とあるところに男の子が二人。名前は織斑一夏と葵春樹。この二人は家族同然の関係である。どういうことかと言うと、春樹は両親を亡くしているのに加えて親戚という人物は居なかった。完全に一人になってしまった春樹。そこに救いの手を差し伸べてくれたのが織斑家の二人だった。年上の織斑千冬。同い年の織斑一夏。この二人も両親がおらず、姉弟で暮らしていた。同じような境遇の葵春樹を家族に向かえ入れたのだ。
それからというもの、同い年である一夏と春樹はとても仲がよく小学校・中学校ともにずっと一緒だった。何をするにしても二人で笑い、悲しみ、怒り、そして悔しがることだっていつも一緒だった……という記憶がある。
そして、今日は高校受験の日……彼らの運命は変わった。これから高校へ入って一緒にバカやって、テスト勉強して、色んな友達を作る気でいた……。
彼らは今、高校受験の会場に来ていた。
しかし……迷った。
自分達の受験場所がまるで分からなくなった。いつも頭がきれる春樹も今日に限ってなんか頼りない。やはり高校受験ということで緊張しているのか。それとも迷った事で気が動転してしまったのかは分からないが、人に場所を聞いてもよくわからず二人揃って迷ってしまった。
「おい、春樹……こっちでいいんだよな?」
「…………わからん。すまん、一夏……マジでわからん」
「……本気と書いてマジか? どうすんだよ俺ら、戻る道もよくわからなくなっちまったし……」
「おちつけ一夏! ここは冷静にだな……」
とかいいながら冷や汗搔きまくりの春樹。一夏はいつもの春樹じゃない。と内心焦っていた。こういうときに役に立つのが春樹なのに、今回に限ってその頼みの綱のその春樹が調子が悪い。春樹らしくない。
春樹はいつも冷静で頭の切れる奴だったはずなのに、その冷静さが欠けていた様な気がする一夏。それは気のせいなのかどうなのか分かるはずがなく、とりあえず二人で受験海上を彷徨っていた。
そして、ドアを見つけた。関係者以外立ち入り禁止と書いているが、二人はとりあえず道を聞くだけ。ということで誰かがいることを願ってそのドアを開けた。
しかし二人の願いは叶わなかった。人がいない。そこには中世の鎧のようなものが忠誠を誓うようにひざまずいているだけだった。それが何なのか二人には分かった。
『インフィニット・ストラトス』通称ISとよばれる。最初は宇宙活動を目的として作られたものだが、それを軍事目的で使うことが始まり、後にアラスカ条約により軍事運用は禁止された。そしてISは競技種目、スポーツとして活用されている。
しかしこのISには不可思議な部分が多いのも事実。ISのコアと呼ばれる動力部の情報は一部を除いて開示されていないし、なにしろこのISは何故だか女性しか動かせない。
そして春樹はそのISに近づいてこう言った。
「おい、これ……」
一夏もISを確認して頷く。
「ああ、ISだな……」
「一夏……ちょっと見てみようぜ?」
「っておい春樹、それは不味いんじゃないの? 一応ここ関係者以外立ち入り禁止だし」
「大丈夫だろ、ちょっとぐらい。もし人が来ても迷ったって言えば誤魔化せるだろうし」
「…………春樹、お前そんな奴だっけか?」
「さあね」
春樹はそのISに手で触れた。その瞬間、手で触れた部分が光りだす。
「…………動く」
その時、春樹は呟いた。何か意味ありげに……だ。
「え? 春樹、どういうことだ?」
その時、関係者であろう女性が数人部屋に入ってきた。
「君達、ここで何してるの!? ここは――」
その女性達は驚いていた。それもそのはずである。ISは女性しか使えない。ISを知っていれば誰もがわかる常識だ。しかし、その常識を無視してISを反応させている人物が目の前にいる。なにが起こっているのかここにいる人は誰もが理解する事が出来なかった。
「まさか……反応してる!?」
「そんなバカな、ISを男が動かすだなんて!」
そこにいた関係者らしき女性たちは驚きの声をあげていた。勿論一夏も例外ではなく驚きの声をあげていた。
「春樹……おまえ…………女だったのか!?」
突拍子も無いことを言い出した一夏に春樹は大声でそんなわけあるか、と大声で否定し、ISから離れた。
「えっと……あの、いいかな君たち?」
その女性は一夏と春樹のことを呼びかけた。それに一夏が答える。
「えっと、なんでしょう?」
「あのね、ちょっとお話聞かせてもらってもいいかな? あと、一応……君もISに触れてみてくれる?」
「え、は、はい。分かりました」
その女性は一夏にもISに触れるよう要求した。目の前にISに触れて反応させた人物が一人いるのだ。一緒にいたその男の子も試してもらった方がいいだろう。もしかするとこのもう一人の彼もISを起動させてしまったりするのだろうかと期待せざるおえないからだ。
一夏がISに触れる。そしてその女性達の期待は裏切られる事は無かった。一夏が触れるとISが反応した。まぎれもなく男性がISを起動させている。これは一大事であった。
「嘘、マジで!? まさか俺……女だったのかぁ!?」
わけのわからないことを言い出す一夏。女性達は呆れ顔になり、春樹は笑っていた。今までのシリアスな雰囲気が台無しである。
「そんなわけあるか一夏! ほら、自分の下半身を確認しろ!」
「はっ、そうか!」
と言って一夏は自分の下半身にある男の象徴の有無を確認した。よし、しっかりある。とほっとした一夏はため息を吐いた。
そして呆れた顔で男二人を見る女性達。
しかし、この二人がISを起動させたのは事実であり、これは放っておける問題ではない。しっかりとした確認を取って手続きを行わないといけない。
そして一夏は自分達の問題を思い出した。自分達は早く試験を受ける教室を見つけなくてはならないことに。ちょうど関係者もいるので場所を聞くことにした。一夏は試験会場の場所が記された紙を用意した。
「あの、すみません……俺達、この教室で試験受けなくちゃいけないんですけど、何処にありますか?」
すると、その女性達は真剣な顔でこう言った。
「君たちは、ISを動かす事のできた現在唯一の男ですから、ただ事ではありません。その学校の入試どころではないでしょう。IS学園の入試を受けてもらう事になります。というのが、上からの決定だそうです」
「「はあああああああああああ!?」」
と二人の男は叫んだ。
どうやら、二人がつまらないショートコントをしている内に外に連絡していたのあだろう。
そして、これから始まるIS学園においての生活は、二人を様々な出来事に巻き込む事になる。織斑一夏と葵春樹。そしてどうしてISを二人は動かす事が出来たのか、それについてはまだ謎のままだが…………。
これから始まるのは男がたった二人だけのIS学園での生活。