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2011年6月29日(水)付

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退陣3条件―自民党よ大人になって

菅直人首相が「一定のめど」を口にしてから1カ月近く、やっと中身を明言した。第2次補正予算、特例公債法、再生可能エネルギー特別措置法の成立だという。[記事全文]

津波と減災―硬軟備えた街づくりを

津波に強い街をどう築くか。3・11後、多くの専門家が反省を胸にきざみながら、議論を進めてきた。たどり着いたのが「減災」「多重防御」の考え方への転換だ。[記事全文]

退陣3条件―自民党よ大人になって

 菅直人首相が「一定のめど」を口にしてから1カ月近く、やっと中身を明言した。

 第2次補正予算、特例公債法、再生可能エネルギー特別措置法の成立だという。

 はっきりしてしまえば驚く内容ではない。やれやれ、これでようやく政治の混乱が収まり、前へ動きだす。

 と、思いきや、国会は空転している。退陣3条件が整うめどが立たない。

 自民党が、復興関連人事で参院議員を総務政務官に一本釣りされたことに態度を硬化させているのが一因だ。

 谷垣禎一総裁は「自民党の協力は一切いらないという意思表示だ」と、かんかんだ。石原伸晃幹事長も「信用できないの一言に尽きる。議論を進める信頼関係がない」と切り捨てる。

 「これは禁じ手だ」「わが党に対する挑戦だ」など、党内の怒りも収まらない。協調関係を求めておきながら、懐に手を突っ込んできた首相への批判が渦巻くのは当然のことだ。

 だが、ここは自民党にもっと大人になってほしい。

 国民は、菅首相にあきれるとともに、首相を批判するだけで止まったままの国会に失望しているのだ。

 3条件は、どれも当たり前の内容だ。それを進めるために首相が進退をかけなければならないこと自体がおかしい。さらに与野党が足を引っ張りあうさまは、国民には見るに堪えない。

 冷静に考えてみよう。

 第2次補正には被災地で漁を再開するための製氷施設や、子どもへの線量計の配布が盛り込まれる。赤字国債を出すための特例公債法なしでは被災地の復興対応もままならない。再生エネ法も原発の是非はどうあれ、太陽光や風力の普及を図ることに異論はないはずだ。

 これらを止めて、自民党に何の利点があるのか。懸案を速やかに処理して、被災者やこれからの日本のために仕事をする。それで菅政権に終止符を打つ。それこそが長く政権を担ってきた自民党の本領ではないか。

 大事と些事(さじ)を切り分け、些事にはこだわらない。そうしてこそ、自民党の株も上がる。

 首相の「延命」に手を貸せと言っているのではない。もはや首相は党内でも孤立し、このまま政権が立ちゆくはずもない。

 きのうの民主党両院議員総会でも、早く退陣せよと求める声が止まらず、執行部からも首相への不満が漏れた。

 こんな首相と自民党はいつまでいがみ合うのか。働いて歯車を回そう。

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津波と減災―硬軟備えた街づくりを

 津波に強い街をどう築くか。

 3・11後、多くの専門家が反省を胸にきざみながら、議論を進めてきた。たどり着いたのが「減災」「多重防御」の考え方への転換だ。

 従来の津波対策とは、海岸にコンクリート構造物を築き、港や街を守ることだった。波がその高さを越えた時の備えは、実はおざなりだった。大きな被害をもたらした一因だ。

 堤防をどこまでも高く造るわけにはゆかない。ハード対策に加え、土地利用規制、住宅地移転、建物強化、防災教育などを幾重にも組み合わせる。最悪のシナリオでも命は守った上で、被害を最小にする発想だ。

 まずは逃げる対策だ。

 全国の海沿いの市町村の半分近くが津波避難計画やハザードマップを作っていなかった。浸水予想区域を見直し、それに応じて避難方法を考え、安全な避難場所、避難路を整える。

 万一水に漬かる恐れがある土地や、今回水没した土地をどうするかは悩ましい。災害危険区域を条例で定め、住宅建築を禁じることができるが、愛着のある場所を離れがたい人もいる。人は住めぬとしても、商業・産業施設ならどんな構造で安全と認めるか。きめ細かな指針があってもいい。

 新しいアイデアも出ている。

 仙台平野では高さ約6メートルを走る仙台東部道路が、津波を食い止めた。盛り土構造の鉄道・道路や、人工林、人工丘を海岸から少し入った所に配せば「二線堤」として活用できる。

 防波堤や防潮堤が全く無力だったわけではない。東北・太平洋岸で190キロ分が全半壊したが、津波の高さや速度をどれだけ抑えたかの検証は必要だ。波の力で土台が掘り崩されたり、引き波に倒されたりといった弱点もわかってきた。大津波が来ても壊れにくい、粘り強い構造に改良する余地がある。

 中央防災会議は、これからは今回のような最大規模の津波を想定した総合的な防災対策を求める一方で、50年から150年に1回程度の頻度の津波は、堤防など海岸保全施設で防ぐよう提言した。特に東北での復旧は急がねばなるまい。

 被災地の自治体は、地域の特性を考え、住民の声を聴きながら、ハードとソフトを様々に組みあわせた復興図を描くことになる。どれだけの災害に備え、街づくりにどんな施策が利用できるかが、出発点だ。政府は早く示す必要がある。

 教訓は繰り返し忘れられてきた。時を継いでも安全な街を今度こそつくる。それが肝要だ。

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