まあいいか。実はさ、テスト終了後どっかに食べにいこうって話をヒナタに伝えそびれちまったんだよなあ。男二人で食ってもむさ苦しいし……で、こうして探し回ってるってわけよ。もし会ったら伝えてくれねーか?今度一楽のラーメンおごってやるからよ」


そう言って、集合する料亭の場所を書いたメモを渡される。ま、いっか。『もし会ったら』って話だもんな。別に探し回れってことじゃない。あ、でもヒナタの方がかつてのように声を掛けた瞬間倒れたりしないよな?


「じゃ、俺急いでるんで。じゃあなキバ!」

「おー。理由は知らないが、まあ頑張れ」


さあ、時間を無駄にした。更に突っ走るぞ!







「……ナルト、一応俺もいるのだが」














いのの家は花屋をやっている。俺も結構買いに行った。

そう言えば、心転身の術の対象って動物だけらしいけど、

食虫花とかなら案外いけるんじゃないかなあ?

まあそんな花、あの花屋にはないけどな。


……なんてしょうもないことを考えながら、全速力で走るナルト。完璧に自分の身体能力のでたらめさを忘れている。一般人なら言葉通り『跳ねられる』だろう。ぶっちゃけ、ここまで人にぶつからなかった……むしろ人が滅多に来なかったのが奇跡かもしれない。


しかし、浮かれている上に注意力散漫状態の人間がそんな速度を出したらそう奇跡は続かない。それが世の中というものである。案の定、T字路を直進中、死角から不意に現れた人に……。




ドンッ。






「きゃあっ!!」


もろにタックルを仕掛けてしまった。


「だ、大丈夫かってばよ!……えええ!?」


「いたた……え、ナルト……君!?」









俺は心底後悔していた。半ば絶望していた。


(まずい、まずいってばよ。いくらなんでも、10メートル吹っ飛ばすなんて仕打ちじゃヒナタに嫌われちまう!えっと、なんて謝れば……!!)


恐怖のあまり、体が固まって動かない。意外にも、先に動いたのは被害者のヒナタのほうだった。


「あ、えっと、大丈夫だから……。今のは、勢いに逆らわずあえて吹き飛んだだけで、見た目ほどダメージを受けたわけじゃないから……」


そう言いながら、本当に特に苦にするような感じでもなくすっくと立ち上がる。


「そうか、ヒナタは柔術使いだったんだよな」

「……え、ど、どうしてナルト君が知ってるの?」


あ、まずい。ボロが出た。


「い、いや。なんとなくそんな気がしただけだってばよ。だとしても、ほんとごめん、ヒナタ。許してくれてうれしいってばよ」

「…………あ」


途端に顔を真っ赤にしてしまったヒナタ。うん、懐かしい反応だ。……さて、ちょっと名残惜しいけど、この場が収まった以上また駆け出さないと。















「そ、そういえばナルト君、い、急がないでいい……の?」

「い、いいんだってばよ!」


……はい、無理でした。現在、ヒナタと歩く方向が同じらしいのでひたすら横に仲良く並んでます。短めの髪型がとっても新鮮。あと、身長で負けてることにちょっとガックリ。


まあこの頃にはとっくに惚れていた(ヒナタ本人談)らしいし、決して嫌ではないのだろう、緊張しながらも一緒に歩いてくれている。お互い基本的に黙ったままだが、この無音が心地よい。歩調を合わせながら(気持ち遅らせながら)、少しでもこの時間が長くなることを願った。……我ながら青春だねえ。






俺が右に曲がる。
ヒナタも右に曲がる。


ヒナタが左に曲がる。
俺も左に曲がる。




「…………」

「…………」


なんか変だ。まるで別れる気配がない。
ヒナタが俺に決死の告白をしようとひたすら俺に付いて来る、みたいなぶっとんだ思考も浮上したが、ヒナタの方が先んじて進路を決めることもある。ヒナタも違和感を覚えだしたようで、いつもの赤面が引っ込んでしまっている。


「なあ、ヒナタ」

「な、何?ナルト君」

「もしかして……お前もいのの花屋、目指してたりしてないか?」

「え!?……ってことはもしかして、ナルト君も?」

「そ、そうだってばよ。あそこの花は活き……じゃなくて鮮度……でもなくて元気がいいからな!」

「そ、そうだよね?わわわ私もそう思って買いに行こうとしてたの」




なんだ、そうか。目的地が一緒なら、そりゃ道が一緒でもおかしくないわな。









「いらっしゃい!……あれ?ナルトにヒナタ、どうしたの?」

「やっほー。いの、花屋に来たんだから花を買うに決まってるってばよ!」

「ふーん……」


いのは不気味に笑って、ヒナタに聞こえないように耳元でささやく。


「てっきり、サクラをすっぽかしてヒナタとデートしてるのかと思ったわよ」

「あのな……そんなわけないってばよ」

「ま、そりゃそうか、ごめんごめん」


……どうせその話題が出るとは思っていた。心構えは十分してるってばよ。いのは恋愛話大好きだからな。シカマルが『恋に恋する傍若無じ……じゃなくて乙女なんだアイツは』と散々言っていた。


さて、ここからが勝負所。まず、奥の植木鉢を見せてくれるようにいのに頼み、さらにヒナタの目を盗んで影分身。ろくに回復していないチャクラ量のせいで酷い出来だけど、今は戦闘になるわけじゃないからどうでもいい。


そのままここを分身体に任せ、オリジナルは住居部分に駆け込む!


よし、いのにはばれてない、セーフ!ドアをノック!


「はいはい、誰ですかー……って、確か君たちは……」


よし、いのいちさんいきなり登場!ツイてる!……君たち?


「ナルト君とヒナタちゃん、だったな。どうした、俺に何か用か?」


慌てて後ろを見ると、固まっているヒナタの姿。ちょ、ちょっと、なんでここにいるんだってばよ!影分身見られちまったか!?


「ふむ、2人が居合わせたのは偶然のようだな。じゃ、1人ずつ用件を言ってくれ」


あちゃー、ヒナタがいたんじゃ……ええい、ままよ!どうせ言っても意味不明だろう、こんなチャンス滅多にないんだ!……せーの!



「いのいち上忍、俺の記憶を読み取ってくれってばよ!」

「いのいち上忍、私の記憶、読み取ってもらえませんか!」
















「「……え」」


一体どれだけ固まっていただろうか。ようやく、お互いの言葉に思わず顔を見合わせる。……まさか。


「も、もしかして……『あの歴史』から来たヒナタ、か?」

「……ナルト……?」


ヒナタの目から一粒の涙が流れ落ち……いきなり抱きついてきた。


「また、会えた……!!」


そのまま本格的に泣き出し、号泣状態になるヒナタ。


「ああ……俺たちは、誰にも切れない赤い糸で結び付けられてるんだってばよ!」


俺もヒナタを抱きしめる腕に力を込める。









「えーっと、一体何がどうなっているのかおじさんに教えてもらえないかな~?」


1人置いてきぼりを食った男の悲しい叫びは誰にも届くことはなかった。



ついでに、料亭の男子二人は結局むさ苦しく飯を食うことになっていたりする。





[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(5)
Name: 林檎◆31536b05 ID:7ca56c4d
Date: 2010/07/02 23:21
愛し合う(らしい)2人の抱擁がようやく終わった。一体なんだったんだ。


ナルト君はごまかすように笑い、ヒナタちゃんは顔を真っ赤にしながらも喜色が見て取れる。全く、ませた子供たちだ。……べ、べつに羨ましくなんてないぞ。


2人は改めて、俺に『記憶を読み取ってくれ』と頼んできた。情報部としての私の顔を知っているということか。もちろん、二人が拒絶しないのなら十分可能と思われる。むしろ、通常より短時間で済むだろう。しかし、理由がない。証拠を吐かない奴につかうための俺の能力を、なぜ彼らは自らに使って欲しいのか分からない。もしやこの2人は偽者で、読み取ろうとするとトラップに嵌るカラクリにでもなっているのだろうか。


私が考えあぐねていたところ、ヒナタちゃんがとある提案を申し出た。『チャクラ感知にも長けているとお聞きしたので、私たちの術を見てその異常性を認識して欲しい』と。そうは行かん、攻撃の準備かもしれない、と言うと、だったらいのいち上忍も攻撃態勢になっていいってばよという暢気な声が届いた。


「(でもさ、俺、今チャクラほぼ空なんだけど)」

「(そ、そうなの?……あ、だったらあれを使えばいいんじゃない?)」


そして……。

















「仙人モード!!」


「柔歩双獅拳!!」






「……なんじゃこりゃああああ!!」











念には念を





「で、いのいち上忍。俺たちが『異常』だってこと、認識してくれたってば?(ニコニコ)」

「ああもう十分理解しましたですハイ」


今の騒動に、よくいのが気付かなかったものだ。術を使う以前に、纏う時点で部屋の一部が消し屑になった。とんでもないパワーだ。この2人は異常すぎる。はっきり言って、1対1でも勝てる気がしない。


「で、とりあえず騙されたと思って俺たちの記憶を1人ずつ読み取ってほしいんだってばよ。さらにびっくり仰天することが控えてるからさ」

「あの……どうかお願いします、いのいち上忍」

「むう……」


……私に危害を加えるつもりならとっくに可能なはず。完全にとは行かないが、少しだけ信頼してみるか。どうやら、お2人さんもこちらのことをひどく信用しているみたいであるし。


「あ、ただし読み取るってこと、絶対に人にばれないようにして欲しいってばよ。例えば……いのとかいのとかいのとか」

「なぜうちの娘をそこまで言うのか納得いかないが……まあ当然のことだ、承知した。我が家自慢の密室の研究室にお連れしよう」







……………………









「へえ、この家の地下にこんな隠し部屋があるなんて思わなかったってばよ。あ、あと……内容を知っても、できればシカマルにきつく当たらないで欲しいんだってばよ」

「……は?」








そして私は、2人の信じられない記憶を覗くことになるのであった。

















まずナルト君、次にヒナタちゃんという順番で、初歩的な催眠を掛けて寝かせては記憶を紐解いていくことになった。ちょっと心の中で拒絶すればたちまち途切れるというのに、ナルト君には全くその気配がない。よくここまで信用されたものだ。案外、将来は情報部志望なのかもしれんな、頼もしい。







……なんて調子をこいていられたのは、最初の数十分だけだった。










そろそろ終わるか……と思っていたら、『記憶』が『現実』を追い越した。


訳が分からないまま読み取りを続け、理解不能の渦の中にいたのが1時間後。


自分や知り合いが登場し身に覚えのない行動をとっていて、もしや未来視ではないかと思い至ったのが2時間後。


未来視と断定して更に先に進んだ結果、これから起こるらしい惨事を突きつけられて愕然としたのが3時間後。


4時間後にナルト君の記憶読み取り完了、ヒナタちゃんの記憶を読み取りに入る。その時の表情があまりにも青白く虚ろなのが2人には分かったみたいだが、彼らはあえて何も言わなかったようだ。
















「……………………」


ナンダ、コレハ。


信じられない。冷静さが売りの俺が、震えずにはいられない。



2人の巡ってきた歴史は、10年やそこらのものではない。



これが……俺たちの未来だというのか。


幾度となく奮闘し、


幾度となく外敵に晒され、


幾度となく人々が笑いあい、


幾度となく死傷者が出る。



こんなのは嘘っぱちだ、幻影だ。何かの陰謀に違いない……と突っぱねることが、なぜかできなかった。異なる人物の記憶が一致したためか?直前に2人の信じられない強さを見せ付けられたためか?あるいは、なんとなく自分もそんな気がしていたためか?……全て正しく、それでいて全て不十分なのだろう。あの2人の真剣な眼差しと風格――それが何よりの決め手になったようだ。


「……で、君たち……いや、あなた方のこの状況に対する認識はどのようなものですか?」


思わず敬語になってしまう。相手は実質自分以上に生きているのだから。おまけに火影夫妻である。


「ちょ、ちょっと待ってくれってばよ。敬語なんていらねえ、いのいち上忍は普通に接してくれたらいいんだってばよ!」

「そ、そうです!今回の件、本当に感謝していますから!」

「し、しかし……わ、わかりました……じゃなくて、わかった」


2人に凄い剣幕で迫られては、俺は折れるしかなかった。


「認識、かあ。とりあえず、違う歴史で72歳くらいまで生きて死亡、その後なぜかこの歴史上の俺の体に魂か何かが乗り移ったってところかな。前の歴史の記憶をちゃんと持っていて、身体能力や術の習得度も引き継いでいるらしい」

「えっと……私も同じです。気がついたらこの年齢の私になっていて……。今のところ、かつての歴史とほぼ同じ進行をしていると感じました」

「……ああ、2人の記憶を見せられては、私もそう理解せざるを得ない。これは、木の葉隠れとしては超S級の機密情報だと思う。2人がここまで慌てていたのも納得だ」


フウ、とため息をついて、一度自分の呼吸を整えた。ここにいる3人のこれからの行動次第で、木の葉の将来は大きく左右されるかもしれない。慎重に、慎重に。















(とりあえず、いのいちさんに事の重大性を理解してもらえたってばよ)


第一段階は見事成功。しかしここで安心してはならない。


「いのいち上忍、今日のことがやっぱり信用できなくなったっていうんなら、それはそれでいいってばよ。でも、とりあえず信用してくれている間について……ただでさえ、本来休めるはずの非番の日に長時間労働で疲労困憊、そんなときに本当は頼みたくはないんだけど……今日中に、この情報の扱い方だけは決めておきたいんだってばよ」

「……なるほど。それは確かに大事なことだ。……こちらとしては情報を提供してもらったも同然だ、全力で検討させてもらおう」

「ありがとうってばよ。……まず、いのいち上忍には、読み取った記憶をまとめ挙げておいて欲しいってばよ。もちろん人の目に入らないよう細心の注意を払って」

「心得た。……俺が保管しておいてよいのか?」

「うん、もちろん。俺たちに比べて、情報管理のノウハウはいのいち上忍のほうが優秀に決まってるし」

「よし、責任を持って預からせてもらう。預かった情報は、俺たちで共有する他に、どういったときに公にしていいだろうか?」

「基本的に、俺たちだけで対処可能なトラブルなら俺たちが水面下で叩いていくってばよ。それで抑えきれない大掛かりなトラブルは……いのいち上忍が独自調査で情報を得たことにして随時情報を流してくれってばよ」


おそらく、それが一番周りから見て自然だ。それに何より、いのいちさんには今後、俺たちと情報部との板ばさみという大変な身の置き方が求められてしまう。このくらいの名誉は当然手に入れるべきだ。


「おいおい、2人の手柄の横取りなんて……」

「大丈夫だってばよ!もともとこんな手柄無しに俺は火影になれたし、今回は前より強くなってる分もっと早くなれる。まあチャクラ量は何故か減ったけど……。別に惜しくないってばよ!」








そこへ、ヒナタの待ったがかかった。












「……え?ナルト、前の歴史よりチャクラ量が減ってたの!?私の方はむしろかなり増えてるんだけど……」







…………。









「……な、なんだってー!!」



「……なるほど、完全に2人の時の遡り方が一致するわけではないようだな、興味深い」






その後、3人であーだこーだ言いながら細かいところまで規則を決める。


曰く、どの程度の怪我or病気なら歴史を変える価値があるか。

曰く、万が一情報が漏れた場合の対処をどうするか。

曰く、俺たち2人以外に時を遡っている奴がいたらどうするか。

曰く、記憶と歴史がずれてきたらどこまで記憶を参考にすべきか。










うわあ、無茶苦茶眠い。寝てないからな、当然だ。

そんな俺をあざ笑うがごとく、また顔を見せる太陽。もうちょっと待っていてくれてもばちは当たらないのに。


「ナルト君も疲れているようだし……ここまでにしておこう。十分対策は練った、大丈夫だ、きっとやっていける」

「そ、そっか。じゃあ俺は任務に……」

「え?今日はどこも任務予定はないはずよ?」


ヒナタが残念そうにこっちを見てくる。破壊力抜群だが、耐えろ、俺。


「……あ、前の歴史か。でも残念、第七班は写真撮影って言う大切な任務があるんだってばよ……そうだ!」

「どうした?ナルト君」

「任務って言葉で思い出した。実はさ、情報共有者、俺たち3人のほかにあと1人追加していい?」

「あと1人……って、一体誰なんだ?」


俺の選択は、ちょっと……いやかなり危険かもしれない。火種をわざわざ持ち込むようなものだ。だが、アイツがいないと結局はみんなが後悔することになるんだ、なんとしてでもこっちに来させないと。





















「……うちはサスケ!」









[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(6)
Name: 林檎◆31536b05 ID:7aa7cee1
Date: 2010/07/02 23:23
「…………サ、サスケだと!?ちょっと待てナルト君、彼に真実を教えるのはあまりにも不用意ではないのか!?」

「そ、そうだよナルト、危険すぎるよ!」


数秒固まった後、凄い形相で俺の案を危険視する声が挙がった。そりゃあそうだ、下手すりゃいきなり木の葉の敵になりうるんだからな。


「……2人の気持ちもよーく分かる。でも、駄目なんだってばよ、対処は早めにしておかないと。前の歴史じゃアイツはどんどん堕ちていった。……復讐のために大蛇丸のもとに下り、憎しみを膨れに膨れさせたところでようやく真実を知り、いまさら処理しきれなくなった憎しみをぶつける新たな標的を探すのに躍起になって、沢山の人を殺していった。ようやく俺たちの苦労が実って里に連れ戻したと思ったら……!」


一字一句口から発せられるごとに、悲しみが蘇ってくる。


「……里の上層部はかつての自分たちの行為を棚上げにしてサスケの処刑を宣告して!懸命な抗議でなんとか懲役刑にまで軽くするのに5年、出所に30年だぞ!アイツは環境に始終振り回されて、人生のほとんどを復讐と懺悔に使っちまったんだ!」


出所したサスケの様子は、今でもはっきりと覚えている。『長かった……長かったね』と涙してサクラちゃんが抱きついたサスケは、かつての天才忍者とはかけ離れた風貌だった。負の感情こそ綺麗さっぱり消え去っていたものの、これでもかというほどやつれ果て目は虚ろ、これがあのサスケかと恐怖せざるを得なかった。


目と言えば、写輪眼の酷使の反動のせいで視力は限界まで低下。修行が禁止されていたため体は鈍り、同期メンバーの中で最弱の存在になっていた。これまた長い療養の結果ようやく笑いを取り戻したが、結局中忍にすらなれないまま引退することになったのである。『今』の時点からはとても考えられない結末だ。


そんな歴史は二度と繰り返して欲しくないし、サクラちゃんをそこまで苦しめることなんて絶対に許さない。俺たちの力でなんとしてでも止めてやる。


「……そうか、確かに一理ある。言ってみれば、サスケ君を引き入れること自体が俺たちの最初の『歴史超改変』の仕事になるわけか……。これはうっかりしていた。それで、いつ頃を見計らって呼び寄せるのだ?」

















「今日」









「……………………」

「……………………」


また2人が固まった。


「えっと……ナルト、ほ、本気?いくら早い方がいいからって……」

「うん本気。本気と書いてマジと読む!」











吉と出るか、凶と出るか










……俺はうちはサスケ。


信じていたはずの実兄によって俺以外の一族を皆殺しにされ、以後は復讐に人生の全てを賭けている。


アカデミー?下忍任務?そんな低レベルなハードルなんざ、俺にとっては無きが如し。一刻も早く中忍、上忍になり地力を蓄えて、この野望を果たさねば。


ところで、最近……というかこの2日間、妙なことが起きている。第7班として同じ班になった、うずまきナルトのことだ。通称、ドベorウスラトンカチ。


まず、たいした時間経過もないってのに、アカデミー時代と比べ確実に強くなっている。文武両方において。忘れもしない――まあ昨日のことなら忘れるわけがないが――サバイバル試験で、俺は屈辱にもナルトの後手後手に回った。というかあの野郎、俺がトマト好きだとどこで知ったんだ!?まあ、あのトマトは恐ろしく旨かった。今度探してみるか。……話がそれた。


本来なら、俺の関心が向けられるのは戦闘面だけ。だから、2つ目の違和感は俺が気にするのはおかしいかもしれない。が、あまりにも変わったため否応にも目に付いてしまう違和感があった。ナルトの俺たちへの接し方だ。俺の記憶が正しければ、ナルトはサクラにゾッコンで、俺に対しては敵意むき出し。……そのサクラはどうやら俺に気があるらしいが、こっちは何も気にしていない。


……ところが今はどうだ。サクラに対しても、嫌と思うことならはっきり嫌と突っぱねる。『ウザイ』と言われたときも結構本気で抗議していた。かつてなら、消沈しながらも何も言わなかっただろう。普通に会話する分には至って楽しそうなので、嫌っているわけでは全くないらしいが。強くなったことでプライドでも生まれたのだろうか。しかしそれだと、俺のケースが説明できない。あのナルトが、妙に俺に『いい意味で』構ってくる。やれ『この年でそれだけの力付けてるなんて流石だぜ』だの『もうちょっと表情を明るくしさえすれば、ぜってーお前は最高の忍になれる』だの。……悪いものでも食ったのか?


はっきり言って、俺は自分の年齢相応の考え方を理解するのは不得手だ。どういった心境の変化で、ナルトの中のサクラの株が下がり俺の株が上がったのかなど分かるはずもない。とりあえず面倒だったので、『株の上下というより、俺たちの評価が他の同期メンバー同様の平等なスタートラインに路線変更された』と考えることにした。――じつはドンピシャであるとは知らず。














臨時任務という名の下行われた、写真撮影。30分も掛からず終了である。奇しくも、前の写真と同じ構図になったってばよ。……眠そうな顔が写っていなければいいが。


さて、前の歴史だと、この後サクラちゃんをデートに誘った俺。まあ成功するはずもなく、一楽のラーメンを奢らされて終わるということになる。当時の俺はラーメン食ってるときの会話で満足していたんだろうなあ。今回はその必要はない……というかサスケの方に用があるので、3人が別れたのち一目散にサスケの後を追った。


「おーい、サスケー!」

「……なんだナルト、写真について文句でも付けに来たのか」

「いやいや滅相もない。仲間の絆を見事表現した、最高の構図だってばよ!」

「……そう、なのか?(こいつの思考がよく分からん……)」


さあ、ここからは気を引き締めすぎてもしすぎることはない。お前を何が何でも助けてやる。いくぞ!


「実はさサスケ……ちょっくらお前に話したい込み入った話がある。これからお前の家に行っていいか?」

「俺の家?あんな狭い部屋に行って何をする気だ?」

「あー、お前がアカデミー時代から使ってる寮部屋じゃない。……うちは一族が持ってたとかいう、お前の本当の家、だ」

「……!」


サスケが息を呑んだ。他人にこんなこと言われるなんて思いもしなかったんだろう。あの場所は、サスケにとっては最悪に汚れた場所だからな。だが、そこから変えていかなければいけない気がするんだ。一族の復興、願ってるんだろ?


「……ふざけるな。どこでどんな奴からその情報を手に入れたのか知らないが、あんなところにお前を上がらせる気はないし、何より俺が極力近づきたくないんでな。話はそれだけか、ならどっか行け」


そう言って俺に背を向け、幾分早歩きでズンズン進んでいく。しかし、こっちもここで折れる気など毛頭ない。こうなったら、サスケには悪いが荒療治だ。


「……そんなに兄が憎いのか?」


……サスケが硬直した。足が全く動かない。


「お前の復讐は、今のままじゃ誰もを不幸にする。考え直すってばよ」


ギギギ、と機械のように体をこちらに向ける。その顔にあるのは、怒りか、驚愕か、はたまた殺意か。









「…………てめえ、一体……何を知ってやがる、吐きやがれ!!」








あまりの音量に、通行人が何事かと注目してくる。……あんまり目立つとまずいな。サスケに近づき、外に漏れないように意志を伝える。


「だから、それを吐くためにお前の家に行くんだってばよ。俺のほかに、関係者2人も連れていくからよろしく。そうだな、1時間後に訪ねてやるから、それまでに客間くらいは整えといてくれよ。じゃ!」


怒りを爆発させそうなサスケを寸止めしてその場を離れる。あとは2人を呼び寄せて……ふあぁ、眠い。





















不満くすぶるまま簡単な掃除をして客を迎え入れた俺。あまりの怒りで、俺の目は狂ってしまったのだろうか。


あのウスラトンカチが連れてきたのは、いのいちとか言う上忍に……



「あーあ、とうとう寝ちゃったか」



幸せそうに目の前でナルトを膝枕してやっている、日向ヒナタ。












ちょっと待て!お前、サクラ一筋じゃなかったのか!?まさか、この2日間……いや、今日を入れて3日間の直前に何かあって、サクラを振ったのか!?俺が言うのもなんだが酷い奴だな……。





「サスケ君、ごめんね。ナルト、最近寝てなかったから……とうとう限界が来ちゃったみたい。起きるまで待っててあげてくれる?」

「あ、ああ……」


……なんか、こいつもすこし……いや、結構変わったか?なんとなくオドオドしてばかりの性格だった気がしたんだが。ナルトを呼び捨てだなんて考えられなかった。そのギャップのせいで、俺は反論するタイミングを失ってしまった。


「ふふっ、サスケ君、私の性格の変化に驚いてるでしょ?」


……ばれていたようだ。


「ヒナタちゃん、ここは1つ、俺のときと同様のやり口で行ったらどうかい?」

「あ、そうですね。ここまで来た以上、とことんやるべきですよね」

「あ、いや、冗談のつもりだったんだけ……う、なんだか悪寒が……」


いのいちとやら、俺も同感だ。なんだか体中が震えてきた。なぜ俺が、こんな奴に!?


「じゃあ『うちは自慢の超エリート忍者』のサスケ君、この『気弱で泣き虫な落ちこぼれ』の私に、すこしご教授願えるかな?」
















「うーん……よーし、起きたってばよ!……あれ?」


なんでサスケが地面にキスして寝てるんだろう。


ついでにボロボロなのは何故だろう。


少し汗をかいたヒナタが晴れやかな顔で勝ち誇っているのは何故だろう。


いのいちさんはどうして壁に手を付いて黄昏ているんだろう。











……まあ、いっか。












さて、ヒナタが下地(笑)を作ってくれていたおかげで、サスケは俺たちに起きた異変を素晴らしく迅速に理解してくれた。全く、流石だよ。


しかし、あくまで納得したのは現象のカラクリだけ。その結果知ることになる出来事、事実に理解を示したわけではない。サスケについては、俺たちと違い『サスケに関する事件』のみの情報を与えたわけだが、大蛇丸の話の所ではもろに嫌悪感を抱き、本来の歴史の時点で俺の急成長に焦っていたと聞いて苦虫を噛み潰し……そして予想通り、イタチの真の意図を知ったところで、堪えきれず噴火した。




「ふざけんなっ!!」




……怒りだけで呪印が発動できそうな状態だな。サスケの剣幕に、全員腰が引けている。しかし、これで本当に引くわけにはいかない。


「つまりうちは一族は、木の葉に潰されたってことじゃねえか!」

「……ああそうだ、それについては弁解の余地が全くねえ」

「……よくもそう淡々と……!殺してやる!木の葉の人間全員!のうのうと生きやがって!」


とうとう涙まで流しながら、俺の襟元を掴み詰め寄る。ヒナタが心配そうに見やるが、俺は押しとどめた。サスケを納得させるのは俺の仕事だ。


「サスケ、お前の気持ちは痛いほどよくわかる。だがな、その衝動に全てを任せてしまったら、やってることは相手と同じだ。いや、むしろ酷い。世間はお前をボロクソに非難し、お前の人生はそこで終わっちまうってばよ」

「やられたことをやり返して何が悪い!義は俺の方にある!引っ込んでろ!」

「それがないんだよなあ。向こうには今のところ、うちはの反乱を未然に防いだという大義名分がある。このままじゃ、お前がやること全てはただの暴走だ」


拳が飛んできた。全身全霊の一発みたいだが、俺に取っちゃどうってことはない。かわしもせず平気で受ける。


「……ちくしょう……ちくしょう……!」


そのままうずくまり、恥も外聞もなく泣き喚く。気の毒だが、耐えてくれ。『大親友』からのお願いだ。






















目の前が真っ暗になった。これから俺は、何を目指して生きていけばいいんだ……?


説得され、過去のことは綺麗さっぱり忘れて単純に強さを目指す?

耳を貸さず、処刑覚悟で暴れまわる?

従うふりをしてチャンスをうかがう?






……どれもこれも先が見えてこない。


とりあえず、無様に泣き腫らすのをようやくやめて、3人を睨みつける。


心配そうに見つめる日向ヒナタ。

諭すようにじっと見ているいのいち上忍。

そして、真剣な眼差しで睨み返すナルト。


「どうせお前ら、俺がどうしようと押さえこんじまえばいいとでも思っているんだろ……。卑怯な奴らだな、反吐が出るほど」


そんな自暴自棄な台詞まで飛び出してしまう。













「いや、別にそんなこと思ってないけど?」
















「……え?」






思わず固まってしまった。縛り付ける気が……ない?










「殺すってところに飛躍するのが駄目なんだってばよ。そうじゃなくて、とっとと力を付けて発言権を増し、過去の上層部の対応のマズさを暴露して大義名分を奪い返してやれってことだ!向こうが寿命で死んじまう前にな!」


「……奪い返すだと?」


「ああ。そんでもって世間を正しい方に導いたら、死なない程度に一発くらいぶん殴ったあとで牢屋にぶち込んでやればいいさ。さすがに気が治まらないだろ?」

「おいおい、そりゃまずくないか、ナルト君?」

「いーや。いくらなんでもそのくらいの権利、サスケにはあって当然だってばよ。そんときは俺も協力してやるからな!……そうそう、お前は皮肉にも、大蛇丸の呪印およびあいつのもとでの修行で劇的に強くなっている。その分の埋め合わせと言っちゃなんだが、これから俺はお前を徹底的に鍛え上げてやるからな、覚悟しとけよ!」


そう言って、ニカッと笑う目の前のナルト。













こんなときに……なんだ、この妙な嬉しさは。


……そうか。こいつは、決して俺が憎いあまり口出ししているわけじゃない。心底信頼する仲間だからこそ、全力でぶつかってきてくれているのか。


「……っくく」

「……へ、どうしたんだ、サスケ?泣き止んだのはいいけれど、どうしてそこで笑うんだよ、気持ち悪いってばよ」

「くくくくく……笑えるぜ……これが笑わずにいられるかっての」


……よし、いいだろう。とりあえず、『信頼寄り』で話を付けてやろうじゃないか。見極め切るのはもう少し後になるがな。






[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(7)
Name: 林檎◆31536b05 ID:d24a9748
Date: 2010/07/02 23:30
まだ朝の4時。うちは邸内の鍛錬場にて。

ナルトによる、サスケのレベル上げ作戦が始まった。


「まだ完全に信用したようじゃなさそうだが、とにかくお前にとっちゃ強くなれるに越したことはないはずだ。思いっきり掛かって来いよ!」

「もとよりそのつもりだ、ウスラトンカチ!せいぜい上手く強くしてくれよ!」


この鍛錬場、ただでさえうちは邸に近づく人が少ない上に、周りの目からは完全に隔離されているのでナルトたちにとっては無茶苦茶都合がいい。存分に術を開放することが出来る。というより、ここ以外で満足に修行できる場がないのだ。逸脱した術を人に見つかったら事である。


ちなみにアパートを失い住むところがなくなったナルト、これ幸いとちゃっかりサスケの家を拠点にしてしまった。サスケも寮借りは解約してきて、本格的にしごいてもらう段取りである。


「これから毎朝、俺の影分身と勝負してもらう。ヒナタが言うには、もとの歴史の分身体に比べて平均5倍強の能力らしいからな。このくらいのラインは突破してくれないと困る!楽になってきたら何時でも言え、人数を2人同時、3人同時って具合に増やしていってやるってばよ」


「いいだろう」


「夜はヒナタを加入して、午後7時から11時まで乱取り勝ち抜きの実戦勝負。最初は俺もヒナタも手加減するけど、さっさと強くなってこっちのレベルアップにも貢献してくれよ。食事は負けて休んでいる間に摂取する兵糧丸のみ!」


「……ま、まあ当然だな」


「さらに!任務がないときは追加して、昼休みを挟んで計8時間を攻撃、防御、敏捷、跳躍、回避いずれかの特化特訓時間に当てる。道具とかはこっちで用意しといてやるから安心するってばよ!」


「……………………マジか」


「うん、大マジ。ま、お前がそんなこと出来るかーって投げ出すんなら、どうぞ勝手に大蛇丸の所に行くってばよ。呪印1つでラクラク強くなれるぜ?思いっきり馬鹿にしてやるけどな」


「……ざけんな、やってやろーじゃねーか!」


「ああ、その意気だってばよ、サスケ!」



何気に乗せられやすいサスケであった。














2週間経過(Dランク任務5回)。


















「くっ!……ヒナタ、相変わらずなかなかやるな」


「ナルト、油断してると痛い目遭うわよ!」


「おーいナルト君、知ってるかもしれないが一応報告しに来た。第7班は、来週に波の国に向けて出発するはずだぞ。おそらく最初の危険任務だ、油断するなよ」


「おー、そっか!サンキューいのいち上忍!白に斬不斬、待ってろよ!」








サスケ、疲労困憊でドクターストップ、療養中。

サスケのレベルが3上がった。


「レベルって何だレベルって……」












スーパーサスケRPG














1週間後。木の葉隠れの里入り口。










「それでは、タズナさんの護衛という任務を背負い、第7班出発するよー」


「お前さんたち、ワシの警護を超がんばっておくれよ。波の国へれっつごーじゃ!」


「……サスケ君、大丈夫?顔色、悪いわよ?」


「だ、大丈夫だ……(体が重い……なんて過密スケジュールなんだオイ)」


「(小声)よーしサスケ、頑張ろうぜ、修行の成果を見せるチャンスだってばよ!」


「(小声)何ほざいてるんだ、たかがCランク任務で……ってまさか」


「(小声)あー、成り行きで『B以上』になるから。下手すると死ぬぞ?というか前は死にかけた」


「(小声)……さいですか」







勇んで木の葉隠れの里を離れていくご一行。

それを、柱の影からヒナタがじっと見守っていた。


「おいおい、こんなところでなにしてんだ?……はっはーん、ナルト目当てだな?」


「あ、キバ君。おはよう」


「おはよーっす。それにしても、最近ナルト変わったよなあ。なんかこう、しっかりしてきたっつーか?ますます惚れちまいましたか奥さん?」


「うん♪」


ピシッ。


キバが固まった。


「でももともと最高に惚れてるからこれ以上惚れることはないのかな?……あ、つい本音言っちゃった」


キバ、1分間動かず。ヒナタ、しばらくキバを観察した後、好奇心からキバの眼前で手を振ったり頬をつねってみたり。


「キバ君、あなたは何も見ていません、聞いていません。私が手を叩くと、さっきの私の言動を全て忘れて意識を戻します。はいっ」


「……あれ、ヒナタじゃねーか。お、俺今何してたんだっけ」


「えっと……『この前できなかったテスト合格記念の食事会に私を誘う』」


「あ、そうそう!よーし、シノを探しに行こうぜ!」


「うん」


駆けるキバに付いて行こうとして……どうしても振り返ってしまった。その表情は……固い。


(この3週間白眼での観察を継続してきたけど……間違いないわ。

ナルトのチャクラ総量が減り続けている。……どうして?

しばらくは身体能力でカバーできるけれど、このままじゃ……!)


「おーいどうしたヒナタ、さっさと来い……え?」
















「おいナルト、任務の情報を教えろ」


「アニメ初のまともな任務で、空間的狭さの割に第6~19話の14話分も消費したトンデモ任務。当時は技術上の問題で仕方なかったとはいえ、今のアニメに慣れてる人から見れば使いまわし満載巻き戻し満載のネタ要素大盛りの任務だってばよ」



「そんな情報いるか!!」




「任務詳細?……ヤダね、もう一回『自力』で見破れってばよ。前はなんとかなったんだから。頼ってばかりじゃ駄目だぜ、『ビビリ君』」


「なんだ、その呼び方」


「前の歴史のこの任務で、俺が初陣で何も出来ず終わったときお前が言った言葉」


「……確かに言いそうだな」


「まあ死者が出たら意味ないから、危険だったら助太刀するぜ。お前の評価を一段階下げた上でな」


「……お前、ほんと厭味な奴だな。一体誰の受け売り……ってまさか俺か」


「よくわかってんじゃん」







「なんか最近、妙にサスケ君とナルトの仲がいいわね……」


「ん?なーにサクラ、2人に嫉妬?駄目だよそんな腐女子思考じゃ」


「そんなこと考えるわけないでしょー!!」












のんびり歩いているように見えながら、ナルトは任務のことを深く考えていた。


カカシ先生と斬不斬の一騎打ちは、苦労するとはいえカカシ先生が優位に事を進めるだろうからひとまず置いておくとして(俺たちがお荷物になるとそうも言っていられないが)、問題は白だ。


2対1とはいえ下忍になったばかりの俺たちで倒せた敵、ということで大したことないと思われがちだが、とんでもない。血継限界を舐めてはいけないのだ。前は明らかな戦力差の中しばらく手を抜いてくれ、おまけにサスケが死んだと勘違いした俺が運良く九尾の力を得てうっちゃりを決めただけ。


上忍レベルの斬不斬も自分より強いと認める彼がいきなり本気を出せば、サスケは写輪眼を目覚めさせることなくあっさり死ぬだろうし、全盛期の俺ですら五分五分、といった所。要するに、原因不明のチャクラ不足という事態に襲われている現状じゃ1対1じゃ冗談抜きで勝テマセン。『パワーアップした俺とサスケのタッグで本当の五分に持って行けるか?』って所だ。


まあ仙人モードを使えば一転してかなり有利になるはずだが、今のところ部外者にばらすわけにはいかないし。……いや、あの密室内ならカカシ先生にばれずに済むかな?一応頭の片隅に入れておくってばよ。


一番賢いのは、斬不斬との初戦闘で瀕死状態の斬不斬を白に回収させずに殺してしまうことなのかもしれない。いくら白でもカカシ先生を含めた全員で掛かられたら勝てっこないからだ。……あ、でもそんなことしたら怒り狂った白がカカシ先生の回復を待たず攻めてくるかも。やめとこう。


(ごめん、白。もし俺以外の奴が時を遡っていたら、そもそもお前が悪に手を染める前に何とかできたかもしれないのに)


所詮はたら、ればの仮定に過ぎない。そして、斬不斬に絶対の忠誠を誓っている今の白を引き止めることはもはや不可能、戦えば待っているのは殺し合いの世界。躊躇すればこちらが殺される。ナルトは深くため息をつくのであった。























「じゃあキバ君、シノ君、また明日」


「おう、また明日な、ヒナタ」


「……また明日」


ようやく食事会開催を成し遂げた彼ら。まあ名前ほど大げさなものでもなく、少しアカデミー生活を振り返るくらいで終わった1時間弱の食事であったが。


ヒナタが分かれ道で離れていき、キバとシノの2人だけで歩き出す。


「…………」


「…………ん、どうしたシノ、そんなにこっち見て」


「キバ、お前はヒナタに気があるのか?」


「……は、はあ!?なんでそんな発想が出て来るんだよ!確かにヒナタのことはいい奴だと思ってるけど、恋愛感情なんてないし、あいつはナルトが好きで何気に俺も応援に回ってるんだぜ?」


「そうか。……しかし、俺が勘違いするのも無理はないと思う。なぜなら、さっきの食事会で、お前はしつこいほどにヒナタの顔をうかがっていたからだ」


「……あー、そーいうことか」


シノの言葉に、キバの顔が急に曇る。


「気があるのでないなら、一体なぜだ?」


「いや……。実は犬塚家ってさ、誰もが知ってる『臭い探索』だけじゃなくて、いわゆる『シックス・センス』――第六感にも結構長けてんだよ。例えば、上位クラスの忍は周辺のチャクラの流れの乱れで殺気を読み取ることができるが、俺たちは本能でそういったのを認識することが出来る。中々凄いだろ?」


「……その能力と、さっきの視線とに何か関係があるのか?」


「実はよ、その……ヒナタをここに誘ったとき、あいつ何か心配事があるらしくてちょっと思いつめた顔してたんだ。まあそれだけなら誰でもありうることなんだが……俺の錯覚だとは思うんだが、あいつの体を覆っているのが見えたんだ。……獣気っていうやつが」






[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(8)
Name: 林檎◆31536b05 ID:82bf1a22
Date: 2010/07/03 18:35
晴れ渡った空の下、渡された写真に載っていたタズナらしき人物が波の国向けて歩いているのを発見して、俺たちはほくそ笑む。道筋から通過ポイントを推測して先回り。


「一般人1人殺すだけであんな大金払ってくれるとは、ガトーも金遣いが荒いねえ、クックック。一体どれだけ稼いでいるのやら」


「まあいいじゃねーか、そのおかげで俺たちが得できるんだから。これが終わったらしばらく遊んで暮らそっかなあ」


さっき確認したところによると、木の葉隠れの人員が警護に当たっているようだ。だが、ほとんどガキばかりのあいつらに何が出来る。唯一のあの大人が万が一上忍だったとしても、他は下忍レベルってところだろう。不意打ちで上忍を倒したら後はゆっくり1人ずつ料理してやればいい。……よし、見込み通りあいつらが近づいてきた。


「悪いな、別に霧隠れは木の葉隠れを恨んじゃいないが、まあ運が悪かったと諦めて……」










「おーっと、手が滑ったーーーー!」



グサッ。








シーン……。









「ナ、ナルト?なに水溜りにクナイ投げ込んでるのよ、汚れちゃったじゃない!」


「アハハ、みっともないところ見せちまったってばよ」


「……そうか、迂闊だった。もっと周りに気を配らないとな」


「……こりゃ、俺の出る幕はしばらくなさそうだねえー」










怪我の功名?







タズナさんを挟むようにして、俺とサスケが前に、カカシ先生とサクラちゃんが後ろに配置しつつ歩いていく。……というか前回って、俺たち警戒もせず一直線で突き進んでいた気がするぞ。今思うとぞっとするな。サクラちゃんはサスケの横に並んで歩きたかったようだが、『俺はナルトの横でいい』というサスケの一声のおかげで渋々下がっている。


あと、カカシ先生?俺の今の攻撃で安心してくれたのはうれしいけれど、流石に本を読みながら歩いて欲しくないってばよ。何のための護衛ですか?本命きちゃいますよ?


「……そーいやナルト、前から気になってたんだけど、お前自来也先生のことなんで知ってたんだ?どっかで会ったの?」


「じ、地雷屋先生?だ、誰だってばよ、それ。起爆札設置のエキスパートかなんか?」


「……この前影分身の変化でなってたじゃない」


「へー。あれ、ジライヤっていう人だったのか。写真で見たことがあるだけの赤の他人だけど、そんなに有名な人だとは思わなかった」


「いやいや、性格とか口調とかかなり忠実に再現してたよ?」


「え、えーっと……マグレ」


苦しい。苦しすぎる言い訳だ。


「…………なんか言いたくない理由でもあんの?ナルトく~ん」


その通り。


「…………」


「…………」


「貸し、いち」


「……貸しってなんだってばよ!!」


「いやー、ちょっと考えたらね。さっきナルトが『うっかり』手を滑らせたせいで、誰が狙われてるのか特定できなかったんだよね~。だから、タズナさんに変化させた影分身を1人泳がせて様子を見て、その埋め合わせをしてほしいなーと」


(あ、そういやそうだった……って、こ、ここで影分身!?ただでさえチャクラを残しておきたいってのに……というか影分身ならカカシ先生でもできるじゃねーか!)


「どうする、ナルト?まあ嫌とは言わせないけど、さ」


「……だぁー!分かった分かった、分かりましたってばよカカシ先生!……影分身の術!さあ行け即行けすぐに行け、全速力で来た道を引き返して、十分離れたところでタズナさんに変化してうろついて来い!」


「あ、いや、作らせといて悪いけど、そこまで強い影分身作らなくても良かったんだけど……一般人なみの能力で良かったのよ?」








――ますます少なくなったナルトのチャクラ。だが、この時分身体にチャクラを多く渡したことが、思わぬ恩恵をナルトにもたらすことになる。














こちら分身体、オリジナルから離れて30分あまり。既にタズナに変化し、さも道に迷ったかのようにあちらこちらへふらつきながら歩いている。もとの道をただ引き返すだけでは単純すぎるため、ズンズンわき道にもそれていく。


「おーい、みんなどこじゃー?超さみしいぞー」


ついでに大声も出してみる。さっさと来てくれ、霧隠れの忍。……というか前の歴史通りなら、さっき倒した奴らと本命以外はいないんだけどな、襲ってくるの。つまり俺の努力は全て徒労に終わるって訳だ。オリジナルに還元されてチャクラを幾分か返したいのは山々だが、実は『オリジナルの術解除で』消えないとチャクラを返せない。分身体自身の自己消滅だとチャクラは空間に霧散してしまうのだ、残念。


そもそもそれが可能なら、分身体は暴れるだけ暴れてからやられる直前に自己消滅することを繰り返すという暴挙に出られるからな、当たり前と言っちゃ当たり前。


「……まさかターゲットがこんな無防備に1人彷徨っているとは流石の俺も予想していなかったな……」


……ん?あ、なんだ。追っ手まだいたのか。まあこれでお役御免、さっさと倒してもらいま……。










「ったく、強い忍が警護に付いてるなんて聞いたから胸躍らせてたのによ。とんだ期待外れだぜ」












……。


…………。


………………。


……本命、斬不斬さんが来ちゃったよ。そっか、前のときはこのあたりを通ってやって来てたのか。納得納得。……さて、どうしようか。





1、とぼけてみる。


「やあやあお前さん、済まないが『火の国』までの道を教えてくれんかのー。この老いぼれ、道に迷ってしまったんじゃ。教えてくれたら超感謝するぞ」


「俺をおちょくってるのか?タズナとやら」


「む?ワシの名はキズナじゃぞ」


「ドライブとでも言って欲しいのか(怒)」


作戦失敗。





2、話題を変えてみる。


「おおっ!?そんなことよりお前さん、ちょっとその手を見せてみい!」


「な、なんだ!?」


「こ、これは、やはり……生命線が、短い!私の超当たる手相占いによれば、あと3ヶ月の命じゃ!お気の毒に……」


「な、なんだってー!……とでも言うと思ったか!」


駄目だった。





3、親睦を深めてみる。


「……お?も、もしかしてあの有名な『奇人・斬不斬』か!?わ、ワシ大ファンなんじゃ、サインくれサイン!」


「『奇人』じゃねえ!殺す!即殺す!!」


怒り心頭の斬不斬が大刀を一振りし、分身体の俺は……














つい反射的に避けていた。





「「え」」






まさか避けられるとは思っていなかった斬不斬は一瞬固まる。俺もわざわざ避けてしまったことに固まる。


斬不斬、ハッと我に返ってもう一振り。しかし、また避けてしまう俺。……よく考えたら当然だ。かわすことが出来るのにわざわざ当たってやる道理はない。どうせ倒された時点で影分身とばれるのだから、むしろ出来る限り避けて時間を稼ぐべきだ。それにしても、傍から見てるとタズナさんが忍の攻撃をひらりひらりと避けているんだよな……さぞ笑えることだろう。


「……フ、どうやら忍でないからと侮っていたようだな。これは失礼した、次からは本気で行かせてもらう。……鬼人斬不斬、いざ参る!」


(む……さすがに本気を出されちゃ一瞬で終わるだろうなあ、所詮分身体だし。でもただやられるのは癪だってばよ。よーし、こうなったらあがけるだけあがいてみるか!何かしら発見できるかも!)


しかし、ここで至って当たり前の問題が生じる。このままでは何も仕掛けられないのだ。すなわち、なんらかの術を使おうとすれば、基本的にはまず変化の術を解かなければならない。術発動中に別の術を平行して発動させるのは体に膨大な負担が掛かるからだ。つまり正体がばれることになり、かえって損をする。さすがにそれは……と、ここで俺の頭にとある妙案がひらめいた。


――だったら、平行して発動させてもなんとかなるくらいチャクラ消費が無茶苦茶少なくてすむ術なら?


当然ながら、込めるチャクラが少ないことは術の効果が乏しいことと同値。いくら使えても無用の長物では意味がない。……それでも、特定の効果に絞れるだけ絞ることで、使用に耐えながらもチャクラ消費を抑えた術がないとは限らない。というか、そんな術が1つでも見つかれば、変化中に限らず今のチャクラ不足の状況下でもろに活用できるではないか。マジで大助かりだ。


(よーし、ぎりぎりまで粘って試してみるってばよ!行くぞ、斬不斬!)


ひたすら逃げに専念しては時々未知の印を結び不発に終わるオジサンと、血相を変えてブンブン刀を振り回す大男との愉快な鬼ごっこが始まった。






















所変わって木の葉隠れ。


「……ヒナタよ、最近夜遅くまで鍛錬しているようだが、……さすがに無理をしているのではないか?」


「その心配はございません、父上。むしろ、父上のような立派な忍になるためには不十分なほどです」


「…………」


最近、妙に逞しくなってきたヒナタの様子に首をひねるヒナタの父、日向ヒアシ。なんと、徐々に妹のハナビに対する勝率を上げてきている(あまり不自然にならないようヒナタが随時手を抜いているため『徐々に』という上がり方。本当なら当然逆行以降全勝街道まっしぐらである)。


おまけに、自分すら敬遠したくなるような過酷な特訓のなかに身を置いているらしい。娘の口から初めて聞いたときは、夜遅くまでわざわざ外で修行せずとも自宅で鍛えればよいではないかと言いそうになったが、せっかくの意欲を削ぐのは本意ではないし、ヒナタの実力向上には目を見張るものがあるため何も言えなくなった。


ようやく跡取りとしての自覚が備わってきたか、と喜ぶのは簡単だが、どうにも釈然としない。このスピードはさすがに異常ではないか?まるで別人だ。さらに、白眼で推測する限りでは、チャクラ量の増え方が実力向上に輪を掛けて有り得ないことになっている。なんと、1ヶ月前のおよそ10倍に増えた。しかも、今もなお増え続けているというのだから恐ろしい。




(なあ……どう思う、ヒザシよ。私はヒナタをどう見守るべきだろうか?)











――余談だが、あまりに多いチャクラ量のため、実戦形式の模擬試合中には使っても使ってもチャクラ切れが起きず、術をエンドレスで受けるハナビがリアルで恐ろしい目に遭っていた。





[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(9)
Name: 林檎◆31536b05 ID:f738c0b2
Date: 2010/07/03 18:32
綻びの影響



あれから1時間後。ようやく分身体が倒されたようだ……って斬不斬かよ!


「カカシ先生、反応があったってばよ。霧隠れの忍にやられた」


「そっか、ご苦労さんナルト。……さてタズナさん、ちょっとお話があります」


「な、なんじゃ?」


「たった今入ったナルトの報告によると、さっき泳がせておいた『タズナさんに変化した影分身』が霧隠れの忍に狙われ、倒されたそうです」


「い、いつの間に……なぜそのようなことをしたんじゃ?」


「私には知る必要があったのですよ。この敵のターゲットが誰であるかを。つまり、狙われているのはあなたなのか、それとも我々忍のうちの誰かなのかということです。……我々は、あなたが忍に狙われているなんて話は聞いていない。依頼内容は、ギャングや盗賊などの唯の武装集団からの護衛だったはず」


うっ、と思わずたじろいでしまうタズナさん。


「これだと、Bランク以上の任務だ。依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはずです。敵が忍者であるならば、迷わず高額なBランク任務に設定されていた。何か訳ありみたいですが、依頼で嘘を付かれると困ります。これだと、我々の任務外ってことになりますね」


「……そうなの?カカシ先生」


あ……そうか、俺が未然に襲撃を防いじまったから、サクラちゃんはこの任務の危険さをまだ認識していないのか。ミスったかな、いきなりの斬不斬戦で怖気づかないといいんだけど。


「(小声)おいナルト、どうせこの後あいつらより数倍手ごわい敵が来やがるんだろ?ここはいまいち緊張感がないサクラに免疫を付けさせるためにも、あえて放っておいたほうが賢かったんじゃないか?いざとなれば、あんな奴ら如き一瞬で倒せるだろうに」


「(小声)……!お前、無茶苦茶勘がいいな。そうなんだよ。前は唯一気付いていたカカシ先生があえて隙を作って突撃を誘い、皆に実際の戦闘を体験させた上で返り討ちにしたんだ。クナイを打ち合ったわけではないにしても、サクラちゃんも決死の覚悟でタズナさんを庇ったんだよな~。完璧に失策だってばよ……」


「(小声)で、お前は何もできずにビビッてたってわけか」


「(小声)そーそー!震えて動けないもんだからむしろ敵に狙われてさ、お前がいなかったらマジでやばかった。サンキューな、サスケ」


「(小声)俺にそんな感謝の言葉を送られても困るんだが……」


超僅かながら照れているらしいサスケ。これはなかなかの珍現象だってばよ。サクラちゃんが見たら狂喜するかもしれない。いや、踊り出すだろうか?……あ、もちろん『今の』サクラちゃんの話だが。


「(うーん、本来なら任務依頼で嘘を付いていたことを盾にとって引き返すのが当然なんだろうが……ナルトの戦闘力には目を見張るものがあるし、なんかサスケも強くなってきてるみたいだし。このまま進んでもなんとかなっちゃいそうなんだよなあ、幸いにも)おーいお前ら、多数決採るぞー。任務中止か、任務続行か、好きな方を選べー」


「俺はもちろん、任務続行派だってばよ!」


「俺もだ。この任務、中々やりがいがある。Cランク相応の報酬だろうとなんだろうと、喜んでやらせてもらうぜ。大サービスだ、タズナ」


「サスケ君がそう言うなら、私も続行で!」


「……まあそうなるか。よーし分かった、それじゃ任務続行だ。ただし油断するなよ、新たな追っ手がいつやってくるか分からない。常に周囲に気を配って、タズナさんを全力で守りきるように!……というわけですタズナさん、皆の熱意と勇敢さに感謝ですね」


「ああ、ワシってば超超感激じゃ!ガキじゃなんじゃと馬鹿にして本当に済まんかった!!」







ふう、任務続行か。今回はカカシ先生もすんなり認めてくれたようだ、良かった良かった。


……そういえばようやく思い出したが、分身体の奴面白いこと考えやがったな。省エネの術、かあ。チャクラが有り余っていた昔は一にも二にも威力を優先していたが、確かに今はそんな術はろくに使えない。無理に使おうとすれば、この前の爆発事故みたいに威力不足になったり気絶してしまったりというのがオチだ。臨機応変で頑張っていかなきゃならないってばよ。


嬉しいことに、そんなに長くない時間の中、術の詳細まではてんで決まらないまでも、変化中にごく僅かなチャクラを練り上げるという第一段階はクリア直前というところまでは来ているらしい。ふっふっふ、さすが俺!こんなこと誰にも真似できないぜ!……あ、誰も試してみなかっただけか。ともかく、今後のためにもぜひ物にしてみせるってばよ!さーて、どんな感じに効果を特化させようかなー。一点攻撃?一点防御?それとも……。





波の国に向かう舟に乗り、そこでガトーという危険人物の話をタズナさんから聞かされる。あのときはちんぷんかんぷんだった俺だけど、今度はしっかり理解できたぜ、サスケ並にな!……ええい、悔しくないぞ。














「……全員、伏せろ!!」


「よっと」


「むっ!」


「きゃっ!!」


「な、なんじゃ!?」


カカシ先生の警告で咄嗟に身を低くして、回転しながら飛んできた刀を避ける。とうとう現れたな!怖さより懐かしさが先に来るってのもどうかと思うけど。






「……これはこれは~、霧隠れの抜け忍、桃地斬不斬くんじゃあないで……あれ?」


カカシ先生の声が止まった。何事かと訝しむ敵。


「ちょいと失礼、『斬不斬』だっけ?『再不斬』だっけ?」


「『再不斬』だ!いくら勘違い記載ページが多いからって今の今まで間違いまくるんじゃねえ!だいたい、何が『斬不斬』だ、反復疑問じゃねえぞ!」


「それについては正しい名前の方も問題と思うんだが……まあ分かった分かった。今後は気をつけるから、『再不斬』クン。あ、今までの分は作者の愚かさを戒めるため記念に残しとくから」


「いや、直せよ!」


「こいつが相手となると、このままじゃちときついか……(写輪眼を使う用意に入る)」


「話を進めるな、写輪眼のカカシ!!」








多少大人気ない口論の末、戦い始めたカカシ先生と再不斬。俺たちはタズナさんの護衛に付いていて実質何もしないまま。えーっと、この後変な術でカカシ先生が水の牢獄に閉じ込められるんだよな。助けに行けないこともないけれど、タズナさんが狙われちゃ本末転倒だし……。














――と、ここで狂いが生じた。













「ちょっと、ナルト真面目にやってるの!?」


ナルトが微妙に緊張感がない、というか考え事をしているらしいことを感じ取ったサクラがそれを咎めた。慌てて『あ、ああ。ごめんってばよ!』と気合を入れるナルト。……ところが、多少気の抜けたナルトでも前回よりはよほど隙がない。実は放っておいても安全だったのだ。むしろ、実質これが初陣になり、いきなりの強敵に不安・恐怖で押しつぶされそうになっていたサクラの方にナルトすら予想できない隙があった。おまけにサスケを挟んで逆の位置にいるナルトの方にまで不用意に顔を背けたことで、その隙は顕著となる。……これを見過ごす再不斬ではない。












「……そこだぁーー!!」










前の歴史では水分身2人を駆使し様子を伺った再不斬。


今回駆使したのは1人だけ……ワンテンポ早く、本物の再不斬の刃がナルトたちに襲い掛かった。



















……嘘だ。信じたくない。しかし目の前の現実は変わらない。


「なっ!?」


「まずいっ!」


気配を感じ正面を向いた刹那、自分に刀が振り下ろされようとしていることを理解し、驚愕する。カカシ先生とサスケ君も気付いたみたいだけれど、カカシ先生(正確には分身体)は離れすぎ、サスケ君は最短距離とはいえスピードが追いつかない。ナルトに至っては言わずもがな。











――あれ……私、ここで死ぬのかな。


……い、嫌!絶対嫌よ!こんなところで死にたくない!


アカデミーを卒業してやっと下忍になって、これからいざ頑張ろうって時に!


まだやらなくちゃならないことが、私には山ほどあるの!お願い、やめて!!




しかし、これから降りかかるであろう惨劇への恐怖心から、体が言うことを聞かない。せめて身を屈めて僅かでも生存率を高めようとか、腕を潰されてもいいから命だけは守り通そうとか、そんな最低限の努力すら出来ない。












「きゃああああぁぁぁーー!!!」













私が出来た事といえば……ただただ救いを求めて叫ぶだけだった。
















………………。










……あれ?


……痛みが来ない。いきなり天国にでも飛ばされたの?


固く閉じた目を恐る恐る開いていくと、そこには…………。











「……ふざけんな、再不斬」







血まみれになりながら、両腕で大刀を掴み食い止めているナルトの姿があった。


















「ナ、ナルト!お前なにやってんだ!大丈夫か!?」


「こ、このウスラトンカチ!無茶しやがって……!」


「……へんっ、こ、こんなのどうってことないってばよ」


激痛をこらえながら刀を抑え続ける。かなりの痛手を負ってしまったが、一度勢いを削いでしまえばそれほど苦労することはない。


本音を言うと、できればサクラちゃんの方を引っ張って射程圏外に出すという方法を採りたかった。しかし、懐深くまで入られすぎたのが問題だった。サクラちゃんを助ければ、自動的にすぐ後ろのタズナさんが刀の閃光に消される。さすがに2人同時には助けられない。となれば、刀の方をどうにかするしかなかった。


「ナ、ナルト……!アンタ、なんで……!」


「へっ、カカシ先生も言ってたじゃん。『俺の仲間は絶対に傷つけやしない』ってな!」


警戒を怠らずチラッと振り向きながら、とにかく、できるだけ……できるだけ大したことがないように振舞う。サクラちゃんが撹乱しているところ、罪悪感に苛まれているところなんてこれ以上見たくないから。


「だ、だからって……!」


「ごめんサクラちゃん、その話は後にしてくれってばよ……今、取り込み中だから」




そうして……目の前の敵の方に向き直す。再不斬はどうにかして刀の制約を解こうとするが、そう簡単には離さない。……離してやらない。


「……お前、サクラちゃんを殺そうとしたな?」


「……フン、忍の世界では当たり前のことだ。大人も子供も関係ないし、余所見をしている方が悪い。それよりも……答えろ。お前は何者だ、なぜお前みたいなガキが俺に力勝負を挑める!?」


「ああ、全く以ってそのとーり。忍の世界は厳しい、油断した方が悪いよな。……だから、これは仲間を殺されかけた『俺個人』の問題だ。……絶対許さねえ!!」


「……くだらない仲間意識か、そんなもの……」


なんだかんだ言って、再不斬は油断している。こちらが大怪我を負っているということもあるのだろう。このチャンスの中なら……本当なら当たりっこない攻撃も食らってくれるかもしれない。カカシ先生、ごめんな。こうなったら俺が再不斬を瀕死状態に持っていってやる。あと、意味不明だと思うが再不斬にも、ごめん。半ば俺の八つ当たりな気がしてきた。止めるつもりはないけれど。


一歩グイっと踏み込んだ勢いで、両腕ごと刀を前に弾き飛ばす。その過程でますます刀が腕に食い込んで激痛と共に血が噴き出したが、気にしない。大重量がある得物にそんな振る舞いをされたら、さしもの再不斬も足元がふらつくわけで。よろめくまま刀を押し留めようとしてほんの僅か注意がそれた瞬間死角から近づき……。









「食らえーーっ!!」



「む、この後に及んでただの回し蹴りだあ?そんなもの屁でも……」







ドゴンッ。







「……こちとら残りのチャクラありったけ足腰に溜めてんだよ、バーカ」





そう、まさに……前の歴史でサクラちゃんが拳にチャクラを集中させて使った怪力のように。





死ななかっただけ、いや刀を離さなかっただけでも凄いのかもしれない。みぞおちに予想だにしない超重い一撃を食らった再不斬は……木々をなぎ倒しつつ数百メートル飛んでいったのであった。










「嘘だろ……な、なんて奴なんだ……!お前、いつの間にそんなに強く!?」


「……ハア、ハア……ち、違う違うカカシ先生。今のはチャクラを込めまくったおかげで瞬間的に身体能力が倍加しただけで、俺自身が強くなったわけじゃないってばよ。おまけに、チャクラすっからかんになっちまったからもうヘトヘトだぜ……。カカシせんせー、おんぶー」


「(いや、それができること自体が大変なことだと思うのだが)あ、ああ。分かった、だがその前に止血だ、腕を見せてみろ。……さて、いくら力量の差があったとはいえ、何の行動も採らなかったサクラには一言言って……やる必要もないか、あの様子じゃ」


サクラはようやく取り乱すのをやめ現状に立ち返ったようで、泣き腫らしながらも一目散に荷物を漁り医療道具を取り出している、『ごめん、ごめんね……ナルト』とつぶやきながら。十分堪えているようだ、追い討ちを掛けることはないだろう。何よりナルトが望んでなさそうだし。意外にもサスケはそれほど慌ても驚きもしていないようで、黙々と道具を取り出すのみだ。


物のついでに怪我の対処をサスケ、サクラに学ばせつつ手当てをする。とりあえず命に別状はないことが見て取れたので一安心だ。ナルトは疲れたのかあっさり眠ってしまった。一瞬サクラの顔が真っ青になったが、ただ眠っただけだと伝えると安堵のあまりへたり込んでしまった。サスケもなんとなくほっとしていた気がする。














やあ、俺は分身体。吹っ飛んでいった再不斬の様子を確かめに行かされてみたら、こりゃまた見事に昏倒していることで。いやー、ナルトだけは敵にしたくないね、あっはっは。とりあえず生死確認くらいはやっておこうか。場合によっちゃ止めを刺さねば……。










ヒュンッ。







「……え?」


まさかの横槍攻撃を知覚し慌てて警戒したと思えば……何者かの目にも留まらぬ速さの一撃によって、再不斬は事切れていた。慌てず辺りを伺い、原因の主を探してみれば。


「ありがとうございます。……僕はずっと、確実に再不斬を殺す機会を伺っていた者です」


木の横枝に颯爽と立つ、ナルトたちと大して年の違わぬ1人の少年がいた。









…………。







「……で、その追い忍に奴の始末をを任せたってことか」


「そういうことだ、サスケ。だが、今更ながらマズったと思い始めているところだよ。まあ、影分身1人であの少年に勝てるわけがないから仕方がないと言えば仕方がないが」


「ああ、使った武器がわざわざ殺傷能力の低い千本であることからしても……そいつは再不斬の味方、と考えるべきだろうな。次は俺も加勢して確実に潰す」


「ま、ナルトのおかげで写輪眼をあまり使わなかったし、このくらいなら倒れずに済むかな、助かったよ。改めて礼を言うぞ、ナルト」


そう言って、未だ眠ったままのナルトの方に振り返り、声を掛けてやる。よし、包帯越しに見たところ、若干血が滲んでいるとはいえあれから傷口に特に異変もない。











……異変がない?









(変だな……九尾の力が宿っている以上、この程度の怪我はさっきの偵察に掛かった時間くらいで完全にふさがってくれるはずなんだが……。)





[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(10)
Name: 林檎◆31536b05 ID:f738c0b2
Date: 2010/07/07 20:03
「……ん」


「お、目が覚めたか、ナルト。ほんと、お疲れさん」


いつの間にかタズナさんの家の布団に寝かされていた俺。起き上がろうとして、『全身』を駆け抜ける痛みに呻く。そう、俺が使った足腰へのチャクラチャージは所詮前の時代のサクラちゃんの怪力の劣化、自分に返ってくるダメージを相殺しきれないのだ。結局重力に負け、再び布団に体を寝かせてしまう。……これじゃ前回のカカシ先生と同じだな。


「おーい、こっちにこい、サスケ、サクラ。ナルトが起きたぞー」


「ほ、ほんとですか!?」


「…………」


少し涙目のサクラちゃん。やれやれ、という感じで苦笑しているサスケ。なんか歴史が変わっちまったな、俺の計画不足だったって事か。まあその被害を被ったのが俺だけで本当に良かったってばよ。


「さあナルト、サクラの命があるのはお前のおかげだ。……回復しきるまで、まあ1週間ってところか。その間、道徳上許される範囲で好きなだけサクラをこき使っていいぞ。移動するときは肩を貸してもらえ、何か欲しければ持ってきてもらえ、食事のときは食べさせてもらえ。俺が許可する」


「……え、ええええ!?カカシ先生、ちょ、ちょっと待ってくださ……」


「あー、要らない要らないそんな手助け。このくらい自力でなんとかするってばよ」










…………。








(えーーーっと、ナルト?そんなに関心ゼロの態度で言われると流石に乙女心が傷つくんだけど?)










再不斬が生きている可能性がある、という話に驚くサクラちゃんとタズナさん。その後、カカシ先生は『修行を課す』と言って俺たちを林の中に連れてきた。俺が怪我を負ったせいで修行内容まで変わってしまうのかと危惧していたから、正直安心したってばよ。……まあ俺は、カカシ先生の制止を抑えて満身創痍状態を押してここに来るのがやっとで、とても修行が出来る状況じゃないけれど。



「ではこれから、修行を始める。と、その前に、忍としての能力、チャクラについてもう一度基本から話しておこう」


「……今更」


「おー、いってぇー……。そんなの、もちろん知ってるってばよ。チャクラだろ?3種る……いや、2種類のエネルギー、すなわち身体エネルギーと精神エネルギーがあって、忍はそれを練り合わせて印を結び、術として発動させるんだ!」


「おー、ナルトなかなかやるね。アカデミー時代の成績はどこへやら、だな。……お前らは下忍としてはかなり高レベルでチャクラを使いこなせていると俺は考えている。というわけで、まず始めにちょっとしたテストをやってみるぞ」


カカシ先生は手を使わずに足だけで木登りをするように命令する。チャクラを足の裏に練り、その吸着力を利用するというものだ。だが……。


「ふう、案外簡単ね」


サクラちゃんは元からチャクラコントロールが器用。


「む……こんなものか」


サスケは地獄の修行の成果で一定のチャクラを練ることなどとっくに成功。むしろ、この時の知識を持つ俺に真っ先に仕込まれた。


「……一発でここまで行くか。マジで凄いぞ、みんな」


カカシ先生も感心しきり。……あああ、俺も参加してぇー。


「あー、お前はいいから。あんな量のチャクラを無駄なく究極の一撃に込められる時点で余裕で満点だから」


……あはは。


「よーし、じゃあみんなの頑張りに敬意を評して、このはたけカカシ、中忍レベルの修行を課してあげようじゃないか!」









……ほえ!?なにその新展開!












複雑怪奇?性質ジャンケン!







「このチャクラを電流に性質変化させる。次に、こいつを形態変化させて、攻撃の威力と範囲を決めるぞ……よし。これが『千鳥』の完成形ってわけだ」


「わー、カカシ先生すごーい!」


「……これは凄いな」


カカシ先生、俺が螺旋手裏剣を会得する際にしてくれた講義を絶賛放送中。俺は2回目だけど、結構この講義が面白いんだよなー。2人もかなり見入っている。


「……さてと。流石にいきなり強力な術を会得するのは無理だろうから、とりあえず己のチャクラ性質――火、風、水、雷、土のいずれか――を理解することから始めるぞ。だいたい、誰でもどれかの性質に当てはまるチャクラを持ってる。……そこで役に立つのがこのチャクラ感応紙だ」


そう言って、俺たちに紙を1枚ずつ渡す。とりあえず、常日頃からなんでその紙を持ってるのか小1時間問い詰めたいってばよ。


「火なら燃える、風なら斬れる。水なら濡れる、雷なら皺が入る。そして土なら崩れる。これはチャクラの性質に反応しやすい紙で、これに自分のチャクラを流すことでチャクラ性質を知ることが出来るんだな」


そう言えば……俺は風、サスケは火。なら、サクラちゃんのチャクラ性質って何なんだろうな?少なくとも俺の記憶の中だけでは、基本忍術のほかは怪力と医療忍術しか使わず、分からないままだった。








「フフフフフ……なんで私の名前が『桜』なのか知らなかったの?私が使えるのは、水遁に土遁……そして、木遁よおおーー!」




「う、うっそだー!!」









……なんか幻聴が聞こえた。うん、気にしたら負けだ、負け。


ほんの少し溜まったチャクラを使い試してみれば、俺の紙は真っ二つに斬れた。隣にいたサスケの紙は一瞬にして灰になった。まあ予想通りの展開だ。さて、問題のサクラちゃんは?俺たちの視線が一斉に1枚の紙に集まる。


「あ、紙が濡れた……ってことは私は『水』ね!」


「へえ……ちなみに俺はさっきの千鳥からも分かると思うが雷だ。こりゃ、綺麗にばらけたねえ」


へええ、サクラちゃんのチャクラ性質は水だったのか。そういや、なんとなく医療に役立ちそうなイメージがある、かな?サスケに優位に立てるとは何の因果だろうか。


「でもカカシ先生、火遁、風遁、水遁、雷遁、土遁以外の術が存在するって本で読んだことがあるんですけど」


「いい質問だ。忍は生まれつきのチャクラ性質のほかに、修行の過程で使いこなせるチャクラ性質を増やしていくものなんだが、ごく稀に2つの性質のチャクラを混ぜ合わせた術を使うことができる奴がいる。難易度も倍増するが、相乗効果で威力も凄まじいものになるんだ」


「2つの性質を……混ぜる?」


「例えば、水の性質変化と土の性質変化を同時に行い新たに木という性質変化を生み出して発動させる術、これが木遁だ。ちなみに、こういった特殊な能力は基本的に遺伝によってのみ伝えられるので、血継限界って言ったりするぞ」


「あ……そういえば、カカシ先生」


「ん、どうした?ナルト」


「俺ってば良く分からないんだけど……基本性質って、確か強弱関係があるんだよな?そういった複合によって新たに生み出された性質変化の場合、その強弱関係ってどうなるんだってばよ?」


「む、お前も中々鋭いことを言うね……」


カカシ先生は思わずうなる。


「実は、そこんとこはまだよく分かっていないんだ。そもそも、基本性質の強弱関係にしたって、何か理論的な根拠で強弱関係が証明されたわけじゃない。火は水には弱いが風には強いみたいだぞ、みたいな何百年にもわたる歴史の経験則でそう決められているだけだ。相性関係を確定させるには、基本性質5種と複合性質10種の計15種類の同程度威力技で総当り戦でもやるしかないし、そもそも同じ複合性質でも2つの基本性質の配合比率で相性がガラッと変わってしまうと主張する人もいる。そんなわけで『これが答えだ』と示せる物はない」


へーえ。初耳だってばよ。こりゃ聞いて良かった。


「例えばさ、水遁は火遁に強くて、土遁と火遁の強弱はなし。でも、水と土を足し合わせて出来た木の性質による木遁って明らかに火遁に弱そうだろ?木遁と火遁がぶつかったらどうなるんだ?」


「あー、そういう常識的に誰の目にも明白なやつなら大丈夫。いわゆる『常識通り』に振舞ってくれるはずだから。まあ木遁使ってる側からすると苦労させといて納得できるかーって叫びたくなるだろうけど、ね」


「フーン……常識通り、か。サンキューってばよ!」









その後、各々のチャクラ性質を利用した初歩の初歩の術をカカシ先生に習うサスケとサクラちゃん。サスケはもともと豪火球の術を使えるので、実質サクラちゃん1人の成功が焦点になった。カカシ先生に合わせゆっくり印を結び、その順を覚えていくが。








「水遁・水龍弾の術!!」






……シーン。








「……ま、それが一発で出来るってんなら俺は笑顔で引退させてもらうけどね」




「もっと簡単な術教えろー!しゃーんなろー!」









カカシ先生の専門はあくまで雷。コピー忍者の異名を持つように一応他の性質にも対応はしているが、どうしてもランクがガクっと下がる。知識についても同様でそこまで詳しいわけではない。何より、コピーする価値がある術イコール高等な術なわけで、この場では参考にならない。


夢中になって数時間。俺たちに比べチャクラ量の少ない(見た感じ、激減中の俺よりも少ない)サクラちゃんは術を一度も使えぬまま、失敗時のチャクラ浪費によるチャクラ切れでギブアップした。




















……悔しい。


私は、皆が寝静まった真夜中に寝床から抜け出して林に向かっていた。うん、窓から脱出してきたからばれてない、はず。いえ、ばれていたとしても構うもんですか!


正直言ってこの任務、私にはまるでいいところがない。むしろ迷惑を掛けてばかり。このままじゃ駄目、サスケ君に、ナルトに、カカシ先生に申し訳ないったらありゃしない。こうなったら、なけなしのチャクラ使ってこっそり特訓するしかないわ!明日になって皆が驚くくらい頑張ってやるんだから!気合入れて行こー!






意気込んでとりあえず昼間来た所に……あれ、誰かいる。


あの姿……ま、まさか!?












「よし、サスケ!もういっちょ、やってみるってばよ!」

「よし来たナルト!!」










何かのタイミングに合わせてダッシュすることを繰り返すサスケ君と、

その様子を見て指示を出しながら座り込んでいるナルトがいた。








な、なんで!?なんで2人がいるの?


なんで、そんなに体力が持つの?


なんで、そんなに楽しそうなの?






……なんで、私が呼ばれてないの?









……そっか、私はまだ力不足だから、誘われなかったのね。2人との実力差は明らかだから。戦力面でも、精神面でも。




また自分の不甲斐なさに歯噛みする。私のこんな適当な隠れ方にも気付かないくらい修行に集中できているというのも、2人との距離を感じさせる。思い切って、2人の前に出て混ぜてもらいたい。でも、そんなことして気を使わせ、2人の修行の邪魔をすることになってしまったら……。





……。


…………。





うん……決めた。今はまだ、1人でもいい。というか、1人で頑張らなければならない。混ぜてもらうのは、私が2人のそれに見合うだけの最低限の努力を果たしてから。ちゃんと忍としての自覚を持った私を、初めて迎え入れてほしいから。






「グスッ……うん、私、頑張る!泣いてばかりじゃ駄目よ、サクラ!さっそく術の修行開始!……で、でも、少しくらい修行について盗み聞きするくらいなら、いいわよね?」







「よーし、だいぶいい感じだってばよ。そろそろ術を実際に発動させたうえでタイミングを合わせてみるぞ!……今だサスケ!」


「任せとけ……火遁、豪火球の術!」


















「……さっすがサスケ、もう慣れてきたな!コンビネーションバッチリだってばよ!」


「ああ、まあな。それにしても、ここまで効果があるとはな……恐ろしいというか、笑えて来るというか」















…………な、なるほど!これ、もしかして私の術会得の参考になるかも!?


「見てなさいよ、2人とも!あっと言わせてあげるんだから!」










[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(11)
Name: 林檎◆31536b05 ID:420f24a4
Date: 2010/07/06 09:03
……なんでこんなことになっているのでしょう?



前の歴史で、修行の疲れで外でグースカ寝ていたところに白・女装ver.が接近してきたあの日。今日がまさにその日だった、ということなら流石の俺でも知っていた。それを見越して、余裕を持って1時間以上前から寝たふり状態でスタンバイ。話をややこしくしないように、サスケには昨晩いつも以上に負担のかかる修行をつけて熟睡に追いやるという念まで押した、ってのに。


「一応言っておきますと、僕は男ですよ」


「う、嘘ぉ!ま、負けた……」


「そんなことはありませんよ。サクラさんは十分美人ですし、これからもっと綺麗になります。そうだ、美容に効く薬草を差し上げましょうか?」

「い、いいんですか!?ありがとうございます!(この人、劇場の一流女役か何かよね、絶対!そうじゃないと私が浮かばれないわ!)」


早朝から別の場所で術の特訓をしていたらしいサクラちゃんが、完治していない怪我を心配して俺を帰りがけに回収しに来た結果、ピンポイントで白と接触、あまつさえ話に花を咲かせているなんて誰が想像できただろう。






 小鳥さえずる林の中。白の薬草摘みを俺とサクラちゃんでてきぱきと手伝う。……この薬草ってやっぱり再不斬のため、だよな。分かっていても手は止まらない。白が再不斬を気遣う気持ちは本物だから、俺もその純粋な気持ちは大切にしたい。思いっきり敵に塩を送ってるけど。


ひと段落ついたところで、ふと白が問いかけてきた。


「君たちは……なぜ修行をするのですか?」


「俺ってば、もっと強くなりたいんだ。里一番の忍になって俺のことを認めさせて、その勢いで火影にもなって、里のみんなを守りたい。ただそれだけだってばよ」


「……うん。私も、強くなりたい。今の私、てんで弱いから。せめて、足手まといにならないくらいの戦力にはなりたいかな」


「そ、そんなことないってばよサクラちゃん!サクラちゃんはよくやってる!」


サクラちゃんの自虐とも聞こえる言葉に驚き慌てて否定するが、サクラちゃんは少し悲しそうに笑って首を横に振る。


そんな俺たちを白は代わる代わる眺める。


「それは誰のためですか?他の誰かのため、それとも自分のため……今の答えをみると2人とも他の誰かのためのように思えますが……」


「うーん、ちょっと違うな。誰かのために必死に頑張ってそれが報われると、自分も心の底から嬉しくなるだろ?だから、誰かのためにやっていることは同時に自分のためのことでもあるんだってばよ。そしてその人が、自分にとって大切な人であるなら余計に、な」


「……なるほど、とても素晴らしい答えですね、ナルト君」


白は本当に幸せそうに微笑んでいた。


「君たちは……きっと強くなる」


「ああ、そうなることを自分たちでも祈ってるってばよ」


お前とは後で殺し合うことになるけど……今くらい、和やかな空気を一緒に吸っていてもいいよな?うう、ちょっと泣けてきたってばよ。









超地味な超(スゴ)技





「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!修行なんかしたってガトーの手下にはかないっこないんだよ!いくらかっこいいこと言って努力したって、本当に強い奴の前じゃ、弱い奴はやられちゃうんだ!」


俺をこれでもかというくらい睨みながらの、タズナさんの孫、イナリの嗚咽の混じる叫び声だ。


「うっせーな、お前とは違うんだってばよ」


「黙れよ、お前を見てるとむかつくんだ!この国のこと何も知らないくせに出しゃばりやがって!辛いことなんか何にも知らなくて、いつもヘラヘラやってるお前とは違うんだよ!」


「……だから悲劇の主人公気取ってビービー泣いてりゃいいってか?お前みたいな馬鹿はずっと泣いてろ、泣き虫野郎が!」


「ナルト、ちょっとアンタ言いすぎよ!」


前、言い過ぎたと反省したこの場面。……でもやっぱり、こうきつく言うのが最善だと結論が出た。この一言をかみ締めることで、イナリはグッと強くなる。……ただ、このまま立ち去るのも火影になった身としては大人気ない。イナリの母親によれば前回はカカシ先生が何か諭してくれたらしいので、今回は俺自身でなんとかしよう。


「……納得行かない、か?そこまで言うなら俺の境遇と比べてみるんだな。辛さでいうならそれ程負けてないと思うぜ?」


「お前の……境遇?」


「ああ。お前の父ちゃんはガトーって奴に殺されたそうだが……俺には父親どころか両親がいない。俺を産んですぐ死んじまったらしいな。ついでに言うと親戚がいない。さらには、少し前までは友達すらいなかった」


イナリがはたと泣き止んで息を呑む。


「どういうわけか(今は知ってるけど)大人たちに『忌み子』と嫌われて、子供がそれを真似る。成績の悪かった俺は悪ふざけで自分の存在を示すしかなくて、ますます周りから嫌われる。悪循環のどツボにはまって、誰も自分を認めちゃくれなかった。……正直、今でも完全に消えたわけじゃない。この辛さが分かるか?」


「で、でもそこにいる2人は……さすがに友達だったんだろ?」


「ぜーんぜん。サスケは俺なんて無視してたし、サクラちゃんはサクラちゃんで……」


「……どうだったの?」












「……人にラーメン奢らせておいてトンズラしたり、くの一同士団結して俺1人に掃除押し付けたり、サスケに良く思われたいと必死になるあまり対極の俺をコケにしたり、自分が割った花瓶を俺が割ったことにして先生に言いつけたり、階段を下りていくときにすれ違う俺がこけたもんで覗きの疑いふっかけて殴ったり、とりあえず会うと『ウザイ』と言われたり、マグレが重なって俺がテストで80点取ったとき『カンニング、サイテー』って決め付けて皆に言いふらしたり……」














「……(なるほど、別にサクラを貶めるというわけではないが、作者の率直なイメージとしては第1話以前のサクラなら単純に『このくらいやってるでしょ』ってことか)」


「……(作者、サクラもヒナタの次に好きだからな、図にするとヒナタ>>>(超えられない壁)>>>サクラ>>紅蓮>>その他くの一、みたいな感じらしいぞ)」


「……(でもその差が超でかいから、ナルヒナのこの作品の中では下手をするとハブってるように見えてしまうんじゃな、難しいのう……ところで紅蓮って誰じゃ?)」


「……(お父さん、疾風伝チェックしてないんですか?今度DVDボックス買ってきてあげますね)」








「え、えっと、あれは、その……」





「…………あれ?何で俺ってサクラちゃん好きだったんだ?」


「ナ、ナルドのお兄ぢゃん、ぼ、僕が間違っでだ……辛がっだだろうね……がなじずぎるよ、ぞれ……!」


妙な展開で改心したイナリ。あまりにも俺が不憫なのだろう、ギャグ顔になってまで幅涙を流してくれている。へ、変だな、俺もなんか涙が……。









ナルトとイナリの互いの友情度が100上がった。




ナルトのサクラへの好感度がとばっちりで5下がった。








5分後、『お互いに土下座して謝り合う俺とサクラちゃん』という珍しい構図が見られることになる。




















……よし、体もずいぶん楽になってきた。いよいよ再不斬再登場の日だ。いろいろと事前準備させてもらってるけど文句言うなよ、再不斬に白。


全員で橋に向かうが、途中で少し休んでいくと言ってコッソリ引き返し、イナリの勇気ある行動を確かめた時点でガトー配下の襲撃者をボコる。これで後は大丈夫なはずだ。イナリの強さは本物になった。じゃあイナリ、行ってくるってばよ!






俺の身体能力が上がっているせいだろう。橋にたどり着いたとき、霧の向こうでサスケと白が通常戦闘しているのが見えた。秘術はまだ使っていないようだ。……見たところ、結構サスケが押している。そりゃそうか、散々特訓したもんな。


「って、そう言ったそばから仕掛けて来やがったか!急がねーと!」









「……秘術、魔鏡氷晶!」



「……なに!?」


何十枚もの氷の鏡がサスケをありとあらゆる方向から囲む。


「さあ、果たして僕の攻撃を避けられますか?……では、そろそろ行きますよ!」


右から。


左から。


後ろから。


上から。


鏡の中を凄まじい速さで移動しつつサスケの死角を的確に見極め、白の怒涛の如き攻撃が始まる。いくら千本という武器の殺傷能力が低いといっても、一本一本が急所を狙った恐ろしい攻撃。馬鹿にはできない。……ってかサスケ、『最初はあんまり本気で行くな』っていうなけなしの忠告、思いっきり無視しただろ!?おかげで白がいきなり本気モードになってるぞオイ!!


「……くそ、なんてスピードだ。さっきまでの戦闘とはレベルが違う……!!」









「サスケ!待たせたな!」


そう言いつつ、駄目元好奇心で渾身の力で鏡を殴ってみる。……うん。びくともしない。敵ながら天晴れだ。


「いいかサスケ!見切ってかわし続けるのもいいが、このままじゃジリ貧だ!こいつの術の性質は『氷』だってことをよく考えろ!」


「……そういうことか、お前が俺の火遁にこだわってた理由が分かったぜ!『氷は炎で融かせ』ってことか!」


そう言って、サスケは火遁の準備に入る。そう、カカシ先生の言葉が正しいならば、氷は当然火に弱い!会話を聞いていた白は当然妨害しようとするが、密室内に入り込んだ俺が身体能力を活かしクナイで援護、弾き切る!








「……火遁・豪火球の術!!」




鏡数枚を巻き込んで、サスケお得意の火遁術が炸裂した。








「やった!さすがサスケ君、これで……!!」


「フッ、甘いな小娘。白のあの秘術が、あんなガキの術で破られるわけ無いだろうが」


「ムキーッ!お面の子だって大して年の差ないでしょうが!」


今度こそ隙を見せず、サクラが叫ぶ。


「しかし残念ながら再不斬の言うとおりだ。あの程度の火遁の術じゃ、血継限界を破ることはおそらく……」












「チッ、ほとんど効果なし、か……」


サスケの豪火球が当たったにも関わらず、せいぜい表面にざらつきが出来た程度。鏡はまだまだ存在を保っている。いくら前より威力が上がったからって、そう簡単には行かないか。


「君たちの考えは確かに正しい。氷遁は火遁に対し劣勢の立場にある。……だが、その関係が綺麗に通用するのは両者の術が同等レベルの場合です。こちらは秘術、そちらはせいぜい中忍レベルの術。おまけに、氷というのは2つの性質変化を足した性質、単純計算でもともと倍のチャクラ量を保有している。……勝てるわけがないのですよ」


「じゃあ俺も助太刀するしかないな。……いくぞ、サスケ!新術のお披露目だってばよ!」


「……ああ。あのすかした奴に一泡吹かせてやる!」


















「……新術、ですか?」


僕は訝しむ。その響きからして、不利と思われる状況下で何かしらの博打にでも賭けてみようということだろうか。しかし、わざわざ口に出す必要など無い。すでに2人はその術を熟知しているようだし、あらかじめ打ち合わせでもしていれば今更言う必要が無いのだ。それとも、この言葉自体が僕を惑わせる目的なのだろうか?


「いいか、白とやら。これからこいつが使う術は、このドタバタぶりとは正反対のイメージの術だ。……はっきり言って地味だ。凄まじく地味だ」


そう言いつつ、先ほどとは一転、ナルト君を庇うように前に出る彼……サスケ君、といったか。


「サスケ、お前地味地味言いすぎ!そこまでこき下ろすなよ!」


そう反論するナルト君。こんなときに不謹慎かもしれないが、君たちは見ていて本当に飽きないね。


でも、再不斬さんに瀕死の重傷を与えたナルト君の手強さは油断ならない。さきほどのクナイ捌きといい、サスケ君より優先して警戒に当たるべきだろう。さて、どんな術を見せてくれるのか。


「ったく……もーいい。いいか白、サスケの言うこともあながち間違っちゃいない。だがな……」


「だが……何です?」


「効果の程は絶大だってばよ!おまけにチャクラ消費が超低い!ここまで完成させるの苦労したんだから!」


「はあ……忠告どうも」


チャクラ消費が低いのに効果絶大?それは矛盾というのでは?そう思ったところで、とうとう印を結ぶ体勢に入ったようだ。……まるで見たことがない印の組み合わせ。新術というのは本当らしいが、大まかな順からして……風遁か。








「風遁・セキジャクフウの術!」
















5秒。


10秒。


20秒。


「…………?」


しかし、何も起こらない。風遁どころか、ささやかな空気の流れすら感じ取れないではないか。何故だ?


「あ、あれ?失敗したかな?」


「バ、バカ!急げ、もう一回やってみろ!!」


……フフフ、なるほど。さすが新術というだけのことはある。まだ未完成、100%発動を成功させることはできないということか。それなら、成功するまでに倒すまでのこと!すぐさま警戒態勢から戦闘態勢にチェンジ、2人に千本の雨を降らせる!!


「これでどうだ!!……ちっくしょー、だから、なんで発動しないんだってばよ!俺ってば、集中できてないのか!」


「……後で殺す、このウスラトンカチ!!」


これはこれは、成功率が悪いなんてものじゃないな。……かろうじて急所だけは避けながら、術の発動を試みるナルト君。発動を願いながら必死に庇うサスケ君。この僕特製の密室の中を、右に左に駆け回る。しかし……5分、10分、15分とたつにつれ動きが目に見えて鈍ってきた。いや、そもそもこれだけ耐える時点で賞賛ものではあるが。いまや2人はハリネズミ状態だ。そして……何回目の術の試みだろうか、とうとうナルト君が膝を付いた。


――そろそろ、決着を付けてあげましょう。
















俺はヘトヘトになりながら、何度目になるだろうか、サスケの顔を見る。












(……よっしゃあ!写輪眼ゲットぉーーーー!)








「(小声)……どうかしたか?」


サスケが、自分も膝を付くふりをして俺に顔を寄せる。冗談抜きで白にやられそうだったが、これでサスケのイベントもこなせたし、後は反撃に転じるだけだ。


「(小声)サスケ、準備できたぜ。……この氷部屋の中央だ。回避は俺が担いで猛ダッシュかけてやるから安心するってばよ」


「(小声)チッ、かっこ悪いったらありゃしないが……任せた」


そう言って、2人ともゆっくり立ち上がる。……脱出経路を見極めつつ。


「行くぜ、白!こうなったら、俺たちの渾身の攻撃、受けてみるってばよ!」


「無駄な足掻きを……術失敗でチャクラを無駄に消費し続けたあなたたちに何ができるというのですか?」


……何気に白って油断体質だよな。いや、再不斬の言った通り『優しすぎる』のか。もともと俺たちをあまり殺したくないという事情があるにせよ、相手が弱まれば弱まるほど目に見えて手を抜きだしている。……女の子だったら肝心なところで油断してポカをするドジッ娘、か?とりあえず、えーっと、即死はしないでくれよ?


「サスケ、行け!一発限りだぞ!修行の成果を見せろ、新術習得は俺だけじゃねえ!」









「…………火遁・豪龍火の術!!」








(これはさきほどの物よりワンランク高い術。だがその程度、まだまだ……何!?)


なんと、こちらの動きを確かめもせず2人して――ナルト君がサスケ君を担いだ状態で猛スピードで――部屋からの脱出を試みているではないか。まさか、逃げるためだけに仕掛けてきたのか?多少拍子抜けしながら2人を阻もうとするが……。


(は、速い!まだこんな力が残っていたのかナルト君!)


千本こそ何本か当てたものの、血を噴き出しながら2人は見事脱出に成功してしまった。……仕方ない、興醒めだが、ここからはまた通常戦闘に戻そう。今の彼らなら2対1でも余裕で勝てる。おまけにこの部屋が残ったままなら、いつでも駆け込める僕だけの安全地帯になる。とりあえず今は、この火遁の術をやりすごそうか……。














そこで僕はようやく気付いた。















2人の脱出を見計らったかのように、炎の龍が、僕ではなくわざわざ何もない空間に一直線に突進する事に。


そして……龍の大きさが一気に膨れ上がることに。




















「な、何だ?」


「は、白!?」


「あ、あれって、まさかあの……やったー!!」


カカシたちが見たのは、周りの霧など余力で一瞬で吹き飛ばすほどの大爆発と、それを至近距離で受け吹き飛ばされてきた白、そして強敵を倒した達成感から軽く拳をぶつけ合うナルトとサスケ。全身はボロボロだが、2人の表情は明るい。



「発動しても、傍目には何も起こらない。当たっても何も痛くない。風性質のチャクラを威力を完全に捨てたうえで有効距離内のとある一点に集中させ、『炎性質チャクラを活性化させる』ことだけにチャクラ用途を完全特化させた術……『積寂風の術』か。大した術だぜ。一体、何回くらい重ねて使ったんだ?」


「へへっ、10回から後は数えてねーよ」










「……だが、やっぱり地味だな」




「うるせー!!」








   作者です。派手な術を期待していた人、すいません。




[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(12)
Name: 林檎◆31536b05 ID:941888ac
Date: 2010/07/08 00:51
「……おおっと、まだ気を抜くなよサスケ。大ダメージを与えたとは言っても白はまだ戦える。下手をすると一瞬であの世行きだぜ?」


「わかってるさ、そんなこと」


ラッキーな面もあったとはいえ九尾に頼らず白を倒したことに、サスケともども少し油断しすぎてしまった。吹っ飛んでいった白はまだ死んではいない。カカシ先生だって再不斬と交戦真っ最中のはずだ。


秘術を粉砕するまでの破壊力を生んだ俺たちのコラボ忍術。チャクラが霧散しにくい十分閉ざされた空間だったおかげで俺の術が効果的に決まったようだ。逃げ遅れた白の体も当然ながら無事では済まなかった。全身に火傷の痕があり、おまけに爆風で強く叩き付けられて出血も酷い。油断さえしなければ――じきに『自滅』することになるだろう。


それでも、白は――ゆっくりと、立ち上がった。


その拍子に、叩き付けられた時の衝撃に耐えられなかったのだろう、パリン、という乾いた音と共に付けていたお面が割れ、白の素顔が明らかになる。そこに浮かんでいた表情は……達観、だった。









必要とされること








「な、なんだこいつ……?戦おうというわけでもなく、悔しがるわけでもなく、まるで全てを悟ったような穏やかな顔をしてやがる……!」


サスケが、そしてかつて見たことのある俺すらが思わず体を引いてしまうほどに、白の表情は、無反応で気味が悪くて――それでいて美しかった。


白自慢の薬草治療に即刻取り掛かれば、決して助からないわけじゃない。しかし、そうしてまで生き延びようという意志が、理由が、今の白には存在しない。


「ナル……ゴホッ……ト君、サスケ、君……僕を、殺すのでは、ないのですか?さっきまでの勢いは、どう……したんです?」


「……」


「そのくらいの……覚悟も……ないようでは……あなたたちは、強くはなれませんよ?」


あのサスケが、どう対処すればいいのか教えてくれ、と言わんばかりにこちらに振り向く。当然の反応だよな。戦闘とは違った絶対不可侵の空気が、俺たちを襲っているんだ。


「……知っていますか?夢もなく、誰からも必要とされず、ただ生きることの苦しみを。再不斬さんにとって、弱い忍は必要ない。君たちは、僕の存在理由を、奪ってしまった――」












そうしてすこしずつ語られる、白の過去。血継限界という特異な能力を受け継いだがために、実の父に母を殺され全ての人々から邪険にされる毎日。誰にも必要とされず絶望していた自分を、『武器』として必要としてくれた再不斬。サスケは顔面蒼白だ。写輪眼という血継限界を同じく引き継ぐ一族として、どうしても共感してしまう所と否定しなければ気がすまない所が内面で争い続けているのだろう。


「なあサスケ、気持ちはなんとなくわかるが、気を入れなお……」







「ふざけんじゃないわよ!」






その時。サクラちゃんが怒号を上げた。ふと横を見れば、白がやられたことに驚愕し隙を見せた再不斬の不意を付いて、クナイで致命傷を負わせたカカシ先生の姿。


「……サクラ、行っといで。こいつはもう両腕を駄目にした。ナルトかサスケか、どっちかだけでも負けないよ」


「……はい!」


カカシ先生の提案に力強く頷き、こちらへ近づいてくる。


「そこのアナタ!よく見たら前会った女役の子だなとか、そんなに血まみれじゃせっかくの美顔が台無しよとか、色々言いたいことはあるけど!私はね、アナタにどうしても、これだけは絶対言っておきたい!」


「……な……なんですか、サクラ……さん」


意表をついた登場の仕方に、白も驚きを隠せない。それに満足したサクラちゃんは、白を、再不斬を、何度か交互に見つつ……ようやく頭の中で整理が付いたのだろう、はっきりとした、そしてどことなく思いつめた声で話し始めた。


「……アナタ、自分が道具としかみなされてないって堂々と言ってたけど、まさかそれが真実だと思ってるの?だとしたら、アナタって大馬鹿者よ!」


「……何を言っているのですか、サクラさん。2人の間のそういう取り決めで、僕は再不斬さんに従い、再不斬さんは僕を必要とする。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」


「ふーん……でもそれってアナタの勝手な推測、考えよね。あの再不斬って奴に直接聞いてみた?『能力、道具としてではなく、白という人間として自分を必要としてくれることはないのか』って」


「黙れ、小娘」


すでに戦える状態ではなくなった再不斬だが、威嚇しながらサクラちゃんの質問を遮る。その眼光は鬼人と呼ばれるにふさわしい鋭さだ。


「さっき白が言ったことが全てだ。白は俺にとって最高の道具で、俺は白の『能力』を買っているに過ぎん。能力がないただの子供なら、はなから命を拾いなどしなかった。……偉そうな口を叩くんじゃねえ!!」


「ふん、怪我人が出しゃばっちゃって。認めたくないだけなんでしょ?どうせ。悔しかったら掛かって来なさいよ」


「言われなくても行ってやらあ!」


そう言って……信じられないことに、腕に刺さったクナイを口で咥えて抜き取ったかと思うと、そのままサクラちゃん目掛け捨て身に入った!マジかよ、そこは素直になってくれよ再不斬さん。ま、いくらなんでも警戒していた俺とサスケがいるのでそんなスロースピードの攻撃当たるはずもなく。余裕を持って返り討ちに……。










「2人とも、来ないで!!」






「……え?」


「……な?」


サクラちゃん自らの制止によって、俺たちは金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。そして、止まらなくなったクナイは避けようともしないサクラちゃんを襲い……脇腹を、深く抉る。大量の血が飛び出した。





「さ、さ、サクラちゃん!!」




「サクラッ!なぜ避けない!!」





内臓が傷ついているかもしれない。早急に手当てをしなければならない。そう考えずにはいられず、俺たちが真っ青になって駆け寄ろうとしているというのに……サクラちゃんときたら。




「……っ、ほ……ほら。まるで急所が狙えてないわよ。何よそのヘナチョコタックルは?」


そう笑ってくれやがるのでした。














「ま……まさか、わざと、だと?」


血を流しながら、挑発的な笑いをやめないサクラちゃん。仕掛けた側の再不斬の方が呆けてしまった。その隙を突き、カカシ先生が千鳥(雷切)をクリンヒット。……これで再不斬もお陀仏だろう。


「え、え。そう、よ。ちょっと……ううん、かなり痛い目に、あったけど。最近の自分の立場からして、ちょっと思うところがあったから」


「こりゃ酷い……サクラ、お前はもう喋るな、傷口が広がる!急いでタズナさんの家まで連れて行くぞ!」


カカシ先生がそう焦り腕を掴むが、まるで気にしていない。……もっとも、俺が熟練の経験で落ち着いて確認したところによれば、サクラちゃんの直感通り、確かに急所は外れている。まあ、あんまり放っておくと出血多量という別の理由で生命が危ぶまれるが。


「再不斬……じゃあこういうのはどう?今すぐ白をあなたの手で殺せたら、私の命に代えてでも私たちはあなたを回復させたのち逃がしてあげる。道具としか見ていないのなら、自分の命のためなら躊躇なく出来ることよね?あなたのような凄い忍なら、じきにまた暴れられるだろうし。……さあ、どうぞ」










再不斬は動けなくなった。怪我や疲労のせいか?いや、全く違う。1週間前はまるでひよっ子、とでも思っていたであろう1人のくの一を目の前にして、威圧勝負で押されだしているのだ。


「あ、あ、ああああ……!!」


サクラちゃんの純粋な視線に再不斬が怯む。白に対し俺やサスケが感じた感情もこんなものだったろうか。



「ざ……再不斬。あなたの本当の気持ち、伝えて……あげて。それだけで、あの子は救われるはず……だから」


言い終わるや否や……サクラちゃんの体が、カカシ先生にもたれ掛かるかのように倒れて行った。



「サクラちゃん!!……気絶、してる。限界ぎりぎりまで堪えてたんだな」


「ああ、そのようだな。……ナルト、サスケ!上忍の俺が任務放棄するようで心苦しいが、俺はサクラを即刻タズナさんの家に連れて行って治療に掛かる。この場は任せてもいいな?お前たちなら上手くやってくれると信じてるよ」


「ああ、任せろカカシ」


「了解だってばよ!サクラちゃんのこと頼んだぜ!」


カカシ先生はサクラちゃんを担ぎ、猛ダッシュで駆けていった。










「……さーて、再不斬。サクラちゃんにあんな大怪我させたんだから、本来なら俺が半殺し……には既になってるから9割殺しくらいにはしたいところだけど。サクラちゃんが体を張ってまで気遣ったんだ、いい加減白に言ってやれよ!」


「そうだな、恥ずかしがっているわけでもあるまい?」


「…………」


しかし、慣れていないのか躊躇うばかりで何も言わないボロボロ大男、再不斬。同じく死へのカウントダウンを着実に数えながら、一体何を言われるのかと内心恐れている白。……だんだんじれったくなってくる。


そして5分後。ようやく……ようやく、再不斬が意を決したのか、声を出した。


「……は、白。お前に……言っておきたい事がある」


「……はい、再不斬さん」


「俺は……」










「なーんだお前ら、まだ終わってなかったのか」









……こんなタイミングで出てくるなよ、ガトー。


「……最悪だぜ」


「……最悪だな」


俺だけでなく、こればかりはサスケも怒り心頭のようだ。自分はともかく、人が空気を読まないときは案外サスケは怖い。





「フフ、少々作戦が変わってねぇ。悪いが再不斬、お前にはここで死んでもらうんだ……」












「おいナルト、積寂風一丁」






「積寂風一丁入りまーす」








「……ついでに忍同士相打ちにでもなれば、手間も金も掛からずに済んだんだがなあ……」













「積寂風お代わり」





「積寂風もう一丁!」








「……全く、霧隠れの鬼人が聞いて呆れるわ!私から言わせちゃ何だ、……」













「最後にもう1回頼む」





「了解了解、持ってけドロボー」





「お?そこの少年、死に掛けじゃないか。私の腕を折れるまで握ってくれたねえ。……よーしお前ら、あの忍たちを殺せ!怖がることはない、死に掛け2人とガキ2人だけだ!」






「正当防衛成立っと。思いっきりやれ、サスケ」





「まあ、豪龍火の出る幕じゃねえか……火遁・豪火球の術!」












take2、スタート。



「……は、白。お前に言っておきたい事がある」


「……はい、再不斬さん」


「俺は……」


一度躊躇うが、今度こそ。


「俺は今まで、お前のことをただの道具だ何だと言ってきたが……人間としてのお前も、大好きだぜ、白」


瞬間、白が目を見開き――涙が零れ落ちる。


「今まで、酷い扱いで、すまなかったな……」


本心を口に出したのがきっかけになったのか、見る見るうちに再不斬の目も潤んできた。……うん、これが本当の2人のあり方だってばよ。





やがて、地面に横たわりもはや動けなくなった白。冷たくなる前に最後に言い残した言葉は、『その言葉だけで、十分です』だった。
















「再不斬も、もうちょっと気の利いた台詞を並べられないものかしら……。それでそれで?再不斬はどうなったの?」


サクラちゃんの治療も無事終わったタズナ邸。見ていなかったサクラちゃんが興味深深に尋ねてきた。カカシ先生も気になっているようだ。


「まず白を一緒に葬ったんだけど……その後が大変でさ。俺を殺せ、白と一緒に葬ってくれって言うんだぜアイツ。挙句の果てに、俺に攻撃を仕掛けておいてクナイに自分から当たって来ようとしたんだってばよ。……結局そのすぐ後に勝手に死んじまったけど」


「まああの千鳥じゃそうなるわな……」


「そっか……」


サクラちゃんはなにやら意味深な考え事。……やはりサクラちゃんはこの一戦で大きく成長したようだ。




「よし、サクラの怪我が塞がり次第……というか橋が完成し次第、木の葉に帰るぞ!」


「おうってばよ!!」





イナリと泣き合う感動の別れも済ませ、いざ、木の葉へ戻らん!!




[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(13)
Name: 林檎◆31536b05 ID:14643960
Date: 2010/07/10 05:52
サスケは恐れおののいた。体が一歩も動かない。










すげえ殺気だ……!


呼吸の1回、眼球の動き1つでさえ、気取られ、殺される。――そんな空気だ。


小一時間もこんなところにいたら、気がどうにかなっちまう!


上忍の気持ちのぶつかり合い、自分の命運を握られてる感覚……。


……駄目だ、これならいっそ、死んで楽になりたいくらいだ――!

















「ナルト……ひさしぶりね、寂しかった……!」


「ああ、俺もヒナタに会いたくて、里に戻って一目散に駆けてきたってばよ」





「人んちの玄関で何やってんだお前らーーー!!!」



里に入り怪我の具合を病院で診てもらうなり、猛ダッシュを掛けたナルト。不思議に思い、自分もさっさと後を追ってみればこのざまだ。この上ない幸せそうな顔で抱きついているヒナタと、彼女を優しく抱き返しているナルトがいた。……俺とこいつの身体能力差からして、10分前には着いてるよな?ついでに、邪魔したらコロスという2人の無言の圧力に屈してしまい、ようやく俺が叫ぶことができるまで20分は経ってるよな?……いい加減にしてくれ。


「任務お疲れさま。再不斬って人と白って人、強かったんでしょ?……あ、傷跡がたくさん。大丈夫!?」


「平気平気、数こそ多いけど全部千本が刺さっただけの軽い傷だったってばよ。病院の診察でも問題なしだったし。……あ、そうそう。今回、珍しく機転を利かせた俺が、サスケとのコラボ忍術を編み出してさあ。これが中々すげーんだって、早速後でお披露目するってばよ」


「わあ、楽しみ~」


「そうだ!思い立ったが吉日、俺とヒナタとでのコラボ忍術にも挑戦してみるってばよ!きっと超強力な術が誕生すると思うぜ!」


「ふ、2人だけの愛のコラボ忍術ってこと!?まあ、なんて素敵……!」


「……2人を見てると砂糖吐きそうだ」


「な、なんだって!?サスケ、マジか!『土遁・豪糖球の術』とかか!?当てた相手を強制的に太らせて動きを鈍らせるんだな!?」


「サスケ君、そんな術使ったら女の子に嫌われるよ?でも、サスケ君の新術開発にまで貢献するなんて、やっぱり私たちの愛って凄いのね……」













……家に帰りたい。……あ、ここか。











嵐の前の静けさ












「それではただ今より、中忍試験時に起こる可能性が非常に高い『木の葉崩し』についての対策会議を始めまーす」


パチパチパチ……。


今ここにいるのは、俺とヒナタといのいち上忍、そしてサスケ。今回ばかりはあらかじめサスケに詳細を教えておかねばなるまい。呪印を大蛇丸に付けられたらおしまいだ。


「しかし、単純に大蛇丸たちを前もって殺しておけばいいってわけじゃないのがこの事件の面倒な所だってばよ……」


「うむ、そうだな。皮肉にも、このイベントで得たものも決して少なくないらしい……」




得たものその1。ルーキーナインの急成長。


得たものその2。ヒナタ、ネジの束縛からの解放。


得たものその3。俺の力を認めさせたことによる周囲の変化。


得たものその4。当時木の葉崩しの加担側だった砂隠れ、我愛羅・テマリ・カンクロウとガチンコ勝負、雨降って地固まる。我愛羅の闇からの脱却。


得たものその5。大蛇丸の手駒のある程度の抹消。




すでに不要となったヒナタに関しての束縛を除けば、どれもこれも捨てがたいものばかり。特にその4、いのいちさんによれば都合上どうしても後の方になる。その時点で大蛇丸がどうにかなっていれば、作戦は未遂で終わる可能性が高い。中忍試験を中止することなく、この直前まで大蛇丸を泳がせておかなければならないということだ。おまけに、その時俺は我愛羅と戦うはずのため大蛇丸は人任せ。……どうしろっていうんだってばよ。さっぱり分からん。


中忍試験を滞りなく行うという意味で、やはり情報をあらかじめ火影たちに広めるという案は捨てざるを得ない。伝えれば即開催中止に決まってる。となれば、結局動けるのは俺たちだけ。……あれ?


「サスケを不用意に大蛇丸の前に持って行きたくないし……ってことは、砂隠れが動いたのを見計らって、いのいち上忍とヒナタで大蛇丸をどうにかしてもらうしかないってことか」






…………。






んなことできるかあああ!!ヒナタの命が危ねえじゃねーか!却下だ却下!







「なあナルト、大蛇丸の狙いは『成長が期待できる、自分が取り替えるための強い体』なんだろ?だったら少し癪だが、別にうちは一族であろうとなかろうと、ひときわ強いと感じた奴なら誰だって呪印を付けられる危険性があるんじゃないか?お前とかヒナタとか」


「サスケ君、鋭いな。私も同意見だ。……そういえば、カブトという男が試験用のデータカードなるものを作っていたが……あの中には個々の忍のデータもぎっしり入っていたようだな。大蛇丸が参考にしていた可能性もあるから(その通りだがナルトの記憶には事実か否かの答えは存在しない)、しばらくは派手な活躍はしないほうがよいかもしれんぞ」


「確かに。前の歴史通りサスケを狙ってくれた方がこちらとしては対処しやすいってばよ。……よしっ、こうなったら今まで以上にサスケを鍛えて、中忍試験までにガンガン強くするぞー!」













4人で大まかな作戦を立て……次の日の早朝。サスケが鍛錬場に向かってみると。入り口の扉にこれでもかというほどドデカイ張り紙が貼ってあった。……不思議なことに、写輪眼をもってしてもトリックを見抜けない。サスケはタラ、と汗をかきながらも、心を落ち着かせて一度目を閉じ……カッと見開く!!















<本日からの修行詳細>


早朝修行 4時~7時 から 4時~8時 に変更

夜間修行 7時~11時 から 6時~11時 に変更

特化修行 昼休み挟んで8時間 から 昼休み挟んで9時間 に変更


任務が修行時間に食い込んだ場合は、後日の昼食を兵糧丸のみにすることで
時間を増やし不足分を補うものとする。











「……任務がないときは1日18時間の修行……?ナルト、冗談だよな?冗談だと言ってくれ」


「サスケ、逆だってばよ。『任務のときは体を休めるぞー』って考えれば万事解決だろ?どうせしばらくDランクばっかし、ときたまCランクって感じで大した任務ないし。努力って大事だぜ?」


「……これは努力じゃなくて拷問と呼ぶんじゃないのか?」



「俺は冗談抜きで1日『数万時間』(影分身数千体24時間修行)分の疲労を味わったことがあるけど?……あー、天才型のお前には関係ない世界だったな、はいはい」


「……やるよ、やればいいんだろコンチクショー!」







サスケの根性が10上がった。










任務がないまま3日間。









「(ヨロヨロ)おいウスラトンカチ、任務でも休めないたぁどーいうことだ……」


「ん?なんのことかな、サスケクン?」


「いやーサスケ、やけに張り切って速攻で任務終わらせると思ったら、『千鳥覚えたいからカカシ大先生にどうかご教授願いたい』だって?よし分かった、俺に任せろ!お前のレベルに達していればもしかしたら覚えられるかもしれないぞ!よし、ナルトにサクラ、先に帰っといていいぞ」


そんなことサスケが言うわけないってのに、無茶苦茶嬉しいのかはたまた機嫌が偶然良かったのかサスケを連行して行ったカカシ先生。サスケ、グッドラック。


「……あ、そうだナルト」


俺は……どうしよっかな。ヒナタが来るのは当分後だし……そう言えば、サスケに合わせてる分俺も自分の時間ってほとんどなかったな。ひさしぶりにのんびりしてみるか……。


「ちょっと、ナルト、聞こえてるー?」


いやいや、せっかくの機会だ。今のうちに買い物と料理くらいはして、いっつも家事担当まかせっきりのヒナタの手助けをだな。幸い、かつてのように欲しいものを衝動買いするようなガキでも、栄養的、経済的にはちと問題がある一楽ラーメン生活をするような分からず屋でもないから、俺の財布だけでも余裕、余裕。ヒナタの料理の腕には到底適わないけど、それなりに俺も上手くなったんだよね~。






ボカッ。





「呼んでるんだからちょっとは反応しろー!」







「いきなり後頭部から殴るなんて酷いってばよ……サクラちゃん」


「あ……ご、ごめん」


「……?(やけに素直に謝るな……。いつものサクラちゃんなら『アンタが悪いんでしょ!』とか言いそうなのに)」


「……えっと、ナルト、今って暇?暇ならちょっと……相談に乗ってほしいんだけど」


「まあ暇と言えば暇だけど。サクラちゃん、言っちゃ悪いけど頭でも打った?それって誘う相手間違ってるってばよ。なんでサスケをさそわねーの、カカシ先生のところにサスケまだいるじゃん。あ、それとももう断られた後?」


「あ、ううん、多分ナルトのほうが向いてると思ったから……嫌、だった?」


サクラちゃんが少し寂しそうにしている。……やばっ、流石に違和感を感じられたか、この言い方は。前の歴史なら確実に二つ返事で了承しているはずだからな。


「ぜ、ぜーんぜん大丈夫だってばよ!で、サクラちゃんを悩ますなんて、一体どんな相談?俺にできることなら何でもやるって、うんうん」








連れられるままに甘味処に。サクラちゃんは『自分の都合なのだから自分が奢る』と言い張ったが、さすがにそんなことはさせないってばよ。……ある程度食が進んで一腹ついたところで、いざサクラちゃんが切り出した。










「ナルト、チャクラの量を効率的に増やすのってどうすればいいか教えて!」











「……はい?チャクラの量、ですと?なんでまた、そんな急に。今は新術習得真っ最中なんだろ?それとも、そっちの方はもう仕上がったのか?」


「……ううん、その逆。発動失敗ばかりの私の新術の特訓を十分こなすには、まずチャクラを十分確保してからってことよ。今の私のチャクラの量じゃ……とてもじゃないけれど持ちこたえられないわ。すぐに燃料切れになって明日に持ち越し、なんて繰り返しの毎日よ」


……確かに、もともと使えている術の応用バージョンを得るとかならまだしも、コツはおろかイメージすら十分につかめていない新術の特訓などすればたちまちチャクラがなくなるよな。チャクラは多いに越したことはない。今の俺が一番よく分かってるってばよ。


覚えたばかりの積寂風の術だって、長年の経験だけが頼りだったし。さらに、チャクラの損得勘定を良く考えた上で慎重に裏技を……。


「……そうか。もしかしたら、チャクラコントロールが抜群なうえに忍としての覚悟を一足早くゲットできた今のサクラちゃんなら、ある程度の人数なら……可能、かも」


「え、何?まさか、名案でも見つかったの!?」


「サクラちゃんも知っての通り……一般的にチャクラ量を高めるには、とにもかくにも毎日ぎりぎりまでチャクラを使いまくることとされてる。体の自己防衛反応を促進させ、よりチャクラが集まりやすい状態になっていくんだ。……で、チャクラをかなり消費し、おまけに修行の手助けにまでなるという画期的な術が存在するんだなこれが」


「ほんと!?ど、どんな術!?」












「影分身の術」






[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(14)
Name: 林檎◆31536b05 ID:95282837
Date: 2010/07/11 18:25
「……よし、影分身の効果の説明は以上だってばよ。サクラちゃん、オッケー?」


「お、オッケー」


ここはカカシ先生のあのサバイバル試験があった場所。私の目の前にいるのは、ナルトが指導用にと残していった分身体。もっとも、できるかぎりチャクラを温存するため最低限のチャクラしか込めていないらしい。私でも何とか勝てる、とのこと。……何とか、ね。


ナルトの説明によれば、影分身の経験値は消えるたびにオリジナルに蓄積されるらしい。私の今のチャクラ量じゃ1人作るのが限界かもしれないけど、それでも単純に修行効率は2倍。これは相当でかいわね。


まあ、それだけならチャクラが空になるまで1人で特訓してきたときと同じ。2倍の効率でやっていくら時間を半減させても、結局1日待つんじゃやっぱり意味がない。……オリジナルが持つチャクラ総量が一定なら。この術の凄いところは、何よりチャクラ消費のメカニズムがチャクラ総量鍛え上げに最適だということ……らしい、ナルトによれば。あんまり信用ならないわね。でも、ナルトが急激に強くなったのは影分身の賜物、と考えればなんとなーく信憑性があるような。


「ただし!言っとくけど、影分身の術は分身の術に比べて何十倍も難しいってばよ!生半可な気持ちで挑戦してると、かえって時間を損しちまうから、サクラちゃん真剣にな!それじゃ、さっそく始めるってばよ!」


……わかってる。これ以上、サスケ君やナルトに引き離されたままなんて嫌なんだから。私、ナルトには負けるけど、それなりに根性あるのよ?くの一で五本の指に入るくらいはね。それに、なんだかようやく私の力が認められたみたいで……嬉しい。ナルト、私頑張るわね!……でも、分身の術をろくに使えない身でそれは言っちゃ駄目でしょ。


「とりあえず、2週間後くらいを目標に完成させるってばよ!」


「よっしゃー!しゃーんなろー!!」










期待と心配












……分身体は、修行の仕方をあれこれ口で教えるだけでいい。もとから分身体が影分身の術を使うことは制約上どうしても無理らしいし。だが、それでも結構なチャクラを使ったってばよ。……ったく、こんなに苦労してるんだから、俺のチャクラもいい加減減るのやめてくれって。もう影分身は、並の強さ換算だと4人が限界だ……。


そう愚痴を言いながら、ヒナタに膝蹴りを仕掛ける。そう、今はあの夜間特訓中。せっかく以前の修行内容に慣れてきたサスケは、更なるキツーイ修行に体が追いつかない状況に逆戻り。現在、ボコボコにやられ失神中。……中忍試験までには慣れろよ?おっと、余所見をしてると。








「隙ありっ!!!」



「……うわああああ!!」









「おい、ヒナタ、流石に一旦休んだらどうだってばよ?俺とサスケの2人を交互にボコッて……もう3時間も休んでないじゃねーか!」


3人で勝ち抜きルールで戦っている以上、負ければ自動的に休むことが出来るわけだ。……つまりヒナタは、3時間もの間1回も負けていない。


「……でも、別に疲れてるわけじゃないんだけど。最近チャクラが有り余ってるような気がするの」


「……羨ましいってばよ。俺ってば、今は螺旋丸すら使えないし……俺の代名詞みたいな術だったのになあ」


特にチャクラを温存した戦い方をしているわけでもない。……そう、単純な身体能力ならこっちが明らかに上、というのは変わっていないのだ。ただ、こっちが身体ひとつで戦っているのに対し、相手は術を使い放題。だからこそ無敗が続いている。それでいて、ヒナタのチャクラは一向に尽きる気配がない。俺にも分けて欲しい位だってばよ。


だが、当の本人はそれほど手放しで喜んでいるわけでもないらしい。羨ましがる俺に対して、やや不安そうな顔をした。


「……でも、なんだか気味が悪い。自分に不相応のものをいきなり与えられたみたいで……。まあ与えられたからには利用させてもらうのが実情だけど、できれば元に戻ってほしいかな」


「不相応、ねえ。俺なら単純に大喜びだけど、やっぱヒナタは凄いな。……そういえばさヒナタ、なんとなく戦闘スタイルも攻撃的なものに変わってきてねーか?前は……序盤はある程度距離をとりつつ防御主体+ヒットアンドアウェイ、相手が疲れてきたのを見計らって柔拳で接近戦に持ち込み片をつけるって感じだったのに。今じゃ最初から怒涛の攻撃で力押しって感じだぞ?まあそれで通用してるのが凄いところなんだけど」


「そ、そうだったの?自分でも気付かなかった……やっぱりこれって変だよね、なにか悪いことが……私に起こってるのかも」


思わず自分の腕で自身を抱きしめ縮こまるヒナタ。その困惑顔もナイスです、とか言ったらやっぱり不謹慎だよな。


「まあ気にしすぎだと思うけどな……イテテ。それにしてもこれじゃ修行にならないな。俺とサスケとで2対1での戦闘に切り替えるか?ぶっちゃけ、それでも十分今のヒナタなら対応できる気がしてきた」


「え、ええ?そこまでしなくても……」













「風遁・積寂風の術!!」


「火遁・豪龍火の術!!」









「えっと、じゃあ防御を意識して……守護八卦六十四掌!」



「「一瞬で掻き消された!?」」
















結論。時間無制限無敵状態は反則です。










ようやく修行終了。鍛錬場のど真ん中で、大の字になって寝転がる。なんだか、やられっぱなしのせいで俺も疲れが溜まるようになってきたな。サスケのこと笑えないぜ、全く。


「……はあ、はあ……むー、こうなったら、俺のチャクラ減少とヒナタのチャクラ増大のカラクリをいのいちさんに調べてもらうしかないのか?特に俺の方、このままだとマジでチャクラ無し忍者になっちまうかも」


ちなみに、仙人モードに入るためにも微量ながら元手のチャクラが要る。完全にチャクラがない状態になると冗談抜きでやばい。……案外深刻じゃないかこれ。いや待て、暗いことばかり考えていてもしかたがない。ヒナタが強くなってるのは歓迎すべきことなんだ。


「……そうそう、ヒナタ、忘れてた。……ちょっとこれ、試してみるってばよ」


「何、この紙……あ、チャクラに反応してる?」


「さっすが。それ、カカシ先生に貰ったチャクラ感応紙だ。それで自分のチャクラ性質が分かるぜ。ヒナタって完全に柔拳しか使わないから、俺も未だに知らなかったんだよな……ヒナタも知らないだろ?」


「あ、うん。性質変化を使うこと自体が、柔拳一本槍で栄えてきた伝統ある日向家ではあまり好まれないというか……。そんな邪道に走るくらいなら柔拳にもっと精進しろ、ってずっと教えられてきて、私にとっても完全に未知の領域よ」


「でも、チャクラがせっかく有り余ってるんだから、いろんなことに挑戦してみるのも悪くないと思うぞ。戦略のバリエーションも大きく広がると思うし。というわけで、この紙に自分のチャクラを流し込んでみてくれ」


「わ、分かった。……えいっ」












――ま、本音を言うと、どうせ結果は判ってるけどね。


俺は風、サクラちゃんは水、サスケは火、カカシ先生は雷。


でもって、キャラ設定集はヒナタを加えた5人で一括り。


単純な作者のことだ、欠けていた土をヒナタに当てるに決まってら。


そのほうが後々の協力体制で扱いやすいとか何とか言ってな。


がっはっは、俺って頭いいー。








「……あ、斬れた」




「か、風だって!?」




まさかの俺とのダブリかよ!!……まあこれはこれでちょっと幸せ。




「よしヒナタ、こうなったら風遁・螺旋丸を覚えるんだ!!俺でもバッチリ教えられるしさ、任せとけ!!」


「え、え、ええええ!?無理だよ、絶対無理!!あんな超高度な形態変化なんて私には出来ないよ!」


「どっちにしたって、今の戦力差じゃお前の単独修行のことも考え出さなきゃならない。時間はたっぷりあるんだ、明日から駄目元でやってみようぜ!じゃあ俺は……寝る。お休みー」


邸内に戻りもせず、そのまま睡魔に襲われて……意識が遠のいていった。












すっかり忘れていたが、憔悴しきったサスケは丸1日眠りこけることになる。任務なくてよかったな。










調子こいていたが、結局次の日は修行を珍しくやめて休養日に。サスケを布団に寝かせ、俺とヒナタはいのいちさんに会いに行った。今度は向こうも分かっているから、いのを気にせず堂々と会いに行ける。まあ、10分程度の時間差をつけたとはいえ、俺、ヒナタと連続で入っていったから、いのは怪しんだかもしれないが。


「……そのことか。実は既に、2人のチャクラ異常については調べさせてもらっている。なんとなくだが……それを解明することで、そもそもの異常――2人が時を遡って来たということ――についての手がかりが掴めそうな気がするんだ」


「そうなんですか、いのいち上忍?」


「さすがいのいち上忍だってばよ!頼りになるぜ!……でも、そんな内職やってて大丈夫なのか?情報部との兼ね合いとかもあるしさ」


「……正直言うと、今でもつい俺たちの持つ情報を漏らしたくなることはある。だが、長い目で考えればそれは得策ではない。場合によっては、未来を知る私たちの存在そのものが危険視されて世間に拒絶されるかもしれないからな。まあ胃には悪いかもしれないが、ナルト君たちとの約束は守っていくよ」


「……ありがとうございます。でも、周りからの疑いの目で八方塞になったときは、躊躇わず情報を流してくださいね?いのいち上忍を不幸にしてまでの約束など有り得ませんから」


「……ありがとう、ヒナタちゃん」











お礼を言ってまた外へ。いのはますます訝しんでいたけれど、まあいいか。……というかいの、店番するのもいいけど、たまには特訓しておけよ?あまり言いたくないが、このままだとあと2、3年で、サクラちゃんに完全に追い抜かれるという未来が待っているぞ。


さて、そこまで長い話をしたわけでもなく、まだ昼にもなっていない。なんだか珍しすぎて何をやったらいいか分からないな。……ふと横を見ると、さっきまでいたはずのヒナタがいない。あれ?


「……ヒナタ、何後ろを付いてきてるんだ?」


「え、えっと。『この頃』の私たちって、まず並んで歩かないでしょ?そろそろ脇道を抜けるだろうし、さすがに真昼間の大通りをそんな歩き方したら、知り合いに見られたらまずいかなと思って」


「……なーんだ、そんなことか。いいじゃんいいじゃん、別に手を繋ぐわけじゃなし。むしろ、周りに慣れさせるために、ある程度仲良くなったんだなくらいには思わせておいてやりたいんだけど。後々のために」


「……後々のため?」








「とりあえず、前の歴史は最期があんなだったからな。今回は、20歳半ばで結婚を目標にする!」




「けけけ結婚!?」




「ヒナタの気持ちに気付かないまま、ようやく気付いても返事を先延ばしにしながらえらく待たせちまったからな。今回こそは待たせやしない。問題を片っ端から解決しつつ、とっとと上忍にまで上り詰めて皆に俺の存在を認めさせて、日向家に乗り込んでやるぜ!」


「ああああああ焦りすぎじゃないかなあ、ナルト」


「……俺は本気だぜ、ヒナタ」


「……!」


さしもの逆行ヒナタもこれにはノックアウトされたのだろう、顔を真っ赤にしてあたふたしている。言った側も恥ずかしくてたまらないだろうって?そんな分かりきったこと聞くもんじゃありません。


「まあそうは言っても、ヒナタが嫌っていうなら無理強いはしないけど」


「そ、そんなことない!……じゃあ並んで歩くね、えへへ」


はにかみながら、ヒナタが俺の横に来る。その笑顔がたまりません、はい。


「よーし、じゃあデートだと思って買い物でも一緒に行こう?エスコートよろしくね、ナルト!」


「……それはさすがに周りが許さないんじゃないかなあ」


「……そっか、残念」











「……遅かったな、もう夕方だぞ。俺を布団にほったらかしにして、2人してデートでも行ってたのか?」


「違う違う、いのいちさんの所に行った後、ちょっと散歩をしてきただけさ。サスケ、拗ねてるのか?わかったわかった、次の休養日にはお前も連れてくってばよ」


「そう思って、サスケ君の大好きなトマトを沢山買ってきたから、機嫌直して、ね?私、トマト料理も結構得意なのよ、期待してて」


「す、拗ねてない!」











結局サスケは、ヒナタお手製のトマト料理があまりにも美味すぎたために俺たちの分まで横取りして食べてしまうという芸当を見せた。……奪いに来たときの形相、無茶苦茶迫力があったな。ようやく元気を取り戻したようだ、よかったよかった。


その後、サスケはしばらく無言のまま考え込んでいたが、ふと口を開いた。








「ヒナタ、結婚してくれ」



「……そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、命知らずだね、サスケ君」







サスケはまた気絶することになった。当然である。











あくる日。おおお、身体が軽い。1日空けただけでやっぱ違うってばよ。サスケもだいぶ調子がよさそうだ。さーて、今日の任務はーっと。


「おはよー、カカシ先生!」


「おー、ナルトにサスケ、おはよう。……珍しいこともあるもんだな、サクラが最後だなんて。もしかして風邪でも引いたのか?」


「……え、サクラちゃんまだ来てないの?わかった、俺が家まで迎えに行ってみる!」


「そうか、頼んだぞナルト。……よし、短いかもしれないがこの時間を使ってもう一度千鳥の特訓だ、準備はいいかサスケ?」


「ああ、また地獄の日々が始まる……」
















なんだってばよ?さっぱり分けがわからねえ。


家の人から聞き出すと、サクラちゃんはそもそも昨日全く家にいなかったらしい。


『第7班で合宿修行をするって、一昨日の夕方に一度だけ帰ってきたサクラに説得されたんだけど、違うの?』と逆に問いかけられてしまった。……ってことは、一昨日、昨日と二晩外にいたのか!?……まさか。


俺は全速力で、訓練場の方向へ足を向けた。












「……へ、へんっだ。どう、ナルト?こ、これが……二晩徹夜で頑張った……私の努力の……証よ」



マジか。……凄すぎるぜサクラちゃん。


近くの切り株の上には、軽食の残骸と共に決して安くない兵糧丸の僅かな残りが転がる。手入れしなかったため髪はボサボサ、じかに地面で休憩を取ったため服は汚れまくり。それでも眼光は衰えていない。


そういえば、分身体の記憶が還元される様子がなかったことで気付くべきだったのかもしれない。すなわち、この二晩の間、お役御免にならなかった分身体が、消えることなくサクラちゃんに術を教え続けた……。なんて固い意志なんだ。冗談抜きで、この歴史、サクラちゃんの将来が楽しみになってきたぜ。












「「影分身の術、ゲット!しゃーんなろー!!」」








[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(15)
Name: 林檎◆31536b05 ID:fd52ae1f
Date: 2010/07/12 20:19
波の国の任務から1ヶ月ほどが経った。


サクラちゃんは、俺の更なる指導のもと任意量のチャクラを分身体に込められるようになるための特訓。平行して、本来目指すべき新技の開発も再スタートさせた模様だ。ただ、今はまだまだチャクラ総量が増えていない。疲労だってこれまで味わったものとは桁違いだろう。焦り過ぎないか注意が必要だな。


サスケは相変わらずグロッキー状態が続いていたが、とりあえず一晩中気絶するようなことはかなり減っていた。カカシ先生に教えてもらっている千鳥も、呪印がない状態で習得しなければならないというマイナスをこれまでの地獄の特訓がそこそこ相殺してくれたらしく、結構仕上がってきた。そう遠くないうちに完成するだろう。


俺はチャクラが運よく残るたびに、変化させた分身体を音隠れの里方面に送り込み、いろいろと大蛇丸の情報を集めた。ただ、下手に刺激しすぎてこちらの行動を警戒されると逆効果。それほど大それたことはできない。


そしてあいかわらずヒナタのチャクラ総量はどんどん増えていき……俺の作れる影分身はたった2人になった。一応1人分の身体能力はちょっと上がっているのが気休めになる、ことはあまりない。








「……先ほど、主立った者が召集を掛けられ、火影様からお達しがあった……」


「……いよいよか。えーっと、1週間後に中忍試験、だな?いのいち上忍」


「ああ。できることはやってきたが、既に大蛇丸に何かしらの仕掛けはされてしまっているだろう。一刻たりとも油断ならないぞ」


「ヒナタ、サスケ。分かっていると思うけど、あくまで優先させるのは三代目火影を含む里の者の死者を出さないことだってばよ。攻めか守りか迷ったらまずは守ることを考えるように心がけてくれ。自分やみんなを危険にさらしてまで殺しに行く必要はない」


「分かったわ。砂隠れの忍たちは大蛇丸に半ば踊らされているだけみたいだから、できれば殺さないであげてね。……あ、音隠れには容赦しなくていいから、サスケ君。思う存分灰にしちゃってください」


「……ヒナタ、お前ってナルト以上に性格変わったよな」


「当たり前ですっ!何事にも平穏を望むあまり仲間を痛めつけた人を易々と許すほど、今の私は甘くないの。彼らのせいでサスケ君がいなくなって、そのせいで私たち全員が苦しい目に遭って、更に暁がそれに便乗して攻めてきて……おまけに青春時代を全部使っちゃって!」


「……なんだか最後のところに一番怒りが篭ってないか?」


「……そ、そんなことないよ。とにかく、音隠れには大損害を与えておくのが得策よ。分かってると思うけど、その中でも一番殺しておきたいのは……」


「何言ってるんだ?そりゃあもちろん大蛇ま……」




「薬師カブトだってばよ」



「薬師カブトね」



「薬師カブトだな」



「何故に?」




だって、純粋悪の大ボスよりも日和主義でのらりくらりと振舞う芸達者の方が実はあとあと怖いし。それでいて戦闘力は大蛇丸とは雲泥の差だから抹消できる可能性がグンと上がるし。殺してしまっても木の葉崩しのシナリオが止まりにくいから俺たちからすりゃ対処しやすいし。




何よりあの性格が大蛇丸以上に嫌いだし。










いざ、中忍試験








「ま、なんだ。いきなりだが、お前たちを中忍選抜試験に推薦しちゃったから。これ、志願書な。……といっても、推薦は強制じゃない。受験するかしないかを決めるのはお前たちの自由だ。受けたい者だけ、その志願書にサインして、5日後の午後3時までに……」


「カカシ先生がたとえ止めようと俺は出るぜー!」


「俺もだ」


「当然出るでしょ、そんなの!目指せ中忍ー!」


「……いや、ちょっとくらい考えてくれると俺としてはうれしいんだけどなー」










当日。カカシ先生に言われた通りう301号室に向かう。今回のゲジマユとサスケのバトルは、防戦一方ではあったものの背を地面に着けることはなかった。サスケ側は体術縛りで受けて立ったから、実質的には勝ちと言ってもいいのかもしれない。サスケは不満そうだったが、前回の結末を聞くと何も言わなくなった。





そして、いざ会場へ。





ルーキーナイン集結ということで場が沸き返るが、合流した俺とヒナタは視線をめまぐるしく動かし音隠れの忍を探す。第3の試験予選であいつらの顔は見ていたので、直接戦ってはいなくても(サスケとサクラちゃんは戦っていたらしいが)いのいちさんが記憶をもとに似顔絵を描いてくれた。よし、額当てからも照合完了!……なんか、紅一点のキンって奴がすごくいのに似ている気がしてきたぞ。


ついでに、こちらに近づいてくる『木の葉の額当て』を付けた男が1人。……来たな、やっぱり。


「おい君たち、もう少し静かにした方がいいな」






「(小声)ナルト……この表情なら絶対、善人だと思っちゃうよね」


「(小声)ああ。完璧に周囲を化かしてやがる。おっそろしい男だぜ」


「(小声)こいつが薬師カブトとかいうペテン師か……こいつ、できる」







その後、カブト自慢のデータカードについての説明が続いた。前の歴史では、ここでサスケが我愛羅とゲジマユのデータを聞くことになっているが、今回はそこまでゲジマユに酷い目には遭わなかったし、我愛羅のデータは木の葉崩しの説明のときに補足として十分伝えている。となれば、聞くべきはあれだ。


「じゃあさ、カブトさん。俺とサスケのデータ、見せてくれってばよ。俺の実力がサスケにどの位まで近づいてるのか知りたいんだ!」


「変わったことを聞く子だね。わざわざ自分のデータを皆に晒すなんて。……まあいいよ、サスケ君も了承しているみたいだし。それじゃあ……はい」







うずまきナルト



班員 春野サクラ うちはサスケ はたけカカシ

体術 D 忍術 C 幻術 E 血 D 忍具 E

任務経験 A 0回 B 0回 C 4回 D 13回






うちはサスケ



班員 うずまきナルト 春野サクラ はたけカカシ

体術 B 忍術 A 幻術 C 血 A 忍具 B

任務経験 A 0回 B 0回 C 4回 D 13回








「……よっしゃー!!」





「……え、な、なんでナルト君が喜ぶんだい!?」









その後、この時点ではまだカブトが味方と知らない音忍三人衆によって、カブトが急襲されるというイベントがある。眼鏡が割れ吐き気を催した彼だが、実は相手の能力を分析するためにあえて避け切らなかったらしい。でも、そんな『カブトの読み通りの』展開は許さないってばよ。





「カブトさん、危ないっ!!!」




自分の身体でカブトを押しのけ、代わりに攻撃を食らう……ように見せる。






全速力でタックルをかましながら。





「…………」


「…………」


「…………」


何度も繰り返すが、身体能力だけは伊達じゃない。カブトは壁にめり込んでピクピク痙攣していた。


「おー、いってー。……こら、そこの音隠れとかいう里の奴ら!うるさくしてた俺たちを狙うならまだしも、試験について何も知らない俺たちに親切丁寧に解説してくれていただけのカブトさんに攻撃するなんてあんまりじゃないか!俺が助けなかったら死んでるところだったってばよ!カブトさんに即刻謝れ!」








「「「お前が言うな!!!」」」














いざ、第1の試験が始まった。イビキさんの出す問題の方式が分かってるから、なにもせずとも10問目を待って退場しなければ合格だ。しかーし、俺は昔の俺ではない。火影になった身として、解ける限りは解いてやるぜ!隣の席でヒナタも応援してくれていることだしな!……つーか過去の俺、なんでこの位置関係のヒナタを『全然気付かなかった』で済ませたんだ、ぶん殴ってやりたい。









…………。







「では、ここに残った者全員に、第1の試験、合格を申し渡す!」




成績(見せ合っての自己採点、10問目も普通に1点と数える)




サクラ   10点(自力)


ヒナタ   10点(白眼使用、自力だと8点)


サスケ   10点(写輪眼使用、自力だと1点)


ナルト    8点(ぎりぎりでヒナタの答えを完全模写、しかし書き間違い箇所あり。自力だと1点)






「……えーっとナルト、そんなにしょげないで、ね?」


「…………俺、勉強しよっかなあ」













その後、みたらし団子……じゃなかった、みたらしアンコ特別上忍のど派手な登場。イビキさんに『空気読め』と呆れられている。前はそんな余裕なかったけど、この人って……。


(この人……大蛇丸の弟子だったことで感覚がずれてるのか?ボディラインがもろに出る際どい服着てるねえ、けしからん。……ま、まさかそんな格好だから、登場回数を増やしてもらえないのか!?なんてこった!)


(この人……私が作ったデザートとかで釣れば味方になってくれるかなあ?)








次の日。




「じゃ、第2の試験の説明を始めるわ。早い話、ここでは極限のサバイバルに挑んでもらうわ。……何でもありありの巻物争奪戦よ……」


天の書と地の書、2種類の巻物を見せながら、アンコさんが試験内容を説明していく。他チームと争って両方の巻物をそろえ、120時間以内にエリア中央の塔に3人でたどり着けば合格だ。……同意書にサインしいずれかの巻物を受け取った後、各チーム、ゲートの前へ!ちなみに俺たちが受け取った巻物は天の書だ。静かに、開始の合図を今か今かと待つ。


別にそいつらに限ったことではないが、死人やむなしというルールをいいことに試験合格とは無関係に殺戮を狙う音隠れ。殺されないように万全の注意を払わなければ。サスケにもさんざん忠告した。対策も立ててきた。大丈夫だってばよ。






「これより、第2の試験、スタート!!」







「というわけでサクラちゃん、特訓の成果を見せてくれってばよ。……いっせーのーで!」




「いいわ、見てなさい!――影分身の術!……そのまま変化の術!!とっとと巻物増えやがれー!!!」





[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(16)
Name: 林檎◆31536b05 ID:ecfe5a9b
Date: 2010/07/14 23:52
――今度こそサスケの呪印拘束を防いでやる。もちろん倒しきれるなどとは思っていないが、応戦するくらいなら大丈夫だ。それに、ヒナタとはゲート番号を教え合っているから、場合によっては合流して返り討ちにするという算段も付いている。大蛇丸の思い通りにはさせねえ!


固い決意を胸に意気込むナルト。




――さて大蛇丸とやら、どのツラ引っさげて掛かってくるのやら。……ナルトたちのおかげで俺は相当強くなった、それは間違いない。ただ、別にナルトを信頼しきったわけじゃない。戦ってみてナルトを遥かに超えるような力の壁を感じたのなら、そしてそいつの下で飼われる方がより強くなると認識したのなら……更なる力を求め、悪魔にさえ俺は魂を売ってやる。どう転ぶか、この試験見物だな。


まるで他人事であるかのように笑い、やや邪な考えを秘めながらも至って冷静なサスケ。




――全く、この1ヶ月ちょいで、貯金含めたお小遣いがほとんど兵糧丸に消えちゃったじゃない!冗談じゃないわよ、サスケ君へのプレゼントとか前から買いたかった新作の服とかのためにせっせと貯めてたのに。おまけに毎日だるいし眠いし、ほんとやってらんないわね。……でも、別に後悔はしてないつもり。今までの私ってなんだったんだろうっていうくらい修行に励んでいると、自分は変わっていってるんだという味わったことのない充実感に包まれるのがよく分かるわ。2人も修行中こんな気持ちだったのかしら。


一皮むけ、心身ともに逞しくなってやる気十分のサクラ。




前の歴史に比べ一段と強固になった3人の新たなチームワークが、今ここで試されることになった。







無敵のフォーメーション! うちナルサクラ!!









俺ってば、つくづく思う。


変化の術は初歩の初歩の術、とよく言われるが、この術ほど汎用性が高い術は他にない。


考えてもみてほしい。敵がいるとは全く思わずのんびり歩いているときに、ただの木や石ころや一般人としか認識していない物体が死角からいきなり襲い掛かってくるのである。はっきり言って、実力伯仲の忍同士の戦いなら勝負ありってやつだ。おまけに、見破る方法は『偶然攻撃を当てる』か『精神を集中させ、微妙に放たれるチャクラを上忍レベルの超感覚で察知する』だけ。まあ嗅覚だの白眼だの特殊技能を駆使する方法もあるが、要するに並のレベルの奴にとっては運が強くないと見破れない。……恐ろしすぎるだろ。更に、影分身との相性が抜群だ。


だったら、これを利用しない手はない。サクラちゃんが影分身の術を使い、さらに地の書に変化させる。今のサクラちゃんは本気影分身だと2体が限界ってところだが、ここはとりあえず1体に留めた。同様に俺は、本気影分身2体が限界という中で、本気×1体と水増し×1体の影分身を天の書に変化させた。え?なんでサクラちゃんが地の書に変化できたかって?そりゃ、最初にアンコさんが見せてくれた巻物をよく見ておくように言っておいたからですよ。


ちなみに俺はチャクラを込める融通がかなり利き、本気影分身1体分のチャクラで10人以上の水増し影分身をこなせる……が、無駄に多く作っても仕方がない。そんな感じで、サスケは本物の天の書を、サクラちゃんは複製地の書を、俺は複製天の書を保管する。


この嫌らしさは分かるだろう。万が一相手に押されるような状態になったら、逃げるそぶりで複製巻物を落とせばいい。巻物ほったらかしでこちらを追い続ける組なんて音隠れ関連だけだし、所詮外見のみの張りぼてで中身はないから、手に入れたと思い込んで塔にたどり着いた奴らが意気揚々と巻物を開けば分身体は消滅、そのまま失格だ。ついでに、巻物が潰れるくらいの力で握り締めたり叩きつけたりしないかぎり分身体は消えない。巻物が本物かどうか確かめるのにもかなりの勇気がいる。ああ嫌らしいったら嫌らしい。


お分かりだとは思うが、俺の本気影分身の変化巻物は、単なる引っ掛けでは留まらない『奇襲用』。勝てるか微妙そうな相手が天の書を欲しがってきたら、油断させた上で確実に地の書をゲットしようという段取り。……我ながら卑怯かな。そもそも前の歴史通りなら、いつどこでどのグループと遭遇するかはいのいちさんのおかげで丸分かり。でも今回は大きく流れを変えることになるため、ここまで慎重に事を運ぶことにした。


……というか、カブトがまだこちらをあまり警戒していないうちにここで殺しておけないかな、と不穏なことを思考中だったりする。







一方のヒナタ。


「イヤッホー!サバイバルなら俺たちの十八番だ。ヒナタ、甘えは見せんじゃねーぜ?」


「うん、キバ君。掛かって来た人たちはみんな半殺しだね♪」

「……ちょっとくらいは手を抜いてもいいぞ、やっぱり」


こちらも無事スタートを切った模様。












「いやー、待たせたなー」



ガツン。



「サスケ君、いきなり何を……って、あーー!あんた、ナルトの偽者ね!?ナルトは右利きよ、なんで手裏剣のホルスターが左足に付いてるの?」


「その通りだサクラ。……つーか、たかだかこの程度の速度の攻撃を避けられないんじゃどう見たってナルトじゃない。さて、思う存分叩き潰すぞ(こいつら程度じゃ複製巻物使うのも勿体ねえ、力押しだ)」


「オッケー、サスケ君!日頃の特訓のおかげでそれなりに基礎能力も上がってるんだからね、くの一だと思ってなめてると痛い目に遭うわよ!」


「アタタ(変化を解く)……アンラッキー。バレちゃあ仕方ねえ、巻物持ってんのどっちだ、素直に出せば命だけは助けてやるぜ~」




雨隠れの 忍が 
勝負を 仕掛けてきた!





「火遁・豪龍火の術」



「どあぢぃー!!た、退散!」



「(先読み移動して)わ、やった。勘が当たったみたいね。こっちに来てくれるなんて……クナイどうぞ」


「ぎゃあああぁぁぁ!」


雨隠れの 忍との
勝負に 勝った!



サスケは クナイ20本を 手に入れた!


サクラは 天の書を 手に入れた!


「……つまらん。雨隠れの額当てをしていたから水遁を警戒してわざわざフルパワーで行ったのによ」


「雨隠れって霧隠れと似通っててややこしいわよね。……やったー、この人巻物持ってる!!……と思ったら天の書か~、残念ね。まあいいわ、貰っておきましょう。奇襲役に巻物持たせるなんて馬鹿なことしたものね。仲間が駆けつける前に退散するのが賢いのかな、それとも待ち伏せしておいて完全に潰しておくのがいいのかな?サスケ君」





……緊張していないので今回はさすがに尿意を催すこともなく、単純に雨隠れの忍をおびき寄せるため一時2人から離れた俺だったが……こりゃ前とは偉い違いだな。サクラちゃんはチャクラコントロールに更なる磨きをかけ瞬発力を増し、何より特訓の副産物で身体能力が少なからず上がった。サスケはサスケで相変わらず頼りになる大火力だ。なんだか逃がすことなく捕縛できたっぽい。


こいつらが持っているのは天の書。今はダブリの巻物ってことになる。天の書をまず大蛇丸の奴に燃やされて、その後音忍3人衆が手打ちとして地の書を置いていったんだってばよ。というわけで、こいつらから巻物を奪っても即合格にはならない。でも早いうちに巻物が増えるのは結構なことだ、先に貰っとこう。




「やあやあ、2人とも遅くなって御免だってばよ」




「性懲りもなく!また出たわね、しゃーんなろー!」




「え、ちょっと待てサクラ、そいつは本物のナル……」



グサッ。



「あ、あああっ!ゴメン、ナルト!大丈夫!?」



……サクラちゃんの実戦慣れはもうちょっと後かもしれない。












「一旦3人ばらばらになった場合、たとえそれが仲間でも信用するな。今みたいに、敵が変化して接近する可能性がある。さっきの奴は変化が下手だったからよかったが、完璧に変化されたらそうも言っていられないからな」


「それで、どうするの?」


「……」


サスケ、『それにしても……白々しい真似しやがって。お前、大蛇丸が後ろで盗み聞きしてるの気付いてるだろ!』とアイコンタクト。


ナルト、『まあそう言うな。もちろん気付いてるけど、わざわざ藪をつついて蛇を出すことはないってこった。さっさと予定通りの合言葉の説明をしろ』とアイコンタクト。


サスケ、『1つ聞きたいのだが、今のうちに積寂風をコッソリ積みまくって大蛇丸に急襲を掛ければ倒せるんじゃないか?』とアイコンタクト。


ナルト、『お前は大蛇丸を甘く見過ぎだってばよ。ここは呪印を付けられないようにできれば十分なんだ、今後の展開だっていろいろあるって言っただろ?焦るなサスケ』とアイコンタクト。


サクラ、『……なんだか私そっちのけで打開策を考えてない?オーケーオーケー、まだまだ2人に完璧に認められたってわけじゃないみたいね。えーい、何が何でも追いついてあげるわ~!!しゃーんなろー!!』とアイコンタクト。


サクラの殺気に気付き冷や汗をかいたサスケは、慌てて予定通りの案を出す。


「……合言葉を決めておく。いいか、合言葉が違った場合は、どんな姿形でも敵とみなせ。1回しか言わないからな、良く聞いとけ……」


「了解だってばよ!」


「分かったわ」





「『日向ヒナタ』ととく。その答えはこうだ。『微香虫、引越しセンター、告白』。以上だ」





「オッケー!そんな短いの楽勝だってばよ!!」


「そうか。ナルトが大丈夫なら、サクラなら余裕だな。2人とも忘れるなよ」


「う、うん(……え?え?意味がさっぱりわからないんだけど)」
















合言葉を決めた直後、一陣の風が吹く。……出てきたな、大蛇丸。俺は楽々回避できたが、サスケは少し、サクラちゃんは結構飛ばされた。3人は離れ離れになる。さて、まず俺がサスケに会っておかないとな。



「……サスケ、無事だったか!」


「寄るな!その前に合言葉の確認をさせてもらう。『日向ヒナタ』!」


「はいはい。……微香虫、引越しセンター、告白っと」


「よし……いいだろう、こっちへ来い」




すぐ後に、頭を打ったのだろうか、痛そうに押さえながらサクラちゃんもやってくる。


「いたた……みんな、大丈夫!?」


「ちょい待ちサクラちゃん、まずは合言葉の確認だってばよ。『日向ヒナタ』!」


「そんなの当然分かって……」


「ちょっと待て。言うんじゃない、木の枝で地面に『書く』んだ。ナルトもそれで確かめた。筆跡確認も兼ねてるからな」


「……分かったわよ。……はい、これでいいでしょ。『微香虫、引越しセンター、告白』!」


「……ああ、お見事だってばよ」


にやりと笑って、俺はパンチを叩き込んだ。











「いったーい!!な、何するのよナルト!!」


殴られたサクラちゃんは当然のように激怒する。


「お前、サクラちゃんの偽者だろ。分かってるぞ、そんなこと」


「な、なんでよ!私、ちゃんと合言葉を返せたじゃない!!」


「だから問題なんだってばよ!お前が書いた字をよーく見てみろ!『微香虫、引越しセンター、告白』ってなってるだろ!?もし合言葉はと聞かれたら、『日向ヒナタ』という言葉に引きずられ、普段のサクラちゃんなら『(俺を)尾行中』って書くはずだ!第一サクラちゃんは『微香虫』って単語をまず知らないはずだしな!!」



「幾分しょーもないトリックだがな……(つーか俺も単語の意味までは知らんぞ、どんな意味が、ヒナタとどんな関係があるってんだ?)」


「サスケ、黙らっしゃい」








「……フフ、そういうことね」



そう醜く笑って変化を解く。……できれば変化を解いてから笑って欲しかった。サクラちゃんが可哀想だ。さあ、いよいよ……。




あ!野生の 
大蛇丸が 飛び出してきた!






「誰が野生よ!!」


「「お前」」






「……きゃーー!こっち来るなーー!!」


サクラ、びびりながらも突如現れた大蛇と交戦開始。









(ナルト、大丈夫かな……。そろそろ大蛇丸と交戦してる気がする。心配ね)


私は不安だった。歴史を大きく変えるということは、それだけ躓いたときの悪化具合もひどくなるということ。サスケ君を救おうとするあまりナルトが重症を負いました、というのでは話にならない。それでも、前回同様キバ君、シノ君と協力し早めのうちに巻物を確保できた。そのあたりは抜かりはないわ。


「……おいヒナタ、お前ちょっと疲れてるだろ?ここらで一休みしないか?実は俺も結構乳酸が溜まってるっつーか、あはは」


「キバ君、気を使ってくれてありがとう。でも大丈夫、私はまだまだ動けるから。あまり一箇所でじっとしてるとターゲットにされるから、移動しよう?」


……キバ君はやっぱり鋭い。実は、体の異変については私自身も感じていた。ナルトのことを想う気疲れだけでなく、2、3日前に始まった何か分からない違和感がある。『痛い』とか『苦しい』とかはっきりした感覚ではないけれど、時々意識がぼーっとする。戦闘中には何故か消え、殺気を見落とすわけでもないから試験に影響することはなさそうだけど。私も修行のやりすぎで目に見えない疲れが溜まっているの?


「まあヒナタがそう言うなら……む?……ヒナタ、あっちの方角1キロ先、見えるか?」


「うん、見てみる。白眼!……あ、あっちに誰かいる」


「どうやらこれは……6人か」


「よっしゃ、見に行くぜ~!」


「キバ、何を言ってる。それは駄目だ」


……我愛羅君、か。前ははっきり言って、『殺せるところを見逃してくれた』のよね。でも今回はどう転ぶかなんてわからない。もちろん私が強くなっている分多少はマシかもしれないけど、危険な賭けはするべきじゃないし、この衝突を無視してもあとの歴史にはまず影響しない。ここは回避しておくべきよ。





「……うん、じゃあ行ってみようか。何か情報を得られるかもしれないし」






……え?


わ、私、何言ってるの?


「ヒナタ!?……お前らしくない、なぜそのようなことを」


「おうおう、わかってるじゃねーかヒナタ。多数決だ、文句言うなよシノ。まずは様子を見るだけだ、やばけりゃ無理に戦いはしないって。じゃあ行くぜ!」




やっぱり……変。私の体に、何が起こっているというの?






[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(17)
Name: 林檎◆31536b05 ID:70a2260a
Date: 2010/07/17 12:52
大蛇丸らしき奴と対峙した俺とナルト。……今は『ナルトのイメージ的な』顔とは異なる顔を見せているらしい。この顔はまだましだという、何だそれは。自分の運命の大きな分岐点であることを承知の上で、あえて目を瞑って深呼吸。さすがにいきなりはしかけてこなかった。そしてゆっくり目を開き、ナルトに言われたことを心の中で反芻する。




――いいかサスケ。呪印は、首に噛み付かれることで施される。まあ首以外なら安全だと決め付けるわけにもいかないから、とにかく噛み付かれることだけはなんとしてでも回避だ。接近戦はもちろんのこと、首を蛇みたいに自在に伸ばすこともできるから遠距離でも要注意だってばよ。基本戦法は当然、距離を取っての飛び道具主体。しつこく接近されたり、15分程度経っても引いてくれないときは、安全策を採って恥も外聞もなく全速力で退散するからな。なーに、そんときは後の折檻を覚悟の上で俺がサクラちゃんを担ぎ上げて行ってやるからさ。




……その言葉がどこまで信用できるか微妙なところだが、とりあえずは従っておくか。ただ、向こうにとってこの第2の試験は呪印を施すには絶好の機会。逃げられたからお終い、なんてゆるい考えは持っていないはずだ。逃げだけではなく場合によっては攻めも考えなければ意味がないぞ。


「フフフ、私たちの地の書、欲しいでしょ?あなたたちは天の書ですものね。じゃあ始めようじゃない、巻物の奪い合いを……命がけで」


そう言って、なんと巻物を飲み込んでしまう。……その巻物、奪えたとしても絶対触りたくない。というか取り出したとき溶けてないだろうな?そう考えた瞬間、得体の知れない感覚が俺の体を襲ってきた。








その戦闘、想定内?









大蛇丸が俺とサスケに放った殺気。……くっ、こりゃ中々大したものだ。俺はせいぜい一瞬怯む程度で済んでいるが、サスケは若干息を荒くしている。なるほど、前回の歴史でサスケが異常なほど弱気だったのはこの先制攻撃を食らったからか。サスケの肩をトンと叩いてやると、ハッと振り返ったサスケが慌てて気持ちを落ち着かせた。これでなんとかなるか?



「ほう?これでまだ動けるなんて大したものね、サスケ君。さすがうちは一族、私が見込んだだけのことはあるわ。それに……ナルト君でしたっけ、君も只者じゃないみたいね、ここまで来た甲斐があったというものよ。フフ」


「(小声)さっき合流するまでの間に仕込んどいたぞ、11時の方向25メートル先に1回、3時の方向15メートル先に1回。分かるか?」


「(小声)分かった……が、なんでもっと重ねて術を掛けておかなかった」


「(小声)無茶言うなよ……所詮仕掛けるには10メートル以内まで近づかなきゃならないんだぜ?あいつ相手にそこまで同じ場所に留まっておけるかよ、勘付かれるに決まってる。ついでに言えば、引かせるだけでいい戦闘で無理に一撃必殺を狙うのはリスクがでかい。小刻みな攻撃で動きを封じて嫌気を誘う方が賢いってもんだ。逃走用のチャクラも温存しとかなきゃならないしな」


「(小声)……まあいい。いくぞ、ナルト。あいつの能力が情報通りだとしたら俺はサクラの面倒までは見切れん。お前が自分でやれよ」


「(小声)任されたってばよ!」


一括りに遠距離とは言っても、もうすこし詳しく見れば俺が前衛、サスケは後衛。身体能力に長けた俺のほうがより近づける。間合いを保ちつつ、クナイを四方八方からお見舞いする。大蛇丸もクナイを取り出し……。


「む。これは……中々の速度だわね」


まあ全部弾かれるわな。この程度で傷つくようじゃ苦労しないし。ただ、さっきサスケが回収したおかげでクナイの数自体は十分だ。大蛇丸の周囲を駆け回りながら惜しみなくクナイを飛ばし、弾かれて力なく地面に落ちたものを順々に回収してはまた投げる。サスケは、豪火球の術の爆発を利用して目くらましをすると共に、写輪眼で狙いすました別方向からのクナイ衝突でクナイの進行方向を巧みに二重三重に変化させ大蛇丸の対応ミスを誘う。


「でも、ちょっと芸がないわね。その程度の攻撃じゃびくともしないし、第一同じことばっかりしてると動きを読まれるわよ?2人とも」


「へへ……これだけの波状攻撃で芸がないとはよく言ってくれるってばよ。少なくとも下忍レベルはとっくに超えてると思うんですけど、どうですか?」


「まあそこまで豪語するんなら、本気を出してやるとするか」


変化をつけてこちらを惑わすつもりなのだろう、防戦一辺倒から一転、弾いたクナイを空いた手で即座にキャッチし、刹那のうちにこちらの動きを予測して投げ返す。とっさにかわしたが……恐ろしい動体視力だ。並の下忍なら油断でお陀仏になっていただろう。お返しとばかりに、今度は定点からクナイを連投して投擲間隔を短くしてみる。大蛇丸がたまらずその場を離れたところで……あえて一箇所だけ逃げ道を作りそのまま追い立てる!


「ここだ!火遁・豪龍火の術!」


機を伺っていたサスケが、あらかじめ積寂風の術を使っていたポイントに大蛇丸が近づくのを見計らって急に仕掛けた。


「……何?拡大した!?」


慌てて回避しようとした大蛇丸。そこを、俺が仕込んでおいた忍具糸で拘束し大木に押し付ける。身動きとれず、サスケの豪龍火の術をもろに食らう。よし、うまくいった!


「サスケ、いいぞ!しばらく豪龍火を続けろ!」


俺は俺で、チャクラを込め先程より幾分殺傷能力を増したクナイを投擲。1本、2本、3本……あるだけのクナイを一気に消費する。炎のゆらめきで姿形ははっきりと確認できないが、拘束時の状態を思い起こし的確に急所を捉えることくらい今の俺ならお手の物。少しでも傷が出来れば儲けものだ。


……サスケが限界に達して豪龍火をやめたとき、奴は意識を失いぐったりしているように見えた。しかし……俺には分かった。――こいつ、言うほどダメージ受けてねえ。そして、プチプチと糸が切れ、刺さったクナイが抜けゴトリと音を立てて落ちるのと共に大蛇丸がゆっくりと歩き出した。顔は崩れ、『あの顔』が少し現れている。そして……。


「か、金縛り、だと……しまった、体が……!!」


「な、何だこれは……おいナルト、大丈夫か!」


2人の体の動きがぴたりと止まった。


「2人とも、中々楽しませてくれてありがとう。その年でここまで写輪眼を使いこなせるとはねえ、さすがうちはの名を継ぐ男だわ、サスケ君。あのイタチ以上の能力を秘めた目をしている。それにナルト君、君の能力もサスケ君に勝るとも劣らない素晴らしいものよ、気に入ったわ。もともとはサスケ君だけのつもりだったけれど……やっぱり私は2人まとめて手に入れたいわね」


「何言ってやがる!ふざけんな!!」


「私の名は大蛇丸。もし君たちが再び私に会いたいと思うのなら、この試験、死に物狂いで駆け上がっておいで。私の支配下にある音忍3人衆を破ってね」


「何言ってんだ!!お前みたいなオカマ忍者になんか二度と会いたくないってばよ……と言いたいところだけど、これから何回も会うことになるんだろうな、はあ……」





「誰がオカマよ!失礼ね!」


「お前のことに決まって……って、まさか最終回付近とかで『大蛇丸は女だった』みたいな超ドンデン返しが待っているのか!?そんな奇天烈展開があったら、それだけで外伝1時間スペシャルが作れちまうぞ!ネジの立場がねえ!」




「ムキー!!そうよそうよ、どうせ私はオカマですよー!!」


「うん、素直でよろしい」


「……嫌な子ね。でもね、二度と会いたくないって言っても、そうは行かないのよ……」


そう言って特殊な印を結んだ途端、大蛇丸の首が一気に伸びる。この進行方向はまさか、まず俺の首を狙って……!!



「ふふ、じゃあ失礼して……」





「バルス」




飛び込んでくる大蛇丸の顔めがけて超近距離クナイ投擲。


「…………」


「……目が、目があ!!」


「なあサスケ、目にクナイが刺さってもただの怪我だけで済むのはせこいよな?」


「テメエ、動けるんならサインくらい出しやがれ!」


「いやー、前の歴史じゃここで金縛り使うなんて知らなかったからな、使われたときの行動パターンとか事前構築してなかったじゃん?それに、俺だって最初は動きが鈍かったんだぜ、だから少し時間稼ぎさせてもらったんだってばよ。それにほら、これでサスケも動けるようになっただろ?」


「だからってだな……」


「第一、『体が……』って言っただけで『動かない』とは言ってないし」


「やっぱりお前のこと信用していいのか思いっきり迷ってきたぞ俺は」


「(小声)……これは一応カブトに診てもらったほうがよさそうね……まあでも急を要するわけじゃないわ。フフフフフ、中々見せ付けてくれるじゃない。覚えておきなさいナルト君、なんとしてでも君を……」


なんとも不気味な表情で笑う大蛇丸。目から血も流れ出ていてまるでホラー映画です。ああ怖い。次はどんな手でくるのか……と思ったら、矛先を変えてサスケの方に首を伸ばし始めた。サスケはとりあえず後退、しかしそれにも負けじとさらに首を伸ばす。


「し、しまった!速い!」


「させるか!!」


少し離れた横を通り過ぎる大蛇丸の首めがけて、用意していたアスマ先生ご愛用のチャクラ刀を振り下ろす。風のチャクラを込めたその刀は、切れ味を何倍にも増す強力な武器だ。出血とともに、首の伸びが止まってくれた。うん、一応効いてはいるようだ。……切断には程遠い長さしか刀が食い込んでいないってのが何とも言えないが。


このまま長い首を晒し続けるのは得策でないと考えたのだろう、首を縦横無尽に振り回し威嚇しながら一気にその長さを縮め元に戻した。痛むのか、苦虫を潰したような顔で首に手を当てる。指に触れた血をじっと見つめ、長い舌で舐め取る。そこへ、離れ離れになっていたサクラちゃんがやってきた。


「サスケ君、ナルト、大丈夫だった!?あ、えっと、合言葉は……」


「……サクラか!それはもういい!油断するな、戦闘中だ!」


「あ、サクラちゃん!……そいつに気をつけろ、一応言っとくと俺たちより強い!退散想定で距離を十二分に取るってばよ!」


「う、嘘!?……分かったわ!」


すぐさま状況を把握し、俺とサスケのさらに後ろに構える。とりあえず、大きな怪我はしていない模様だ。周囲の気配からして、大蛇はなんとか倒しきったらしい。前のサクラちゃんだったら無理だったろうな。



「……これはこれは、3人目の子が来たわね。あの大蛇を見事倒してくるなんて、褒めてあげるわ。……でも2人に比べれば、実力の程は高が知れてそうだけど」


「そんなことは言われなくても分かってるわよ!でも私だって……」


「サクラちゃんは全然弱くねえ!!」


「え、ナルト!?」


「頭はいいし、チャクラコントロールの才能も凄い。何より、『自分を変えよう、努力して少しでも強くなろう』っていう純粋かつ真摯な決意の強さを持ってる。お前みたいな外道には一生分からないだろうがな!ついでに言うと、お前のオカマ顔に比べてサクラちゃんの方が1京倍美人だってばよ!!」


大蛇丸は呆けた後、大声で笑い出す。何を下らぬことを、とでも思っているのだろう。あいつにとっては力が全てだからな。


「サスケ、お前も何か言え!」



「お前、『京』って単位知ってたんだな。吃驚だぜ」



「いや、俺の発言にそんな突っ込みを入れろってことじゃなくてだな」


「(小声)……というかナルト、お前は何をしたいんだ?サクラを振っておいて今更、三角関係でも作りたいのか」


ジト目のサスケの視線の先には、先ほどの怒りはどこへやら、ふざけた態度でなく本気で自分を庇ってくれたナルトの背中を見て顔を赤らめているサクラの姿。


「(小声)は?何言ってるんだサスケ?」


「(小声)『そっけない態度』と『仲間を想う心からの行動』のギャップ攻撃か……もういい。とりあえず、お前が俺以上に乙女心を読めてない天然大馬鹿だということがよく分かった。勝手にしろ」


「あらあら、初々しいわねえ」














「……………………」


「ヒナタ、どうした?いきなり立ち止まって」


「何か白眼で発見したのか?」


「ううん、なんでもないよ、キバ君、シノ君?(ニコッ)」


「「……ソウデスネ、ナンデモナイデスネ」」












「がはっ」


「と、吐血!?……ナルト、どうした!?」


「ど、どこからか大蛇丸以上の殺気が……」


「わ、私以上の殺気ですって!?本当だとしたらとんでもない奴ね……」








「さーて、じゃあ第2ラウンドと行きますか……!」


そう口では言いながら、サスケに退却1分前のハンドサイン。もう十分経った、これ以上争うのはチャクラ残量的に危険だ。大蛇丸も一応負傷したみたいだからそれほど積極的に追跡はしてこないだろう。豪火球の術で目をくらませ、今のうちに水増し影分身生成、サクラちゃんのもとへ指示を伝えに行かせ先に引いてもらう。


「最後に一発怯ませておけ、サスケ」


「なら……火遁・鳳仙花の術!」


威力自体は豪龍火の術に劣るが、速度では勝る。大蛇丸は避けるので手一杯だ。……本音を言えば、多少の傷を覚悟で突撃された方がこちらとしては怖かったが。その後クナイを幾度か投げ動きを止めた後、一目散に逃げ出した。



「フン、ハナから逃走を図っていたとはね。あの3人、下忍にしては駆け引きがかなり上手そうだわ。でも待ってなさい、この試験中に必ずあなたたちを木の葉から頂くから」










「……で、どうだった、サスケ?あいつの恐ろしさは分かったか?」


「まあ、お前より強いってことは分かったな」


「何おー!?確かにサクラちゃんの前ではああ言ったがな、チャクラが戻りさえすれば俺の必殺技螺旋手裏剣で……」


「だが戻る兆しは一向にないんだろう?仮定の話をしても仕方がない」


「ちょ、ちょっと2人とも、待ってよー。ペース落としてくれない?」


「ごめんサクラちゃん、あいつに追いつかれたらやばいんだ、しばらくは全速力で移動してもらう……って、思いっきり遅れてるな。結構体力を消耗してたみたいだ。よしサスケ、やっぱりお前がサクラちゃん担いで行け」


「は?お前が運ぶのが相応だろう、ここは」


「今は移動だけ考えればいいんだからサスケが運んでも大丈夫だってばよ。サクラちゃんも喜ぶだろうし。さあ、この機会にサクラちゃんとの距離を縮めるんだサスケ、旦那として!!」








…………。








「……ナルト、旦那ってなんだ?」


「お前とサクラちゃんが結婚するって事に決まって……あ、まだ言ってなかったっけ。……今のは俺の妄言だ、気にするな、忘れろ」




「ちょっと待てぇ!!」























「おい小僧、相手は選んだ方がいいぜ。死ぬぜ、お前ら?」


「御託はもういい。はやくやろう、雨隠れのオジサン」


――とうとうここまで着ちゃった。


「(小声)……ヒナタ、本当に大丈夫か?やっぱ顔色悪いぞ」


「(小声)……だ、大丈夫だから、気にしないで」


我愛羅君たち砂隠れのグループと、雨隠れのグループ。両者が激突した時点で、もう結果は見えている。威勢よく先手を仕掛けたところで、雨隠れ側に勝ち目などない。2分と経たずリーダー格の忍が砂で殺され、怖気づいて巻物を渡し逃げようとする残りの忍も次々と血祭りにあげられる。雨隠れの優勢を予想していたキバ君も、さすがにすぐ考えを改め、今では恐怖で腰が抜けてしまっている。彼らと戦っても勝ち目はないわ。


「都合よく天の書じゃん。よし、このまま塔へ行くぞ……」


「黙れ。……まだ物足りないんだよ」


その場を離れようとしていた私たちの足が止まる。そう、とっくに気付かれていたのよね。


「もうやめよう、我愛羅」


「怖いのか?腰抜け」


「我愛羅!お前は確かに大丈夫かも知れねえが、俺たちにとっては危険すぎる。巻物は1組あればいいじゃん。これ以上はさ……」


「愚図が、俺に指図するな」


「いい加減にしろ!たまには兄貴の言うことも聞いたらどうなんだ!」


「お前らを兄弟と思ったことはない。邪魔をするな、殺すぞ」


「我愛羅、やめなよ。ね?そんな冷たいこと言わないでさ。姉さんからもお願いするから」



今なら我愛羅君の言葉の意味が嫌というほどよくわかる。ナルトと同じように誰からも見放され、更にナルトがようやく見つけた数少ない恩師や仲間すら今の今まで手に出来ずにいる。暗殺されかけ続け、自分の存在価値を戦闘で相手を殺すことにしか見出せなくなった我愛羅君……。彼自身のせいじゃない、ほとんどは周りの環境のせいよ。彼の心の闇はやはり大きくて深い。悔しいけれど私には何もできない。ナルトじゃないと、この闇は絶対取り除けない。もう少しの辛抱だから、待ってて、我愛羅君。






その時……何か思いつめ動かない私を急かそうと、キバ君が思い切り腕を引っ張ったのが災いした。体調が思わしくないことも祟ってバランスを崩し、小さな悲鳴と共に低木の枝をへし折る形で倒れてしまう。……しまった。さすがにこれだけの失態は見過ごしてくれない!


なんとか宥められそうな状態だった我愛羅君が、再びこちらを凝視する。


「……下手な格好で隠れてるそこのお前ら、出て来い。さもないと……殺す」


「馬鹿な奴らめ……助かったはずの命をふいにするとは」


「……もう俺は関与しないじゃん。我愛羅、やるなら勝手に1人でやれよ」





ど、どうしよう。戦闘意欲を示しているのが1人だけとはいえ、このままじゃ……。せ、せめてキバ君とシノ君は先に逃がさないと!そう思い立ち上がろうとした瞬間、赤丸を腕に乗せられる。


「(小声)……ヒナタ、ちょっと赤丸頼んだぞ」


「(小声)……え?も、もしかしてキバ君!」


「おい、てめえら!お前たちなんぞ俺たち全員で掛かるまでもねえ、俺1人で十分だ!!」








[19818] キャラ別戦闘力設定集1(ヒナタ+第7班)
Name: 林檎◆31536b05 ID:6577f532
Date: 2010/07/06 21:31
ナルトたちの戦闘力目安です。『明らかに変だろう』、『他キャラと比べてバランス悪すぎ』というところがあればご指摘をお願いします。また、あくまで参考材料です。数値が高い=より強い、と100%決まるわけではありません。離れすぎるとそうも言っていられませんが。








ステータス基準 はたけカカシ(幸か不幸かこの作品中永遠に不変予定)

得意性質 雷

体力(スタミナ)       1000
攻撃(体術)         1000
術習得度(忍術 ×術ランク) 1000
防御(耐久全般)       1000
敏捷(移動速度)       1000
知力(頭脳回転 ×知識量)  1000
チャクラ総量         1000
(蓄えられるチャクラの最大量。健康時8~10時間の睡眠で回復する量にほぼ等しい)    





<11話終了時点>




うずまきナルト(逆行)

得意性質 風

体力     3000
攻撃     1200
術習得度    800
防御      600
敏捷     1000
知力      600
チャクラ総量  200 (元々は4000、九尾含めて10万)


この作品での新術


風遁・積寂風の術    チャクラ消費 3(/回)

威力を完全に捨てた上で風性質のチャクラを有効範囲内(自分を中心に半径10メートル程度まで)のある一点に集中させ、チャクラの用途を『炎性質チャクラの活性化』に完全特化させた術。溜めれば溜めるほどチャクラが霧散しやすくなるため上限があり、室内のような閉ざされた空間なら5倍、開かれた空間なら3倍程度。5倍の活性化状態とは、チャクラ保有量5倍の火遁の術として振舞うことを指す。

術の習得度が上がった場合、上限は変わらず術1回ごとの活性化効率が増す。今のところ、3、4回使うと100%増という活性化効率。なお、最初に進入してきた火遁を問答無用で活性化させるので、敵の先行火遁を強めてしまう危険性も併せ持つ。また、発動までの必要時間が割と長い。



日向(うずまき?)ヒナタ(逆行)

得意性質 ?

体力      600
攻撃      500
術習得度    800
防御     1200
敏捷      600
知力      900
チャクラ総量 3500


新術?

白眼催眠  チャクラ消費  10(/回)

精神的ショック等で思考が止まっている人と向かい合い、本来チャクラを感知するための白眼から自らのチャクラを逆流させ相手に放出、強い催眠を掛ける。その後、意識回復と共に直前の記憶を忘れさせる。ただし、『幸福感溢れ、戦闘意欲0の時』にしか使えない。



春野サクラ

得意性質 水

体力      120
攻撃       80
術習得度    100
防御      100
敏捷      100
知力      400
チャクラ総量  100


新術 

絶賛習得中



うちはサスケ

得意性質 火

体力      200
攻撃      120
術習得度    150
防御      200
敏捷      150
知力      500
チャクラ総量  400


新術 

火遁・豪龍火の術(先行習得)  チャクラ消費 100(/回)

  

 
<○○話終了時点>

随時更新









[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(18)
Name: 林檎◆31536b05 ID:26bd2744
Date: 2011/06/05 19:36
――正直、終わったなと思う。

いくらヒナタが賛同してくれたと言えど、やっぱり思いとどまっておくべきだったということか。俺は今ヒナタとシノを庇うべく、震えまくる両足を懸命に支えつつ3人の敵の前に立ちはだかっている。……両脇の2人に戦闘意欲が見られないから事実上1対1でまだマシ?ははは、馬鹿言うな。未だ殺気バリバリのその1人がべらぼうに強いんじゃねえかコンチクショー。万が一どころか、億が一すら勝てる気がしないぜ。

だが、相手の強さはとにもかくにも桁外れ。
全員で逃げ出せば、まず確実に追い付かれ逆上の勢いのまま全滅。
全員で戦ってもやはりあっけなく全滅。
となれば1人が囮となって少しでも時間稼ぎをして、残りを逃がすのが最善だってことは俺でも分かる。

そしてそういうことならば、そもそもこうなる発端を作った奴が責任を持って囮を務めるってのが筋ってもんだ。後ろから、ヒナタに抱きかかえられた赤丸が俺の意図を悟って必死に吠え立てている声が聞こえるが、赤丸を残したところで大して勝率は上がらない以上、どうかシノたちと共に生き延びてくれ……頼む。


「キ、キバ君……そんな……!」

「行けっ!!」


俺の渾身の叫びを合図に、固まってしまうヒナタをシノが強制的に引っ張り、一目散に離れ出す。幸い、我愛羅とやらが逃げていく2人+1匹に興味を示すことはなかった。その目はただただ俺を見つめ、まさに血祭りに上げてやるという雰囲気を醸し出す。


「――なあ、そこのお2人さんよー。あんたらは、別に戦う気はねーんだよな?」

「……ああ、ない。お前如き、我愛羅1人で何百倍分のお釣りが来るからな。遺言なら聞いてやるぞ?」

「仲間を助けるために命を捨てるとは見上げた根性じゃん。まあ、お前が死んだ時点で向こうの奴らも失格になるから、結局愚かなことに変わりはないが」

「……ハッ、違いねえ」


俺と戦うことはもちろん、逃亡阻止に動く気配もなさそうなのが少し安心した。とりあえず愚か者は愚か者なりに足掻いてみるぜ。体が悲鳴を上げることを承知で持っているありったけの兵糧丸をかっ食らい、目の前の少年と対峙する。

俺、犬塚キバは、生まれて初めて死を覚悟した。



VS我愛羅!




ザザー……。

ただ無言のまま、奴は手を振り翳す。それに合わせて、背負う瓢箪から漏れ出してくる大量の砂のこすれる音――それだけが、ここにいる4人――いや、2人の場を支配する。立っているだけで気力が削がれていく気がしてならないが、時間を使ってくれるのは囮としてはありがたいことだ。……それにしても、ここまで冷静になっている自分にビックリだぜ。恐怖のあまりおかしくなっちまったのか?俺の脳。まあちょうどいい、だったらもうちょい狂っといてくれ。

とりあえずさっきのごく短い戦いから見るに、あの砂に囚われたらその時点でアウトなのは間違いない。それも大怪我なんて生易しいもんじゃない、即死もんだ。砂だけにクナイで弾くなんて芸当も不可能に近いよな、少なくとも俺なんかの腕じゃ。赤丸とのコンビネーションによる獣人分身ができないから、牙通牙も使えない。もしかしたらあの高速回転を以ってすればある程度は砂の障害を打ち破れそうだったんだが……って、いまさら赤丸がいないこと悔やんでどうするよ!


カッッ!!


(――来る!!)


見開いた目を合図に怒涛の速さで突進してくる砂の塊になんとか反応、間一髪のところで横っ飛びでかわす!

ドゴ―――――ン……。

うおっ、さっきの戦闘で見せた時より更に砂の速度が上がってやがる、マジで危ねえぞこのスピード!兵糧丸使っての全力の跳躍でもマグレで助かりましたってところじゃねえか!

轟音に振り向いて見れば、1秒前に自分がいた所に当然のように漂っている砂、砂、砂。木々も地面も、とにかく奴と砂とを結ぶ直線付近にあった一切合財の物体が綺麗に吹き飛んでいる。あれが自分の体に起こったら?包まれた後圧死させられる以前に死にそうな気がしてきた。


「ほう、今のをかわすとは」

「スピードだけなら中々のもんじゃん?」


完全に傍観者となっている2人からお褒めの言葉を頂いたぜ。――すいません、ただの運です。

さあ、次の砂攻撃は……。



クイッ。


(そりゃあさっき出した砂を再利用してくるよなあああああああ!!)


俺の苦労をあざ笑うかのごとく(まあ外見上はポーカーフェイスなんだが)、腕の一振りで先ほどの砂を再び俺に向けて突進させる。いや違うな、動き出したのを認識した瞬間から、俺は『直線的に向かわせる』と決め込んで動いている。悔しいが、他の選択肢を捨てて回避の効率化を図ることでようやく体が追いつくみたいだからな。

瓢箪の大きさからするに、まだまだ砂の蓄えはあるんだろーな。あれと同じものを2つも3つも繰り出された時点で終わる。ごく簡単なフェイントを掛けられても終わる。ったく、さっきから救いようがないぜ。

一条、二条、三条。


回避しても回避しても、通り過ぎた先にあるとある1点からカクンと折り返し再び一直線に襲い掛かってくる。それはまるで、砂が織り成す一筆書き。こんな場面でなければ、その軌道の美しさに惚けることさえできただろうに、なんてな。

間一髪で回避したと思ったら、通り過ぎた少し先でカクンと折り返し再び一直線に襲い掛かることの繰り返し。到って単調、されどあまりにも凶悪。


はっきり言おう。ここまでかわせた俺ってすげー。ついでに相当な悪運だ。







「シノ君!あのままじゃ、キバ君が!!」


シノ君は無言を貫く。いつもの寡黙とは全然違う、仲間に確実に迫る死に絶望していることを示す無言。動転している私は、キバ君を想い吠え続ける赤丸を抱いたまま、ただただ腕を掴まれ全速力で逃げていく。


「俺だって……俺だってキバを見捨てることなど本当は耐えられない。だが、ここで留まっていてはあいつの犠牲を無駄にすることになる。あいつが最期にもたらした最高のチームワーク……そう割り切るしかないんだ」

「……犠牲?犠牲ですって?そんな言葉使わないで!!」


シノ君の言葉にようやく目が醒め、体に力を込める。意識さえ取り戻せば、今の私の腕力にシノ君が適う筈がない。たちまち私の体は静止し、その腕を掴んでいた彼の体は思い切りつんのめった。


「がっ!?」


盛大に転倒するシノ君。よろよろと立ち上がるけど、私の力に驚いている感じ。


「ヒナタ、どこからそんな力が……とにかくだ。今できることは少しでも遠くまで逃走することだ。お前も分かっているだろう、俺たちが束になってもあいつには全く適わないことくらい」

「それは……」



確実に勝てるなんて偉そうなことは言えない。でも本気を出せば、増えているチャクラの恩恵もあり守りに徹するくらいの事はできる。こうなったら、キバ君が気絶するタイミングを見計らって誰かの変化状態で舞い戻り、電光石火でキバ君を回収するしかない。本当は今すぐにでも助けに戻りたいところだけど、我愛羅君たちとキバ君のどちらにも、私のあり得ない能力を見せるわけにはいかない。多分、命は取り留めても重体は覚悟しなきゃならないけど……。あと何分、いえ何秒待てばいいのかな。



……ちょっと待って。本当にこの考えは正しいの?



我愛羅君の砂の攻撃は、決まれば一瞬で片が付く。気絶と死亡の合間を見極めることなど本当にできるのか?


無意識とはいえキバ君に同意した私が、そ知らぬ顔で殺し合いを傍観していていいものか?


そして何より――。




『仲間を大事にしない奴は本当のクズだってばよ!』


機密事項を守る『如き』のために、キバ君が殺されかけるのを黙って見ていられるわけがない!!


「シノ君、ゴメン!」


小声で呟き、おもむろに首筋に手刀を叩き込んだ。










……目の前に馬鹿がいる。いや違う、こいつは馬鹿なんかじゃない、大馬鹿だ。


「ふーっ、偵察分身体により十分な距離確保確認!そろそろペース落としても大丈夫っぽいな。サクラちゃん、降りていいってばよ」


結局、遅れ気味だった私はナルトに背負われて数キロ運ばれることになった。延々と呪詛のように何かをブツブツつぶやいて自分だけの世界に入ってしまっているサスケ君が不気味だったけど。


「あ、ありがとうナルト」

「いやーゴメン。マジでゴメン。生まれてきてゴメ……はなんか違うか。俺がサクラちゃん背負う結果になって、本っ当に申し訳ないってばよ。サスケがこんな状態じゃなきゃこんなことにゃならなかったのに~」


どうやらサスケ君に私を背負わせる段取りだったらしい。私に気を使っているつもりなのよね、これって。しかし、逃走速度を倍近くにまで上げることができたという結果から見ても、私はナルトに対して感謝こそすれ非難するつもりなどさらさらなかった。というか、そんな権利すら元からあるわけないじゃない。だってのに。


「えーっと、つきましては、後腐れがないように今のうちに俺の顔殴っていいってばよ?あ、グーでもパーでもいいけど、お願いだから1発だけで勘弁な?」

「な、何言ってんのよ!そんなことできるわけないじゃない!」

「ええっ、そんなんで済むもんか馬鹿野郎ってくらい怒ってる?ど、どうしたら許してくれるってばよサクラちゃん~!」


マジで悪いことをしたと思ってるっぽい。……あームカツク。むしろこのムカツキの代償として殴ってやりたい。そりゃあね、私っていつもサスケ君サスケ君って連呼して昔から崇め奉ってたわよ。そんでもって、ナルトのことは散々毛嫌い・馬鹿呼ばわりしてたわよ。だからって、こんな時に私情を挟むような人間じゃないわ、以前ならともかく今の私の成長度じゃ。第一、最近はナルトも中々頼れる存在になっているし、下手すりゃサスケくんより頼れる局面も――あれ?下手しなくても結構多いような?気のせいかな。とにかく、こんなんじゃ調子狂っちゃうわ。


それに何より――あれだけ嫌っていうほど私に対して好き好きオーラを向けていたナルト。私を背負うなんてことが決まったら『グフフ……サ~クラちゃ~ん。俺が背負ってやるから安心するってばよ~』なんてほざきながら下品にデレデレして変な妄想でも描き出しかねなかったはずのナルト。薄々気付いてはいたけれど、『あの』ナルトは一体どこに行ったっていうのよ。違和感ありまくりだし!何か陰謀でも企ててるのかって思うと腹立つし!


……ごめんなさい、唯の言い訳だったわ。本当は――心のどこかにぽっかり小さな穴が空いたみたいで、ただただ悲しい、っていうのかな。





――ナルトは良くも悪くも素直である。『自分にサクラちゃんと付き合う意志がハナからない以上、サスケとサクラちゃんが付き合うことになっても何ら問題はない。歴史に悪影響を及ぼすとも思えないし、万が一の時に少なからず里抜けに対する未練、防波堤の役割を果たしてくれるだろうから、むしろ一刻も早く付き合い出すように応援しなければ』という思考のもとふるまう傾向にある。更に、何気に鈍感な彼は、前の歴史が証明しているようにそもそもサクラが自分に恋愛感情を持つわけないと半分決め付けている節がある。
ところが前の歴史、実はそう単純な話でもない。第7班結成時こそサスケ大好きナルト大嫌いでスタートしたものの、持ち前の負けん気を実際に目の当たりにするようになってからは以前とのギャップもあってナルトの株は急上昇。『嫌悪感無しに会話できる』程度の間柄はやがて『ふざけ合える友達』を経て『頼れる仲間』へ移行し、自来也との3年間の修行後あたりでは他の同期を引き離し『最高の戦友』、暁との争いの中で遂に『ちょっと気になる人』へと変わる。この評価、サスケに対する評価の『大好きな人』に比べれば大したことはないではないかと侮ってはいけない。盲目的な恋から醒めた結果サスケについてはむしろ『好きな人』に下方修正されていたし、ぶっちゃけた話サスケの存在を抜きにすれば半年経たずに付き合い出すこと必至なレベルである。実際は若干心が揺れ動いていた頃にナルトがヒナタと付き合い出したため迷いを断ち切ることができたのだが、とにかくそのくらい微妙な天秤なのである。
前の歴史ですらそうなった。加えてこの歴史では、ナルトが下心ゼロのカッコよさ全開ペース。時折見せるはずの呆れるような間抜けさもない。まだまだサスケには及ばないとはいえ、内なるサクラのナルトの株は、剣山も逃げ出すほどの急勾配で上がり始めていた。











「痛え……人間、そうそう調子に乗るもんじゃねえな」


マグレ回避の連続に『これ、ひょっとしたら逃げ通せるんじゃねえ?』なんて思っちまった俺。結局は虐殺前にあざ笑っておくための準備運動として踊らされただけらしい。不気味な笑みを見せたと思えばいきなり速度を倍にされちゃあ処置なし、懸命にかわそうと踏ん張るも脚を絡め取られたところだ。複雑骨折してるのか、立っていることすら出来ずにそのままうずくまる。未だに砂は取り付いたまま、出血によりじわりじわりと赤く染まっていく。――奴がゆっくりと近づいてきた。


「どうした、所詮この程度か。大したことないな」

「……あ、あは、そりゃあ悪うござんしたねえ。同期の中でも俺は冴えない部類に入るからな。お前みたいな化け物には歯も立たねえ」


我愛羅がゆっくりと――腕に力を込める。


「そうか、それでお前は捨て駒にされたのか。なら、逃げていった方を殺すほうがまだ少しは楽しかったな」

「おいおい、俺の仲間を馬鹿にするんじゃねえ!あいつらはそんなこと絶対に言わねえし思わねえよ。むしろ非力な俺を逃がそうと自分から囮を買って出てたかも知れねえな。……だが、不注意でお前らに見つかったのは全部俺の責任だ。だったら、俺がしっかり責任を取る、唯それだけだ。お前だって、仲間が危険な目に遭っていたら是が非でも助けようとするだろーが!?」


砂はもう体全体を包み込み、まさにいつでも殺せる状況ってやつだ。


「仲間?そんな幻想があるものか。結局信じられるのは自分だけだ。人は依存しあうから弱く、脆くなる。信じるから裏切られたときに深い心の傷を負う。俺は生まれてこのかた、ただひたすらにそれを学んできた……いや、学ばされてきた。くだらない感情などとうの昔に捨て去った。だから俺は誰よりも強い」


「…………」


あまりにも俺達と異なる価値観。木の葉の忍びなら老若男女問わず絶対に受け入れられない、吐き気を催すような価値観。


「後ろの2人は……仲間じゃないのか?」

「補佐役と言い張り勝手に付いてきているだけだ。俺の兄、姉を名乗っているが、正直どうでもいい。目障りになればいつでも殺すことはできる、精神的にも実力差的にも」


それは……あの2人にとっちゃ、残酷な言葉じゃなかろうか。口は悪いが、こいつを心配していることは十分伝わってくる。それなのにこうもあっさり突っぱねられるとは敵ながら不憫の一言だ。そして、実はこいつ自身も果てしなく不幸なのかもな。こいつはいままで、どんな人生を歩いてきたんだ?どんな辛い人生なら、ここまで頑なに人を信じられない怪物になれるんだ?怖いが、いつかぜひ聞いてみたい。……まあ今の状況じゃ叶いそうも無いが。奴がとうとう爆破のために拳を握り始めた。全身が締め付けられる。あいかわらずドクドクと血は流れ、意識も朦朧としてきた。シノ、ヒナタ、赤丸。……一足先に……あの世で待って、る、ぜ……。




急に爆発した砂に、我愛羅の目が見開く。
何故か?圧縮こそしていたが、まだ自分は爆破させるほど力を込めてはいなかったからだ。

やや後方から闘いの終焉を興味なさげに眺めていたテマリ、カンクロウが目を疑う。
何故か?吹っ飛ばされたキバの体にはもはや砂が纏わり付いておらず、気絶中とはいえ一命を取り留めていたからだ。

そして、我愛羅の表情が一瞬にして憎悪に変わる。何故か?
もう少しで訪れていたはずの最高の余興が、1人の少女によって邪魔されたことを認識したからだ。



[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(19)
Name: 林檎◆31536b05 ID:8fc01092
Date: 2011/06/28 02:10
「……何の用だ、一度は逃げ出しておいて」

「はい。やっぱり考え直して、仲間を助けることに決めました」


 視線で人を殺せそうな我愛羅君に対し、はっきりとこう答える私。正直、戦うのは怖い。でも、不思議と心は晴れやかみたい。やっぱり、自分の忍道を一心不乱に貫き通すのって気持ちいいよね、ナルト。あなたなら、こんな躊躇することなくこの状況で同じ事をやってのけるはず。


ちなみに、さっきのやりとりで助かったキバ君は絶賛気絶中。うんうん、白眼に加えて最近の修行のおかげで、死亡か気絶かの判定がとってもうまくなった気がする。ありがとう、サスケ君!


「……砂縛柩」


つい思い出し笑いをしてしまっていたら、たちまち砂が一直線に襲い掛かってきた。危ない!……ってことはないんだよね、この程度ならまだまだ。拳に『ほどほど』のチャクラを乗せ、精神を研ぎ澄まして――。


「ハアァ――ッ!」


ボンッ――……。


吸着の真逆、反発の作用としてチャクラを利用し、臆することなく真正面から腕を振るう。結果、怒涛の如く押し寄せてきた砂は腕に絡みつく暇もなく大きく吹き飛んだ。だが、後続の勢いが勝り、すぐに砂はまた牙を剥く。


(少しチャクラが少なすぎたかな……よし!)


一瞬固まった相手を目にやりながら徐々に込めるチャクラを増やしていき、パワーと反発力を高めて拳を突き出す。――少しずつ少しずつ、砂の吹き飛び方が豪快になってくる。とにかく、対処に失敗して一度でも絡みつかれると、そのまま砂瀑送葬に持って行かれて終わっちゃうのよね。それだけは絶対に防がなきゃならないから、まずは後続の砂もろとも少しでも遠くまで弾き返し攻撃のペースを落とすことを考えないと。


忘れちゃいけないのが、脚にも同じ対策をする必要があるということ。砂は馬鹿正直に胴体目掛けて飛んでくるだけの代物ではない、時には死角を縫って地を駆けてくる。拳の攻撃対象に向いていない、そして目で捉えにくい分こちらのほうがむしろ厄介、そう考えた私は、倍以上のチャクラをスタンバイさせているの。いざという時蹴飛ばせるのと蹴飛ばせないのとでは大違いだし、ね。


守鶴状態でもない限り、我愛羅君が直接殴りかかってくることはほとんどない。絶対防御で高みの見物を決め込んでの遠距離攻撃任せ、というのがお決まりのパターンのはず。ただ守りに入るだけなら、この単調さ……じゃなくて素直さは正直言ってありがたいわね。余計なことを考えなくて済むわ。


――でも、ちょっと困ったことになったわね。戻ってくるまでは頃合を見計らってキバ君を連れて逃げる予定だったんだけど、よく考えたら完全に切れてしまった今の状態の我愛羅君をこのまま野放しにしておくのは……こ、怖すぎる!死の森が本当に屍の森になっちゃうかも。ここまで来た以上私がなんとかしないと――。





――ならば、戦い続けるしかあるまい。


……え?


――簡単なことだ。あの砂の絶対防御は確かに崩すことは不可能だが、こちらにも柔拳使いとしての非常に堅固な守りがあるではないか。脇の2人の存在を考慮しても、有り余ったチャクラを頼りにすれば持久戦に持ち込むことなど至極容易。できるだけとことん勝負に付き合って時間を掛け、奴の戦意を削ぎ落としてやればいい。たとえ戦意が削り切れなくとも、攻撃させ続けてチャクラと体力を大幅に消耗させておけば、怒り狂って殺戮をする余裕すらなくなるというものだろう?


……そっか。そうだよね。でも、キバ君の容体が心配なんだけど。


――出血は酷いが致命傷は避けている、お前の予想通り見た目ほど危険ではない。脇の2人についても、戦いに干渉するつもりはさらさらないであろうし、そもそもできないというものよ。さあ、もう御託はよせ。――本当は真剣勝負で奴と戦ってみたいのではないか?


……あれ?うーん。そう、なのかもしれない。






……それにしても、さっきから私は何を自問自答しているのだろう。




大激突



砂が擦れ、あらゆる物をなぎ倒し……ただ1人の少女によって爆ぜられる音だけがただひたすらに響く。


「ハァ、ハァ……いい加減、あの世に行け、攻撃の一つも出来ない臆病者が」


思い通りにならない。思い通りに殺せない。ただそれだけのこと、だがとてつもなく不愉快なことに我愛羅は歯噛みする。とはいえ、流石に疲労の色が見えてきた。


「ハ、ハハハハ……なあテマリ、特別に許すからちょっと俺の顔を思いっきり殴ってみてくれ。これは……本当に現実か?まさかな、夢だよな、幻だよな!?」

「し、信じがたいが……現実だ。いい加減認めろ、カンクロウ」

「だ、だってよ!たかが下忍、それもルーキーらしいくの一ごときに、あの我愛羅の砂の攻撃が一発もまともに入ってないんだぜ!?お、俺は信じないじゃん!」

「それも、絶妙なタイミングで気絶した仲間に応急処置を施した上で安全地帯に転々とさせつつ、か……全く、木の葉には恐れ入る。あのうちはサスケとやらが期待の星らしいが、実はこちらが影の本命とかほざくんじゃないだろうな?」


戦力外通告を受けて、ひたすら傍観者となって呆然とするしかないテマリ、カンクロウ。下手に隙を衝いてキバにトドメを刺そうとすれば、瞬く間にヒナタに処理されてしまうだろう。まあ実のところ、ヒナタに2人を殺す気はないのだが。


「す、砂の量もスピードも、分岐数もフェイントも恐ろしく多くなってきた……始めのうちにキバ君に血止めだけでもできてよかった、本当によかった。だいぶ見通しが良くなっちゃったけど、これはかわす分には好都合よね。急に切れるなんて事にならないでよ、私のチャクラ!!」


ヒナタはここまで1時間あまり、クナイ1本、手裏剣1枚すら投げず、ただひたすら相手の攻撃を耐え切ってきた。最初はチャクラ反発による単純な吹き飛ばし。攻撃が重くなってきてからは、れっきとした術としての柔歩双獅拳を駆使して砂の塊ごと破壊。周囲に砂を展開されて逐一対応が出来ないと見れば、秘密兵器の全身ガード、守護八卦六十四掌で全部まとめて耐え凌ぐ。


ただ口で説明するのはあまりにも簡単だが、どの行程にも恐ろしい量のチャクラが消費されていった。先ほどなどまさかの流砂瀑流を仕掛けられて内心大慌てしたのだが、限界までチャクラを注ぎ込んだ守護(守護八卦百二十八掌とでも呼ぶことにしよう)でどうにかこうにか砂を押し返した。その1回だけで、大抵の忍がチャクラ枯渇で気絶するほどのチャクラが綺麗さっぱり消えていった。


もはや周辺は、木々が鬱蒼と茂る森ではない。砂の暴挙により岩も木の幹も砕きに砕かれて、半径100mが日光の差し込む異空間と化している。チャクラを使い切り力なく落ちていった砂が辺り一面に広がっているせいで、突如現れた空き地にすら見えてしまう。響き渡る轟音と立ち上る砂煙に気付く参加者も若干いたことにはいたのだが……むしろ驚愕と恐怖のあまり近づこうとする者などいるはずもなかった。


ヒナタにとって嬉しい誤算は、ここまで消費してなお、チャクラが有り余っていることだった。というより、消費するたびにどこからともなく回復されていく感覚がある。無論、極度の緊張による疲労には勝てはしないだろうが、それを考慮したとしてもあと5時間、いや半日くらいは同じペースを保てる自信があった。本当にやったら後で体がガタガタになるだろうが。


一方の我愛羅はそうは行かない。ある程度以上強いチャクラによる衝撃を受けた砂は、自身に込められていたチャクラを殺されてしまい操作の枠から外れる。そうなってしまった砂を再利用する、あるいは地面を削り取って新たな砂を確保する、そのどちらにせよ、そこに込めるチャクラは当然我愛羅が提供しなければならない。チャクラ量で大きな差がある2名が同程度ずつチャクラを消費していけば、もともと少ないほうが先に音を上げるのは当然だろう……。











「……あれ?」


ふと、私は思い至った。我愛羅君って、一尾の人柱力よね。特に守鶴化はしていないから尾獣のチャクラに頼っていないと仮定しても、なんで私ごときがチャクラ量勝負に勝てるの?ナルトみたいに歴史逆行にさらされて不可解なアクシデントに見舞われたわけでもないようだし。もうごまかしてはいられない。いくらなんでも、多すぎる!


衝撃の事実に思わず体が硬直する。幸い、砂は飛んでこなかった。


ちょ、ちょっと待つのよ私。今はとりあえず余所見厳禁、この戦いを終わらせてからナルトと一緒に落ち着いて考えればいい。ナルトも言ってたじゃない、多いに越したことはないから喜んでおけって。それに、キバ君との戦いや私達との遭遇以前の戦いでチャクラを湯水の如く無駄遣いしただけかもしれない。そ、そうよ。


必死に否定しようとする自分が居る。一方で、何故か『私ならチャクラ量で負けない』と思い込んでいたのではないかという不穏な結論に達してますます混乱する自分が居る。何、何なの?自分が、自分じゃないみたい――。


――それにしても、急にぱたりと攻撃が止んだんだけど、どうしたのかしら。


そう思って、ようやく我愛羅君の方を……見ることができなかった。


ゾワッ!!


(こ、このチャクラの膨れ具合!ま、まさか!)


「こ、こら我愛羅!流石にそれはまずいって!」

「そ、そうだぜ。ここで開放するのはいくらなんでも早すぎるじゃん!抑えろ!」


周りの警告もまるで聞かず――実はしばらく呻きつづけていたのだろうか、苦悶に歪められた顔をした我愛羅君が、チャクラ枯渇からの自己防衛反応からか――とうとう守鶴化を始めていた。も、もしかして私、やりすぎた!?



ハッと、私は困惑した。

ここまでされてさすがに勝てるだろうか、という絶望によるものではない。

これでこの戦いがますます混沌としてくる、という嘆きによるものでもない。

これは、どこからか滾々と湧き出してくる、私自身の戦闘欲に対するもの。



守鶴化後の我愛羅君の戦闘スタイルを理解しているのか否かすら分からぬまま……私は無謀にも、一転して全身全霊で突撃を仕掛けていた。









さて、ここまでの激しすぎる戦闘についてなんらかの反応を示した者は果たして存在したのだろうか。


述べたように、近くを偶然通りかかってしまった者はただ『危険極まりない』と感じて離れるだけだった。あまり反応とは呼べないかもしれない。


ナルトはどうか?残念ながら、まるで正反対の場所に位置するヒナタの戦闘について知る由もないし、第一大蛇丸との追いかけっこがようやく終わってほっと一息ついたところだった。


ヒナタと同じく日向家一族にして白眼を持つ日向ネジも、本来の歴史でリーがナルトたちと接触してから割とすぐに駆けつけたことから分かる通り、ヒナタとは位置が大きく違う。索敵範囲から漏れなければ、凄まじいチャクラの衝突に気付けたはずなのだが、これは不運としか言いようがない。ヒナタのことがばれなかったという点では幸運かもしれないが。


そして大蛇丸は、ナルトらを見失った後もしつこく後を追う……のではなく、かなりの速度を保ちながらもあっさりと方向転換に踏み切っていた。いや、むしろ先ほどよりも速くなっている。その目は、もはや作戦失敗による無念の目ではない。次の獲物を射程圏内に捕らえた、まさに蛇の目。そう、サスケが危惧したことが、まさに現実になろうとしていた。








そして――――もう、1人。




「……こりゃあ厄介なことになりそうだぜ、全くよ」




各々の行動、思惑が交叉しあい、中忍試験はますます激しさを増していく。





[19818] ヒナタを本気で幸せにするシナリオがあってもいいんじゃないか。(20)
Name: 林檎◆31536b05 ID:4ec55f8d
Date: 2011/06/29 23:55
ジャァァー……。


大木の根元のちょっとした空間に、ひっそりとその3人は隠れていた。周りの木々の位置関係からそれなりに効果はあるようだ。サクラは竹筒の飲み水を惜しげもなく手拭いに掛け、十分に湿らせる。軽く絞ってから向かう先は、発熱で息を荒くして苦しそうな表情で眠ったままのサスケの額。そう、少しでも楽になればと、必死に看病しているのだ。更に、サスケの隣には同じく眠りこける金髪の少年、ナルト。もっともこちらは単に疲れ果てているだけのようだが、とにかく動けそうなのは彼女1人しかいない。


一通りの処置が済んでため息をつくが、気を取り直して見張りを開始する。ただでさえ戦力的には見劣りする彼女、安心しきるあまり不意打ちを食らいました、では一大事。


しかし、疲れと重圧でサクラも限界に来ている。いつのまにやらうつらうつらと舟を漕ぎかけ、ハッと我に返った。眠気を振り切ろうと必死に首を振る。


「眠っちゃ、駄目。私が、2人を、守らなきゃ……」


だが――やはり睡魔には勝てない。30分もしないうちにサクラは完全に眠りこけてしまった。


次に目を覚ましてみれば、小鳥さえずる早朝。かなりの時間、見張りをサボタージュする結果となってしまったようだ。襲撃されなかったのはまさに幸運としか思えない。慌てて辺りを確認し、脇に眠る2人の容体も確かめて息を撫で下ろす。最悪の事態は免れたようだ。


「もう、夜明け……っ!」


ガサガサッという草の擦れる音に、びくつきながらも思わず振り向けば、背後から現れたるは!


「――リス?何よ、あんまり驚かさないでよ……ハッ!?」


咄嗟に立ち上がってクナイを投擲する。駆け寄ってきたリスの目の前に突き刺さったそれは威嚇には十分で、たちまちその小動物は引き返していった。サクラは安堵する。――訳があるのだ、今の行動には。








それを離れたところから見つめる者、三。


「気付かれたのか?リスに付けた起爆札が」

「いや、そうじゃないよ」

「ああ?じゃあ何だよ、どういうことだよ」

「多分、近くまで行けば分かるよ。――だから、そろそろ行くよ」








彼らが近づいても、サクラは相変わらず眠たそうにしている。まるで気付くことができないようだ。


「ふっふっふ、寝ずの見張りかい?」

「……!!」


声を掛けられ流石に気付いたが、時既に遅し。ほんの十メートル先、忍にとっては1秒の猶予にもならないような距離にいるのは、あの音忍3人衆、ドス・ザク・キン。


「でももう必要ないよ、サスケ君を起こしてくれよ。僕たちソイツと戦いたいんでね」

「何言ってんのよ、一体何が目的なの?大蛇丸って奴が影で糸引いてるのは知ってるわ!」


サクラの必死の啖呵に、敵は若干の動揺を見せた。


「サスケ君にこんな事しといて、何が『戦いたい』よ!」

「――さあて、何をお考えなのかな……あの方は」

「しかしそれを聞いちゃ、黙ってらんねえな。この女も俺が殺る、サスケとやらも俺が殺る」


そう言って立ち上がり、早速一勝負といきり立つ男。だが、それに待ったを掛けるもう1人の男。


「待て、ザク」

「あ?何だよ?」


振り返った方に対し、止めた方は答えずにゆらりと歩を進める。足元のカラクリを見切ったようだ。あっさりと何かをめくったと思えば、子供だましのような仕掛けがそこにある。レベルの低さに鼻で笑う。


「ベタだな、ひっくり返されたばかりの土の色。この草、こんな所には生えないでしょ。トラップっていうのは、ばれないように作らないと意味ないよ」

「ちぇっ、くだらねえ!あのクナイはリスがトラップに掛からないようにするためだったのか」


心底馬鹿にした様子でサクラを見つめる6つの瞳。退路ここに絶たれたりということか、サクラは絶句するしかない。


「――すぐ殺そう」


リーダーのドスがそう薄気味悪く笑ったのを合図に、3人はサスケを叩き起こしに……ひいては、サクラをなぶり殺しに突撃した。ただでさえ実力で優位な上に3対1である、当然の選択だろう。だが、これをサクラは待っていた。小さく笑って、すぐ横に張っておいた忍糸をクナイで切断。そう、戦場のはるか頭上に、切断しておいた大木の幹が仕掛けられていたのだ。支えを失ったそれは、重力に従い弧を描きながらまさに3人の目の前に襲い掛かる!


「ここにもトラップが!?ヤバイ!」


目に付きやすいトラップを囮に、死角に本命トラップを仕掛ける。我ながら良くやった、とサクラは笑う……が。


「――なーんてね」

「……ええっ!?」


ドスたちの驚愕は、サクラを絶望に陥れるためのただの芝居。何らかの術を発動させたらしく、いともあっさりと幹は粉々になる。もはや、サクラと彼らを隔てる物など一切ない。


「はっきり言って才能ないよ、キミ。そういう奴は、もっと努力しないと駄目でしょ!」


自分の弱さの核心を衝かれ、ただただサクラは涙を流し……。





「うずまきナルト連弾(影分身なしver)!」


「獅子連弾!」


「「ホガッ!?」」



男2人がログアウトした。





――これは、ヒナタの死闘の傍らで恐ろしくシリアス成分を破壊してくれる、ナルトサイドの物語である。





音忍3人衆のなが~い一日






――あれ?あっれれー?


ただ1人、女を殴るのは気が引けるという理由で助かっただけのキンは、ぽかーんと口を開けたまま何が起こったのかまるで分からず綺麗に固まった。そんなことお構いなしに、無防備に3人は喋り出す。


「はーい、お疲れー。サクラちゃん、まだまだトラップのキレがなってないってばよ。試験終わったら補習けってー」

「キイィィ!絶対上手くいくと思ったのにー!!せめて、チャクラで幹を硬化させておけばよかったかしら?」

「仮に砕かれなかったとしても、あの速度じゃ楽々避けられてたぞ、分かってるのか?」

「む――、サスケ君厳しい」

「まあまあサスケ、そのくらいにしておくってばよ。少なくとも演技力はバッチリだったぜ、よく集中力が持ったもんだ!そこらの映画にだって出演できるんじゃない?」



そもそも、仕掛けてしまったのが音忍たちの運のツキだった。


あのときは気絶していたためはっきりと把握していたわけではないが、おおよその遭遇ポイントをあらかじめいのいち上忍から教えてもらい、あえて待機。大蛇丸さえ撒けば、別にのんびりしようと勝手だ。奇しくもドンピシャの場所になったのだが、それ以外の要素がまるで異なるのは言うまでもない。


サスケは別に呪印に苦しめられていないし、ナルトも元気そのものである。スピード差の分かなり休めたため、サクラだって本調子に近い。で、ただ待っているのも芸がないということで、ナルトはなんともユニークな提案を出した。やがて来る音忍を逆用し、サクラの演技力を鍛えるというのである。忍の世界で敵を欺く能力は必要不可欠だ。


当時を再現し、ナルトとサスケは眠りこける。もちろんこれは嘘っぱちで、ナルトによるただの手抜き影分身・変化の術。気配を感じたのを合図に、1人心細く仲間の看病をするくの一を演じるように、というなんとも捻くれた課題である。流石のサスケもナルトの悪趣味さには呆れたが、サクラが忍として強くなるのはチームにとってプラスなのは間違いない。


ナルトは自分が気絶していたことしか正確なことは判っていなかったのだが、サクラのアドリブで始まった劇場は奇跡的にかなりの再現率、まんまと獲物が食い付いた。後は、サクラのトラップ構築力も採点した上で、隠れていたナルト・サスケが超スピードで援護に入るだけ。もともと音忍3人衆は、自慢の音やら空気やらの特殊な能力頼りの忍である。それがなければはっきり言って……弱い。体を反らせて頭を壁に可愛くぶつけた位で気絶する奴までいるのだから。誰か、までは言わない。


せっかくの全方位遠距離攻撃である。彼らが少しでも勝率を上げようと思うなら、せめて遭遇するはるか手前からとっとと術を発動させ幻術に嵌めるなり平衡感覚を失わせるなり吹き飛ばすなりすればよかった。ナルトはともかく、サスケやサクラの動きを先手で封じ込め、それなりの状況下で戦うことができた(かも)。できるだけ術を隠しておきたい?そこまで頭が回るなら、そもそも前回自慢げに自分から説明していない。大蛇丸もさぞ嘆いていることだろう。









「で、そこのくの一さん?お名前は?」

「は、はいぃ!?キ、キンです!?」


サクラちゃんの問い掛けに、ビクッと反応して素直に返事をしてしまう相手。すこし意識が飛んでいたようだがとりあえず大丈夫らしい。まあそうだよな、何も攻撃してないんだし。


「そういえばさっき、私のことを散々コケにしてくれたわよね、キンさんの仲間が。この怒りはどこにぶつけよっかなー。あなたはどう思う?ねえ?いやー、腕が鳴るわあ」

「……あ、あら、私に挑むっていうの?ヒヨッ子が、やめた方がいいんじゃない?私の幻術を食らいなさ……」





「あ、悪い。千本と鈴ならさっき固まってる間に預からせてもらった、ほらこの通り」




「ゑ?」





奪ったのは忍具入れごとだが、あえて『鈴』という言葉を出す。こちらはお前の術のことなど百も承知なんじゃ愚か者め、と脅しを掛けているわけだ。自分の懐を確認し、その後呆然とこちらを見返すタイミングで、サスケに豪火球で燃やさせた。流石だなサスケ、溶けてる溶けてる。ただでさえ混乱しているキンに、これは無茶苦茶効いた。


「クナイも入ってたのか、これは返す。まだ熱いから、代わりに俺の分を譲ってやるよ。有り難く受け取れ」


サスケ、それは敵に塩を送るどころじゃない。敵の傷口に塩を塗ってやがる。



「……………………」



「よーし、じゃあそっちもやる気みたいだし、いざ私と勝負!」

「ややややめたほうがいいのではないでしょうか?私はつつつつよいよ?」

「そうなの?」

「そそそそれは勿論。所詮おおおお前はヒヨッコよ」

「どうしたの?そんなに焦って。でも、そっか……そうだよね、私うぬぼれてた。忠告ありがとうね、キンさん。じゃあ……」


右手で俺の腕を。左手でサスケの腕を掴む。ほへ?


「私の代わりに、この2人にちょーっとだけあなたをいぢめて貰うことにするわ」


……サクラちゃんもサスケに負けず劣らずひでぇ。まあ、かなり精神を磨耗する課題だったからな、反動で気が立ってるんだろう。そういやサスケも、ずっと音忍のためだけに柄もなく待ちぼうけしてたんだ、荒れるか。


「い、いぢめる…………(ガクガク)」

「あらあ、何を想像していらっしゃるのかな~?」

「サクラ、こいつ涙目になってるぞ。いいぞ、もっとやれ」

「うふふ、サスケ君も悪よのう……」


2人とも、性格変わってないか?こ、これも演技の続きだよな。そういうことにしておこう。



(日頃ナルトやヒナタにのされてるからな。たまには鬱憤を晴らさせてもらおうか)

(この試験生き残るために、ストレスは発散させてもらわないとね~)



――ナルトの知らないところで、予想以上に2人は図太く逞しくなっていたようだ。






「さて、と。とりあえず、巻物を渡してもらうってばよ(ゴソゴソ)」


ドスの懐を物色すれば、あったあった、地の書だ。これで、俺たちは合格条件の巻物を揃えたことになる。天の書がダブってるから、今のところ合格可能チーム数を減らす役目も担ってる。ついでに、ピクリと動いたことにしっかり気付き、呆れつつ手刀一発、今度こそ完全に気絶させる。……信用して大将任せてやったと思ったらサスケめ、後で説教だ。しっかり倒しとけよ。


「やったー、これで試験を通過できる!!」

「サクラ、喜ぶのは塔に着いてからだ」


あれ、そういやこのまま塔に向かっていいもんかな?カブトに会えなくなるんだけど。うーん、倒しておきたいよなあ、殺しておきたいよなあ。……まあ危険だろうけど。


「それでナルト、この人たちどうするの?」

「そうだな……トドメを刺すのは簡単だけど」


ひぃ、と顔面蒼白になるキンはとりあえず放っておく。


「どう思う、ゲジマユ~」

「……のわあっ!?き、気付いていたんですか、ナルトくん!?」


まさかばれているとは思わなかったのか、あたふたするあまりかっこ悪く枝から落ちてくる熱血漢。迅速処理のおかげで猪鹿蝶やネジ・テンテンは確認できなかったが、こいつは今回も間に合ったらしい。おおかた、突入するタイミングを失ったまま隠れていたというとこか?


「そ、それにしても気付きませんでした!まさか、ナルト君までもがこんなに強いなんて!それにあの動き、まさしく僕の体術を模倣したもの!……あ、別にそれで怒ってるんじゃありません。著作権侵害だーとか使用料払えーとか言いたいんでもありません。ただ感動しているんです。僕があの動きをマスターするまでに、どれほどの時間と汗と涙を費やしたことか……2人とも、素晴らしいの一言です」

「――ふんだ、どうせ私は凡人ですよ、シクシク」

「あああああっ!!そ、そんなことはありません、失礼しました!サクラさんの演技力も恐るべきものがありました!熱血漢すぎて周りが見えないことが多い僕にとっては神業です!どうか機嫌を直してください!後生ですから!」


ゲジマユは必死の形相だが、サクラちゃんはセリフに反してクスクス笑っている。いざというとき助太刀しようとしていたことには気付いているのだ。その気持ちに感謝しないサクラちゃんじゃない。


「あー、ゲジマユ。一息ついたところでちょっといいか?」

「はい、なんでしょうナルトくん?」


ゲジマユはもう仕方ないとしても、これ以上騒ぎを大きくしたくない。さすがにルーキーチームがここまで手際よく、となれば色々と怪しまれるに違いない。ここは丸め込むってばよ。


「ここで見たこと、ネジやテンテンを初めとして誰にも話しちゃいけないってばよ」

「それは……どういうことでしょう?」

「今の状況は、戦いが終わった俺たちのところにロック・リーっていう新たな敵が偵察しにやってきた構図だってばよ。つまり、このままだと俺やサスケは試験の一貫としてお前を倒すなり人質にとるなりしなきゃなんねえ。さすがに1人で対処するのはきつくねーか?」

「む。悔しいですがその通りです。ですが僕は、その……サクラさんを……」

「そう、それに俺達だってそんなことはしたくない。だからこういうことにする、お前は偵察役じゃなく、初めから純粋に人助けのボランティアとしてここに来たんだ、何の見返りも求めずに!」

「……なるほど、読めましたナルトくん。つまり、ここで起きたことを黙秘するならおとなしく僕を帰してくれる。交換条件というわけですね!その約束、守って見せます!」

「おう、男と男の約束だぜ!」


……ふう、行ったか。単純でよかった。








俺は、サスケとサクラちゃんに待ってもらって、3人衆を始末、もとい適当な場所に隔離することにした。震えながらもキンは俺の後を付いてくる。男2人は俺が背負っているが、……こいつら重い。特にドスとやらの体重が。


「いいか、あんまりにも2人にいじめられてるアンタが可哀想だったから情けを掛けてるんであって、本当なら殺されても文句言えないんだからな。まあ身に沁みて分かったと思うけど、もう俺達に(というか本音を言うなら木の葉に)手出しするなよ?」

「わ、分かったって。だからとっととそいつら降ろしてどっか行ってくれ」

「へいへい」


なんだか、実際こうして会話していると、そこまで悪い奴にも思えなくなってくるから不思議だ。まあ大蛇丸って人の弱さに付け込んで悪に誘う面があるからなあ。なんとも扱いづらい。つーか俺甘い。


「だいたい、なんで大蛇丸なんかの所にいるんだかねえ。碌な奴に見えないんだけど」

「……あのお方は私を救ってくれたから」

「へー」

「……気にならないのか?」

「別に。それを聞いた結果大蛇丸を許せるようになるわけでもないし」


ぶっちゃけさ、単に不老不死の研究をするだけなら、いくら禁術中の禁術だからって俺個人としては文句言わないってばよ、勝手にやっとけってことで。その過程で、大勢の人を殺したり身代わりにしたり、呪ったり実験の道具にしたりするから消し去りたいだけだ。


それにしても、そろそろ2キロってとこか、さすがにもういいだろう。周りに他の参加者の気配もない。こいつらの特殊忍具はすべて潰させてもらったし、合格どころか生き残れるかどうかもあやふやなところだが、まあ頑張れ。


「ねえ、ナルト、だっけ?」


「ん?ああ、そうだけ……」





シャリーン……。

澄んだ鈴の音が響き渡る。え?






「……アーッハッハ、これで完璧に形勢逆転ね!!」


「……え?なんで、鈴、が、そこに?まさか、隠し玉……」

「そうよ!その通り!服の裏に縫い付けていた予備の鈴と千本があるなんて、思ってもみなかったようね!」


近くの木に、鈴が付いた千本が何本も刺さっている。


「う、嘘だろ……!?反則だ……」


一転して侮蔑の表情に変わる彼女。対して俺は、感覚が麻痺しその場に崩れ落ちる。背負っていた2人もずり落ちたのだが、キンはまるで気にしていないようだ。復讐への気持ちで一杯なのか!?


「くっ、ここまでしてやったってのに、恩を仇で返すのかよ……がっ!」

「ほざけ、阿呆が」


おもむろに出てきた足に、頭を思い切り踏みつけられる。土を幾らか食らって咽る。


「私はね、ただお前たちに受けた屈辱を倍返ししてやりたいだけなのさ。フフ、どうしてくれよう……。延々と壁に頭突きをさせて殺そうか、動けないうちに生き埋めにしようか。それともシンプルにクナイで自刃でもさせようか。お前、どれがいい?」

「…………」


「……うん、決めた。残りの千本全部使って、お前を死ぬまで刺してやる。まずは目を、その次は耳を。その次が鼻で、それから口。あとは……もうどこでもいいや。体中、ハリネズミになるまで刺すことにするよ。さあ、お前はどんな滑稽な命乞いをしてくれるかな?」

「やめろ!後で絶対後悔するぞ!今ならまだ間に合う!」


俺の必死の延命の望みも無視し。振りかぶり……。


「はああっ!1本目!!」

「……ぎゃあぁぁっ!」

「楽しいねえ、楽しいねえ!右目に寸分の狂いなし、手応え十ぶ……」


ボワン。


「……………………影、分身?」


「よっ!楽しかったか~?楽しかったか~?」

「~~~!!くっ、ならばもう一ぐふうっ!?」


……どうやら俺は、すっごく切れているらしい。あれだ、僅かながら信じてたのが裏切られたってやつだ。幸い、この怒りをぶつけるだけの術を、能力を、俺は持っている。


「なあ、あんまり人をおちょくらないほうがいいぞ。おかげでもう許す気がなくなっちゃったじゃないかー。というわけで、やっぱり殺す」


キンの手には、未だに鈴の鳴らすための糸が握り締められている。だが……。


「な、なんで今度は効いてない!?」

「悪い、今の俺はこの程度の幻覚作用なら余裕で跳ね返せるんだってばよ。結構チャクラを使うからあんまりやりたくなかったんだけどな?とりあえず、大人を舐めるとどうなるか、ちょーっと思い知らせてやる」

「お、大人!?お前、何を言って……」

「俺は最終警告として言ったからな、後で絶対後悔するって。というわけで……幻術のお返しだ、お嬢さん」



――カッ!!



なんだかんだで、俺も結構短絡的なんだな、2人のこと偉そうに言えないってばよ。心の中で、この術はそうやすやすとは使うまいと決めてはいたのだが。まあ自業自得と割り切ってくれ。




彼女はどこからともなく襲い掛かってきた眩い光に反射的に目を閉じ、ふたたびそっと開いていく。だが、取り立てて意識が混濁しているわけではない。


「……っ!あれ?一体、何を……別に痛くも何ともないぞ?これが殺す術か?」






「……いや、間違っちゃいないぜ?こいつは確かに人を殺す破壊力のある術だ……『社会的に』」






「……は?」



「とりあえず、そうだな。一つ言わせて貰うとすれば……あんた、案外貧乳だな」

「ちょ、ガキが何を言って……」




キンが固まった。……全裸で。





「…………きゃああああああああああああっ!!!??」


一瞬にして腕で身を隠す動作をしてみせる。


「んじゃ、そういうことで」

「き、貴様あぁぁあ!!一体何をしたああぁぁぁあ!!」



殺気を隠すことなく――顔を真っ赤にしながら叫ぶ。まあ気持ちは分かる。同情くらいならしてやってもいい。でも反省はしていない。


「幻術といっても、効果を及ぼすのは対象者およびその周囲っていうかなり特殊な術なんだけどな。対女性用に苦労に苦労を重ねて開発したお色気の術の応用バージョン、『赤裸々の術』……通称『露出狂の術』。この幻術に掛かると、誰から見ようと対象者が常に全裸に見える。あ、幻術の癖に戦闘における五感障害とかは一切ないから、その点を割り切れば全く以って無意味な術だってばよ。安心した?」


あまりの非常識さに再度固まるキン。ナニヲドウワリキレト?目がそう訴えている。


「身に付けた物はなんでも透過状態になるから、重ね着は勿論のこと布や鞄で隠そうとしても無駄。むしろ厚みが増す分、手で遮ったときの透過隙間が大きくなって余計に覗かれるだろうな。まあ自然体でいろってことだ、俺ってやっさしー」

「ふざけるなあああああっ!!!早く術を解けこのエロガキが――っ!!」






「あ、ゴメン。まだ不可解な点が多い術でさ、俺の力を以ってしても解く方法は分からん。これマジね。心配しなくても、240時間くらいすれば自然に解けるからさ」


「……ねえ、も、もう一度言ってくれ。幻聴が聞こえたんだが」



「だから240時間、たった10日間だな。とりあえず、一ヶ月後の中忍試験本選までには余裕で解けてるってばよ、保証する!だから安心してろ!」


わなわなと唇を震わせ、キンの顔がどんどん青褪めていく。


「第二の試験……終わる……5日……」

「あー、そういや第二の試験が終わったら、試験官によって強制的に死の森の外に出されるな、通過しようとしまいと。すっかりうっかり忘れてたや、ご愁傷様」


あ、目が虚ろになってきた。


「しょうがないなあ…………所詮俺の力じゃ助けることは出来ないか。おーい、2人ともー。お前達の仲間が『素っ裸で』困ってるぞ。とっとと目を覚ませー」


ゲシゲシと足で小突いて、起こす素振りを見せた途端。


「いいいいいいやあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」


「……あ、行っちゃった」


ドップラー効果を残し絶叫しながら泣きながら、全速力で去っていった。……俺より速かったりして。



まあ、これで仲間割れ同然になったし、完璧にこのチームは脱落することだろう。



「……本当は『対象者とその周囲』じゃなくて『対象者自身のみ』、要は自分が全裸だと錯覚しているだけの普通の幻術なんだよなあ。まあせいぜい思い込ませておくってばよ、いつも通り。これ、消費チャクラの割に精神ダメージほんと馬鹿でかいよなあ」


この術、何気に上忍時代にはお世話になった。幻術というものは違和感がないほど破られにくいのがセオリー。奇妙奇天烈な世界に巻き込まれるのとは違い、自分の裸は風呂などである程度は見慣れている。そのせいか、この幻術には『幻術返し』が非常に効きにくい。それでいて、俺が幻術に掛けるのに要する時間はごく僅か。完全に解呪できる忍があらかじめスタンバイしていてさえ、掛けては解いて掛けては解いてというイタチごっこで『解く側』が詰まってしまうという恐ろしい結末が待っている。


適当にかたっぱしから使っておけば、それだけで相手方を大混乱に陥れることができる。かなり下品でえげつない戦法ではあるが。再戦時とかに散々目の敵にされる諸刃の剣だが、そのあたりはエロ忍術が里のためになるなら汚名くらい被ると割り切っている。まあ、肝の据わった相手に使うと激昂を力に変換してくるので逆効果だ。


あと、女性陣の要望、いや脅迫により、使用する場合は任務前からの許可申請のあと厳しい審議に晒されるというある意味禁断の術。俺の気まぐれで最初の被験者となった綱手の婆ちゃんは、始終慌てふためいて仕事部屋に篭った後で経緯を知り、俺は半殺しの憂き目にあった。シズネさんは仕事がはかどったと大いに喜んでいたけど。


ちなみに、お色気の術を使える者ならば下忍だろうと何故か一発解呪できる……のだが、木の葉隠れの若干名を除き習得している者などいないのであった。前の歴史のサクラちゃん曰く、木の葉隠れの七不思議の一つにもなっていたそうである。


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