WHO IS(ARE) HOLIDAY?
ホリデイとは誰だったのか?
『バットマン:ロング・ハロウィーン』、お楽しみいただけましたでしょうか。シリーズ最大の謎である、連続殺人鬼ホリデイの正体については、1997年の連載終了直後から様々な議論が戦わされてきましたが、原作者のジェフ・ローブとティム・セイルは、答えは劇中にあるという姿勢を貫いており、その判断は読者に一任されてきました。作者である二人の意図を尊重する意味でも、本誌内で考察を行うべきではないと考えましたが(そのスペースもありませんでしたが…)、今回、PLANET COMICSさんのご好意でスペースを取っていただいたので、自分なりにホリデイの正体を検証してみたいと思います。もちろん、これは私個人の意見であり、数ある諸説の一つでしかありません。
やはり最後の答えを出すのは、読者であるあなた自身なのです。(編集担当:石川裕人)
バットマン:ロングハロウィーン1
バットマン:ロングハロウィーン2
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■雑誌『ウィザード』の見解
ホリデイの正体については、シリーズ終了直後から、白熱の議論が交わされてきました。9月のレイバーデイに現行犯逮捕されたアルベルト・ファルコーネがホリデイであった事は疑いようもありませんが、翌10月のハロウィーンの夜にトゥーフェイス=ハービー・デントが残した「ホリデイは二人いた」発言、そして何よりも、ラストシーンのギルダの衝撃の言葉をどう捉えるかで、喧々諤々の議論が戦わされてきたのです。
ここでまず、ホリデイとされる各人の主張をまとめておきましょう。
アルベルト・ファルコーネ
「ホリデイの犯行は、全て自分がやった」
ギルダ・デント
「初めの3件は自分の犯行で、その後はハービーが引き継いだ」
トゥー・フェイス=ハービー・デント
「ホリデイは二人いる」
アルベルトとギルダ、ハービーの証言は全く食い違っていますし、ギルダは、少なくともレイバーデイの犯行はアルベルトの仕業である事は認めているものの、残りはハービーがやったと思っている節があります。またハービーの証言も、彼はギルダの犯行を知らない以上、彼が言う二人には、ギルダは含まれていません。全ての事件の真相を知る人間は、アルベルトの証言が正しい場合を除き、存在しないのです。加熱する論争に対し、コミック情報誌『ウィザード』は、同誌のスタッフの意見として次のような見解を発表しました。
「ホリデイは二人。ギルダ・デントとアルベルト・ファルコーネである」
同誌はまず、ギルダの証言を全面的に採用しました。夫ハービーとの平穏な生活を求める彼女は、その妨げとなるファルコーネ一家の人間を次々と殺害したものの、クリスマスに新しい我が家を手に入れ、ハービーも家庭生活を省みるようになったため、これ以上の殺人は必要ないと考え、犯行の手を止めた。ここまではラストのギルダの言葉の通りです。ここから同誌独自の見解となります。元旦前夜に起きたアルベルト殺害事件を、ギルダはハービーの犯行だと思い込んでいましたが、実はホリデイの連続殺人を逆手に取ったアルベルトの自演行為で、アルベルトは父カーマインの差し金で自らの死を偽装し、以後、父の命じるままに犯行を重ねたというのです。その裏付は、以降の犠牲者はカーマインのライバルであるマローニの関係者かアルベルトの生存の秘密を知る者ばかりだというもので、アルベルトがギルダの犯行まで自分がやったと証言したのは、父への反発からだとしたのです。
一方、DCコミックスの百科事典『エッセンシャル・バットマン・エンサイクロペディア』のホリデイ関連項目では、確実な真相は不明であるとしながらも、その正体は、ギルダ、アルベルト、ハービーだとしています。
コミック界で権威の持つ二誌の意見はこのように分かれていますが、別の見方はできないのか、それぞれの犯行を順番に検証してみたいと思います。
発生月 | 祝日 | 犯人 | 犠牲者 | 利き腕 | 手掛かり |
10月 | ハロウィーン | 不明 | ジョニー・ヴィティ | 右手 | ジャックランタン |
11月 | 感謝祭 | 不明 | サリバン一味 | 右手 | 収穫物のバスケット |
12月 | クリスマス | 不明 | ミロシュ・グラパ | 右手 | スノーボール |
1月 | 元旦前夜 | 不明 | アルベルト・ファルコーネ(生存) | 不明 | シャンパングラスとクラッカー |
2月 | バレンタインデイ | 不明 | マローニの手下達 | 左手 | チョコレート |
3月 | 聖パトリックデイ | 不明 | マローニの手下達 | 左手 | レプリコーンの人形 |
4月 | エイプリルフール | 不明 | リドラー(放免) | 右手 | 傘 |
5月 | 母の日 | 不明 | ガンスミス | 左手 | フラワーバスケット |
6月 | 父の日 | 不明 | ビンセント・マローニ | 左手 | ネクタイ |
7月 | 独立記念日 | 不明 | 検死官 | 右手 | 自由の女神の置物 |
8月 | なし | 不明 | カーラ・ヴィティ | 右手 | なし |
9月 | レイバーデイ | アルベルト・ファルコーネ | サルバトーレ・マローニ | 右手 | 不明 |
10月 | ハロウィーン | トゥーフェイス= ハービー・デント |
カーマイン・ファルコーネ、 バーノン・フィールズ |
左手 | 1ドル銀貨 |
■検証(1):10月 ハロウィーン
犠牲者はカーマイン・ファルコーネの甥ジョニー・ヴィティ。ロング・ハロウィーンの始まりを告げたこの事件については、ギルダが自らの犯行を告白しています。ジョニーは、ギルダの友人であるバーバラ・ゴードンと彼女の息子ジェームズ・ジュニアの誘拐犯でありながら、伯父のカーマインの圧力で無罪放免となった過去があり、また、腕利きの殺し屋でもある彼は、カーマインの命令でハービーの命を狙う事も十分に考えられました。その意味では、彼女がジョニーの命を狙った事自体は不自然ではないでしょう。ただし、ギルダの犯行については、その告白がそもそも信用できないとの指摘もあります。一介の主婦であるギルダがマフィアの大物であるジョニーの浴室に誰にも見咎められる事無く侵入し、彼を射殺して、また無事に戻って来る事などありえるだろうか、という指摘です。同様に、銃の入手手段も謎だとされ、引いては彼女の告白自体が、夫ハービーの身に起きた惨状が引き起こした錯乱の結果ではないかというのです。確かに、現実的に考えるとこの説にも一理あるように思えますが、リアリティを追求しすぎると『ロング・ハロウィーン』という作品の構造自体を覆しかねない面もあり、素直にはうなずけないところです。
一方、アルベルトの証言によれば、ジョニー殺害も彼の犯行という事になりますが、確たる動機が見当たりません。彼が父カーマインの指示で動いていたとすれば、ジョニーの口封じという線も考えられなくはありませんが、この時点でそれが必要だとは思えず、この件に関するアルベルトの証言の信憑性は極めて低いと言わざるをえません。
■検証(2):11月 感謝祭
犠牲者はサリバン一味。この件もギルダが犯行を告白していますが、自宅を爆破した者達への復讐であり、動機は十分に思えます。とはいえ、当時の彼女は入院中で、彼女の告白通りならば、ギルダは自分で点滴を外して病室を抜け出し、一味を射殺した後、病室に戻って点滴を元通りに付け直した事になります。しかも、ベッドのすぐ脇でハービーが寝ている状態でです。また、サリバン一味は銃を抜いて反撃しようとしたところを射殺されており、それこそ一介の主婦にできる芸当なのかは甚だ疑問ではあります。加えて、どうやって一味の居所を知ったのかも謎です。一味の動向はバットマンが見張ってはいましたが、彼らがホテルに向かった時、ギルダはまだ病室にいたのです。一連の出来事をどこまでリアルに捉えるかで、この事件に関する見方は大きく変わってくるでしょう。
では、アルベルトがやったとすればどうでしょうか。この場合は、口封じ以外の動機は考えられません。ファルコーネ一家の人間であるアルベルトなら、一味の居所を知る事は可能でしょうが、ハロウィーンの事件と同じように祝日にちなんだ手掛かりを残している点が気になります。この時点では、ハロウィーンの事件は手口が異様とはいえ一つの殺人事件に過ぎず、彼が一件目の犯人でない限りは、事件に連続性を持たせる必然がないのです。状況だけを見れば、ギルダよりもアルベルトの犯行の可能性の方が高いように思えますが、連続した事件として考えると、ギルダの犯行と考えた方が自然に思えます。
■検証(3):12月 クリスマス
犠牲者はミロシュ。ギルダによれば、彼女の最後の犯行です。ミロシュはファルコーネ一家の幹部であり、その意味では彼女のターゲットとなりえますが、前の2件に比べるとその必然性は薄いようにも感じられます。とはいえ、そう思えるのは、彼女がここで犯行を止めたせいかもしれません。ギルダがあのまま犯行を重ねていれば、ファルコーネ一家からさらに多くの犠牲者が出ていた事は確実であり、その場合は、幹部であるミロシュの殺害は必然に思えていたでしょう。ただし、この一件にも疑問点はあります。犯行直前まで彼女はハービーと一緒で、しかも、ジョーカーに痛めつけられたハービーを介抱していたのです。そんな状態の夫を放っておいて、家を離れるでしょうか。加えて、直前まで彼女は車椅子の身だったのです。実は、傷の具合は浅かったというのなら話は別ですが…。
次にアルベルトの犯行とした場合ですが、前の2件以上に動機が気薄です。ミロシュを殺害する理由としては、父への嫌がらせぐらいしか思いつきませんが、アルベルトが先の2件の犯行を犯すには、父カーマインからの指示が不可欠であり、大きく矛盾してしまいます。動機が一貫しない以上、これら3件の犯行は、ギルダの犯行と見た方が自然に思えます。
■検証(4):1月 元旦前夜/大晦日
犠牲者はアルベルト。ギルダはハービーの犯行と考えていましたが、誌面からは状況がほとんど読み取れません。確かに発砲はされていますが、アルベルトの自作自演であるようにも取れます。いずれにせよ、犯行時刻に自宅にいたギルダの犯行でない事は確実なのですが、ここで根本的な疑問があります。前の3件がギルダの犯行だったとして、彼女が犯人で、もう殺人は止めた事はハービーもアルベルトも知らないのですから、二人のどちらがギルダに便乗したにせよ、元旦には犯行が2回行われる可能性を考えなかったのかという点です。この犯行だけが、祝日当日ではなく、その前夜に行われたのは、そこに理由があるのかもしれません。ホリデイはどこの誰かはわからないが、先手を打てば、もう元旦には犯行は行わないだろうと考えたのではないでしょうか。
では、アルベルトを撃ったのはハービーなのか、それともアルベルト本人なのか? まず、ハービーだった場合ですが、憎むべきファルコーネに最大の打撃を与えるために、最愛の息子アルベルトを狙ったとも考えられます。とはいえ、アルベルトは一般人であり、いくらハービーがファルコーネを憎んでいたとしても、そこまでするだろうかという疑問は残ります。
ただし、犯行内容からその線は考え難いにせよ、ハービーが、先の3件の犯行は父カーマインの命令を受けたアルベルトの仕業だと考えていたとすれば、制裁の意味も含めてアルベルトを手にかけた可能性はあります。この事件以降、ハービーがホリデイに無関心になっていった事も、彼がホリデイ=アルベルトと考えていたとすれば、合点できます。本来のホリデイは始末したのですから、もはや気にかける必要はありません。
また、先に述べた犯行時刻の点ですが、彼がホリデイ=アルベルトだと考えていたならば、犯行が重なる事はありえず、祝日以前に犯行を行ったのは、単に、年が明ける前に帰宅するためだった事になります。ところで、ハービー犯行説は、彼の考え次第では納得できますが、なぜこの時期にアルベルトを殺したのかという疑問は残ります。アルベルトを殺す直前、ハービーは、ファルコーネとブルース・ウェインの古い因縁を知らされたものの、それが動機になるとは思えません。これはかなりの飛躍になりますが、そもそも、どうして彼がホリデイ=アルベルトと考えるに至ったかを考えてみると、先の3件の被害者はいずれも、彼がファルコーネを検挙するのに不可欠な人物だという点に思い至ります。直接、ファルコーネの指令を受けていたジョニー、サリバン一味はもちろん、ミロシュはファルコーネの裏の裏まで知り抜いている人物です。ホリデイの一連の犯行にハービーは、ファルコーネが先回りして有力な証人を消していると考えたのではないでしょうか。そして、ファルコーネが右腕であるミロシュ以上に信頼する人物として、アルベルトに目をつけたのでは…。
一方、撃ったのはアルベルト本人だとすれば、動機は自らへの嫌疑をなくす事でしょう。なぜこの時期にという疑問は残りますし、自作自演である以上、犯行時刻はほぼ自由に設定できたはずで、本来なら祝日に行うべき犯行を先送りした理由も不明です。が、より大きな問題は、やはり一連の犯行にカーマインの関与があったかどうかです。
『ウィザード』は、アルベルトが父カーマインの指令で動いていた理由として、これ以降の犠牲者がファルコーネ一家からマローニ一家に移った事を挙げていましたが、実は、Vol.1 P133-134のアルベルトの遺骸を抱いて泣き崩れるカーマインの一連のシーンは、連載当時のコミックブックにはなかったカットシーンなのです。あのシーンを見た後では、カーマインが息子に自らの死を偽装させていたとはとても思えません。個人的には、ローブとセイルが号泣するカーマインのシーンを復活させた時点で、カーマインとアルベルトがグルだったという線は消えたと考えます。
■検証(5):2月 バレンタインデイ
犠牲者はマローニの手下達。初めてファルコーネ一家以外の人間が標的となり、ホリデイが方針を変えた事が明白になりました。容疑者はハービーとアルベルトですが、アルベルトの動機は判然としません。あるとすれば、カーマインの指令でマローニの身内を狙ったというケースですが、先の理由から、その線はないと考えます。
一方のハービーの動機は、マローニを刺激してファルコーネとの間に戦争を引き起こし、共倒れを狙う点にあると思われます。マローニの手下は当然ギャングですから、ハービーとしても殺害する事に抵抗はなかったでしょう。また、ここで初めてホリデイが左手で銃を握っている点も重要なポイントです。ハービーは右利きのように見えて、右手に腕時計をするなど(Vol.1 P102参照)、両利きの可能性があり、実際、トゥーフェイスとなった彼は左手で銃を握っているのです。とはいえ、右利きのはずのゴードンも左右どちらにも腕時計をしていたりはするのですが…(Vol.1 P76、Vol.2 P173参照)。
■検証(6):3月 感謝祭
犠牲者はマローニの手下達。2月とほぼ同じ状況です。ファルコーネとマローニの抗争を歓迎するハービーの発言も、彼の犯行を裏付けているように思えます。なお、複数いたマローニの手下は皆殺しにされていますが、あちこちに散らばった手下を一気に射殺するとは、かなりの銃の使い手でなければできない相談でしょう。地方検事のハービーにそれだけの銃の腕があるかは疑問ですが、それはアルベルトも同様ですし、22口径は扱い易いという事で納得しましょう。
■検証(7):4月 エイプリルフール
犠牲者はリドラー。ホリデイが標的を見逃した事ばかりが注目されがちですが、他の意味でも、一連の犯行の中では最も異色の事件だと思います。右手で銃を握っている事から、この時のホリデイは2月、3月のホリデイとは別人だと考えるべきでしょうが、ではなぜ、2、3月のホリデイは4月には犯行を行わなかったのでしょうか? この時点でホリデイとなりうる人物はハービーとアルベルトですが、銃の持ち手から、4月のホリデイはハービーではない事になります。するとアルベルトなのかと言えば、2、3月のホリデイがハービーならば、アルベルトは1月に撃たれていた事になり、まだ療養中だったと考えるべきでしょう。
もしアルベルトが無事だったのなら、2、3月、あるいは4月も、ハービーと同時に犯行を行っていた可能性、つまり同時に二人のホリデイが世間を騒がせた可能性があります。しかし、実際には一人のホリデイしか犯行を行っていないのですから、ハービーあるいはアルベルトのどちらかが犯行を行った時は、もう一方は犯行をできない、あるいは行う必要のない状態にあった事になります。その意味では、ハービーは5月にも犯行を行っていると思しいので、アルベルトはこの時点で犯行を行える状況になかった事になります。では、なぜ4月のホリデイは、ハービーとは逆の手で銃を握っていたのでしょうか。あれはハービーでも、アルベルトでもなかったのでしょうか?
ここで気になるのが、この犯行についてカレンダーマンが述べた意見。カレンダーマンは、エイプリルフールという日の意味を真剣に考えたホリデイは殺人を控えたのではないかと指摘していましたが、彼の言う通りだったとしたらどうでしょうか。アルベルトは犯行を行えず、ハービーは犯行を控えた。ならば、リドラーを狙ったホリデイは、ハービーでもアルベルトでもない、4人目だった可能性もあるのではないでしょうか? この日、カーマインから詰問されたリドラーが命懸けで出した答えを思い出してみましょう。そう、リドラーはカーマインを名指ししていたのです。彼の一世一代の推理が何の意味も持っていないと考えるのは、リドラーにも失礼でしょう。この件の検証についてはホリデイの服装が重要な鍵となりますが、服装の検証は後でより詳しく行いますので、その時にまとめて考察したいと思います。いずれにしても、外野であるカレンダーマンやリドラーの推理も十分に参照すべきでしょう。
ちなみに、犯行現場に残された傘ですが、4月の風物詩であるエイプリルシャワーにかけたものでした。ホリデイが4人目だったとしても、スタイルはちゃんと守っていたわけです。
■検証(8):5月 母の日
犠牲者はガンスミス。ファルコーネともマローニとも無関係の第三者です。ホリデイが彼を殺した理由は、自分の正体がバレるのを防ぐ意味以外にはありえません。再び左手で銃を握っている事から、ハービーの線が強いと思われますが、だとすれば、彼はガンスミスから銃を買っていた事になります。ガンスミスの工房には同型の22口径の拳銃が何丁も置いてあったので、ハービーがここで銃を入手していたのならば、以前の犯行でも同型の銃を使用していた可能性が高い事になります。その観点で、ハービーの犯行と思われる事件、1月、2月、3月、5月で使われた拳銃を見比べてみると、描写が細かくないので明言はできませんが、照門や、スライドの右後端が斜めに切り落とされている点などが、ガンスミスの工房にあった銃と一致しているように思われます。ただし、これらの特徴はハービーのものと思われる犯行以外で使われた銃にも共通しており、明らかに種類が異なると思える銃は12月に使用されたものくらいです。また、連続したシーンでも細部の描き方が異なっていたりもするので、銃の形状による判断は決め手に欠けると言わざるをえません。いずれにせよ、ハービーの犯行と思える状況ではありますが、犯罪の撲滅を願うハービーが、裏社会の人間とはいえ、ファルコーネとは直接関係のないガンスミスを殺す事などありえるだろうかという、そもそもの疑問が残ります。
一方、アルベルトだとすれば、動機に無理はありませんが、持ち手が逆なのが気になります。また、今回、ホリデイはソフィアの動きを察してガンスミスを始末していますが、どうやってソフィアの行動を知ったのかという点も疑問です(これはハービーも同様です)。とはいえ、先の犯行と同じように手掛かりを残しているので、ガンスミスを消す用意はしていたものの、ソフィアが駆けつけてきたので、あわてて犯行に及んだとも考えられます。アルベルトが父と組んでいたのならば、姉の足跡を知る事は可能だったでしょうが、それでは、アルベルトとカーマインは無関係だったという前提が覆されてしまいます。ですが、もしそうだったとしても、なぜ身内のソフィアにアルベルトの生存を隠すのか、新たな疑問が生じてしまいます。やはりこの一件は、ハービーの犯行と考えた方が自然ではないでしょうか。
■検証(9):6月 父の日
犠牲者はビンセント・マローニ。この事件でもホリデイは左手で銃を握っています。ビンセントは暗黒街の大物であり、マローニに最後の一歩を踏み出させるには最適の人物だと言えます。ハービーがファルコーネとマローニの抗争を画策したとすれば、納得の犯行でしょう。実際、頼りにしていた父を失ったマローニは、ファルコーネ失墜のためにハービーとの共闘を申し出てきたのですから、その効果は十二分にあった事になります。また、ビンセントは数々の犯罪に手を染めてきたでしょうから、ハービーが犯行を躊躇する事もなかったでしょう。
アルベルトが犯人だと考えると、やはり動機が弱いと言わざるをえません。ビンセントは父の宿敵の一人ではありますが、なぜ今なのか、目的は何か、が見えてこないのです。
■検証(10):7月 独立記念日
犠牲者は検死官。初めての一般人の犠牲者です。右手で撃っている事からアルベルトが犯人だと考えると、自らの死の真相を隠すためという動機が見えてきます。納得できる理由ではありますが、その場合、検死官はアルベルトとグルで、虚偽の検死報告をした事になります。
劇中の描写があまりに少ないため、二人の関係を裏付ける事はできませんが、なぜ、半年以上も経ってから殺したのかは疑問です。アルベルトがハービーに撃たれて、療養に時間がかかったとすれば、ありえない話ではないのでしょうが、そうだとしても、それほどの重傷を負った状態で、検死官に共犯を持ちかける事が可能だったのかという疑問は残ります。
一方、ハービーが犯人の可能性はどうでしょうか。バットマンはハービーの犯行を疑っていましたが、動機がありません。もし検死官がアルベルトとグルだったとしても、ハービーはアルベルトが生きていた事は知らなかったのですから、無関係の検死官を殺す理由がありません。
では、この犯行がアルベルトのものだとすれば、なぜハービーは独立記念日に犯行を行わなかったのかという点が問題になりますが、マローニの自首によって合法的にファルコーネを検挙できる可能性が出てきたためというのが最大の理由に思えます。バットマンとの会話でホリデイを全く問題にしていないのも、近々の事件の犯人がハービーだったとすれば納得できるところです。ただし、そうだとすれば、検死官射殺は彼の犯行ではないのですから、ハービーは新たなホリデイが現われた事にショックを隠せなかったはずです。劇中で検死官殺害後のハービーが描写されたのは、次の第11章の冒頭になりますが、そこで彼が見せたあまりに険しい表情の裏には、マローニの裁判、自分を疑っている妻ギルダという要因に加え、新たなホリデイの登場があったのかもしれません。
■検証(11):8月 ローマンの誕生日
犠牲者はカーラ・ヴィティ。7月の検死官と同じく、アルベルトが自らの死の真相を隠すために殺したと考えるのが自然でしょう。ハービーは、病院を抜け出したばかりで、それどころではなかったはずです。
それよりも、この日でより注目すべきは、妻ギルダの反応でしょう。彼女はハービーとホリデイの関連を疑うような素振りを見せていますが、もし夫がホリデイだと確信したのならば、なぜ自らの犯行を打ち明けなかったのでしょうか? もちろん殺人は重い犯罪ですが、最後の告白によれば、ギルダはハービーが同じ犯罪に手を染めた事を、一種の共同作業として歓迎していたのです。ハービーがホリデイでないのならば、打ち明ける事などありえないでしょうが、夫とのより強い絆をひたすらに求め続けた彼女ならば、告白して然るべきだと思うのですが…。
■検証(12):9月 レイバーデイ
犠牲者はサル・マローニ。アルベルトが犯人なのは見ての通りですが、動機は今ひとつ不明です。もう殺すべき相手は父と姉しか残っていないのも事実ですが、刑務所にまで忍び込む危険を冒した理由が見当たらないのです。また、犯行のスタイルとしても、成功していれば、標的のマローニ以外にゴードンと護衛の警官(に扮したバットマン)という無関係の人物を殺していた事になり、それまでのホリデイの犯行と一致しません。スタイルの違いという点に着目すれば、アルベルトの犯行はこれが初めてという極論さえ導き出せるのです…(7、8月のケースでは、標的がたまたま一人だったからとも言えますが)。
■検証(13):10月 ハロウィーン
犠牲者はカーマイン・ファルコーネとバーノン・フィールズ。バットマンは、トゥーフェイスと化したハービーもまたホリデイだったのだと、自分に半ば言い聞かせていましたが、トゥーフェイスがコインで犯行の是非を決めた事実を忘れてはなりません。コインの出目によっては、彼は二人を殺していなかったかもしれないのです。また、一晩に二つの標的を狙った点も含めて、一連のホリデイの犯行とはスタイルが根本的に異なるのです。とはいえ、"2"という数字に拘るトゥーフェイスですから、カーマインとバーノンの二件の犯行を合わせて一つと考えている可能性もあります。二件目のバーノン殺害の後に、ホリデイの犯行パターンに合わせて銃と手掛かりを残している点がその可能性を裏付けています。いずれにせよ、トゥーフェイスの犯行をホリデイのものにカウントするかどうかは、ホリデイは二人いたというハービーの発言をどう捉えるかにかかっています。9月にマローニを殺したのがアルベルトである事はハービーも知っているでしょうから、問題は、もう一人が誰を指しているかです。初期の3件がギルダの犯行だと彼が知らない以上、やはり、残る一人はハービー自身だという事になります。バットマンは、トゥーフェイスとなったハービーの犯行のみをホリデイの犯行と結論付けていましたが、そうなると、先の12件の事件はアルベルトの犯行で、ハービーが犯した殺人は二度目のハロウィーンの犯行のみという事になります。トゥーフェイス=ハービーが指摘するまで、バットマンもゴードンもホリデイが複数いるとは考えてもいなかったようなので、このような結論に達する事もうなずけますが、やはり、ゴードンが指摘したように、ハービーへの思いの強さ故に、冷静な判断ができていないように思えます。活動2年目の新人ヒーローなのですから無理もありませんが、こうした失敗を繰り返しながら、現在の冷徹なバットマン像ができあがっていったという事なのでしょう。
■ホリデイのコスチューム
以上、13の事件を検証してきたわけですが、結論を先延ばしにしていた4月の事件を改めて検証してみましょう。先に書いたように、鍵はホリデイの服装です。
ロングコートにソフト帽というホリデイの服装が明らかになったのは、4月のリドラーとバットマンの推理場面でしたが、4月以前でホリデイの姿を見た人間は全員死亡しており、リドラーもバットマンもその姿を見ていない以上、一連のシーンで容疑者達がホリデイの服装をしていたのは、読者をミスリードするための巧妙な仕掛けだった事になります。この点については、また後で検証します。
ラスト、ギルダはハービーの帽子とコートで変装したと言っていましたが、ハービーが犯人だった場合、彼はギルダが自分の衣服で変装していた事は知らないにしても、自分のコートと帽子なのですから、それらを身に着けて犯行に及んだ可能性はゼロではありません。では、アルベルトの場合はどうでしょう。レイバーデイの犯行でアルベルトはホリデイのトレードマークであるロングコートとソフト帽を身に着けていました。彼が勝手に選んだ服装が、ギルダのそれと一致したという可能性もゼロではありませんが、それではミステリーになりません。ギルダが証拠隠滅に燃やした衣服とアルベルトのそれが同じだったのには理由があります。同時に、このコートとソフト帽は、ギルダ、アルベルト、さらにはハービーの犯行の裏付けでもあります。ギルダとアルベルト、何の面識もない二人が同じ格好をするという事はありえません。では、なぜアルベルトはギルダと同じ服を着たのか…それは、実際にその服を着たホリデイを目にしたからです。つまり、元旦前夜、アルベルトは実際にホリデイに襲われたものの、辛うじて一命を取り留めたのです。その時、アルベルトを撃ったホリデイは、ギルダはすでに犯行を止めていたのですから、ハービーだったという事になります。
では、ハービーに撃たれた時、アルベルトは彼の顔を見ていたのでしょうか? 銃傷から回復したアルベルトが殺した相手は、まず、検死官とカーラ。どちらも自分の生存を隠すための犯行でした。彼が自らの利害以外の目的で殺した初めての相手は、ハービーの重要な証人であるマローニだったのです。9月の検証では、アルベルトがマローニに殺した理由がわからないと書きましたが、もしアルベルトがハービーが自分を撃った事を知っていたならば、彼に復讐する意味でマローニを殺したとも考えられます。すでにハービー自身は裁判から離れてしまっていますが、ゴードンら残った人間達が引き継いでいたわけですから、マローニはまだファルコーネ検挙のための重要な証人ではあったはずです。病院から逃亡したハービーがどうなったか、アルベルトには知る由もありませんが、ハービーが命懸けで進めてきた捜査を台無しにすれば、アルベルトも気が晴れたのではないでしょうか。
■4人目のホリデイ
ホリデイの服装から、少し話が広がりすぎてしまいました。後で検証するとした4月のホリデイの犯行に話を戻しましょう。4月のストーリーで、コートとソフト帽がホリデイのトレードマークである事が示されたと書きましたが、4月のラストに登場したホリデイが帽子を被っていたかどうかは、傘で巧みに隠されていてわからないのです。それまでの推理場面に登場したホリデイがいずれもソフト帽を被っていたせいで、ラストのホリデイもそうだと思いがちですが、それこそ、作者達の思うツボではないでしょうか。では、この時のホリデイは帽子を被っていなかったとしたら…。もし、ギルダ、ハービー、アルベルト以外の4人目であったならば、ホリデイの姿を知るはずもないので、帽子を被っていない可能性は十分にあります。同じようなロングコートを着てはいますが、あの時は土砂降りだったので、コートを着る事自体は、ホリデイを真似る事とは無関係とも言えます。では、4月のホリデイは誰なのか? やはり、リドラーの指摘した通り、カーマイン・ファルコーネではないでしょうか。バットマンが考えたようにカーマインとアルベルトがグルであったとすれば、アルベルトに待ち伏せさせ、ソフィアが言いつけ通りに戻ったところで、リドラーを襲撃させる事は可能だったでしょう。バットマンは、カーマインがリドラーの口を通して、自分がホリデイの正体を暴こうとしている事を周知させようとしたのだと考えていましたが、もし、バットマンの考え通りファルコーネ親子がグルならば、彼らとは無関係のホリデイが別に存在する事になります。バットマンは最後まで、半ば意地になって二人がグルだと信じていましたが、先にも述べたように、この意見には同意しかねる部分があります。アルベルトの"死"にカーマインが見せた深い悲しみや、逮捕されたアルベルトに向けた様々な感情は演技だとは思えません。自ら死刑を望む息子にアルベルトは怒りを爆発させていましたが、それは自宅でのできごとであり、素の感情だったはずです。バットマンの、一種の思い込みは、亡き父の行いをそしった自分への怒りの裏返しに思えるのです。
では、カーマインがアルベルトは死んだと思っていたとしたらどうでしょう。カーマインとホリデイは全くの無関係であり、自分がホリデイを追い詰めようとしている事を、リドラーに確実に広めさせるには、自分がホリデイに成り代わって犯行を行うしかありません。カーマイン扮するホリデイから逃げ延びたリドラーがこの一件の事を話せば、その噂は暗黒街にすぐに広まり、出鼻を挫かれた本物のホリデイは、その日はもう犯行を行わない。カーマインはそう考えたのではないでしょうか。リドラーはホリデイに扮したカーマインの顔を見ていますが、その事実を明かせば命はない事は承知しています。また、リドラーにしてみれば、カーマインはその場限りのホリデイではなく、ホリデイ本人なのですから、カーマインは実の息子を殺している事になります。バットマンは、リドラーが自分の知ってしまった真実に怯えていると考えていましたが、リドラーにしてみれば、あまりの真相に呆れ果て、かと言って真相を話す事もできないので、伝えるべき事だけを伝えて酒に溺れていたのではないでしょうか。
■忘れられたカレンダーマン
リドラーの名前が出たところで、もう一人、重要な役割を果たしたカレンダーマンの事を思い出してみましょう。ホリデイの影に霞んでしまったカレンダーマンではありますが、あの超然とした態度には、全てを見通していたのではないかとさえ思わされます。彼は、ギルダの犯行であるとされる11月の時点で、犯人は女と男だと言っています。この時点では、ギルダの単独犯行のはずなのにです。単に焼きが回ったのか、未来の犯行を見事に予測したのか、あるいは単なる無責任な発言なのか…もし、彼の言葉が正しいとすれば、10月と11月の犯行はギルダの単独犯行ではなく、いずれかはハービーかアルベルトの犯行、あるいはハービーとギルダの共同犯行…二人ならサリバン一味を相手にする事も可能でしょうが…彼の言葉を真に受けすぎると、全てが覆されかねません。やはり、おとなしくしておいてもらった方がよさそうです。
■大どんでん返し
さて、長々と検証を続けてきた結果、自分としては、以下のような真相に思い至りました。
発生月 | 祝日 | 犯人 | 犠牲者 | 動機 |
10月 | ハロウィーン | ギルダ・デント | ジョニー・ヴィティ | 平穏な生活を取り戻したい |
11月 | 感謝祭 | ギルダ・デント | サリバン一味 | 平穏な生活を取り戻したい |
12月 | クリスマス | ギルダ・デント | ミロシュ・グラパ | 平穏な生活を取り戻したい |
1月 | 元旦前夜 | ハービー・デント | アルベルト・ファルコーネ(生存) | ホリデイ=アルベルトの粛清 |
2月 | バレンタインデイ | ハービー・デント | マローニの手下達 | マローニとファルコーネの対立を煽る |
3月 | 聖パトリックデイ | ハービー・デント | マローニの手下達 | マローニとファルコーネの対立を煽る |
4月 | エイプリルフール | カーマイン・ファルコーネ | リドラー(放免) | ホリデイに確実にメッセージを届ける |
5月 | 母の日 | ハービー・デント | ガンスミス | 自分の正体を隠す |
6月 | 父の日 | ハービー・デント | ビンセント・マローニ | マローニとファルコーネの対立を煽る |
7月 | 独立記念日 | アルベルト・ファルコーネ | 検死官 | 自分の生存の真相を隠す |
8月 | なし | アルベルト・ファルコーネ | カーラ・ヴィティ | 自分の生存の真相を隠す |
9月 | レイバーデイ | アルベルト・ファルコーネ | サルバトーレ・マローニ | ハービーへの復讐? |
10月 | ハロウィーン | トゥーフェイス= ハービー・デント |
カーマイン・ファルコーネ、バーノン・フィールズ | ローマン帝国の崩壊 |
ただ、4月をカーマインの犯行とする段階で、ハービーとアルベルトがそろって犯行を自粛した点が気になりました。エイプリルフールの意味を真剣に考えたという理由は納得できるにせよ、二人そろってというのが気になるのです。4月の時点では、アルベルトはまだ傷が回復していなかったというのが素直な見方なのでしょうけれど、二人そろってというアイデアを膨らませて、ハービーとアルベルトがグルだったとしたらどうでしょう?
10月から12月の犯行は、父に反発したアルベルトの犯行だった。つまり、ホリデイを発案したのはアルベルトだったのです。この場合、ギルダ犯行説につきまとう諸問題は全てクリアされます。ホリデイ=アルベルトと睨んだハービーは、1月の元旦前夜にアルベルトを襲いますが、彼はアルベルトが父カーマインの指示で動いていると考えたからこそアルベルトを襲ったのです。もし撃たれる前にアルベルトが真相を明かし、ハービーとアルベルトが和解していたとしたら? アルベルトの犯行はファルコーネ一家を確実に弱体化させていたわけですから、ハービーもアルベルトに同意したのではないでしょうか。射殺を擬装して一旦アルベルトに身を隠させたハービーは、彼の後を継いでローマン帝国崩壊とファルコーネ検挙に向けて本格的に動き出します。4月に犯行を自粛したのは、もちろん二人とも納得の上での事です。マローニの自首で本来の目的を果たしたハービーは、ホリデイから手を引き、代わってアルベルトが、真相の隠蔽を始めます。ハービーがマローニに重傷を負わされ姿を消すと、残されたアルベルトはマローニを射殺してハービーの仇を取ります。そして10月、トゥーフェイスとして蘇ったハービーは、自分とアルベルトの共通の敵であるカーマインに止めを刺したのです。では、ギルダの告白は? 単なる妄想です。愛する夫があのように変わり果てては、マトモではいられません。自分に都合のいい作り話を思いつき、自らに言い聞かせるうちに、真実だと信じ込んでしまったのでしょう。彼女が燃やしたコートと帽子、拳銃は? コートと帽子はもともと家にあったものですから、偶然手にしたのでしょう。拳銃は、ハービーが隠しておいたのを見つけたのでしょう…とまぁ、最後はかなり投げやりになってしまいましたが、これほど考えを重ねてみても、まだ新たな真相を思いつく余地があるという事です。
■『ロング・ハロウィーン』の本質
ホリデイ4人説は、それなりに筋が通っているのではと思うのですが、それは、ハービーが殺人という極端な手段に出ると認める事が大前提になります。確かに、結局はトゥーフェイスに変貌したハービーですが、あれほどまでに正義を求めた彼が、いかにファルコーネ検挙のためとはいえ、殺人という大罪を犯すものでしょうか? 殺人でケリをつけるのならば、なぜ、ファルコーネ本人を最初に狙わなかったのでしょうか? ブルースを裁判にかけるような回りくどい真似をしなくても、一発の銃弾で全ては終わっていたはずです。結局のところ、ハービー・デントという人間をどこまで"信じて"いるかで、推理の方向は根本から変わってくる事になります。目的のためなら手段は選ばないのか、守るべき一線は必ずあるのか、その人なりの正義感のあり方で、ハービーという人間が取ったであろう行動の方向性が決まるのです。ただヒントを探して推理を組み立てるのではなく、読み手の内面にまで踏み込んでいるからこそ、『ロング・ハロウィーン』はバットマンの歴史に残る名作になりえたのだと思うのです。
最後に、何度も言うようですが、今回の検証は数ある推理の一つでしかありません。誰に共感できるかでも見方は変わってきますし、さらに視点を変えれば、そもそもホリデイなど存在しなかった、ホリデイはバットマンだ、などの極端な解釈も成り立つかもしれません。今回の検証が、読み手によって結末がガラリと変わる稀有な魅力を持ったこの作品を、様々な角度から楽しむきっかけになれば幸いです。
長々とおつきあいいただき、どうもありがとうございました。