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[4524] はぐれ雲から群雲へ(人柱力&尾獣・二部設定)
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/07/30 00:55
初めまして、始皇帝と申します。
今回は、人柱力(本誌巻頭ポスターに登場した9人)と、
人間に化けた尾獣を中心とした二部設定の小説を投稿いたします。

各種設定、特に尾獣関係に原作との相違が多数あります。
以下を参考に、ご自身の好みに合うかどうか判断していただければ幸いです。

主な属性
・パラレル設定(人柱力全員生存)
・擬人化あり(人間に変化。作中に原理の説明あり)
・オリジナル設定あり(多数)
・画集設定は人柱力の名前・所属の里以外は未反映(=無視)

原作との変更・追加点など
・尾獣は初代火影が配布したものではない(各地で独自に封印)
・八尾は原作の牛鬼?(牛+タコ)ではなく、八岐大蛇。
・画集発売以前は原作で未詳の妖魔は、四尾:鳥、五尾:狼(犬)、六尾:雷獣、七尾:むじな。

前提となる尾獣の設定(重要なもののみ)
・実力は全員対等。有利不利は司る属性でつく程度。
・妖魔専用の術・妖術を使いこなす。攻撃・補助・回復など系統は忍術のように分化している。

その他備考
・CPはメイン要素ではありませんが、一部特殊なノーマルカップリングを前提とした描写・人間関係を含みます。
 (現在確定しているのは、守鶴×加流羅のみ)
・ナルト達人間の実力は、基本的に原作に準じます。
・女性人柱力は公式のユギト(二尾)とフウ(七尾)の他、やぐら(三尾)と設定しています。
・ストーリーの都合、人柱力・尾獣以外のキャラの出番はかなり減る傾向にあります。

以上で前置きは終わりです。
それでは、この次から本編となります。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―1話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/07/10 03:26
1話・熱血下忍と冷血策士

ナルトがサスケを連れ戻すために力をつけようと、自来也と修行の旅に出て早2年半。
各地で修行の日々に明け暮れ、見聞も広めただけでなく、時にはトラブルに巻き込まれたりとめまぐるしい日々。
だが、そんな日々ももうすぐ終わりを告げようとしていた。

火の国の首都にある一軒の宿で、木の葉への帰還を控えたナルトがくつろいでいる。
一足先に、久しぶりとなる木の葉の様子を確かめに行くといった自来也の帰りを待っているのだ。
「あー・・・もうこんなかぁ。」
ごろごろと宿のベッドで転がりながら、ナルトが眠たそうな声で呟いた。
「サクラちゃん達、元気かな~・・・。てか、エロ仙人遅いってばよ!
何日ここに居ればいいんだってば・・・ったく~。ねぇ?」
火の国の首都から木の葉までは、そう遠くない。それなのに、もう1週間もここで足止めを食っていた。
少し様子を見に行くだけなら滞在は一日で十分だろうに、
一体どこで油を売っているのかと愚痴をこぼしたくなる。
ナルトが話を振った若い男は、それに同意してうなずいた。
「確かにな。気になる話とやらの裏づけにでも手間取っておるのか・・・?」
先程までは木彫りの細工を作っていたが、それも終わったのだろうか。
暇をもてあましているナルトと同じような心境らしい男は、窓辺でこれまた退屈そうに頬杖をついている。
彼は橙色の長い髪を結い上げて三等分にして垂らし、
こめかみから垂れた部分だけが赤みを帯びた黒で、色も髪型も珍しい。
さらに切れ長でつり上がった瞳は柘榴石の深い赤で、
裾に赤い線が入った山吹色の着物を着流し風にまとった長身。
整った顔立ちはさぞかし人目を引くことだろう。
だが正体は九尾の妖狐と恐れられ、火を司る妖魔王の一人・狐炎だ。
ナルトが自分の力を引き出せる構造を利用して複数の妖術を使い、仮の体である偽体に精神を移している。
今回の旅にもこの姿で同行しており、ナルトにとっては口うるさい皮肉屋の身内だ。
だが彼を「うつけ者」扱いするだけあって、頭は非常にいい。
「・・・ところで、暇があるのならたまには勉強でもしたらどうだ?」
「え~、絶対やだし・・・。あれ、蛙?」
勉強という言葉に脊髄反射で気が滅入る。
しかしそれも束の間。部屋にぴょんと飛び込んできた蛙に目を丸くした。
よく自来也が呼んでいるタイプの蛙だ。
やっと連絡が来たかと思い、取りあえず蛙の方を向いて座りなおす。
「ナルトちゃん、自来也ちゃんからの伝言じゃ!」
「え?帰ってこいって?」
気になる話の件が終わったから、お前も来いという事なのだろう。
そう解釈したら、蛙は即座に首を横に振った。
「逆じゃ~!今、木の葉に帰っちゃいかん!」
「ええーっ?!な、何でだってばよ!」
てっきり帰れると思っていたところに、帰ってくるなといわれて仰天する。
一体何が木の葉で起きてるというのだろうか。
動揺してまごつくナルトを無視して、冷静な狐炎が横から口を挟む。
「何か内部でよからぬ勢力が動いておるのか?」
「まあそんなところじゃ。
しかも、自来也ちゃんが調べてる間に大変なことになってしもうて・・・。」
「大変なことだと?言ってみろ。」
なにやら口ごもっている様子からするに、よほど厄介な事態なのだろうか。
当然いい予感がするわけもなく、狐炎は眉をひそめる。
すると、蛙は困った様子でこう言った。
「それが、ナルトちゃんが帰ってこないのは、
九尾の封印が取れかけて危ないせいだっちゅー噂が流れて、里中が大騒ぎなんじゃ。」
「え、ええーっ?!な、何で?!」
どこをどうしたらそんな噂が流れるんだってばよ~~!!」
「様子見のためとはいえ、自来也が1人で先に帰ったのが裏目に出たな。
すぐに戻ればどうという事もなかったのだろうが、手間取っておっただろう。
その間に、お前をよく思わぬ輩が言い出したというところだな。」
封印が解けるということは、木の葉が最も恐れている事態だ。
どこをどうしたらなどとナルトは言うが、
少し邪推する人間が居れば簡単に流れる類の内容に過ぎない。
だがこの手の噂は、ひとたび流れればあっという間に里中に広がり、
民衆の不安が高まって収拾がつかなくなるのが目に見えている。
当のナルトにはたまったものではない。
「そんなの言いがかりだってばよ!何とかなんない?!」
「無理だな。不安を抱いた大衆というものは、そう簡単に警戒を解かぬものだ。
煽る情報にこそ踊れ、なだめる声などには聞く耳を貸さぬ。
火影が言ったところで同じだろう。なまじ、お前と付き合いがあるからな。」
群集心理というものは実に厄介で、負の感情を増大しやすい傾向にある。
たとえ綱手が直々にその心配はないという宣言を出したところで、一度高まった不安が不信感に変わるだけだ。
もとより上層部が庶民を不安にすることを言うわけないのだから、
身内の情で隠蔽していると思われるのが関の山だろう。
「それって、えーっと・・・何ともなんないって事?」
「端的に言えばそうだ。」
少なくとも事態を収拾する気があれば、
自来也から正しい情報を聞いている上層部がとっくにどうにかしているだろう。
九尾襲来が15年前で、当事者が大勢生存しているというのも邪魔している。
脅威が現実的なのだから、そうおいそれと安心出来れば苦労はない。
「ううっ・・・何でおれがこんな目に~~!!」
幼い頃に大人につまはじきにされたことはあるが、
さすがに帰る事さえ出来なくなったのは今回が初めてだ。
寝耳に水の理不尽な状況に、ナルトは歯軋りするしかない。
「ひょっとすると、里の庇護を無くすための暁の情報操作かも知れぬ。
大勢に守られているよりは、少数の方が狙いやすいからな。」
「マジで?!くっそ~、あいつら~~!」
あくまでも可能性の話だが、陰謀だとするならますます卑怯で許せない。
向こうに言わせれば、捕獲を容易にするための効率的手段という事なのだが、
ナルトにしてみれば故郷での信用ががた落ちになったのだから、たこ殴りにしても気が治まらないだろう。
「悔しがっている暇は無いぞナルトちゃん!
今日中にこの町を離れて、出来るだけ木の葉から離れた方に行くんじゃ!
そのうち、暗部の追い忍が出るかも知れんからの、何があっても帰ってきちゃいかん。
自来也ちゃんからの命令じゃ。」
ここで怒っていても何も始まらないと、蛙が叱責した。
ナルトは知らないが、木の葉の上層部には彼をよく思わない人間も少なからず居る。
もし弁解などの理由で木の葉に帰ってこようものなら、罠にかけられるかもしれない。
自来也としては、今は絶対にナルトを木の葉に戻せないのだ。
「そっちはどうするんだってばよ?連絡とかはいいわけ?」
「いいも悪いもあるか。うかつに連絡は取れぬぞ。自来也に連絡を入れれば、そこから足がつく。
そうなれば、我が身のために追っ手は殺すほかない。例え知り合いであってもだ。」
経験から言って同期の忍者を使う可能性は高くないが、
ナルトの事をよく知っている上に実力があるカカシなどの上忍なら、追っ手として立ち塞がる可能性は高い。
狐炎はもちろん殺しに躊躇しないが、ナルトにとっては悪夢だろう。
「そうじゃな、連絡は無理じゃろう。だがワシらはナルトちゃんの事は信じとる。
だからこっちは気にせず、とにかく逃げるんじゃ。
それでももし何かあったら、自来也ちゃんに連絡を取るんじゃ。
親戚の兄さん、頼んだぞ!」
それだけ言って、蛙は消えてしまった。
慌しかったが、それも長くここに留まるわけには行かない事情があったのかもしれない。
自来也がどういう風に命令したか分からないので、あくまで推測の域を出ないが。

「はぁ・・・これからどうするってばよ?」
いきなり放り出されて、ナルトは途方にくれたように肩を落とした。
もうすぐ故郷で知り合いと再会できると楽しみにしていただけに、
そのショックの受けようは並大抵ではないだろう。
だが、早く明日からのことを考えなければいけないのだから、落ち込む暇もない。
「まずは、言われたとおりここを離れて他国との国境付近を目指す。国外へ脱出する他ないからな。
それに、暁のこともある。当分は長く一つ所に留まってはいられぬな。」
「あいつら・・・おれを狙ってんだよな。」
「そうだ。だが、狙われる人柱力はお前1人では済まぬ。
わしが旅の間に部下に調べさせた情報によれば、最低でもお前を含め8人居るのだ。
無論そやつらも全て暁が狙っている。
放っておけば、手に落ちる者も出るやも知れぬぞ。」
「!」
かつて暁に手も足も出なかった事は、ナルトもはっきり覚えている。
自来也を相手に戦った彼らが他の人柱力に対して脅威となりうることは、ナルトにも簡単に想像がついた。
「それだけは何としても避けねば、後々面倒なことになる。
奴らがどうわしらの力を利用しようと目論んでおるかは知らぬが、
こちらに何一つ特にならぬことは確かだ。」
「確かにあいつらは悪い奴らだし、嫌な事になるってのは分かるってばよ。
それに、捕まったらどんな目に合わされるかわかんないし・・・。
でも、どうする気だってばよ。みんなどうせばらばらだし、どうやって守る気なわけ?」
ナルトが知っている限り、自分の他には砂に我愛羅が1人居るだけだ。
という事は、似たような感じで各地の忍者の里に散らばっているのだろう。
このままでは危ないが、バラバラに住んでいるのでは守りようがない。
「そうだな、各国に散り散りだ。
守るなら、手っ取り早く味方に引き入れてしまうのが得策だろう。」
「仲間にしちゃうって事?マジでやる気?!」
「手をこまねいて見ているよりはマシだ。
里がきちんと守る保証もない。それならば、互いに寄り集まった方がよほど安全だ。」
確かについさっき、ナルトは里の保護を心無い噂で失ったばかり。
もし狐炎の推測が本当なら、
今は里の保護下にある他の人柱力が居たとしても、彼らはそれが永久である保証がどこにもない。
「でも、そう簡単に仲間に入ってくれると思うわけ?
会った事もないし、ちょっと想像つかないってばよ。」
会っていきなり仲間になってくれといわれても、そう簡単にうんと言ってくれるとは思えない。
狐炎のことだから決して無策ではないだろうが、それでもナルトは懐疑的になる。
「難しいからと言って、やらぬのは愚の骨頂だ。
信用できぬ輩が居る上に、目立つような場所に置いておくことよりは数段マシだとは思わぬか?
木の葉のような大きな里にも、内通者が潜り込んでおったのだぞ。」
「う、うーん・・・。
まあおれってばもうしばらく帰れないし、他に何もすることないもんな~・・・。
よし、決めたってばよ!」
うんうん難しい顔をしていた時の空気をいきなり跳ね飛ばして、
ナルトは椅子から急に立ち上がった。腹は決まったようだ。
「やってみるか?」
その気になったかと、ほくそ笑んでいるようにも見える狐炎の顔。
だが、乗せられた気はあまりしない。
「何にもしないのはおれらしくないし。
あ、でもどうすりゃいいか全然わかんないから、お前もちゃんと手伝うって約束しろってばよ。」
「案ずるな。貴様に知恵は期待しておらぬ。」
「何その言い方?!すっげーむかつくってばよ!」
どうしていちいち引っかかる言い方をするのかと、眉を逆立てて憤慨する。
狐炎は皮肉屋だからこういうものの言い方はしょっちゅうだが、
だからと言って慣れるわけではない。むしろ毎回腹が立つ。
しかし敵は、外見こそ若くても齢数千歳の妖狐。ナルトの反論を鼻で笑う。
「ふん。文句があるのならば、その短慮軽率かつすぐに頭に血が上る癖を直して見せろ。
お前のような輩に段取りから全て任せておいては、成るものも成らぬ。
出来る部分だけはやってもらうがな。」
「それってパシリ?」
ろくな報酬も無しにあちこち駆け回る自分の姿を想像したのか、一気にナルトの気分が萎えた。
低ランク任務でブーブー文句を垂れる彼なら当然の反応だが、
短絡的な思考回路に狐炎の目は冷たい。
「実働部隊と言え。
もっとも、わしとて後方で頭だけを使っていられるわけでもないからな。
仕事の量が違うだけだ。」
「2人だもんな・・・あーぁ・・・寂しすぎるってばよ。
しかも、こんなちょ~性格悪い狐とって・・・。」
「お前の面倒を見ねばならぬわしこそ、こぼしたい心境だ。」
冷たい言い草が、ぐさりと心に刺さる。
狐炎と現在のような形での付き合いをしているのは、
中忍試験終了後以降だが、その時分からすでに散々面倒をかけて怒られた記憶が蘇る。
毎度容赦のない冷たい目で見下され、へこまされた回数は両手で利かないほどだ。
おかげで、負けず嫌いの彼が反抗するのを諦めたほどである。
「とりあえずさぁ・・・ここ離れなきゃいけないって事は、明日の宿どうするってば?
おれってばお金ないんだけど。」
「わしとて、そう持ち合わせは多くない。当てにはならぬぞ。」
「え~、マジでー?!そこはガッツリ持っててくれってばよ~!!」
さりげなく金銭管理がしっかりしている狐炎を当てにしていたナルトは、今度は大声を上げて非難し始める。
自分の持ち合わせの少なさは棚上げで、いい根性と言えばいい根性だ。
「・・・お前の修行の旅に付き合っている間にできる仕事に、
そう稼ぎが多いものができるように見えるか?たかが日雇いの賃仕事で。
しかも、その町から遠出は出来ぬという制約付きだ。」
「・・・。」
確かに、その縛りではろくな仕事が出来そうにない。
数日から長くても2週間で次の町に移るような生活の中で、日雇いの仕事をしていた方に驚くべきだろう。
修行三昧のナルトや、情報収集とナルトの監督にいそしんでいた自来也を横目に、
仮にも妖魔の王が何で所帯じみた行動に走っているのか、
部外者が聞いたら真っ先につっこんでくれそうではあるが。
「少しは考えろ。この大うつけ者め。」
「は~ぁ・・・。こんなんで大丈夫かな、おれ達。」
2人の性格が水と油なのは、今に始まったことではないのでこの際どうでもいい。
問題は当面の資金がいくらあるかという、その一点だ。
とりあえずはこの宿を出る前にお金を数えておこうと思った2人は、
どちらが言い出すまでもなく無言で自分の財布を手に取った。



後書き
もうすぐ里に帰れたはずのナルトは、いきなり災難に見舞われております。
ここまで読んで下さった方ならお分かり頂けたように、
この話では九尾は男として扱っております。
性格はナルトと正反対の設定という事が、タイトルにも現れております。
今回はほとんど2人で話が進みましたが、
次回以降では時折ナルト達の視点だけでなく、
木の葉など他の勢力も時折登場させる予定です。
それでは、今回はこれで失礼致します。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―2話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/03/17 00:46
2話・寂しい路銀

扇形に広げた札を数える擦れた音が、宿の一室で聞こえる。
今後の旅路の質を左右する重要な資金を数えているのだ。
「10・・・20・・・30。これで37000両か。
合計38156両。」
数え終わった札を整えて、先に計算が済んでいた分と暗算で合算する。
この金額が、2人の所持金の合計だ。
「なーんだ、結構あるじゃん。」
「たわけ。安宿でも1人一泊1000両だろうが。
食費その他雑費も含めれば、ひと月どころか半月も持たぬ。」
「マジで?!そんなに?!!」
思っていたよりも余裕だと安心したのも束の間、狐炎の口から出てきた厳しい現実に蒼白になる。
2年半も旅をしていたのに、宿代がどれだけかかるか全く意識したことがなかったらしい。
これには狐炎もあきれ返った。
「貴様は何を見ていた・・・?」
「だ、だってエロ仙人が金払ってるところなんて、いちいち見てないってばよ!!」
一気に相手の立つ瀬を無くす目でにらまれて、旗色が悪くなったナルトはやけで開き直る。
もっともそれでごまかせる相手ではないから、逆効果なのだが。
「これだから阿呆は困る・・・。まあ、とにかくそういうことだ。
宿代は出来るだけ節約して、野宿生活だな。」
「ま、毎日?!ギャアアアア、か、勘弁して~~!!」
「忍者の分際で野宿に怯えるな、大うつけ!
大体、天気がよい時にも宿に泊まるようなぬるい暮らしなどしようものなら、
早々に路銀が尽きて路頭に迷うのは貴様だぞ?
食物がいらぬわしと違って、食べねば死ぬだろうが。」
狐炎は妖魔だから、森羅万象の氣を食べて、というよりは吸収して生きられる。
しかし絵巻物の仙人でも何でもないナルトは、飲食無しでは飢え死にだ。
食物が野山で確実に見つかる保証は当然ないので、優先的にお金が回るのは至極当然。
その現実を分かっているのかという事以前に、忍者が野宿で悲鳴を上げるとは情けないにも程がある。
「ううっ・・・せつないってばよ。」
「案ずるな、野宿程度で死にはしない。それをいうなら野山の獣はどうなる。
それより、ここを出たら人柱力の情報を得ねばならぬな。」
「あー、そうだってば。・・・あれ?
でもあっちこっち行ったけど、そういう噂ってなかった気がするってばよ。」
「我愛羅の噂が、木の葉崩しまでは木の葉の里に流れなかったのと同じだ。
人柱力が里の兵器として扱われるなら、軍事機密に等しい。
存在はともかく、詳細を吹聴する里はおらぬだろう。」
たとえペースが遅くても量産が可能な通常の武器や兵器と違い、
人柱力はいわば一点物の取って置き。
しかも無機物ではないのだから、情報が漏れて対処法を講じられたからといって、
それに対抗するために改良できるようなものではない。
能力や人相など、個人データは徹底的に隠したいだろう。
「えー、じゃあ手当たり次第忍者の里で聞き込み?
時間かかりそうだけど、しょうがないかな~・・・。」
毎日野宿で見せたリアクションよりは、ずいぶん物分りのいい反応だ。
やらなければ進まないから、本人なりに納得しているのだろう。
「いや・・・まずは特異な能力の持ち主、
あるいは実力が高い忍者の情報を探して洗った方がよいな。
人柱力は任務には出されておるはずだ。
戦った経験の持ち主から、それらしい情報は流れておるだろう。
第一、いきなり忍びの里に潜入するのは危険がある。」
いかに取って置きの兵器と言っても、人間なのだから実戦経験を積まねば役には立たない。
立場を隠して、通常の任務に投じられることが必ずあるはずだ。
外に出ればどこかから大抵何かしら情報は流れるから、
それを捕まえて分析すれば少しは近づきやすくなるだろう。
「そっか~・・・。あ、ビンゴブックとかどうだってば?」
「お前にしてはまともな案だ。
・・・確かこの辺りに、裏の施設があるという。賞金首を調べてみるとしよう。」
ナルトが言うように、ビンゴブックには他国から目をつけられるような強い忍者がたくさん載っている。
高額の賞金首には、ただ者でない能力の持ち主がかなりの割合で含まれるはずだ。
しかし、ナルトも狐炎もまだそれを持っていない。
ひとまずそれを入手するため、
宿を出た2人は賞金首の情報を取引きする設備を探しに路地裏へ足を向けた。

―賞金首情報所―
薄暗い路地裏の奥にある、一見するとただの廃屋にしか見えない建物。
その裏手に隠された入り口から階段を下りると、
そこはいかにも柄の悪そうなごろつきなどが集う空間がある。
ここは賞金首とされた人間、つまりお尋ね者の情報を扱う店だ。
国、忍者の里はもちろん、個人や団体からの依頼の受付、
賞金首の情報提供、そして見事身柄の確保なり殺害なりに成功した人間には、
依頼主と仲介して成功報酬の支払いまで、一貫して行っている。
「おや、見ない顔だな兄さん達。
なんだぁ?そんな顔してあんたも狩ってるのか?」
こういう場所柄で新顔は珍しいようで、カウンターに近づいただけで店主の方から声をかけてきた。
「まぁ、そんなところだ。ああ、親父。
この携帯用の手配書は勝手に見ても構わぬか?」
「確認なら構わないぞ。」
構わないということなので、カウンター上においてあった見本をざっと斜め読みする。
ピンからキリまで、様々な賞金首の情報が多数掲載されていた。
これなら、金を出す価値はある。
「ふむ・・・なかなかだな。もらおう。」
「700両だ。ああ、それとそこの情報はいつもちょっと遅れてんだ。
壁の方に最新情報があるから、そっちも見るんだな。」
「すまぬな。」
狐炎はいったんカウンターを離れて、今度は壁の情報と照らし合わせながらじっくりと眺め始める。
すると、横からナルトが声を潜めて話しかけてきた。
(何か怪しい人はいるかってば?)
(早速お前がお尋ね者だぞ。)
(ギャー!全然嬉しくないっ!!)
確かに壁の新着リストの端に、堂々とナルトの人相書きがある。
しかし最近里内で顔を見たのが自来也しか居ないせいか、妙に顔が幼い。
その上、値段が10000両台とかなり安かった。
この価格帯は最低水準なのだが、下忍だからだろうか。
嬉しくないのはもちろん、ナルトは色々な意味で複雑な気分になった。
(てかこれってば、抜け忍扱いって事?)
(そのようだな。生け捕りだと大幅に上乗せするらしいぞ。)
生け捕りで上乗せする額は、最低でも基本額の2倍というのだから豪気なことだ。
せめて生きて帰ってきて欲しい綱手の意地なのか、他の要因なのか。そこまでは推測しきれないが。
(トホホ・・・。でさ、それいい情報ある?)
取りあえず気を取り直して、有益な情報探しをしようと思ったナルトは、
自分も壁の賞金首情報を眺めながら、それらしいのがあるかとたずねる。
(まあ、待て。)
「よう、何かお探しものか?」
ひそひそと話をしていると、新顔に気がついた常連らしき人相の悪い男が声をかけてきた。
「色々とな。ところで、最近この辺りはどうなのだ?
遠方では暁という組織が裏で動き回っていると聞くが、この近くもか?」
「あ~、あいつらな。高額の賞金首を無傷で捕まえちゃあ持ってくる、凄腕の連中だろ?
最近じゃなんでも、化け物って奴を探してるらしいな。」
「あいつら有名なの?」
何をしている組織と言わなくても通じたという事は、暁は裏社会で有名なようだ。
悪人同士は知ってるものなんだなと、密かにナルトは感じた。蛇の道は蛇、という事か。
「ああ、知らない奴はいないって。あいつら自身も賞金首だし。
・・・ひょっとして、狩る気かい?」
「フッ、まさか。命がいくつあっても足りぬ。」
ご冗談を。とでもいう調子でさらっと冗談を受け流す。
実際には全くそんな事は思っていないが、これも社交辞令というものだ。
当然向こうも分かっているので、予想通りの返事で安心したように大笑いする。
「ははっ、そりゃそうだ!あいつらこそ化け物みたいなもんだからな。
昔、1人で砦を落としたような連中ばっかりだろ?」
「そうらしいな。やれやれ・・・会いたくないものだ。」
「おっちゃんは会ったことある?」
もしかしたら見かけたことくらいあるかもしれないと思って、ナルトは横から話を振った。
暁の構成員は、イタチと鬼鮫位しか見たことがないので、
他のメンバーを見かけたことがあるならありがたいのだが。
「あ~・・・ないな。あいつらはよくわからんっていうぜ。」
「なるほど。色々とすまぬな。」
「いやいや、気にすんな。」
どうやら見かけたことまではないらしいが、別に損になる会話ではなかった。
暁の情報も、そう簡単には手に入らなさそうだ。


換金所を後にした2人は町を出て旧街道を歩いた後、
そこから少し外れた位置にある廃村の中の1軒を拝借して宿にすることにした。
放置されて長いらしく、扉が片方消えた開放的過ぎる玄関はもちろん、
壁も窓も素晴らしすぎる通気性を誇り、
天井には採光性のみ抜群の天窓が生まれているような、はっきり言えば完全なボロ屋だが。
「とりあえず、ある程度の情報はこれで見当をつけるとして、だ・・・。
火の国を出る前に、緋王郷に寄る。」
「お前んちに?」
緋王郷は、狐炎の本拠地である稲荷山という山の側にある歴史ある宗教都市だ。
火の国なら、木の葉の里以外はどこにでもある稲荷神社の総本社、
緋王郷稲荷大社があることで知られている。
「そうだ。
この先身分証を求められた際に、まさか忍者登録証を出すわけにいかぬだろう?
作らせておこうと思ってな。」
緋王郷に住む人間は妖狐を友とし、狐炎を祭神と崇めるため、その命令には忠実に従う。
また、木の葉を祭神を封印した不倶戴天の敵と忌み嫌い、
木の葉の忍者は出入り禁止で依頼も出さないという徹底ぶりなので、一時滞在する分には安全度は高い。
この辺りの土地事情をナルトは以前聞いているので、
急いでいるのに寄り道かという点については非難しない。
しかし、引っかかることが1つある。
「それってさぁ・・・偽造とか言わない?」
「他に手はないのだ。仕方あるまい。」
「お前ってば、最初に出てきた時も自分の戸籍作らせてなかったっけ?
よく怒んないってばよ・・・。」
ちなみにナルトは知らないが、戸籍や身分証の偽造は公文書偽造という立派な犯罪だ。
発行元の自治体がこれをやってしまっているから、完全犯罪と化しているだけである。
命令する方もする方だが、速やかかつ完璧に遂行する方も大胆不敵だ。
「あやつらの先祖が、我が領地に移住した折からの契約だ。
当時希少な安全な土地の居住権を得る礼として、わしら狐の配下となり協力するというな。
それを末代まで守るという契約を全うしておるだけだ。」
「えー、でもさ、実質ただ働きじゃないの?
ずっと住んでるだしさ~・・・。」
安全な土地の居住権は本来かなり魅力的だが、
平和な時代に育ったナルトにはいまいちピンと来ない。
ナルトに限らず、誰しも生まれた環境が当たり前なのだから、
それが対価と考えにくくなるということはもちろん狐炎も知っている。
「そうならぬように、先か後に報酬は与えておる。
あやつらの都合を後回しにさせるのだからな。それ位は当然だ。」
「ふーん・・・そんなもんか。」
「ついでに、前も言ったが祭りの手伝いくらいはしておるぞ。」
「お前がどう手伝ってんだか、毎回すんごい気になるんだけど・・・。」
ナルトが旅をしている間にも彼は季節の節目で時々抜け出していたが、
具体的な中身まではよく知らない。一体どんな作業を請け負っているのだろう。
「計画の打ち合わせと段取りだ。
部下はそれこそ、設営も接客こなすがな。悪くはないぞ。」
祭りの華やいだ雰囲気というものは、種族の壁は関係なくなる楽しさだ。
毎年の風物詩とあって、たとえ妖狐であっても参加したくなるものである。
狐炎の部下も、契約している人間の手伝いをしたり、観光客の案内をしたりと積極的なのである。
さすがに彼らを束ねる狐炎は、その様子を見守る程度にとどまるが。
「この時期って何かやってる?」
「町全域に及ぶ規模のものはないが・・・。
それ以前に、貴様は何をしに行くつもりか聞かせてもらおうか。」
「すんませんごめんなさい、遊びに行くんじゃないのは分かってるから、
そんな目で見ないでってば!本とマジで。」
「分かっていればよい。」
「ううっ・・・ちょっとしたジョークなのに。」
「修行の他は、食うことと遊ぶことしか頭にない輩がよく言う。」
下手な言い訳はかえってどつぼにはまる。
ナルトは皮肉にも我が身でその好例を示すこととなった。
これについては、もうぐうの音も出ない。
「だからさ・・・ゴキブリみたいなのを見る目で、おれを見んの勘弁してってば!」
「あいにくと、わしはお前のような馬鹿が嫌いなのでな。」
「しくしく・・・。」
ナルトは今日もめいっぱいへこまされながらも、
口で擬音を出す余裕だけは残っているようだった。
今夜の寝床は、廃屋という悪条件を差し引いてもわびしそうである。



後書き
今回は完全にナルトと狐炎の2人だけで、
まだ序章のような、しかも逃亡の身という割にはのんきな風な気がする調子です。
当面の目的地である緋王郷の説明は、現段階では極力簡単なものにしてありますが、
文中にある通り、狐炎の本拠地に隣接する稲荷神社の総本社を中心とした宗教都市です。
大きな祭りが年に何度か催されるので、観光客もたくさん来るというような土地柄だと思ってください。
もちろんきちんと登場した際には、ここではなく文中に具体的な土地柄などの描写を入れますが。

彼らの旅の流れとしては、ここでナルトの身分証など必要なものを手に入れて出発してからが、
本人達にとっても本番という風になります。それではまた次回に。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―3話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/07/10 03:26
3話・若き長と食えない護衛

ナルトと狐炎が緋王郷を目指している一方、
風の国の砂の里では、次回開催の中忍試験の打ち合わせが済んで木の葉から帰還したテマリが、
浮かない顔で弟達の前に顔を見せていた。
「我愛羅、ちょっとよく聞いて欲しいことがあるんだ。」
「何だ?帰ってきて急に。」
いまや風影の我愛羅は、書類との格闘を一時中断して姉の言葉に耳を傾ける。
彼女が改まって何か話をする時は、大抵軽くない用事だ。
場合によっては、仕事が増えるかもしれないという気構えを持って望むくらいがちょうどいい。
「ナルトが木の葉の機密を師匠から盗んで逃げたらしい。
もうすでに追い忍が出たそうだ。」
「なっ・・・本当か?!」
がたっと音を立てる勢いで、立ちこそしないものの前のめりに身を乗り出す。
隣のカンクロウも息を呑み、一気に緊張が走った。
「ああ、シカマルから直接聞いたから間違いない。
私も驚いたぞ。何でナルトに追い忍なんて・・・。」
「・・・何かの間違いじゃないのか?」
ショックを受けて呆然とするよりも先に、次から次へ疑う気持ちが湧き上がってくる。
火影になりたいと公言していたくらいなのだから、
少なくともナルトの愛郷心は簡単に裏切り行為に走るような軽いものではないはずだ。
伝えてるテマリ自身懐疑的なように、我愛羅にもどうも信じられない。
「そうじゃん。そんな事になりそうな原因なんて思いつかないし。
なあ守鶴、お前もそう思うよな?」
「まぁな。」
守鶴と呼ばれた長身でがっしりとした男が、短い返事を返す。
本性と同じ黒い白目と黄金の瞳のコントラストが印象的な彼は、
砂色に鮮やかな青がメッシュ状に混じった癖の強い髪と、
左半身をばっさり切り落としたような黄緑と青の着物の取り合わせが派手だ。
おまけに顔や腕に、瞳同様に本性をうかがわせる青の紋様が刺青状にあるから、
顔立ちと相まって非常に野性味が強い。
そのため、人目を引く出で立ちの砂の三兄弟と比べても全く引けを取らない存在感だ。
妖魔の間では風王の異名を取る、砂漠の支配者だけのことはある。
「つーか、そんな大ポカあの冷血狐がさせるとは思えねぇな。
んな、自分が大損な事をよ。」
狐炎がどういう性格か、付き合いが長い守鶴はよく知っている。
仮にナルトが本当に里を追われるような事を企んでいたとしても、
少なくとも現状で利益が出ないことをさせるわけがない。
だから我愛羅の横でテマリの話を聞いた瞬間から、もうその話に信憑性が乏しいとちゃんと見抜いていた。
「そうだよな~・・・。」
カンクロウがガリガリ頭をかく。
この中で飛びぬけた年長者まで言うのだから、もはや信用不能な話というのは確定した。
信用できるのは、ナルトには追っ手が出たという部分だけだ。
「シカマルも首をかしげていたが、
あいつもあまり知らされていないらしくて、これ以上は何も言えないとも言っていた。
ただ、近々火影殿から使者が来るそうだ。」
「そうか・・・。」
使者が来るという事は、捜索協力を求めにやってくるということでほぼ間違いないだろう。
我愛羅としては気が進まないが、
今のうちに対処の草案くらいは考えておかなければならない。
「きな臭ぇな。
昔、まゆなしパンダを殺ろうとしてた連中みてぇなのがはびこってんじゃねぇか?
少なくとも、火影の姐さんの考えじゃねぇだろ。
下から突き上げ食らって押し切られたんじゃねぇのか?」
「そんな人に見えるか?ナルトのことは意地でも守りそうに見えるぞ。」
あまり会話を交わしたことはないが、
会議の後などに多少話した限りでは、ナルトの事はかなり気に入っているように見えた。
側近のシズネや弟子のサクラなどからも、
彼女が彼の将来に大きな期待をしていることはよく聞いたものだ。
綱手らしからぬ決定に首をひねると、守鶴が露骨にため息をついた。
「おいおい、いくらてめぇより大人だからって、そう何でも好きに出来るわけねぇだろ。
下をあんま無視しまくってたら、自分の首が飛ぶのはどこも一緒だっつーの。
つーか、んな私情ばっかごり押しするような奴じゃ、そのうち寝首かかれっだろ?」
「ああ、それもそうだな・・・。いくつでもそんな上司だと確かに困る。」
我愛羅は自分の意見を通す時に、
いつも年齢が余計な壁として立ちふさがっているせいか、感覚が麻痺していた。
よほどトップに強権が与えられている構造でもない限り、
多数の反対にあえばいくらトップの意見でも否決されてしまう。それは年齢に関係ない事だ。
部下の立場になってみれば、知り合いだからと言ってやたらとかばいたがる上司は嫌気も差すだろう。
寝首をかかれる心配はともかく、内部分裂の元になることは極力避けるべきだ。
「少なくとも人間の頭領なんてもんは、ころころ変わるんだからよ。
上は気ぃ使わねぇとすぐそっぽ向かれんだぜ?」
「その点お前は楽でいいな。特別なことをしなくても勝手に部下がついてくる。」
俺はいつも苦労させられているのにと、さりげなく皮肉る。
だが、この程度の皮肉に釣られるような相手ではない。
「そりゃあ、1000年単位の実績って奴だ。
てめぇらみたいなのと一緒にされちゃ困るぜ。代われる奴も居ねぇしよ。」
自信満々な言い草が神経を逆なでするが、
1000年単位の実績と、守鶴の代わりが務まる妖魔が狸の中に居ないのは本当だ。
妖魔は完全な実力社会で、高い妖力を持ち、かつ統治力に優れた個体が長となるのが普通だという。
前者が欠けて後者が優れている個体を長とすることはないので、
この世で9体しか存在しないレベルの妖力を持つ守鶴以外、周囲が納得する長は存在しないのである。
一方妖魔王が統治していない種族では、
長の候補者の実力が拮抗していると大きな争いとなることも珍しくない。
小さな群単位ではともかく、種族全体を統括する長が代替わりしない種族は、
余計な力を消耗しない分かなり恵まれていそうだ。
「つーか、ほっといても何とかなる優秀かつ忠実な子分共だから、
オレ様がてめぇのお守りする時間があるんだぜ?そこ分かってんだろうな。」
本来なら本拠地で総指揮を取らなければいけないところを、
腹心の部下に多くを代行させてうまく回しているのだ。
こうでもなければ、今頃風影邸でのんきに我愛羅と話している暇なんてない。
「ああ、わかってる・・・チッ。」
恩着せがましい言い方には心底腹が立つが、
長として未熟な我愛羅が守鶴の手を借りる局面は密かに多いので、あまり表立って反論もできなかった。
それにそれ位なら、ナルトの件について気を揉んでいた方がまだいくらか有意義だろう。
そう思い直して、我愛羅は適当な白紙に居間の話を軽くメモにとって机にしまいこんだ。


翌日、テマリが言ったとおり木の葉からナルトを拘束する協力の要請がきた。
同盟の内容に、要請があった場合の抜け忍拘束も原則として協力することが含まれているので、
検討する会議の時間もかからず、その日のうちに回答を伝える運びとなった。
使者としてやってきたカカシ達は書状を受け取った後、夜を待たずに木の葉に帰る慌しさ。
ナルトの事情については、おおむねテマリが聞いた程度の理由しか出なかったが、
木の葉がいかにこの件で慌てているかという事はよく分かった。
普段なら、砂漠の暑さを避けようと帰りは夕方まで待つことが多いのだが、それすら惜しかったようだ。
一方我愛羅は仕事が終わった後、守鶴と共に風影邸の奥にある、
自分の許可がないと一切の立ち入りが認められない区画に足を向けた。
目的の部屋に来てノックをしてから扉を開けると、寝室兼居間と台所が繋がった空間が現れる。
そこには、テマリと同じ黄朽葉色の髪を肩で切りそろえた、孔雀石の瞳の清楚で美しい女性が居た。
とっくの昔に死んでいるはずの我愛羅達3兄弟の母・加流羅である。
「お帰りなさい。今日も大変だったでしょう。」
やってきた息子と守鶴を、優しい柔らかな笑顔で出迎える。
今日がいつにもまして緊張を強いられた日のせいか、我愛羅はホッと肩の力が抜けた。
「どっちかって言うと憂鬱だったよ、母さん。」
「そうなの。お茶を入れるから、そこに座っててね。」
加流羅はそういって、奥の台所でお茶の仕度を始めた。
そうしているとまるで生き返ったかのように見えるが、実は守鶴が使う偽体の法という妖術で実体を得ている。
偽体とは、簡単に言えば一番肉体に近い性質の依代だ。
人型に切った形代と同様に、肉体を持たない霊体が実体化する媒体として使われる。
通常の形代では再現できないような生き物らしさの再現力を誇り、
例えば怪我をすれば血を流し、食事をすれば味を感じるといったところである。
普通なら偽の体と気づかれないどころか、憑依している本人も意識しない程高レベルなものだ。
それだけに使い手も限られる上に、維持に使う力の消耗も多いのだが、そこは高い妖力を持つ守鶴の事。
本来ここぞという時に短時間しか使わないような術でも、恒久的な維持に差し障りは出ないようだ。
彼曰く、作れば後は楽だし作る時に一番妖力を食う、だからだろう。
ちなみに、守鶴や狐炎もこの術に憑依の法という術を併用することで、
封印されていながら意識を外界に出すことが出来る。
人柱力に使われる封印術は、いずれも人間側に妖魔のチャクラを流せる仕組みを持つので、
裏を返せばそれがチャクラや妖力が素通しの抜け道というわけだ。
ナルトが自分の意思無しで、狐炎からチャクラを与えられたことがあるのがいい例である。
また、我愛羅が守鶴の本性に変身できるような大きな力を行使できるのだから、
封印といえども力を放出するだけなら制約が薄いものだ。
特に妖力に関しては忍者の封印術で想定されていない要素のため、ある意味やりたい放題なのかもしれない。
「はぁ・・・。」
「はい、お茶をどうぞ。」
昼間のことを思ってため息をついていると、加流羅が入れたての茶を運んできてくれた。
2人の前にそれぞれ置いてから、彼女はお盆をテーブルの脇においてから腰掛ける。
「ありがとう。」
「ありがとな。」
胃の痛い仕事の後の温かいお茶の味が、我愛羅は密かに好きだ。
昔は味わえると夢にも思わなかった、母の手によるものだからかもしれない。
今ではこうして隠していないといけない存在とはいえ、触れるし話も出来るのだから、
お互い僥倖と言っていいくらいの幸運に違いないだろう。
何しろ昔の彼女なら砂が媒体だったから、我が子達を見守るほかは守鶴と話をする事位しかできなかったのだ。
「出しちゃってからなんだけど、あなたはお酒の方が良かった?」
つい2人一緒の物を出してしまったものの、
酒豪の守鶴は夜にはいつも強い酒をたしなんでいるから、
そちらがいいなら替えてくるつもりでたずねた。
「いや、別にそんな事はねぇよ。
オメーが入れてくれたんだしな~。」
「ドサクサ紛れに何してるんだこのエロ狸!」
わざわざ彼女の分の偽体も作るほど気に入っている、
もとい惚れて可愛がっているだけあって、単なる気遣いで終わっていいはずの返事ものろけに早変わり。
その上ちゃっかり加流羅の髪に触った守鶴に腹を立てて、我愛羅は反射的に茶たくを投げつけた。
「おっと危ねぇ。フリスビーやりたいんなら外行けよな。」
「うるさい茶化すな!大体お前は本当に油断も隙もない。
さっさと砂漠に帰れ!」
飛んできた茶たくを指で挟んであっさりキャッチする余裕は、我愛羅の怒りに余計油をそそぐ。
兄弟と和解したすぐ後位からの日が浅い親子の付き合いは、
慢性的な愛情不足が長かった我愛羅には、マザコンと揶揄される程母への思慕を深めたのかもしれない。
「お~ぉ、マザコンの本領発揮してんな。
誰のおかげで、加流羅と一緒に暮らせると思ってんだ~?」
「・・・2人共、もう遅いんだからあんまり騒がないでね。」
どちらも加流羅を好きで居てくれるのは嬉しいことなのだが、
それで毎回喧嘩になるのは彼女の悩みと頭痛の種だ。
別に心底嫌いあっているようには見えないからまだいいのだが、
出来るなら家族内での喧嘩は自制してもらいたいものである。
仕方ないので、昨日の夜に少し耳にした事を守鶴に振ってみることにした。
「ところであなた。
昨日我愛羅のお友達のことを聞きに行くって言っていたけれど、いつ行くつもりなの?」
「今夜、この後だな。まだ当分昼間が空けられねぇからよ。
ちょっと聞きに行くだけだし、そう長くかからねぇだろ。」
「遥地翔か。頼むぞ、お前しか自由に動けないんだ。」
妖魔が使える遥地翔という妖術は、一瞬で遠くへ移動することが出来る便利な術だ。
ナルト本人に確認しに行くのが一番だから、、
これを使える守鶴が真相を確かめに行こうという話になっていたのである。
「わかってるぜ。そんじゃ、ちょっくら行ってくるか。――遥地翔。」
もうすぐに行ってきた方が早いと判断したのだろう。
詠唱を唱えると、守鶴は一瞬でその場から姿を消した。
「ナルト・・・。悪いことが起きてなければいいんだが。」
「きっと大丈夫よ。悪く考えすぎると、あなたが参っちゃうわ。
今は信じて、あの人の帰りを待ちましょう。」
「・・・ああ、ありがとう。」
悪く考えすぎるのは、確かによくない。
加流羅の言うとおり、今はただ大人しく知らせを待つだけだ。
まだ残っていたお茶を飲みながら、努めて我愛羅は平静を保っていた。



後書き
今回は砂側視点で、注意書きの段階で予告(?)していたカップリングも登場しています。
別に今回に限ればいちゃついているという程ではないですが、
我愛羅の苛立ちようから、普段ちょっかいを出してるんだな・・・。
と、思っていただければ幸いです。
狐炎&ナルトとは、また違った意味で相性があまりよくない二人です。
またご質問がありましたので、1話では狐炎の外見紹介の部分でさらっと流す程度に留めていた実体化の理屈を、
加流羅の登場シーンで詳しく説明いたしました。
以降登場する妖魔達も、同じ手法で実体化します。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―4話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/07/10 03:26
4話・狐狸の秘密会談

―緋王郷―
狐炎を穀物の神として崇める、緋王郷稲荷大社が治める宗教都市・緋王郷。
昔、火の国が戦乱期だった頃に各地で焼け出された人々をまとめていた1人の巫女が、
狐炎と契約を交わして住み着いたのが始まりという、数百年に渡る歴史を持つ町だ。
歴史が長いだけにその規模は木の葉よりもかなり大きく、首都に次ぐ程となっている。
現在では狐と共存し、季節ごとの大きな祭りで観光客が集まる至って平和な観光都市としての顔も持つ。
守鶴はここに住む狐炎の部下から、主人が今ここに来ているという連絡を受けていた。
いったん神社の前に遙地翔で瞬間移動した彼は、広い敷地を歩きながら一人ごちる。
「あいつの事だから、たぶん本殿だよな・・・。」
狐炎が緋王郷に居る時は、稲荷山かふもとの神社の奥と大体決まっている。
今回はナルトを連れているので、後者だろう。
神社の職員はもう帰ってしまっている時間なので、見張りの狐に訳を話して通してもらった。

しばらく待っていると、この緋王郷の人間側の統治者でもある大宮司がやや足早に出迎えに来る。
「まぁ・・・。こんな夜更けにようこそいらっしゃいました。
さぞお急ぎでいらっしゃるのですね。どうぞこちらへ。」
ここでは高貴な色とされる朱色の衣装をまとった美しい大宮司は、
うやうやしく礼を取って、狐炎が居る部屋へ案内する。
「悪いな。ところで、大宮司が直々に出るなんて珍しいじゃねぇか。」
黙って長い廊下を歩くのも何なので、守鶴の方から話を振ってみる。
すると大宮司は、申し訳なさそうにこう言った。
「申し訳ありません。当直の者が位の低い者ばかりでございまして、
わたくしの他には、風王様をお迎えに上がるにふさわしいものがおりませんでした。」
「いや、いいって。それより、こんな遅い時間に大変だな。」
妖魔の王は、ここに来る際は多かれ少なかれ人間に化けてやってくるのが昔からの通例だ。
そこで王の人間姿がどんなものかを不用意に広めないために、
神社でも高位の神職しか迎えにこないのがしきたりとなっている。
普段は小宮司などのもう少し低い位の神職が迎えに来るので、彼女自らが出迎えに上がることはそうそうない。
女好きの守鶴にしてみれば、美人が出迎えてくれてラッキー程度だが。
「お気遣い痛み入ります。お待たせいたしました、こちらです。」
「ありがとな。よー、久しぶりだな冷血狐。」
断りを入れもせずに守鶴が狐炎の前に座ると、
大宮司はここで控えるように指示を受けていたようで、戸口のすぐ脇で背筋を正して座った。
「久しぶりだな。ナルトの事でも聞きにきたか?」
悪口にしか聞こえないあだ名の事は綺麗に無視して、用件はお見通しと言ったような口ぶりで返事をする。
話が早いとありがたい。守鶴は少々機嫌良さそうに口角を上げた。
「まぁな。まゆなしが真相をそっちから聞きたがってたしよ。」
「そうか。木の葉から砂にも知らせが行ったのか?」
首都からは木の葉の近くを通らないと行き来できないため、
最初から行くつもりはなかったが、やはり検討しなくて正解だったようだ。
同盟を結んでいるから、すぐに手が回っても何らおかしくはない。
我愛羅が確認を取りたがるというのだから、そういう事なのだろう。
「ああ。里の機密を盗んだ裏切り者を速やかに拘束する協力をしてくれ、だとよ。
もうちょっとましな嘘つけって思わねぇか?」
「それはそうだな。しかし、我愛羅は要請を受けたのだろう?
当面はどの程度の協力をすることにしたのか、教えてくれぬか?」
木の葉の動向に関する情報は、些細なものでも得ておきたい。
今後のこちらの行動にも関わることだ。
「そりゃあ、つきあいってもんがあるからよ。
ただ、最近大名が変わってマシになったって言っても、まだ予算だけで肝心の人は足りねぇまんまだからな。
実質は国内に情報が入った時に教える程度しか出来ねぇって、あいつが言ってあるぜ。」
「ならば、風の国に行きさえしなければさして影響はない・・・。
それでよいのだな?」
風の国は最近、無能な大名に辟易した家老達の声に押されて先代が隠居させられた。
後任には、まだ若いが実績を持つ長男が代わって就任しており、
国力向上の名の下に、砂の里の財政状況も格段に改善しているいう話は良く知られている。
しかし人材の育成には何年もかかるので、よその里を世話するような余力はない。
「そうだな。で、金ドリアンはどうしてんだ?」
「あやつか?野宿と里の仕打ちに文句は垂れるが、目に見えて消沈した様子はないな。」
ナルトは夕方にここについて早々に、久々の布団だと言って小躍りしていた。
切り替えが早いというか、前向きというか。
ともかく、落ち込んで使い物にならないという様子はない。
今頃は明日に備えてぐっすり眠っているだろう。
「それとわしらは当面の間、まだ居所が分からぬ人柱力の確保に回る。
その情報を集めてはくれぬか?」
「暁がらみでか?」
「ああ。ナルトがここに来て里の保護を失ったのは、奴らの思惑と言う可能性もある。
さらに管理が厳重な里でも、この先安全とは言い切れぬ。
どうせ迫害されておる者も多いだろうし、それならまだ固まっていた方が安全だ。
それに、中の知り合いが戦力になる。奴らに対抗するにはちょうどよい。」
暁の実力の程は完全には明かされていないものの、いずれも元は各里のずば抜けた実力者だ。
先手を打って安全を確保したいからこんな事を思いついたのだろうと、守鶴も大体事情はつかめる。
「ま、いいんじゃねぇのか?こっそり連れ出して騒ぎになっても、
暁になすりつけときゃいいんだしな。」
暁にしてみればたまったものではないだろうが、
今はどの里も、九尾の人柱力が仲間集めに奔走しているなんて知る由もない。
例えば争った痕跡を残した上で人柱力が居なくなれば、勝手に暁の仕業と騒ぎになるだろう。
「出来れば数人引き入れたところで、奴らに不利になる情報も流したいものだ。」
「お~、面白そうじゃねぇか!」
「そのためにも、お前には是非協力してもらいたい。」
表向きは風影である我愛羅の護衛、要は側近を務める守鶴は、当然機密情報を握れる立場にある。
砂や木の葉の内情などを積極的に伝えてもらえれば、かなり助かるだろう。
それに、言い方は悪いが我愛羅をうまく動かす事だって不可能ではない。
「分かってるって。そっちこそ、うまくやれよな。」
楽しみだといわんばかりに不敵な笑みを浮かべて、守鶴が言った。
どうやらその気になってくれたらしい。
「当然だ。ああ、そうだ・・・八代。」
「はい。」
「当分は、狸が多く出入りするようになるだろう。
見かけぬ顔に木の葉の者が紛れ込まぬよう、必ずわしの部下に確認を取らせろ。」
「承知いたしました。」
狐達の顔は人間も覚えているが、狸達の顔はそうは行かない。
少なくともしばらくは追っ手がナルトを探してうろつくだろうから、念の入った確認は大切だ。
「指示などは全て明日の朝礼からで構わぬ。
今宵はもう遅い。下がって休め。」
「仰せのままに。それでは失礼致します。」
八代はほとんど足音も立てず、静かに部屋から出て行った。
自分よりも格が高い人物の前での遠慮もあるだろうが、やはり常日頃から身についているものだからだろう。

「そういやオメーの所、いつの間にか代替わりしてたんだな。」
「人間だからな。つい数年前に就いたばかりだが、賢い娘だ。」
「いいよな~、オメーん所の神社は巫女が一番上に来るからよ。」
「貴様の言いたい事は大体分かっておる。この節操無しが。
ずいぶん昔に、女の方が能力の高い家系と言っただろう。」
別に狐炎の趣味でもなんでもなく、霊力が女性に強く受け継がれやすい家系だから、
大宮司に女性がつく例が多いだけだ。
それを分かっていてわざとからかってくるのだから、あきれ返る。
「何だよ、しけたおっさんのツラよかいいだろ?」
自分を慕って祭ってくれるなら、綺麗かはともかく女性の方が嬉しくて当然だろうと、
守鶴は完全に自分の嗜好でものを言う。
部下に対してはそんな事は言わないが、人間相手の反応はこんなものだ。
「仕事が出来ればどうでも良い。
そんなに女の顔を見たいのならば、さっさと戻ればよかろう。」
根本的にかみ合っていない台詞に頭が痛くなりつつ、狐炎は投げやりな返事をよこした。
風影の私邸に戻れば、今頃帰りを待っている加流羅が居るのだろうから、
どうでもいいことを言うくらいなら早く帰って欲しいという気になる。
用さえ済んでいれば、その後は関知しない。
「ま、それもそうだな~。
男やもめの性悪面みてるより、可愛い嫁の顔見てる方が何百倍も楽しいぜ。
じゃあな。何かあったら連絡よこせよ。」
「いちいち余計な事を言いおって・・・。
連絡はする。そちらも何かあったらすぐによこせ。」
確かに前の妻が死んでから長いこと再婚していないが、男やもめは余計なお世話だ。
極普通の同性ならまだしも、妻が1人も居ない期間がゼロに等しい女好きに言われたくはない。
遥地翔を使って帰っていった彼は、多分戻ったらさっそく妻を愛でるだろう。
人間を妻として扱うのはあまりいい事ではないと狐炎は考えているが、
狸はそれでも構わない種なのだから、口出しはしない。
「やれやれ・・・。わしもそろそろ休むとするか。」
月を見ながら、もう日付が変わって大分たつと悟った狐炎は、
戸締りだけは済ませて部屋を後にした。


翌日。緋王郷を出る前に、町を少しは見ておきたいという希望したナルトは、
まだ早朝の神社の境内から町を眺めていた。
すぐ裏に稲荷山が控えるこの神社は、来る時は高い石段を上らなければいけない。
それだけに、山の頂上ほどではないが見晴らしはなかなかだ。

「気は済んだか?」
後ろから声をかけられて振り向くと、狐炎が立っていた。
普段から気配を断つ癖でもついているのか、彼の気配はぼうっとしていると分からない。
「んー、ちょっとは。てか、本と広いなここってば。
あ、そうだ。昨日お前がバタバタしてて聞けなかったけどさ、何でここだとお前は神様な訳?」
「珍しいな。そんな事に興味がわいたか。」
勉強嫌いで一般常識にも疎いナルトが、興味を示すとは珍しい。
別に、知りたければ教えてやってもいいと思っているが。
「だってさー、お前ってば神様じゃなくて妖魔じゃん。何で?」
木の葉では天災とも言われ恐れられていた彼が、
同じ国の違う町でいきなり神様と祭られる落差はナルトにはどうも理解できない。
一体どんな理屈だと尋ねたくもなる。
「それは、神社で神と崇められる対象が広いことが関係しておる。」
「じゃあ、何でもあり?」
「それに近いな。要は人間が、自分の力を大きく越えていると判断したものだ。
それらは恐れ敬う対象であり、それが神となる。
高い山やしばしば氾濫する川、時には、死後に激しく祟った霊魂も当てはまるな。」
古来から人間は、人知を超えた存在を特別なものとして認識してきた。
その対象は有形無形を問わず、ナルトが言うように何でもありというのが一番近い。
もちろん、基本的には人間の手におえないものという制限はつくだろうが。
「ふんふん・・・色々あるってばよ。あれ?じゃあお前らも有りってわけ?」
「そういう事だ。妖魔の中でもとりわけ力が強い個体。
それは人間にとっては、もはや制御下に置けぬ自然災害のようなものだ。
そこで暴れないでくれと言う祈りを込めて、社を建てたのが始まりだった。
ちなみにわしら妖魔を神とする信仰のことを、特に妖魔信仰と呼ぶ。」
「何でわざわざ分けんの?特別なわけ?」
「巫女や神職、陰陽師などが扱う法術は、悪霊や妖魔に対抗するためのもの。
つまり、通常わしら妖魔は敵として排除する対象に過ぎん。
ゆえに、それを信仰対象とみなすことはやや特殊ということだ。」
「ふーん。じゃあ変わってんだ。ここの人って。」
「そうなるな。もっともわしの場合は、別にいた穀物の神と同一視されただけだ。
狐はネズミを捕る故、古来より穀物の神の使いとされたからな。」
長くなるのでナルトに語るつもりはないが、
ちょうど緋王郷がこの地に生まれた辺りから、穀物の神と狐炎の同一視が始まっていた。
平和な土地に住む許しを与えた狐の王への感謝が、目には見えない彼らの神と狐炎を重ねさせたのだろう。
特にそう仕向けたわけではないのだが、気がつけば民は狐炎そのものを崇めるようになり、
祭神の名前も人間が彼につけた尊称になっている。
「えっ、じゃあここの狛犬が狐なのも?」
「そういう事だ。その神の使いが狐だったからな。」
「へ~。ところでさ・・・よそ行ったら、守鶴なんかも神様だったりするわけ?」
「ああ、もちろん。風の国で特に厳しい一部の地域では、
砂嵐にあわぬように守鶴を模した絵を、水筒などに焼き印で入れる。
あやつは風と砂を操るから、その加護を祈ると言うぞ。」
その地域では守鶴を砂漠の主と呼び、恐れる一方で砂嵐を鎮める力を持つとされている。
困難な旅路を少しでも安全にしたいという切実な願いから、
いつしかこんなお守りが生まれたのだ。その他の妖魔の王にも、各地で様々な形の信仰がある。

「色々なのがあるんだな~。化け物だったり神様だったりさ。」
「所変われば品変わるということだと思え。」
「でもさ、守鶴ってばきれいなお姉さんしか守ってくれそうにないってばよ。
意味あんのかな~・・・?」
2年半前に我愛羅が木の葉に来た時、
ナルトも人に化けた守鶴と会っているが、その時の酷い女尊男卑っぷりは記憶に新しい。
ちょっと反抗心旺盛な態度で接したところ、我愛羅と2人まとめて男の縦社会の厳しさを味わわされた。
後に我愛羅達3人の中で比較的扱いがまともなのはテマリと聞き、すんなり納得した覚えもある。
「確かに男女で利益に差が出そうな気もするが、
あくまでまじないなのだから、そのような事は考えんでもよかろう。」
「それもそうだってばよ。
あ、でもあいつさー、困ってる人が男と女の2人いたら、絶対助けんの女の人だよね?」
「十中八九な。」
本人が聞いたら、失礼なと怒るどころか当たり前だと豪語しそうな辺りが、余計に嫌になる話だ。
そういえば、いつだったか「オスはカスだし」などとうそぶいていた気もする。
「そういや言うの忘れてたけど、お金もらえたわけ?」
旅の資金が心もとないと、道中も苦々しく口にしていた狐炎は、
ここへ来た時についでに路銀も調達するといっていた。
「ああ。現金はかさばるから、換金用の物もいくらかな。
それと、これがお前の身分証だ。無くさぬところにしまっておけ。」
ちらりと暖かくなったらしい財布の中身を見せた後、そこに入れていたナルトの身分証を手渡してくる。
大事なものなので、放ったりはしない。
「ありがと。おー、おれってば結構よく写ってるかも。」
写りに満足しつつ、愛用のガマ財布にそれをしまった。
なお、写真の彼は変装のため髪が茶髪でヒゲ模様もない。
今度から、町に入る時はこの格好に変化するわけだ。もちろんその時は狐炎も姿を変える。
いったん入ってしまえば、宿などでは気にしなくてもいいだろうが。
「さて、そろそろ行くぞ。」
「あ、うん。」
緋王郷を出た後は火の国で大きな人里に立ち寄ることはないし、国境越えも近くなる。
そろそろこの国にお別れだと考えたナルトは、一抹の寂しさを覚えた。



後書き
前回から少々間が空いてしまいましたが、ちまちま書いておりました。
お待たせした割には、あまり話の中での時間が進んでおりませんが・・・。
今回はちょい役状態のナルトですが、次回はもっと出番を用意いたします(汗
ちなみに今回後半で語られる妖魔信仰につきましては、
本文で狐炎が語っているとおり、「所変われば品変わる」という事です。
あれだけの「何かよくわからないけど、超怖くてやばい妖魔」なら、
祟り神的な性格の神として祭られている地域があるかなと。
独自の世界観の紹介のようなものなので、あまりストーリーに深く関わる事はありませんが・・・。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―5話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/11/18 23:43
5話・困った患者と無口な主治医

―松葉の町―
国境を越え、近くの小国に入った2人は大きな街道沿いの宿場町にやってきていた。
ここは交易ルートに入っているので、町は人で溢れている。
うっかりしていると迷子になってしまいそうだ。
そういえば自来也との旅ではこんな町もたくさん見たなと、ナルトは一瞬感傷に浸りかける。
「何か情報あるといいけどなー・・・。」
「こういう場所は人の出入りが激しい。役立つ情報は、探せばいくらか出てくるだろう。
日が暮れたら酒場にも行くぞ。」
「え?おれも?」
何で未成年のナルトまで酒場に行くのだろう。
かなり疑問に思って首をかしげると、狐炎は事も無げにこう言った。
「お前に頭があるのなら、問題はないも同然となる。」
「え?」
頭があるならと言われても、じゃあどうしろというのか。
ますますナルトは頭がこんがらがった。
“変化を使えば済むと言っているのだ。うつけ。”
(何だ、それならそう言えってばよ!)
最初からズバッとそう言えばいいのに、回りくどい言い方をされたら分かりにくいではないか。
ナルトが憤慨すると、狐炎は呆れた様子で冷ややかに見下した。
“たわけが・・・どこで誰が聞いておるかも分からぬ往来で、
忍者と悟られるような発言は出来る限り慎むべきだろう?”
(だからって、うつけとかたわけとか、2回も言わなくたっていいじゃん・・・。)
確かにそう言われるとナルトの考えの方が安易だが、馬鹿扱いを2連続は納得行かないものがある。
もっとも本人はそう思っても、優しさの欠片も無い相手に要求するのは無理な相談だ。
「ところでさ、紫電は次いつ連絡よこすんだってばよ?」
「情報が入り次第になるな。必要があれば使いを送ればいい。」
紫電とは守鶴の偽名だ。
ちなみに苗字の錬空は、自身の術の名前から適当につけたのがバレバレの安易なネーミングである。
尾獣で唯一本名が知られている彼は、狐炎と異なり本名を使えないから、
部外者が居る場所では三兄弟にもこの名前で呼ばせている。
「えー、じゃあいつ来るかさっぱりじゃん。」
「便り無いのが良い便りだ。あやつとて暇ではない。
取り立てて変わった情報がなければ、わざわざこちらに来る必要は無いからな。」
今頃は火の国内の部下を密偵として放って調べさせている頃だろうが、
そもそも第一次の定期報告まではまだかかるだろう。
焦っていても仕方が無い。
「お前の方は?」
「手配済みだ。もっとも、まだかかるがな。」
狐炎の方も同様に、緋王郷の人間や部下の狐に命じて調べさせている。
狐と狸の双方で情報を漁れば、人柱力も暁も、木の葉の動向も把握しやすいことだろう。
「早く知らせ来ないかなー。」
「なるべく有益な情報であることを祈っておけ。」
そう簡単に見つからないだろうが、祈る分には自由だ。
ナルトも、あくまで軽い願望程度に幸運を祈っておくことにした。

通り沿いに歩いていると、具合悪そうに店の軒先でしゃがみこんでいる赤い髪の老人が居た。
年が行っているように見えるから、もしかすると何か病気の発作かもしれない。
「そこのおじいちゃん、大丈夫?どうしたんだってばよ?」
放っておけないナルトは、すぐに近寄って肩を叩く。
「ううっ・・・は、腹が痛い。そ、そこの若いの、水もっとらんかの?」
「水?あ・・・でも水筒あったっけな。」
きっと持病の薬でも飲むのだろう。とにかく頼まれたものを荷物から探す。
しかし結構中に色々つまっているから、ごちゃごちゃして探しにくい。
もう少しきちんとしたかばんにしておけばよかったと、ナルトはいらだった。
待った無しの老人は、もちろん待てない。
「中身は炭酸でも何でもいいんじゃ、何かくれ~い!」
よっぽど切羽詰っているのだろう。とにかく必死だ。
トイレが見当たらない場所での腹痛は悲惨だから無理もない。
「あ、ああもう!狐炎、持ってない?!」
「いちいち騒ぐな。出すから少し待て。」
後から来た狐炎も自分の荷物を探ると、あっさり見つかったのですぐに水を注いで渡す。
ほとんどひったくるような手つきで受け取った老人は、
薬を口に放り込んで水を一気に煽り、大きく肩で息をした。
「うう・・・ふー、助かったぞい。」
「・・・またか、馬鹿じじい。」
「ぬっ、遅いぞい!」
老人が水筒の蓋を返した後、彼の後ろからふらりと気配もなく若い男がやってきた。
年頃は狐炎と大差ないだろう。
色白で深緑の着物に、白い袖なしの羽織という格好だから、がっしりとした老人の方が強そうに見える。
しかし、叱責されたところで彼は全く動じた風ではない。
「別に、遅くは・・・ん?」
「何じゃ、どうかしたか?」
物珍しいものを見るような目になった連れの様子に、老人が首をかしげる。
若い男は口を開き、親しげにこう言った。
「狐炎か。久しぶりだ。」
「久しいな。息災であったか。」
珍しく狐炎が砕けた雰囲気で接しているのを見るに、どうやら古くからの知り合いらしい。
という事は、人間ではないのかとナルトは悟った。
狐炎と親しげに話すような知り合いというだけで、もう大体結果は見えるものだ。
「ああ。ところで、そっちは?」
「まあまあだが・・・ここで立ち話をするのは落ち着かぬな。
どこか店に入らぬか?」
「いいぞい、おぬしのおごりな・・・へぶぅ!」
調子のいいことを言いかけた瞬間、老人の顔面を裏拳が襲った。
「勘定は、折半で。」
老人を殴って黙らせた若い男の提案で話がまとまり、一行は個室のある茶店に入った。

―休息処・蜜庵―
個室を指定して入った4人は、狐炎が会話を漏らさないための結界を張ってから話を始めた。
向こうから尋ねられて、狐炎が今までのいきさつを説明する。
「・・・そうか。里を、追われたのか。」
若い男は茶を飲みながら相槌を打つ。
狐炎の知り合いである彼もまた、人目を引く外見をしていた。
部分的にやや癖がある群青色の短髪に、首の両脇から長く腰近くまで伸びた銀髪。
髪より深い銀色の目はいまいち生気に乏しく、肌色とやや細身の体つきのせいで余計その印象が強い。
しかし妖魔である以上、この外見でもかなりの手練れである上に打たれ強いのだろう。
ちょっと想像がつかないが、先程制裁していた光景から片鱗が窺える。
「そういえば、まだ名前を、聞いていなかったな。」
「こやつはうずまきナルトという。見てのとおり、まだ若輩者だ。」
「そうか、ナルトか。我は鼠蛟(そこう)、鳥の王だ。医者もやっている。」
「鳥?医者?」
「鼠蛟の本性と眷属は鳥だ。
こやつの医術の腕前は確かでな。『神の翼』の異名を取る最高の名医だ。」
「へ~!そりゃすごいってばよ!」
最高の名医というからには、忍者の世界における綱手のようなものだろう。
ナルトの目にも頭が良さそうに見えるし、狐炎の同輩という長命を考えれば納得だ。
「わしは『無花果(むかか)』じゃ!」
「これは偽名。本名は、老けた紫で老紫。」
「ええい、そんな事は言わんでええわい!ところでえーっと赤いの、おぬしは?」
何か都合が悪いのか、無花果もとい老紫は話をそらした。
「わしか?火を司る狐の王・狐炎だ。」
「ほ~、火なんか。鳥と違って健康的じゃの!」
「うるさい。」
「あべしっ!」
横から肘鉄を食らって、老紫がわき腹を押さえて悶絶する。
かなり痛かったらしい。それはそうだろう、何しろ妖魔の肘鉄だ。
中でも男妖魔の馬鹿力ぶりは、ナルトも身にしみてよく知っている。
「火って健康的・・・?てか、じゃあ鼠蛟・・・さんって、属性何?」
火が健康的かどうかについては意見が分かれるところだが、それはともかく妖魔には皆得意とする属性がある。
彼は何だろうか。鳥なら風かと思っていると、ポツリと予想外の言葉が返ってきた。
「毒。」
「えっ・・・?」
毒とはまた、種族に似合わない回答だ。ついでに見た目の雰囲気にもそぐわない。
まあそれを言ってしまうと、見た目にも冷静な狐炎が火というのはもっとおかしいことになるのだが。
「まぁ、毒と薬の扱いにかけてはこやつの右に出るものはおらぬから、敵に回すと厄介ではあるがな。」
「そなたまで・・・あんまりだ。」
「別に侮辱でも揶揄でもなかろうが。
お前の知識は、それだけの価値があるという話だ。」
薬物の取り扱いに精通しているのは、色々と有利なものだ。
危険なものの判別や利用法、対処に至るまで膨大な知識を持っているわけで、狐炎の言うとおり敵に回せば面倒である。
「てか、何で医者?妖魔にお医者さんとかいるわけ?」
「必要だから。妖魔にも、病気や怪我はある。」
人間よりも遥かに頑丈な妖魔でも、体のトラブルは色々とあるものだ。
鼠蛟が言うように、時には必要となるから医者も職業として成立する。
「へ~、そんなもんか。」
「こやつは人間も治せるから、重宝するぞい!」
「下痢は、もう飽きた。」
老紫が自慢げに胸を張る隣から、苦い声が横槍を入れる。
その内容にナルトは耳を疑った。治す方が飽きるほど下痢をするとは、まともではなさそうだ。
「一体どんな生活してるんだってばよ?!」
「拾い食いと、自業自得の食中毒。」
「自業自得とは何じゃ!節約精神の賜物じゃぞ?!
旅では節約が命なんじゃ!」
「味オンチ・・・。」
普通、食中毒を起こすものに手を出すのは節約精神とは言わない。
それは一般的に、鼠蛟が言うとおり単なる味オンチであり、無謀な馬鹿というものだ。
もう嫌だこいつと言わんばかりのうんざりしきった顔で、彼は深いため息をついた。
「味オンチって・・・。
おれが言うのもなんだけどさ、それ忍者としてどうなんだってばよ?」
忍者は常に五感を研ぎ澄まし、周囲の状況変化には敏感でなければならないものだ。
例えば直接口に入る食べ物への注意は見習いのうちに習い、一流になってからもずっと大事にされる。
授業をサボりがちで不真面目だったナルトでさえ、
この辺りは耳にたこが出来るほどいわれたから、ちゃんと覚えていたくらいだ。
逃げるナルトの首根っこを捕まえて補習を受けさせたこともある、イルカの努力の賜物とも言うが。
「いや~、結構問題ないぞい。怪しいものは食べなければいいんじゃ!」
「腐ったものは、怪しくないのか・・・。はぁ・・・。」
これが怪しくないと言い出したら、もはや一般常識が失格レベルだ。
そしてその非常識が老紫の常識なのだから、もう何をかいわんやである。
「鼠蛟・・・お前も苦労しているな。」
「結構・・・。」
さすがに同情した狐炎に、鼠蛟がボソッと答える。
これでもう、大体日頃どんな有様か分かるというものだ。
「かわいそうな事になってる尾獣なんて、初めて見たってばよ・・・。」
日頃自分が散々やり込められているから、尾獣の方が手を焼いている光景は新鮮だ。
縁を切るに切れないから、さぞストレスが溜まっているのだろうと推察する。
「そなたは、こうはなるな。」
「何じゃい、さっきから黙ってれば好き放題じゃの!
年寄りへの敬意が足りんぞい!」
「二桁しか生きていないくせに、よく言う。」
「ぬ~、若作りの四桁はだまっとれ!!」
「じいちゃん、若作りも何もこいつらってこれ以上老けないんじゃないの?」
妖魔の寿命と老化速度は妖力に比例しているが、種族内では妖魔王と呼ばれる尾獣9人の場合は不老不死だ。
若作りも何も、いつまでも若々しいままなのだからどうこうしようがない。
「ん?そうじゃったかの?」
「すっとぼけないでくれってば・・・。
そういや鼠蛟・・・さん。結局、何でそんなに長生きで老けないわけ?」
「妖力が、飛びぬけて高いから。
もっとも、そんな妖力が宿った詳しい理由は、未だに分からない。」
「お医者さんでもわかんないのか~・・・。ちぇー、分かると思ったのに。」
ちょっと興味があったのでついでに聞いてみたのだが、
以前狐炎から教えてもらった以上の返事は聞けないらしい。残念である。
「症例が9つあるが、非協力的なのも、居たから。」
「知りたいって思わなかった奴もいるわけ?」
「色々、いるから・・・。もっと、調べたかった。残念だ。」
その残念という響きに、背筋が寒くなるのは気のせいだろうか。
そう思っていたら、狐炎がこう忠告した。
「ナルト、お前も気をつけろ。人柱力の貴重な資料として調べられるぞ。
こやつは、珍しい症例に目がないからな・・・。」
「え゛っ?ま、まさか解剖とか?!」
「失礼な。ちゃんと、生きたまま調べる。」
心外だと気を悪くした鼠蛟の台詞は、とても常識的とは言いがたい。
それ以前に、生きたまま何をどう調べるのか、全く具体的に語られないのが恐ろしい。
「ギャーッ、マッドサイエンティストー!!」
生きたままかえるの解剖状態になった自分を想像して、ナルトは総毛だった。
一見まともかと思えば、妖魔の常なのかやはりとんでもない。
ちなみにこの場合は科学者ではなく医者なのだから、あえて言えばマッドドクターというのが正しいだろうが。
「ま、こんな具合に油断はならんがの、医者代は大分節約できるぞい!」
「請求したい。」
都合よく使われてきた過去が大層ご不満らしく、実に冷ややかかつ恨みたっぷりの視線が老紫に突き刺さっていた。
鈍いナルトにも、彼の恨みつらみが窺える。きっと脳内では、それこそ何回も解剖されているかもしれない。
「・・・どんだけ今まで腹壊したんだってばよ。」
「累計額は、きっとそなたも驚くと思う。」
「・・・まず驚くとすれば、いちいち記憶しているお前の頭に驚くだろうな。」
馬鹿馬鹿しいと呟きそうな呆れた顔で、狐炎はため息のような言葉を漏らした。



後書き
約8ヶ月ぶりでしょうか。久しぶりの投稿となりました。
今回は火の国国境を越え、老紫と四尾・鼠蛟と運良く合流です。
老紫はちょっと常識が無いすっとぼけた陽気なおじいちゃん。
鼠蛟は口数が少なく、今までに出た2人とは違うタイプですが、
やっぱり人柱力とは噛み合ってません。
次回は合流したコンビと共に、次なる人柱力を探す準備を書く予定です。
概ね出来上がっているので、4話と5話の間ほどはお待たせしないと思います。

※今まで名前が未詳だった三尾や五~七尾の人柱力については、
今後登場する際は画集で判明した名前で出します。
ただし尾獣に関しては一切変更ありません。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―6話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2011/01/16 15:51
6話・不自然な経歴

しばらくは身の上話も含め、くつろいだ調子で4人は話していた。
とはいえ、真面目な話もしないわけには行かない。適当なところで、狐炎が話題を変えた。
「ところで鼠蛟。わしらは人柱力を探しているのだが、お前は何か知らぬか?」
「確実なのは、土の国のこれの故郷に一人。」
「どんな人だってばよ?」
「う~む、わしより10は上だったからの~・・・確か代替わりしたはずじゃ。
中身はこいつと仲が悪い、えーっと・・・えーっと、何じゃったかのう?」
老紫がなかなか名前が出てこないでうなっていると、横から呆れた冷ややかな視線が刺さった。
「・・・老年性の、痴呆か?」
「う、うるさいぞい!おお、そうじゃった、確か犬じゃったな!」
「彭候(ほうこう)か。」
「そうだ。」
鼠蛟がうなずく。狐炎はふむ、と一言呟いてからこうたずねた。
「あやつがあそこか・・・。岩隠れの警備はどうなっている?」
「かなり、厳しい。基本的に、国民以外は入れないから。」
山地にある岩隠れの里は、里に入るために必要な条件が厳しいことで知られている。
里の大規模化に伴い、一般人の受け入れに寛容になった里は多いのだが、ここは違う。
他国からの依頼は、金銭の授受も含め別の町の出張所でのみ受け付けていて、
里内に入るには土の国に居住して2年以上経つという証明が必要だという。
それでも一般人が立ち入れない地区が多く、外部の人間を常に監視下におきたいという姿勢が露骨だ。
「そうなると、正面からでは無理だな。」
「じゃあ忍び込むとか?」
正攻法の侵入がだめなら、忍者らしい手段をとナルトは提案してみたが、狐炎は望ましくないという顔で首を横振った。
「情報が無ければ検討しようがなかろう。最近の詳しい情報は知らぬか?」
里の構成も戦力の配置状況も分からないのに、侵入もへったくれもない。
そこで鼠蛟に尋ねるが、彼も微妙な顔をする。
「・・・あまり。これは、抜け忍になって長いから。」
「しかも、土の国なんてここ10年は戻っておらんぞい。
多分、わしが居た頃と結構あちこち変わっとるし。田んぼが家になっとるとかされたら分からん!
旅をする老紫は、扱い上は単なる抜け忍だ。
土の国は当然岩忍がうようよしているので、よっぽどの用事がないと近づきたい場所ではなくなっている。
当然近況には疎いので、持っている土地勘さえももう当てに出来ないのだ。
「そうか、ならば仕方ないな。」
予想通りの回答だったらしく、狐炎の返事に落胆の色はない。
とはいえ解決にはならないので、ナルトも腕を組んで悩んでしまう。
「うーん・・・狐炎、どうするってばよ?」
「彭候とは会っておきたいところだが・・・私情を優先させては本末転倒だ。」
「あれ?もしかして友達??」
ぽろっと漏れた意外な呟きに目を丸くする。
付き合いは3年以上になるが、会いたくなるような友人が居たとは初耳だ。
「そうだが、それがどうかしたか?」
「・・・お前に、知り合いじゃなくて友達っていたんだって。」
「わしを何だと思っていた。」
割と直接的に交友関係の欠陥疑惑をかけられ、狐炎の目が氷よりも冷たくなった。
どうやらよほど発言がお気に召さなかったようである。
「あ、いや、そ、そんな深い意味は~・・・。
あ、あああ謝るから!だから、睨まないでくれってばよ~!!」
どうやら逆鱗に触れたと悟り、ナルトは土下座する勢いで平謝りした。
さっさと謝っておかないと、後で食事のランクが落ちる恐怖が待っているかもしれない。
「友人が居ないのは、むしろ彭候・・・。」
「それは置いておけ。で、他に何かめぼしい話はあるか?」
さりげなく悪意が光る鼠蛟の言葉を遮って、話の矛先を変える。
今は横道にそれた雑談ではなく、建設的な話をしたいのだ。
「そうだな・・・。」
「うーん・・・そういえば最近、ビンゴブックに載ったばかりの変わった子が居るぞい。」
「ビンゴブックに載ったばっかり?」
載ったばかりと言うからには、まだ若いのだろう。
流れで行くと人柱力の話だろうが、一体どんな人だろうか。
「おう、そうじゃ。若い女の子じゃが、いい値が付いとるぞい。」
「この娘か?」
すかさず狐炎がビンゴブックを取り出し、付箋で印をつけていたページを軽く確認してから机に載せた。
老紫が赤い印のついた枠の中の人相を確認し、うなずく。
「そうそう、この子じゃ!」
「あ、印付けてるし。」
「年の割に妙に戦果がよいから、候補としてな。」
彼は突出した実力者と思われる人間を中心に目星をつけていたのだが、ここで早速役に立つこととなった。
枠の中には、若葉色の髪に橙色の瞳を持った、褐色の肌の勝気そうな少女の顔がある。
髪の色は少し珍しいが、基本的にはどこの里にも居るタイプのように見えた。
老紫は、人相の横や下に記された概略に沿って説明を始める。
「何でも、いくつもの小隊と出くわして、いっぺんに吹っ飛ばしたらしいんじゃ。
なかなか出来んぞい?」
「吹き飛ばした?どのように。」
見た目がナルトと大差ない年頃で、複数小隊を退けるとは大した実力者だ。
とはいえ論点は人柱力の可能性という点なので、その際の方法が気になるところである。
「衝撃波か何かで味方ごと吹っ飛ばしたらしいぞい。超豪快じゃの!」
「味方巻き添えって、乱暴だってばよ・・・。
昔の我愛羅じゃないんだしさー。って、アレ入る?狸寝入り。」
「一応、巻き添えはすれすれで回避していたと思ったぞ。」
突き飛ばす乱暴なやり方ではあったが、兄弟をあらかじめ遠ざけてから発動していたのでその少女とは違うだろう。
「じゃあ入んないか。」
今は守鶴の意識が体外にいるから出来ないだろうが、
我愛羅の狸寝入りの術は敵味方の区別が野暮になるほど広範囲の破壊を可能にする。
事前に配慮をしないと、件の少女のように味方を巻き添えにするのは間違いない。
だから我愛羅は少々手荒な準備をしてから変身したのだが、
彼女の場合はその衝撃波を発する直前に、そういう配慮はしなかったのだろうか。
「何の話だ?」
いきなり出た知らない人間の名前を聞いた鼠蛟が、狐炎に質問する。
「守鶴の器の話だ。あやつも昔は味方を省みぬ戦いをしておったが、この娘はそれ以上と来たか。」
「衝撃波・・・ねえ~。風遁?」
具体的な術名は思いつかないが、吹き飛ぶといえば風遁だろう。
あるいは、何らかの理由による爆発か。あまり術に詳しくないナルトには、その位が想像の限界だ。
「威力が高いことに間違いはなさそうだが。
しかしこれだけ味方を犠牲にしておいて、何の咎もないのは不自然だな。」
普通、こんな無茶な真似をしたら大問題になるはずだ。
だが、ビンゴブックにそれらしい記述はない。それどころか、その後も問題なく同様の任務に出ているようだ。
ちなみに似たような事で罰を食らった経歴を書かれた人間は、他の欄でごろごろしている。
それだけに彼女が余計に目立った。
「厳罰が、相場だと思う。」
「その通りだな。」
鼠蛟の呟きに狐炎が同意する。
いくら任務を遂行しても、人材をこんなに無駄遣いされては組織はたまらない。
普通なら降格などの厳格な処分を下して、しかるべき懲罰を与える。
状況の酌量が加わったとしても、最低でもしばらく謹慎処分だろう。
最小の犠牲で最大の効果を上げるのが理想であるからして、どんなに強くてもこれでは兵として失格だ。
「それにこの子が居る滝隠れは、ちっこいくせに最近大規模な作戦も積極的に手を出しているらしいぞい。」
滝隠れは小国に属する里である。他国に名を轟かせるような忍者が多数在籍するわけでもない、普通の隠れ里だ。
ちっこい癖にと老紫が言うような、身の丈にあわない依頼に手を出しているという事は、
恐らく取って置きの武器があるのだろう。
「って事は、つまり?」
「人柱力・・・。」
「その可能性が出てきたな。」
たった一人で戦局を切り開く力を持つ存在が居るとすれば、規模に不釣合いな強気な態度も納得がいく。
彼女に対する処分の甘さも説明が付きそうだ。
「さて、そうと分かれば早く詳細を探らねばな。
また裏の筋から聞くとするか。」
表に流れていない情報を探すなら、それが一番手っ取り早い。
この間ビンゴブックを手に入れたときのように、狐炎はまた情報屋にいくことを決めた。
「何じゃ、お前さん達もう行くんか?」
まだ席を立ったわけではないが、せわしさを感じた老紫が不服そうに言った。
「いや。もう1つ話したい事がある。暁を知っているか?」
「暁・・・ああ。」
「あいつら、おれ達人柱力を狙ってるんだってばよ。
ほっといたら危ないから仲間を探してるんだけど、じいちゃん達も一緒に来ない?」
鼠蛟の反応を仲間にするチャンスと見て、ナルトも積極的に誘いをかける。
「わしは構わんぞい。何しろもう何十年、この陰気な鳥と旅して飽きてたところじゃ!
お前も知り合いが居るんじゃし、いいじゃろ?」
待ってましたとばかりに、老紫は二つ返事で快諾した。同意を求められた鼠蛟も首を縦に振る。
「そうだな。我も、馬鹿ジジイは飽きた。」
「何じゃとー?!」
「ま、まあまあじいちゃん落ち着いて!」
手酷い毒舌にむかっ腹を立てた老紫が鼠蛟の胸倉を掴んだので、慌ててナルトがとりなす。
もっとも捕まれた方はちっとも慌てず、簡単に引っぺがして突き放した。
「ともかく話は決まったな。道中頼むぞ、鼠蛟。」
「こちらこそ。多分ジジイが、迷惑をかけると思う。」
とんとん拍子に、一行は4人に倍増した。この 勢いに乗って、早く次の仲間へと行きたいところだ。
そういうわけで、話がまとまったところでさっさと注文したものを腹に放り込み、勘定も済ませて茶屋を後にした。


―忍者専門情報屋―
昼は比較的閑散としている店に入り、
狐炎がビンゴブックの件のページを店主に見せると、すぐに彼はピンと来たようだった。
「あー、こいつか。」
「知っているのか?」
「最近、一気に値が釣り上がったんで注目株だ。緑のむじなを連れてる嬢ちゃんさ。」
「緑??」
どんな緑かは分からないが、植物じゃないんだからとナルトは思う。
むじなと言えばアナグマの別称である。普通、彼らは狸とよく間違えるような茶色っぽい毛色のはずだ。
緑の変種なんて聞いた事もない。
「変な色だろ?そいつがいつもちょろちょろしてて、多分口寄せ獣なんだろうな。
そこには載ってないが、この辺じゃ有名さ。時々、嬢ちゃんにくっついてこの辺を通ってくらしいぜ。」
「へー。」
「そのむじなについて、何か話は無いか?」
「そう言われてもなぁ・・・土遁をちょっと使うって、それくらいだな。」
どうやら店主はあまり詳しいことを知らないらしく、もみ上げの辺りをかきながらそれだけ口にする。
「なるほど。分かった、感謝する。」
狐炎が口の端を片方上げて笑う。たったこれだけの情報で、もう何か確証を得たようだ。
その反応は、ナルトや老紫にとってはもちろん、店主にも意外に映る。
「あれ、これだけでいいのか兄さん?」
「手がかりとしては十分だ。では。」
去り際に小金をカウンターに置いて、狐炎はきびすを返した。
鼠蛟も訳知り顔で、同じようにさっさと出て行こうとする。
『?』
緑のむじなのどこが重要なのかいまいち分からないナルトと老紫は、揃って首をかしげた。
何か内輪でだけ通じるネタの一種には違いない。そこで、町を離れ街道に出てから聞いてみる。
「なーなー、緑のむじなって何?」
「人柱力の、証拠。」
ナルトにたずねられた鼠蛟が簡潔に答えた。
もちろんそれだけでは分からないことは分かっているので、さらにこう続ける。
「我らの同輩か、その血縁、あるいは直属の部下だと思う。
妖魔のむじなは、土の術が得意。体色を考慮すれば、間違いない。」
「確かにそんなみょうちくりんな色、化け物以外なさそうじゃのー。」
「で、誰の人柱力?」
老紫が納得したそばから、今度はナルトがたずねた。妖魔の名前を聞いてもどうせ分からないが、気になるので聞いておく。
分からなければ説明してもらえば言いだけの話だ。すると、今度は狐炎が答える。
「土を司る狢(むじな)の王・磊狢(らいば)。恐らく、あやつの器だ。」
「どんな奴なんじゃ?性格悪いんか?」
もう性格が悪い事は規定路線らしく、当然のように老紫が言った。すると鼠蛟がげんなりした顔になる。
「・・・一言で言うと、変態。」
『え゛っ。』
どう変態なのかさっぱり分からないが、知り合いがこんな顔をするのだからろくでもないのだろう。
性格が悪いのと、どっちがマシなのかは不明だが。
ともあれ、一気に先行きが怪しくなったような気がした。


後書き
前回登場した四尾コンビが、軽いのりで正式に加入しました。
ビンゴブックに載っている人柱力(?)は、
地の文の記述だけでポスターか画集をご覧の方ならもうお分かりかと思います。
この後の展開は大筋が完成しておりまして、
完成後の文章の量で前後しますが、彼女の登場は次回もしくは次々回になります。
あいかわらずゆっくりペースの投稿ですが、
気軽な一言・質問など、読後は感想をいただければ励みなります。

(2011/1/16 むじなの記述、その他改訂)



[4524] はぐれ雲から群雲へ―7話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2011/01/16 15:59
―7話・即席認定じじいと孫―

街道の途中で、鼠蛟が部下を呼んで情報収集をしようと提案した。
彼の眷属である鳥は、噂好きに移動の縛りをなくす翼が相まって、話の早さは随一だ。
今から向こうの近くに忍び込ませるなら、空から自然と入れる鳥の方が都合がいい。
「その身に流れる血の連なりをもって命ずる。いでよ我が眷属が一・唐松。」
眷属招来の呪文を唱えると、光の方陣が現れて一羽のきれいな鳥が召喚された。
「お呼びですか、主様っ!」
「そなたの住まいのそばの里にいる、この少女。彼女が王の器かどうか、すぐ調べてくれ。
彼女からでなくても、近くに気配があれば、特定を。報告は、明後日までに。」
「承知いたしました!では、すぐに調査に参ります!」
簡潔な指示にはきはきした元気のいい声で答え、唐松は再び帰っていく。
あっという間だった。
「やけに元気がいいのう。で、何であいつなんじゃ?」
「土地勘と、信用。」
「そうか。ま、そんなもんじゃの。」
「結果が来るまでの間、支度でもしておくか。もう少し情報も欲しい。」
「細かいのが2行ちょいしかないもんなー、これ。」
「そりゃ、相手がほぼ皆全滅すればそうもなるぞい。」
情報を持ち帰れる人間が少ないのだから、当然詳細は分かりにくくなる。
拘束のためにプロフィールを公開する抜け忍や、所属の里で普通に話題に上る正規部隊の忍者と違い、
人柱力は情報を徹底的に隠しているということだろう。
単純にまだ若くて、目をつけられるような重要任務をこなした数が少ないのかもしれないが。
「そんじゃ、手分けしてやるぞい。もうすぐ次の町じゃし、わしと孫で道具の買出しにでも行ってくるかの。」
「え?孫って・・・おれ?!」
「そうじゃ、おぬしは今日からわしの孫じゃ!」
「何で~~っ?!」
これはまた無茶苦茶かつ一方的な宣言。ナルトが絶叫するのも無理は無かった。
実の親の顔だって知らない身に、いきなりおじいちゃんが降って来るなんて想定外だ。
「よいではないか、細かい事を気にするとハゲるぞい!」
「そういう問題?!ちょっと鼠蛟さん!あんたもつっこんでくれってば!!」
「言うだけ、無駄。」
バンバン背中を激しく激励されるナルトに、鼠蛟はそっけない返事をよこした。
長い付き合いゆえの諦めに違いないが、あんまりだ。
「そんなん有り?!ちょ、狐炎!!」
「良かったな。いいからさっさと用を足して来い。」
「ちくしょ~!お前っ、後で覚えてろってばよ!!」
「そうか、楽しみにしておるぞ。出来るものならばな。」
嫌味なくらい悠然とした態度で、口元だけ微笑んだ狐炎はさっさと自分の用事のために立ち去った。
後には、まともに取り合ってさえもらえなかった哀れな少年が虚しく残る。
―うっわ、だからこいつ嫌いなんだってーーーー!!!―
町の方向に遠くなっていく背中に怒鳴ったら余計馬鹿にされるから、必死で拳と肩を震わせてナルトは堪えた。
この態度でさえ笑われると思うと、もうどこに怒りを持って行っていいかさっぱりだが。
「まあまあ、性悪な奴なんぞほっといてさっさと行くぞい!
いいものが売り切れたら大変じゃ!お膳は急げじゃぞ!」
「それを言うなら、善は急げ。・・・あ。」
ナルトを引きずって町まで爆走していく老紫には、もう鼠蛟の声は届いていそうもなかった。


―忍具屋・ひた走り―
また裏通りの店かと、ついナルトがこぼしたくなるような狭い路地の奥にある店。
ここは人目を避けなければならない事情を持った忍者達が、安心して利用できる数少ない店の1つだ。
そして、そういった店の中でも割と珍しい仕組みで運営している店でもある。
「あれ?」
扉を開けて目に入った店内は、一切人影が無い。それどころか商品はガラスケース内のレプリカだけ。
レジらしきものも無く、顔を明かさないタイプの窓口が1つあるだけという妙なつくりだ。
「おお孫よ、おぬしはこういう店は初めてじゃったか!」
「そりゃ・・・っていうか何これ?どうやって買うの?」
ぱっと見ただけでは、どう買い物するかは直感出来ない。
ケースに見本はあるが、手順が皆目見当も付かなかった。
「まず、そこの棚を見て商品番号と数をそこの紙に書くんじゃ。」
「ふんふん。」
「それからそこの窓口に紙をつっこむと、合計金額を言ってくる。
金を支払えば、商品を横の受け取り口に落としてくるんじゃ。」
「へー、店の人が全然出てこないんだ。」
「うむ。賞金が高い抜け忍には、超用心深いのも多いんじゃ。
こういう裏の連中は結構口が堅いんじゃがのー、それでも嫌じゃっちゅー奴らにはこういう店が人気なんじゃ。」
確かにそれなら、声だけで顔を出さずに済むから匿名の保証はばっちりだ。
店としても、商品は奥だから盗難の心配もなくて万々歳だろう。
「じいちゃんも用心深いの?」
「んー、わしは綺麗な姉ちゃんが店番してるところならどこでもいいぞい!」
「うっわ、こんな所にもエロ仙人みたいなのが居るってばよ・・・。」
旅館でちょっと綺麗な感じの仲居さんなんて見かけようものなら、
すぐに顔をみっともなく崩してはナンパに走っていた自来也を思い出した。
後ろから狐炎と共同で冷たい視線を突き刺してやったのはいい思い出だ。
ちなみにその後で若い仲居さんの場合は、普通に礼を言っただけの狐炎に気を取られるという現象も発生した。
ここぞとばかりに、「後30年若ければよかったねー」とモロにいじめた事もあったものである。
「エロくないもーん。わしは素直なんじゃ!」
きっと狐炎が居たら、「下半身にか?」と、蔑みきった目で言ってくれたに違いない。
何しろ彼は下ネタが大嫌いだ。以前ナルトのお色気の術を見て、無言で張り倒してきたのだから間違いない。
「下半身にあんまり素直だと、怒られるってばよ?」
「大丈夫じゃ!うちのはああ見えてそんなにうるさくないからの!」
「マジ?!全然そう見えないってばよ・・・。」
意外な真実にナルトは仰天した。
「あいつはむっつりなんじゃ、だまされちゃいかんぞい。エロ本だって読むし、猥談だってノリノリじゃ!」
「う、うっわー・・・絶対狐炎系だと思ってたのに・・・。」
人を外見で判断するなというが、ここにも実例があったとは。
猥談なんて拒否するか興味なさそうな顔をするか、どちらかだと思ったのに。
あの色白で生気が薄そうな顔に、どんな表情を浮かべて下ネタを話すのか想像もつかない。
ナルトは現実を受け入れられずに固まった。
「そういうわけじゃから、困ったらエロ本を借りに行くといいぞい。もちろんわしも貸してやるがの。」
「あー、うん・・・ありがと。」
困ったときの内容云々は、男と男の以心伝心。あえて確認するまでもないだろう。
「ところで、おぬしは何を買うんじゃ?」
「えーっと、普通のちっちゃいクナイを20本でいいや。
大きいのまだ持ってるし、いざとなったらあいつの持ってる奴借りるってばよ。
重くなるし、口寄せの巻物書けないし。」
基本的にナルトは忍具をあまり使わないので、武器は牽制と防御用に少しあれば十分だ。
暗器口寄せの巻物も持っているが、自分では書けないので買い込んだところで収納に困る。
「むー、あいつらの武器は当てにしない方がいいぞい?」
「えー、何もなければさすがに貸してくれたってばよ?・・・たまに。」
手持ちの武器が尽きても、老紫の言う通り確かに当てにならない。
そうなるともうナルトでは不足と見て、彼自身の力で葬られたこと多数だ。
貸してくれたのはある程度短刀の扱いを練習した後、一度はと言って持たせてくれた時だけである。
万一の時に備えてと言っていた。
「本当かー?」
「ほんとだってばよ!緋迅って言う、短い刀だけどさ。
本当は太刀の方借りたかったんだけどさー、お前には絶対だめって言われたってばよ。」
「うーむ、元々長い刀は扱いが難しいからのう。
みっちり小さい時から叩き込まれんと、なかなか扱えんぞい。抜くのだって面倒じゃ。」
「ふーん。じいちゃんは使った事あるわけ?」
短刀しか使った事のナルトにとってはそんなものかという程度だが、そんなに扱いにくいものなのだろうか。
「あんまりないのー。大体剣術は、本職の侍には敵わんぞ。」
「やっぱそんなもんか。」
忍者の里にも剣術が盛んな場所はあるが、
平均してみれば長刀の扱いはやはり武士に劣るのがほとんどだ。
そもそも忍者は諜報や潜入が多いから、刀に限らず長柄武器全般にそう強くない。
大抵は目立たない小さな武器を携帯する方が理にかなっているから、そちらを重視して訓練するためである。
「でっかい武器は見栄えもいいし威力もあるがの、隠すのがめんどくさいんじゃ。
よっぽどこだわりが無い限りは、使わんのー。」
「知り合いに、でっかい扇子持ってる姉ちゃんとかいたけどなー。」
「扇子というと風遁じゃな。そりゃ術と相性がいいんじゃろ。」
サイズは置いておいて、風を起こす扇子は風遁の媒体には直感的でちょうどいい。
もちろん使わない人間も多いが、突風系の術を好んで使う忍者には人気だ。
「あ、そうだったのかー。知らなかったってばよ。」
へーっとつい口から漏れるほど、ナルトは素直に感心する。
テマリが巨大扇子を操る姿は実に絵になっていると思ったものだが、
あれは別に見た目のはったりではなかったのかと今さらながら理解した。
「扇は羨ましいぞい。暑い時はバサーッとやって欲しいもんじゃ。」
「いや、そういうのじゃないでしょあれ。」
確かにアレであおいだら扇風機並みにいい風が来そうだと思うが、
涼風を通り越してかまいたちが出そうなので、ナルトは到底やる気はしなかった。

それから2日。
町の近くで野営をしながら報告を待っていた一行の下に、先日の鼠蛟の部下が大慌てで現れた。
「主様ー、緊急連絡ですっ!」
「どうした?」
一も二もなくすっ飛んできた様子の唐松に応対する鼠蛟の顔は、自然と緊張を帯びる。
十中八九悪い知らせだろうが、果たしてどこまで行ったのか。
「炎王様から通達があった黒いマントの男、そいつらが滝隠れの近くをうろついてます!」
『!』
暁が、もうすでに人柱力と思われる人物の元に近づいている。
否が応なく場の空気が凍った。
「それと例の少女、やはり妖魔王様の器のようです。
力の大きさからして間違いないと思われますが、いかがいたしましょう?」
「すぐに、そちらへ向かう。」
人柱力の確証が得られたならば、選択肢はない。
こうしている間にも、向こうはどんどん滝隠れへ忍び寄っているのだ。
「えっ、でもこっから滝隠れって遠いんじゃないの?」
間に合わないんじゃないかという不安を見せると、心配要らないと鼠蛟は首を横に振った。
「遥地翔で、近くの鳥の集落へ行く。そこから歩けば、近い。」
「あっ、そうか!」
「おお、それならいけそうじゃの!」
遥地翔は知っている土地にしかいけない術だが、逆に知ってさえいればどこへでも一瞬で移動できる。
暁を出し抜くことも不可能ではない。
そうと決まれば話は早く、一行はさっさと術を使って目的地へと向かった。



―滝隠れの里―
里を見下ろす滝が流れる高台にたどり着くまでは、鼠蛟が言った通りたいした時間はかからなかった。
幸いにして暁が先にたどり着いた気配もなく、ひとまずの猶予は確かめられた。
滝の音にまぎれて声が下まで届かないこの場所で、一行は町を見下ろしながらひそひそと相談している。
「これ全部が滝隠れかぁ・・・。木の葉よりは狭いけど、やっぱ広いってばよ。」
「人柱力の子はどこに居ると思う?」
「どこか管理のしやすい場所で、監視付きの生活を送っておると考えるのが妥当だな。」
ナルトがぼやくとおり、比較的規模が小さな里でも人を探すには広い。
闇雲に捜索していたら、とても見つけられないだろう。
狐炎が言う管理のしやすい場所というものに見当をつけないと、居そうな場所の候補も決まらない。
「何で監視つきなんだってばよ。人柱力ってそんな扱いされんの?」
「里の秘蔵兵器という扱いならば、里内とはいえあまり自由にさせぬはずだ。
我愛羅のように、立場だけでも里長の子女というならばともかく、
どこぞの老体のように脱走されても困るだろう?」
確かに気分がいい事ではないが、里にしてみればぶらぶらされたら困るという理屈は分かる。
そういえばナルト自身は、生まれてから波の国の任務に出るまで里外に出たことはなかった。
それでも比較的自由にさせてくれていたから良かったが、狐炎が言うような管理だったら、窮屈でとても我慢できそうにない。
そこまで考えて、ふと気がついた。
「じいちゃん、もしかして一日中見張られてたから逃げたとか・・・?」
「よく分かったの!だっておちおち気晴らしもできんもーん。」
「マジだったってば・・・。」
えっへんとふんぞり返って言うことだろうか。脱力したナルトは、追及する気も失せた。
半分冗談のつもりで言ったのに、まさか本当だと言われるとは。
そんな馬鹿なやり取りを尻目に、狐炎と鼠蛟はあれこれ言葉を交わしながら見当をつけていた。
「この分だと、怪しいのは・・・。」
「何じゃ、あそこかの?」
鼠蛟が見つめている辺りを、老紫も身を乗り出して覗く。
どうやら、里外れにぽつんと立ち並ぶ建物群を見ているらしい。
「多分。」
「磊狢の気配も濃い。あの辺りでまず間違いないな。」
「でも、見張りとか多そうだってばよ・・・どうやって近づくってば?」
いくら小さな里でも、里の重要人物なのだから見張りはうようよしているに違いない。
昼間でもそこかしこに立っていそうだ。少なくとも要所にはきっちり配置されていることだろう。
「それなら、我が行く。」
「どうするんじゃ?」
「小鳥に化ける。」
今度は御大自ら潜入と行くらしい。
妖術は忍者に見破られる危険性がないとはいえ、いきなり乗り込むとは大胆だ。
「狐炎、召喚符を。」
「分かった。」
促された狐炎が筆と白紙の符を取り出し、術式符専用の墨でサラサラと術式を書いた。
すぐに乾くものらしく、受け取った鼠蛟は乾き具合も気にせずに召喚符を懐に入れる。
「それ、何に使うんだってばよ?」
「手引きに、使う。」
「へー、そんな使い方もできんのか~。・・・っていうか、お前も召喚されるんだ。」
「わしら妖魔王であっても、それ相応の手段を用いれば可能だ。もっとも、そう簡単に契約はさせぬがな。」
狐炎の言うとおり、妖魔王ともなると滅多な事では自身を召喚可能にする契約を結ばない。
必要があれば今回のように召喚符を手渡して済ませるが、これ自体滅多にない程だ。
高貴で力ある彼らは、元々下位種族に力を貸したがらないのだろう。
「しても、何人呼べるか・・・。」
「そんなにヘビーなもんなの?」
「ヘビーらしいぞい。口寄せも召喚も、対象が強ければ強いほどチャクラの消費量が上がるからの。
ま、わしら人柱力の素のチャクラ位なら夢ではないぞい。」
どんな生き物を呼ぶにしても、強ければそれ相応の力量が術者に要求される。
召喚は口寄せと違い、発動時に消費する力は何でもいいのだが、
それでも妖魔の王である尾獣を呼ぶには、並大抵の術者では命1つ使っても足りない。
チャクラが多い人柱力や、霊力が非常に強い巫女や陰陽師などなら、もちろん命と引き換えなくても呼べる。
それでもかなりの負担にはなりそうだ。
「マジで?でも、おれだけ呼べるようにされてそれっきり放置なんだけど・・・。」
「わしもじゃ・・・けち臭い妖魔は嫌じゃのう。何でじゃ?!」
別行動時の保険としてナルトは狐炎の召喚獣にされた事があるが、
逆に彼を呼べるようにしてもらった覚えはない。老紫も同様だ。
消費する力の量が無問題なら、召喚可能にしてくれたってバチは当たらないだろうに。
今は封印されている身とはいえ、それでも召喚出来れば戦況をひっくり返せるほどの戦力だ。
しかし、そんな理屈が通る相手ではない。
「嫌だから。」
「こんな調子の輩と契約するなぞ、死んだ方がましだ。」
「ちょっ、ひどっ、2人して言い草がひどすぎるってばよ!」
あまりにも感情的過ぎる文句のつけように、ナルトは食い下がって抗議する。
一言で嫌と言われるのも傷つくが、死んだ方がましとは聞き捨てならない。
「持久力だけは一級品じゃぞ?!何が嫌なんじゃ!」
『品性。』
見も蓋もない一言に2人まとめて撃沈した。
性格を指摘されたのと大差ない気もするが、品性下劣が原因と言われると人として立ち直れなさそうだ。
「何でじゃー、納得いかんぞい!おぬしだって~~!」
「うるさい。もう行く。」
後ろで口から泡を飛ばして抗議する老紫を無視して、鼠蛟はさっさと小鳥に化けて飛んでいった。
これはまた、強引な話の切り上げ方である。
もっとも付き合えば延々続く口論に付き合うほど、今は時間がないから当然か。
「うう、くやしいぞ~い。」
「あーあ・・・。」
「後で覚えとれむっつりスケベ・・・!!」
「むっつり・・・。」
老紫の捨て台詞を聞いた狐炎が、はぁっとため息をつく。
「むっつりか・・・隠す気もないぞ。あやつは・・・。」
訳知り顔で呟いた彼の言葉は、二人の耳には入っていなかった。


後書き

前回の投稿が8月という事実に我ながら戦慄・・・。
お待ち頂いている方には申し訳ありませんでした。
さて、今回は繋ぎのお話なのであまり大きな動きはありません。
老紫は勝手にナルトを孫認定したりと好き勝手ですが、
全体的にはのんきな感じで進んでいると思います。
次回は滝隠れのペアが中心で、今度は今回よりも早くお届けできると思います。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―8話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/11/10 01:47
―8話・浮いた少女とお気楽なペット―

時はほんの少しさかのぼり、ナルト達が目をつけた滝隠れの里外れ。
自分を訪ねてくる存在が近づいているとは露知らずの尾獣と人柱力が、
あまり人が来ないその場所でいつも通りの生活を送っていた。

「はーぁ・・・。」
露出が多く活動的な白い忍服が映える褐色の肌の少女が、
瑞々しい若葉色をしたセミロングの髪をかきあげる。
夕日のような濃い朱色の瞳は、憂鬱そのものらしい心情を素直に反映して曇っていた。
「ため息ついてると、幸せ逃げちゃうよー?」
額に米印に似た模様がある不思議なむじなが、彼女の側をちょろちょろ駆け回る。
ツツジのような濃いピンクのくりっとした目が愛らしいが、体は濃緑色の変わった毛だ。
連れ歩いていたら、変わったペットだとさぞかし目を引くことだろう。
のんびりとした物言いが気に触った少女は、横目で睨んでこういい捨てた。
「そんなもん、アンタを封印された日に全部逃げました!」
七尾を封印された少女は、その日から偏見と差別の目から縁が切れない生活を送っていた。
かわいい偽の体を作ってのんきな張本人は、
冷たくあしらわれて悲しかったらしく、ばたばた前足をばたつかせる。
「えーん、冷たい~。」
「あーもー・・・いちいちすねないの。ほら、おいで。」
「わ~い♪」
するっと少女の腕に入り込んでご満悦の七尾の地王・磊狢は、見た目も性格もただの口寄せ動物にしか見えない。
しかしこれが最強の妖魔の一体なのだから、世の中はよく分からないものだ。
天は何でこんなしょうもない性格の妖魔に力を与えたのだろう。
何かの間違いだと思いたいが、現実はかくも適当だ。
そんな思考に戯れにそれてみせたが、何となく沈む気分は払拭し切れなかった。
「ふぅ・・・。」
「フウ~、どーかした?」
ふかふかの毛皮にあごを埋めて、アンニュイな様子を見せる自分の器が気になるらしい。
さっきと変わらない気が抜ける喋りで聞いてくる。
「なんでもない・・・。」
今までと同様、これからも里人に疎まれて生活していかなければいけないのかと思うと、分かりきっていても憂鬱になる。
友達はいないし、普段の話し相手もいい年をして構いたがりの化け物一体だけだ。
人生50年と人の生の儚さを歌った先人の言葉があるが、
これでは彼女には残る30年以上の人生は短いどころか、長すぎる拷問にすら感じるかもしれない。
「フウー、落ち込んでても始まんないぞ~?」
「まあね。あ・・・こんな時間。じゃあ出かけるよ。」
「はいは~い。」
足下にまつわりつく磊狢をうっかりドアに挟まないように気をつけて、フウは部屋を出た。
彼女が住むこの建物は、周囲から隔絶されている。
世話をするごく少数の職員しか出入りせず、フウが区域内から出る際にはいちいち長の許可までいるのだ。
外出は前日までに申請しておかないと話にならない不便さだが、もうすっかり慣れてしまった。
一般の市街地に行くことも滅多にないから、任務以外でこのエリアから出ること自体稀なのだ。
「どちらへ行かれますか、七尾様。」
「外には出ないから。」
いちいちうるさい職員にやや乱暴に答えて、いつも修行に使う裏の森に行く。
今日の修行には広い場所が必要だから、建物に備えられた訓練施設では足りないのだ。
慣れた道を足早に進むと、五分と立たないうちに開けた森の広場に出た。
いつもの定位置に着いたフウは、周りに壊れて困るものや人が居ないことを確認してから、早速術の発動準備に入る。
「今日こそうまくやんないと・・・。」
「うん、頑張れ~。」
「・・・とかいいつつ、何もうちゃっかり潜ってんの?」
いつの間にか掘ってこしらえた穴から、磊狢が頭だけ出している。
何かあったら穴の中でやり過ごす気だなと勘付き、フウは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「ここが僕の一等席だから~。」
「あっ、そ。邪魔しないでよ。でも、力はちゃんと貸して。」
チャクラを借りて練る際は協力的なほど同調が楽だから、嫌がらずに貸してもらわないと困る。
尾獣と仲がいいほど同調が楽というのが真理かは知らないが、
少なくともフウにとってはそれが経験則になっていた。
「いいけど~、調子乗ってドーン!はびっくりするからやめてね?」
「わ、わかってるから!」
彼はどこから持ってきたのか、工事用ヘルメットなんてものを穴の入り口にかぶせている。
何回も失敗をやらかしているから、あまりフウはその点について信用がないのだ。
「・・・。」
少々気がそがれたが気を静めて印を結び、流入させる磊狢のチャクラを慎重に制御する。
本人ののんきな性格と違い、油断していると彼女が飲み込まれかねない大きな力。
そのうねりに似た流れを押さえつけるように操り凝集する。
イメージ通りの形になるように両手を前に突き出し放出した、その瞬間。
チュドーンと、まるでダイナマイトで岩盤を破壊したような爆発音が響きわたった。

「もー、何でこうなるのっ!!」
舞い上がった粉塵ですすだらけになってしまったフウは、かんしゃくを起こしてキンキン声を上げる。
ものの見事に彼女の周囲は陥没し、少し離れていたところに潜っていた磊狢もその辺で転がっていた。
「はらほろひれはれ~・・・。
ば、爆破プレイは耳がおかしくなっちゃうよ~。」
案の定巻き添えを食っていたらしく、目を回しながら妙なことを口走っている。
フウは慌てて拾い上げた。
「ああ~っ、ごめんっ!って、何でアンタが目ぇ回してるの?!」
「意外と音すごかったから~?あー、びっくりしたなぁ、もう。」
プルプル頭を振って、さっきはらほろなどと珍妙な声を上げていたにしては立ち直るのが早い。
見た目はともかく、腐っても妖魔。至近距離でこの威力を受けて、これで済む辺りは頑丈だ。
それは良かったにしても、フウは深いため息しか出てこない。
「やっぱりだめかぁ・・・。」
「封印がゆるゆるだもんねー、しょうがないよ~。」
彼女に施されている封印は非常にバランスが悪い。
蛇口から出てくる水量が安定しない水道とでも言えばいいのか、とにかくチャクラを一定量ずつ安定して利用することが難しいのだ。
「ああもうっ、後ちょっとだったのに~~!」
「発動する直前に、どばって出たっぽいよー。やだねー。」
そのタイミングでバランスが崩れたのでは、対処のしようがない。分析を聞いた彼女はがっくり肩を落とした。
この里には今まで人柱力を育てたノウハウがないから、こんな事は昔から日常茶飯事だ。
その上、溢れた力を抑える術という上等なものはない。
おかげで暴走が後を絶たず、その度に周り中を破壊してしまう。
「これじゃあ尾獣化なんて、夢のまた夢~・・・。」
「別にならなくてもいいと思うよー?体ボロボロになっちゃうって言ったじゃん。」
「上の連中がさっさとマスターしろって言ってんだから、しょうがないでしょ!」
尾獣化は人柱力にとって、その力を最大に引き出した最高の状態だ。
膨大な妖魔のチャクラが持ち主の形そのものとなり、大抵は自意識が保てないものの1人で城や町を落とせるほどの力を持てる。
ただし磊狢が言うとおり、体に非常に負担がかかるために長時間は維持できない。
そもそも妖魔のチャクラを自分の経絡系に流す事自体が毒なので、
莫大なチャクラを借りる尾獣化は、比喩ではなく体がボロボロになるという。
多用すれば寿命は確実に縮み、死期を近づけることとなる。
どの程度関係するかは不明だが、噂によれば過去に他里に存在した人柱力はみな短命だったそうだ。
「程々にねー。」
懲りないなあと思いながら、磊狢はカリカリと後ろ足で耳をかく。
いたってお気楽だが、これでも彼女の身を案じているのだ。
と、そこに人の足音が聞こえた。やってきた理由の見当はつくから、とたんにフウの顔が険しくなる。
「また失敗か!」
爆音を聞いて駆けつけた上忍の男が、汚いものを見るような目でフウをねめつけた。
この辺りの警備を任されていて、よく顔を見る男だ。
「・・・騒がしくして悪かったわね。」
「この出来損ない。いつになったらコントロールをマスターするんだ?」
いい加減耳にたこが出来る嫌味の文句。
ふて腐れて適当に聞き流せば済むからもう慣れたが、気分は全くよろしくないものだ。
それは常日頃から里の忍者が気に入らない磊狢も同様だった。
「え~~、封印失敗した痛い子には言われたくなーい!」
「何だと?!」
いきなり横から茶々を入れられたせいで、男は今度は磊狢に怒りの矛先を向けた。
「本との事でしょー?
めんどくしといてさー、自分の事棚に上げる大人って超最低~♪」
まんまと乗せられた彼をもっと怒らせようというのだろう。
ぺらぺらと、よくもまあこれだけ楽しそうにからかい文句が出て来るものだ。
フウが言い返さない分なのか、単純に自分が文句をつけたいだけなのかは不明だが。
「こ、このっ・・・!!」
「くやしかったらここまでおいで~♪」
「いくつよアンタ・・・。」
ぴょんぴょん木の枝に跳ねていったついでに残した言葉は、古典的かつ子供っぽい。
実年齢が四桁の妖魔の言う台詞かと思うと、フウは頭痛さえ覚えた。
もちろん男は追いかけない。いくら頭に血が上っても、こんな煽りにまで引っかかるようでは上忍の名が廃る。
「誰が行くか・・・全く馬鹿ばかし・・・ぎゃああ!!」
呆れて立ち去ろうとしたはずの男が、いきなり地面に吸い込まれてフウの視界から消えた。
全く何の前触れもなくである。
「引っかかった~♪」
「ちょ、ちょっと、アンタ大丈夫?!」
何が起きたか一瞬分からなかったが、足元の地面が沼になって足を取られたのだ。
実にたちが悪いが、土を司る彼にはこれ位お手の物である。
引っかかった彼は、間抜けにも腰まではまって身動きが取れなくなっている。
さっきの今だから手を貸す気は毛頭ないが、何とも悲惨な有様だ。
「くぅぅー・・・!!七尾っ、自分の物のしつけくらいちゃんとしておけ!」
「はいはい。」
しつけられるようなもんじゃないけど。と心の中で付け足してこれも聞き流す。
彼にいたずらをする口実を与えた方が悪い。
「あっはっはー、お洗濯頑張ってね♪」
「黙れ、このくそむじな!!」
「僕うんこじゃないよ?
あ!そうそう~、泥汚れは早く洗ってもなかなか落ちないから、頑張れー♪」
アカデミー生以下の低級な煽り文句にも見事に煽られて、
くだを巻く酔っ払いのようにまくし立てた男は、泥まみれのまま肩を怒らせて帰っていった。
泥さえ除けば、これも割と見飽きた光景だ。
とはいえ何とか片付いたので、修行の続きでもしようと考え直す。
しかしそんなフウをよそに何を思ったのか、磊狢は急に木から勢いよく滑り降りて駆け出した。
「あっ、ちょっと磊狢!どこ行くの?」
急に駆けていった事に驚いて、とっさに捕まえようと腕を伸ばしたが逃げられてしまう。
本気で走られてしまうと追いつけないので慌てるが、すばしっこさでは敵わない。
一体何をと思って空を見ると、彼が行く方向に一羽の鳥が飛んでいる。
「ちょっと、待ちなさいって!狩りしたいなら後にしなよ!」
「すぐ戻ってくるから、留守番しててー!」
鳥なんていくらでも居るだろうにそれだけ言い置いて、磊狢はそのまま鳥を追いかけていった。
諦めずにフウも追いかけたのだが、しまいには見失ってしまう。
「も~、あんなのいつでも捕まえられるってのに・・・何なの全く!」
ぷりぷり怒っても、茂みにまぎれてしまった彼は見つからない。
毛皮がよりによって草木と同系色なので、迷彩よろしく隠れてしまったのだ。
「こらー、鳥くらいさっさと捕まえて帰って来~~い!!」
頭にきて腹の底から怒鳴り声を響かせるが、これでも返事1つ返ってこない。
一体さっきの鳥がどうしたというのだろう。
別にフウにはまるで関係なさそうな鳥なので、余計に分からない。
磊狢の用事にしても、彼の部下はむじなだから無関係だろう。
「はぁ・・・とりあえず、まっすぐ行ってみよ。」
足跡くらいはきっと残っているだろうから、全く手がかりが無いわけではない。
―ったく、こういう地味なのって苦手なのに!―
見つけたら思いっきり怒ってやろうと心に誓い、
耳を澄ませつつも目を皿のようにして足跡を探し始めた。


磊狢の足跡を苦労してたどるうちに、だんだんと里の外れの方に近づいてきた。
これ以上進んだら結界に引っかかるエリアに入るのではないかと思い始めた頃、ようやく見慣れた緑の毛皮が見つかる。
「あーっ、こんな所に!!こらー!」
「わー、捕まっちゃった~♪」
もう今度は逃がさない。
じたばた足を動かす割には逃げ出さない磊狢の首根っこを掴んで、がっちり押さえ込む。
「で、さっきの鳥はどうしたわけ?捕まえたかったんじゃないの?」
「違うよー、昔からの友達~。」
フウの問いに首を振って、磊狢がほらとあごをしゃくって樹上を示す。
「友達?」
いぶかしげに木の枝を見ると、さっきの小鳥が枝に止まってこちらを見ていた。


後書き
重要イベントの書き溜め分から推敲して仕上げた結果、今回はほとんどお待たせせずに仕上がりました。
ようやく七尾コンビの登場です。文中の通りの仲良しコンビですね。
6話の最後で「変態」と妖魔仲間に評された磊狢は、
ペット扱いで平然としていたりと、ご覧の有様のキワモノです。
次でようやくナルト達と顔合わせになりますが、そこでも態度はこのまま・・・。
その流れから繋がるものでありながら、次回はナルト達以外にとっても大きな出来事が起こります。
出来るだけ早く仕上げてお見せしたいと思いますが、
ここまでの話ではナルトの追放と同様に重視すべきイベントなので、少し時間がかかるかもしれません。
気軽な一言・質問など、読後は感想をいただければ励みになります。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―9話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/03/17 00:47
9話・大地に広がる大樹の枝

特に変わった様子は見受けられない小鳥。
じろじろとフウが眺めていたら、ぱさっと羽音を立てて木から降りてきた。
地面の手前でその姿がもやに包まれ、輪郭が一気に大きくなって人間くらいの大きさになる。
もやが晴れると、そこには細身で群青の髪の男が居た。
この辺りでは一度も見たことがない。
「変化?それともアンタ・・・まさか妖魔?」
磊狢が友達というならそうだろうという確証はあったが、あくまでも慎重な姿勢でたずねる。
「そう、我が名は鼠蛟。磊狢と同じようなものだ。」
「・・・ってことはもしかして――。」
予想通り男は正体を認めた。断片的な言葉だが、その格も察することは容易だ。
磊狢の正体を知っていてなお落ち着いているという事は、いわゆる尾獣なのだろう。
「でもどういう事?アンタ達は皆、今のこいつと同じ目にあってるはずでしょ?
アンタの相方はいないの?」
彼らは聞いたところによれば、全員各地で封印されて人柱力にされているはずだ。
誰かが逃げたという話はまだないはずなので、その情報通りなら何尾か分からないこの男にも居るはずである。
「会いたいか?」
「・・・罠じゃなければね。」
ちらりと足元の磊狢を見る。
知り合いと言ったのは彼自身だし、恐らくフウにとっても危険ではないのだろう。
だが、今まで心を開いたのはこのむじなしか居ない彼女にとって、会ったばかりの妖魔を信用するのは難しい。
妖魔は人の心を惑わす技に長けた者もいるというし、幻術返しで解けないまやかしも使う。
普段ちゃらんぽらんとはいえ、同じ妖魔の磊狢に任せるのが最良だろう。
「磊狢、アンタは会ってみたいって思う?」
「うん、せっかくだし♪見せてよ蛟ちゃん!」
「って、そんなあっさり?!いくら知り合いだからって、いいのそれで?!」
せめてもうちょっとこっちが安心するセリフでも言えばいいのに、彼ときたらそんな配慮もなしにいきなり相手に同意した。
かえって先が思いやられるとげんなりするフウにお構いなく、磊狢はやっぱり能天気だが。
「平気平気、僕を信じてよ~。ってわけで、お願い~。」
「分かった、すぐに呼ぶ。」
鼠蛟が懐から出した3枚の符に、念を込めて力を解放する。
宿った妖力が解放されて召喚術が発動し、待機していた狐炎とナルト、老紫がまとめて召喚される。
「あ、アンタ仲間が3人もいたの?!」
空間の壁を越えていきなり3人も男が現れたから、フウは目を丸くした。
予想外の複数召喚を見せられたせいか、ちょっと腰が引けている。
「1人とは言ってない。」
「詐欺!」
「まーまー、蛟ちゃんのお茶目って事で許してあげなきゃ。」
これだから他人、もしくは妖魔なんて信用ならないんだと掴みかからんばかりのフウを、
馬でも落ち着かせるように磊狢はなだめる。
「お、おどかしてごめん。こうでもしないと入れなくってさ。」
歓迎とは言いがたい反応にたじろぐも、ナルトはどうにか機嫌を直そうと謝った。
しかし思っていることがもろに態度に出たことがかえって不信感を煽り、めいっぱいフウから睨まれる。
警戒心が増した彼女は、そばの磊狢の首根っこを掴んで盾にした。
「それは分かるけど、入ってどうする気だったわけ?用事によってはアタシとこいつが敵になるけど。
一応こいつ、そんじょそこらの番犬よりは役に立つよ。」
「おおう、血の気が多いのう・・・。」
むじなを突きつけるという絵はシュールだが、脅しは本気だろう。老紫も少々引きつった。
何しろ、首根っこをつかまれているものは立派な生物兵器なのだから。
人柱力2人が持て余しかけているのを見かね、今度は狐炎が口を開いた。
「すまぬな、火急の用ゆえ、挨拶どころか伺いも立てずに来た非礼は詫びる。
わしは狐炎。そこの磊狢と同格の者だ。」
「おれはうずまきナルト。こっちは老紫じいちゃん。あんたは?」
「・・・アタシはフウ。知ってるだろうけど、こいつが磊狢。」
一応彼らが名乗ったことで多少許した彼女は、磊狢の首根っこを放して普通に腕に抱えた。
まだ目がきついが、話くらいは聞いてくれそうだ。
「なんか面白くない名前じゃのー。」
しかしせっかく気を許しかけたところなのに、老紫が無神経な感想を言ってしまう。
当然、名前をけなされた彼女は憤慨した。
「余計なお世話!文句あるならこいつに言ってよ。
アタシがつけたんじゃないんだから。」
「え、そうなの?!そこのむじ・・・磊狢さんが?」
尾獣が人柱力の名付け親なんて初耳だ。
名前くらい、普通生まれてすぐに親か周りの大人がつけるだろうに。
「だって~、ここの大人とか、七尾とか七とかそんなのしか言わなかったんだよー?
数字じゃつまんないでしょ?考えるの苦労したしね~。」
「ほー、名無しな子につけたんか。いい奴じゃの!」
うちのと違ってとでも続けそうなほど、老紫は大げさなくらいうなずいて感心しきりだ。
しかし心温まるエピソードだろうに、当事者のもう一人は少々冷めた態度で息をついた。
「っていっても、こいつが知ってる昔話の主人公の名前をパクっただけだけど。」
「あ~ん、辛口ー♪」
「・・・磊狢、お前は少し黙っていろ。」
1人でどんどん妖魔の品格を奈落の底に落としていく磊狢を見過ごせず、
とうとう狐炎が心底あきれ返った声でそう言い捨てた。
「炎ちゃんさらに辛口~・・・。」
「か、軽い・・・軽すぎるってばよ。」
愛がないよーと言ってさめざめと泣く真似をする磊狢を見て、ナルトは色々とショックを受けた。
いくら同格といえ、こんな奴を捕まえてよくまあそんな愛称をつけられると恐れおののく。
別に名前によっては『ちゃん』が付く事位男でもあるが、つける相手は選んで欲しい。
これが尾獣かと疑問になるペット的な振る舞い以前に、そっちが気になった。
「いつもの事。」
横からそう言ってきた鼠蛟は慣れている上に気にしないらしく、いまだ平然としていた。
「こんな奴に凝ったネーミングなんて要求できるわけないけど、
まあ化け物呼ばわりより100倍マシだからそう呼んで。」
フウはそう言いつつも、つけられた当時はまだ小さかったので素直に喜んでいた。
由来こそ他愛もないが、まともな名前すらついていなかった彼女にとっては初めてのプレゼントだったのだ。
「しかし名すらも無かったとはな・・・。全く、人間は度し難い愚か者が多すぎる。」
これには二の句が継げないと、狐炎は冷め切った声で言い捨てた。
顔を知っている人柱力には、里内での風当たりは冷たくてもそこまで兵器扱いされた人間はいない。
「扱い悪いのには慣れっこ。まあ、一人ぼっちってわけでもないし。」
抱っこしている磊狢を撫でて、フウは軽く肩をすくめた。
仲が良さそうな様子を見せられると、自業自得とはいえ入れ物に冷たい妖魔を相手にしているナルトと老紫には羨ましい。
傍から見ると、飼い主とペット位にしか見えないが。

「さて、話をする前に物陰で遮音の結界でも張るか・・・。
ところで磊狢、いつまでその姿でいるつもりだ?」
適当な茂みに目をつけながらも、狐炎はその点に言及するのは忘れない。
「えー、だめ?」
「ただでさえ不真面目な貴様が、余計に堕落しておるようだからな。」
「ちぇー、わかったよ。変貌の法!」
そのまま物陰に行って話を進める気だったのだろう。
口を尖らせた磊狢はぴょんと腕から飛び出して地面に降り、しぶしぶ術を唱える。
霧が彼を包み、その輪郭がナルトやフウと同程度に膨れる。するとそこで霧が晴れて、人間姿の磊狢が現れた。
濃い緑の短髪はやや縮れていて、むじな姿のときの額の印はそのままだ。
袖がないやや中華風の服にへそ出し、肩には薄黄色の大きな毛皮を掛けている。
性格の印象通りのカジュアルな服装だ。
「おー・・・派手じゃの。しかも見かけがこいつらより若いぞい。」
全員木の陰に移動したところで、老紫はまじまじと磊狢を観察する。
老紫ではないが、細身で目がやや大きい見かけからすると、大体18前後に見えた。
「失礼だなー、僕は童顔なだけだよ~。子供だって村が出来るくらい一杯居るし。」
「そ、その顔で?!」
老紫はブッと噴出した。20歳以下の外見で、子供が一杯の既婚者なんて言われれば仰天だ。
妖魔、特に王である尾獣の外見年齢が当てにならないのは、人柱力達にとっては常識なのだが。
「こやつとて、実年齢はわしらと大差ない。そう驚くほどのことか。」
結界を張る術式符を適当な木に一枚貼り付け、事も無げに狐炎が言った。
鼠蛟も横でうなずいて肯定している。
「我らにも、結構いるし。」
「知ってるけどさ!でもだって、おれと大して年変わんない顔だってばよ?!」
見かけからしてはっきり大人と分かる狐炎や鼠蛟は、いくら子供が居ようがまだ百歩譲って許せる。
しかし、いくら人間でも10代半ばの父母がごろごろしているとはいえ、童顔で子沢山はインパクトが大きい。
あまつさえ村が出来るくらいという事は、アカデミーの1クラスどころではないのだ。
具体的な人数については、村も規模がピンキリなので不明にしても。
「あっはっはー、妖魔を見かけで判断すると痛い目にあうぞー?」
「いや、もう十分あってるってばよ・・・。」
衝撃のカミングアウトだけで先制攻撃は十分だ。
あいにくと、彼と同輩の狐炎のようにさらっと流せるほどナルトの方は出来ていない。
「そうなの?しょうがないよねー、炎ちゃんドSだもん。」
どこがどうしょうがないのか聞きたいところだが、磊狢は勝手に納得した。
「さて、結界も張ったし時間もない。だから単刀直入に言おう。
最近、暁という組織が人柱力を狙って暗躍しておる。フウ、お前も狙われているのだ。」
それた話を元に戻して、狐炎が率直な事実を伝えた。
突然の話に、彼女は当然驚いて目を丸くする。
「え?それって・・・こいつ狙いで?」
今は視線が同じ高さになっている磊狢を指差して聞き返す。
ナルト達はそれにうなずいて答えた。
「そう。我とジジイも、それを避けるために、合流した。」
「・・・で、今どれくらい危ないの?」
それを理由に、わざわざ人の心配までするとはご苦労なことだ。
磊狢と知り合いだからという事なのだろうが、フウにはこれを麗しい友情と思う思考回路はない。
相手がそんな考えの持ち主に見えないせいもあるが。
「部下が、この近くに暁がいると、言ってきた。」
「わぉ、それはもうお尻に火がついちゃう感じだねー。
んー、蛟ちゃんの言ってることからすると、誘いに来たって事でいい?」
相変わらず怪しむ態度を隠さないフウをよそに、磊狢は平然と話に興じている。
自分が狙われている割には危機感がないが、彼は平常通りの対応をしているだけなのでどうという事はない。
「ああ、そうだ。目的こそ定かではないが、奴らは犯罪者の集まり。真っ当な用途ではあるまい。
その上奴らの前では、例え里に居ても安穏とはしていられぬ。」
「だろうね。って事は、もうあの手この手で誘拐しようとしてきた所を見たんだね?」
「そうだ。そこの小僧は、以前に直接さらわれかけた。
名高い忍に師事すると、そやつに敵わぬと見てか、今度は保護していた里が敵に回るように仕向けてきた。
仮にも五大国の里の出がその有様だ。」
「なるほどねー、そんな事までしてたんだ。・・・炎ちゃん達も苦労してるわけだ。」
暁の事は、この滝隠れの里にも噂が届いている。
特にタチの悪い手合いが所属する抜け忍組織という事で、小さいこの里も注意しているのだ。
その割に、近くをうろつかれて見逃すという失態を犯しているが。
「そう。」
「う~ん・・・。
でもだからって、じゃあ一緒に行くー♪ってやっちゃうと、それもそれでめんどくさいんだよねー・・・。」
人柱力が、身の危険があるからしばらく隠れ家にこもりますと正直に申告しても、里がそれを素直に通すわけがない。
だから必然的に無断で里から離れるしかないわけだが、そうなるとすぐさま抜け忍決定だ。
いきなり暁に加えて滝隠れが敵に回ることになるから、能天気な磊狢も即決とは行かない。
―僕だけの用事ならそれでいいんだけど、フウの事だからなー。―
ここを一度出れば、二度とまともな形で戻ることは叶わないだろう。
磊狢はそれでも全く構わないが、曲がりなりにもここが故郷のフウはそうは行かないはずだ。
誘いを断った場合の最悪に適当な手段としては、暁が来るたびに磊狢が潰すというのもありうる。
もちろんそれで四方丸く収まって済むなら、聡明な2人がわざわざ磊狢を尋ねに来たりもしないだろう。
さりとてじっくり検討する時間もない。
―炎ちゃんも蛟ちゃんも、里自体を信用出来ないって事なんだよね。
確かにしょっちゅうフウを狙ってきたら、しつこすぎてあいつらうんざりするに決まってるし~・・・。―

「アンタ考えてるみたいだけど、結局どうするわけ?」
黙って考え込んでいたら、痺れを切らしたフウに咎められた。
彼の返事1つで、この後の運命はがらりと変わるかもしれないのだ。
いたたまれないだろうし、それならいっそ早くしてくれという気持ちは十分分かる。
「今考えてるんだよー。
ここに居て喧嘩上等でやっちゃうか、もう帰って来るもんかで一緒に行っちゃうか。
僕はどっちでも何とかするけど、フウはどっちがいい?」
「そんなの急に聞かれたって、どっちがいいかなんて答えられるわけないでしょ!
大体――。」
そう話す途中で、遠くから爆発のような轟音が聞こえた。
場所は里のどの辺りか分からないが、外れの方にまで聞こえるとは尋常ではない。
「何、何の騒ぎ?!」
状況を確認するため、磊狢が急いで木の上に飛び移る。
「あっちが燃えてるよー!」
彼が指差す先は、里の門にほど近いエリア。
目立つ建物が燃えているので、中心街のような場所と思われた。
戦闘要員が集まる警備の厚い町で、何の前触れもなくそうなるのは異例の事態だ。
「・・・どうやら、奴らが来たようだな。」
チッと忌々しげに舌打ちした狐炎が、抑えた声で呟く。
「えぇっ、もう?!」
「別に、おかしくはない。」
部下からの報告を聞いて駆けつけた方としては、それが正直な感想だった。
「このままじゃまずいぞい。どうするんじゃ、ドサクサ紛れに連れだすんか?」
「アタシは行くなんて言ってない!!」
老紫としては特に深い考えはなかったが、流れに乗るのは許さないようで、すかさず本人から反発が来る。
「じゃあ、あっちに行ってくる?」
「・・・そうしなきゃ、後でどっちみちアウトでしょ。こんな時のための『兵器』なんだから。」
「だがおぬし、それでいいんか?」
ため息混じりにこぼした彼女に、老紫が今度は真面目な顔で問いかける。
「何が言いたいわけ?そんなに無理矢理アタシを引きずっていきたいの?!」
「いやいや、そういう事じゃなくの。そりゃ来てくれるのが一番じゃが、その前に!
ずっとここに居たって、おぬしは一生都合よく使われてポイじゃぞ?そんなのはまっぴらだと思わんか?!」
またもや怒らせてしまっても動じない。
一体彼女の言葉が何に触れたのか、一生懸命同じ立場の先輩として訴えかけている。
(老紫・・・。)
―鼠蛟さん?―
初めて聞く熱弁に驚いていると、かすかに漏れた呟きがナルトの耳に入った。
もしかしたら彼は里を出奔する前に、人柱力と里の関係の行く末を知ったのだろうか。
「だったら今と変わんない!
アタシの『人生』なんて、そんなもん最初っからないんだから!!」
「フウ、落ち着いて!向こうから来た連中にばれちゃうよ?」
これ以上続けさせたらまずいと遮り、注意を促す。
彼女も忍者の端くれ。磊狢の忠告ですぐに我に返った。ナルト達の事がばれたら面倒だ。
「・・・確かに、ちょうど迎えが来たみたい。」
里を守る気概よりも諦めが顕著な彼女が言うとおり、燃えている方から数人の忍者が近づいてくる。
声を張り上げて、フウを探しているようだ。

「ちょっと、どうしたわけ?!」
1人で茂みから離れて駆け寄ると、殺気立った男達が揃ってフウをにらんでくる。
「お前のせいで里が襲われたんだ、この疫病神!その首で償ってもらうぞ!」
「はぁっ?!何それ、アタシに戦えって言いに来たんじゃないの?!!」
「違うな。お前みたいな失敗作の出来損ないが何の役に立つ。
首1つで敵を追い払えるなら、これを機会にお払い箱になれと上の仰せだ。」
「・・・!!」
フウが奥歯をギリッと鳴らす。何と言う暴言だろうか。
これには茂みで様子を見ていたナルトの頭にも血が上り、たまらずに立ち上がった。
「ふざけんな!お前ら、仮にも里の仲間に何てこと言うんだってばよ!」
「誰だ貴様は?部外者は黙ってろ!」
「ったく、よそ者を引き込んで何やってたんだ・・・。」
「もしかして、こいつがあいつらの手引きをしたんじゃないか?」
割り込んだナルトには警戒しつつも、フウを貶めることだけはお約束であるかのように欠かさない。
確かに疑われるような状況だが、『どういう事だ』の一言も無しでそこまで口に出すのか。
「かもな。さて、あっちの始末は俺がつけておく。こいつはお前らで連れて行け。」
「了解。」
「このっ・・・!」
連行するために腕を掴もうとした忍者の一人の腕を、本人が振り払う前に横から飛び出してきた磊狢が文字通り叩き折った。
「ぐぁぁっ!!」
腕がだらりと下がり、断末魔のような悲鳴を上げる。
しかし磊狢は追撃の手を緩めず、痛みで背を丸めた体を容赦なく殴り飛ばした。
10mも離れた地面に叩きつけられた後は、もう彼はピクリとも動かない。
人柱力3人はあっけに取られる一方、妖魔2体は冷ややかに事態を静観する。
仲間を瞬く間に戦闘不能に追いやられた他の忍者は、磊狢が発する殺気と膨大な妖力で金縛り状態だ。
「ふ~~~ん、今の今まで散っざんフウをいじめてこき使っといて、そういう事言うんだー。
へー、そ~ぉ、よーく分かったよ。そっかー、そんなに死にたいんだ。」
先程の、麩菓子よりも軽い空気は殺気と完全に入れ替わっている。
日頃可愛がっている自分の器を敵に差し出されるとなって、はらわたが煮えくり返る程の怒りは尋常ではない。
偽体から噴き上がる力は容易に視認できるほど濃く、本性を彷彿とさせた。
ここで全員まとめてチリも残さず消されても、何ら不思議ではない。
付き合いが長いフウでさえも、ここまで怒ったのを見たことは無い。
怒りを静めるいい手立ても思いつかず、視線だけは釘付けのまま息を呑んだ。
「ひぃ・・・!!」
相手の正体も分からないながら、何か怒らせてはいけないものの怒りに触れたことだけは理解したらしい。
しかし、それはもう手遅れだ。
自分の妖力とチャクラで髪をふわふわ揺らしながら、磊狢は口元だけで笑った。
「決めたー。もう許してあげない。
どうせ火事になっちゃってるし、せっかくだから一番怖いって噂のあれをあげるよ。」
口調だけはいつもと同じかそれ以上にふざけている。
しかし地面を這うような抑揚が、これでもかという位腹に据えかねたことを示していた。
「・・・狐炎。」
「分かっている。」
短い言葉と視線のやり取りの後、鼠蛟は巨大な猛禽に化けて一声鋭く叫ぶ。
「乗れ!」
「ぬぉっ、な、何じゃ?!」
訳が分からないまま、とにかく老紫は背に急いで乗り込む。
よほど急いでいるのだろう、鼠蛟はすぐに翼を打って空に舞い上がった。
邪魔な枝がバキバキと折れる音がする。
「え、何?!うわわっ!」
いきなり狐炎に胴を抱え込まれ、ナルトが戸惑いの声を上げた。
「いいから、黙って捕まっていろ!」
狐炎は突っ立ったままのフウもすぐに回収し、地面を蹴って鼠蛟の上に移った。
一体何が始まるのか、人間の3人は共にまだ把握できていない。
それを待っていたかのように、少し高めの声で朗々と詠唱が響き始めた。
「―其の身を裂くほど深きは嘆き。地に映る大樹よ、枝葉を広げ彼の者へ。妖術・樹枝裂断!」
放たれた妖力が引き起こした激しい揺れが、現在居る里の外れから中心部の市街地まで一気に駆けて行く。

走り出した揺れは、ほんの瞬きほどの時間で里の全域に伝わった。
襲撃者が放った炎に怯えていた人々に、第二の恐怖が訪れる。
「な・・・何だ?!」
「うわぁっ、じ、地面が!」
大地は地鳴りを上げて四方八方に深く割れ、驚き戸惑う人々の眼前で全てを狭間に飲み込んでいく。
一体誰がこれを引き起こしたのか、彼らは想像を及ぼす暇もない。
炎に包まれた建物が崩れ、逃げる住民の退路を塞ぎ下敷きにする。
「いやぁぁー!!」
悲鳴を上げる女が、子供をかばったまま足元に開いた奈落へ落ちていく。
「だ、誰か・・・誰かぁぁぁ!!」
負傷して救護を求めていた下忍も、そのまま同じところへ消えていった。
網の目のように広がる裂け目はなおも広がり、さながら奪った命を養分として伸びる大樹のようだ。
激しい揺れでは立っている事さえかなわずに、なすすべなく死にゆく命の阿鼻叫喚が滝隠れを包み込む。
どれだけ叫ぼうとも、救いなどない。
老若男女、貴賎も問わずに全てを殺めるまでこの木の成長は止まらないのだから。

やがて術が収束し、里中に延びていた裂け目が閉じる。それに伴い地鳴りも収まった。
残った炎だけが、止めるものもなく広がっていくだけだ。
恐らく時間としてはわずかなものだったのだろう。
しかし、1つの町が引き裂かれて瓦礫と化していく様子に戦慄していた3人には、とても長く感じた。
「里が・・・なくなったってばよ。」
ナルトの唇から力のない声が漏れる。
妖魔王の力。その何と無慈悲で凄まじいことか。
廃墟となった町に、一体どれだけの人が下敷きになっていったのか想像もつかない。
同時に、何故鼠蛟の背に乗せられて空中にいるかも理解した。
「やっぱり、な。」
羽ばたきながら鼠蛟が呟く。長い付き合いで、この結果は予想が付いていたのだろうか。
ひどい有様になった下界を見ても、少し呆れた程度の反応しかしない。
「概ね正解だったか。フウ、お前はどうやらよほどあやつに可愛がられていたようだな。」
「・・・。」
狐炎に話しかけられたが、フウはへたり込んだまま呆然と故郷を見つめている。
あれだけの短いやり取り。そしてたった一瞬。
磊狢は妖魔の本性を露わに破壊の限りを尽くし、数多の命を奪い去った。
彼女が実感したことがなかった土を司る妖魔王の真価は、天災と古人が恐れた通りだ。
「!――磊狢、磊狢ぁっ!!」
急にはっと我に返り、燃える瓦礫の山と化した眼下の里に向かって声を張り上げる。
あんな有様では、術者である彼自身も無事ではすまないと感じたのだろう。
「大丈夫、そろそろ来る。」
鼠蛟が高度を少し下げると、磊狢はどこから現れたのかさっと背に飛び乗ってきた。
よっぽどすっきりしたのだろう。今までの鬱憤を綺麗にどぶに捨ててきたような、実に晴れやかな顔だ。
もちろん、傷どころか汚れひとつ無い。
「ふー、お終いお終い。」
「お、お終いって、文字通り終わらせてどうする気だってばよ!!
あんた、何したか分かって――。」
「うん、もっちろん!いままでのおいたの分、ぜーんぶ払ってもらったよ。」
血相を変えたナルトに対して、当然という顔で彼は答えた。
「おいたって・・・じょ、冗談じゃないぞい!
仮にも故郷が吹っ飛んだ入れ物のことは考えとらんのか?!」
まるで無邪気な子供のような言い草に、老紫はぞっとした。さらっと何を言い出すのだろう。
うまい表現が思い当たらないが、少なくとも人間ならまともな感性ではないに違いない。
「お前達は少し黙っていろ。今のはあやつらが悪い。」
「いや、でもこれは酷すぎるってばよ!」
狐炎からたしなめられるが、流石に黙っていられない。何しろ警告の1つもなく、問答無用で里丸ごとこの制裁。
暴言を吐いた連中までかばうつもりはないが、この仕打ちは納得しがたかった。
少なくともナルトの常識には、こんな無情に多数の命を奪っていい道理などない。
しかし、それに狐炎はこう反論した。
「名も与えず兵器として育てて利用し、挙句己が危機と見れば簡単に捨てる。
情の欠片もないのはどちらだ。
今までの積み重ねと思えば、こやつにとっては相応の報いだった。それだけの事だ。」
磊狢は名無しで孤独だった少女に、名前を与えた。さらにその信頼を得るほどに可愛がってきたのだろう。
我が子同然の少女をあそこまでないがしろにされて、怒らない方がどうかしている。
狐炎に言わせれば、むしろどこに同情の余地があるのか聞き返したいくらいだ。
「でも、何もしてない人まで殺すことは・・・。」
「言っとくけどね、何もしてない人って、
『何にもしてないのに逃げる人』か、『何かされてても絶対助けない人』か、
『何もして来ない方がマシな人』の略になってる子ばっかだったよ。」
口ごもりながら続けようとしたら横から畳み掛けられて、ナルトは絶句した。
言葉の内容もさることながら、ものすごく冷たい磊狢の目のせいだ。
基本的には明るくて寛大であろう彼にこの目をさせるとは、一体どれだけフウの過去は暗いものなのだろう。
「フウ、いきなりごめんね。」
それでも磊狢は、うなだれている自分の器には一言詫びを入れた。
最低な待遇の故郷でも、壊滅のショックを受けていることは分かっているようだ。
うかつに張本人の自分が触れない方がいい事も承知らしく、それ以上何も言わない。
「のう、鳥。」
神妙な顔つきで黙り込んだナルトから鼠蛟に視線を移して、老紫が静かに話しかけた。
「?」
「妖魔は皆、こういう事はやるのかの?」
「大切なもののためなら、いくらでも。」
鼠蛟の返事は短かくさらっとしたものだったが、妖魔というものの一面を雄弁に語っていた。

この後、滝隠れの里は妖魔の間でこう呼ばれることとなる。
大地の鉄槌を受けた町、と。


後書き
今回は今までで最も大きな事件・滝隠れの里崩壊です。
ちなみに当初はこのような予定はなかったのですが、妖魔の王である尾獣が怒りのままに力を行使するとどうなるか、
その結果を描いてもいいだろうと思って流れを変えませんでした。
そのため、一番のんきで尾獣らしくないどころか子供っぽい磊狢が、真っ先にその本領を発揮する形になりました。
次回も視点が移らず、ナルト一行の話が続きます。

最後になりますが、いつもご覧頂きありがとうございます!
たくさんの方の閲覧、感想のいずれも励みになってます。
特に今回は、当人としては色々なことを書いたので、是非感じたことを伝えて頂きたいです。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―10話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2009/12/04 02:41
10話・混乱明けて

鼠蛟の背に乗って崩壊した里から離れた一行は、滝隠れから離れた山の中で野宿する事にした。
幸いにも雨露をしのげる浅めの洞穴があったので、そこが今夜の寝床だ。
フウは食欲も湧かなかったらしく、食事もそこそこに1人早々と毛布に包まって眠っている。
身も心も極度に疲れていて、何も考えたくないのだろう。
心中を察して、誰も余計なことは言わずにそっとしておいていた。
ただ、まだ寝るにはかなり早い時間だったので、残りのメンバーは全員起きている。
「なぁ、フウとはどんな風に暮らしてたんだってばよ?」
狐炎が妖術で灯した焚き火に当たりながら、ナルトは向かいに座っている磊狢に話しかけた。
「フウと?んー、いつも里の外れの方にある館で見張りつき生活。
世話する人は居たんだけどさ、昔から年の近い友達とかは誰も居なかったから、僕とずっと遊んでたよー。」
「ほー、じゃあおぬしが親代わりみたいなもんじゃの。」
緑のむじなと幼い少女がじゃれている光景を想像すると、大層ほほえましい。
きっと幼少期のフウは、磊狢にべったりだったろう。
「そうだねー。小さい頃から、そんな感じだったからね~。
ちまちま付いてきてくれて、可愛かったよー。」
脳裏にまだ4つか5つの彼女を思い浮かべて、熱したチーズのように磊狢の顔がとろけた。
メロメロになるほど愛くるしかったらしいのは分かるが、未婚の若者としてはどん引きだ。
「いや、あの・・・のろけ聞きたいわけじゃ・・・。」
こんなところで親馬鹿になられても困るのだが、この親馬鹿が里を1つ滅ぼしたのだから恐ろしい。
もちろんそれ相応の実力があるからこそだが、
ナルトや老紫が危機になってもああはならないだろうと思うと、やはり親馬鹿は恐怖だ。
「うう、わしも『お父さーん、見てみて可愛いでしょー?』とか、一度でいいから言われたかったのぅ・・・。」
同じ未婚でも、老齢に差し掛かった老紫の方は受け取り方が違ったらしい。
取りそこなった幸せをおおっぴらに妬んでいる。
「じいちゃん、話が微妙に違ってるってば・・・。」
羨むのは勝手だが、想像がいささか飛躍しているようだ。
大体、磊狢はフウのお父さんではないし、似たようなポジションとも言いがたい。
「羨ましいー?大丈夫だって、男なんだから頑張れば今からでもお父さんになれるかもよ?」
「さて、それはどうだか・・・。」
磊狢の前向きな励ましを、横から鼠蛟が即座に潰す。
医者からの不吉な一言に老紫は反射的に青くなった。
「こりゃ鳥、何恐ろしいこと言うんじゃ!!わ、わしはまだ現役じゃぞ?!」
「さっさと枯れろ、馬鹿ジジイ。引退すればいい。」
喰いかかってきた彼に、鼠蛟はさらに冷や水をぶっ掛ける。
確かにもう老紫は年だが、思ったままを口に出すとは情けがない。
「おぬしこそ、とっとと引退せんか!無駄に長生き!四桁!!子沢山!!」
「引っ込め。去勢するぞ。」
これ以上言い募ったら、実力行使に訴える気らしい。鼠蛟の手元で小刀がきらりと光った。
「ぬぉ~?!」
「ひ~っ、ナイフ出すなってばよー!!」
恐怖の手術を連想した老紫は飛び上がり、ついでにナルトまで腰を抜かした。
おかまにされる恐怖は全世代共通らしい。
「いや~ん蛟ちゃん、それは最終手段って約束でしょー?」
漫才でも見る気分の磊狢は大笑いしているが、馬鹿馬鹿しい騒ぎを傍で聞かされた狐炎は頭が痛くなってきた。
「うるさい・・・。寝た子を起こす気か。」
「すまない。馬鹿ジジイが、現実を認めなかった。」
「現実とは何じゃ!わしがもう・・・むがが!!」
「じいちゃん、下品!女の子居るんだからやめろってば!」
まだしつこく食い下がろうとする老紫の口を、ナルトは急いで塞いだ。
いくらフウが寝ているといっても、これ以上の発言は紳士のエチケットに欠ける。
「ナルトでも出来る気遣いを出来ぬとは、程度が低いことだ。
まさにこれが馬齢を重ねる・・・フッ。」
「お前もなんでそこで、余計なこと言うわけ?!実は単にいじめたいだけ?!」
「そう聞こえたか?そんなつもりは無かったのだがな。」
―絶対わざとだってばよ・・・。―
本当にそんなつもりがないなら、最初からそんな解釈が出来ることを言うわけがない。
意地悪な冷血漢はこれだからと、ナルトは心の中でこっそり毒づいた。
「うう、腹が立つのう。ところで明日の事じゃが、ふもとの町にいかんか?
ここに降りる途中、近くに町が見えてたぞい。」
怒られて一応反省した老紫は、違う話を振った。
まだ今日は今後の事を話していなかったので、ちょうどいいはずだ。
「あー、それおれも賛成。ほら、女の子も居るし。」
「忍に男女もなかろうが・・・しかし、悪くはないな。手近な町へ降りるとするか。」
「それで、いいと思う。」
荷物をあさりながら鼠蛟も同意する。多分、手持ちの消耗品を気にしているのだろう。
「何か足りぬものが出たか?」
「急ではないが、少し。」
食料は滝隠れに来る前に補充したばかりなので、大方彼の私物絡みだろう。
そうかと返事をして、狐炎は特に言及しない。
「ふう・・・それにしても、まさかこんな大騒ぎになるなんてな~・・・。」
さっきも思い返してしまったが、昼間の事はナルトにも衝撃的過ぎて、未だに頭から出て行く気配がない。
ついつい、ため息と共に口をついてしまう。横で老紫も大きくうなずいて同意していた。
彼も頭の中でちらちらよぎるらしい。
「明日町に寄った後は、早く国外へ行った方が良かろうな。」
「じゃのー。」
多分、また長距離の移動になるだろう。慌しいが、一つ所に留まる危険の方が大きいので仕方がない。
しかし、今のままのフウをあちこち連れ回しても大丈夫なのか心配だ。
そう考えた老紫に名案が降りてきた。
「おお、そうじゃ。鳥、明日町に行った後、おぬしの実家にいったん寄らんか?」
「谷に?」
いきなりの提案に驚きもせず、鼠蛟が聞き返す。
「そうじゃ。あそこなら人間は絶対よりつけんし、何日居ても安全じゃろ?」
「そうだな。」
「え、そんなにいい所なの?」
ナルトは狐炎の本拠地が緋王郷という事位しか知らないので、いまいち会話についていけない。
普通に人間が行こうとした場合には、とんでもない地形なのだろうとは分かるが。
「そうだよー。蛟ちゃんちは険しい渓谷にあるからね。
不踏の渓谷って言うんだけど、聞いたことある?」
「う~ん・・・あるような、ないような・・・。」
磊狢から名前を教えられても、やはりピンと来なかった。
修行の旅は諸国漫遊状態だったから、どこかでは聞いているかもしれないが、記憶はその程度だ。
「火の国の人間には、ほとんど知られておらぬからな。知らぬのも無理はない。
あそこは鳥の妖魔の本拠地ゆえ、人間は恐れをなして近寄らぬ。」
確かに妖魔がうようよしている土地には、例え忍者や侍でも近づきたくはないだろう。
まして妖魔王のお膝元では、実力者がひしめいているに違いない。
裏を返せば、人間の目を避けたい一行にとっては絶好の隠れ家だ。
「へー。じゃあ決まりだってばよ!・・・って、じゃあ明日町に行く意味とかある?」
「昨日の騒ぎが、どう伝わっておるかの確認は出来る。
それと、明日すぐ発つのではその娘の負担が大きかろう。」
ちらりと狐炎が視線を送る。あんなに騒いだにもかかわらず、起きている気配はない。
あれは、一般人だって起こされてもおかしくない位だったのだが。
―大丈夫かな、フウ。―
ナルトも釣られて彼女の方を見る。とはいえ、夜が明けてみないと今はなんとも言えない。
眠って少しは元気になればいいのにと、祈るだけだった。


「おはよー。」
「ふぁ・・・あー、もう朝かぁ。あれ、早くない?」
眠い目をこすって体を起こしたナルトは、もうすっかり身支度を整えているフウに驚いた。
どれ位前に起きたのかは分からないが、髪には寝癖の一本もない。
「一番先に寝たんだから、当たり前でしょ。何か変?」
お先にと言って、人間3人のためだけの朝食に手を伸ばす。
今日は川魚の串焼きらしい。洞穴の外でパチパチはぜる焚き火のそばに、まだ2本串に刺さった魚が残っている。
狐炎がそばで火の見張りをしていた。他の妖魔は、洞穴の外で好きにくつろいでいる。
「じいちゃん、朝だってばよ。」
魚が食べ頃のうちにと思って、隣で毛布に埋まっている老紫の肩を揺する。
もぞもぞと毛布の中で動いてこちらに向きを変えたが、あからさまに寝ぼけ眼だ。
「うーん・・・後10分寝かせてくれぃ。」
「はいはい、そんな事言ってるとじいちゃんの分食っちまうからね。」
ゆっくり寝かせる暇なんて、この一行には存在しない。
素直に起きないなら実力行使と、ナルトはさっさと立って魚の方に向かった。
「ぬぉっ、そうはさせんぞい!」
朝食をみすみす渡してなるものか。その意気で老紫はガバッと勢いよく起き上がった。
つい数秒前の眠気は、毛布ごと吹き飛ばしたらしい。
それともただ単にサボりたかっただけで、本気で眠かったわけではなかったのか。
「・・・。」
食事に釣られてやっと起き出した彼を、鼠蛟が冷めた目で見ている。
大方、食い意地しかない馬鹿ジジイとでも思っているのだろう。
今まさに目の前で、大人気ない勢いで魚を掻っ攫っていく光景を見せられれば、それも致し方ないことだが。
「あっはっは~、おじいちゃんってば慌てん坊だねー。」
「ふん、わしの魚は誰にも渡さん!」
なかなか面白かったらしく、磊狢が大受けしている。
魚を見事死守したと思っている老紫は、意気揚々とほおばった。
「別に、本気で取るつもりなんてなかったってば・・・。」
自分の魚の串をくるくる指で回しながら、流石にナルトも呆れて呟く。
「放っておけ。それはともかく、お前もあやつの扱いを心得てきたようだな。」
(サスケとかキバとか、あーいう風に言っとくと引っかかるから。
じいちゃんも引っかかるとは思わなかったけど・・・。)
単純な負けず嫌いは、こういう手に簡単に引っかかる。里に居た頃に学習済みだ。
ただし大人には通用しないことも多いので、老紫に通じるかはちょっとした賭けだった。
(同類という事だ。お前もさして変わらぬがな。)
(ひどっ!)
自分も単純な負けず嫌いにくくられて、ナルトはショックを受けた。
以前から彼を知る人にいわせれば、何をいまさらというレベルの話だ。
狐炎の関心もすでによそへ移っている。
「ところでフウ、食欲はあるようだな。」
「まーね。お腹はいつでも空くでしょ。」
彼女の魚はもう綺麗に食べつくされている。食欲は十分だし、返答する声も明るい調子だ。
「そうか。なら良い。」
食欲がちゃんと湧くようなら、落ち着くのも少しは早くなるだろう。
傍目には関心がないような狐炎の態度だが、目配りは忘れていない。
もっとも、早く食えとナルトや老紫をせっつき始めたフウは、そんな事を知るはずもなかった。


山から降りた一行は、次の旅の仕度のためにふもとの町を訪れていた。
到着は昼近くで、昨日の件が人々の耳に届いているかの確認は十分取れそうな頃合いだ。
適当な店で老紫が新聞を買い、話しやすいように建物の影に持っていってからそれを広げる。
「うへぇ・・・。」
見出しを見て早々に、後ろから覗き込んでいたナルトが嫌そうな声を上げた。
一面の左半分を飾るのは、『山中の町、謎の大地震か』と題された記事。
その隣の行に一回り小さい文字で、建物はほぼ全て倒壊、推定死亡者数は7割か。と書かれている。
流石に国防に関わることなので場所は伏せてあるが、甚大な被害が出た事実は行政側も隠し切れないようだ。
やはり天災としか思えない規模に、改めて驚愕する。
「こりゃすごいのー・・・。」
掲載されている写真は、現場を写せないためか収容された多くの遺体が並ぶ光景だった。
白い布で全身覆い隠していても、一面に並べられるとぞっとするものがある。
彼らは全て、磊狢の怒りで死んでいった人々なのだ。
「ん~、上々って所?」
「おぬしが言うな!おぬしが!!」
ナルトの横に割り込んできた張本人の不謹慎な発言に、即座につっこみが入った。
おしいと言わないだけまだマシかも、とナルトは考えてしまうが。
しかし反省の色の無さには、もう呆れるしかない。こんなときに限って、常識人のはずの狐炎が何も言わないのも困る。
「は~・・・ところでじいちゃん、原因これじゃね?とか書いてある?」
「んー。色々書いとるが、まだよく分からんってなってるぞい。」
「そっか、うーん・・・。」
確かにさらっと流し読みする限り、目立つ記事の割に細かい情報が少ない。
昨日の今日だから、詳細が出揃わないのも当然だ。
それに事件が起きた場所を考慮すれば、この後はもう取り上げること自体ないかもしれない。
「生き残りの証言が取れ次第、適当に書き換わるだろう。
内々ではあの娘のせいにされている可能性も高いが、どうだろうな。」
大名など政府の中枢は人柱力の情報を知らされているだろうし、封じられている妖魔の特性も多少は知っているだろう。
今回の悲劇のきっかけに暁の影があることに気づかず、全てをフウの暴走のせいと結論付けるかもしれない。
生き残りが居たとしても現場を知る人間が残っているとは限らないし、そこは仕方がない事だ。
「あ、そういえばフウは?」
さっきまで居たはずの少女の姿が見当たらず、ナルトはきょろきょろと見回す。
「一人になりたいと言って、別の場所にいる。」
「何、一人にしたんか?」
いくら今朝は元気そうだったといっても、今の彼女を良く放っておけるものだ。
老紫の声は自然と咎めるような語調になった。
「そんなわけがあるか。気付かれぬように鼠蛟がついている。」
「抜け目無いなあ、お前ってば。」
ナルトには予想通りだったから驚かないが、そう言わずには居られない。
彼はいつも、周りが必要だと思ったことはもう先回りしてやっているのが普通だからである。
「ま、炎ちゃんだからね~。」
「何じゃ、心配して損したわい。」
それならまあいいかと、老紫は納得した。
能天気な磊狢の態度には、疲れるので今はもういちいちつっこまない。狐炎も磊狢の発言は流してこう続けた。
「わしが頼むまでもなく、あやつが気にしておったのだ。」
「え?あの人が?ふーん・・・そっか。」
意外とまでは言わないが、一瞬聞き返す程度には理解が遅れた。
あまりそういう風には見えないが、結構優しいところもあるらしい。
口に出さないだけで、結構仲間を気にかけているのだろうか。
「昨日から、あの騒ぎまではべったりだった磊狢と一言も口を利いておらぬからな。
あんな事態が起きた後では、しばらくは様子に注意を払う必要がある。」
「お前がそう言うのって、何か珍しいってばよ。」
「うむ、意外じゃの!」
ナルトと老紫は、失礼にも口をそろえて珍品扱いした。
日頃の態度でそう判断したのは本人とて承知だが、二人に向いた視線は確実に冷たくなる。
「全く・・・何を言うかと思えば。あの年頃の娘は、元々落ち着かぬものだ。
情緒不安定になるかも知れぬという予測を立てることが、そんなに意外か?」
狐炎は確かに情が薄いところがあるが、仲間に冷淡すぎるわけでもない。
体か心のどちらかが不調をきたしているようなら、それ相応の気遣いは当然する。
彼に言わせれば、2人ともずいぶん失礼な態度だ。
「いや、だってお前ってばあんまそういう心配の仕方しないしさー・・・。
何?女の子には甘いのかなーって、ちょっと思っただけだってば。」
「お前という奴は・・・。
病人への気遣いと、五体満足の健康体への気遣いを一緒にしろと言っておるのか?」
慌てて取り繕うナルトに呆れて、狐炎はため息をつく。
日頃自分が厳しくされるから羨んでいるのだろうが、別に性別で区別しているわけではない。
あくまで病人待遇のようなつもりでいるだけだ。
「あーもー、おれが悪かったって!」
これっぽっちもそう思っていないが、ナルトはわめいて話を打ち切った。
弁が立つ彼を相手に口で勝とうなんて考えは、無謀の極みに尽きる。
昨晩の老紫ではないが、こんな時はさっさと話題転換するのが吉だ。幸いに、ナルトには気になることが1つある。
「それよりさ、フウはどっち行った?」
鼠蛟がついているといっても、影から見ているだけだとしたらやっぱり心配だ。
何か出来る保証があるとは限らないが、出来るなら励ましの言葉の1つもかけてあげたいと思うのが人情である。
「気になるのか?ならば行ってやれ。あの娘は向こうの門を出てすぐの丘にいる。」
狐炎が指したの方向は、町の西側だ。町を囲む塀伝いに行けば、門はすぐに見つかるだろう。
「わかった。んじゃ、後でな!」
教えてもらったナルトは、すぐに走り出した。


後書き
騒動から一夜明けて、さてフウは大丈夫かなあ?という仲間の心配に尽きる回になりました。
朝食の時点ではあまり落ち込んではいませんが、心境は次回に持ち越しですね。
さてそういうわけで、次回はナルトとフウがメインのお話です。
我愛羅とはまた違うものの、人間の友達を持たないフウにナルトがどう関わるのか、
話しかけられた彼女はどういう反応を返すのか、
2人の境遇の違いを踏まえて精一杯丁寧に描きたいと思います。
ちなみに、次回はもうそれなりに骨組みは定まっていますが、
細部の詰めようによっては今回と前回の間隔程度に更新が空くかもしれません。
少し気長にお待ちいただけると幸いです。

最後になりますが、前回のご意見ご感想、レス致しました上で全てありがたく頂戴いたしました。
これからも頑張っていきます。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―11話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2011/01/16 23:15
―11話・揺らめく水面―

「・・・はーぁ。」
風に若草色の髪とため息をそよがせて、フウは1人丘の斜面に座り込んでいた。
道中で昨日の事が書かれた新聞も見かけたが、それがまだ信じられない。
まさか、いつも自分のペットのような磊狢がこんな事態を引き起こすとは。
過去をどんなにたどっても、そんな真似をしそうな片鱗は見当たらない。
彼はいつも能天気でマイペース、時に悪質ないたずらばかり。
里の人間から見せられた本性を描いた絵も、そんな性格と結びつかずに首をかしげたことしかなかった。
いつも磊狢は、フウが唯一気を許せるパートナーだった。

まだ5歳にも満たなかった頃の事だ。
怒られなじられが当然の修行の後に、親子連れや数人で仲良く遊ぶ子供を見た日は、ほとんどいつも泣いていた。
自分ばっかりどうしてと、子供心に理不尽な環境への怒りと悲しさを発散していたのだろう。
“ねぇらいば、アタシはずっと一人ぼっちなの?”
“一人ぼっちじゃないよ。ずっと僕が一緒だよ。”
泣いている時、慰めてくれたのはいつも磊狢だった。
里の誰しもが冷たくても、自分の妖魔だけは彼女に優しかった。
“ほんとに?”
“うん、そうだよ。”
暖かくて大きな手に、にっこりと底抜けに明るい笑顔。
人目さえなければ、彼は泣いているフウのそばに居る時は人間に化けてくれた。
取り立てて目を見張る体格ではないが、優しい大人は本当に貴重で、背丈以上に大きく見えていたものだ。
“じゃあ、だっこして。”
“いいよー。”
“わぁ。”
ひょいっと軽く抱き上げられるのが、フウはとても好きだった。
今はもちろん恥ずかしくて頼めないが、
親が恋しかった当時の彼女は、身近で一番優しくしてくれた彼にそうねだったのだ。
“磊狢、ありがと。”
肩にかかったモコモコの毛皮に顔を埋める頃には、怒り半分の悲しい気持ちもだんだん薄らいでいった。
父も母も居なくても、ちゃんと愛してくれる存在が居ると確認すると、それで満足できたのだ。

さすがに心境はすでにおぼろげだが、甘えたい気持ちや親が恋しい気持ちを全部ぶつけていたのかもしれない。
今思えば、子供っぽい彼はその時に一番年相応の事をしていた。
見た目では説得力に欠ける既婚者子持ちの経歴は、伊達ではない。
フウにいつも素直な愛情を向けてくれていた事も、誰より彼女自身が良く知っている。
それだけに、昨日の事件は色々な意味で衝撃が大きかった。
1つには、もちろん愛の深さがあのような形で発露されたことだ。一のために万を斬る。
例え妖魔にとっては軽いものだとしても、心に重くのしかかった。
「どうすればいいんだろ。」
結局、今朝もまともに話をしていない。
周りに他の人間や妖魔がいるから、それを幸いにそっちにしか話しかけていないのだ。
磊狢は一見いつも通りだったから、もしかしたらフウが落ち着くまで待っているのかも知れない。
だが、話そうにも何て言えばいいのか分からない。
向こうだって話しづらいだろうが、彼女もどんな顔をして接すればいいか困っているのだ。
悶々として考えあぐねていると、後ろから声がかかった。
「おーい!」
「ん?」
振り返ると、茶髪の少年が走ってくるのが見えた。
誰だっけと考えるうちにすぐそばまで彼がやってきて、そこでやっと正体に気がつく。
「何だ、アンタだったの。」
町用の変装のせいですぐに分からなかったが、何の事はない。ナルトだった。
「こんな所にいたのかー、探したってばよ。」
「探したって・・・ほっといてって、アンタのところのに言ったのに。」
黙って行こうとしたら狐炎に見咎められたから、仕方なく断りを入れて出てきたのだ。
行き先ぐらい彼も知っているはずだが、遅いから探しに行けと頼まれているのだろうか。
そう考えた彼女だったが、そうだとしても帰るもんかとこっそり意固地になった。
「そりゃ聞いたけどさ、昨日あんなんだったし・・・心配だってばよ。」
「心配?」
「うん。」
どうやらナルトは本気で言っているらしい。オウム返しに確認したら平然とうなずいた。
「別に心配されなくったって・・・。」
何となく気まずくなって、フウは彼から目をそらした。
昨日初めて顔を合わせたばかりの人間に向かって、どうしてそんな言葉をかけてくるのか不思議だ。
これがお人好しという人種の現物なのだろうか。
「だってさ、今日から仲間だし。仲間のことを心配するのは当たり前だってばよ!」
「・・・仲間。」
今まで里の忍者からはとんとかけられた覚えのない言葉を、神妙な顔で反芻する。
いつも仲間外れだった彼女にとって、その輪に入ることは遠く忘れ去られた淡い憧れだった。
―そういえばこいつ、あいつらにもそんな事言って怒鳴ってたっけ・・・。―
滝隠れでフウを暁とやらに引き渡そうとしていた忍者達に向かって、
ナルトは『仲間に何て事を』と、まるで自分をないがしろにされたかのように怒っていた。
あの時はそれどころではなかったが、考えてみればその時点で不思議なことを言っていたものだ。
「フウ?ごめん、おれ何か変なこと・・・。」
完全にそっぽを向かれたナルトがおろおろとしているのが、背中越しでもよく分かる。
「・・・アンタのせいじゃないよ。
アンタみたいな奴、今まで会ったこと無いだけ。」
周りにいた人間は、いつも邪険にしてくるばかり。年齢性別問わず、誰も味方などしてくれない。
心配してくれたのも磊狢だけだった。
それ以外の相手に気にかけられたことがないから、彼女は戸惑うしかない。
「アンタ達って変。アンタもあのおじいちゃんも。妖魔は・・・元々変だろうけど。」
「どういう意味だってばよ?」
「あのさ、昨日会ったばっかりでしょ。どうして今日から仲間とか、そんな軽く言えるわけ?
利用しようって言うんなら、まだ納得できるんだけど。本当のところはどうなの?」
物分りの悪い反応に苛立って、声がとげとげしくなっていく。
横目で睨むように見られた挙句、問い詰めるような口調で畳み掛けられたナルトは、一層落ち着かない挙動になる。
やましいところは一切ないにもかかわらず、視線が泳いでしまっていた。
「利用って・・・、そんなつもりはないんだけどなあ。
昨日あいつがちゃんと説明したじゃん。狙われてて危ないから、一緒に行こうって。
本当にそれだけだってばよ。」
完全に疑われているなと理解して困りつつも、とりあえず事実を率直に話す。
何故か分からないが、昨日初めて話した時よりも警戒されている気がした。
「ふーん、『兵器』相手に、本当にそれだけで?」
「・・・いや、だからさあ。何でそんなに疑うわけ?昨日はちゃんと聞いててくれたじゃん。」
「そりゃ、アイツが自分の友達と話してただけだったから。任せてただけ。」
なるほど、その仲介がないから今はいちいち相手を疑ってかかるというわけか。
納得できたが、これではナルトのお手上げ気分は解消できない。
「まあ、理由っていわれちゃうと難しいってばよ。
利用するしないで言ったら、利用させないって風になんのかなあ。」
暁は危険な組織と自来也から教え込まれているが、うなずくばかりでどう危険かは漠然とした意識だ。
それに気づかされながら、その漠然とした感覚を明確なものに1つずつ変換しようと頭を働かせる。
ここでしくじったら、彼女に心を開いてもらう絶好のチャンスを逃してしまう。
少し間を置いてまとまったところで、こほんと咳払いをしたナルトは改めて彼女の顔を向けた。
「狐炎が言ったとおり、暁はおれ達を狙ってる。
それで何をするかはまだはっきりしないけど、おれの師匠は、だから怖いって言ってた。」
「変な奴に利用させないためにってのは分かった。アタシはその先をまだ聞いてない。
利用させない、利用もしない。じゃあ、ずっと逃げ回るつもりなわけ?」
昨日一度聞いているから、そこはもう彼女は理解している。
ナルトに聞きたいのは彼らの最終目的だ。そしてそこは、どうしても聞いておきたいところだった。
「おれはそんなつもりはないってばよ!
本当なら今すぐにでも乗り込んでって、ぶっ潰してやりたい。
でも、そんなのはまだ無理だってのも分かってる。多分、あいつもこのままずっとなんて考えてないしさ。」
時に多くを語らない狐炎だが、人柱力を集めて隠遁暮らしなんて考えてはいないだろう。
機が熟したと判断したら、新しい策を講じるはずだ。その策が何に当たるかは、大体分かる。
「それは、まだ戦力が足りないって事でしょ?」
「うん。一度連れてかれそうになった時思ったけど、あいつらはただ者じゃない。
おれだけじゃ、今でも絶対無理だと思う。」
イタチと鬼鮫の襲撃は、ナルトにとって今でもはっきりと思い出せる人生最大の危機だった。
彼らに対抗するには、対等以上の戦力が必要だ。仲間を集めて力を合わせなければ、組織を打ち倒すことは難しい。
推測交じりにはなるがこちらの認識は一通り伝わったはずだ。
「そう。じゃあ、やっぱり利用しないってのは嘘じゃん。」
「ええっ?!な、何でそうなるんだってばよ?」
思ってもみなかった冷ややかな反応を浴びせられ、ナルトは落ち込むより先に驚かされた。
呆れたのはフウだ。
「はー・・・アンタ、馬鹿?アタシも磊狢もね、別にこっちから混ぜてなんて頼んでないの。
そっちがいきなり話付けに来たんでしょ?」
「うっ。だ、だけど。」
それは事実だ。だが、その言い草は何か趣旨が違う。
しかし彼女のかんしゃく玉は弁解の暇すら吹き飛ばす。
「言い訳なんて聞かない!
ったく、結局どいつもこいつも一緒じゃないの。・・・損した。」
「・・・フウ?」
何故か酷くがっかりした様子の彼女が、ナルトの目に違和感を伴って映った。
最後に小さく付け足された言葉の意味が気になって仕方がない。
もしかすると、聞くまでは何か得になるようなことを期待していたのだろうか。
「もう用は済んだでしょ?さっさと帰れば?アタシは1人で平気だから。」
もはや彼女は睨む視線さえくれない。

「・・・。」
正直に事情を説明したつもりだったが、何かまずいところに触れてしまったらしい。鈍感なナルトにも分かる。
彼女の逆鱗がどこだったのか、しかしすぐにはわからない。
「ごめん。」
重い空気にいたたまれず、ぽとんと謝罪の言葉を落とす。
―って言っても、何がごめんなんだか分かってない奴に言われたって、嬉しくなんかないよなー・・・。―
実のない言葉に自分で嫌気が差し、深呼吸1つと共に肩が落ちる。
どんな気持ちで謝ったか、言葉が薄っぺらいか、すぐに彼女は勘付いてしまうだろう。きっと、心証は余計に悪くなった。
―何でおれってば、肝心の時に相手を怒らせちゃうかなー・・・。―
彼女からの返事はない。顔もよそに向けたままだ。
やっぱり怒っているのだろう。許してくれそうな気配もない。それでも諦めて帰りたくはない。
ただ、上手に相手の心をほぐす言葉を持たないのがもどかしいばかりだ。
「・・・帰んないの?」
黙っていても離れる様子のないナルトに苛立ち、催促が始まった。
あからさまな拒絶のオーラには少し心が傷つくが、そんな痛みは我慢する。
「今帰ったら、逃げたことになるから。」
「何で?別に、そんな事ないでしょ。」
意味が分からないという風情の返事は、文字通り取り付く島もない。
しかし、ナルトにはそんな理屈が通るのだ。
「こんなこと言ったら笑うかもしれないけどさ。おれ、ちょっとでもフウと仲良くなりたいんだってばよ。
仲間とかそういうのもあるけど、せっかく知り合ったからさ。」
人付き合いは難しいが、とても素晴らしいことだ。
ちょっとした雑談で盛り上がったり、落ち込んでいる時に励ましあったり出来る友人の良さを、是非彼女にも知って欲しかった。
「アタシがそんな気ないって言ったら?」
少しナルトの様子を窺うように、フウは首だけ向けながらひねくれた問いかけをした。
「そしたら、まず顔見知りから・・・って、何言ってるんだろ。
と、とにかく!フウが今まで見てきた連中みたいな付き合いじゃなくて、もっとちゃんとしたお付き合いがしたいんだってばよ!」
「ちゃんとした付き合い?どんな感じの?」
「どんなって・・・そうだった。
フウにはおれにとってのイルカ先生も、同い年の友達も居ないんだよな。」
彼女には見本となる関係が、磊狢との間にある特殊な関係しか存在しない。
ナルトと仲良くなるとしたら、それが正真正銘初めての友人になるはずだ。
「周り中が敵みたいなものだったからね。それ、アンタの大事な人?」
「うん、おれと仲良くしてくれた大事な里の仲間だってばよ。
会って仲良くなってからさ、いい思い出もたくさん作れたし。」
ナルトの微笑みに曇りはない。ここでお世辞を使う理由もない以上、きっと混じりっ気なしの本音なのだろう。
彼女には少し信じがたいことだが、彼は嘘がうまくなさそうなのでそう思うより他ない。
「ふーん。じゃあ、アンタはアタシより里が好きなんだ。」
「もちろんだってばよ!
昔は大人にいじめられたこともあったけど、木の葉の里は大切なものがある故郷だから。」
「アタシと違って、アンタは優秀だったって事か。
あれ?でもじゃあ何で、アンタ故郷から追い出されたわけ?」
途中からいい事もあったのなら、恐らくナルトは自分より優秀に育ったに違いないと、フウは考えた。
しかしそれなら、どうして里がわざわざ彼を邪険にしたのだろう。
昨日狐炎が説明していた時も気になったのだが、優秀な人柱力なら里に居られなくする必要なんてないはずだ。
それを不思議に思ってたずねると、とたんにナルトの顔が曇った。
「追い出されたっていうか・・・今はちょっと、帰れないんだってばよ。」
「何があったの?」
やはり、里から抜け忍の烙印を押されたということだろうか。
ただならぬ事情を察してフウは声を潜めた。
周囲に人気がないことを確認してから、ナルトがポツリポツリと話し始める。
「おれ、この前までずっと自来也っていう、
うちの里で強いって評判の人の弟子やってて、そろそろ帰ろうかなって思ってたんだってばよ。
そしたら何でかおれが封印解けかかってやばいとか、そんな事言われてたらしくってさ。」
あれは寝耳に水の大事件だった。今でも信じたくないという気持ちが底の方で渦巻いている。
先程までとは一転して影が差した彼の顔を、向き直ったフウが神妙な面持ちで見つめてきた。
「どうして急に。」
「狐炎が言うには、暁が変な噂をばら撒いたせいだろうって。
里の人達は結構たくさんそれを信じてるみたいで、帰ったら危ないって師匠が言ったんだ。
詳しくは何も言ってなかったけど、多分捕まって閉じ込められたりするんだと思う。
里が敵に回ったって言うのは、そういう意味なんだってばよ。」
おおよその情報をまとめるとこんなところだろうか。
うまく説明できた自信はないが、とりあえず彼はありのままに今までの経緯を語った。
「何それ・・・昨日の、滝隠れの連中みたいな態度!」
話を聞いてフウは立腹した。
それまでの経緯こそ違うが、いきなり手のひらを返して自分の敵になったところはそっくりだ。
都合が悪いと思ったら即座にその扱いとは、それまで友好的だったというだけなおタチが悪い。
「詳しくはおれも師匠のカエルから聞いたくらいで、里の状況はあんまりわかんない。
でも、もう追っ手も出てるらしくって、どうすりゃいいんだか・・・。
あ、ごめん。おれがグチっちゃだめだよな。」
うっかりその先を続けかけて、慌てて打ち切る。
励まそうと思って探しにきたのに、自分の境遇をぼやいたら本末転倒だ。
たとえつらくたって、今は彼女にそんな話を聞かせている場合ではない。
「いいよ別に。アンタはアンタで、追い出されて大変なんだから。」
「あはは・・・サンキュー。」
いつの間にか顔を合わせて話をしていることに気付かず、ナルトは照れ笑いをした。
予定と違う方に転がって、むずがゆいような気分だ。
「ところで、あのおじいちゃんはどうなの?」
「じいちゃんは旅してるんだってさ。
本気かどうか分かんないけど、里で毎日監視される生活が嫌になって逃げて、それからずっと抜け忍だって。」
これから滝隠れに潜入しようというドサクサで放言していたことだから、
どこまで本気かは保証の限りではないが、いくらかは多分事実なのだろう。
明るく振舞う人間に暗い過去があってもおかしくないこと位、ナルトは自分という見本が居るから想像がつく。
「・・・へー。」
何だかんだで、訳ありの人間ばかりという事か。
老紫の生活は想像がつくし、ナルトがさらっと一言で流した里の冷たい扱いも良く分かる。
昨日や今朝と話している限りはそんな事を感じなかったが、彼らは単に暗い経験を隠しているだけなのだろう。
能天気に見えても、境遇的に共通する要素はある。
そこで初めて、彼女は仲間という言葉に納得がいった。
「確かに、仲間かもね。」
「分かってくれたかってばよ?」
「似たもの同士って意味なら。仲良くするかは、もっとアンタ達の事に詳しくなってから決めるけど。」
すぐにはいとは言えない。だが、最初から無理と切り捨てなくてもいいという気にはなれた。
だから、彼女なりに色よい返事をする。それでもナルトは嬉しそうだ。
「うん、ゆっくりでいいってばよ。おれも、初めて友達が出来るまでは時間かかったから。」
「え、そうなの?」
自分から追いかけてきてまで話に来た積極性からは思いもよらず、素っ頓狂な声を上げた。
すると、ナルトの笑顔に少し苦い色が混じる。
「ほんっとに小さい時は、遊んでても大人に見つかるとすぐに離されちゃう事も多くってさ。
ちゃんとした遊び友達が出来たのって、アカデミーに入ってからなんだってばよ。」
「そっか・・・それじゃ、時間もかかるってわけか。
アンタって磊狢みたいによく喋るから、すぐ出来そうな感じだって思ったけど。」
どんなに本人に意欲があっても、周囲が機会を潰してくるのではそうもなるのだろう。
磊狢と違って狐炎は気安い空気もない。
子供の遊びになんて付き合ってくれそうには見えないし、あまり話してもくれなさそうだ。
きっと、自分以上に友達が欲しい気持ちが強かったのだろうなと、フウは思う。
実際は、まだ当時狐炎は偽体を作ってすら居なかったので、彼女の想像以上にわびしいことになっていたのだが。
「フウだって、勇気を出せばすぐに出来るってばよ。磊狢さんとは普通に話してたし。」
「あ、アレはペットだから!後、アイツに『さん』はいらないし。」
照れているのか思春期の微妙な心境なのか、磊狢の事を出されたら即座に否定にかかった。
ナルトの目線で言えば、社交的そうな彼と小さい頃から仲良くしていたから、
人付き合いをするための下地が出来たような気もするのだが。
「それは後で、本人に聞いてから決めるからさ・・・。
とにかく、ちょっとずつでいいから、おれ達と喋ってくれると嬉しいってばよ。な?」
「もう結構喋ってる気がするけど、考えとく。」
控えめな提案は悪くない。自然とフウの口角が上がった。
「あはは、良かったってばよ~。」
お互いすっかり表情が緩んだところで、和やかな空気が流れる。
束の間の休息にふさわしい穏やかさがようやく訪れた。

「フウ、そろそろ帰んない?」
もうそれなりに時間がたっている頃合いだ。ちょうど言い出しやすい雰囲気になったので、さりげなく話を振った。
「んー・・・でもねー。」
口を濁したとき、横でナルトの腹の虫が盛大に鳴った。
「ぎゃー!ご、ごめん!!」
なんてタイミングでやってくれるのだ。恥で憤死しそうなほどあたふた取り乱して、もう平謝りしかない。
あまりに必死なナルトの様子が笑いのつぼにはまったらしく、フウは声を上げて笑った。
「もー、アンタお腹空いてるんなら、さっさと言えば良かったのに~。
じゃ、帰ろ。それともどっかで食べてく?アタシお金持ってないから、アンタのおごりしかないけど。」
「・・・ごめん、おれも持ってないってばよ。」
「えーっ!アタシもお腹空いてきたのに~!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいると、2人の上からすっと2枚の100両札が出てきた。
『ん?』
「返さなくていいから、使え。」
腹の虫が騒いだ2人を見かねた鼠蛟だった。
ずっと今まで様子を見守っていたのだが、やっと出てきたのだ。
「どこに居たのアンタ?!」
「その辺。いいから、食べに行け。向こうに、たくさんある。」
「うぉー、マジでいいの?!やったー!ラーメン~!!」
「あっ、ちょっと!引っ張るなー!」
大発憤したままフウを引きずって走っていったナルトの背を見送って、ついぷっと吹き出した。
「年頃が近いのは、いい事だ。」
ナルトは友達作りに慣れているようだし、フウも根は明るいように見える。
これなら早いうちに仲良くなるだろう。
―こじれるかと、思った。―
途中でフウが機嫌を損ねた辺りでは心配したが、どうにかまとまって傍観者なりに安堵した。
ナルトの正直すぎるきらいのある発言には注文をつけたくはあったが、どうにか軟着陸させたのだから立派だろう。
しかもあの年頃は親でさえ手を焼くから、なだめすかす事は一大難事業と言っても過言ではない。
少なくとも鼠蛟にとっては十分賞賛に値する。
これならきっと磊狢も喜ぶだろうと思いながら、彼は再び隠形の術で身を隠し、2人の後をたどっていった。


後書き
ナルトとフウのお友達化第一歩です。
途中でナルトが誤解を招くことを言っていますが、これと言って深い意味はありません。
あまり動きのない回ですが、他のメンバーに心を許すまでの過程として割きました。
ナルトの良さと、フウのかたくなさを念頭に書いていきましたが、
スタンスが違う2人の会話なので、なかなかまとめるのはてこずりました。
次の話はまだおぼろげですが、まったり進んでいくことになると思います。
ご意見・ご感想はいつも通りお待ちしております。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―12話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/01/29 22:07
―12話・味噌の香りと身の上と―

―ラーメン一級流―
鼠蛟が教えてくれた方向にあった飲食店街に唯一あったラーメン屋は、昼時という事もあって多くの人でごった返していた。
この辺りはうどんの方が主流らしく、周りの店が掲げるのぼりはうどんと書かれたものばかり。
その中で、他とは違う味噌ラーメンの文字は良く目立つ。
列に並んで待つ最中、ふんふんとナルトが鼻歌交じりに歌っていると、
露骨な浮かれようを疑問に思ったらしく、後ろに居たフウが肩をつついてきた。
「アンタ、そんなにこれ好きなの?さっきもすごいはしゃいでたけど。」
「おう!もうラーメンは、特に味噌味はおれの魂だってばよ!」
ラーメンと名のつくものはしょうゆも塩も豚骨も食べるが、中でもナルトにとっての一等一番は味噌味だ。
想像しただけで垂涎物の魅力といっても過言ではない。
「たかがラーメンで魂って・・・そこまでおいしい?」
そこまで思い入れのないものについて熱く語られても、残念ながら彼女はついていけない。
「うまいに決まってるだってばよ!っていうか、食べたことある?」
「食べたことくらいあるってば。
ただ、ラーメン屋とかに限んないけど、お店に入って食べたことってないよ。」
「そっか。やっぱり、あんなところに住んでたから?」
里外れに住んでいた所を見れば、ろくにあそこから出ないことはナルトにも想像がつく。
「まあね。・・・っていうかアンタも知ってると思うけど、うちらって出歩いてもろくなことないでしょ?」
「・・・ああ、うん。まあね。」
ナルトにも身に覚えはある。木の葉でも、事情を知っている大人が意地悪をすることは多々あった。
1人暮らしを始めたばかりの頃までが特にそう記憶がある。
(ここだけの話、おれも大人が物を売ってくれなかったりとか、そういうのもたまにあったしさ。)
(はぁ、やんなっちゃうね。そういうの。)
声を潜めてそう耳打ちすると、彼女は心からの同情の言葉をかけてくれた。
自分よりマシな待遇と言っても、やっぱり扱いはそんなものかという心境なのだろうか。表情は少し苦い。
「次のお客様、奥へどうぞー。」
ようやく順番が回ってきて、案内の女性が2人を呼んだ。
「あ、来た来た。」
「どこの席?」
「あっちのテーブル。あれ、だめ?」
通されたのは一番奥のテーブル席だ。位置が気に食わないのかと思ったが、フウは首を横に振った。
「別に。カウンターはなんか気が進まないし、そこで平気。」
「え、カウンターいいじゃん。店の人が目の前で作ってくれるのが見えるってばよ?」
「・・・興味ないし。」
「あ、そう・・・ごめん。」
もしかすると、人目があると落ち着いて食べられないのかもしれない。
普通の人間でもカウンターは苦手という意見は珍しくないので、人目が嫌ならこの反応も当然だろう。
ナルトはむしろそれが好きだから、うっかり気が回らなかった。
「謝んなくてもいいけど。」
「でもさ、何で苦手なんだってばよ?別に店の人と話さなくたっていいし。」
普段のナルトなら反対意見につい不満を漏らしてしまうところだが、そこを我慢してたずねてみた。
だが、彼の質問に明確な答えを持たないフウは口を濁す。
「あー・・・そういう問題じゃないの。」
「そんなもんか・・・あ、ところで何食べる?おれ、この黒味噌のチャーシューにするけど。」
いつまでも引っ張る話でもないので、さっさとテーブルに置かれていたメニューを開いて本題に移る。
表紙にも載せられた写真のインパクトに引かれ、ナルトの注文はすぐに決まった。
彼女も自分の分のメニューに目を通し、同じようにぱっと決めてしまう。
「アタシは白いの。一番安いのでいいや。」
「せっかくおごってもらったんだし、この辺いっとけば?」
そう勧めながら、指で具沢山の品名をいくつかなぞった。
1人100両なんて、ナルトにとっては贅沢極まりない昼食代だ。滅多に食べられない高額メニューの食べ時である。
しかし、髪をかきあげるフウの顔はあまり乗り気ではなさそうだ。
「別にいいよ。おなかいっぱいになればいいし。」
「うーん・・・。」
欲がないというべきか、投げやりというべきか。
別に珍しい反応でもなんでもないが、ナルトには物足りなく感じた。
「そういやさ、何か好きな食べ物とかある?」
「好きな食べ物?うーん・・・。」
フウは目を瞬かせた後、少し考え込む。
女の子らしく甘いものと来るなら、お汁粉辺りだと気が合うのだがどうだろうか。
返事を待つ短い時間に、そんな考えがナルトの頭によぎった。
もちろん彼の考えは露とも知らず、再び口を開いた彼女はこういった。
「うどんとか。」
「うどん?」
それはまた渋い好みだという軽い驚きから、聞き返す声の調子が高くなった。
「そう。この国、結構いい小麦と水が取れるんだって。だからうどん。外にも一杯あるでしょ?」
「あ~、どうりであんなにいっぱい・・・。」
店に入る前に見たのぼりを思い出して、確かにとうなずく。
「でも、もうちょいラーメンもあっていいと思うけどなあ・・・。」
「よそに行けばあるでしょ、ラーメン屋くらい。こんな田舎にもあるんだし。」
適当な返事をしてから、先程の店員が案内のついでに置いていったお冷をあおる。
今まで入ったことがないというだけあって、ラーメン屋にそこまで執着はないようだ。
そもそも外食そのものに対してそうなのかもしれないが。
「そういうアンタのところは、ラーメンまみれなわけ?」
「んー、色々あるってばよ。甘味処もいっぱいあるし、あっちこっちの郷土料理とかもあるし・・・。国がでかいからさ。」
火の国は大国で、元々農業向きの土地柄だから食材が豊富だ。
大国と名のつくところの常だが、周辺から人と物が集まってくる結果、多様な食文化も形成されやすい。
自来也と諸国を旅して回るようになってから、ナルトも訪れた国と自国の文化の違いが大まかに分かるようになっていた。
「ああ、じゃあこんなところよりよっぽど都会ってわけか。」
「い、いや・・・別にここが悪いって思ってるわけじゃないってばよ?」
「気にしないでよ。アタシがここを田舎って思ってるだけだから。」
「ならいいけどさ。でも、こういう所はこういう所で、結構いいところあると思うけどなあ。」
「ふーん。ま、アタシみたいなのには、故郷以外ならどこでも天国かもね。」
「まあまあ、そういうなってばよ。」
さらりとした呟きから漏れた故郷への思いは辛辣そのもの。
同意を避けたナルトには苦笑いしか出来ない。
―でも、おれも小さい頃は木の葉が嫌いだったもんな・・・。―
イルカや同期の旧友と知り合うまでは、特に大人からの扱いに何度参ったことか。
幼少期の記憶はもう薄くなっているが、三代目との思い出の他は、所々はっきりと嫌な記憶がこびりついている。
「だってさー、他の連中から嫌われまくってると、自分の顔を誰も知らないところならって、思うじゃん。」
「ううっ・・・否定できないような。」
一体どういう時にそう感じていたかまでリアルに想像がつき、ナルトの口元は引きつる一方だ。
「でしょ?あ、アンタ時々は気が合うかも。」
「どうせなら、もっと明るい話題の方で合いたかったってばよ~。」
フウは嬉しそうだが、こんな後ろ向きな話題で気が合っても困る。
とはいえ彼女が持っていそうなマシな話題というと、うどんの味か自分の妖魔との相性くらいだろうか。
前者はともかく、後者は食い違いそうな気もした。
しかし、話題に妖魔を持ち出すのは悪くなさそうだと考える。
「ところでさ、あの緑の人ってば、いつもこう・・・こんなんなわけ?」
人が多いので名前を出さないように気を使いながら、動物を抱く仕草でそれとなく伝えようとする。
「ああ、あいつね。うん、いつもこんなんだったりそんなんだったり。
昨日今日みたいに、こういう格好って方が珍しいよ。アンタの所はいつもこの格好なわけ?」
フウはマフラーを首に巻くような動作や、片手を四つん這いの動物のようにして机を這わせたりした。
その後、自分の服を軽く引っ張りながら逆にナルトに質問してくる。
「うん。いつもあの格好だってばよ。」
「へー。そっちが普通なわけ?」
「うん。じいちゃん所のもそうだし。違う格好はあん時初めてだってばよ。」
狐炎にしろ鼠蛟にしろ、磊狢と違って動物に化けることは普通はない。
昨日のように必要があれば話は別だが、基本的に人間に化けたら何日でもそれっきりだ。
「そっか。うちの所だけなのかな?」
「かもね・・・もう1人違うところに住んでる奴知ってるけど、そいつも2人と一緒だし。」
話していると、テーブルにラーメンが運ばれてきた。
「黒味噌チャーシューラーメンと白味噌ラーメン、お持ちしました。」
「あ、どうも。」
運んできた女性は、手際よくメニューを回収して去っていった。
目の前に置かれたラーメンからは、それぞれ味噌のいい香りが立ち上る。
対照的な見てくれだが、どちらも同じくらいおいしそうだ。
「おー、うまそうだってばよ!んじゃ、いただきまーす♪」
「うわー、急に元気になったねアンタ。」
ラーメンを魂と称するのは本気だったと悟り、フウは呆れ半分に一口目を口に運んだ。
ナルトの口には、その間にすでに二口目が入っている。多分倍近いペースで空になるだろう。
「ん~~、濃厚で最高!ここ、替え玉あんのかな?」
彼は口の周りも拭かずに、紙ナプキン入れに書かれた小さいメニューを眺める。
お望み通りの文言は端の方に載せられていたのだが、完全に思惑通りとは行かない。
「あ、有料か・・・20両は高いってばよ。」
木の葉の一楽や、旅先で見たいくつかの店では替え玉が1回位無料だったのだが、
ここは1回からきっちり料金を取る側らしい。
チャーシュー麺の値段を引いたらナルトの手持ちは10両しかないので、残念ながらお預けである。
(う~ん・・・ちょっと奮発しすぎたかも。)
釣り銭に余裕のあるフウから借りようかという思いが一瞬よぎったが、あつかましいのでやめておく。
女の子からお金を借りるのもちょっと恥ずかしい。
「何?まだ食べるわけ?」
「あー・・・いやぁ、何でも。」
気づかれないように、あくまでナルトは平静を装った。とはいえ、傍目にもそれがポーズであることはバレバレだ。
「何か食べたかったら勝手に食えば?」
「え、いいの?!」
フウの言葉で、条件反射的にナルトの顔がぱっと輝く。
やっぱりと彼女は内心呆れながら、先程までしまっていた100両札をひらひらさせてこういった。
「だって、これアイツの金じゃん。」
「あー、それもそうだってばよ。」
確かに本をただせば鼠蛟の金だ。
しかしせっかく取り分を分けてもらうことだし、
彼女と分けられる餃子に注文を変えようかなと思い直して、ナルトは付近の店員を探そうと辺りを見回す。
しかし入口の脇の壁際、カウンター席の端にあまり遭遇したくない類の人間を見つけてしまい、背筋が凍った。
「あ・・・。」
「どうかした?」
いきなりの変化にフウも戸惑う。だが、彼は首を横に振った。
「ううん、気のせいだった・・・うん。
あ、それと追加はいいや。夕飯まで取っとく。」
ぎこちない態度を隠せない様子で、彼は自分の気を落ち着かせるかのようにラーメンの汁を口に流し込み始める。
あからさまにに歯切れの悪い返事が腑に落ちず、フウは眉をひそめた。
何を見たのかと思って同様に視線を巡らせるが、これと言って変わったものはない。
強いて言えば、やけに隙のなさそうな男がいる。何となく同業者のにおいがした。
―もしかして、同じ里の奴なのかな。―
ナルトが急に静かになったので、たぶんそうなのだろう。
変化の術は手軽に姿を変えられるが、よく観察できる状況だと腕の立つ忍者は見破ることも多い。
余計なことを言って目立たないよう、フウもさっさと食事を片付けることにした。
黙って食べれば麺が消えるのも早く、5分と経たないうちに汁まで綺麗になくなる。
こそこそと席を立ったナルトと、その後についたフウがレジへ向かおうとすると、件の男が声をかけてきた。
「おい、そこの坊主。」
「!」
ナルトの心臓が飛び上がる。声をかけないでくれという彼の祈りは届かなかった。
「・・・アタシの連れに何か用?」
固まってしまったナルトを背中にかばうように、フウが割って入る。
半分睨みつけるようなきつい目で見てやったが、相手は特に動じるそぶりはない。
「いや、気のせいだったみたいだ。悪いな。」
「あっそ。今度から良く見てから声かけなよ。」
無愛想に言い捨てて、ナルトの二の腕をつかんで引っ張る。
会計を入口のレジで手短にすませて、背後の気配に注意を払いつつ店から離れた。
今のところは追って来る気配はない。
「・・・とりあえず、いいかな。」
「っぽい。・・・サンキュー。」
「別に。さ、まっすぐ帰ろ。そしたら安心でしょ?」
「うん。」
彼女の機転で何とか切り抜けられて、ナルトはほっと一息ついた。
待ち合わせ場所はここからそう遠くないし、この時点で半分助かったようなものだ。
それでも用心は忘れずに、二人は気配に注意を払いながら立ち去った。


町を出る最終時間の1時間前。
町外れの門のそばの影で、2人は先に来て待っていた他の仲間達と無事落ち合った。
途中で分かれた鼠蛟も先に戻ってきている。
「たっだいまー!」
「帰ったか。ラーメンでも食べてきたか?」
「あ、やっぱ分かる?なんか黒味噌のおもしろいのがあってさ~。」
漂った匂いに気づいた狐炎に聞かれる。妖魔は鼻がいいからすぐに勘付くのだ。
とはいえ今日はお墨付きをもらっているから、ナルトはヘラヘラ笑っているだけで堂々としたものである。
「アタシは白味噌のー。」
「鼠蛟、お前か?」
ナルトが財布を置いたまま出て行った事は知っているので、狐炎は彼らを見ていたはずの鼠蛟にたずねた。
そう、と答える代わりに彼は軽くうなずく。
「無一文だったから。だめか?」
「お前の判断なら構わぬ。」
旅慣れている鼠蛟が渡したのなら、狐炎がとやかく言わなくても大丈夫だ。
他人が好きでした事にくどくど言うほど狭量でもない。
「磊狢はどこか知ってる?」
「そこにいるが。」
「あ、フウおかえりー♪おいしかった?」
狐炎があごをしゃくって示すと、彼の斜め後ろ辺りから磊狢がひょっこり顔を出した。
今朝から一言も話してないことなんて水に流したのか、にっこり笑って自分の器を出迎えてくれる。
「う、うん。初めて食べたけど。」
意外とすんなり話が出来たことに、フウは内心拍子抜けしつつほっとする。
向こうから声をかけてもらったことと、時間を置くのは有効だったようだ。
「ナル君と仲良くなれたみたいだし、良かったね~。」
よしよしと頭を撫でられ、子供扱いにむっとしつつも今日だけはと思って一応我慢する。
それに狐炎や周りの様子を見ると、もう移動を始めそうな気配がした。
「さて。揃ったところであるし、そろそろ歩くか。」
「おお、もう出るんか?」
よっこらせと大儀そうに立ち上がって、老紫は背もたれにしていた荷物袋を背負う。
「日暮れまでそう時間は無い。行くぞ。」
次の目的地である鼠蛟の本拠地までは、かなり隔たっている。
少なくとも途中までは歩くつもりなので、距離は今のうちにできるだけ稼いでおくのが得策だ。
「鼠蛟さーん、背中に乗せてくれってばよ~。」
「嫌だ。」
ナルトは単に移動が億劫で冗談交じりに言っただけなのに、きっぱりとけんもほろろな調子で断られた。
「えー。」
「昨日の非常時と一緒にするな。黙って歩け。」
狐炎からは当然怒られ、ナルトは予想通りの結果だと思いつつもむすっとふてくされる。
ちょっと位ノリのいい返事をしてくれたっていいじゃないかと思うが、そうは行かない。
「飛んでくのは楽なのにのー・・・。」
「ねー・・・。」
「うう、やりきれんぞい・・・尻ボンバー!」
「ギャー!何でそこでおれのお尻に八つ当たり?!」
ナルト共々不平を言っていたと思ったら、いきなり老紫はナルトの尻に強烈な平手をお見舞いした。
意味不明な不意打ちに思わず飛び上がる。
「何やってんのおじいちゃん・・・。」
「鬱憤晴らしには隣のケツを叩くのが土の国流じゃ!」
「意味わかんないし!」
フウに呆れられてもナルトにつっこみを入れられても、老紫はふんぞり返って大威張り。
当然こんな謎の風習があるわけもないので、むしろ意味が分かったら大変だ。
「・・・。」
ところがこの光景を、いつも彼の珍行動に辛口な鼠蛟が何故か咎めない。
少しの間眺めた後、おもむろに口を開く。
「老紫。」
「ん?」
“気づいたか?”
念話でたずねると、老紫は軽くうなずいて尻をどついた手をひらひらと振った。
若者2人は意図に気づいていないので、不審物を見る目で首を傾げただけだ。
それに内心ほくそ笑みたくなるような気分を覚えつつ、老紫は今日買った新聞を持ち出した。
「おお、そうじゃ。狐炎よ、こいつを渡しとくぞい。とっとくんじゃろ?」
「ああ、済まぬな。」
渡された新聞を受け取り、そのまま自分の荷物袋にしまう。
それから、すたすたと町を出る方向とは逆に歩き始めた。
「あれ?どこ行くんだってばよ?」
「少し買い忘れがあったのを思い出してな。先に行っていてくれ。すぐに追いつく。」
「ふーん。じゃあ、早く来いよー。」
珍しい事もあるなとナルトはぼんやり思うが、
たまにはこれ位やる方が人間味があっていい気もしたので、特に気に留めない。
他のメンバーが町の外に向かって移動し始めたので、置いていかれないようにそれについていった。


仲間を先に行かせた狐炎は、1人で狭い路地裏へとやってきていた。
3体の妖狐に渡したのは、老紫が渡してきた小型の発信器だ。
彼らは受け取ると、すぐに順々に回してそれに付着したにおいを確認した。
「これの持ち主ですね、主様。すぐに探し出してまいります。」
「まだ近くに居るはずだ。行け。」
『はっ!』
命を受けた狐達は忽然と姿を消した。
有能な部下である彼らは、恐らく日が落ちきる前に指名を果たすだろう。
妖狐は、犬や狼の妖魔程ではないが鼻がいい。顔も声も不明だが、手がかりはこれで十分だ。
ナルトが通ってきた経路の近くに居る事は分かっているのだから、なおさら分かりやすい。
―町中であっても、あやつらだけでの行動は控えさせるべきだな。―
来た道を引き返しながら、ナルトとフウの処遇について思考をめぐらせる。
少なくとも先程の細工は、彼ら以外は気づいていただろう。そぶりをちっとも見せなかった磊狢にしてもだ。
鼠蛟には少々苦情をつけたい部分もあるが、食事の前後の不在はあまりうるさく言っても仕方ない。
今回は、文句が出るのを承知で若輩者達に行動制限を言い渡すことで終わらせようと決めた。


後書き

ここで、ナルトとフウが仲良くなるまでのエピソードは終了です。
ナルトにしては辛抱強く相手の話を聞こうとしているように書いたつもりですが、いかがでしょうか。
本当ならつい茶々を入れるなど、台無しになるようなことをしてしまいそうな気もしますが、
そこは15歳なので少し大人の対応にしてみました。
次回も穏やかな展開ですが、いずれは各人が協力して戦闘に持ち込む展開も書いていきたいです。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―13話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/03/14 15:33
―13話・鳥の楽園―

―不踏の渓谷―
水墨画の世界のように険しい山と、深い谷が刻まれた土の国の秘境。
それが不踏の渓谷だ。その名の通り鋭角の山肌が人間を寄せ付けず、鼠蛟が統べる妖鳥の楽園となっている。
『お帰りなさいませ、長老様!』
たどり着いた一行を待っていたのは、部下の鳥達による盛大な出迎え。
姿は鳥であったり人であったり、様々だ。
妖魔の間ではおしゃれ好きで知られる彼らの装いは、とにかく華やかの一言に尽きる。まるで今日がパーティのようだ。
「磊狢と狐炎の連れ、それと老紫を客室へ。」
「承知いたしました。それではお三方、どうぞこちらへ。お食事も後ほどお持ちいたします。」
鼠蛟の指示を受けた高位の女官が、ナルト達人間3人を案内する。
促されて彼女のついて行こうという時、シャラシャラと髪飾りを揺らす別の女性が歩み出て、鼠蛟に話しかけた。
「あなた様、こちらもお部屋の用意は出来ております。」
「わかった。」
どうも対等の相手らしい女妖魔が、事務的に伝える。
応じる鼠蛟も別にいつもと態度を変えるわけでもなく、淡々と返事をするだけだ。
「あの女の人、誰?」
見たところ30そこそこ、装飾はこの中で一番派手なのだが、一体誰だろうとナルトが首を傾げる。
もしかしたらと思いながら、隣の老紫に尋ねた。
「馬鹿鳥の嫁じゃ。」
「えっ、奥さん?あの人が?!うわー・・・何か、全然タイプ違うなあ。」
そうかもしれないとは鈍いナルトも少し考えていたのだが、いざ聞くと驚いてしまった。
鼠蛟は洒落っ気のない性格なのに、妻はきらびやかに着飾って豪華絢爛。
タイプが違うのもそうだが、お互い態度が淡白すぎてにわかに信じがたい。
(じゃろ?だから夫婦仲は悪いぞい。)
(うわぁ・・・仮面夫婦って奴?)
これ以上詳しいことは後で聞くとして、久々に見た夫婦が険悪夫婦というのは妙に切なくなる。
とはいえどこでも支配階級の婚姻は相性よりも政略優先だから、そりが合わない夫婦なんて珍しくも何ともない。
だから妾を作ってそっちとねんごろになる例が、古今東西あるわけだ。
(でも浮気・・・はしそうにないし、多分研究に夢中になってたら奥さんにすねられちゃったとか、そんなんだろうなー・・・。)
どこの世界でも夫婦は難しいものらしい。
自分達が立ち去った後でいきなり冷戦になったら、などと不穏なことを考えながら、女官の後ろについて部屋へと向かった。


「こちらでございます。」
案内された部屋は広々としていて、とてもここが深山幽谷にあるとは思えない高価な調度が目白押しだ。
棚にも机にも細かい彫刻が施してあって、一見するだけで手の込んだ名品だと分かる。
「うむ、すまんの。」
「長旅でさぞお疲れの事でしょう。ごゆるりとおくつろぎ下さいませ。」
案内してくれた女官は老紫に微笑を返して退室していった。その直後。
「うお~っ、すっげー!!」
「やったー!」
人目がなくなって気が抜けたのか、ナルトとフウの2人とも、用意されていたベッドの一直線にダイブする。
行儀が悪いが、今までで最高のもてなしに浮かれるのは当然だ。
「ふー、久々のふかふかベッドだってばよー!・・・あ、やばいこれおれのより高いかも。」
「ねー、何かずっと寝てたくなりそう。」
まるで雲のような心地のおかげで、表情はとろけんばかりだ。
「ま、あいつらは腐っても王様じゃからの!おかげでわしらも超VIPじゃ!」
同族である人間からは何かと疎まれる人柱力も、妖魔界では王を宿すという事で下にも置かない扱いだ。
扱いのギャップにはちょっと戸惑うが、悪い気はしない。
このもてなしのためなら、わざわざまだるっこしい徒歩でやってきた甲斐もあるというものだ。
「VIPか~・・・うへへへへ。」
「何アンタ、ちょっと気持ち悪いんだけどー。」
「だって野宿続きだったし、おれんちボロアパートだったんだってばよ?
エロ仙人と旅してた時も狭い宿屋だったし、もー、マジ高級ベッド最高~♪」
「え、アンタんちってアパートだったの?その辺の?」
だらけきった口からこぼれた台詞に、フウは驚いて目を丸くした。
その反応が予想外だったので、ナルトはつい素のテンションに戻る。
「あ、うん。おれってば、自分が12歳まで人柱力って知らなくってさ。
何でか知らないけど、ずーっと内緒だったんだってばよ。」
「何じゃと?木の葉は妙な事するの~。
普通、少なくとも小さいうちはフウのように隔離して、人柱力としての修行をみっちり叩き込むはずじゃぞ?
力のコントロールを知らん人柱力なんぞ、危なっかしくてしょうがないわい。」
「うう・・・コントロールは触れないでくれってば。前科が蘇るー・・・。」
老紫の指摘がぐさっと刺さったついでに、妖魔のチャクラ制御で苦労した思い出が蘇る。
修行の旅の途中でうっかり監督していた自来也を大怪我させて、狐炎に散々怒られた苦い経験だ。
その後は見かねた彼から自来也に内緒で教わってそこそこましになったものの、
やはり人柱力としての修行歴が浅いので、免許皆伝は程遠い。
「あれ大変だよねー。
アタシなんか封印がぐちゃぐちゃだから、欲しい量引き出すだけで超大変!」
「分かるってばよ!漏れるんだよね、だ~ってさ!」
「そうそう漏れる漏れる!あいつ本人が普通に術使ってんの見ると、ムカつくよー。」
「うちのクソ狐もそうだってばよ。前、こんな事があってさ~。」
お互い思わぬところに同志と、テンションはうなぎ上り。
意気投合ついでに、ナルトは思い出話を1つ語り始めた。


螺旋丸のフォームを改良しようとしていたある日。ナルトはすっかり頭を抱えていた。
平坦な丘で螺旋丸を作り続けてかれこれ半日余り。
いくつ目になるか分からない螺旋丸を今も生成するが、どれもこれも綺麗な球状にならず、
現在作っている1つもボコボコと歪んで膨らんでしまっていた。
「う~・・・やっぱ難しいってばよ。」
未だに影分身の手無しでは安定した形を作れない。影分身は2体から1体に減らせたものの、その先はなかなか難しい。
印が不要な代わりに、回転の制御は非常に高度なこの術は、元々大雑把なチャクラの使い方をするナルトには鬼門だった。
「あ~も~、無理!絶対無理!!物理的に不可能!
一体誰だってばよ、こんな術考えたの!」
とうとうかんしゃくを起こし、手の中のいびつな螺旋丸を空中に放り投げる。
抑えを失ったチャクラの束が、放たれた先からほどけて霧散していった。
「騒ぐな。全く、八つ当たりなどする暇に1回でも多く数をこなしたらどうだ?」
修行する間、ずっと黙って横で見ていた狐炎が、冷ややかな言葉を浴びせてきた。
すまし顔にナルトはカチンと来る。
「うるさいってばよ!ほんっとに難しいんだって!」
「だからといって、物理的に不可能ではあるまい。
お前の師も開発者も、最終的には片手で生成しておるだろうが。単にお前が未熟なだけだ。」
「うううっ、そういう自分は出来んのかってばよ?!」
正論だから反論出来ないが、引っ込みたくも無い。
ナルトが苦し紛れにそう吹っかけると、彼は顔色1つ変えずにこう答えた。
「チャクラを乱回転させればよいのだろう?」
「そ、そうそう!その後ギューッと!」
このギューッとが難しいのだ。この苦労を少しは分かれと息巻くナルトの顔は、徐々に絶望していった。
「こんな所か。」
狐炎の手のひらに浮かぶ、ハンドボール大の螺旋丸。
何で妖魔が忍術を使えるんだという点に関しては、この術が単に乱回転させたチャクラを球状に圧縮するだけの、
言わばチャクラコントロールさえ出来れば、理論上使い手を問わない術だからどうでもいい。
問題は、その難しい技術を片手で簡単にやってのけられてしまったことで。
「んな~~~?!」
「これでもわしは、繊細な制御を得意としておるのでな。」
狐炎のチャクラコントロールは、ナルトと違い正確無比。
どの方向からも均一な力を掛けなければいけない高難易度の技も、彼にかかればあっけない。
「何で?!何でそんな上手く行くわけ?!ちょっ、コツ教えて、コツ!」
ぽいっとその辺に投げられた螺旋丸が、地面にクレーターをこしらえたことさえ気にならない。
「数千年の経験・・・と言ったらどうする?」
フッと気障な笑いを浮かべて見下す視線は、未熟者を馬鹿にする態度そのもの。
絵になるが、その分ナルトの自尊心もズタズタだ。
「う~鬼~~~!!」
ちなみにこの後、ナルトはコツを教えてもらうどころか、
手近な池で水面を逆立ちチャクラ歩行してこいといわれ、軽く泣いた。


「・・・ってわけ。ひどくない?!」
「あるある。あいつの方が年上って分かっててもムカつくよねー、そういうの。」
「そういう時はの、若人よ!ちょっとした嫌がらせをして仕返しするんじゃ!」
盛り上がってきた陰口大会に、すかさず老紫も絡む。
「んな怖いこと出来ないってばよー!殺される~~!!」
「アンタ何ビビってんの。ねー、仕返しって何やったわけ?」
青くなって慌てるナルトを無視して、フウは興味津々に続きをせっついた。
すると老紫は得意げにこう教える。
「ふふん、あやつの羽織の裾に付いた羽根をむしってやったわい。」
「え、それ滅茶苦茶怒られるんじゃ・・・。」
鼠蛟の白い羽織の裾には、等間隔でついた羽根飾りがある。
特に意味のあるものではないだろうが、人の服のパーツをむしったらどうなるか。
普段馬鹿だ馬鹿だと言われ放題のナルトにでさえ、結果は想像に難くない。
「うむ、 よく分かったの!コブラツイストを食らって死ぬかと思ったわい。」
「コブラツイスト・・・。」
「やるんだ・・・あの顔で。」
顔の問題ではないのだが、光景が想像しがたいのは事実だ。
―やっぱあいつに逆らうのは止めとこ・・・。―
さっぱり懲りた様子のない老紫のようには、色々な意味でなれそうもない。
引きつった笑みになりながら、ナルトはそう悟った。


2時間後。食事が済んだ後で、全員鼠蛟の執務室に集まった。
その間に彼の部下が持ってきた資料が、黒い机の上に広げられている。
「これが、皆が封印された地。」
鼠蛟が広げた地図には、妖魔王達が封印された地点と年月日が記されていた。
封印はいずれもここ数十年の間に起きたことだと一目で分かる。一部に限り、そ後の移動先も違う色で記されていて親切だ。
「これか・・・磊狢、こうしてみればお前はずいぶん移動しておったな。」
磊狢が封印された場所は、滝隠れからかなり遠い国の国境だ。この地図にもその事実が記されている。
「うん。そこの国が人柱力作る前に、入れ物ごと盗まれちゃったんだよね~。」
「それで調子に乗った連中が、アタシを作ったらしいよ。」
「という事は、やはりこの地図は目安程度にしか使えぬか・・・。」
この時期は人間が忍界大戦を繰り広げていた頃であるが故に、人柱力は盛んに作られ投入された。
運が悪ければ捕虜になることも、磊狢のように、人間以外の媒体を使っている時に盗まれることもあるだろう。
「秘密秘密でみんな片付けちゃうから、取った取られたも分かりにくいよね。」
大名等はもちろん知っているだろうが、それらは外部に漏れない。軍事機密だから当然だ。
奪う方も奪われた側も、有利不利を考えてか公表はしない。
この地図に載っているのは、王の所在を確かめるために暇を見て調べた結果、あるいは裏が取れた噂話が元なのだろう。
「この間、土には彭侯が居ると言っていたな。」
「そう。後雷にも、最低一人はいると思う。」
「え、マジ?誰?」
知っているなら早く教えてもらえるとありがたい。ナルトは色めき立って促す。
「えーと・・・。」
しかし、鼠蛟は何故か口ごもっている。
あまり冴えない顔をしているところを見ると、彼にとってあまりいい人物ではなかったのだろうか。
「どうした?」
「・・・誰だったか、忘れた。」
「えーっ、何だってばよそれー!」
期待して損したとぷりぷり怒るナルトはともかく、引っかかる反応だと狐炎は思ったが、それ以上の追及はしない。
何となく、自分にとってもよからぬ人物のような気がうっすらとしていたためだ。
「んー、やっぱり後のみんなは大きいところっぽいかな?」
フウと仲良く身を乗り出して地図を眺める磊狢が、そう言った。
「封印術の技術を考えれば、お前が例外だろうしな。
木の葉はナルト1人であるし・・・ならば、やはり残りは雷と水辺りが候補か。どこも一筋縄では行きそうもないな。」
「でも、ここにみんな居たら探すの楽かもねー。」
仮に 人柱力が2人ずつに分かれていたら、 1ヶ所当たるだけで手間は今までの半分だ。
磊狢が言うとおり、4人がバラバラの国に所属する状態よりもずっと楽だろう
「2人位逃げている方が、もっと楽。」
鼠蛟は反対に近いことを言っているが、これも一理ある。
老紫やナルトのように放浪している人柱力に接触するなら、面倒な里の警備を突破せずに済む。
「・・・いっそ、一人残して全員逃げ出すというのも一興だが。」
何故かこの流れに狐炎まで乗じる。しかも、ある意味では最も手が抜けるパターンを口にした。
希望的すぎる観測を口々に言い合うが、戯れにしても少々寒い。
呆気に取られた様子で彼らを見る人柱力3人の顔が、余計に痛々しさを増した。
「・・・やめよう。」
「そうだな・・・。」
「虚しいよねー・・・。」
はあーっと、尾を引く長いため息を3体揃ってつく。
「何がしたかったんじゃ・・・おぬしら。」
一瞬気でも狂ったのかと思った、とは流石に口にしなかったが、老紫は引きつった顔でそうこぼした。
「うーん。とにかく、また情報探さないとかな?」
順当に、全員里の管理下にあると考えるべきだろう。いずれも五大国所属なら警備も厚そうだ。
「守鶴でも呼べば?確か狐炎、あいつにも頼んでなかったっけ?」
今の所は直接訪ねてこないが、以前緋王郷に立ち寄った折、
彼が向こうにも話を通すと言っていたのをナルトはぼんやり覚えている。
「そうだな。何もないかも知れぬが、いずれにしても現状を伝えねばならぬからな。」
実は鼠蛟と老紫が仲間になった後にも知らせを出しているので、今回も同様に伝える都合がある。
「使いなら、こちらから出す。」
「すまぬな。面倒をかける。」
「別に、構わない。」
「蛟ちゃん大活躍だね~。」
情報収集に部下を出したり、ここに来るまでは仲間を背中に乗せたりと、鼠蛟はこのところ活躍している。
翼の強みが生きる場面が、それだけ多かったという事だ。
遥地翔を使える部下を呼びだし、早速向かわせた。


しばらくすると、守鶴が我愛羅を連れてやってきた。部屋の中にいきなり転移してきたので少々驚かされるが、それも束の間。
思いがけず親友の顔を見つけて、ナルトは喜んで駆け寄った。
「我愛羅~、久しぶりだってばよー!」
「ああ、元気そうで何よりだな。」
ナルトが修行の旅に出てから年単位でご無沙汰だったので、感慨もお互いひとしおだ。
一方妖魔側はといえば、それ以上に会っていないはずだがいたって軽い。
「おー、マジで増えてんなドM野郎。」
「やっほー、かー君♪久しぶり~。そっちの子が相方ー?」
久しぶりの相手でも口が悪い守鶴からの挨拶は特に頓着せず、磊狢はご機嫌で応じる。
「まあな。オメーの入れ物はこの嬢ちゃんか?」
「そうだよ~、かわいいでしょー♪
あ、でもぺったんこだからかー君は興味ないと思う。」
そろそろお年頃だが、上から下まで割とスレンダーなフウは、確かに守鶴の好みからは外れる。
しかし、穏便に事実を述べるには作法というものがあった。
「ぺったんこは余計でしょ!!」
「え~♪」
気にしている貧乳に触れられた怒りが、ビンタではなく拳で磊狢の頭に炸裂した。
それなのにまんざらでもないのは、常人なら理解したくも無いマゾっ気のなせる業か。
慣れているから今さらとやかく言いはしないが、そばで見ていた鼠蛟はわざとなのかと一瞬勘繰りかけた。
「いいじゃねぇか。うちの馬鹿なんざ、野郎の上にクソ生意気だぜ?
女の方が可愛げあるだけ羨ましいって。」
「えー、そうなの?かー君が意地悪するからじゃない?」
「別にしちゃいねぇよ。
すぐ真っ赤になって面白ぇから、ちょっとからかってやってるだけだぜ。」
「どこがちょっとか納得のいく説明しろ、このエロ狸。」
つっこみに対していけしゃあしゃあと白を切れば、即座に我愛羅から厳重抗議の声が上がる。
「それは、嫌われて当たり前・・・。」
鼠蛟がもっともなコメントを述べたが、守鶴は黙殺した。
はなっから彼は故意にやっているので、それも当然なのだが。
「そういえばかー君、新しい彼女作った?」
「言うに事欠いて、何を言い出す貴様は・・・。」
「居るかって?そりゃもちろん。」
真面目な話をしに呼んだ時にという狐炎の言葉を無視して、守鶴はあっさり磊狢の話に乗る。
至極当然というのが態度にも出ていて、独り身の神経をわざわざ逆なでしそうな雰囲気だ。
「出た・・・女を切らさない、男。」
鼠蛟にとってもこれは予想通りながら、ややげんなりした心境は隠せない。
ちなみに守鶴の女好きは、全尾獣どころか妖魔界全体で周知の事実だ。
「どんな子どんな子ー?小悪魔系?お姉さま系?かわいい系?」
「それで言うなら、清楚系だな。もちろん超美人だぜ。」
「ぬぉー、何じゃと?!う、羨ましいぞい!!」
さらっと披露してきた恋人自慢に対して、老紫は地団太を踏みながらハンカチをかみそうな勢いで食いつく。
自分が全く縁が無いものだから、相当羨ましいらしい。
居るだけでも妬けるだろうが、超がつく美人と来れば当たり前か。
「まさに毒牙・・・痛っ。」
「う・る・せ・ぇ!余計なお世話なんだよ無気力無口。」
「嘘は言ってない。そなたは色魔だし。ああ・・・相手が死ぬ。」
殴られても、こんな時だけ口は減らない鼠蛟が、どさくさにまぎれて露骨な発言を吐いた。
「そこはまあうまいこと・・・って、何言わせんだよ。」
「うまいこと何だと?!おい守鶴、貴様~~!!」
「わ゛ー!我愛羅、抑えて抑えてっ!」
守鶴に殴りかかろうとした我愛羅を、慌ててナルトが羽交い締めにして取り押さえる。
母に手を出された怒りはごもっともだが、他人様の部屋を破壊したら大変だ。
「お前達・・・下らぬ話は後にしろ!」
いい加減苛立ちが募ってきたようで、狐炎が怒り交じりの声で怒鳴った。
放っておいたら全然本題に戻って来そうもない気配がすれば、それも当然である。
「あーん、雑談も大事なんだよ炎ちゃん~。」
「するなとは言っておらぬ。後にしろと言っているだけだ。
全く、寄ると触ると低俗な話題に走りおってからに・・・。」
「猥談より、いいではないか。」
「すでに猥談の幕開けだろうが。違うとは言わせぬぞ。」
真顔で擁護になっていないフォローをする鼠蛟に詰め寄る狐炎の後ろで、守鶴がわざとらしく肩をすくめる。
「やれやれ、堅物はこれだからつまんねぇよな~。」
性懲りもなく言い募られて、割と長いはずの狐炎の堪忍袋の尾が切れた。
「やめろと何度言わせる気だ、この戯け共が!!」
「わー、炎ちゃんそんなに怒んないでよ~!火事になる~。」
「貴様の脳天に限ってなら、してやっても構わぬぞ。」
「分かった分かった、この辺にしとくからよ。そう怒るなって。」
下ネタ嫌いが氷の目になった段階まで行ったら引き際という認識は幸いあったようで、
あっさり守鶴主導できわどい雑談は終幕を迎えた。
「何で怒るって分かってるくせに、そっちで盛り上がるわけ・・・?」
「知らないってば・・・。そういや、これでえーっと・・・4人?後のメンバーは誰だってばよ?」
呆れ返ったフウの指摘はもっともだが、妖魔の理解しがたい思考回路は今に始まったことではない。
理解を放棄したナルトは、とりあえず話題を強引にそらす。
やっと元の流れに戻ろうとする流れを引き継いで、いつも通りの調子に戻った狐炎がこう答えた。
「お前達が二尾・三尾・五尾・六尾・八尾と呼ぶものだ。」
「名前は?」
「猫の闇王・鈴音(りんね)、亀の水王・磯撫(いそなで)、
狼の幻王・彭候(ほうこう)、雷獣の雷王・神疾(かむと)、蛇の冥王・皇河(おうが)。」
狐炎の後を引き取って、鼠蛟が名前と称号を人柱力達に教える。ここに来てようやく、妖魔の王達の名前と種族が全員分判明した。
「色々居るのー。・・・でも、どいつもこいつも性格悪いんじゃろうな。」
「えー、5人も残ってるんなら一人くらい普通の奴居るんじゃないの?」
現状、この場を見回すだけでもやや望み薄ではあるが、まだナルトは希望を捨てたくなかった。
彼の願望はさておいても、全部で9体も居れば、人間の神経に近いメンバーが絶対に居ないとも言い切れない。
「そんなこというけど、うちのペットより酷かったらどうするわけ?」
確かにと、フウに同意して我愛羅がうなずく。彼も守鶴の事を鑑みて不安を覚えているのだろう。
両者とも癖の強い相方だから、悲観的になるのも無理もなかった。
「大丈夫だよー。1人以外普通だから。」
「アンタの普通は普通じゃないからだめ。」
「え、褒めてる?」
「んなわけあるかー!」
無闇に照れた磊狢の背中に、フウの蹴りが入った。
「あーん、ご無体な~♪」
「安心しろ。1人を除けば、せいぜい御稚児趣味と大食漢しか変態はおらぬ。」
つい数分前にも展開された流れを尻目に、狐炎が最低限としか言いようの無い保証をする。
「だいぶ不安ですってばよ狐炎さん。」
「何故改まる。」
「いや何となく・・・。」
突然の敬語をいぶかしがられても、口に出してまとめ上げられる類の理由はない。
「っていうか、それ何なの?おちご・・・何たらって。」
「ああ、御稚児趣味のことか。何だ、分からぬのか?そんな事だろうと思ったがな。」
「んー、みんなにわかりやすく言うとホモショタだよ♪」
『ギャーーーッ!!!』
異口同音に人柱力達から上がった絶叫。
ノリノリな磊狢の爆弾発言は、いたいけな人間の平常心をものの見事に吹き飛ばした。

「あっはっは、びっくりしたー?」
「ひぃぃ、嫌だ嫌だ嫌だ、そんな奴仲間にしたくないってばよ!!おれまだ思いっきり成人前なんだけど!」
全身にさぶいぼを立てて、ナルトは自分の腕をガリガリかきむしって悶える。
ホモ単体でもきついのに、ショタまでくっつくとはもはや新手の拷問だ。
「だが本当は――む。」
何か言いかけた鼠蛟の口を、横から守鶴が問答無用で塞いだ。
(黙っとけって。その方が面白いぜ。)
(慌てふためく様はいい余興だからな。)
タチの悪い狐狸の企み。ドSという単語が脳裏をよぎる。
(性悪・・・。)
「うう、恐ろしいぞい。ど、どいつがホモショタなんじゃ?!」
ドS妖魔の陰謀など露知らず、老紫は戦々恐々としながら爆弾探しに血眼だ。
「名前でそれっぽいのとか分かんない?!おれってば超死活問題なんだってばよ!」
「名前で分かったら苦労ないと思うけど。
でも確実に女っぽい名前は1人しか居ないし、じゃあ残りの4択でしょ。」
先程絶叫はしていたものの、女の自分には直接被害は来ないとさっさと気付いたようで、フウは投げやりに答える。
「・・・って事は、3・5・6・8のどれか・・・って、こ、と?」
「じゃの・・・。」
しばし凍りつ男人柱力達の思考。一瞬の静寂の後、また全身総毛立たせた。
「あ゛~~、怖い~~!!いーやー、嘘であってくれってばよぉ~~~!!」
「ひゃははは、オメーどんだけビビってんだよ。
んな狙われる自信でもあんのか?自意識過剰にも程があるだろ。」
「ぜ、ゼロじゃないじゃん!万が一でも十分怖いってば!!」
ゲラゲラ腹を抱えて笑う守鶴に向かって、人の気も知らないでとナルトが本気で怒る。
実際見たことがあろうが無かろうが、本来対象外の同性に恋愛感情を向けるような存在が、生理的に恐怖を煽るのは当たり前だ。
「ふ、ふっ、お、落ち着けナルト。どうせものの例えだ。
ま、まさか本当にホモでショタコンなんて・・・こと・・・は。」
「って・・・あんたが一番真っ青なんだけど?!」
「そ、そんな事はない。対象年齢から外れさえすれば、恐れることはないはず・・・。」
その台詞にはまったく説得力というものが無い。
せめて青ざめていなければ相当マシだったろうに、若き風影もホモへの恐怖は克服出来ないようだ。
「おお、さすが我愛羅!」
「15じゃまだ守備範囲だぜ~♪」
『ギャ~~ッ!!』
これで2度目になる阿鼻叫喚の合唱が、執務室中に反響する。もう収拾がつかない騒ぎだ。
もはや二度と本題に戻れそうも無いが、先程と違って誰かが積極的に戻す気もなさそうだった。
「・・・なあ、狐炎。」
いい加減気の毒になってきたようで、鼠蛟が様子をうかがうような口振りで話しかけた。
「何だ?」
「いや、何でもない・・・。」
「変な奴だな。」
分かりきっているくせに、あえてそ知らぬ顔の狐炎。完全にこの状況を楽しんでいる。
積極的にいじりにかかっている守鶴と同じくらいの悪人だ。
―故意だ・・・絶対。―
性格の悪い妖魔に弄ばれているとも知らず、精神的にご臨終を迎えた一部人柱力が心底哀れだった。


一方その頃。薄暗い建物の中で、赤い雲の模様が入った黒いコートの男女が密会していた。
彼らはナルト達人柱力を狙って暗躍する、暁の構成員だ。
男は頭を白い頭巾で覆い、目元しか見えない不気味な出で立ち。
女は肩でそろえた明るい青紫の髪に、紙製の花飾りをつけた妖艶な美女。
会話する彼らの表情は硬く真面目で、どうやら何か仕事上の重要な話をしているようだ。
「・・・そういうわけで、捕獲は失敗だ。近くを探したが、どこにも居なかった。」
「七尾は振り出しね。分かった、伝えておく。」
女は男の上司とのつなぎ役なのだろう。うなずいてそう答えた。
「俺達は二尾を探しに行く。あっちも目処がついていたからな。」
ほぼ同時期に彼とその仲間が手にした二尾の人柱力の情報は、まだ新鮮なものだ。
滞在していた場所からの距離の都合で七尾を優先しただけだから、行こうと思えば今からでも向かうことが出来る。
「今度こそ捕まえて。
まごついていると、各国が警戒態勢を固めてしまうから。」
少人数で動ける強みが最大限生かせるのは、大きな組織である各国の里がどうしても態勢を整えるのに手間取っている内だけだ。
男が報告した失敗、つまりフウの件が知れれば、事態を重く見て各国が動き出す。
そうすればいずれ不利になるから、彼らの上司は常に迅速で確実な行動を求めている。
「分かっている。次は任せろ。ところで、他の連中はどうしてる?」
「まだ捜索中よ。そろそろ動いてもおかしくないペアもいるけど、多分準備中ね。
慌てることはないけど、出来る限り急いで。」
彼女の言葉は上司の言葉。再び了承の言葉を返してから、男は女の前を辞した。


男が建物から出てくると、外で軽薄そうな若者が待っていた。
同じ黒いコートを着ているが、前を大胆に開いて胸板を露出した格好なので、ずいぶんと雰囲気が違う。
オールバックにした銀髪と女性受けしそうな顔立ちは、歩いていればすぐに若い女性の目をひきつけそうだ。
「ずいぶん早かったな。」
「遅かったじゃねーの。次はどこだぁ?角都ぅ。」
「雷の国だ・・・と、別れる前も言ったはずだが?」
角都と呼ばれた男は、ため息交じりにそう答える。
彼の相棒は、大事な話でもなかなかまともに覚えない困り者だ。
「あれ、そうだっけか?まーいいか。それより見てくれよ、こいつ。」
ほらほらと、飛段が足下に転がる首を2つ指し示す。その顔を見た角都は、ほうっと感嘆の声を上げた。
「珍しくでかしたな。よくやったぞ飛段。」
見せられた首は、高額の賞金がかかったお尋ね者コンビだ。
裏の換金所に持って行けば、かなり懐が暖かくなるだろう。
これを相棒と別行動だったわずかな時間に得るとは、その幸運さも腕前もピカ一だ。
「だろー?たまたまそこで見つけちまってよ。
何かついてるし、今日はぱーっと行こうぜ、ぱーっと!この間の憂さ晴らしも兼ねてさ、な?」
「羽目を外しすぎるなよ。次の仕事に差し支える。」
飲みに行くのは悪くないが、翌日以降に酒が残っては困る。
角都はしっかり相棒に釘を刺すのを忘れない。
「オレだってプロなんだぜ?分かってるから心配すんなよ!」
「やれやれ・・・そうだったな。」
その言葉をどこまで信用していいものか。酒の席の大丈夫ほど、当てにならない言葉はない。
だが、賞金首に免じて今日は許してやることにした。


後書き
お待たせしました。いつの間にやら、前回から1ヵ月半近く経ちました。
現在仲間になっている4つのコンビが一同に会するお話となりました。
今回は場所移動はありませんが、残る尾獣の名前と種族の公開、
それとラストではようやく暁を顔見せすることが出来ました。
ちなみに途中、「御稚児趣味」が出たくだりは、
馬鹿騒ぎしてるだけなので良くも悪くもさらっと流して下さると幸いです。

さて次回、次々回の更新は、サイトの方で以前から公開している一部の頃の短編(ギャグ寄り)を改定したものを、番外編としてお届けします。
内容はそれぞれナルトが偽体を持った狐炎との初対面、
木の葉崩し後の我愛羅の訪問と守鶴登場となります。
いずれも近日中に、14話の進行を見ながら調整して投稿する予定です。
14話の投稿はそれ以降となりますので、どうぞご承知置き下さい。



[4524] 番外編その1(ナルト&九尾)
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/03/26 00:58
※一部の時代の木の葉が舞台の番外編。ギャグ傾向です。
 そのため本編よりもキャラ崩壊が進んでいるかもしれません。気になる方はご注意。


起きるまでは、いつもどおりの日だったんだってばよ。


―番外編その1・本日より外住まいにつき―

さんさんと光が降り注ぐベッド。
今日は任務もないので、ナルトは目覚ましもかけずにぐうぐう寝ていた。
木の葉崩しの騒動からしばらく経ち、連日下忍もてんてこ舞いだった復旧作業も一段落。
そういうわけでいつもの休日通りに過ごすと、この調子で10時ごろまで寝るのがざらだ。
しかし、この日はそれが許されなかった。
「いつまで寝ている、起きろ小僧!」
「いってぇ!!」
げしっと足蹴にされて、ナルトは顔面を壁に強打した。
まさか自宅で寝込みを襲われるとは思ってもいなかったので、実に無様な姿をさらす羽目になった。
とはいえ仮にも一人前の忍者なら、相手が近づいた段階で起きていなければ失格なのだが。
「って~・・・誰だってばよ?!」
がばっと起き上がって自分を蹴り飛ばしたふていの輩を睨みつける。
寝ている自分を容赦なく蹴飛ばすとしたら、窓辺りから不法侵入したカカシかサスケに違いない。
が、そう決め付けて振り返ったナルトの目には、意外な姿が飛び込んできた。
「えーっと・・・どちら様?」
そこに居たのは、知らない男。
オレンジの髪をポニーテールのように高く結い、後ろで3つの束に分けている。
よく見ると、長く伸ばしたもみあげの辺りの髪だけが黒い。
目は切れ長でつりあがった三白眼。さらに、目じりは黒く縁取られていた。
着流し風の衣を纏ったその姿は、恐らく女性ならば誰もが振り返るほどの美形。
まだ若い男のようだが、ナルトは全く見覚えがなかった。
「やっと起きたか、うつけ者が。
わしは、お前の腹に封印されている妖魔。・・・お前達人間が言うところの、九尾の妖狐だ。」
「え、九・・・尾の?」
「そうだ。なんだその顔は。」
目の前の男の髪や目の特徴と、自分が知っている九尾の妖狐のイメージを重ね合わせる。
人間と狐ではずいぶんかけ離れているが、
言われてみればその髪の色と尊大な態度で、かつナルトの知人と言えば1人、いや1体しかいない。
一瞬の沈黙。そして。
「ま、マジでぇぇぇぇーーーーー?!!」
ナルトの叫び声は、閑静な住宅街中に木霊した。

「うるさい・・・大声でがなるな。頭に響いてかなわぬ。」
「んなことどーでもいいっつーの!!
なーんでおれの腹ん中にいるはずのお前が外に、しかも人間の姿でいるんだってばよ?!
おかしいじゃん!!」
あの英雄四代目火影の封印が解けたのか、それともこれは幻なのか。
出来れば後者であって欲しいと思いつつ、ナルトは早口で九尾にまくし立てる。
それが大変うるさいので、九尾は迷惑そうに眉をしかめていた。
「だから騒ぐなと言っているだろうが。
その口をつぐまぬと、外に投げ捨てるぞ。」
「仮にも家主だぞおれは!そーいうこと言うなってばよ!!」
混乱と苛立ちに任せてなおも九尾に言い募った。
だがその瞬間、空気が凍てつく。
「・・・質問に答えて欲しいのか、外に投げ捨てて欲しいのか今すぐ選べ。」
「分かりました九尾様。おれの質問に答えてください。」
ぎろりと睨みつけられ、何故か敬語でナルトは返答した。
さすがに最強の妖魔の1体という名は伊達ではない。
睨みつけるだけでも、その迫力たるやすさまじいものだ。
とりあえずナルトが静かになったので、彼の視線から殺気が消えた。
「ようやくおとなしくなったか。ならば教えてやってもいい。
わしがこうして外に出ていられるのは、お前の腹に施された封印式の仕組みを逆手に取ったからだ。」
「は?どういうことだってばよ。」
「簡単な話だ。お前が最近、よくわしのチャクラを借りていたからな。
そこでわしは仮説を立て、それを実行に移した。ただそれだけだ。」
封印は、ナルトの激しい怒りや殺意に呼応すれば、意外と簡単に外れかかってしまう。
九尾が何をしたのかは知らないが、仕組みさえ知れば色々と細工が利くのかもしれない。そうかもしれないのだが。
「・・・理屈がさっぱりだってばよ。」
「お前ごときの頭で、理屈が理解できるわけはなかろう。
細かく教えるだけ無駄だ。」
「すんげーむかつくんだけどよ、その言い方・・・。」
「腹の中からずっとお前を見てきたわしに言わせれば、十分に阿呆だ。」
「何だよそれ!で、けっきょく今はどういう状態なんだってばよ?
封印が完璧に取れちまったのか?っ、いってぇ~・・・今度はでこピンかよ!」
前振りもなく繰り出されたでこピンをまともに食らって、ナルトは痛そうにでこをさする。
起き抜けではいつもの額当てがないので仕方がない。
「そんなわけがあるか。
そうすれば、お前に貸す量とは比べ物にならんほどのチャクラが一気にあふれ出す。
それでは封印がわしを押さえ込もうと躍起になって、わしは出てこれぬからな。
ゆえに、大半のチャクラと本体はお前の中だ。」
ナルトは九尾のチャクラの絶対量を知らないので、ふうんと軽く流した。
だが、彼が持つ量というのは、本当に途方もないものだ。
いかにナルトが並外れたチャクラを持つとはいえ、所詮は人間。妖魔とは比べ物にならない。
さすがに九尾の持つチャクラを全てを通してしまうほど、封印は雑に出来ていなかった。
もし通すような事があったら、それはきっと耐用年数でも来た日だろう。
「・・・じゃ、おれの目の前のあんたは何?」
「少々のチャクラと妖力を素材として生成したかりそめの体・・・いわば分身体。
そこに、わしの意識を移したものだ。だから封印は反応せぬが、わしは比較的自由に動ける。」
少々と言っても、元が莫大な量を誇る九尾の力だ。
かりそめの体とは言っても、宿るチャクラはナルト自身が持つチャクラを軽く上回る。
巨大過ぎる分母に対して小さいというだけの話である。

「へー・・・お前ってば、器用だな。」
ナルトは理屈が分からないながら素直に感心した。
カカシでも居たら、そこは感心するところじゃないとつっこみを入れるだろうが。
「ところでお前・・・。」
「ん?なんだってばよ。おれこれから朝飯にしたいんだけど。」
パジャマから普段着に着替えながら、ナルトは生返事を返す。
「その朝飯だ。前々から言いたかったのだが、・・・あの冷蔵庫は何だ。」
「え?」
何か文句を言われるようなことでもあるのだろうか。
ナルトは本当に分からないらしく、首を傾げつつ九尾を見返した。
一方の九尾は、呆れて物も言えないといった様子だ。
「え?ではない。牛乳しか入っておらぬだろうが。
肉も魚も食わぬのか、お前は・・・。せめて果物くらいは入れておけ。」
あえて野菜を食えといわないのは、やはり九尾が泣く子も黙る妖魔だからだろうか。
妖魔が野菜を食う様子はちょっと想像し難い。
実際は、単にナルトの野菜嫌いを知っているからこういったのだが。
「え~、だって肉はうまいけど高いし、魚は骨が多くて食べにくいし・・・。
果物もうまいけどすぐ腐るし高いからあんまり買いたくな・・・って、いきなし殴んなってばよ!!」
「この阿呆・・・!!お前の体が健全に保たれねば、わしが迷惑だ。
食物の選り好みをするな!」
いつかのカカシと意味がほとんど同じセリフを、
まさか自分の腹の中に居る居候に言われるとは思ってもみなかった。
殴られた頭がひりひりする。もうちょっと手加減をして欲しいものだ。
「はいはい・・・。」
逆らうとまた睨まれることは目に見えているので、ナルトはおとなしく従っておくことにした。
今日は買い物から始まりそうだ。
牛乳とカップめん、それにお菓子以外の物は買わないので、八百屋の場所など忘却の彼方だというのに。
せいぜい任務の前日に出来合いの弁当を買うくらいである。店探しから始まりそうだ。
「・・・わざわざ八百屋に行かずとも、お前がいつも行く店で事足りる。」
「え?!なんでおれが考えてることが分かったんだってばよ?!」
何で考えている事がばれたのか分からずに、
ナルトは三流ドラマで犯行がばれた犯人のようなベタな反応をみせる。
「丸12年もお前の腹にいれば、大体は読める。」
まるで父親か何かのような言葉だが、実際九尾にはお見通しである。
ナルトの目や耳を通して外界も見ていたし、彼の感情や心境も中から見れば手に取るように分かる。
「なーんか、変な気分・・・。」
ほとんど喋った事すらない相手なのに、まるで親や兄弟のような事を言う九尾には調子が狂わされる。
とりあえず食パンを焼いて、バターだけ塗りつけてさっさと口に押し込んだ。
それから牛乳を男らしく一気に飲み干すと、ナルトはふとある疑問を覚えた。
「あれ?九尾ってば何も食べないの?」
ナルトが食べている様子を黙ってみているだけで、自分は一切口にしない彼を不思議に思って聞いてみた。
すると、ああ。と言ってからこう説明する。
「妖魔は食物を食す必要はない。別に食べても平気だが、腹の足しにもならんな。」
「腹の足しって事は、やっぱ何か食うわけ?」
「妖魔が喰うのは、森羅万象の持つ『氣』だ。
お前たち下等生物と同じ食物では、到底肉体を維持できんからな。」
「よくわかんねー・・・チャクラの親戚?」
「少し違うがな・・・まぁ、それでもよかろう。」
説明しても、ナルトの頭は混乱するだけで意味を飲み込めないと判断した九尾は、それ以上話を引っ張らずに打ち切った。
察しの悪いナルトにも、自分の知識の程度を理由に手間を省かれていることは分かるが、
実際説明されたところで分からないのがつらいところだ。
「それにしても、めんどーな事になったってばよ・・・。」
「面倒とは無礼だな。おまけに狭量だ。」
「だー、おれがきょーりょーとかいうのはどうでもいいってばよ!
おれはこれから買い物行くけど、勝手に家から出んなよ!!」
「いいから、キャベツとにんじんだけは最低でも買って来い。」
背中からかけられた九尾の言葉には返事もせずに、
ナルトはガマちゃん財布を片手にさっさと家から出て行った。
ちなみに「きょーりょー」の意味は、当然の如く理解していなかった。
しょせん、同期と比べても見劣りするしがない12歳児の語彙力である。


―スーパー・モクレン―
住んでいるアパートのすぐそばにある、八百屋を始めとした日常の品々を取り扱う店が揃う商店街・モクレン通り。
ここにある行きつけのスーパーで、ナルトは普段は足を向けない生鮮食品売り場をうろついていた。
最低でも買ってこいといわれたキャベツとにんじんは、すでにかごの中に入っている。
にんじんは嫌いだが、キャベツはナルトもおいしく食べられる貴重な野菜だ。
ラーメンでおなじみのモヤシも、ついでに入れてあったりする。
ナルトが食べる野菜は、思えばラーメンがらみしかない。
「とりあえず、バナナとイチゴと・・・あ、そーだ!
せっかくだし奮発して焼肉用の肉も買っちまお~っと♪」
九尾の前では何だかんだと難癖つけておきながら、
いざ現物を目の前にすると、つい目移りして欲しくなってしまうのが人情だ。
とりあえず、気に入った物を片っ端からつかんでかごに放り込んでいく。
だから後で腐らせることになるのだが、彼はまだそれを分かっていないようだ。
「あら、ナルトじゃない!」
「あ、サクラちゃん!もしかして、おつかい?」
「うーん、まあそんなとこ。
明日お母さんにケーキの作り方教えてもらうから、材料を買いに来たのよ。」
通路でばったり出くわしたサクラも、ナルト同様たくさんカゴに商品を詰め込んでいた。
小麦粉に生クリームにと、いかにも甘いお菓子が出てきそうなラインナップが揃っている。
「え、サクラちゃんケーキ作るの?!俺にもくれる??」
「もー、そんなに目をキラキラさせちゃって。もちろんちゃんと分けてあげるわよ。」
サクラはナルトのオーバーな反応に苦笑しつつも、ちゃんとおすそ分けする事を約束した。
もちろん本当はサスケをメインにしたいところなのだが、残念ながら彼は甘いものが大の苦手なのであげられない。
「楽しみにしてるってばよ~!」
「でも、うまく出来たらの話よ。
さすがにサスケ君じゃなくたって、失敗作なんてあげられないもの。」
「大丈夫、サクラちゃんならきっとうまくいくってばよ!」
「あはは、ありがと。あ、あんたもそろそろレジに行かないの?」
「んー、そろそろ行くってばよ。サクラちゃんも行くの?」
「うん。もう必要なものは全部そろったし。ほら、行きましょ。」
「おう!」
通路でいつまでも立ち話しているわけにも行かない。
買い物が一通り済んだ2人は、まっすぐレジに向かった。


モクレンから出た後、ナルトとサクラは公園でのんびり話していた。
単に彼女の他愛のない愚痴につき合わされていたとも言うが。
「それでね~・・・いのったら、またサスケ君にちょっかい出そうとしてたのよ!
いい加減しつこいと思わない?!」
「うーん・・・うん。」
正直サスケの事はどうでもいいのだが、それでもサクラとサスケ抜きで話せる貴重な時間なので、適当に相槌を打っていた。
と、言うよりは適当な相槌しか打てない話ばかりなのだが。
それはともかく、これも好きな女の子と二人っきりの時間を稼ぐ涙ぐましい努力である。
しかしその時間はあまり長くは続かない。
「おい、こんな所で何してるんだ?」
どこか不機嫌そうな、年の割に低い少年の声。
「げっ。サ、サスケ!」
「サ、サスケ君?!」
驚いて振り向けば、そこには今しがたまで話のネタにされていた人物の姿があった。
声に違わず、顔もなんとなく不機嫌そうだ。
ナルトもサクラも、その理由をうかがい知る事はできなかったが。
しかしドッキリもいいところの訪問者は、サスケだけでは終わらなかった。
「遅いと思っていたら、こんなところで油を売っていたか。」
「うぎゃー!何でお前がここにいるんだってばよ!家に居ろっていったのに!!」
ただでさえオフ日に会いたくない人間に会ったばかりだというのに、追い討ちをかけるようなこの仕打ち。
ちゃんと言ったのに、何故九尾がここに居るのだろう。
頭の中が一気にパニックに近づいた。頭が真っ白になるまで、多分もう一押しのところまで。
「お前の帰りが遅いからだ。」
だが、パニックで口をパクパクさせるナルトの心中を知ってか知らずか、
嫌味な位涼しい顔で九尾が返事をよこしてきた。
「ねぇナルト・・・この人って・・・。」
「え?えーっとこいつは・・・ムガガ!!」
サクラの問いにナルトが返事に窮した瞬間、電光石火の速度で彼の口が九尾によって塞がれた。
「ナルトの他人同然に遠い親戚だ。」
「親戚?でも、ナルトはあんたの事を一言も・・・。」
サスケは当然の疑問を口にした。それはそうだ。
親戚が居るなら、以前ナルトの面倒を見ていた人物の中の誰かが知っていてもおかしくない。
本人にだって教えていそうなものだ。
「親戚と言っても、曽祖母の代で兄弟だったと言う程度だ。
俺がナルトを知ったのもついこの間でな。
これだけ血が遠ければ、名家ならいざ知らず、庶民には親戚と言う認識すらなくてもおかしくはなかろう?」
曾祖母、つまりひいおばあさんの代でやっと同じ親から生まれた兄弟に行き着く血縁。
確かに血が遠すぎて、面識がなくてもおかしくはない。
さりげなく一人称が「わし」ではなく「俺」になっているのは、姿とのギャップで怪しまれないための工夫だろう。
さすがに人を騙すとされる狐の親玉だけあって、その辺りは抜け目がない。
「なるほどな。で、あんた名前は?」
サスケが当然聞いてきたが、口をふさがれたままのナルトは焦る。
もしも九尾なんて名乗られたら、里中大パニックだ。ちゃんとわかっているのだろうか。
「稲荷狐炎だ。」
―もろどっかの神社の名前じゃん!!―
あんまり分かっている気がしなかった。
しかも、何気なく正体に直結しそうな危うい名前である。
稲荷神社の使いと言えばキツネ。遊び心のつもりなのかもしれないがやめて欲しい。
ついでに、キツネと言えば油揚げといなり寿司も芋づる式に連想するが。

「へ~・・・こえんって、どう書くんですか?」
「狐に炎。それで狐炎と読ませる。」
意外とサクラにはまともに対応している。
朝のような高慢な態度を取ると思っていたナルトは驚いたが、彼は馬鹿ではない。
相手を信用させるためなら、このぐらい朝飯前である。
一応、外の人間には気を使ってくれているらしい。
「ところでナルト、お前こいつと一緒に住むことになったのか?」
「え、うん、まぁそんなとこ。
実家は火の国の他の所らしいけど、おれが遠い親戚だって聞いて、顔を見に来たんだってばよ。
で、おれんちにしばらく居候。」
もう口を塞いでいた手もどけてもらったので、ここは話を合わせておいた方が得策だ。
嘘は苦手だが、何とか一芝居打たなければいけない。
ここで挙動不審になったら殺される。
「まぁ、そういうわけだ。よろしく頼む。」
戦闘時を除けば、初めて九尾と息が合った瞬間だ。
大分ナルトも勝手にでっち上げてしまったが、
九尾は頭がよさそうなので、言った自分さえ覚えていれば問題はないだろう。
「へ~、じゃあしばらくこっちにいるんですよね?
私、春野サクラっていいます。よろしくお願いしますね!で、こっちは・・・。」
「うちはサスケ。」
興奮気味のサクラがぺこりと行儀よく会釈してから、なぜかむっとした様子でぶっきらぼうにサスケも名乗る。
「話は聞いている。こやつが世話になっているようだな。」
「別にサスケには世話になってないってばよ!」
「たかだか社交辞令に文句をつけるな。」
そしてお叱りの言葉とセットで、もれなくナルトのでこに一撃。
朝からそうだが、無礼な子供に容赦なんてない。
「いってぇ!今日何回目だよ!!」
朝に続き、またもナルトはでこピンを食らった。
よりにもよって、一番見られたくない2人の前でやられたのはショックだ。
「・・・ぷっ。」
「ガーン!さ、サクラちゃんに笑われたってばよ~~!!」
サクラに笑われたナルトは、半泣き気分で頭を抱えた。
格好いいところを見せたいのに台無しだ。ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼を、サスケが冷ややかな目で見ている。
「・・・このウスラトンカチ。
そんな事はどうでもいいから、さっさと親戚と一緒に帰れ。」
あからさまに苛立っているサスケは、刺々しい口調でそう言い捨てた。
どうも2人をさっさと追い払いたくて仕方ないらしい。
「小僧。」
「何だよ・・・。」
やって来た時よりもさらに不機嫌そうにサスケは答えた。
どうひいき目に見ても、明らかに九尾を睨んでいる。
「そう睨むな。俺はそんな小娘に興味はない。」
「なっ・・・い、いきなり何言ってんだ!?俺は別に、睨んでなんか・・・!」
いつもはポーカーフェイスのはずのサスケの顔が、うっすら赤い。
図星だったらしい。
「・・・メッチャにらんでたじゃん。」
「黙れウスラトンカチ!!」
悪気のないナルトの一言にも、いささか過剰気味に怒鳴る始末。
明らかに焦っている証拠だ。
「ちょ、どうしちゃったのサスケ君?」
「ふ・・・青いな、小僧。」
まだまだ子供だとサスケを鼻で笑う。
嫌味ったらしいことこの上ないが、それがさまになるのが九尾という存在だろうか。
「~~~~っ・・・!!」
真っ赤になったサスケと、何が何だか分からず戸惑うサクラ。
実に面白い光景である。
なぜサスケがからかわれて怒るのかいまいち分かっていないが、ナルトは笑いをこらえるのに必死だった。
「んじゃ、サクラちゃん、ばいば~い。」
「あ、うん。またね!」
とりあえず早く帰らないと肉が腐る事を思い出し、ナルトは九尾と共に帰路についた。


「なぁ、狐炎。」
さっき聞いたばかりの名前はなじまないが、
家の外なので、その名で少し前を歩く九尾に呼びかけた。
「何だ?」
「さっきのサスケの顔、マジ最高。よくやってくれたってばよ!」
いつもサスケに馬鹿にされて溜まっていたうっぷんが、あの傑作な顔で一気に吹っ飛んだ。
「そうか。あやつは素直ではないからな。
お前もツボさえ心得ておけば、からかい放題だぞ。」
「え、マジで?!」
いつも馬鹿にされるばかりの反動か、彼の一言でナルトの目がキラキラと輝いた。
いたずら小僧魂の目覚めである。
「ああ。もっとも、ほどほどにしておかねば後で痛い目にあうだろうが。」
「・・・やっぱ?逆切れすんだよな~、サスケの奴。」
以前サクラをネタにサスケをからかったがために、某片目写輪眼の上司がズタボロになった事を思い出す。
あの時の火遁は、骨までウェルダンクラスだった。
「そうであろうな。
あの手の輩は自尊心が高い故に、からかわれると人一倍腹を立てる。」
「じそんしん?」
「プライドのことだ。つくづく勉強が足りぬやつめ・・・。」
自分には簡単な言葉を聞かれるのはわずらわしいのだろう。
いちいち言葉の意味を説明をしなければいけないナルトに、かなり呆れたように嘆息する。
「うるさいってばよ!お前がムズイ言葉使いすぎ!!」
「黙れ。」
ナルトは再び殴られた。


―ナルトの家―
「あ~、ひやひやしたってばよ~・・・。」
「よく誤魔化し通せたな。少しは褒めてやろう。」
無表情でがしゃがしゃと乱暴に頭をなでられるが、あまり喜べない。
全然嬉しくないと言えば、それはそれで嘘になるが。
「稲荷狐炎だっけ?よくとっさにそんな嘘つけるよなぁ。」
自分だったら、そんな偽名なんてとっさに思いつきもしない。
九尾がでっち上げた嘘に素直に感心するばかりだ。
「半分は嘘ではない。下の名ははわしの本来の名だ。」
「え、あれ本名だったの?!」
ナルトの頭の中で、ガーンという漫画チックな書き文字が所狭しと乱舞する。
「九尾の妖狐と言うのは、周りが勝手につけたあだ名だ。
己でそんな名を名乗るわけなかろう。考えれば分かるだろうが。」
「言われてみれば・・・。」
確かに言われてみれば、九尾というのは周りが勝手に呼んでいる名前だ。
カカシが、「写輪眼のカカシ」や「コピー忍者」という通り名で呼ばれるようなものである。
「で・・・ずいぶん買い込んだようだが、それを腐るまでに使い切る算段はあるのか?」
「と、当然だってばよ!」
実は何も考えていないのだが、それを言ってしまえば冷たい目で見下されるのは目に見えている。
が、その虚勢が通じているわけはない。
やれやれと九尾もとい狐炎はため息をつき、いかにも気だるそうに前髪をかき上げた。
「・・・使い切れない時は、誰かにやるのも手だ。
昔のように、誰も相手にしないわけではなかろう?」
「あ、そっか。じゃあ九尾も食う?」
目からうろことばかりに手を打って、ついでに案をくれた本人に話を振ってみた。
すると、嫌がるそぶりもせずに彼はこう答えた。
「野菜以外ならばよかろう。」
「え?肉じゃなくてもいいの?意外だってばよ・・・。」
普段は万物の氣を吸収して糧としている狐炎にしてみれば、食べ物は味だけで腹の足しにもならない存在だ。
野菜は好きでも嫌いでもないし、実は大体の物ならば食べられる。
意外に雑食かつ悪食なのだ。余談だが、普通の狐も雑食である。
「どうせ腹の足しにはならんが、味だけならば感じる。
嗜好品としてなら楽しめるからな。」
「しこうひん?お前ってば、まーた難しい事いうし・・・。」
今日1日だけで、もう何回言葉の意味を聞いただろう。
馬鹿にされる事はもう分かっているが、
知らない事をそのまま放っておけるタチではないのでつい聞いてしまう。
「酒や煙草の事だ。これくらい常識として心得ておけ、物知らずが。」
「非常識なやつに常識とか言われたくないってばよ・・・。」
ボソッと小声で抗議してみるが、あっけなく無視された。
どこ吹く風と言った様子で、ナルトが買ってきた食材をひょいと持ち上げて台所に行ってしまう。
「今度は何するんだってばよ?」
「見て分からぬのか?」
狐炎が持っているのはどんな家庭にでもあるあれ。
少し考えて、ナルトは素直にこう答えた。
「・・・包丁。」
ドガッ。
「いってー!!ほ、包丁の柄で殴るなんて危ないってばよ!!
メッチャ痛いし、角でやったろ角で!!」
つむじの辺りを押さえながら、涙目でナルトが猛抗議する。
包丁の柄の角はとても硬くて痛い。木やプラスチックで出来ているのだから当たり前だ。
「叩けば少しは変わるかと思ったまでだ。」
包丁の柄でどついておきながら、いけしゃあしゃあと狐炎が答える。全くいい根性だ。
「変わるか~っ!むしろシナプスが切れて馬鹿になるってばよーー!!」
「ほう、それ以上阿呆になる余地があったか。
この世には、上下の果てというものはそうそう存在しないものなのだな。
お前のおかげで思い出す事ができた。」
明らかに馬鹿にされている。
が、包丁を持って台所に立っている段階で、やる事は木の葉丸より小さい子でも想像がつく事だ。
単に脳がそれを全力で否定したがっているだけで。
「ねぇねぇ・・・お前ってば、化け狐なのに料理なんて作れんの?」
ともかく彼のペースに乗せられると、延々とおもちゃにされる。
さすがにナルトもそこまで馬鹿ではないので、一番聞きたかった事を聞いてみた。
「お前よりはな。わしが何年生きていると思っておる。
お前の中に入る前から、知識はあった。」
「だ~、やった事あんのか聞いてるんだってばよ!」
じれったいぼかした返事しか返ってこず、ナルトはもどかしそうに怒鳴った。
と、そこで何故か彼の動きが止まり、くるりとこちらを向いた。
非常に嫌な予感がする。
「黙れ。腹をかっさばかれたくなければな。」
「ギャー、暴力反対だってばよ~!!」
きらりと煌めく包丁の刃。その赤い瞳には、誰の目にも明らかな殺意。
ヤクザまがいの凶悪なセリフとどすの効いた声は、いたいけな12歳児を台所の反対側に逃走させるのには十分だった。
宿主の腹をかっさばくなどという暴挙に走れば、
言った本人も無事ではすまないのだが、動転したナルトは気づきもしない。
「クックック・・・ただの冗談でここまで面白い反応をしてくれるか。
お前は本当に単純な奴だ。」
「お前が言うと、全っ然ジョーダンに聞こえないってばよ!!
自分の切れた顔を鏡で見てからいえ!!」
本当に、冗談ではすまないくらい怖かったのである。
ナルトは猛烈な勢いで抗議をするが、やはり無視された。
トントンなどというゆったりとした速度ではなく、タタタタタと言った方がふさわしい、熟練の料理人のような包丁の音が返ってくるばかりだ。
ほとんど使っていないまな板の上で、野菜があっという間に輪切りやざく切りに変身する。
どこでそんな包丁さばきを身に着けたのか、ぜひとも聞きたいところだが。
「さて、わしは人間ではないからな・・・あまり手の込んだものは作らぬ。
とりあえず肉は焼いた方がいいか?」
「・・・普通に焼くんじゃないの?
それとも九尾ってば、自分キツネだから普段は生?」
焼かないと食べないと承知の上での質問とは知らず、ナルトは素直に返事を返す。
すると、狐炎は無表情のままこういった。
「肉は生がうまい。」
半分冗談で聞いたのだが、まさか本当にそういう風な返事が返ってくるとは思わなかった。
やはり人外の妖魔である。
「・・・おれは焼いた方が好きだから、焼いて欲しいってばよ。」
とりあえず、生肉を食べる趣味はナルトにはない。
世の中には馬刺しなる物も存在しているが、一度も食べた事がないので何ともいえなかった。
それ以前に、肉は生だと腹を壊すとイルカに言われた事があるので、トイレ地獄が怖くて食べたくなかった。
「そうか。まあ冗談だ。
お前達はすぐに腹を壊すし・・・ああ、網はなさそうだな。」
「は?網でどーすんの?」
ナルトの頭の中には、虫取りか魚用の網しか浮かんでいない。
当然その表情は怪訝そうなものになり、それだけで思考を読み取った狐炎の目は冷ややかなものとなった。
「うつけ者。焼き網に決まっておるだろうが。全く・・・何を考えている。」
「え、あ~そっちか!おれってば何考えてんだろ・・・。」
半分ボケーっとしてたとはいえ、自分でも恥ずかしい誤解だ。
結構屋台などで目にする機会はあるのだが。
「普段まともに料理をしていないからだ。邪魔だからあっちへ行け。」
しっしっと、まるで犬猫のように追い払われた。
妖魔とはいえ、キツネに追い払われる人間とはこれ如何に。
しかしぐずぐずしていれば怒りを買うのは確実なので、ナルトはこの間買ったばかりのソファに座って待つことにした。
貯金の半額近くが一気に飛んだ高い買い物だったが、
一緒に選んでくれたイルカが「これなら長持ち」と太鼓判を押した一品。
ふかふかの弾力を生む中綿はヘタリ知らずだ。
「ふ~・・・疲れたってばよ。」
ふかふかのクッションを枕にして、ごろりと寝転がっていれば当然睡魔が襲ってくる。
―家族がいたら、こんな感じなのかなぁ・・・?―
一気にやってきた眠気の中で、ナルトはぼんやりと思う。
そういえば、九尾の妖狐が作る食事なんていう、この世で最もありえない物を後もう少しで食べる事になる。
おいしいのだろうか。おいしくなかったら嫌だなあと思ったあたりで、
ナルトの意識は完璧に無意識下に沈んだ。


それからしばらく。
「やけにおとなしいと思えば、案の定だな。」
世の主婦でもたまげるような手際で、さっさと肉入り野菜炒めと野菜スープを調理し、
昼間に掃除した炊飯器で飯を炊いた狐炎は、ソファで気持ちよさそうに眠るナルトを呆れて見下ろした。
そして。
「・・・起きろ小僧!」
その直後、本日2度目の目覚ましキックがナルトに命中した。
一度声をかけるなどという配慮は微塵も感じられない、手荒くしかし確実な目覚まし。
どこの家族もこうなのだろうか。
だったらちょっと嫌だとナルトが思ったのは、言うまでもない。



後書き
サイト用に本編より遥か前に書いたギャグ小説です。
ナルトと九尾(狐炎)が出会った頃の話を見たいというお声があったので、いくらか改定の上掲載しました。
狐炎が本編より手が出るのが早いですが、書いた時期の違いとギャグという事で。
ついでに小僧呼びが残っているのは、顔を合わせた直後だからです。
ある日突然終わった、寂しくも気楽な独り暮らし。
降って湧いた口うるさい年長者。これが2人の同居開始のイメージですね。感動のかの字もない。
この後もこんな調子でしばらく過ごし、原作のイベントも経由して本編に至ります。



[4524] 番外編その2(ナルト・九尾・我愛羅・守鶴)
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/04/18 15:11
※一部の時代の木の葉が舞台の番外編。ギャグ傾向です。
 本編よりもキャラ崩壊が進んでいるかもしれませんが、単なる仕様です。

会いたかった友達と、絶対会いたくなかった奴がいっぺんに来た。
こんなとき、人は頭を抱えるしかないものだ。


―番外編その2・サンドインパクト―


ここは木の葉の里に続く街道の終点。つまり里の門前の近くである。
大勢行きかう人の中に、我愛羅達バキ班がいた。
「やっと着いたな。ところで我愛羅、大丈夫か?」
「あぁ・・・やっと収まってきた。」
バキが我愛羅を気遣う。
幸い、声をかけられた我愛羅の表情は穏やかだった。
「ったく、ヒヤヒヤさせないで欲しいじゃん。」
「まぁ、そういうなカンクロウ。収まったんならそれでいいだろう?」
「このまま収まっていてくれれば、いいんだがな・・・。」
テマリはそういうが、我愛羅は逆に顔を曇らせる。
実は、彼は先ほどまでずっと頭痛がしていたのだ。
木の葉の里に近づけば近づくほど、感覚は短くなり痛みが増していた。
原因は守鶴だ。
我愛羅の中に彼が封印されているため、その精神状態はダイレクトに我愛羅に影響を及ぼす。
正確には八つ当たりというべきものだが、妖魔だけあって全く性格が悪い。
夜な夜な悪夢ばかり見せるわ、体を乗っ取ろうと目論むわ、好き放題やってくれる。
ちなみに最近は我愛羅が思春期に差し掛かったせいか、下品な夢までレパートリーに加わった。
もはや我愛羅をどうしたいのか分からない。
「何が四代目風影だ・・・あの『馬鹿影』め。呪ってやる。」
「いや、もう死んでるじゃん・・・。
つーか我愛羅、アレでも親父だったんだし馬鹿影はないじゃん!」
「あいつが睡眠妨害してこなければ、こんなこと思うものか。」
カンクロウにたしなめられるが、我愛羅はそれを無視して恨めしそうにつぶやいた。
木の葉の里まで早くて3日。普通に行って4,5日。
今回は往復の移動時間を除いて1週間という破格の長さの休暇と、その後は武者修行という名目での滞在となる。
ちなみにバキだけは休暇が終わった後に別口の任務があるものの、事務的な要素が濃く戦闘を伴うようなものではない。
重役達は我愛羅を長期間里外に出すことに渋ったが、そこは無理やり押し切った。
いや、自動的に押し切ることができた。
何がいけなかったのか、我愛羅が本人の意思を無視して完全体に変身しかけたせいだが。
オートガードならぬオート脅迫である。訳はともかく、かなりいらないサービスだ。
「とにかく、宿を取ったらその後は自由だし。
余計な事は忘れて、ナルトと遊んでくればいいじゃないか。」
テマリがやさぐれた弟を景気づける。
ナルトには今回の木の葉行きが決まってすぐに手紙を出し、この件を伝えているのだ。
「ああ、もちろんそのつもりだ。」
間もなくたどり着いた門で通行許可証を見せ、里に入った4人は早速宿を取った。
その後自由行動になった我愛羅は、早速ナルトを探しに向かった。


「考えてみれば・・・あいつの家がどの辺りかも知らないんだった。」
手紙に住所を書くのは、単に調べればそれですんだのだ。
しかし住所がわかっても土地勘がないので、その住所が里のどの辺りかはさっぱりわからない。
うかつだったと思いながら、だが見ず知らずの他人に聞く気も起きず、我愛羅はぶらぶらと通りを歩いていた。
とりあえず案内所で聞こうかと思っていた矢先に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「なー狐炎~、我愛羅はうちの場所わかると思うー?」
「ふん・・・今頃、迷っておるのがオチだろう。」
(あれは・・・。)
ナルトと、その隣に居る長身の男、つまり狐炎の姿が我愛羅の目に入る。
我愛羅は当然狐炎と面識がないため、彼がなぜナルトと親しげなのかわからない。
確か家族が居ないようなことを言っていた気がするからなおさらだ。
だが、とりあえずナルトの姿だけは間違いなかった。
とりあえずこれで彼の家にはたどり着けるだろう。ほっと一息つき、彼を呼び止める事にした。
「ナル――。」
「狐炎~~!250年前に貸した常緑漫遊覧、いい加減返しやがれーーーー!!」
が、ナルトを呼び止めようと我愛羅が声を発しかけた瞬間、それをかき消す大音量の罵声が通りに響く。
そしてそれと同時に発生した一陣の風の刃が、
聴覚を破壊しそうなソニックブームを発してナルト達の方に飛んでいった。
「風防!」
危ないと思ったその刹那、狐炎が風の方向に手をかざす。
薄い緑を帯びた結界が生じ、風を弾いてかき消した。ナルトも狐炎も傷ひとつないが、見たこともない術だ。
「な、今の何?!あ、我愛羅!」
「ナルト、大丈夫か?!」
周りは大混乱に陥る中、我愛羅はあわててナルトに駆け寄る。
「う、うん。ところで、今の・・・。」
我愛羅とナルトが風の刃が飛んでいた方を見ると、そこには見慣れない若い男が立っていた。
ところどころに青がメッシュ状に混じる砂色の髪と、白目が黒い金の目。
左半分をばっさり切り落としたような大胆な着物と、
むき出しの左腕と顔にある青い刺青のような模様が印象的だ。
その独特の容貌は、通りでいきなり術を使う非常識さとあいまって周り中の注目を集めていた。
「な・・・誰だ?」
あっけに取られたまま、我愛羅が間抜けな声でそれだけつぶやく。
ナルトも男をあっけにとられて見ていたが、狐炎だけは何故か怒った様子でにらみつける。
「・・・貴様、よくもやってくれたな。」
「は、今のなんてほんの挨拶程度だぜ。んな怒るところじゃねぇだろ?」
心外だと金の目の男は狐炎を見返す。
狐炎に睨まれて全く動じないとは、どういう神経だろうか。
ナルトはそう思って色々な意味であせった。
しかし狐炎がナルトを気にするわけも無く、相変わらず怒気のこもった眼差しで男を睨むだけだ。
「空破斬など、この際どうでもいい。
それより貴様、よくもこんなところでそんな事を・・・!!」
「へ?あ、ヒャーハッハッハ、やっちまったか~♪」
指摘されてやっと気づいたかと思えば、男はあっけらかんと大声で笑い飛ばす始末。
これにはナルトも我愛羅も開いた口がふさがらない。
「笑い事か、この大うつけ者め。いいから貴様もさっさと協力しろ!」
「へいへい・・・めんどくせぇな。さくっと殺っちまえばいいだろー?」
「騒ぎを起こすつもりはない。無駄口ならば後で叩け・・・この粗忽者が!」
狐炎は心底嫌そうにはき捨てると、すぐに詠唱に集中し始めた。
男もほぼ同時に詠唱を開始する。
「真(まこと)の記憶を捨て、偽りを真実と信じて生きるがいい。妖術・記憶違(たが)え!」
「汝、安息なる忘却の海にその想いを流せ。妖術・忘却の法!」
2人が発動させた妖術により、それぞれ色が違う淡い光の帯が何本も現れる。
光の帯は通りに居た人々達の上を滑るように流れていき、その記憶を消し去り、あるいは書き換えていった。
あっという間のことで、通りの混乱も嘘のように収まる。
「え、今の何だったんだってばよ??」
ナルトも我愛羅も、状況が分からずおろおろする。
今の術で記憶を操作したのだろうか。
「説明は後だ。いったん家に戻るぞ。」
心なしかまだ怒っている様子の狐炎は、ナルトを引きずるように足早に家に向かう。
そしてその後ろを、金の目の男も我愛羅を引きずってついていった。


―ナルトの家―
帰ってきて早々、狐炎は部屋の壁に手を当てて何かを確かめると、ふうっと息をついた。
「さて・・・結界も張ってあるし、もう良かろう。」
「いいから、本返せよてめぇ。」
それしか頭にないらしく、金の目の男は再び催促する。
あれだけのことをやらかしておきながら、かなりいい根性だ。
「本は緋王郷だ。後で部下に持ってこさせるから、それまで待て。
それよりも貴様、よくもあそこで派手な真似をしてくれたな・・・!」
「うっせぇな!体が動いちまったんだからしゃあねぇだろ。」
狐炎が先程のことを指摘すると、男は逆に食って掛かる。
すると狐炎は、わざとらしく大きなため息をついてこういった。
「全く直らぬな、その悪癖は。
行動前に5秒考えろ、短慮軽率の阿呆狸。」
「大きなお世話なんだよ、こぉんの小舅クソ狐!」
傍で聞いていても低レベルな、いや、そもそも高レベルの喧嘩があるのかどうかは謎だが、
話が進まなくなりそうなのでナルトは恐る恐る口を挟む。
「ケンカしてるとこ悪いけどさ・・・。そいつ、もしかして・・・ねぇ?」
出来れば当たってほしくはない予想。
当たらないでくれと願っても、現実は南極の風よりも冷たかった。
「オレ様は砂の守鶴様だが、そいつがどうかしたか~?」
『やっぱりーーーー!!!』
神はどうやら2人を見捨てていたらしい。
そう知ったナルトと我愛羅が、頭を抱えて異口同音に絶叫した。
その特徴的な目といい、乱暴さといい、技の無茶苦茶さといい、どこをとっても連想するのはただ一人だとは思っていた。
極めつけが、250年前というありえない単語だ。
ナルトに限って言えば、狐炎とのやり取りの様子から想像がついた。
どう見ても対等な関係としか思えなかったのである。
「何てことだ・・・!
夜な夜な人の睡眠妨害をするだけでは飽き足らず、とうとう俺の日常にまで・・・うぅ・・・。」
この世の不幸を全部磁石で吸い寄せてしまったような顔をして、我愛羅はひざをついてがっくりとうなだれる。
ちーん、という弔いの音まで聞こえてきそうだ。
「我愛羅、しっかりするってばよ!
ほら、そういう目にあってるのお前だけじゃないし・・・。」
「まさか・・・お前もか?」
ナルトの最後の言葉が引っかかり、我愛羅がはっとした表情で見返してくる。
「うん。あいつ見た目あんなだけど、正体は俺の中に封印されてる九尾なんだってばよ。」
「何?!そんなこと、俺に言ってよかったのか?」
そうそう人に話せることじゃないだろうと暗に我愛羅が言うが、
ナルトはどこかあきらめきったような笑顔でこういった。
目がどこか遠いところを見ているようだ。
「なんていうか・・・ほら、お互い化け物に困ってるし。日常侵食されちゃったし。」
「確かに、似たような立場だな・・・。」
全てを悟った我愛羅は、ナルトに深く同情する。
具体的にどんな日々を送る羽目になっているかはよくわからないが、このナルトの表情を見て大体わかった。
大分痛い目にあっている。間違いない。
「おいコラ、まゆなしパンダに金ドリアン。
黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。ザコ共の分際でな~に偉そうにほざいてやがる。
しみったれてホモってんじゃねぇよ。」
そしてその同病相哀れむ湿っぽいムードを、ものすごく乱暴に守鶴は破壊する。
口でも行動でも、破壊魔な事に変わりは無い。
「ま、まゆなし・・・パンダ?!」
「え、金ドリアンっておれのこと?!
ギャー、いきなり変なあだなつけられたってばよーー!!」
口が悪いキバにも言われたことないのにと、ナルトはショックを受ける。
化け物呼ばわりは昔腐るほどやられたが、2人ともこういう珍妙かつ情けないネーミングは初めてだ。
「相変わらずだな・・・お前のその言い草は。」
そしてこういうあだ名のセンスは昔かららしく、やると思ったというように狐炎があきれた視線をよこす。
予想済みなら止めて欲しかった。
「ヒャハハ、いいじゃねぇかわかりやすくて。」
「ヒョウタンと金ウニでも、ありだとは思うがな。」
「お前までそういうこと言うなってばよー!」
なんだかんだ言って、そういう方では狐炎をちょっと信じているらしい。
裏切られたという叫びが見え見えだ。
「どちらにしろ、言われたくはないな・・・。」
げんなりとした顔で我愛羅がぼそっとつぶやく。精神的にどっと疲れたようだ。
ともかく妙なあだ名の話からは離れようと、我愛羅はずっと聞きたかったことを聞くことにした。
「で、何で外に出てきたんだ?
ついでに、何であの時俺の意思を無視して完全体になろうとした?手短に答えてくれ。」
まるで取り調べのような尊大な聞き方だが、声が疲れているせいか何となく情けない雰囲気が漂う。
萎れた菜っ葉か何かのようだ。
「オメーが金ドリアン宛の手紙書いてた頃、火の国って言葉が引っかかってよ。
そういやあの金ドリアン、腹ん中に狐炎がいる気配したっけなー。
あ、そういやあいつに本貸しっぱだった!って具合に、思い出したんだよ。」
「それだけ?たったそれだけだったのか?
じゃあ、本が返ってきたら俺の中に戻るのか?」
せめてすぐに戻ってくれればと、我愛羅はいちるの望みをかけて問いただす。
だがここで、また運命の女神は彼らを見捨てた。
「はぁ?何勘違いしてんだよまゆなし。
せ~っかく出てきたんだから、シャバを満喫しまくるに決まってんだろ?」
「最悪だーーー!!」
我愛羅が、彼らしからぬほどの大音量で絶叫した。
壁の薄いアパートだから、結界がなければ外に筒抜けだっただろう。
隣にもし赤ちゃんがお住まいだったら、彼か彼女が泣き出して親が怒鳴り込んできたはずだ。
「こっちだって最悪だってばよ!
お前みたいな奴がその辺うろうろしてたら、木の葉は1週間後までに壊滅するってばよ!!
帰れ!お前だけ砂に帰れーーー!!!そんでもって二度――ぐぎゃ!」
お呼びでないと全身で主張してわめき散らすが、あっけなく守鶴に足で頭を押さえつけられた。
硬いフローリングはちょっと冷たく、そして痛い。世間の寒風がしみそうだ。
「うっせぇ、生意気こいてんじゃねぇよ。てめぇの立場をわきまえやがれ。」
「ぐぶぅ・・・あ、足は勘弁してくれってばよ・・・。」
臭かろうが臭くなかろうが、足で踏まれるのはかなりいただけない。
屈辱的以前に、体重をかけてぐりぐりされるとかなり痛かった。
確かに本性よりは遥かにマシだが、今の外見だって長身かつ筋肉質な成人男性。
当然体重だってそれなりに伴っている。
痛い、重い、つらい。救いはあぶら足でないことくらいしかなかった。
そろそろギブアップしたいくらいである。
むしろ、助けてほしいと言った方が正しいかもしれないが。
「守鶴、人の入れ物を勝手に踏むな。中身が出ると困るのでな。」
「そーいう問題?もーちょっと心配してくれってばよ~・・・。」
とりあえず狐炎がたしなめてくれたおかげで、足の下からは解放された。
いつもはともかく、今回は感謝しなければいけないだろう。
だが、ちょっと冷たい物言いにナルトは軽くいじけた。
「こいつにそういう情けを期待すんのは、お門違いだぜ?」
「・・・やっぱ?」
わかってはいたが肯定されると余計に悲しい。
しょせんその程度の存在かと思うと、むなしくすらなってきそうだ。
守鶴がそこにさらに追い討ちをかける。
「メスならともかく、オスはカスだし。」
「何それ?!」
「オスだけ山ほどいてもしゃあねぇけど、メスならガキ産めるだろ?」
堂々と言い切られて、ナルトも我愛羅もあごが落ちる。
あきれて二の句が継げないとはこの事かもしれない。
男尊女卑ならぬ女尊男卑。むしろそんな次元ではないかもしれないが。
「生々しいことを大声で言わないでくれ・・・。」
情けない声で我愛羅が弱々しくつっこむが、当の守鶴は当然黙殺する。
狐炎もため息をついた。
「別に理屈としては間違っていないが、それは貴様の価値観だろうが。」
「そこ肯定するとこなの?!
お前らの感覚って何?!野生ワールド?!弱肉強食で一角獣?!」
てっきりつっこんでくれるものだと思っていただけに、ナルトの衝撃は大きかった。
種族は妖魔でも、人間の常識を解すると信じていたというのに。
「落ち着けナルト!言いたいことは大体分かるが、言葉がめちゃくちゃだ!!」
言語野辺りがむちゃくちゃになっているナルトを、我愛羅は必死で正常に戻してやろうと躍起になる。
もはや一種の漫才と化しつつある2人を、混乱に陥れた張本人達は傍観者よろしく眺めていた。
「おい狐炎。あのガキ馬鹿すぎだろ。何語だよあれ、アリ語か?」
「仕方あるまい。しつけ損なったのだ。
もう少し早く外に意識を出せることを知っていれば、きっちりしつけたのだがな。」
「そりゃ、最大の失敗だな。」
狐炎の言葉に守鶴が深くうなずいて同意した。
もちろん、当のナルトは聞き捨てならない。
「人がパニクってるどさくさにまぎれて、何ものすごい勢いで馬鹿にしてんだってばよ!!」
「はぁ?事実しか言ってねぇし。」
「余計タチ悪いってばよボケーー!!」
ますます馬鹿にされてヒートアップしたナルトは、
ボケといった次の瞬間に床と激しい抱擁を交わすことになった。
「二度も言わせっ気か?ザコ助。」
「はひ(はい)・・・しゅびびゃふぇん(すみません)・・・。」
再び足蹴にされたナルトは早々に降伏した。
狐炎といい守鶴といい、妖魔に逆らうとろくなことがない。
縦社会に生きるしがない生物の宿命だろうか。
「ナルト・・・。」
「うぅ・・・そんな目で俺を見ないでくれってばよ。」
我愛羅の哀れみのまなざしが痛くて、ナルトは地の底まで落ちこんだ。
うっすら目尻ににじんだ涙が、たぶんしょっぱい。
「お前の負けん気の強さはよくわかるが、この場合はむしろ無謀だと思う。
悪いことは言わないから、思っていても口に出さない方がいい。」
「うっわー・・・お前がそういうとは思わなかったってばよ。」
もちろんナルト自身も、この2人に下手に逆らうとまずいことはわかっている。
だが、我愛羅の口からこんなセリフを聞くとは思わなかった。
あの木の葉崩しの時のイメージからは、想像もつかない。
「忍者たるもの、相手の実力と危険さは早く悟った方がいいぞ。
命がいくつあっても足りない。」
「あ、それ今の状況だとすっげー納得できるってばよ!」
忍者たるもの、勝てる状況と勝てない状況の見極めは肝心だ。まさに今の状況に即している名言である。
ただ1つ難点を言うならば、言ったタイミングだけは悪かった。
2人の背後から、どすの利いた冷たいセリフが降ってくる。
「おい、てめぇら。まとめてす巻きにして海に流してやろうか?」
『勘弁して下さい。』
その瞬間。
男というか、人としてのプライドは紙より軽くなった。


―1時間半後―
狐炎が召喚した自分の部下に取りに行かせた本は、さっさと守鶴に返還された。
あまりにスムーズに手元に戻ってきたので、彼も少し驚いたようだ。
「・・・お、時間経ってる割に早いじゃねぇか。」
「貴様と違って、わしの書庫は整理されているのでな。」
本を持ってきた部下を帰してから、彼はそっけない返事をよこす。
先日、ナルトの修行部屋の汚さにぶち切れた事件があったのだが、それだけに私物の整理はかなりきっちりしているようだ。
書庫を持っているということは驚きだが。
「ていうか、そーいうのあるんだお前んち・・・。」
「何がおかしい?」
「・・・えーっと・・・妖魔も本読むんだな~って。
ほら、お前らってば正体あんなんだし、全然イメージ無くってさ。」
変なものを見る目で見られて、ナルトはあわてて言葉を付け足す。
もちろん嘘はついていない。
あんな化け物の姿から、本を読むという行動を想像する方が難しい。
「読むに決まってんだろ?書く奴もいるし。」
「い、いるのか・・・。ところでお前、さっき引っ込む気はないといったよな?
もうあきらめたからその事は置いておくが、まさか本名でうろつくわけじゃないだろう?
どう呼んだらいい?」
ナルトの素直な観想を鼻で笑う守鶴にあきれつつも、我愛羅は彼に質問した。
これからずっと出ずっぱりのつもりなら、偽名が無いと不都合だ。
「そーだな~・・・錬空紫電でいいぜ。」
「そうか。」
「その名字、どっかで聞いた気がするってばよ・・・。」
妙に下の名前は格好良さげな響きだが、上の名前が引っかかる。
今適当につけたのかもしれないが、記憶のすみに引っかかる感じは否定できない。
「お?馬鹿のクセに鋭いじゃねぇか。どっからとったか当ててみな。」
にやりと守鶴が意地の悪い笑みを浮かべる。
思い出せないと馬鹿にされそうな気がして、ナルトは素早く検索を検索した。
「・・・え~っと・・・確かバトル中に・・・って、思い出した!
技の名前じゃんそれってば!」
「いくら偽名とはいっても・・・結構、いい加減な命名だな・・・。」
「うっせぇな、こまけぇ事つっこむんじゃねぇ。ケツの穴小せぇぞ~。」
そういう問題だろうかとナルトも我愛羅も思うが、あえてつっこまなかった。
これ以上余計なことを言って、殴られるのはごめんこうむりたい。
もっとも、名前の話題自体どうでもいいと考える御仁もいる。
「どうでもいい。用が済んだのなら、さっさと出て行け。」
「てめぇ・・・!おい、それが久々にあった知り合いに対する態度かよ。」
「会いたくもない知り合いの間違いだな。」
「いちいち腹立つなこんのやろぉ・・・!」
しゃくに障る物言いに、守鶴の短い導火線に早くも火がつき始めたのか。
部屋の空気がだんだん不穏な色を帯び始めた。
ナルトの顔から血の気が引く。
「ギャー!バトルんなら里の外行ってやってくれってばよー!
アパート壊したら、火影の前に借金王になるーー!!借キングーーー!!」
「よーし、壊してやろ~っと。」
ナルトの必死の訴えが逆効果になったのか、守鶴は実に楽しそうに笑って指を鳴らす。
バキボキと骨が鳴る音が、これから柱や壁から出てくる音に聞こえるのは気のせいだろうか。
ナルトの血の気は引く一方だ。
「やーめーてー!!」
「冗談に決まってんだろ。やると小舅狐がうるさそうだしよ。」
「よくわかっているな。」
守鶴にフンと鼻で笑われ、ナルトは見事に肩透かしを食らった。
必死だった分反動は大きい。
「心臓に悪い冗談なんかいらないってばよ!!」
本当に守鶴が壊す気だったら、本人が言うようにまず狐炎が黙っていないのだが、そこまでナルトの頭は回らない。
彼のクセやパターンをつかんでいる狐炎の冷静さが、ナルトには無性に腹ただしかった。
「ま、まあ落ち着けナルト。」
それから我愛羅は、言うだけ無駄だとナルトに耳打ちする。
もちろん聞かれないように、最小音量で。しかし。
「聞こえてんだよ、まゆなしパンダ。」
『地獄耳だーー!!』
そもそも至近距離でやること自体間違っているのだが、人間にテレパシーという便利な力はないのでしょうがない。
とはいえ、最小音量の会話の中身を正確に拾った耳は一体何で出来ているのだろう。
「ちなみに、わしにも聞こえたぞ。」
「えぇ~?!う~・・・妖魔の耳ってどうなってるんだってばよ・・・。」
考えたところでわかるわけも無いが、そう言わずにはいられない。
それが人の心というものだ。
「言うなナルト。人間の常識で量った方が馬鹿を見る。」
「あ~、そうかも。
もしかして、こっから火の国の大名の城も見えたりして~・・・。」
ここからどのくらい離れているのかはわからないが、かなり遠そうだ。
冬の晴れた日に北側の国境に行けば雄大な山脈が見えるとは聞くが、ここから火の国の城が見えたという話は聞かない。
当然冗談のつもりで、2人には馬鹿にされるとナルトは踏んでいたが。
「間に山さえなければな。」
「余裕だぜ。」
もはやどこまで冗談か本気か悟れない、さも当然といった2人の表情と声。
最近はいつも妖魔に驚かされるナルトだが、今回のインパクトはその中でもなかなかのものだった。
ずざざっと一気に後ずさる。
「わーっ!冗談だったのにさり気に肯定されちゃったってばよ!!」
「怖くてうかつな予想も出来ないな・・・。」
得体の知れない恐怖のようなものを感じて、さすがの我愛羅もひきつる口元を隠せない。
一方ナルトは早くも衝撃から立ち直り、仰天事実をプラスの方に考えた。
「あ、でもすっげー便利そうだってばよ。チャクラなしで白眼みたいだし。」
「それを言うなら千里眼じゃないのか?
邪魔物があったら見えないって今言ってたじゃないか。」
「あ~、そっかー。おれってば忘れてた。」
大体、自分がまね出来ないならしょうがないかと、実に残念そうにナルトはぼやいている。
それを傍で眺める妖魔2人はしらけ気味だ。
馬鹿すぎて付き合ってられないと、空気が語っている。
「おい狐炎。さっきもいったけど、マジであいつアホだな。
まゆなしの方がまだ自分のへぼさわかってんじゃねぇの?」
「まぁ、馬鹿にはつける薬も無いからな。
確かにお前のところの方のがまだましだ。」
「ま~、どっちもおちょくりがいはあると思うけどよ。」
「それは同感だな。」
それから狐炎は退屈しのぎに、作りかけていた木彫りの細工物を手にとって削り始めた。
守鶴は守鶴で、返ってきたばかりの本を久しぶりだからか読み始める。
ナルトと我愛羅は、2人そっちのけでだんだん話もそれ始める。
平和とは言いがたい、密度が濃い上に騒がしすぎるこの日。
妖魔が混ざった非日常すれすれの日常は、今までが前座としか思えないほど大荒れになる、かもしれない。


後書き
ナルトと狐炎の出会いに続き、こちらは守鶴との遭遇です。
我愛羅のオーバーアクションはギャグだから・・・ということで。
妖魔、特に守鶴の傍若無人さは相変わらずですが。
本編でナルトが妖魔達に対してずいぶん大人しいのも、これら番外編の頃に痛い目を見たからです。
一方の我愛羅は、対守鶴に限って不屈の精神ですが・・・。
この話の後、我愛羅が守鶴と一緒に宿に戻り、事態を知った兄弟とバキが青くなるのは別の話。
ついでに最後の遠くの城まで見えると言う話ですが、もちろん人間をからかっただけです。
人間よりも目がいいことは確かですが、実際どこまで見えるかは不明という事でお願いします。

また、1ヶ月ほどお待たせしている14話ですが、直に投稿出来る目処が立ちました。
ただいま読み返しと訂正中なので、今しばしお待ち下さい。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―14話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2010/04/21 23:40
―14話・白昼の暗い影―

「はぁ・・・ホモショタ・・・。」
「もうやだ・・・ホモショタ・・・。」
一部でどんよりとよどんだ部屋の空気。
一時の大騒ぎこそ止んだものの、未だに男人柱力達はホモショタの衝撃で撃沈していた。
「アンタ達、いい加減しつこい。
どーせ言ってたってどうにもなんないんだし、さっさと諦めればー?」
流れにすっかり飽き飽きしてしまったフウは、冷や水よりも冷たい言葉を浴びせてくる。
完全に対象外の余裕がある彼女にしてみれば、いつまでもうじうじとしている男衆はうざったい以外の何者でもない。
「だーけーどー・・・ううう。」
「と、とにかく気を変えよう。次は結局どこへ探しに行くつもりなんだ?」
このままでは埒が明かないので、我愛羅は自分の精神的ダメージを我慢して違う話を切り出す。
「この前も言ったが、岩隠れはだめじゃ。あそこはちょっと堅すぎるぞい。」
「じゃあ霧もだめじゃないの?あそこもすっごい閉鎖的って聞いたけど。」
フウの意見はあくまで噂程度の物だが、間違いではない。
岩の里の、国民にも厳しい警備ほどではないかも知れないが、他国の里と交流が少ない霧の里も潜入が難しい場所だろう。
「となると雷か・・・。それなら頼みたいことがある。」
「何?」
おもむろに我愛羅が懐を探り、一通の書状を取り出してナルトに渡す。
表書きが何もないので、覗き込んできた老紫共々彼は首をひねった。
「雲隠れに、指名手配犯をうちで捕まえたという知らせを届けて欲しい。」
内容を告げた途端、2人の顔からやる気が失せた。
「なんじゃ、パシリか。」
「すごいDランクの臭いだってばよ・・・。」
「ほらほら、嫌そうな顔しないの~。よく考えようねー。」
「何を?」
磊狢にのんきな調子で再考を促されても、ナルトはまるでその気になれず怪訝そうだ。
放っておいても時間の無駄と見たのか、守鶴がすぐにこう付け足す。
「風影直々のパシリなら、こっちで身元を保証するから堂々と里に入れるってこった。」
「あ、なるほど!すげぇ我愛羅、頭いいってばよ!」
これ位自分で気付けと、狐炎が冷たい目で見ていることにも気付かず、手のひらを返して親友を絶賛する。
もっともこれくらいで気を悪くするほど幸い我愛羅は小さくないので、少々の苦笑いで片付けた。
「いや、そう言われる程じゃないぞ。こっちは直接動けないから、せめてもの職権濫用だ。
それから、これが身分証になる。」
「これは?」
今度は妙に格調高い質感の書状が渡された。
のし袋のように上下を折った上包みの表には、篆書体の印鑑が押されている。
一見すると、こちらが書状本体に見える程立派な風格だ。
「風影の使いの証明書だ。偽造困難なものだから、特にしつこく問いただされることはない。」
変化の術なんてものがある業界だから、使者の証明書はその分手の込んだものになる。
製法はさておき、信用度は抜群だ。
「へー、便利なもんがあるんだな~。」
「アタシも初めて見た。」
「公式の使者など、お前達の年ではまず無縁だからな。
今浮かれるのは構わぬが、向こうではそれらしく振る舞ってもらうぞ。」
委託された民間人扱いと言えども、雇い主の顔に泥を塗るような真似は許されない。
多少は止むを得ないが、狐炎はきっちりと釘を刺しておいた。
「でもさ、おれ達に頼んで大丈夫なわけ?こういうのって、普通さー・・・。」
「心配はいらない。この程度の連絡なら、専門の飛脚に頼むのも普通だ。
俺も今回はそうしようと思ってたしな。」
里間の連絡ではナルトが指摘するように、一般的には忍者を使者に立てる。
しかし急を要さない今回のような用事の場合、役所の文書を運ぶ専門の飛脚に頼むこともしばしばある。
特に現在の砂の里のように雑務に割く人員の余裕がない里は、
未熟な下忍に任せるよりも確実と、そういった外部のベテランに委託するのだ。
「ふーん・・・そういうもんなんだ。」
「わしの若い頃にはなかった話だのー。」
「何十年も経てば、そりゃ変わるでしょー。」
しみじみと呟く老紫に、磊狢がからかい半分に言った。
大戦真っ最中の老紫の青春と比較的平和な現在を比べたら、事情は変わって当たり前だ。
そこいら中戦場だらけという事もないし、よほど治安の悪い場所の通行でもなければそこまで戦闘力は要求されない。
「ふん、数十年が一瞬の奴に言われたくないわい!」
「・・・それはない。」
鼠蛟が首を横に振る。いくら数千歳でも、10年単位が一瞬と言う事はない。
長命な妖魔の世界だって、100年かからず子供は大人になるのだから。



一時は甚だしく脱線したものの、次の目的地への目処も立った。
もう話し合いは十分という事で、仲間内の会議はお開きだ。
ちらほらと部屋に戻り始めるメンバーも出始めた頃、ナルトは我愛羅に声をかけた。
「あのさ、ちょっと時間ある?」
「ああ、大丈夫だ。今日はもう仕事がないからな。」
「だからって、いつまでも話し込むんじゃねぇぞ。
オレ様は早いところ木の葉に戻らねぇと、扇子娘がうるせぇんだからな。」
「あれ?お前ってば出張中だったわけ?」
「そうだよ。そこの鳥の知らせを子分が取り次いで、わざわざ木の葉まで呼びに来たんだぜ?
こっちは暇じゃねぇんだよ。」
出先の仕事を抜け出してやってきている守鶴は、この後の予定が詰まっている。
夜だからましと言っても、遅いと一緒に木の葉に出かけているテマリがいい顔をしないのは当然だろう。
「じゃあ、遥地翔の符をくれ。」
分かっていても水を差されてカチンときた我愛羅は、わざと図々しく要求した。
だが、守鶴は露骨に嫌そうな顔をする。
「やなこった。話位、とっとと済ませてきやがれ。どうせ金ドリアンも明日は早いんだろ?」
「そりゃそうだけど、久しぶりに会ったんだってばよ?
もうちょっと気を使ったりしてくんないわけ?」
何しろ2人が最後に顔を合わせたのは、もうずいぶんと前の話だ。
積もる話の一つや二つと、そこは察して気を利かせるのが定石ではないだろうか。
しかし極真っ当なナルトの訴えは、あえなく鼻で笑われてしまう。
「あいにく、むさい野郎如きにかける情けはねぇんだよ。」
(ひっでー・・・予想してたけどさ。)
言うに事欠いてこの言い草。ぼそっと呟くナルトの顔はげんなりとしていた。
そこに、我愛羅がこそこそと横から耳打ちしてくる。
(ちなみに同じ事を母さんが頼むと、態度が180度変わるんだぞ。
テマリでも90度マシだ。腹が立つだろう。)
(分かりやすすぎるってばよ。)
流石は女尊男卑を地で行く男。彼は親友の説明に大いに納得した。
「なぁオメーら、下の川に豪快に飛び込みしたくはねぇか?」
「殺人事件は、やめてくれ。」
一瞬不穏なお約束に発展しかけたが、幸い鼠蛟の制止により2人は命拾いした。


何とか制裁されずに済んだ2人は、崖に突き出したバルコニーのような場所にやってきた。
ろくな柵もないのは、もしかすると住人がここに直接着地するためかも知れない。
見晴らしは抜群に良く、美しい夜空と周囲の警告の景観が同時に楽しめる。積もる話にはうってつけだ。
「はーぁ・・・。我愛羅、おれ、お前に謝った方がいいかな?」
「何故だ?」
「おれの事でさ、そっちにも色々迷惑かかってたりしたら、悪い事してるよなーって思ってさ。
確か行ってるんでしょ?指名手配。」
狐炎が旅立って間もない頃にそんなように言っていた気がする。
木の葉の里と同盟を結ぶ砂の里に要請が行くことは、ナルトも大体分かっていた。
「そんな事か。気にするな、今回の件はお前が悪い訳じゃない。
心ない噂と行き違いのせいじゃないか。」
「サンキュー。ちょっと気が楽になったってばよ。」
気がかりが1つ消えて、ほっとした笑みがこぼれる。例え気遣いから出た一言だったとしても、ナルトは嬉しかった。
「俺の方こそ、ろくな手助けも出来ずにすまない。
本当なら、一緒について行きたいくらいなんだがな・・・。そうも行かない。」
本人にとっても想定外の出世は、友人の危機においてはまさに足かせとしか感じられない。
もちろん所属する里が違う段階で出来る事なんて限られるのだが、
人を使う身と使われる身では、当然立場の重さが違うし、自由度は比較にならない。
就任後日が浅いだけに長の利点も少ない我愛羅にとってはなおさらだ。
「風影様じゃしょうがないってば。それに、我愛羅だから出来ることもあるって!
さっきの身分証とかさ、ああいうのは偉くないと用意出来ないじゃん。
おれが今使ってる奴だってさ、あいつが偉いから作ってもらえたもんだし。」
現在所持する2つの身分証を引き合いに出しながら、すまなそうにする彼の背中を叩いて励ます。
緋王郷で狐炎が作らせた身分証も、 我愛羅が渡した風影の使者の証明書も、彼らが特権階級だからこそ簡単に手に出来るものだ。
例えばナルトのように下忍だったら、盗みでもしなければ手に入れようが無い。
「それもそうだったな。」
「だろ?」
「ああ。悩むのは後回しだ。俺は俺なりに、お前達のために後ろで全力を尽くす。」
「おう、ばっちり頼むってばよ。そうしてくれると、おれ達も安心して旅できるしさ!」
不安定な身分だからこそ、仲間は居るだけでありがたい。
少なくともナルトは、彼を大変な時になかなか来てもくれない薄情者だとか、そんな風に思ったことは一度もなかった。
「そうか。だが、くれぐれも無茶はするな。
何か困った事があったら、すぐにこっちに相談しろ。」
「分かった。我愛羅こそ気をつけろってばよ。
里に居るってバレバレだし有名だし、フウ以上に目立つんだからさ。」
何しろ暁は彼女をさらうために、直接滝隠れの里を襲ってきたのだ。
最高の警備体制の我愛羅でさえ、絶対安全ではない。彼らは、いつどこで襲ってくるかも分からないのだ。
「心配するな。砂漠で戦うなら俺には地の利がある。遅れは取らない。」
「あはは、そうだったな!んじゃ、返り討ちにしてやるのを期待しとくってばよ!」
「フッ、任せておけ。」
明るく笑い飛ばす親友につられて、我愛羅も口元を緩める。
折から弱く吹いていた風が、少し強く吹き付けて赤い短髪と上着の長いすそを揺らす。
「風が出てきたな、戻るか?」
「あー、そうするかな。何かさ、ここ突風吹いたら落っこちそうだし。
ありそうだと思わない?」
「・・・位置によっては、かなりありそうだな。」
正面の柵が全く無い箇所を見ながら、ナルトの思いつきに同意する。
うっかりぼさっとしているところを煽られたら、崖に真っ逆さまに違いない。
「だろ?縁起でもないってばよ。」
「落ちても助けてくれなさそうだからな。特にうちのエロ狸は。」
「うちのクソ狐もね。」
どこで聞かれているかもわからないというのに、揃って陰口を叩きながら2人は元来た通路に戻っていった。


―木の葉の里・火影邸―
ナルト達が鼠蛟の本拠地で一夜を明かした頃、木の葉の里はやや雲が多い空模様。
いかにもこれから天気が崩れるという気配が漂う。
そんなすっきりしない天気の日に、テマリは数人規模の使者の1人として木の葉の里で仕事に勤しんでいた。
今回も様々な用事があってやってきているわけだが、そのうちのひとつは、ナルトの件を絡めて綱手と直接話をすることだ。
木の葉から要請を受けて砂も協力しているので、その報告も兼ねている。
「――という事で、こちらからは以上となります。・・・ところで火影様、お顔の色が優れませんね。」
「ああ・・・。色々と、浮かない事があるからな。」
「ナルトの事ですか?」
「そうだ。それとは別に、まだ裏が取れていないが滝隠れでも騒動が起きたらしい。
他国の工作か、暁か。後者なら、確実に人柱力絡みだな。砂には伝わっているか?」
ここにも七尾の人柱力の事が伝わったなと、テマリは密かに悟る。
ちなみに彼女はその事はもう、守鶴を通じて知らされていた。
「はい。それを受け、自里の警護強化と他国の動きに警戒するようにと、殿から通達が出ています。」
「そうか。まあ、そこはこちらも似たようなものだな。
しかし就任すぐにこれだけごたついて、風影殿も大変だろう。」
「そうですね、弟はまだまだ不慣れですから。
それでも、周りの方々の支えもありますから、きっと乗り切れるだろうと信じています。」
綱手のねぎらいの言葉をありがたく微笑みで受け取って、前向きに返す。
中ではもちろん色々とあるが、我愛羅には誰よりも経験豊富な『先輩』がついている。
「そうか、風影殿は良い部下に恵まれたな・・・。」
やや弱々しい笑みを浮かべて、綱手は目を伏せた。
「火影様?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。」
「・・・。」
妙に暗い綱手の表情が気になるが、他国の里の事情に立ち入りは出来ない。
もっとも原因の察しはつくので、聞けたとしてもいちいち聞きだすこともないだろうと考えた。
「長々とすまなかった。下がっていいよ。」
「はい、では失礼致します。・・・くれぐれもご自愛下さい。」
一言言い残し、綱手の前を辞した。
用が済んだテマリは、すぐに階段を下りて1階にある忍者の詰め所に向かう。
適当な頃合いを見計らってここで待ち合わせようと、朝に守鶴と話してあるのだ。
部屋の中にまだ彼の姿はないが、ナルトの同期であり、テマリの顔なじみである新米中忍達が詰めていた。
「あれ、お前またこっち来てたのか?」
入ってきたテマリの顔を見て、中忍ベストを着た茶せんまげの少年が驚いた顔をした。
中忍試験の件でよく顔を合わせるシカマルだ。
真向かいにはツンツンした茶髪の少年・キバ。その左隣には名前とおそろいの薄いピンクの髪の少女・サクラも居る。
「ああ。たまたますぐに動ける人間に当たったからな。」
空いている端の方の席に腰掛けながら返事をする。
「この間打ち合わせがあったばかりなのに、相変わらず忙しいんですね。」
前回木の葉から里に戻ってから、まだ間もないといっていい位なのにと思って、サクラはそういった。
「ったく、風影の姉ちゃんってのも大変だな。体壊すなよ?」
「ありがとう、キバ。ま、これくらいで参ってるようじゃ、砂忍は務まらないさ。」
里に帰れば、若くても上忍の1人として大仕事が毎日のように舞い込んでくる。
下忍の指導担当こそないが、弟の補佐も勤めるから毎日が激務だ。
これに耐えられなければやっていけないとはいえ、彼らに心配されるのも無理なからぬ生活ではある。
軽く会話を交わしたところで、待ち人がやってきた気配がした。
「おーい扇子娘、用事終わったか?」
「ちょうどいいところに。ところで、どこ行ってたんだ?」
「その辺ぶらついてたんだよ。こっちは退屈なんでな。」
「はー・・・いいよなあんたのんきで。」
シカマルが嫌味っぽく聞こえるボヤキをもらす。うんうんと、キバも同調してうなずいた。
もっとも守鶴がこの程度で意に介するわけは無い。
「暇が欲しけりゃ、オレ様くらい有能になるんだな。」
「そうじゃないっすよ。」
「そうそう、何たってナルトのことが・・・。」
よこされた返事に怒る調子ではない。里に居ない友人を思って、2人ともがっくり肩を落とした。
サクラも小さくため息をついている。
小さくなった背中は気の毒なものだが、テマリの目には男2人の様子が何とも情けなく映った。
「まったく、お前達がそんな事でどうする!落ち込んでたってナルトは帰ってこないぞ。」
「わかってるよ、んなこと!ほんとならおれらだって!!」
「こら、やめなさい!」
食って掛かろうとしたキバの肩を止め、サクラが一喝した。
はっとした後に彼は頭が冷えたらしく、座り直してまた暗い顔になる。
「・・サクラ。」
「ごめんなさい。テマリさん、紫電さん。
2人ともナルトを心配してるのに、捜索隊にも参加させてもらえないから・・・イライラしてるだけなんです。」
「いや、こっちこそこいつが悪かったな。オメーも肩身が狭くて大変だろ。」
「大丈夫です。それよりお2人とも、この後暇ならちょっとご一緒してもらっていいですか?」
「ああ、構わないぞ。どこに行く?」
幸い今日は、この後に会議の予定などは入っていない。
夕方頃までなら自由になるので、テマリは快諾した。
「この邸内なんですけど、プライベートな話にぴったりなところです。」


サクラに案内されたのは、彼女とシズネが任されている研究室だった。
「こんなところに私達を入れていいのか?」
「私が入れる分には大丈夫ですよ。それに、どうせ最近はほとんど使ってませんから。
あ、ここにかけてください。」
医療忍者しか入れないこの部屋だが、最近使用頻度が減っていて、丸一日使われないことも珍しくない。
サクラは手近な机から椅子を2つ引っ張り出してきて、2人に席を勧める。
「ありがとう。ところで、何か聞きたいことでもあるんだろう?」
「ええ、そうです。」
部屋の隅にある休憩用の電気ポットやコップが用意されたスペースで、彼女は仕度しながらテマリに答えた。
「ナルトのことなのか?」
「・・・はい。」
ポットの湯で入れた茶を出してから自分も席に着くと、サクラは顔を曇らせてうつむく。
そうだろうと考えていたので、テマリも守鶴も意外とは思わなかった。
「だって、おかしいじゃないですか。
あのナルトが・・・封印が解けかかってるとか、里を裏切って逃げ出したとか。」
「オメーは詳しく聞かされてねぇのか?」
「本当の事は、もちろん綱手様から聞いてます!
でも・・・なんで里の中であんな話になったのか、理不尽で。
情報の出所も分からないままでも、皆信じちゃってて・・・。ナルトが里を裏切るわけないのに。」
はぁっと、深いため息が漏れる。
彼の事で心労が絶えないのだろう、部屋が少し暗いせいもあるが、彼女の顔色は冴えないように見えた。
「挙句の果てに、暗部から追い忍が出ることまで決まって・・・。
まるで犯罪者扱いです。・・・あ、すみません。こんな愚痴言って。」
「いや、いいさ。それで?」
詫びるサクラにそう言って、続きを促す。
わざわざ2人をこんな所に呼んだのだから、他にも伝えたいことがあるはずだろう。
「すみません。私が聞きたいのは、ナルトと一緒に旅に出たっきりの狐炎さんのことです。
紫電さん、ご存知ありませんか?お知り合いですよね?」
「知り合いっつったって、こっちはあんまり砂から離れねぇしな。
ただ死んだって噂は聞かねぇから、多分金ドリアンを探してんだろ。」
「そうですか・・・。」
耳の後ろをかきながら答える守鶴の返事に、サクラは落胆の色を隠さずに居る。
テマリには少し気の毒に見える光景だが、本当の居場所を教えるわけに行かないから仕方がない。
「彼が手がかりになると思ったのか?」
確認のためにテマリからそうたずねると、やはりサクラはうなずいた。
「はい。きっと、狐炎さんも心配してるはずなんです。
だから、私たちナルトの同期と、協力出来ないかって・・・。」
「そりゃ無理だ。もしオメーらより先に見つけたって連絡の一本もよこさねぇよ。たとえ、知り合いのオメーらでもな。
ついでに、自分の行方もくらましちまうだろうな。」
「・・・。」
彼女が言い終わるか終わらないかの内に守鶴が浴びせた言葉は、冷たいようだが現実だ。
ありえないが、仮にサクラが想定している状況であったとしても、狐炎は決して木の葉に与しないだろう。
木の葉はナルトにとって利益がないとすぐに判断し、むしろ出し抜こうと注力する。
「冷血狐は緋王郷の人間だ。祭神の敵に情報なんてくれてやるわけねぇ。
会ったら会ったで、邪魔するならオメーが相手だろうが容赦なく切り捨てるぜ。
接触しようなんて馬鹿な考えは持たねぇ方が、長生きできるぞ。」
「紫電、その言い方はあんまりだ。」
「酷かろうがしょうがねぇ。あいつはそういう野郎だ。
顔を出したら最後、自分の動きをもらさねぇようにオメーらを消しにかかる。」
以前会った時は特に何も言っていなかったが、長年の付き合いだから大体分かる。
彼は冷徹かつ合理的で、必要とあらば非情な判断も下す男だ。顔見知りであっても切り捨てることに躊躇しない。
とはいえ先程もほのめかしたように、実際には遭遇自体を全力で避けるだろう。
状況によっては殺す方が分が悪くなるため、記憶消去も選択肢に入れてくるだろうが、その可能性をわざと守鶴は教えなかった。
「そんな!私達は、ナルトの敵じゃないのにですか?!
昔、私達にもよくしてくれたのに・・・。」
サクラは声を荒げた。
もう2年以上前になるが、ナルトの家に同居していた頃、彼女も狐炎とそれなりに親しくしていた。
当然悪い対応をされた覚えもなく、いくら彼の知り合いの言葉と言ってもにわかには信じがたいことだ。
「そりゃ、そん時は敵じゃなかったからな。
いいか?もう一度だけ言っておくぜ。もしあいつが金ドリアンと一緒に居たら、絶対近寄んじゃねぇ。
さっさと逃げて、何も見なかった事にしろ。見つかりゃ最後、オメーの可愛い顔が生首になって転がるぜ。
そうなったら大事なダチは、どんな顔するだろうなぁ?」
「・・・。」
血生臭さすら漂う文句は、忠告を通り越した空気を持つ。
ちらっと横目で確認した守鶴の横顔に特筆するようなものは無かったが、
テマリの目にはサクラをせせら笑っているように見えた。
愕然としている彼女に対し、テマリは次の自分の言葉が救いにはならない事を承知で口を開く。
「・・・サクラ、こいつの言っている事はかなり大げさに聞こえるかもしれない。
でも、私やお前より狐炎殿との付き合いが長い奴がこう言ってるんだ。
昔の木の葉と砂を思い出してみろ。分かるだろう?その逆だ。」
木の葉崩しで一度敵対した両里は、その後双方の思惑や紆余曲折によりあっさりと関係修復に至った。
今では当時の事なんてすっかりなかったかのように、協力体制すら敷いている。
良くも悪くも、関係は状況でいくらでもひっくり返るものだ。
―利害の不一致だけでそこまで出来るなんて・・・。―
二度三度言葉を変えて諭されても、サクラはやはり現状をすんなりとは飲み込めない。
九尾を祭神とする緋王郷が木の葉と対立している事は、彼女だって知っている。
木の葉の忍者の立ち入りさえ拒むかの都の民であれば、確かに祭神を宿すナルトに危害を加える里の人間を敵視するのは当然だ。
しかし、短くても会話を交わし同じ町で暮らした相手に対して、当然のように殺す選択肢を設ける神経は理解しがたかった。
「忍者だけじゃない。たとえ一般人でもそういう手合いは居る。
たまたま、ナルトの親戚がそういうタイプというだけだ。」
表向き一般人という事も納得を妨げているのではと考え、テマリはさらに言葉を足した。
だがサクラの沈鬱な面持ちには、目だった変化はなかった。


サクラと別れて火影邸を後にした後、2人は久しぶりにナルトが住んでいた家の近所へ訪れた。
テマリが現状を気にして誘ったのだが、そこで一見穏やかな空気に紛れたとげに驚かされる事となる。
「何だこれは・・・。」
「ひでぇな。」
裏路地の入り口に落ちていた、真っ赤なペンで『九尾は死ね』と書かれて破かれた紙。
周りを見ると、壁にまで似たような罵詈雑言が書き連ねられている。
中には、『売国奴』という文言もあった。どうも周り中が見て見ぬ振りと言った様子で、消そうとした跡すらない。
心なしか治安まで悪くなったように見えた。
「まるで昔のうちの里みたいだ。前はこんな事無かったのに。」
かつて、我愛羅に対するそしりが公然と溢れかえっていた時期を思い出し、テマリは眉をしかめた。
悪口雑言が公然とまかり通ってる光景は、見ていて気分のいいものではない。
「金ドリアンへの不信がそれだけ大きいんだろ。今となっちゃ、ただの反乱分子扱いだしよ。
結局、危険物の扱いなんざどこもそんなもんだ。」
「これじゃ、サクラが嘆くわけだ。」
我愛羅が風影に就任した直後に会った時、彼女はいつかナルトもこんな風にと胸を膨らませていた。
だから、一時期は受け入れかけていた里人の変化に衝撃を受けている。
もう里を普通に歩くだけでも辛いのではないだろうか。その心中を思うと、テマリはため息しか出ない。
「どうしてここまで卑しい真似ができるんだ。酷すぎる。」
「しょせん身内じゃねぇってんだろ。」
「だから、どうにでも出来るって事か・・・。」
守鶴が吐き捨てた言葉が、恐らく実態なのだろう。
もしかしたら少しずつ認め始めていた時期というのも、単に思ったより危険ではないのかもと考えていただけなのかもしれない。
少なくとも大人はそうだろう。人柱力への恐怖というものは、そう簡単に拭い去れるものではない。
そして恐怖を再確認すると、挽回することは一層困難になる。
「・・・ところでお前、何で忠告をしたんだ?」
足は止めずに、さっきのサクラとのやり取りを思い出して話を振る。
別に忠告する義理はどこにもないのに、彼にしてはずいぶん親切だった。
「オレ様はそこまで鬼じゃねぇよ。気持ちは分かるしな。」
「その割に脅迫じみてたなぁ。」
「仲間思いの奴ってのは、ちょっとやそっとの脅しじゃびびらねぇからな。
つっついたら死ぬぞって言うくらいでも足りねぇ位だ。」
「なるほど。んー、まあ・・・彼女は馬鹿じゃないし、あれで考えるだろうな。」
やはり、それが狙いでナルトの事をちらつかせて脅したようだ。
「だろ?」
我が意を得たりと、守鶴はたちの悪い笑みを口元に浮かべる。
当ててもあまり嬉しくなれない反応だ。
「でも、女の子相手にはもう少し優しく言ったっていいんじゃないか?
相手はもうそろそろお年頃だぞ?」
「ん?優しくしたじゃねぇか。あぶねぇところには近寄るなって、ちゃんと教えたぜ?」
「ふーん、あれでか。道理で私にもそんなに優しくないはずだ。」
からかいとやっかみ半分にそう言ってやったら、彼はいきなりテマリの耳元に顔を近づけてきた。
(そんなに優しくして欲しけりゃ、さっさとオメーだけの下僕でもこしらえるんだな。)
「うわーっ!馬鹿っ、耳に息を吹きかけるな!気持ち悪い!!」
わざと一段落とした声に、耳たぶにかかる吐息。ぞわっと全身に鳥肌が立って、慌てて飛びのく。
「耳打ちしただけでうっせぇぞ、扇子娘。」
「我愛羅じゃないが、お前がそういう事をするといちいちいやらしい!!」
声に妙な色気なんか出すものだから、不健全な気配がぷんぷんだ。
これが口説き文句で、相手が普通の女子なら腰砕けに違いない。
「お前、絶対これで落としたな?」
誰をとは言わない。往来では言えないし、そもそも必要も無かった。
「何だ、オメーも耳が弱かったのか?」
親子って似んのなと、そこだけ小声で守鶴が呟く。
元々髪と目の色は母親の加流羅とお揃いだが、こんな小ネタじみたところまで似るものなのかと勝手に決めて納得していた。
「誰だって、いきなりあんなことされれば驚くに決まってる!
まったく、勝手に人の弱点を耳にするな。」
(へぇ、じゃあ確かめてもいいよな?)
テマリの背筋に再度悪寒が走った。
「やめろ~~~!!しつこいとセクハラで訴えるぞ?!」
「もうやんねぇよ。やるんならやっぱ・・・なぁ。」
反撃の拳を受け流しつつ、意味深長な口ぶりでにやりと守鶴が笑った。
―・・・帰ったら、母上に逃げるように言っておこうかな。―
不健全なあんな事やそんな事を企んでいるに違いない。
続きが簡単に予想できたテマリは、胡乱な目になってそう思った。


後書き
お待たせしました。先日アップした番外編その2で告知した通り、14話のお届けです
前半は次の目的地へ向かう準備と、ナルトと我愛羅の積もる話。
我愛羅はどうしても里から動けないので、ちょっとでも一緒に居る時にスポットを当てようと思って会話を設けました。
せっかくの親友ですから、久しぶりの顔合わせで話もろくに出来ずでは可哀想ですしね。
後半からは、全くスポットが当たっていなかった木の葉の里が舞台です。
つい2週間前(3話)に砂から帰ってきたばかりなのに、また出かけて忙しいテマリを中心に進めました。
少なくとも次回の15話辺りまでは、ナルトに対する不信感が募った木の葉の現状と同期の動きを、サクラをメインにして描いていく予定です。
今回も感想、ご意見お待ちしております。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―15話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:009e5a44
Date: 2010/05/29 01:04
―15話・不信と疑念と―

人気の少ない通路から繋がる手狭な倉庫。
シズネやサクラの研究室が付近にあるため、ここは医療関係の機材や薬品が多く収納されている。
いのはここの整理をシズネに頼まれて、昼過ぎから1人作業に励んでいた。
大量の荷物の中で、薄い金髪のポニーテールが忙しそうに揺れている。
お気に入りの濃い紫の色っぽい忍者服も、ほこりまみれだ。
「ふー、結構腰にくるな~・・・。ん?」
伸びをして腰をほぐしていると、ノックする音が聞こえた。
誰かは大体見当がついていたので、あまり驚かない。
「はーい、どうぞー。散らかってるから気を付けてよ。」
大きな声で返事をすると、シノとヒナタが部屋に入ってきた。
バタンと音を立てないように、後から入ったヒナタが手を添えていたらしく、カチャッとささやかな音がする。
「忙しいところすまない。お邪魔する。」
「お邪魔します。さっきね、そこでサクラちゃんと話していたところなの。」
「あ、紫電さんと話せたんだ。どうだったって?」
先日、次に砂からの使者にいつも通り彼が居たら、狐炎の行方を尋ねてくると、サクラは同期の仲間に約束していた。
結果をいのが聞くと、ヒナタは静かに首を横に振った。
「それが、ダメだったって・・・。」
「彼は、狐炎殿の行方について知らなかった。
その上、探しに行くのは危険だと、サクラを脅かしていったらしい。」
「あっちゃー・・・それじゃ、また当てが外れちゃったってわけね。それで?」
またうまくいかなかったかと残念に思いながら、続きを促す。
「うん・・・サクラちゃん、それでも探しに行ってみるって。」
「えぇっ?!あー・・・でも、あの子ならやるわね。
でも、危険ってどういう意味で?」
「殺されるかもって事。前に、シノ君達が言ってた説の事を思い出したら、分かるよ。」
「・・・あーあれね。」
失踪からある程度日が経った頃、シノやシカマルなどが最初に言い出したそれは、
ナルトが狐炎の手引きで逃げているというものだ。
「さっき、初めてそれを教えたんだけど・・・。」

火影邸の一角にある、サクラとシズネが任されている研究室。
ヒナタとシノは、サクラに呼ばれて彼女が聞いてきた話を元にここで話し合っていた。
そういう場で、2人は以前立てた仮説を教えた。
「!それじゃあ、ナルトの手がかりがちっとも見つからないのって、全部狐炎さんが?!」
ヒスイ色の目がはっと見開かれる。
思い返せば真っ先に疑うべきだった事だろうに、どうして気付かなかったのかとサクラは愕然とした。
「恐らくは。何故なら逃亡先で、協力者となるような忍者が居た可能性は低い。
しかし、親戚であり緋王郷の出身である彼なら、危険を早期に察して逃がすだろう。それが肉親というものだ。」
「きっと・・・シノ君が言うとおりだと思う。
もし私がその立場だったら、何とかしてあげたいって思うもの。」
体面上、狐炎はナルトと曾祖母の代で兄弟の親戚という事になっている。
狐炎の性格に一般論が当てはまるかはさておき、推測の方向としては間違っていない。
「俺も彼について詳しくは知らない。だが、とても聡明で冷静沈着な人物と聞いている。
ナルトが単独で逃亡するよりは、今の展開になる可能性が高いだろう。
俺だけじゃない。シカマルもネジも、同じように考えている。」
「分かってたのに、何で私に話してくれなかったの!」
サクラはバンッとテーブルを平手で打った。、勢いにひるんだヒナタがおろおろとうろたえる。
「お、落ち着いてサクラちゃん!別に意地悪とかそういうのじゃないの。ただ――。」
「ヒナタは黙ってて!今はシノに聞いてるの!!」
怒鳴られた彼女は、それ以上たしなめられずにすくみ上がるばかり。
だが、矛先が向いている当人はひるまなかった。
「理由は1つだ。お前はナルトを心配するあまり、頭に血が上りやすくなっている。
あいつを助けるために有効な手段だと分かるまでは話せないと思った、それだけだ。」
「私が余計なことをするってこと?」
のけ者にされていたという不満と不信から、サクラの語調はとげとげしい。
シノは首を横に振った。
「そうではない。お前を振り回すようなことを避けたいのだ。
俺達は捜索隊の成果にあずかれない事もあり、ナルトに繋がる情報はすぐには見つからない。
真偽が疑わしいものも多いだろう。裏を取る前に、いちいちお前に知らせるのは得ではない。
何故ならぬか喜びほど悲しく、疲れることはないからだ。
繰り返せば、ナルトが見つかる前にお前が心労で倒れてしまうかもしれない。」
彼はあくまで冷静に、そして落ち着いた語り口で彼女を諭す。
誤解を解くための手間と言葉は惜しまない。
「・・・。」
シノにじっくり諭されて、サクラは神妙な顔で黙り込んだ。

「・・・言われるまで思いついてなかったわけね。」
「うん・・・そうみたい。」
「やっぱりねー。ほんと、やばい位頭に血が上っちゃってるじゃない。
っていうか、あっちの説が本当なら・・・紫電さんが言う程じゃないにしても、マジで敵に回ってきても不思議じゃないわよ。
嘘情報で妨害するとか。」
これらを想像できないサクラの心境を思うと、いのは頭が痛い。
一緒に居てナルトを上手に逃がす細工をしている可能性は、彼女でも考えつくのに。
「俺もそう思う。元々、彼は木の葉を嫌う緋王郷の住人。
まして、無実の罪で身内が指名手配だ。腹に据えかねているだろう。」
シノの言うとおりだろうと、2人はうなずいた。
ナルトとの同居の都合、日頃は自分が抱く木の葉への感情を口にしない人物だったが、背景を考えれば現在の心境は想像がつく。
「そうだよねー。で、一応止めてくれた?」
「もちろんだよ。でもサクラちゃん、私は強いから大丈夫って・・・。」
「仕方がないから、五代目に関連任務への志願が通った際は、全面協力すると言うしかなかった。」
危険を承知で探しに行くと言うサクラを、当然そろって止めようとした。だが、彼女の意志は固かったのだ。
だからナルトや狐炎の捜索、もしくは暁関連組織の調査に参加できた際は、
八班として援護するとしか2人は言えなかったのである。
「はぁ~。何を根拠に、勝てる勝てないって決めてるんだか・・・。
確かナルトの修行も見れたし、しかも紫電さんと互角って噂なかったっけ?」
いのの記憶が正しければ、影分身を使った修行にナルトが狐炎を付き合わせた時、
あまりに歯が立たなかったナルトがすっかりすねていた日があった。
いのが実家の花屋を手伝う日に店に来た彼が、愚痴をこぼしていたので良く覚えている。
後者は詳細を彼女は聞きそびれているが、こちらはもっと有名なはずだ。
「うむ、あったな。
確か歓楽街で用心棒をしていた時、勤めていた賭場を荒らした紫電殿と派手にやり合ったとか。
勝負がつかず、結局彼がそこで稼いだ金を一部戻す事で決着したそうだ。」
紫電こと守鶴は、その筋では伝説の賭場荒らし、
あるいは過去のそれの再来と囁かれ、賭場を「生かさず殺さず」の荒稼ぎで恐れられる。
儲けを取り返したい賭場が用心棒をけしかける騒ぎになっても、本性が妖魔だけに大抵は相手が簡単にひねられておしまいだ。
だからこそ、対等の勝負に持ち込んだ狐炎は驚愕されたのだ。
「どうせなら、それも教えてあげた方が良かったかな・・・。」
「うーん、言わなくて良かったんじゃない?どうせ聞きゃしないんだから。」
風影の護衛をするような男と同格という事実を教えるのは、本来なら正しいだろう。
何しろ彼と互角となると、必然的に風影が一目置く男と等しくなる。
万一真剣勝負になれば、素直に考えると新米中忍なんて相手にならない。
「いつものサクラちゃんなら、自分がそう考える方なのにね。」
「人の事ならね。自分の事だとこんなもんよ?
何にも出来ないまんま2週間位経っちゃって、全然冷静じゃないし。」
まだ忍者としては未熟だからと言えばそれまでだが、いのに言わせれば元からの性格だ。
危険を省みずに無茶をするのは、下忍になりたての頃から変わらない。
「ま、いいわ。ありがとね。これ片付け終わったら、サクラ探しに行くから。」
「説得するの?」
「うーん・・・強いて言えば、愚痴を聞きに行くって所。」
ヒナタの問いに、いのは難しい顔をする。具体的に何かするしないではない。
サクラと話をすることそのものが目的なのだと、やんわり言葉ににじませた。



一方その頃。件のサクラは、ナルトが住んでいたアパートを訪ねにきていた。
見上げた3階の通路には、一部屋だけドアに張り紙が貼られている。
無断での立ち入りや損壊をした場合、法的手段に訴えると強い語調で書かれているものだ。
大事な自分の財産を守るための大家の懸命な努力であり、その甲斐はあるのだが、読むたびサクラの心は曇る。
「おいサクラちゃん、あんたまた来たのかい。」
敷地に入ろうとすると、ほうきと袋を持ってアパートの前を掃除していた中年男性に声をかけられた。
顔なじみの住人の1人だ。
「はい。」
「あんまりここに来ない方がいいって、この間大家のばあさんからも言われたろう。
いくらあんたが火影様の直弟子だって、控えてなんかもらえないってのに。」
ナルトと同じ班だったサクラが、彼が居たアパートに来るのは得策ではない。
ただでさえ、2人も里抜けをした不名誉な班の所属。
周囲が彼女をどんな目で見ているか分かるだけに、ここに来る事の悪影響を彼らは心配しているのだ。
「嫌味も嫌がらせも、もう慣れましたから。それより、手伝いましょうか?」
「いいよ。今日はこれでお終いだからね。」
男性が持っている大きなビニール袋は、空き缶にビン、罵詈雑言が書かれた紙、品目雑多なゴミの山が透けて見えている。
木製の塀は周りごと水浸しで、恐らく落書きを落とした後なのだろう。
それらを目に留めてしまい、サクラの顔は曇った。
「ゴミ・・・まだ、投げ込まれるんですか?」
「そうだよ。一晩も経てばあっという間にゴミだらけさ。
おかげで、このアパートもずいぶん人が減ったね。」
確かに住人の気配は、この騒動の前から見るとガクッと減ったように見える。大体半減近いだろうか。
まだ月の半分程度しか経たないのに、かなりのペースで人が逃げ出していることになりそうだ。
同じ場所に住んでいるだけでこんな陰湿な嫌がらせを受ければ、嫌になって引っ越す人も出るだろう。
対象はナルトでも、実際にゴミを見るのは今住んでいる人達なのだから。
「あの、見回りはちゃんと増やしてもらえてますか?」
先週、心配になって訪ねた時に惨状に絶句したサクラは、綱手に掛け合ってこの地区の見回りを増やしてもらった。
「ああ、おかげでね。でも、いたちごっこだよ。結局見てない時にやるからね。」
「・・・そうですか。」
少しでも良くなればと思って頼んだのに、効果の薄さに落胆する。
大多数の民衆の悪意の前では、公権力と言えども弱い。男性がはぁっと深いため息をついた。
「さっさと飽きてくれりゃいいんだけど、なかなかね。しかし、火影様はどうしちまったんだい。」
「え?」
「この間のうちはのガキも、逃がしちまってそれっきりだったろ?」
「それは・・・。」
綱手も頑張っていることを言いかけて、口をつぐむ。
「昔のこの里なら、あんなのが抜け忍なんてやってもすぐにとっつかまったろうに。
すっかり落ちぶれたもんだよ。」
昔の栄光を懐かしむように、寂しそうな呟きを漏らす。
里を直撃した争いで、木の葉はすっかり人材難に陥ってしまった。
象徴的とも言えるのが、サスケの里抜けに際し、下忍だけの班を追跡に向かわせたことだ。
同時に砂に援助を頼んでいたと言っても、血経限界を持つ一族が逃げた場合の対処としては、普通ありえない。
「木の葉崩しで、人が減っちゃいましたからね・・・。」
「あれもひどいよ。何とは言わないけども・・・。」
「・・・。」
恐らく、三代目が命を落とした辺りを指しているのだろう。
木の葉崩しについてはずいぶんと大きな問題になり、
国からは大名や外国の賓客を戦地に晒したかどで、国の面子が丸つぶれだとひどく叱責された。
その怒りは相当で、次回の中忍試験は名代をよこして大名は家族も含め出席を見合わせていた程だ。
他国も対応は似たようなもので、ずいぶんと来賓の顔ぶれがお寒い会場になっていた。
「それで今じゃ、あいつがおおっぴらに九尾呼ばわりと来た。世も末だね。
昔は一応、建前だけは皆守ってる振りをしてたもんだ。」
「・・・そうですね。」
本来ナルトが九尾を封じられている件は、三代目が緘口令を敷いたため、口外してはならないことになっている。
もちろん破ったと知れたら罰せられた。実際に罰を受けた人も出ただろう。
だが今では誰も通告しない。それに、仮にしたところで罰する方が追いつかなくなるのは目に見えていた。
「とにかく、さっさとこの騒ぎをどうにかして欲しいね。とばっちりはいつもこっちにくるんだ。」
嫌がらせに苦しむ当事者の台詞は、非常に重く心に響いた。


サクラは人目を忍び、小さな林が囲む神社にやってきた。
火事の焼け跡や鈍器で打ち壊された跡が、今も境内に生々しく残る。
ここは15年前、九尾襲来のすぐ後に里人の憎しみを集めて壊された場所だ。
そのあおりで家族を一人亡くした神主一家は夜逃げし、今では主がなくなってしまった木の葉稲荷神社。
総本社である緋王郷稲荷大社を擁する緋王郷が、木の葉の里に対して絶縁状を叩き付ける原因のひとつになった事件の舞台だ。
忘れ去られたその場所には、ほとんど訪れる人は居ない。
事情を知らない子供が隠れ場所にするか、時折どこからか狐が迷い込んでくるだけだという。
「九尾を祭る神社・・・か。」
ほとんど風化しているが、神社の奥には九尾の妖狐が赤い絵の具で描かれた絵がある。
神職などの法術使いだけが使う特殊なもので書かれているらしく、神社が焼けてもこれだけは色鮮やかだ。
恐らく耐火性を持っているのだろうが、当時の里人はさぞ気味悪がったに違いない。
この神社の祭神は、今はナルト共々行方知れずだ。
「はぁ・・・思い出すなあ。」
静かな場所へ来たせいか、どうしても平和だった頃の七班を思い出してしまう。
今思えば、本当に束の間の関係だった。
思いつめたサスケが里を抜け、力不足を痛感した2人はそれぞれ違う場所で修行を積んだ。
―本当なら今頃は、ナルトと一緒にサスケ君を捜しに行っているはずだったのに・・・。―
ぎゅっと下唇を噛み締める。何がどうしてこうなってしまったのか、考えても仕方が無いことがぐるぐる堂々巡りする。
うじうじ悩むのは卒業したはずだったのだが、生来の性質というものは変えがたい。
里全体に満ちるナルトへの悪意が、自分に対するものであるかのように痛く感じられ、
サスケの里抜けと同じかそれ以上に辛いと思うほどだ。
「ナルト・・・あんたは今、どこに居るの?」
最後に見たのは、門の前で見せた屈託のない笑顔。
あの笑顔の主を取り戻す手がかりは、恐らく親戚の狐炎しかないだろう。
―会わなきゃ・・・狐炎さんに。―
紫電の警告が信じられるかどうかと言えば、サクラには否だった。
しかし最後には声音が嘲笑のような色を帯び、脅迫じみていたのは事実。
何しろ彼は、誰も手がつけられなかった我愛羅を子供扱いしたり、砂の制御権さえ奪ったりするような破天荒かつ規格外の実力者。
真面目な席で滅多な事は言わないだろうし、あれ以上聞かされればもっと彼女の心は揺らいでいたかもしれない。
ざわめく心で思い浮かべるのは、最後に見たナルトの笑顔。だが、想像しても悲しくなる一方だ。
「寒い思いとか、危ない思いとかしてないかな・・・。
夜は冷えるし、追っ手は出てるし、自来也様も居ないし・・・不安だろうな。」
自来也が手を回してナルトを逃がした事を、サクラはよく思っていない。
どういう指示を出したのかは知らないが、誰も行方が分からなくなってしまった現在はかなり悪い状況だ。
―暁さえうろついていなかったら、まだ良かったのに・・・。―
彼女が一番危惧しているのはその一点だ。
彼女は以前、ナルトの境遇の不自然な部分を疑問に思ってこっそり調べ上げた時、彼が暁に狙われる人柱力と知った。
里の保護を一切受けられないナルトを放置するのは、狼の前に羊を差し出すようなものである。
そうでなくても、行方をくらました仲間を心配し、安否を確認したいと言うのは人情だ。
「はぁ。」
「サクラー!」
深いため息をついたその直後、後ろから親友の声がかかった。
「いの!・・・どうしたのよ、あんたがこんなところに来るなんて。」
「探しに来たに決まってるでしょ。もー、1人であんまりうろつくなって言ったじゃない。」
「大丈夫だって。ここ、どうせ誰も来ないんだから。
ところで、探しに来たって何の用で?何かあったとか?」
わざわざ里の外れの方まで来るのだから、呼び出しでもあったのだろうかと思ってたずねる。
もちろん用事が違ういのは、首を横に振った。
「ううん、そういうわけじゃないけど。なんか元気なさそうだったからね。
また何か言われたりしてない?」
「ううん、ナルトの事が気になって。何かこの里・・・すっかりおかしくなっちゃったな、とか。」
いのが相手なら話せると思って、そう切り出す。
それでもやや声を潜めて、うっかりそこいらに響かないように気を使った。
「色々ありすぎるよね。ほんの1週間位で変な噂が広がって、ナルトがすっかり悪者になっちゃって。
何でかと思えば、あいつが化け物・・・なんて。」
「・・・うん。」
過去にこっそり調べたサクラとは違い、いの達大多数の同期は、今回の騒動でナルトに九尾が封印されている事実を知った。
その衝撃は大きく、受け止めきれない心境で居るはずだ。
「・・・あの英雄の四代目が、封印したとかさ。」
「他に手がなかったんだよ・・・きっと。でも、その後は変だよね。」
誰からも慕われた好青年だと伝えられる四代目が、赤ん坊だったナルトを恐ろしい妖魔の器にした事の是非は、この際置いておく。
サクラにとっては、その後の処遇の方にこそ引っかかる疑問点があった。
「どこが?」
「ナルトが人柱力だってこと、本人が知ったのがつい最近じゃない。」
「あ、そういえば・・・。我愛羅君とかは違ったよね。」
「そうでしょ?何でナルトに三代目は黙ってたんだろう・・・って。」
少なくとも本人には教えておいた方が良かっただろうに、ナルトの後見人でもあった亡き三代目はそうしていなかった。
だから彼は自分が九尾の人柱力と言う事実を知らずにずっと育ってきた。
いつ本人が把握したのかは、サクラも知らない。
「せめてそれを本人が知ってて、ちゃんと教わってたら違ったんじゃない?」
「うーん・・・どうかしらねー。」
今回のこの騒動が、果たしてそういう経緯なら防げたものかは不明だ。
いのには断定できず、口を濁すしかない。
「私、ナルトの事を知ってから三代目が分からないの。」
「サクラ・・・。」
「三代目は私だって好きだよ。尊敬してる。でも、何でナルトに隠してたんだろうって。」
「隠さない方がうまく行ったって、あんたは言いたいのね。」
切々と語った彼女にそう言うと、黙ってうなずいた。
見ようによっては、うなだれたと言う方が近いかもしれない。
「・・・悪く思っての事じゃないとは、思うんだけどね。」
今となっては、三代目の真意を聞くことは出来ない。
しかし里の住民すべてを子供のように愛した彼だから、それだけはいのも信じたいところだ。
それでも、我愛羅との処遇の違いはすんなり納得できることではない。サクラにしてみればそうなのだろう。
「その真相は神のみぞ知る・・・かな。」
朽ちた神社の祭神にたずねれば、それも知る事が出来るだろうか。
もっともたずねようにも、神に仕えぬ身にはその声など聞こえるわけもない。サクラの呟きは諦め混じりだ。
「ところであんた・・・狐炎さんを探しに行くんだって?」
「うん。暁関係のとか、少しでも近づける任務があれば志願するつもり。」
親友の顔をまっすぐ見つめて、彼女はそう宣言した。
この決意は本物だなと、いのは直感する。
「・・一筋縄じゃ行かないと思うよ。相手は木の葉の精鋭から逃げられるような人だからね。」
「分かってる。」
手がかりを残さず、すっかり行方をくらませたナルトの遠縁。
その捜索は恐らく困難を極める。それは冷静さを欠くサクラでも承知していた。
―それでも私は・・・ナルトのために出来る事をしたいのよ。―
心でそうつぶやいて、彼女は瞑目した。


後書き
今月上旬のパソコントラブルもさることながら、まとめるのに苦労してお届けまでに思ったよりてこずりました。
さて今回は予告通り、サクラ中心に木の葉の現状中継の話です。いのも結構出てますが。
実は綱手を出すかで最後まで悩みましたが、詰め込み過ぎも良くないので今回は出番を見送りました。
次回からはナルト達視点に戻ります。
ここ2話少し陰鬱な雰囲気だったと思うので、少し明るい感じで行けたらと考えてます。
ご意見や感想などありましたら、ぜひお聞かせください。励みになります。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―16話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:1d64a3a6
Date: 2010/07/05 18:27
                     ―16話・船上の憂鬱―

「雷の国か~・・・まだ遠いなあ。」
船の縁にひじをついたナルトが、難しい顔になっている。
現在一行が乗っているのは、土の国と雷の国を結ぶ大きな定期船だ。
便数も多く、徒歩で行くよりも体力を温存できるという事で、老紫が提案した。
「1週間位でつくんだし、我慢じゃ我慢。」
「まーねー。」
歩きで行ったら、その何倍かかるかというレベルだ。
忍者とはいえずっと走り通しで動けるわけでもなし、まして妖魔の足に合わせられるでもない。
鼠蛟に乗ればタダだが、平常時で長距離だと悪目立ちが心配だから、海路を取ったのは最善策である。
ナルトだって、そこはもちろん分かっていた。
「さて、と。」
「何してんの?」
本を広げる狐炎の手元を、ナルトはひょこっと覗き込む。
狐炎が見ようとしているのは、雷の国の詳細な地図のようだ。
細かい地名は当然ながら、主要な街道が目立つ色で示されていて分かりやすい。
「行き先の詳細を確認している。最近は行っておらぬからな。」
「そっか、知らない町とか増えてそうだもんな。」
「というか、里の方はどうせ誰も行ったこと無いしのー。」
「あ、そっか。」
本当に遠くに来たんだなと、しみじみ実感する。
3年前に木の葉を離れて修行の旅に出てからは、ずっとこんな風に各地を転々とする日々で、
最近はこう思う事もなかったのだが、こんな思いがよぎるのは今が逃亡中の身だからだろうか。
「最短距離で行くには、入念な下調べが命ってねー♪」
「そうじゃの!」
そう言いつつ磊狢も老紫も何も持っていないが、ナルトはあえて無視した。
「んじゃ確認はそっちに任せて・・・あれ?どうしたんだってばよ、フウ。」
さっきから静かだと思ったら、彼女は縁に頭をめり込ませてへたり込んでいた。
しかもちっとも動く気配がなく、これはかなりだるそうに見える。
「フウ、まさか・・・。」
「酔ったな。」
ナルトの横から鼠蛟が断言した。
「酔ってないー・・・ちょっとムカムカするだけだって。」
「それが船酔い。だから、言ったのに。」
やれやれと、鼠蛟は軽く息を吐く。
船に乗る前、慣れていないと危ないからと彼が酔い止めを勧めたのに、フウは意地を張って飲まなかったのだ。
「うっさーい・・・こんな揺れるなんて、思わなかったんだもん・・・。」
「もー、しょうがない子なんだから~。蛟ちゃん、よろしくー。」
甘い考えで自滅した彼女の体たらくには、磊狢も笑うしかない。
ほっといても治らないのは承知なので、即座に鼠蛟に押し付けた。
「分かった。立てるか?」
「無理・・・。」
甘えではなく本当にそうらしい声が地を這う。何も言わず、鼠蛟は彼女をひょいっと抱えて船室に行った。
後は彼に任せておけばどうとでもなるはずだ。
その様子を見送って、狐炎がポツリとつぶやく。
「これで、少しは素直に言う事を聞くだろう。」
「ほんとに?」
ナルトが半信半疑で聞き返すと、彼はこう答えた。
「船酔いに関してはな。
ああいうじゃじゃ馬には、言って聞かせるよりも一度痛い目に遭わせた方がよい。」
「相変わらずのドS・・・。」
そう言えば船に乗る前、狐炎が意地を張る彼女に対して注意もしなかった事を思い出す。
全部承知でやっていたタチの悪さには、相変わらずうんざりする気持ちをナルトは隠せない。
何よりフウが気の毒である。
「うぅ~ん、さっすが炎ちゃん!痺れるドSっぷり~♪」
「黙れ変態。海に叩き落すぞ。」
くねくねしながら喜ぶ磊狢に、狐炎のさげすみの視線が刺さる。
あいにくと、狐炎にドMに付き合う趣味はない。
「えー、褒めたのに~。あ、でもその軽蔑しきった視線がす・て・・・むぐむぐ。」
「頼むからそれ以上のドM発言は勘弁しとくれい!
わしらまで変な目で見られるのは嫌じゃ~!」
さらなる精神汚染に励み始めた磊狢の口を、果敢にも老紫が口を塞いで止めた。
こんなところでおおっぴらに変態発言を続けられたら、周りの目が痛くてどうしようもない事になってしまう。
「そんなー、素敵なM奴隷の道を邁進してるだけなのに~。」
『せんでいいっ!』
異口同音の罵声は、付近の乗客が思わず振り返るほどだったという。


まだ甲板で景色を眺めるという磊狢を残してナルト達は船室に戻った。
先程先に戻った2人は隣の部屋を使っているようで、姿はない。
全員が部屋に入ってすぐ、狐炎はおもむろに一枚の術式符を壁に張った。
防音の術の符だろう。もうナルトにはすっかりおなじみの、ここで気兼ねなく話していいという許可状だ。
「ところでナルト。船に乗る少し前だが、部下から少々気になる話が入った。」
「何?もしかして木の葉の事?」
報告があったからには、また何か動きでもあったのだろうか。
木の葉の事はナルトにとって関心事の1つなので、ベッドに座ったまま思わず身を乗り出す。
「そうだ。中央から使者が来ているようだ。」
「中央って、えーと・・・。」
「大名から言われとるんか?」
どこからだろうと頭を悩ませるナルトではなく、老紫が先に聞き返した。
「ああ、恐らくはこやつの件だ。まだ詳細は来ておらぬが、報告を受けての事であろうな。」
「うー・・・大丈夫かな。」
「無事では済まぬだろうな。」
「だよなー・・・今度は国から指名手配とか、もうおれ本格的にやばいってばよ。」
狐炎に言われるまでもなく、ナルトは自分の包囲網の狭まりや厳しさを想像できる。
何しろ、失踪扱いが伝わって間もない頃にもう火の国ではお尋ね者だった。
きっとこれからは、それこそどんな町に行っても手配が回っていて、素顔でいたら即お縄になる有様に違いないと、身震いする。
「いや、むしろ危ないのは木の葉の上層部の首だ。」
「へ?何で。」
首を振った狐炎の意外な言葉に、聞き返す声が裏返る。
すると横から老紫が、当然だという顔でこう言った。
「そりゃ、人柱力を逃がしたんじゃ。普通、責任問題じゃぞ。」
「それだけなら、まだましだったのだがな。木の葉は数年前、試験開催時に里を襲撃されるという大失態を犯している。
里の戦力は著しく低下し、国にとってもかねてから大きな懸念材料となっているはずだ。
そこにこの騒動と来れば、大名や家老達もいい加減忍耐の限界が近かろうな。」
「ばあちゃん達だって頑張ってるのに、何で待ってくれないわけ?」
じっくりと見ていたわけではないが、火影の仕事を綱手がいつも忙しそうにこなしていた事をナルトは知っている。
立て直す努力だって、それこそ里ぐるみでしていたのも見ているから、説明されても彼としては納得が行かない。
「お上は気が短いって事じゃ。」
「一言でまとめないでくれってば!」
間違ってはいないが適当な総括をした老紫とナルトの下らない漫才を見せられて、狐炎は呆れ返ったため息をついた。
「はぁ・・・順を追って説明してやる。よいか、現在ほとんどの国において、忍者は侍に次ぐ戦力。
その依存度は大国ほど低いが、平時も国境警備などを負担する重要な存在だ。」
「あ、それ習った!
だから男の長期任務って国境警備が多いんだって、イルカ先生が言ってたってばよ。」
珍しく起きていた日のアカデミーの授業で、ナルトはそれを聞いた覚えがある。
男、特に15歳を超えた忍者は、侍共々国境警備に当たる任務を与えられる事がしばしばあるのだ。
イルカは当時、これを国を守る一番大事な仕事の1つと紹介していた。
「・・・一応覚えていたか。
だが度重なる災難で復興支援費がかさみ、維持する金に恩恵が見合わなくなってきているはずだ。
国とて、慈善事業で里を飼っているわけではない。結果が思わしくなければ、厳しい判断の1つも下す。」
「じゃあ、首になるって事?」
「可能性としては、低くなかろう。しかし綱手は長の力量以前に、就任時期が悪い。
先代が死に、主力の忍の多くが失われた直後だからな。そもそも建て直しには数年では済まぬ。」
狐炎が木の葉崩し後の里を眺める限り、復興は長期戦になると見て間違いがなさそうだった。
建物は国からの支援でどうにかなっても、肝心の忍者は一朝一夕には育たない。
5年10年、妖魔の感覚では大した事はないが、人間にはずっしりと重たい年月が必要だ。
「それじゃあ、それこそ待ってくれりゃいいのに・・・。」
「それがそうもいかんのじゃろ。復興支援費は、国の税金からも出とるんじゃぞ?
今まであんまり結果を出さんかった奴には、払う気が失せるってところじゃの。」
「なーんか、納得行かないってばよ・・・。」
老紫の言う事ももっともなのだろう。里を養う金の多くは、国からの税金だ。
ナルトもそれは何となく知っている。しかし、まだまだ理屈を受け入れる気にはなれそうもない。
「政治に限った事ではないが、この程度の事は日常茶飯事だ。」
「ちょっとだけなら・・・。でもほんとさ、頑張ってるのに納得行かないってばよ。」
「努力だけを評価されるのは、子供のうちだけだ。
無論、すべき努力を怠ってしくじるのは論外だが、いずれにしろ肝心の結果がついてこぬのならば評価は出来ぬ。
例えばお前が怪我をして、医者にかかったとする。ところが藪医者で、傷がかえって重くなった。
それを努力したと言い訳されて、仕方ないとうなずけるか?きちんと治せと怒るだろう?そういう事だ。」
国にとって、今の木の葉は例え話の藪医者なのだ。
頑張りは当然で、結果が出るか否かが全て。厳しい世間の評価基準である。
こう聞かされると、ますますナルトは綱手が心配になってきた。
「じゃあ、やっぱばあちゃんも大名から今頃すっげー苦情言われたりしてるわけ?」
結果を出せ結果を出せと、頻繁に嫌味を言われてストレスを溜めているのだろうか。
考えるだけで胃が痛くなりそうな光景だ。
「恐らくはな。」
「ふーむ、しかし木の葉も落ち着かんところじゃのー。
孫が生まれるちょっと前についたっちゅう四代目も、すぐに死んでしもうたし、ここ15年事件だらけじゃな。」
「う~ん、実は呪われてたりしないよなー?」
こうして並べるまでもなく、木の葉は災難が続きすぎている。
恨みを買う忍者家業というのを差し引いても、少々あんまりな待遇だろう。
脇が甘いと言えばそれまでだが、不幸が仲良く手をつないでやってきているとしか思えない。
「さあな。わしが祟ってやっても良いのだが。」
「15年前だけで勘弁してくれってばよ!木の葉を丸はげにする気?!」
冗談じゃないとナルトがわめく。なまじ封印の恨みがあるだけに、縁起でもない発言である。
次に彼が木の葉を襲う時が来たら、今度は確実に滅亡だろうから、聞き流せない。
「これが本当の、弱り目に魚の目じゃな!」
「それを言うなら祟り目だ。魚に用があるのなら、甲板で釣り糸でも垂れてこい。」
「釣れんの?」
「さぁな。」
別に釣れる釣れないは、狐炎にとってどうでもいい。
単に馬鹿な言い間違いをした老紫に、適当な冷や水を浴びせてやっただけなのだから、当たり前だ。
「お前ってば、また適当なこと言ってる?」
「想像に任せておこう。」
やっぱり投げやりなセリフだったかと確信する。どうせいつもの皮肉や言葉遊びの類だったのだ。



その日の夜。船内の酒場で酒を飲んできた老紫のいびきに耐えられず、ナルトはこっそり部屋を抜け出していた。
といってもやる事は、あてもなく廊下をぶらぶらするだけだ。
「は~ぁ・・・隣も寝てたし、どこで暇潰そっかなー。おれってば未成年だからな~。」
最初は隣の部屋に避難しようとしたのだが、フウと磊狢は寝ているらしく、内鍵がかかって入れなかった。
起きてもくれないのが物悲しく、避難は早々に諦める羽目になった。
ちなみに同じように被害に遭うはずだった狐炎と鼠蛟は、いびきがうるさくなる前にさっさと酒場に逃げている。
大人だから使える手がうらやましい。
身分証を偽造してもらう時、大人の顔にしておけば良かったとつい後悔してしまう。
「やっぱ、上に行くしかないか~。」
甲板に行った所で面白いものなんて何もないのだが、
他に暇を潰せる場所が、この時間は酒場以外に何もないからどうしようもない。
いつまでも廊下に足音を響かせるわけにも行かないので、あまり気は進まないものの、まっすぐ甲板に上がった。
「ふー・・・あ、曇ってる。」
星でも見ようかと思ったら、空はどんより暗い灰赤色。
眠れなくて困っているのに、空まで気が利かないとは一体何の嫌がらせだろうか。
「向こうっ側に島とか見えないかなー。」
ひょいっとへりに寄りかかって、外の暗さに目を慣らしながら遠くを眺める。
遠くに小さな島がまばらに見え、人が住んでいるのか灯台の明かりもこぼれてきていた。
人の気配は何とも言えない安心感があるもので、別に面白いわけではないが、ナルトはどことなくほっとした。
「ん?」
一瞬、近くから妙に冷たい気配を感じる。
どこからだろうと周囲を見渡すが、夜遅いせいか人影はまばらで、しかもナルトに視線をくれている様子はない。
先日のラーメン屋のような事にはなっていなかった。
―今のは一体、どこからだってばよ・・・?―
眉をしかめながら上を見ても、そこにはどんよりよどんだ雲が垂れ込めるばかり。鳥の1羽もいない。
まさかと思って海をのぞき込むが、こちらは真っ暗なせいでよく見えなかった。
「??」
気のせいだったのかという思いもよぎるが、これでもナルトは忍者の端くれ。
その勘が、気配は嘘じゃないと主張している。そしてこの状況なら、海が怪しいと言う気がしてくる。
その予感は正しかった。身構えているといきなり黒い塊が盛り上がり、ナルトを一口で食らおうと赤い口内を見せつける。
「うわっ!」
急いでへりから離れると、狙いを外した襲撃者は船体に勢い良くぶつかった。
衝撃はすさまじく、船が大きく揺れる。ぶつかった相手は、また海中に潜ってしまった。
体勢を立て直して後方を振り返ると、騒ぎに気付いた船員達が大慌てで対処に動き始めたのが見えた。
何かを話している様子なので、ナルトは声に耳を澄ませる。
「岩か?」
「違うっ、また化け魚が出たんだよ!!」
「げっ!どうすんだよ、いつもの先生いないんだぞ?!」
どうやらこの海域では、化け物が襲ってくるのが珍しくないようだ。
「先生って言うのは・・・何だろ、忍者とか?いや、化け物だし陰陽師とかか。」
どちらかは良く分からないが、化け物相手なら専門家の後者かもしれない。
頭を抱えてしまっている有様から察するに、専門家がいないとお手上げになる困った輩である事は確かなようだった。
と、船員の片割れがナルトの存在に気付き、船の反対側から血相を変えて声を張り上げる。
「おいそこの君!危ないから早く中に!」
「任せとけって、おっちゃん!こんな奴、おれが退治してやるってばよ!」
「ええっ、君が?!」
返事を聞いて仰天している。無理もない。
彼らはナルトに戦いの心得がある事なんて知らないのだから。
「こう見えても強いんだってばよ。ほら、危ないから逃げて!」
どうすると困惑した2人は顔を見合わせたが、自分達でもどうしようもないのは分かっている。
彼らから見ればまだ子供に等しいナルトに、躊躇しながらもこの場をいったん任せようと決めた。
「わ、わかった。だけど、気をつけるんだぞ!」
「おう、ありがとな!」
走って行く船員達に背を向けて、ナルトは海面に向き直る。
海の上での戦いは未経験だが、彼はちっともひるんでいない。
未知の化け物相手に、どこまで自分の力が通用するか試す気でいるくらいだ。
もちろん万一手に負えなくても、騒ぎを察した仲間が来るまで持たせればいいというのもある。
「さあっ、出てこい!」
へりから身を乗り出すと、かなり浅いところでこちらの様子を伺っている襲撃者の背びれが見えた。
どうやら相手は、船員が話した通りの化け魚のようだ。
まずは驚かせて顔を出させるために、殺傷力はないが派手な音がする小さな爆弾を投げつける。
「ギャァァァ!!」
狙い通り、ちょっかいをかけられて怒った化け魚が再び海面に顔を出した。ギラギラした緑の目が禍々しい。
そして仕返しに、黒い液体をこちらに勢い良く吹きかけて来る。
かかったへりの塗装を溶かすそれを横に跳んでかわしながら、口の中めがけてクナイを投げた。
クナイは見事に、柔らかい舌に突き刺さる。
だが化け魚ときたら、ますます怒って大口を開ける威嚇をしてくるばかり。痛みに驚く様子はない。
そしてひるむ事なく、また液体を吹き出してくる。それを落ち着いてかわしながら、頑丈さに舌を巻いた。
「クナイがべろに刺さったまんま・・・鈍感にも程があるってばよ。」
一発でだめなら何発か食らわせて少しずつ体力を削り取るか。
そう行きたいのは山々だが、あまり忍具を使いすぎると雷の国に着いた後に困ってしまう。
出来るだけ少ない手数で、有効打を見つけ出さなければいけない。
いつも手数と物量で押し切る戦い方をするナルトには慣れないやり方だが、やってやれない事はなかった。
まだ、狙える場所は残っている。
「こっちはどうだ?!」
これは確実に痛いだろうと、目に向かってまたクナイを投げた。だが、惜しいところで鱗にはじかれる。
いくら巨体相手でも、動くターゲットの小さな的に当てるのは難しい。
―くっそー・・・影分身さえ使えれば!―
得意の影分身があれば、海中の相手に螺旋丸ごとつっこませる手が使える。
螺旋丸は至近距離でしか使えない代わりに高威力だから、並の忍術ではけろりとしかねない堅物も倒せるだろう。
しかし、あれの使い手は自来也とナルトなど、木の葉でもごく一部。
使ってしまえば、せっかく隠している身分をみすみすばらすのと同じだ。
今は甲板に人目がないが、だからといって使っていい理由にはならない。
万一にでも、今は足がつくわけには行かないのだ。逃亡のために頭を使っている狐炎の足は引っ張れない。
―くっそー・・・硬いし鈍感だし、どっから叩けば?!―
無駄撃ちは出来ないが、かといってあまり長く様子を伺って放っておけば船が危ない。だが、打てる手は多くない。
そんなジレンマをよそに、化け魚はナルトを何とか落とそうと飛び上がってくる。
「ガァァァァ!!」
この執念は、一応クナイを刺された恨みなのか。ともかくぶつかるたびに船が揺れ、ナルトは踏ん張ってこらえる。
こんな調子では、撃退までにどれだけもたつく事になるだろう。
最初は軽く考えていたが、船上という特殊な立地と、術を使えない制約が重なる戦いの難しさを思い知った。
「こらっ、暴れんなってば!」
化け魚は業を煮やしているのか、飛び上がってだめと見ると、頭や尾びれでまだしつこく何度も船を揺さぶる。
それを止められず、ただ手をこまねくナルトの背に、甲板に駆けつけてきた狐炎の声がかかる。
「体の文字を消せ!どこかに妙な紋様があるはずだ!」
「模様?!――あっ!」
海面に浮かぶ黒い魚体には、額に浮かぶ白い不思議な文字がある。
生まれつきの模様のようにも見えるが、狐炎が言うからには何か特殊なものに間違いはない。
「これか!」
しつこくつっこんでくる化け魚の額めがけて、一か八か、起爆札を投げつける。
張り付いた札はすぐさま膨れ上がり、鱗ごと文字を巻き込んで爆散した。
「よっしゃ!」
鱗の下の地肌が見え、文字は跡形もなくなった。動きが止まった化け魚の体が、ぐらりと傾く。
「えっ?」
ナルトは我が目を疑った。完全に動きを止めた後、化け魚の目が白くにごっていく。
てっきり尻尾を巻いて逃げていくのかと思ったら、まるでねじが切れたゼンマイ人形のように、一切の動きを止めて沈んでいった。
「大丈夫?!」
「あ、うん!何とか倒したってばよ。でも・・・。」
磊狢を連れ、遅れてやってきたフウに応じる。
来なくて十分と思ったのか、鼠蛟の姿はそこにない。
ただ、予想に反して死んだように消えていった相手の事が気になっているので、生返事になった。
それは気にせず、磊狢が狐炎にこうたずねる。
「炎ちゃん、やっぱあれだった?」
「ああ。」
「あれって何だってばよ?」
ナルトは、訳知り顔の2人が気になった。
あの化け魚も妖魔か、あるいは妖怪と分類される知能が低い化け物なのだろうから、
細かい事を知っていても不思議はないのだが、返ってきた回答は意外なものだった。
「死霊術で作った不死生物だよ。」
「不死生物って・・・ゾンビ?」
聞きなれない言葉にすっきりしない顔をしながら、フウが聞き返す。ナルトもあまり分かっていないので、
死霊術というのも妖術の一種の事だろうが、ナルトも彼女も初耳だ。
「うん、2人に分かりやすく言うとそんな感じかな~。」
「うげー・・・気持ち悪い奴だったんだ。って、見てないのに分かるもんなの?」
狐炎はともかく、磊狢は倒した後にやってきたから一切姿を見ていないはずだ。
一体どこでそう判断したのか気になった。
「ちょっと瘴気出てたしー、近くに寄ってくると色々分かるんだよ。」
「それで狐炎が来てすぐに、模様消せって言ったわけ?」
ナルトにはもちろん分からなかったが、そういう事なら納得だ。
きっと甲板に着いた瞬間に、もう相手の事を見破ったのだろうと解釈する。
「ああ。あれはあの印に込めた力で対象を操る、下級の術だったからな。
その仕組みさえ分かれば、お前でも簡単に倒せただろう?」
「そんなので、アタシ達を邪魔しようとしたんだ。もしかして、海に住んでる奴が・・・?」
「違うな。これは蛇の手の者だ。」
フウの推測を、狐炎がきっぱりと否定する。
「蛇の?」
「うん。あの子達は死霊術が大好きだからねー。
これはきっと、雷に来るなーっていう僕らへの嫌がらせじゃないかなあ。」
なるほどと、ナルトとフウがうなずく。
妖魔の親玉3人に対してあまりにも手抜きな刺客をよこしてきたのは、単なる警告目的だったというわけだ。
「鼠蛟があの時、ごまかした理由もこれだな。やはり雷の国にいるのは・・・はぁ。」
脳裏によぎる、仲間と呼ぶのもはばかられる問題外の人物の名前。
しかし狐炎は、深いため息をつきつつも決してそれを口にはしない。顔は彼には珍しく、露骨に辟易した心情が現れていたが。
「お前がため息つくほどやばいの?!」
「こんな事でもなければ、会いたくもない。そういう輩だ。」
「そうそう。愛がないもんね~。」
愛云々という謎の表現はさておき、人懐っこい磊狢でさえ肩をすくめる始末。
これはもう、かなり厄介な性格の相手と思っていいのだろう。
特に、狐炎が人柱力集めの用がなければと言い切った点が気にかかる。
「えー・・・大丈夫かってばよ、雷の国。」
「大丈夫じゃないんじゃない?」
「だよなー・・・。」
今までは、大事件に巻き込まれこそしたが割と順調だった人柱力探し。
少なくとも、先方が非歓迎ムードと言う事はなかっただけに、ナルトにもフウにも、今の夜空のようなどんよりとした雲が垂れ込めた。


一方その頃。船上でナルトとの戦いに敗れ、沈んだ化け魚は海底に横たわっている。
力を失ったその亡骸を、赤い魚と金色の魚が見つけた。
通りすがりに立ち止まり、赤い方が弔いの印らしい色鮮やかな海藻の切れ端を落とす。この辺りに住む魚の妖魔の風習だ。
「可哀想に。きっと蛇のせいね。」
「さっきの船にぶつからされたんでしょうか?」
黄色い魚が、気の毒そうに亡骸を見つめながらたずねる。
「多分ね。」
海面を仰ぐと、遠くによくこの辺りで見かける大きな船が、船体に大きな擦り傷を付けたまま航行していく姿が見えた。
あの船を沈めるために使われたのか、それとも少し違う目的か。
何にせよ、亡骸を死霊術に使われたのは不幸なことである。
「尊い方々があんな所に乗り合わせているなんて・・・。一体何事だと思う?」
器であるナルト達から漏れている、狐炎達妖魔王の強い妖力は、この位距離があっても簡単に感じられる。
気配が1つならお忍びかと大して気にも止めないところなのだが、あまり一緒に居ない3体が、しかも人間の船というのはとても目立った。
「さあ。でも最近陸は、あっちこっちで鳥とか狐とか、色々な妖魔が調べ回ってるらしいです。」
陸の事情に疎い海の住人にも、最近狐炎達の配下の動きが活発な事は知られてきている。
たまに化けて陸に上がる仲間やあちこち渡り歩く妖鳥が、こういった話を持ってくるのだ。
「また?どうして。」
「さあ・・・ああやってお出ましになるって事は、何か大変なことになるとか。」
何しろ、人間に封じられているとはいえ種族の長が3体だ。
どこに何しに行くのか下々には見当も付かないが、ただ事ではないような気がしてくる。
「それ、あなたの出任せ?だったら大渦の刑よ。」
「真面目な推測ですよ、推測!
これ、長老様にお知らせした方がいいと思います?」
水棲妖魔の長である水の王に知らせるべきかと、赤い魚に伺いを立てる。
「いきなり中央は難しいわね。先にうちの長に相談して、判断を仰ぎましょ。
あなたの言う通り、ただ事じゃないかも知れないし。」
「そうですね。帰って報告しましょう。」
大した事でなければそれで万歳だし、大事の前触れなら報告して大正解になるだろう。
うなずきあって、彼らは速やかにその場から去っていった。


後書き
全体的に鬱々としていた前回の流れから一変して、相変わらずボケから離れられないナルト達一行の船旅です。
レベルとしては雑魚戦もいい所ですが、恐らく初の普通の戦闘シーンをいれてみました。
得意の影分身も螺旋丸もなく、忍具も節約態勢で地味です。しかし起爆札は便利ですね。お手軽ボム。
それはそうと、仲間同士の連携がある派手な戦闘は近いうちに入る予定です。
雷の国に到着すれば、次の人柱力の登場も間近ですしね。次かその次には出ます。
単なる移動中のあれこれな今回ですが、作者的には後々の仕込みでみっちりなので苦労しました。
特に戦闘描写・・・。段取りもてこずりましたが、こんな感じで大丈夫か気になります。
感想とご意見、誤字脱字の指摘はお気軽にどうぞ~。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―17話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:1d64a3a6
Date: 2010/08/05 00:56
―17話・山間の砦―

それから数日。途中大きなアクシデントに見舞われたものの、その後の船は何事もなく航海を続けた。
そして予定されていた到着日の昼過ぎ、ほぼ定刻通りに雷の国の大きな港町に到着した。
「ついたー!」
船から降りてすぐ、ナルトが上機嫌で第一声をあげる。
踏んだのはコンクリート固めの地面だが、久々になる陸地の感触が感慨深いのだろう。
船がひしめき合う埠頭を照らす、昼下がりの強い日差しも清々しい。
そんな空気満喫する彼とは対照的に、うんざりとした様子なのはフウ。
「はー・・・アタシ、もう船はこりごり・・・。」
船酔いの忌々しい記憶を引きずっているのだろう。トラウマが1つ増えましたと顔に書いてある。
何しろ立てなくなる位酔ってしまったのだから、もう当分船は乗りたくもなくなって当然だ。
「あははー、今度から蛟ちゃんの言う事はちゃんと聞こうねー。」
「うっさい!」
「やれやれ。」
早速始まった七尾コンビのどつき漫才を見ながら、鼠蛟がやや呆れた顔で呟いた。
横ではあらかじめルートに印をつけておいた地図を老紫が確認しながら、港から目的の街道に早く出られる道を探す。
何しろ広い町だから、行き当たりばったりに歩いたらどこの門にもたどり着けはしない。
「まずは、砦がある東街道っと。お、あっちじゃ。」
雲隠れにつながる街道は、地図によれば町を出てすぐに山の方向へ向かえばいいとある。
「うわー、ほんとにすぐそこに山があるってばよ。」
「やっぱここも山国なんだねー。」
船から見た時、建物がびっしり並ぶ町のすぐ背後に迫るように見えた山々は、降りてから見物してもやっぱり近い。
フウが言うように、ここ雷の国が山がちな国だからだろう。
「里もああいう山の上?」
「うーむ。あそこの山より、もうちょい標高が高そうじゃの。うう・・・ひざに優しくないぞい。」
老紫は読みながら渋い顔をする。
里の付近でいきなり標高が何百mも上がるわけではないのだが、
その分緩やかな山道を延々と歩く派目になる事はここに来るまでの間で予想済みだ。
もう若くない彼にとっては、正直に言って気楽とは言いがたい道になるだろう。
「じいちゃん、ひざの関節には深海鮫エキスがいいらしいってばよ。」
「わしはそこまで年じゃないわい!」
「嘘つけ。」
別にナルトのような若年者視点でなくても、老紫は立派にいい年だ。
少なくとも年じゃないと言い張るのは見苦しい。だが、彼の往生際はとことん悪かった。
「何が嘘じゃ、ひざが磨り減るなんて、70以上の年寄りだけじゃぞ!」
「残念。ばっちり発症年齢だ。」
「ふふーん、わし40だもーん。」
(ひざに、水を溜めてろ・・・。馬鹿じじい。)
あからさまな嘘を言って胸を張る老紫を半眼でにらみながら、鼠蛟が小さな声で毒づいた。
地味だが医者らしさとえぐさが同居している。
「ナルト、あれを無駄な抵抗と言うのだ。覚えておけ。」
「へー・・・。」
狐炎の言う陰口に納得しながら、ああはなるまいとナルトは心に誓う。
その後、適当に放っておいたらすぐに喧嘩は終わったので、一行はそのまま大した寄り道もせずにまっすぐ町の外に向かって出発した。


町を出たら平坦な道はすぐになくなり、なだらかながらも傾斜のある道に変わった。
きちんと整備されているが、膝が笑う道である。
1時間も歩けば、変わらない道路状況にだんだんと嫌気が差してきた。
「ふう、坂道だらけで嫌になるぞい。」
「ねー。土の国もすごかったけどさ、ここも相当・・・。」
行く手に広がる坂道は、今のところ全く終わりが見えない。
まだ傾斜がきつくないとは言え、慣れていないと老若関係なくうんざりする光景だった。
「1000年以上昔から、こう。」
「え~、ちょっとは直せばいいのに・・・。開拓するとかさあ。」
気にもせずに歩く 妖魔達を、恨めしそうにフウが半眼で見る。
普段から元気だけは余っている磊狢や、上背相応の体格の狐炎はともかく、
生っちろくて細身の鼠蛟までちっとも疲れた様子がないのは、彼女にとって大変理不尽な光景だ。
「この数の山を切り崩して平らにならす位なら、普通は諦めて足腰を鍛えるだろうな。」
至極真っ当な正論なので、誰も返す言葉はない。
斜め後ろのナルトが、何故か敬語を使ってですよねと小さく呟いただけだ。
「ちぇー・・・。ところで、あそこに何かぽつーんって立ってるのは何?町?」
「あ、ほんとだ。何だろ。」
山の影から、灰色っぽい建物の一部が顔を出している。
先程から時々手前の木々にまぎれて見えていたのだが、何の建物なのかナルトやフウにはよく分からない。
「あれは砦だ。港の近くだからな。」
「へー。結構目立つところにあるね。」
ここから全貌を見る事は出来ないが、多分頑丈で立派なものなのだろう。
まだ遠そうなのに、しっかり見えているからそういう印象を抱かせる。
「元々は、200年前に侍の砦があった。だから、堂々と見張ってる。」
最近はこちらに来ていない鼠蛟だが、昔からあった物については当然知っている。
ここから見える砦は、昔から沿岸防衛の要とされた場所なので、国内では歴史的にもかなり有名な場所だ。
「それを雲隠れが任されてるってわけかー。すげー!」
「さあ。」
そこまでは地図に載っていないので、鼠蛟は首をかしげた。
「えっ、違うの?」
てっきりそうとばかり思い込んでいたので、興奮したナルトは肩透かしを食らった。
ついでにフウもそう思っていたらしく、目が点になっている。
そう話が流れるかは、さすがに行ってみないと分からないようだ。
「あれを横に見ながらずーっとこの道を行くんじゃ。うむ、今のところ道は合ってるの。」
「へー、あれが目印かあ。気付かなかったってばよ。」
単に道なりにずっと歩いているだけだと思っていたナルトは、感心してそう言った。
大きな分かりやすい目印は、事前に当てがあると便利なものだ。
「町を出る前に、おじいちゃんも言ってたよー。」
忘れたの?と、前を行く磊狢が振り向きながら笑っている。
「あれ?そうだったっけ。」
「アンタが話聞いてなかったんでしょ。」
「そういうフウも聞いてたっけ?」
確かあの時の彼女は磊狢とどつき漫才を演じていたので、とても聞いていたようには見えなかった。
しかしその素直な感想は、ナルトの脳天にこぶしを招く。
「~~っ、どうでもいいでしょ!」
「いってぇ!何でおれが叩かれんの?!」
大した事を言ってないのに叩かれて大損の彼は、もっともな抗議をした。
もちろん理不尽な真似をした当人はまともに取り合わず、つんとそっぽを向いている。
それでも横から諦めずに抗議が続いてくるが、完全に無視だ。
「う~ん、やっぱり子供は元気だねー♪」
「喧嘩をする元気だけは、無意味にあるな。」
子供のしょうもない喧嘩と同輩ののんきなセリフのせいで二重にうんざりした狐炎は、嫌そうな顔でそうぼやいた。
いつもの事ではあるのだが、余分な体力は山歩きの方にまわして欲しいと思うのが本音だ。
何しろ雲隠れまではまだまだ遠く、今夜もしも夜通しで歩いたとしてもたどり着かない。
次の人柱力を探すため、少しでも早くと先を急ぐべき旅路なのだが、
果たして喧嘩に気を取られる彼らが分かっているのか、それは大いに疑問が残るところであった。


時々木々に隠れる砦を見失わないように、歩くことさらに2時間。
港に着いたのがすでに昼を過ぎていたため、もうすっかり日が沈みかけている。
歩いた甲斐あって目印はだいぶん近くなり、ようやく山間にたたずむその全貌が見えてきていた。
「おー・・・でっかいなー!」
まじまじと眺めて、ナルトが歓声を上げた。
コンクリート仕立ての頑丈な箱が3つほどつながったような建物を、高い塀がぐるりと取り囲んだ威圧感たっぷりの巨大な構造。
背後はすぐ崖で、守りを固めやすそうないい立地にどっかりと腰をすえている。
内部には恐らく、何百という人が詰めているのだろう。
「こんな大きなの、初めて見たかも。さすが五大国。」
小国出身のフウも思わず色めき立つ。大国の威容をしかと感じているようだ。
一方、さすがに妖魔達はこういった物を見慣れているらしく、昔と姿が違うと誰かがぼやいた他には特に感想はないらしい。
「ここまでくれば、後もう少しで次の街道に突き当たるはずだが――。」
いったん地図を確認しようと思い、狐炎が後ろの老紫に話かけようとして振り返る。
そのとたん、砦の一部からいきなり爆炎が上がった。
『?!!』
和やかだった空気が一瞬で凍りつき、全員に緊張が走った。
「な、何事じゃ?!」
持っていた地図を腰の袋にねじ込み、老紫が血相を変えて叫ぶ。
「誰か襲ってきたんじゃないの?」
「見れば分かるって!いったいどこのどいつが?!」
「分からん。じゃが、あそこに奇襲をするなんて相当大胆な奴じゃぞい。」
見るからに大勢の人間が詰めていそうな、大きな砦に攻め込む手合い。
どこの誰だか分かったものではないが、老紫の言うとおり大胆不敵だ。
「戦争でも、したいのか?」
鼠蛟は怪訝そうに眉根を寄せた。あの砦は、昔から先程来た港町を外敵から守るために維持されている。
軍事上、雷の国が昔から特に重要視して来た場所であるだけに、
史実においてもここへの襲撃から本格的な戦争に発展した事が少なくない。
そこに堂々と攻め込むという事は、宣戦布告をしに来るようなものだろう。少なくとも、彼はそう解釈した。
「せ、戦争?!」
「くそっ、そんなの許せるかよ!狐炎、行こう!」
まさかとは思うが、そんな事になってしまうなら見過ごすわけには行かない。
ここがよその国であろうと、平和を脅かす輩の存在をナルトは許せなかった。
今にも走り出しそうな面持ちで、彼は相方の妖魔を促す。
「待て。」
「何で待たなきゃいけないんだってばよ?!」
顔色も変えずに制止する狐炎に苛立ちを覚え、鼻白む。
「阿呆!わしらはあくまで、一般人として振舞わねばならぬ事を忘れたか?」
「だけど、あそこで誰かが襲われてんのを見過ごせないってば!」
「後の事も考えておらぬくせに、正義感だけは一人前だな。」
一気に冷え込むナルトと狐炎の周りの空気。
片や熱血片や冷血。根っから対極の上、どちらもそう簡単に折れない性格だから厄介である。
こんな時の喧嘩は勘弁して欲しいと思ったのか、フウが突然こんな事を言い出した。
「あ、あのさ。もしかしたら、人柱力とか居るかも知れなくない?」
「理由は?」
あくまで頭は冷静なので、狐炎は淡白にそう返す。
「ア、アタシさ、あそこに居た時なんだけど、任務で国境の砦にも行った事あるの。
慣れてないと、いざって時使えないとか何とか言われて・・・うん、そんだけ。」
しどろもどろになったせいか所々裏返った声で、フウは何とか言い切った。
「ほら、フウだってこう言ってるし!行くしかないってばよ!!」
「どうする?」
「お前はどうなのだ?鼠蛟。」
我が意を得たりとばかりに勢いづいたナルトは無視して、判断を仰いできた鼠蛟にそうたずねた。
すると、一拍間を置いてから彼はこう答える。
「見に行く位は、いいかと。」
「奇遇だな。わしもそう考えていたところだ。
どこぞの早とちりが先走らねば、そう言うつもりだったのでな。」
さりげなくナルトに嫌味の刃を突き立てつつ、狐炎は小声で呪文を唱えた。
姿が揺らぎ、濃い霞が包んで大きな獣の形をとる。それが晴れた後には、金の毛皮を持った大きな狐が居た。
「人間の足には合わせていられぬ。さっさと乗れ。」
砦まではまだまだ距離があり、いくら忍者の足でも走る間に事態がどんどん進んでしまう。
フウが言った通りの事になっていれば、なおの事猶予はない。
「おお、太っ腹じゃの!」
「こんなの初めてじゃ・・・って、それはいいや。急ぐってばよ!」
指示通り素早く3人が背にまたがる。それをチラッと振り返って確認すると、狐炎は地面を蹴った。
その横を残りの妖魔2人が併走するが、自分達のペースで走る彼らの足は人間が目をむくほど速い。
しかも道を外れているのに、これは上忍よりも早いと言っていいのではないだろうか。
めまぐるしく後方に流れていく山道の景色を見ると、普段は人間に合わせていると言うのが良く分かった。
「この分だと、10分もかかんないんじゃない?」
ナルトの真後ろで、驚き混じりにフウが言った。
「かかんないよー。さ~、今の内に気合入れとこうね!」
横の磊狢に言われるまでもなく、ナルト達は臨戦体勢だ。
到着したらすぐに敵が居るかも知れないという予測は、十二分に出来ている。

そしてようやく見えてきた砦の門。その入り口に、酷く傷ついたくノ一が倒れていた。
どうやらここに詰めていたのは、侍ではなく忍者だったらしい。
一行はここでいったん足を止め、狐炎は背中の人間達が降りたところでまた人間の姿に戻る。
「おい姉ちゃん、大丈夫?!」
倒れていた彼女にナルトが駆け寄り、すぐに助け起こす。
それに反応して弱いながらも目を開けたので、幸い意識はあるようだ。
傷薬を探そうとする彼を、横から磊狢が手で軽く制止する。
「ちょっと待ってね。――豊穣の梢。」
術を唱えると、周りの植物から少しずつ集めた生命力が柔らかな木の葉となり、ひらひらと舞って彼女の傷を癒す。
地の恵みを生かした独特の回復術は、見る間に失われた力を取り戻させた。
「ありがとう・・・助かりました。」
「なあ、どいつに襲われたんだってばよ?」
この分なら詳しく聞けそうだと踏んで、早速たずねる。すると彼女は険しい顔になった。
「黒地に赤い雲のコートを着た・・・暁の2人組に。我々を瞬く間に蹴散らし、あっという間にこの有様です。」
「それじゃ、今戦ってるのは?」
フウの問いに答えるかのようなタイミングで、再び轟音が耳をつんざく。
一番大きな中央部の建物のすぐ脇の棟が崩れ、そこから青く細長い2つの塊のようなものが見えた。
「また爆発じゃ!ぬぉっ、あれは!!」
「何あれ、尻尾・・・?!あそこで戦ってるの、もしかして!」
間違えようもない、人間とは異質なチャクラ。
かなりの量を放出しているのだろう、まだ離れているこの場所でもはっきりと感じ取れる。その力は圧倒的だ。
くノ一が血相を変えて立ち上がった。
「ユギト様!ユギト様が、まだ奥で戦っていらっしゃいます!」
「しかもあれは・・・尾獣化しとるの!」
「尾獣化?」
「アンタ知らないの?!要するに、中の連中に変身するって事!」
聞き覚えのない単語を聞いたせいとは言え、のんきに聞き返したナルトに苛立ちながらフウが説明した。
彼女の言うとおり、尾獣化は人柱力が多量に妖魔のチャクラを引き出す事で、尾獣の姿に変化する事だ。
「えっ、じゃあ相手はすげー強いって事じゃね?!」
「そうなっちゃうね~。」
内なる妖魔の力を最大限に用いる尾獣化は、人間では通常ありえない力が使えるようになる奥儀のようなもの。
各国が望む、1人で戦局を変える生物兵器の真骨頂と言っても過言ではない。
しかし防衛側がそれに頼る状況は、お察しと言ったところか。
とても激しい立ち回りを演じているらしく、大きく揺れるチャクラの塊はそれをありありと物語る。
「ああ、あそこまでお力を・・・!今、助けに参ります!」
「よせ、死にに戻るつもりか。」
今にも心臓を潰してしまいそうな顔で駆け出そうとしたくノ一の腕を、すかさず狐炎が捕まえる。
あんな状況では、ただの人間が1人加勢したところで何の助けにもならない事は明らかだ。
「たとえそうであっても、行かねばならないのです!
わたくしには、里のため砦のため、灰になるまで戦わねばならない責務があります!」
「大丈夫、おれ達に任せとけってばよ!」
元より、居るかも知れない人柱力を助けるつもりでやってきたのだ。
ここまで来たら、ナルト達にとっては後は目的を果たすのみである。
「えっ?!そんな、しかしそれは――あっ、待ちなさい!」
「ごめんねお姉さん、言い訳は後でするから~!」
何しろ事は一刻を争う。
わびもおざなりに、一行は申し出に面食らったままの彼女の制止を無視して崩れかけた砦に駆け込んでいった。

内部は広く複雑な構造の上、見取り図もないからひたすら音源と勘を頼りに奥へ進むしかない。
「うっ・・・あいつら、ひでぇ事しやがるってばよ。」
あちらこちらに事切れた忍者が倒れている様子が、走る通路のあちこちに見受けられる。
今の所、先程のくノ一のように幸運な生存者は見かけない。漂う血の匂いに、ナルトは顔をしかめた。
「どいつもこいつもそこそこ以上じゃろうに、全くとんでもないのう。」
「こんなにたくさん、本当に2人なんかでやれるわけ?」
ここに詰める雲忍は、中忍などの手練れ揃いだったであろう。
どれ位の時間で一層してしまったかは定かではないが、何時間もかかったようにはとても見えない。
それだけに、余計に信じがたい光景だ。
「さあ。どこでも、例外はいるし。」
「確かにそうだな。すでにここに、種族内の規格外が3名ほどいる。」
寿命も力も平均値を大幅に上回る、文字通りの化け物ぞろい。かなり極端な実例だが、人柱力達は妙に納得がいった。
確かに妖魔界にもこういう論外が居るのだから、人間にだって居るだろう。
「そういえばそうだった・・・。」
並の人間が何人かかっても傷1つつけられないどころか、人間かどうかも疑わしそうなような規格外がこの先に待ちうけている。
ナルトが少し苦い顔で呟くのも、行く手の敵を考えればこそだろう。
一行は敵に気づかれないように、通れない場所は避けて通りながら、確実に暁と人柱力が交戦している場所に近づいていく。
音は徐々に大きくなり、術が飛び交っているのか足音さえかき消される勢いだ。
「大激戦って感じだねー。」
「のんきにしてる場合?!急がなきゃでしょ!」
後もうほんの少し、目と鼻の先に戦いがあるという所まで来たこの時。
空気を震わせて、悲鳴のような咆哮が響いた。
『!』
状況が一変した。走っていた一行の足も止まる。
「音が止んだ。」
「もしかして、やられた?!」
人柱力としての全力を尽くしたのに敗北を喫する。
それがそれだけ重大な事か、過去に守鶴に化けた我愛羅と戦う派目になったナルトは薄々理解していた。
並の人間なら、高位の口寄せ動物の力を得なければ対等に渡りあう事すら困難なのに、それを人間だけで倒していたならば。
信じがたい状況に、驚きは隠せない。
しかし口元に指を当てて考える磊狢は、いたずらを思いついたような顔で、声を潜めてこういった。
(だけど、お仕置きするならいい機会かもねー。)
(何で?あいつらに人柱力をさらわれるって時じゃないの!)
(そうだってばよ!)
こんな切羽詰っている状況を、好機とは何事か。
緊迫した最中のおふざけならさすがに許せず、フウとナルトは眉を吊り上げた。
“だからこそだ。奴らは人柱力を仕留めた事で気が緩んでいるはずだ。
それに、今までの戦いで多少なりとも消耗している。”
声を潜める代わりに、念話で狐炎がそう言った。その補足で、ようやく疑問符が浮かんでいた人間にも納得が行く。
(だからチャンスって事か!でも、どうやって近づくんだってばよ?
この道全部ふさがってるし、あいつらもおれ達に気付いてるんじゃ・・・。)
何しろもう、後1分もいらないうちに到着するところまで来ている。
こちらだって人がいる気配を感じるのだから、
音が止んだ以上、どんなに遅くとも現在の時点で敵もこちらに気付いているはずだ。
(ぬぅ~・・・。孫達よ、ここは引っ掛け戦法じゃ!)
(え?何それ。)
意味が分からず、つい首を傾ける。
“陽動。”
(それなら了解。)
即刻発された鼠蛟の説明は、この上なく短く分かりやすい。
さすが付き合いが長いだけの事はある。器の適当な造語の翻訳はお手の物らしい。
“どう行こっか?”
現在いる通路の先は丁字路になっていて、合流する横道の壁の向こうに敵と人柱力がいるはずだ。
“三方向に分かれた後に影から奇襲をしかけ、人柱力を確保する。よいな?”
(よし、おれ達が攻撃するから、援護は任せたってばよ!)
(ふふ、腕が鳴るぞい!)
(さっさと追っ払って、助けなきゃね!)
敵は強いが、こちらの戦力は十分だ。
お互い確認を取るようにうなずきあった後、散開した。


後書き
前回の更新からはちょうど一ヶ月ですね。
今回は雷の国に到着し、次に全員参加の戦闘というところまでやってきました。
せっかく3ペアも揃っていますし、敵からすればうっとうしい連携プレイを取り入れて行きたいです。
それでは今回はこの辺で。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―18話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2010/09/26 02:39
―18話・女幹部と風流人―

天井が崩れ、壁も崩落しかかった砦の最奥部。激しい戦闘の爪跡がくっきりと残されている。
崩れ落ちた瓦礫は真っ黒に焦げ、床は原形を保っているものの、ひび割れが多数走っていた。
そして、露出が少ない忍者装束に身を包み、長く淡い金髪を乱したまま壁に磔にされた血まみれのくノ一。
今まともに動いているのは、彼女を倒した黒いマントの男達だけだ。
「ふ~ぅ・・・散々てこずらせてくれたぜ。なあ?」
得物の三連刃の赤い鎌を軽く振り回しながら、自分の体がぼろぼろなのも気にせずに飛段が立ち上がる。
彼にとっては怪我よりもオールバックにした銀髪が乱れた方が重要らしく、軽く手で撫で付けて整えていた。
恐らく戦闘に使ったと思われる不思議な丸と三角を組み合わせた円陣が、彼の足元でたっぷり血を浴びている。
「さすがに隙を作るのも一苦労だったな・・・砦1つまとめるだけの事はある。」
相棒に答える角都も、ここまでの多数の相手と手強かったらしい人柱力の相手で、それなりに消耗しているのだろう。
倒した相手へ送る評価の言葉には、少しばかり疲労の色がにじんでいた。
熟練の忍者同士の激戦により、力の温存を度外視した戦いを強いられたのかもしれない。
「とにかくさっさと拾って、押し付けてこようぜ。そんで、さっさとこの間逃しちまった七尾さがさねーと。」
今倒したくノ一をアジトの仲間に引き渡したら、今度はこの間振り出しに戻ってしまった方の捜索が待っている。
まだ気を抜いてもいられないのだ。
「捕まえたら終わりじゃないぞ。忘れたのか?」
「封印だろ?分かってるって。」
物覚えに自信があまりない飛段だが、この後の手はずなら確認されるまでもない。
子供扱いするなとばかりに、返事は投げやりだ。しかし、角都は別に怒らなかった。
「そうか。なら、俺達がいますべき事も分かってるな?」
「・・・おうよ。おらぁ、出て来いねずみ共!」
こちらに向かっている人間たちの気配や音に、当然2人は気付いていた。
飛段が赤い鎌を勢いよく振り回し、気配があるとにらんだ壁に命中させる。
当たった壁はもろく崩れたが、手応えはない。どこだと首を巡らせる暇もなく、床のコンクリートが突然砕けて陥没する。
飛段が描いた術の陣も崩れ、たちどころに形を失った。
「飛段!!」
「うわっ、今度は何だよおい?!」
飛段が転がるようにかわすと、今まで立っていた場所やその周辺の裂け目からマグマの壁が噴出し、猛烈な勢いで天井の高さまで噴き上がる。
「・・・やっかいなっ・・・!」
「くっそ、塞がれちまったじゃねーかよー!」
人柱力と距離が離れていたのが災いした。ちょうど分断される位置を塞がれてしまい、飛段は歯軋りした。
そこに、崩落した壁の隙間を縫って二手からクナイと長い針が雨のように飛んでくる。
もちろん2人ともそれぞれにかわし、あるいはいなす。うっとうしくはあるが、彼らにとっては牽制以上の意味は成さない。
「しかしいつの間に援軍を・・・4、いや5人以上か?」
雑魚は残らず死亡あるいは戦闘不能に追い込んだはずなのに、一体いつの間に助けを求めに出て行ったのだろうか。
あるいは、異変に気が付いて通りがかりの忍者が駆けつけてきたか。
「とにかく、とっととやっちまわねーと!角都、まだ戦えるだろ?!」
「追い払わない事には、人柱力も連れて行けないからな!」
飛段に言われるまでも無く、敵に対して排除以外の選択肢はありえない。
角都は瓦礫を吹き飛ばすため、マグマに塞がれていない方向へ向けて強烈な風圧を生む術を発動する。
壁が吹き飛び、巻き込まれかけて逃げたらしい人間の足が見えた。
「そこか!」

吹き飛んだ壁と、追撃で放たれた丸太のように太い水流から逃れ、ナルトは息を潜めた。
当たれば地平線まで吹き飛びそうな強烈な攻撃と、敵の位置を確信して吼えた角都の声にはどきりとしたが、慌てず反撃の機会を伺う。
別の物影からその様子を見ていた老紫は、仲間の次の一手を促すために再び術を使った。
―熔遁・溶岩柱!―
「またか!」
吹き飛んだ壁の穴の前に立ちふさがる角都が、邪魔をするマグマの柱に舌打ちする。
威力の高い水遁で勢いをそぎにかかるが、マグマを消すためには否応無く時間とチャクラを消費する。
―影分身の術!―
相手が視界を塞ぐものにてこずっているうちに、ナルトは手早く20体ほど分身を作り出す。
だが、すぐには物影から出させない。
(舞手を彩る篝火よ、魅惑の舞台の華となれ。妖術・火幻演舞劇。)
分身達を、狐炎が幻で大きな炎の姿に見せかけた。
そのまま彼らだけが付近にあった別の壁の隙間から飛び出し、矢継ぎ早に次々飛び掛って波状攻撃を仕掛けていく。
「ちまちまうっとうしいんだよ、こらぁっ!」
分身が化身した踊る炎は、生き物の動きでまつわりつく。豪快に三連鎌を振り回して難なく消すが、数が多く切りはない。
―へん、いくら弾いたって、次をどんどん出してやるってばよ!―
いつまで冷静に弾けるか見物である。ナルトは狐炎に目配せした後、また印を結ぶ。
作った端から狐炎が先程の術をかけ、新たな炎の分身が生まれていく。
「新手がどんどん押し寄せて来るぞ、気を抜くな!」
角都は水遁でマグマや分身に対処しながら、相棒にも目を配る。
「分かってるって!」
相棒に頼れない事は分かっている飛段は、鎌一本で角都よりはやや少ないものの確実に分身を消していた。
しかしチャクラもしくは妖力なら有り余る2人のえげつない連携により、
潰すペースを上回る速度で炎の分身は生まれ続ける。徐々に包囲網が分厚さを増していく。
―姿を見せないまま終わらせる気か・・・。
どうにか引きずり出さない限り、こっちが消耗する一方だな。―
角都は手を休めずに、状況を判断する。
悪い事に、先程人柱力を含む忍者達と交戦してチャクラがかなり消費されている。
これらをまとめて鎮火させるような大掛かりな術を使う事は出来ない。
飛段の術のための陣は平地でないと描きようがないし、今は自分に降りかかる攻撃を払うだけで手一杯とあまり当てにならない。
向こうは明らかにこちらを消耗させる戦法で攻めてきており、長引くほどに不利になるのは明白だ。
こうしている間にも、次の手を仕掛けてくる恐れがある。しかしじっくり考える暇はない。
「チィッ!」
取る物を取って逃げれば勝ちと、
角都が人柱力側のマグマを消そうというそぶりを見せたとたんに、割れた地面から次々と飛び出す岩の槍。
この砦の惨状を知りつつ勝負を仕掛けるだけあってか、全くもって抜け目が無い。
避ける暇に、これ幸いとばかりに炎の分身がどんどんマグマの壁に集まって始末を悪くしてくれる。
向こうの方が絶対的な手数が上であるからして、こちらが少しでももたつけばそれだけであちらが有利になると言うわけだ。
頭では角都も分かっているが、腹は立つ。そして、そこに更なる追い討ちが掛かった。
「・・・?」
「何だぁ?」
かすかに鼻や口の粘膜がひりつき、飛段は眉をしかめた。
すすと煙でやられたのだろうか。不快感を振り払おうと何度か咳き込むが、ひりつきは治まる気配がない。
彼の身に起きた不調を見た角都が血相を変えた。
「馬鹿、離れるぞ!」
「え?おい、何でだよ?!
おっぱらっちまえば、後もうちょいで二尾が捕まえられんだろぉ?!」
人柱力と2人を分断するマグマの壁だって、角都の水遁で冷やせば済む。
こんな横槍如きで逃げ出すなんて、飛段には我慢ならなかった。
「気づかないのか?!毒だ!
いくらお前が丈夫でも、このままここに居たら死ぬぞ!!」
煙にまぎれて届いた目に見えないものの気配から、角都は解毒が難しい毒の存在を感じ取った。
―こんなものをこれ以上吸ったら、アジトに帰る前に動けなくなる・・・!―
毒消しも無い以上、退路を断たれつつあるこの空間ではこれが命取りになる。
今は戦果を惜しむよりも、命を優先すべきだ。生きてさえいれば、チャンスはまたつかめる。
彼だって悔しくないわけがない。
歴戦を潜り抜けてきた自分が、姿さえ見せない相手にいいようにされている現状には怒りがこみ上げていた。
しかし熟練の戦士であるからこそ、それを堪えるべき時だとも分かっている。
「来い、こっちだ!」
ためらいなく強い水流を放つ水遁で炎の分身を弾き飛ばし、脱出路を確保する。
「くそっ・・・今度会ったら、ジャシン様の捧げ物にしてやる!」
逃走を促す角都に従ってその場を離れる直前、未練たっぷりに飛段が吐き捨てる。
そしてくるりと背を向け、あっという間に2人揃って瞬身で離脱した。それを見咎めたナルトが鼻白む。
「あいつら、逃げたってばよ!」
「深追いするな。あんなものはどうでも良い。」
「うっ・・・分かったってばよ。」
肩を掴んで制してきた狐炎に反論したいが、今は我慢しておく事にした。
大事なのは人柱力の安全確保であり、彼らを倒す事ではない。

ナルトが術を解除して用が済んだ影分身をさっと消す頃には、噴き出していたマグマも引っ込んでいた。
陥没した床も、砕けたコンクリートの下はいつの間にやら平らに戻っている。
もちろん大気に撒き散らされた毒も消し去られていて、崩れかけた大部屋はすっかり静まり返っている。
辺りに気配が無いのをじっくり確認していたのか、ここでようやく離れた位置に隠れていた老紫やフウが顔を出した。
「おー、無事かの?」
「じいちゃんのおかげでね。ところで、人柱力の姉ちゃんは?」
「はいはーい、ここだよー♪」
磊狢の明るい声が、人柱力が磔にされていた壁の真下から聞こえる。
瓦礫がもぞもぞ動いてどいてしまうと、下に隠れていた磊狢と件の人物が現れた。
「おおっ、でかしたぞい!」
「姉ちゃん、大丈夫?」
一同駆け寄って、近くで彼女の状態を見る。全身傷だらけだ。
動けなくなるほどなのだから当然重傷だが、気絶しているのか声をかけても反応がない。
「ちょっとお医者さん、早く診てあげて!」
「分かってる。」
フウの急かす声に応えて姿を現した鼠蛟は、慣れた手つきで冷静に診察を始めた。
当然着衣の下も見るであろうから、用の無い男性陣は適当に視線をそらして終わるのを待つ。
「それにしても、思ったより根性無かったのう。」
先程逃げていった暁の2人組について、老紫が感想を口にした。
気配で感じられる限りでは、様子を伺ったり戻ってきたり出来そうな距離に彼らは居ないようだ。
「うん。もっとしつこく攻撃してくると思ったってばよ。
けっこう、殺す気で来てたと思ったんだけどなー・・・。」
危うく壁ごと吹き飛ばされるところだったナルトは、そう実感していた。
数の暴力で畳み掛けたこちらの連携の甲斐があっただろうが、それにしても彼らが逃げ出すのはずいぶんと早かった。
「意外とチャクラが無かったんじゃないの?何だかばててるっぽかったじゃない。」
「こちらが仕掛けた直後に、そのような事も口にしておったな。
恐らく、いざという時は戦力を温存しろとでも言い渡されておるのだろう。」
替えが利かない人材を大切にするのは、裏で幅を利かせるかの組織も同じ。
砦をたった2人で襲うような無茶苦茶な戦略を実行出来る人材は、そうそう居ないものだ。
先程こそ拍子抜けの展開を見せてきたが、万全であれば、恐らくもっと余裕を持ってあしらっていたに違いない。
「ふふん、チームワークの勝利じゃの!」
「この調子で行けば、あいつらをぶっ潰すのも夢じゃないってばよ!」
適当に総括して、老紫とナルトがにわかに盛り上がる。
消耗したところに付け込んだ人外込みの6人がかりなら、
袋叩きに出来て当然だろうと横から言ったところで、全く耳に入らなさそうだ。
それをよそに、向こうではちょっとした進展があった。
「あっ、来たー♪」
「どうしたの?」
急に磊狢が嬉しそうな声を上げたのを不思議に思って、離れて話していた一同が人柱力の方を向く。
するとそこには、先程まで居なかった1人の女性が立っていた。
「助かったよ、あんた達。」
突然現れた彼女は、艶やかな笑みを浮かべて礼を述べた。
濁りがない澄んだ青い髪は緩く波打ち、下向きの輪を作るように結い上げている。
金銀の鈴が両端に飾られた結び目の下から余った部分が広がり、それだけで錦のように豪華だ。
黄緑がかったレモン色の瞳も、宝石のように美しい。袖無しの深いピンクの着物が、その妖艶な美貌を引き立てる。
「礼には及ばぬ。危なかったな。」
「この子が化けているとあたしは出れないもんだから、ヒヤヒヤさせられて困ったよ。」
チラッと治療してもらっている最中の器に視線をやって、彼女は苦笑いした。
どうやら人柱力が尾獣化している時は、妖魔は偽体を作って出て来れないらしい。
―あー、それでやられちゃうまでほったらかしだったってわけか。―
道理でと、ナルトは密かに納得した。
あの冷たい狐炎でさえ危なければ自分を助けてくれるのに、彼女が器の最大の窮地を救わなかった理由もそれなら分かる。
「のう姉ちゃん、名前は何じゃ?」
「あたしは鈴音。そこにいるユギトの中に居る、猫の女王さ。」
「鈴音さんか~。いや~、無事でよかったってばよ~。えへへ・・・。」
微笑みかけられただけで、美女に弱いナルトはもう顔が崩れきってだらしない有様。
照れ笑いする口元に、若干どころでは済まない下心が見えている。
つい今しがたに真面目に考えていた事の内容なんて、もう頭から飛んでしまっているだろう。
「可愛い坊やだねぇ。どうだい、あたしといい事する?」
「え?そ、それはちょっと、心の準備が・・・。」
女性経験の少なさを丸出しに、まんざらでもないのか戸惑ってるのかはっきりしない態度でおろおろする。
狐炎が聞こえよがしに露骨なため息を付いた。鈴音に冷ややかな視線を向ける。
「始まったな・・・御稚児趣味も大概にしておけ。」
「おや、人聞きが悪いねえ。あたしは可愛い子が好きなだけだよ。」
「わーっ、ちょっ、近い近い近いってば!!」
たしなめられても知らん顔の鈴音に、後もう少しで息までかかりそうな距離に詰め寄られて、ナルトはすっかりパニックに陥った。
初対面の相手のため、どこまで冗談か分からないせいも多分にある。
「りんりんってば、相変わらず燃えてる~♪」
ナルトの焦りを承知で、磊狢が声を弾ませて茶化した。助ける気はさっぱりない。
「御稚児趣味って・・・むっ、という事はこの間のホモショタっちゅーのは、二尾じゃったのか!」
「そう。守鶴と狐炎のせいで、言えなかった。言いたかったのに。」
「なーんだ。タダのショタなら、この間騒いだみたいなことにはなんないよね。」
老紫もフウも拍子抜けした。ふたを開けてみれば、何の事はない。
磊狢の「ホモショタ」という説明と、意地悪な狐狸が黙っていたせいで、すっかり勘違いさせられていただけだった。
「そうそう、あたしの趣味はいたって健全って事。
どうだい坊や?そんじょそこらのねんねと違って、あたしはいい事たくさん教えてあげられるよ。」
「えーっと、えーっと・・・。」
至って健全と言いつつ、ナルトの頬に片手を添えて覗きこみながら囁くのは、色っぽい含みたっぷりの誘い文句。
今までこんな経験なんて無かった彼は、ほぼ同じ高さから注がれる視線の直視さえ憚られた。
眼を泳がせつつ赤面するのが関の山だ。もちろん周りなんて目に入りもしない。
「悩むな、大うつけ!」
「ふぎゃっ!」
いい事の内容を絶賛妄想中だった脳天を殴打され、ナルトは悶絶した。
青少年の不健全な妄想は、痛みにより即刻退散だ。
「狐炎~、おまっ、手加減しろってばよ!!」
不意打ちの強打に涙目になって、頭を抑えたまま食って掛かる。
しかし殴った本人は、まくし立てる剣幕にも涼しい顔だ。
「手加減?目一杯してやっておるだろうが。」
「頭割れない程度とか、そういう落ちでしょ?!分かってるってばよ!!」
「ほう、よく分かったな。ようやく洞察力の種が植わったと見える。」
「種?!芽じゃないの?!」
「こら、騒ぐな。」
一通りユギトの治療を終え、塞ぎ忘れた傷が無いか確認中の鼠蛟に怒られ、ナルトはすごすごと引っ込んだ。
自分だけ怒られたような気がしていい気持ちはしないが、医者を怒らせていい事はない。
「・・・うっ。」
今騒がしくしたせいなのか。傷が癒えたちょうどいい頃合いで、ユギトがうめき声を上げて薄目を開ける。
まだ意識が定まらないのか、少しぼんやりした焦げ茶の瞳が露わになった。
「おや、気が付いたかえ?」
「鈴音・・・私は、あの時確か・・・。」
血に染まった自分の黒いシャツや、胴を守る薄紫の防具、
片側に雲の模様が入った黒いズボンまで、半身を起こした彼女は体の隅々を落ち着かない様子で見回す。
ユギトは、助かった事をにわかには信じられずにいるようだ。
普通は敵に負けた時点で無事で済むわけが無いのだから、当然の反応だろう。
「感謝おし。あたしの知り合いが、通りがかりに助けてくれたんだよ。
あの黒服のならず者は、尻尾を巻いて退散さ。」
「そうだったのか。ありがとう、あなた方は命の恩人です。」
鈴音の説明で事情を把握した彼女は、きちんと座りなおしてからナルト達に深く頭を下げた。
「礼はいらんぞい!美人のピンチを助けんかったら、男が廃るからの!」
「もー、調子いいんだから。アタシ達だって頑張ったでしょ!」
目立とうと胸を張る老紫の露骨な態度に呆れて、フウがわき腹を小突く。
「失礼ながら、お名前を――。」
「あんたを診てくれたのが鼠蛟で、鳥の長。橙の髪のお人が狐炎。狐さ。
緑の髪がむじなの磊狢。残りの3人が、それぞれの器さ。」
「四尾に九尾、それに七尾と・・・?」
「おれはナルト。こっちは老紫じいちゃんとフウ。」
目を丸くしているユギトの顔に気付かず、ナルトがさっと残りのメンバーの紹介を済ませた。
誰と誰が組なのかという疑問の解消にはなっていないが、その辺りの配慮は頭に無いらしい。
「こりゃ孫よ、無花果と呼べと言ったでじゃろう!」
「いやだって、それ本名じゃないじゃん!」
「ったく、男共は~・・・。えーと、お姉さんはユギト、でいいんだよね?」
また本筋そっちのけで騒ぎ始めた2人に呆れ返りつつも、無視してフウは話を続ける。
「ええ。二位ユギトと言う。この砦の責任者だ。」
「うわー、姉ちゃんすっげー!って事は、やっぱ偉いわけ?」
「ふふ、そこは、相応の地位と言う事にしておきましょう。
しかし、あなた方ほどの方々がこんな所においでとは・・・。一体どんな事情が?」
この場には鈴音の同輩とその器しか居ないと理解した彼女は、怪訝そうに眉をしかめた。
1組居るだけでも珍しい尾獣と人柱力のコンビが3組も居る事情なんて、当然だがそうぱっと思いつくものでは無いらしい。
「おれ達、みんなで人柱力を探してるんだってばよ。
その途中に風影の我愛羅から頼まれて、雷影さんへお手紙を届けに来たって訳。
そしたらいきなり砦が爆発したから、助けに来たんだけどさ。狐炎、証明書ー。」
やましい事情は何も無いので、ナルトは正直に事情を説明した。
狐炎が我愛羅から預かった証明書をユギトに渡すと、彼女は丁寧に封を開けて中をあらためた。
「確かに。しかし、こんなそうそうたる面々が、こんな使いなんて・・・。」
「砂は知っての通りの人手不足。鳥に届けさせたものと思えばいい。」
まだちっとも納得がいっていない様子だが、ここでいきさつの説明をするのもふさわしくないので、狐炎が適当にはぐらかした。
「ずいぶんと大きな伝書鳩に頼んだものだねえ。」
鈴音は意味深に微笑み、ちらりと鼠蛟に視線を送った。
そのものずばりの鳥である彼は、ユギトを手当てしている間の姿勢のままぼうっとしゃがんでいる。
視線には特別反応をしなかった。
「・・・。」
「まあいいさ。この顔ぶれだけで、訳有りなのは十分承知してるよ。
いきさつは後でじっくり聞かせてもらおうかねえ。」
「分かっておる。」
妙に意地悪に聞こえる声音に、事も無げに狐炎が返す。
彼女らから問いただされるまでもなく、ここまでのナルト達のいきさつの説明は必須事項だ。
「さてと。ユギト、そろそろ立てそうかえ?」
「ここまで手当てしてもらえば、もう大丈夫さ。」
ユギトは立ち上がってほこりを払う。足はしっかり地面を踏み締めていて、病み上がりの危なっかしさは欠片もない。
人柱力の常なのか、しっかりした手当てを受ければ回復は早いようだ。
「それにしても・・・我が里の手練れがここまでやられるとは。暁の奴ら、以前より確実に力をつけている。」
「前はそうでもなかったわけ?」
砦の被害を考えて顔を曇らせた彼女に、フウが尋ねた。聞かれた彼女は首を横に振り、こう答える。
「いや、元々あれは抜け忍組織の中でも上位でした。
それでも以前は、もう少し大人しかったのに。」
「とにかく、さっさと報告に帰らないとねえ。こんなんじゃ、放っておいたって大差ないだろうし。」
「ああ、もちろんすぐに行くつもりさ。」
鈴音の言う通り、守り手も全滅した挙句に手酷く崩壊した砦なら、報告に帰る間に空っぽにしてもしなくても似たようなものだ。
それよりも、この件を早急に里に報告する義務がある。
「もう行くのかってばよ。」
すっかり万全に戻されたとは言え、今傷が治ったばかりの体で動こうとするユギトにナルトが目を丸くした。
ぐずぐずいつまでも居られるような状況でもないが、彼にとっては驚きである。
「当然です。一刻も早く、この大事を雷影様にお伝えせねばなりません。
何しろ、私1人を残して全滅なんて有様では・・・。」
「もう1人いるはずじゃぞ。
さっき入口にいたくノ一なんじゃが、もしかすると帰って助けを呼びに行ったかも知れんの。」
老紫が横からすかさず口を挟む。
すっかりほったらかしにしてきてしまったからどうしているか分からないが、
ナルト達が到着した際に入口で会ったくノ一の事を忘れてはいけない。
このまま何も伝えずにユギトが帰ってしまったら、色々とややこしい事になるだろう。
「おや、しょうがないねえ。どんな子かえ?」
「えーとね――。」
磊狢が鈴音に適当に背格好を説明をする。それで彼女は理解できたようで、ふんふんとうなずいていた。
「じゃあ、あたしがお使いを出しとくよ。」
そう言って呪文を唱え、虎のように大きな猫の妖魔を1体呼びだした。
「ご機嫌うるわしゅう、大女将様。どうぞ何なりとお言いつけ下さいませ。」
「あんたも知ってるこの子の部下のワタって女に、ユギトは無事に里に帰ったって伝えてから、里の門まで送っておくれ。
まだこの近くにいるはずだそうだから。」
「承知いたしました。お任せくださいませ。」
用事を言いつけられた猫は、恭しく顔を伏せてからすぐにこの場を去った。
それを見届けると、鈴音はナルト達の方に向き直る。
「さあて、と。それじゃあ、これからあんた達を里に案内してあげないとだね。
あたしの周りに来ておくれ。」
「遥地翔じゃな。ラッキー♪」
彼女の手招きに、待ってましたと老紫が胸の前で両こぶしを固めた。
しめたという歓喜の念が露わなガッツポーズだ。
「もう山道がやだったんだね・・・おじいちゃん。」
おれも嫌だけどと付け足して、ナルトは術者のそばに寄っていった老紫に続く。
1分足らずで全員が有効範囲に集まりきった事を確認してから、鈴音は遥地翔を唱えた。


後書き
戦闘シーンの手直しに時間をかけていた盛夏、当初の予定よりも時間がかかってしまいました。面目ないです。
今回の戦闘は、連携で畳み掛けて押し切る袋叩きをイメージにして書いています。
絶好調なら不死コンビも大暴れしたでしょうが、今回はまだ活躍はお預けです。
それと、二尾のコンビがようやく登場しました。
いつぞやの「お稚児趣味」のネタも割れましたが、ナルトは若干骨抜きにされる心配が出たような出ないような。
それでは感想、ご意見(今回は特に戦闘)お待ちしております。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―19話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2010/11/23 00:57
―19話・嫌な事は向こうから―

鈴音によって、ナルト達は雲隠れの里の門に案内された。
ユギトの口添えと我愛羅から預かった証明書のおかげで検問は問題なく通り、
一行は雷影邸で接見許可が降りるまでの間、雷影邸の客室で待機を命じられた。
退屈と戯れさせられながら、おおよそ2時間近く経った頃。
ようやくお呼びが掛かり、ナルト達は雷影が客人と会うための部屋に通された。
部屋は広く、雷影の席にのみ横に細長い机が置かれている。
一同は主に話をする狐炎や磊狢を前にして、無口な鼠蛟や口をあまり出す気のない老紫、
貴人と話すには敬語の習熟度で不適格と判断されたナルトとフウは後ろに立つ。
「話は聞いている。ユギトの窮地を救ってくれたそうだな、礼を言うぞ!」
一段高くなった席から、鍛え上げた小麦色の巨躯に似合いの力強い声でねぎらういかめしい顔の男。
生まれつきらしい陶器のように白い髪と、長の羽織の2つの白が、50近いであろう年に似合わぬ肉体美を強調する。
彼こそがこの雲隠れの長である雷影だ。傍に控えたユギトが、こちらに軽く一礼する。
横の雷影があまりに立派な体格なので、女性の中では長身なはずの彼女がまるで子供のように小さく見えた。
「礼には及びませぬ。
先程そちらのユギト殿にお渡し致しました風影様からの文、ご高覧頂けましたでしょうか?」
「うむ、引渡しの件は了承した。返事は後程渡そう。」
「よしなにお取り計らいいただきたく存じます。
時に雷影様。砦を襲った曲者については、もうご存じであらせられますか?」
名目の用事が大した物ではないので、狐炎はいきなりと言っていいタイミングで切り出した。
やはり客人を待たせている間に報告が上がっていたらしく、雷影は深くうなずく。
「うむ、暁だと聞いている。
今回はユギトを狙って仕掛けてきたそうだが、お前達は奴らを知っているのか?」
「はい。少しですけれど。」
「あいつらは、人柱力を狙ってるんですってばよ。そこをさっきおれ達が見つけて、追い払って。」
磊狢が答えた後を引き取って、ナルトがつたない丁寧語で続ける。
ここで雷影の目が鋭くなった。
「ほう。確かか?」
「無論。時に雷影様、滝隠れの里の崩壊については如何でありましょう?」
『!』
雷影とユギト、双方に緊張が走った。
「何故、それを知っている。」
「我々は風影様の密命を受け、暁討伐に必要な情報を集める隠密として諸国を巡っております。
彼の里の壊滅の沙汰も、それにて知りえた次第。」
事前に仲間同士で打ち合わせた筋書き通りに、狐炎がよどみなく述べる。
鈴音を通じてこちらの正体を口止めしてあるので、ユギトも黙って聞いていた。
―・・・大丈夫かな?―
こればかりは彼女の良心に賭けるしかないので、
ナルトやフウはいつばらされやしないか気が気ではなく、ちらちらと何度も様子を目で伺う。
幸い、彼女は正体について知らん顔をしてくれているようだ。
「なるほど。ではユギトを助けたのも、風影殿の命令の一環か?」
「左様にございます。奴らの悪事を未然に防ぐ事も、風影様の御心に適う事と存じますれば。」
「それならお前達の用事は、まさかこの些細な手紙1つでは収まらんだろう。
本当の用件を申してみろ。」
察しのいい雷影は、すぐにそう促した。ここまでは順調と、密かにナルトが胸をなでおろす。
我愛羅の名前を勝手に借りて話を進める事に少し良心が痛むが、この方がスムーズに事が進むのだから仕方がない。
「風影様は、暁の悪行を憂えておいでです。
しかしご存知の通り、砂の里はまだまだ軍縮の影響からの回復途上。ですから、多くの忍者を出せません。
何より彼らの目的は人柱力。一国の問題で収まる事でもありません。」
磊狢は神妙な顔で、狐炎同様すらすらとあらましを説明する。
「つまり我が里に、暁討伐への協力を要請したい、と言う事か?」
「はい、まさしくその通りです。」
ご名答とばかりに、磊狢は人懐っこい笑顔を作った。
「暁か・・・。」
「雷影様、如何なさいましょう。」
ユギトが意向を伺うと、彼は眉間に軽くしわを作りながら考え込む体勢に入った。
さて、どのような見解を示してくるだろうか。ナルト達は余計な事は言わず、固唾を飲んで静かに見守る。
と、その時扉の外に誰かがやってきた。
「そやつらの口車に乗せられるな、エー!」
誰がと思う暇もない。数m後ろの扉が開くと同時に、鋭い叱責の声が空気を突き刺した。
『!』
『?!』
いきなり割り込んで水を差してきたのは、長身に豪奢な絹の唐衣を着た男。
生来のものではあるのだろうが、雷影とはまた違う色の浅黒い肌に、まるで夜闇をつむいだような濃い黒紫の髪。
対照的に、目は薄氷のような冷たい氷色。
一部を団子状に結って残りを背に流す髪は、黒い金属に宝石を飾った髪留めと布でまとめている。
濃い青と紫の地の衣は、貴族や大名が好んで着る古来からの王朝風の刺繍が施されていた。
「・・・大名?」
街中では絶対に見ない出で立ちに、ナルトはそれだけ呟いて首をかしげるのがやっとだった。
「お殿様のお成りって、ところかの?」
格好の雰囲気に呑まれたフウは目を点にしているし、老紫もつい率直な感想を漏らす。
「これは陛下。このようなむさ苦しい部屋に、どのような御用でございましょう?」
いきなり名前で怒鳴りつけられたにもかかわらず、雷影は嫌な顔1つしない。
ナルト達への対応とは打って変わり、まるで自分が主君の前に出て来たかのような低姿勢だ。
「わざとらしい物言いはやめよ。お前、こやつらが何か知っての事であろうな?」
ふんと鼻を鳴らす態度は傲岸で、とても里長に対するものではない。
しかしユギトにも全く彼を制する様子がなく、神妙に控えたままだ。
さらに、見回した妖魔達の顔が露骨な嫌悪感で埋まっているのを見たところで、ナルトはぴんと来た。
(フウ、こいつがあいつらが嫌がってた奴だってばよ!)
(えっ、ほんと?)
多分この男が、先日の船旅で亡者の魚が襲ってきた際、彼らを揃って憂鬱な気分にした話題の人物なのだろう。
ナルトの耳打ちでフウは目を丸くしているが、彼女もじきに納得するはずだ。
何故彼に対して雷影が敬語を使うのかはまだ分からないが、それも話が進むにつれて明らかとなるだろう。
「貴様ら。余の下僕を煽り言いくるめ、何を企んでいる?」
不機嫌さをむき出しにして、ぎろりと氷の目がにらむ。
それを斜め正面で受け流す狐炎の柘榴石の目もまた、氷のように冷たい。
「目障りなねずみの退治への協力を要請するだけだ。闇雲に勘繰るな。」
「ぬけぬけと、よくも言えたものだな・・・!!」
「そう言われても。」
一層唐衣の男の機嫌が悪くなったのを見て、鼠蛟が面倒くさそうな顔で息をつく。
あからさまに煙たく思っている事は、鈍感なナルトにでさえ一目瞭然だ。
「皇ちゃーん、何でせめて後1時間くらい後に来ないのさ~。
お忍びが台無しなんですけど~。」
「だからっておぬし達、いきなりすっぴんに戻るのはどうなんじゃ?」
敬語から日常語への切り替えだけでは留まらない落差が激しく、礼儀にはほぼこだわりのない老紫でさえ、口を挟まずにはいられない。
この空気の変化について行くのは一苦労である。
「申し訳ありませんが・・・進めさせていただいても、よろしいでしょうか?」
ユギトが丁寧に申し出ると、唐衣の男は見下した目で一瞥した。
「卑しい身の分際で、余に物申すか?黙っておれ。」
「えっ、だってアンタが邪魔で話が進まな――。」
横からフウが口を挟んだその瞬間。彼女の胴めがけて何かが飛んできた。
すぐさま狐炎が太刀で叩き落し、磊狢が前に出てかばう二重の防御で事なきを得たが、彼女は青くなる。
状況に対する自分の理解が、事態が終わる頃にやっと追いついた事にだ。
誰も動かなかったとしたら、何が起きたか理解する間もなく、彼女は倒れていただろう。
「い、いきなり何するんだってばよ!!」
「皇(おう)ちゃん、ちょーっと挨拶にしてはきっついんじゃないの?」
我にかえってから食いかかるナルトと、一見ふざけたようで不機嫌さは隠さない磊狢と、2人分の抗議が男に向かう。
だが、何も悪いと思って居ない彼は、それを鼻で笑って済ませた。
「無礼者に身の程をわきまえさせる事こそ、君主の勤め。
貴様ら如きに意見される筋合いなど無いわ。」
「これは磊狢の供だ。貴様の口出しなぞ、無用と言っておこう。」
攻撃を弾いた太刀・白粋を今にも突きつけそうな剣呑な目。部屋の空気が凍りついた。
「恐れながら陛下、今回は我々人間の世界に関わる事にございます。
どうかこの場は、わしに任せて下さいませんか?」
空気を変えたのは雷影だった。唐衣の男のいぶかしげな目が彼に向く。
「これらは、お前の何十倍と生き長らえる者共だ。お前程度にいなせるものか。」
「確かにそうおっしゃるのもごもっともであります。しかし、陛下のお心に背くような真似は致しません。
ですからここは――。」
「分かった分かった。良い、許す。
その代わり、こやつらが良からぬ細工をせぬよう、見張りはするぞ。」
男はそう言って懐から巻いた布を取り出し、紐を外す。
広げた布を床に落とすと、数倍の大きさに伸びて厚みも増し、中に浮く布の腰掛けになった。
ここで座って見ている、という事らしい。
「ありがたき幸せ!・・・さて、先程は知らぬことだったとは言え、
一種族を預かる高貴な方々に、真に失礼な口を利いてしまいましたな。何卒お許しを。」
椅子に座ったまま、雷影は頭を下げた。
しばしそうした後、ゆっくりと顔を上げた彼は姿勢を正して再び口を開く。
「何故、身分を隠していたかは、もはや伺いません。
改めてお聞きしましょう。あなた方の目的について。」
「我らの目的は1つ。暁の手に落ちる前に、世界各地の人柱力を集める事。
そしてゆくゆくは奴らを滅し、脅威を取り去ることのみにございます。」
改めての問いかけに対しては、もはや包み隠しておく意味は無い。
狐炎が先程は言わずにいた事を披露する。
「何と・・・つまり、我が里のユギトともう1人をも加えたいと?」
「大体そんな感じですね~。あ、すぐにとは言いませんけど。」
狐炎達の事を明かされても取り乱さなかった雷影も、さすがに一行の真の目的には戸惑ったようだ。
何しろ、各里にとっての秘蔵の兵器を集めているという話なのだから、こちらの意図を掴みかねるのだろう。
「そうですか。では、今まで具体的にどのような事をなさっておいでですかな?」
「まず、わしとこの連れがそこの2人と旅先で偶然出会い、
近頃暁というならず者が出ており物騒だという事情で、行動を共にすることを決めました。
そしてそれからは仲間の安否を尋ね回っていたその折、ある事件に遭ったのでございます。」
「その事件とは、まさか暁が?」
「左様。滝隠れの里の壊滅です。雷影様もご存じの事かと。」
「・・・確かに滝近辺の密偵からの速報で、我が里にもその情報は届いています。
厳密な状況報告は、まだ来ておりませんが。」
ユギトが険しい顔でそう言った。
距離は大分離れているはずだが、さすがは五大里の一角。耳が早い。
「滝隠れの被害は、住民の大多数が死に絶えるほどのひどいものじゃった。
わしらは暁に差し出されかけていたこの娘を間一髪連れ出し、事なきを得ましたがの。」
「・・・。」
―フウ・・・。―
あの時の惨状は、まだ記憶に新しい。
顔を伏せたフウの背をぽんぽんと撫でるように軽く叩いて、ナルトは無言で慰めた。
「風影様は、ここまでのいきさつをご存じなのでしょうか?」
雷影はもちろん、ユギトもナルト達と我愛羅の関係を知っているわけではないので、懐疑的になっているようだ。
彼女がこちらにかけた言葉には疑念がにじむ。
「もちろん。」
「しかし先程の書状では、あいにくとそこまでの確認は取れませんな。
真に申し訳ないことだが、この場にいない方のご意志は改めて確認させていただきたく思います。」
「では、使者をあちらへ?」
「それでもよろしいのですが、風影殿ご本人の耳のみにお入れしなければなりませんのでな。
あなた方へ2つの依頼をさせて頂き、それによりお話を信じるかどうか決める事に致そうかと考えております。」
「それは?」
「まずは風の国・灼熱砂漠においでいただき、溶岩石を後ほどお渡しする麻袋に2つ分お持ちいただきたい。」
「しゃ、灼熱砂漠ぅ?!」
老紫が素っ頓狂な声を上げた。
「じ、じいちゃん!」
「声大きい!」
若手2人が大声を注意するが、彼はまだ目を白黒させている。
一体何をそんなに驚くような事か知る由もない彼らは、年長者らしからぬこの失態に呆れかえるばかりだ。
ところが、態度が急変したのは彼ばかりではない。
「・・・雷影様、お戯れも大概になさいませ。」
何かが癪に触ったらしい。すーっと冷えた声で、狐炎が凄むような言葉を持ち出した。
しかしこれ位の反応は想定内だったようで、一瞬ひきつったものの雷影は落ち着いている。
「戯れではありませぬぞ。普通の人間ならば不可能でしょうが、
もしあなた方が風影殿の助力を得られる立場であられるなら、話は別でありましょう。
こちらの依頼のため、あなた方に風影殿から便宜を図って下さるはず。」
「そして採取していただいた石に、風影殿の印が押された書状の添付をお願いいたします。」
―何それ。石と我愛羅って、別に関係ないじゃない。
このおじさん、アタシ達の事便利屋か何かと勘違いしてるんじゃないの?―
先程の事で用心しているフウは、不満を横のナルトにも耳打ちせずに心に留め置いた。
眉間にしわこそ寄ったが、見て見ぬ振りなのか、向こうは視線もよこしてこない。
「さらにこやつの信を得たくば、守鶴の玉璽も添えて持て。
それならば人柱力との対面も許される身分を得ているという、何よりの証だ。」
唐衣の男が口を挟む。彼が言う玉璽とは、人間なら大名が、妖魔なら王だけが使う印鑑だ。
人柱力と妖魔の行動パターンを考えれば、確かにこれは信頼度を量る目安としては確実なものだろう。
「かー君が僕らみたいに外にいるって保証はー?」
「余はもちろん、貴様らさえもこの姿で顕現しているというのに、奴1人姿を見せられない道理は無い。
それに、持てぬのならば後々貴様らの不利になるだけの事。」
意地悪い追求をするが、男はきっぱりと言い切った。言い草は出会い頭同様尊大だが、一応理屈は通っている。
ナルト達の足元を見ているのが癪に触る点だが、これにいちいち噛み付いても仕方が無い。
「・・・。雷影殿、あなた様もそのようにお考えか?」
「僭越ながら。」
「じゃがそれなら、わざわざあんな所に行く道理は無いと思いますぞ。
風影と守鶴、2人分の印で十分ではないかと。」
何もわざわざお使いなんてさせなくても、砂隠れにさっさと向かわせて、持ってこさせれば済む話だ。
それで一体何が不足なのか、少なくとも老紫には理解出来ない。
「確かに風影殿の件だけなら、印や玉璽が押された書状だけで十分でしょう。
しかしこの採取は、あなた方がわれわれ雲隠れのためにどこまでお力を振るって下さるか、
それを測らせていただくためのものであります。どちらが欠けても、こちらとしては本意ではありませんな。」
(つまり・・・どういう事だってばよ?)
言い回しのくどさに惑わされたナルトが、小声で呟く。
“確認ついでに、使いっぱしり。それも、無理難題級。”
(えー・・・。)
鼠蛟の念話による簡潔かつ分かりやすい説明により、向こうの図々しいと言っても良さそうな言葉の内容を遅ればせながら理解する。
それは狐炎の声も冷たくなって当然だ。どう無理難題であるかは、後で確認するとして。
「・・・で、もう1つは?」
「このユギトと共に、我が国の白竜谷の瑠璃の湧き水の採取をお願いいたします。
こちらはユギトがあなた方を知るためにご用意させていただきました。」
「それはつまり、こちらに彼女を同行させることを検討しているって事ですね?」
すかさず磊狢が確認を入れる。
わざわざ案内に彼女を付けると言う事は、おそらくそういう意図であろう。
「ええ。すぐにとは行きませんし、確実にというお約束は出来ませんが。」
「それでは、こちらの利がほとんどありませぬな。
何一つ、そちらが確実になされる行動がないではありませぬか。」
「そうそう、それじゃあおれ達、ただ働きですってばよ!」
あくまで雷影は、こちらと風影の関係を見極めるために依頼を出している。
今までの流れだけで解釈すると、こちらは風影との繋がりが認められる以上の見返りはないとも取れる。
味方と確定しない集団にユギトをすぐに貸せないのは仕方がないが、
信用の確認を取りに行かせた後、あちらがナルト達にする事が明確ではない。
正体を知られた弱みはあるが、こちらは通りがかりとは言えユギトを助けた立場にある。この条件で呑むわけには行かない。
「では、何をお望みに?」
「対暁における協力態勢を、風影様と築くこと。
情報の共有はもちろん、人員の提供といった事柄も含めてでございます。」
現段階でユギトと鈴音の加入が叶わなかったとしても、
雲隠れには暁に対して危機感を持ち、調査や活動妨害などの具体的な取り組みをしてもらわなければいけない。
ナルト達としては、暁には出来るだけ動きにくくなってもらわなければ困るのだ。
「もし、出来ないと申しましたら?」
「暁の討伐にお力を貸せぬと仰り、なおかつ単独での対策も講じられませぬままならば、
それなりの代償はお覚悟いただかねばなりませぬな。」
「暁と繋がりがある、と思われる・・・とか。」
「なっ?!」
誹謗中傷レベルの踏み込んだ発言に、今日初めて雷影が目に見える動揺を現した。
完全にうろたえているようで、これは好機だ。
「これをいわれのない中傷と証明なさりたくば、それなりの格好を見せていただきたいものであります。
誉れある雷の忍が長の名に恥じぬ、毅然としたお姿を。」
鼠蛟の揺さぶりに動じたところで、狐炎が畳みかける。
後方で見ている男から不快感のこもった視線が飛んできているが、しれっと受け流した。
「・・・よろしいでしょう。いずれにせよ、今回の砦の件はすぐに殿にお知らせしなければなりません。
その際に、砂と連携を取って暁対策に当たれるよう、殿に申し出て参りましょう。」
ユギトを彼らに貸すことは約束できないし、必ず約束できる事はこれ位だ。
さもなくば、雲隠れの里に不名誉な嫌疑がかけられてしまう上に、
ナルト達の風影との繋がりが本物の場合は砂隠れの里からの信用もなくす。
「風の国、及び砂の里は我が国とは長く友好関係にあります。
殿は今回の事態を受ければ、すぐに動かれることでしょう。
それが、あなた方の望む形であるという保証は致しかねますが。」
「今日のところは、それで結構と致しましょう。」
ユギトが念を押してきたが、別にそれは構わない。
雷の国の大名は、大戦が終わっても軍備の増強に変わらず熱心な人物だと、他国にも知られている。
防備を脅かす犯罪者組織を見過ごしはしない事は予想が付く。
同盟する風の国との協力に乗り出すかまではまだ不透明だが、少なくとも単独での対策は打ち出すはずだ。
注文はまだ付け足りないが、これ以上は用事を果たしてからが賢明だろう。
「老紫。紙と、筆。」
「おお、そうじゃったそうじゃった。」
いそいそと腰の袋から、白紙の巻物と筆ペン状の特殊な筆を出す。
どちらも耐水性を持っている代物で、念書や契約書の類にはうってつけだ。
老紫から磊狢、そしてユギトに取り次いでもらい雷影の手元に送る。
「雷影様。ご面倒ですけど、こちらに今のお約束を書状にしたためて下さい。
万が一後で揉めると、お互いのためにならないですから。」
「承知いたしました。」
すらすらと筆で巻物に今の約束事項をしたためて、最後に正式なサインを書く。
「では、内容はこちらでよろしいでしょうか?」
「ええ、よろしゅうございます。」
広げて見せてきた内容に不足は無く、軽くうなずいて了承する。
墨はすぐ乾く品なので、一式を再びユギトが受け取ってこちらに返した。
「済んだか?」
扇をゆったり扇ぎながら、唐衣の男が口にした。
「ええ。この後は、今晩お泊まり頂く部屋についての話をいたしましょうかと思っております。」
「部屋はどうする?まさか、下男下女が使うような場に通すのではあるまいな。」
「出来る事でありましたら、貴賓室にお通しすべきであるとは存じますが、何分この方達はお忍びの身。
かしこまり過ぎたおもてなしは、帰ってご迷惑になってしまわれるかと思われます。」
妖魔の中では最も位の高い3人を含む一行だが、表向きはあくまで風影からの手紙を持ったただの使者。
本来の身分にふさわしい待遇は当然不釣合いなものになり、周りから怪しまれてしまう。
「・・・まあ、部屋は致し方ないとしよう。」
どういうわけか、雷影が一行を普通の部屋に泊めるのはあまり気が進まない様子を見せる男だが、
進言は無碍に出来ないと思ったらしく、乗り気ではなさそうながらも理解を示した。
「どうせろくに出せぬであろうお前の部下の代わりに、余の下僕にもてなさせる。よいな?」
「承知いたしました。そのようにいたしましょう。」
部屋も並みのものしか用意出来ないなら、もちろん接待をする人間の数も多くは出せない。
わざわざ妖魔から人手を出すというのは、それでなければ最低限の格好が付かないという事なのだろう。
「うむ。では、余は戻って指示を出しておく。後は任せたぞ。」
「はっ!」
これで一通り彼の用は済んだのだろう。
座っていた腰掛けから降りて元の巻いた布の形に戻し、きびすを返してあっさり部屋を出て行った。
来る時も去る時も勝手な男である。
「・・・??」
「え?今の、どういう事だってばよ?だって・・・え?」
先程はこちらを捕まえて雷影を惑わす悪者扱いをしていたのに、何故待遇にうるさいのだろう。
大人の世界の事情にはとんと疎い若手2人の頭の上には、ぽよんぽよんと大きな疑問符が飛んでいる。
「他種族の王を満足にもてなせぬという噂が立つのが、奴は気に食わぬのだ。
王としての体面にはうるさい男だからな。」
「体面って、そんなに大事?」
「意外と。」
鼠蛟が一言で言い切った。妖魔3人中2人がそう言うのならそうなのだろうと、疑問に思った2人はひとまず理解した。
「ふーん・・・いきなり殺そうとして来る奴の癖にね。」
「だから皇ちゃんは、超気難しくって面倒くさいんだよー。」
確かに面倒くささは折り紙つきだなと、ナルトはこっそりうなずいて同意した。


後書き
珍しく登場直後に名前が出ませんでしたが、八尾・皇河の登場です。
原作の牛タコさんと違って性格悪いので、
とても来て欲しくないタイミングでやってくるように話を作ってみました。
今回一番大変そうな人は、多分雷影さんです。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―20話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2010/12/21 01:05
―20話・太鼓持ちと我侭陛下―

ここは会議室。一行は別室でまた待たされた後、ユギトに案内されて食事のためにここにやってきた。
本来もちろん食事の場にはふさわしくないが、
一行の6名という人数及び、内3名が妖魔王という高貴な身であるからして、
皇河が狭い客室でのもてなしは招いた側の恥になると強弁し、雷影が妥協して空いた手頃な会議室を急遽会食場にした。
蛇達がしつらえた室内は、床は毛足の長いじゅうたん、壁は艶やかな厚地の布で覆われている。
陳腐な言い方をすれば、まるで高級飯店さながらの風格。
元々あったはずの備品も面影も、どこかに追い払われてしまったようだ。
中央の2つの卓は2色に分かれ、椅子をいくら引こうがぶつからないほどゆとりを持って設置されている。
より高級そうな卓の方に妖魔達が通され、それ程でもない方に人間達が通された。
女官の短いが堅苦しい挨拶の後にようやく食事が始まったのだが、何とも浮世離れした感覚は否めない。
「な、何だかなあ・~・・。」
箸で酢豚をつつきながら、引きつった顔でフウがぼやいた。
ここには給仕のために4体の蛇の女官がいる。
いずれも唐衣をまとった美女の姿をしているのだが、微笑んでいるだけで最低限度以上の口は利かない。
主人の言いつけなのだろうが、そもそもこういう貴人向けのもてなしに慣れていない身には落ち着かないものだ。
料理の味はとても良く、なじみのメニューでも段違いの美味なのだが、味わう心の余裕が乏しいのが本音である。
「フウ、もっと食わんと胸が育たんぞい?」
「何でそこで胸が出てくるわけ?!ほっといてよ!」
茶々を入れた老紫に向かって、泡を飛ばす勢いで怒鳴り散らす。
胸は関係ないし、大体食べて素直に育てば苦労はない。フウの神経は思い切りささくれ立った。
「はいはい、そんなに怒らないのー。
あ、そうだ。お姉さん達、もうこの後はこっちで好きにしちゃうから、いったん皆下がって欲しいな。
それで、食器下げる時にまた来てくれる?」
磊狢は隣の卓の喧嘩を笑いつつ、さらりと女官にそう申し付けた。
「給仕は無用と仰るのですか?」
4人の中で一番格が高い、人間で言えば30代の外見の女官が、彼の言葉に少し目を丸くした。
「連れがこのような厚遇に慣れておらぬのでな。食が緊張で細るのだ。
主の咎めがあるのなら、客のわがままとでも気まぐれとでも言っておけ。」
「それでは、御用がございましたらこの呼び鈴にてお呼び下さいませ。すぐにお伺いいたします。」
狐炎が理由を言えば特に彼女は異を唱える事もなく、微笑みを作ってそう言った。
テーブルの上に、細かいツタの細工が施された呼び鈴が置かれる。
「皆様方、どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいまし。」
拱手(きょうしゅ)の礼を取り、女官達は退室した。隣の部屋に待機するのだろう。
ドアがわずかな音をたてて閉じてから少しすると、はーっと露骨に息を吐いた音が部屋に響く。
「う~~~、緊張したってばよー・・・。」
「ねー。部屋に入る前は待たされるし、
待ってる間からお茶とか何とかでさっきの人達がずーっといたし、もー。」
よほど肩が凝る心地がするのだろう。フウは露骨に息を付いて、背中を丸める。
カウンター席での食事すら嫌う彼女はもちろん、人見知りはしないナルトでさえ、ここでのもてなしは気疲れしてしまった。
「そーそー。変な事出来ないし疲れたってばよ。何でじいちゃんだけ平気なわけ?」
何しろ、まずは待遇を一緒に出来ないとばかりに妖魔と人間で待つ部屋を分けられて、その上でのもてなし。
正直、3人とも礼儀作法にはまるで自信がない人間ばかりだったので、
妖魔と分けられたのはその意味でも気が気ではなかった。
そんな中、老紫が1人だけ堂々と接待を受ける光景は残る2人には異様だった。
「だってわし、鳥の家で慣れとるし~♪」
「あーっ、何それ!ずるいってばよ~!」
「ふっふーん、わしセレブー。」
「・・・喧嘩はどうでもいいから、椅子を持ってこちらへ来い。」
「え?もしかしておかずくれるの?」
「食う必要の無い者が、無駄な食い気を出してどうする。いいから食べておけ。
道中では滅多に食えぬ高級品だぞ。」
「マジ?!よっしゃー!」
ナルトがいそいそと椅子、ついで皿とご飯を持って狐炎の席の隣に来ると、箸で取ったあわびの身が皿に転がり込む。
ほのかに酒が香る、肉厚な存在感が食欲を否応無くそそった。
「・・・っていうか、よく見るとアンタ達の皿があからさまに豪華なんだけど、やっぱ王様だから?」
同様に移動してきて磊狢の隣に座ったフウが、あからさまに自分達の卓と様子が違う光景を見て呟く。
ご飯を別にすると人間達の皿は汁物と肉、魚の計3つだが、
妖魔達の皿はそれに加えて点心や甘味があるため6つもある。
載っている料理も、後者に使っている素材の方が豪華そうに見えて仕方がない。
「そう。本当なら、この部屋も分けるつもりだったと、思う。」
「何で?」
「お前達は、いいところで従者扱いだからな。本来、身分の低いものは貴人と同じ席で食事は取れぬ。
都合でそれは出来なかったが、料理の格だけはあからさまに分けてきたという事だ。」
30人は優に入れそうなこの会議室であるが、正式なやり方ならいくら広くても貴人と従者を混ぜたりはしない。
雷影が用意できる範囲では二部屋は適わなかったから、向こうは仕方なく一緒にしているだけなのである。
「うー・・・なんかなあ。もし我愛羅が居たらさ、そっちにもおれと同じの出すかな?」
妖魔の部下になった覚えは無いのに、従者扱いは面白くない。ナルトは渋い顔をする。
「人間の間で身分があると言っても、妖魔にとってみれば獣の群の長とそれ以外のようなものだ。
こういっては少々障りがあるが、あやつは正式な軍の将などではない。1皿増やすのがせいぜいだな。」
我愛羅の立場は、言い換えれば大名のお抱え傭兵集団の長であり、領主としては国内に数多ある町を1つ預かるに過ぎない。
種族を抜きにしても、一種族を束ねる王とは比べるべくもないのだ。
「やだな~。あ、それちょうだい。」
「全部はやだよ~。」
愚痴を言いつつ、フウが遠慮なく磊狢の八宝菜からうずらの卵をさらっていく。
人目が気にならなくなったら、急に普段どおりの食欲が戻ったらしい。
「ん~、うずら最高♪」
「わしにもあわび・・・。」
ご馳走に舌鼓を打つ若手2人をうらやみつつ老紫が鼠蛟の皿に箸を伸ばすと、スーッと皿が逃げた。
当然、皿の持ち主が逃がしたのだ。
「嫌だ。」
「何でじゃー!」
「皿ごとさらうから。」
鼠蛟はそう言って、食われる前にとさっさとあわびを自分の口に放り込む。
横で自分の人柱力が騒ごうが、知った事ではないらしい。
すでに人前に見せられない、よく言えば普段の雰囲気の食卓になってきたところで、
もらったあわびをしつこい位よくかんで味わっていたナルトが、思い出したようにこういった。
「あ。あのさー、そういえばさっきの偉そうな奴。
皇ちゃん・・・って磊狢が言ってたけど、本名言ってたっけ?」
「奴は皇河(おうが)だ。蛇の長であり冥王の異名を持つ、妖魔界の嫌われ者だ。
先程の通り、絵に描いたような暴君でな。気に食わねば平気で切り捨て、目を付けた女は人妻であろうと後宮に入れる。」
「頑張った子にはご褒美一杯くれるんだけどさー。他は正直ちょっとね~。
あっちこっち攻めてくるからやな感じだし、愛が無いんだよね愛が。」
えびのシュウマイをほおばる合間に、磊狢が大げさに肩をすくめて言った。
「ふーん。アンタが昔読んでくれた絵本のお殿様みたい。」
「ほんとだってばよ。何でそんな奴が、お前らみたいに何千年って王様やってられんの?」
今回は磊狢の風変わりな言い草も、意味が合っているように聞こえる。
確かに愛情なんて欠片の持ち合わせもなさそうだ。
「奴は恐怖で部下を抑える。罰に男女の別は無論無く、逆らえば配偶者と子の命は無い。それ以外の親類の位も取り上げだ。
さすがに繁殖力の低い妖魔でやれば損の方が大きい、一族郎党皆殺しなどと言う事はないが、
身内にまで己の累が及ぶとなれば恐ろしくて敵わぬ。」
そうそうと、鼠蛟が無言で相槌を打つ。皇河の政治は、いわゆる恐怖政治なのである。
蛇族で最も力の強い皇河に敵う者が入るはずもなく、大人しくしているのだ。
「とはいえ、王の不在でかなり荒れたらしい。多分、一番。」
「そう言えば、おぬしが言っとったの。」
「え、おじいちゃん聞いたの?」
妖魔の裏事情を老紫が知っているのは意外に感じて、フウが聞き返した。
話を振られた側はそうだとうなずく。
「そうじゃ。確かもうずーっと前じゃがの。どっかで蛇の群が中央に歯向かって、鎮圧されたっちゅう話じゃ。」
「皇ちゃんが身動き出来ない間に、お城を押さえようとしたんだよ。
でも、皇ちゃんの奥さん兼懐刀のこわ~~いお姉様達に、まとめて成敗されちゃったんでしょ。
大体想像付いちゃうよ。」
実のところ、それが誰も逆らえない要因なのかもしれない。
妻という名の参謀達は、夫の留守を預かり厳しく目を光らせる。
彼女達は皇河の寵愛を得るためか、それはそれは熱心に働くのだろう。
「旦那が旦那なら、奥さんも奥さんか。あーやだやだ。どうせ性悪女ばっかりなんでしょ?」
「否定はせぬ。男の趣味が悪いのは明白であるしな。」
「うーん・・・聞けば聞くほど、とんでもない奴だってばよ。・・・で、何でそんな奴があわびくれんの?」
性格を知るにつれて大きくなったものの、自分の常識ではさっぱり出せない謎について、
ついでとばかりにナルトは質問を投げかけた。


一方その頃、ここは雷影の私邸の一室。噂をされている当人・皇河は、不機嫌そうな顔で長椅子にかけていた。
「ご機嫌斜めで駄目な感じ?八つぁん、ご機嫌直してくれよー。」
雷影と同じ髪と肌色の、黒いサングラスで目を隠した筋肉隆々の男。年の頃は30代半ばから40代。
白いマフラーと支給品の胸当てしかつけていない上半身は、片方の肩にある鉄の一文字と、左目の下の2本の入れ墨が目を引く。
体格がいいから威圧感を与えそうな風貌だが、軽い言い回しのせいかちっともそんな雰囲気はない。
「うるさい。文句はお前の兄に言え。」
見た目どおりの機嫌の悪さのようで、皇河はすげなく言い捨てる。
「おー、つれないねえいけずだねえ♪ま、ここはお酒でも飲もうぜお蛇様ー。」
「余の機嫌が悪いのは、お前が妙に節をつけて物を言うせいも多分にあるのだぞ。」
文句を言うが、適当な鼻歌交じりに杯に酒を注ぐ男は、ちっとも耳に入っている様子ではない。
機嫌取りの晩酌が始まろうという時、ちょうど雷影・エーが帰ってきた。
「おお、ビー。帰ったか。」
「へいブラザー♪今日はびっくりどっきり大事件があったらしいじゃねえの。」
ビーと呼ばれた男は、酒を注ぎ終わると振り返って兄を出迎えた。
「うむ。ユギトの砦が襲われてな。ユギトは無事だったが、助けたのがそうそうたるお方達だった。
驚け、何と陛下と同じ妖魔王と、その連れの人柱力だったのだ。しかも3組も。」
「えええっ、そりゃすごいぜ!・・・で、なんでうちに?」
ビーは聞いたとたんに大げさなくらい驚いたが、すぐに声を落ち着けて聞き返した。
彼の疑問の答えは、前に居るエーではなく横に座っている皇河から返ってくる。
「風影とやらの使いを名乗ってやってきたのだ。奴らめ、何を思ってか人柱力を集めて回ると言いおった。」
「へえ・・・で、来たのは誰なんだい?」
「鼠蛟、磊狢、狐炎・・・と言っても、お前達にはぴんと来んか。四尾・七尾・九尾だ。」
「ブラザー、これって確か。」
思わずビーは声を潜めた。エーは応じて深くうなずく。
「うむ、間違いない。全員、里から行方不明になっている人柱力がパートナーのはずだ。」
人柱力3人の顔は素顔も含め雲隠れにも全員分の情報はなかったが、
鼠蛟はずいぶん昔から人柱力が里に不在である事、狐炎は最近木の葉が何やら騒がしい事、この位の情報として入ってきている。
「となると、滝隠れ崩壊で里を無くしたのが七尾の人柱力・・・。」
「暁の連中、裏稼業じゃ飽き足らねえよって感じじゃねえ?」
「ふん、身の程をわきまえん奴らめ。
下賤の思惑はともかく、あのような賊を放置しても害にしかならんぞ。早々に始末をつけよ。」
「もちろんでございます。ですが、たちの悪いことに奴らは所属していた元の里で一、二を争う手練ればかり。
活動範囲も広い上に下部組織の支援も厚く、討伐のためには世界中の裏組織を調べ上げる必要が出て参りますな。
一朝一夕に片付けるには、あまりに難物であります。」
皇河の命令に逆らうつもりは毛頭無いものの、エーはやや歯切れの悪い返答をした。
暁は各国の抜け忍達の中でも、特に能力の高い実力者が集まる特別な組織だ。
彼らだけでも厄介だが、それを支援する組織が世界各地で活動しており、その繋がりは把握するだけでも骨が折れる。
国からの援助が潤沢で力がある雲隠れでも、安請け合い出来ない。
「難しいのは理屈にならん。お前は余の下僕だろう。
君主がせよと言ったのだから、何があろうと全力で尽くすのが臣下の務め。お前のもう1人の主もそう命じるはずだ。」
自国に楯突く賊の類を放っておけとは、大名もまず言わないだろう。
「まーまー、そうブラザーをいじめないでおくれって。すぐには片付かなくても、俺達雲忍優れ物♪
たちの悪い連中は、太刀ですっぱり真っ二つってな♪」
「ビー・・・。お前も暁の標的なのだ。分かっているのか?」
かなり心配そうな様子で、エーは弟をたしなめる。しかしその気持ちを知ってか知らずか、ビーはあくまで楽天的だ。
「分かってるって。ブラザーに心配かける事なんてしないさ。」
「お前のその不真面目な態度が、もっとも疑われる元なのだぞ。
本当に分かったと申すなら、もっと神妙にせよ。」
「おーっとお叱りは勘弁だぜ。平気平気。当分は里で大人してるって。」
「そうか、それならちょうどいいぞ。今度の任務は取り消して、しばらくは里内の仕事をしてもらうからな。」
「えっ、しばらくっていつまでだい?」
任務を取り消して里にという兄の言葉に、ビーは目を丸くする。
皇河も無言ながら、エーの顔を見た。
「安全が確保されるまでだ。あの砦でも落ちたのだぞ?!」
「けど、いつまでもは無理だし無茶だぜ。俺が持ってる仕事とかどうすんだい?」
性格こそおちゃらけているが、ビーは兄同様里の要の1人。当然大事な仕事にも関わっている。
あまりに長期に渡って仕事に穴が開くような事になったら、周りが大変だ。
本人の言うとおり、無期限なんて事になったら大事になってしまう。
「そんなものどうにでもなる!お前の安全の方が何倍も大事だろう!!」
「けどさー。」
「けどもへったくれもあるか!わしはお前を守るために雷影になったのだぞ!!
家族1人守れなくて何が雷影だ!何なら明日からでもわしの護衛の任に――。」
それじゃあとビーが反論しかけると、エーは雷でも落としたような勢いで声を張り上げてくる。
しかし、これはさすがに職権濫用だ。
「おいおい、それはいくら何でもやりすぎだって、行き過ぎ行き過ぎ!」
いくら身内でも、それは道理が通らない。ビーは声を大にして、大真面目で止めにかかった。
「ええい、よさんかうっとうしい!」
「しかし陛下、ここはビーによく言って聞かせねばならんのです!」
「何言ってんだよブラザー、俺はもう子供じゃないっての。」
「貴様ら、切られたくなくば今すぐ黙れ!!」
『・・・。』
堪りかねて脅しつけ、やっと喧嘩が収まった。
「まったく、余に手間をかけさせるとは愚の極み。少しは反省せんか。」
「申し訳ありません。」
「エーよ、ビーを里に置く判断は余とて悪手とは思わんが、いい加減反発されぬ言い様を考えろ。
この手の喧嘩はとうに聞き飽きたぞ。」
何で自分がいちいち諭さなければという苛立ちを露わに、しかし皇河の他に怒る人間もいないのでそうたしなめる。
「面目ないことでございます。ビーの事になると、どうしても・・・。」
何度も言われている事をまた注意されて恐縮し、エーは神妙な態度で皇河に頭を下げた。
同じように怒られたはずのビーは、はははとそんな兄を笑っているだけだが。
「だからブラザーは心配性なんだって。
大丈夫、大丈夫。先の事はこれからきっちりばっちり考えようぜ。」
「お前のそういう所がハラハラさせられるんだがなあ・・・。」
あくまで楽観的な弟に肩を叩かれている兄は、渋い顔をしている。ちっとも安心出来ていないのは明らかだ。
「何言ってんだよー。今までだって、兄弟で何とかしてかんとかしてきたじゃんか。」
「~~・・・。」
年が親子程離れている上、まだ5歳程度の時に弟が人柱力に選定されたものだから、エーはことのほかビーを可愛がっている。
人外の力を行使する人柱力は、国や里からは人間ではなく兵器扱い。
異質な力や修行中の不安定さなどで恐れられ、差別もされる。
それを不憫に思ったエーは、弟のために血のにじむような努力を重ね、雷影の座を勝ち取った。
一般人が家族の愛情秘話とむせび泣くような過程だったのだが、肉親の情にすら薄い皇河には理解しがたい事も数多い。
例えば、いつまで経っても子供扱いが抜けない辺りなどが。
「ご歓談中、失礼いたします。」
そこに入ってきたのは、給仕に出していた女官のまとめ役だった。報告に来たようで、皇河の前へやってくる。
「何だ、奴らが苦情でもくれてきたか?」
「いいえ、陛下のおもてなしにはご満足でおいででいらっしゃいます。
お食事中はわたくし共に下がれと仰られた他は、これと言ったご希望もなく。
先程、ご指示通りのお部屋へお通しした次第にございます。」
「ふむ、食事中に怪しげな様子は?」
皇河は企みなどがあったらすぐに知れるよう、密かに部屋の様子を探るよう部下に言いつけていた。
すると女官は、小骨でものどにつかえたようなすっきりしない顔で逡巡した後、ためらい混じりで口を開く。
「・・・これと言って、特にはございませんでした。」
「なんだその顔は。余に隠し立てか?」
眉間にしわを寄せたきつい目で見据えてやると、女官は蒼白になった。
「いいえ、滅相もないことでございます!
ただ・・・従者に御自らお料理を下賜なさっておいでありまして、それが臣の目には奇異に映ったという事でございます。」
「それだけか?」
疑いはまだ解かず、咎め立てする声音のまま問いを重ねる。
女官は今にも震えだしそうで、顔や胸までべったり床についてしまいそうなほど低く伏せた礼を取る。
「はい、誓ってこれのみにございます。ですから、どうかお慈悲を・・・。」
「だってよ。ほらお蛇様、そーんなおっかない顔してないで許してあげなって。」
もう顔も上げられず、すっかりすくみ上がってしまった彼女を可哀想に思って、ビーはすかさず助け舟を出してやった。
たまに本当に彼は部下を切ってしまう事を、良く知っているからだ。
「ふん、まあ良かろう。
粗相は余の顔に泥を塗る事と心得、明日の出立まで丁重にもてなせ。」
「承知いたしました。高貴な方々が、ご自身の宮にいらっしゃるようにおくつろぎ頂けるよう、最高のもてなしをいたします。」
やっと面を上げた女官の顔には、ようやく血の気が戻り始めた。姿勢を改めてから、また伏礼を取る。
「お前はもう下がれ。余はこれより少し席を外すとしよう。」
「どちらへおいでになられるのでしょう?」
「客の元に顔を出すだけだ。すぐに戻る。」
尋ねたエーに振り向きもせずに返事をして、皇河は部屋を出て行った。
向かうのはもちろん、自分にとっては忌々しい同族の客人達の部屋だ。


「邪魔をするぞ。」
扉を数度叩いてから勝手に開けて、皇河はナルト達が泊まる部屋に足を踏み入れた。
「なーにー、皇ちゃん。今いい所なんだけど。」
ちょうど明日の打ち合わせを始めるところにやってきた彼を、椅子に座る磊狢が不満たらたらの声で迎えた。
「主が客に顔を出して何が悪い。いちいち癇の虫に触る無礼者め!」
「で、用は?」
横目で狐炎が問う。こちらもあまり皇河の応対をしたくないようだ。
「余が命じた通りになされたか、様子を見に来ただけだ。
ふむ、見た目だけは繕えたようだな。息の詰まるような狭苦しさはごまかせんが。」
高級飯店に化けた会議室同様、高価な調度にそっくり入れ替えられた客の寝室は、
一部が床寝を強いられる手狭さながら、それなりの体裁を得ていた。
―それ、お主が言ってええんか?―
あけすけな主には色々と聞きたいところだが、うかつな直答はフウの二の舞になるので老紫は口をつぐむ。
「そういえば、鈴音はどうした?姿を見せぬが。」
好んで口を利きたい相手ではないが、そこに居るのでと狐炎は話を振った。
皇河は返事を言う前に、ふんと不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「余が知るわけなかろう。器の住まいに戻ったのではないか?」
「なるほど、そうか。」
ユギトの家は雷影邸の外だろうから、帰っているとすれば近くに鈴音が姿がないのも道理だ。
彼女自身はここで仕事があるわけでも無し、ナルト達を送り届けてしばらく経った頃には帰ってしまったのだろう。
「狐炎、お前話でもあったの?」
「いや。居場所が気になってな。」
「ふーん。」
それ以上は口を挟まず、ナルトは軽く流した。狐炎の考える事なら、特に心配も憶測も要らないだろう。
「で、不都合はないのだな?」
「今は。」
顔も向けずに、これから使う予定の地図を整えながら鼠蛟が答えた。
(ついでだから、朝ご飯何時か聞いてくれない?)
自分で無ければさっきの痛い目は無いだろうと、フウが横の磊狢に耳打ちする。
「娘、聞こえておるぞ。」
「!」
「明朝、夜明けを少し過ぎた頃には侍女をやる。そのつもりでおれ。」
一瞬ひやりとしたが、皇河は意外にも普通に答えた。
どうやら非礼に当たらないぎりぎりの線だったか、機嫌がそこまで悪くなかったか、どちらかのようだ。
用は済んだとばかりに、すぐに部屋を出て行った。
「行っちゃった。」
「・・・マジで見に来ただけ?おれってばてっきり・・・。」
何をしていくか特に予想はしていなかったものの、
まさか本当に様子を見に来ただけとは思っていなかったので、人柱力達はあっけに取られている。
「奴とて色々と言いたい事はあろうが、ひとまず悪事を働かぬのならば良しとしておるのだろう。」
「ふーん。フウに攻撃したと思ったら豪華なご飯出すし、客の扱いにうるさいし。
君主の振る舞い?ってのにこだわる奴って、よくわかんねーってばよ。」
嫌う相手に豪華待遇の謎は、皇河がとかく自分の王者としての体裁にこだわるからだと説明してもらったが、
ナルトとは価値感が違いすぎてまだまだ腑に落ちてこない。
「凶暴な見栄っ張りだから、仕方ない。」
「言いえて妙じゃの。」
鼠蛟の形容に感心して、老紫は深く納得した。


翌朝。朝食の後、雷影邸の人目に付かない奥の部屋で、ユギトが鈴音と一緒に待っていた。
「おはようございます。お待ちしていました。」
入ってきた一行を、ユギトが挨拶して出迎える。
「待たせたの。」
「その格好だと、山と砂漠で手分けするのかえ?」
鼠蛟と老紫以外の4人が、頭からすっぽり全身を覆うフードつきの外套を羽織っているのを見て、鈴音が察した。
厳しい日差しをよけるために人間は着て、妖魔も人間から見て違和感が無いようにしたのだろうと考えたのだ。
「そちらは鼠蛟と老紫に任せる。残りで砂漠だ。
たかが使いで、むやみな大所帯になることもあるまい?」
「そうかい。じゃあ決まりだねえ。それじゃあ2人共、うちのふつつか者と一緒においで。」
「きっつい山らしいし、じいちゃんは気をつけてくれってばよ。」
打ち合わせした昨日、白竜谷がどんな場所かはおおまかに聞いている。
熱地獄よりは老体に優しいだろうが、ナルトは少し心配していた。
「ふーん、心配されるようなじじいじゃないぞい!」
「年寄り。」
「余計なお世話じゃ!」
「では、これが溶岩石の採取に使っていただく麻袋です。」
「はいは~い。」
喧嘩する老紫と鼠蛟を横に、ユギトが磊狢に採取用の麻袋を2つ渡してきた。
茶色くてごわごわしたそれは、彼が試しに広げるとかなり大きい。
「あ、結構あるね。大物だ~。」
「ゴミ袋みたいだってばよ。」
「アンタね。・・・でも、ゴミ袋みたい。」
あけすけな発言を咎めてはみたものの、確かにどう見ても、大きなポリバケツ用のゴミ袋と似たり寄ったりの寸法だ。
これが2つ。しかも帰りは中身が重い岩でぎっしりとくる。それだけでもかなりきつそうだ。
「さて、ここでいったんお別れだな。」
「では、お気をつけて。」
「うん。そっちこそ気をつけてねー」
「では行くぞ。――思いよ描け、遙かな地平。焦がれるこの身を望んだ楽土へ。妖術・遥地翔!」
狐炎が術を唱えた。ナルト達の周囲の空間が歪む。
そしてその歪みと共に姿が掻き消えて、目的地へと旅立っていった。


後書き
八尾・皇河に続いてビーがようやく登場しました。
兄の雷影共々、ナルト達さえドン引きの皇河と上手に付き合える珍しい御仁です。
次はナルト達側でお話が進むので、風の国に舞台が移ります。
今回もご意見ご感想、誤字脱字の指摘等、お待ちしております。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―21話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2011/02/14 00:30
―21話・熱風が吹く里―

遥地翔でたどり着いたのは、砂の里からかなり離れた辺り。街道から逸れた砂漠の真ん中だ。
里は見えるが、建物が小さく見えるほど遠い。街道の方を見やれば、歩いている人々の姿が小さく見える。
「あっつー・・・いきなり放り出されると、きっついなあ。」
「もっと町の近くには出れなかったの?」
「わしも直に来たことがないのだ。諦めろ。」
遥地翔が記憶にない土地に行けないという法則にのっとれば、
お世辞にも目的地に近いとは言いがたいここが彼の知る限りの最寄りのようだ。
「えー。狐炎は、守鶴と昔あっちで会ったりしなかったっけ?」
「あいにく、こちらに来る時は奴の居城で会っていたのでな。
いちいち不都合なあそこの住まいは使っておらぬのだ。」
狐炎は術を使わないと話も気兼ねする我愛羅の家は避け、用事があれば行き慣れた守鶴の本拠地を選んでいた。
だから、砂の里には行った事がないのだ。
「それに、いきなりお家の中に行って、出た先に人が居たら大変だもん。
どうせ暑さに慣れないといけないんだし、頑張ろうよ。ね?」
「はいはい、ここまで来たら諦めますよーだ。」
磊狢に言われるまで考えないようにしていたが、この暑苦しい普通の砂漠以上に目的地は暑いのだ。
これ位でへこたれていては、灼熱砂漠には立ち入る事すら適わない。
「ここで体を慣らしといたら、あっちでも何とかなる?」
「いや、慰めにもならぬな。あそこがいかに過酷か、昨日も話しただろう?」
「聞いてたけど、砂漠自体ほとんど来た事ないし、そもそも岩砂漠ってのがまだイメージつかないってばよ。」
砂漠と言えば、今周囲に見えるような一面の砂地という先入観があるので、
岩しかない暑い荒地がどんなところか、ナルトはちゃんと分かっていない。
「そもそも気温・・・えーっと、60度だっけ?あれがアタシ分かんない。
ここだってもう死にそうな位暑いのに、これより暑いって何なの?」
ありえない。と、フウがぼやいた。
昨日妖魔達から聞かされた時には話半分だったが、暑さがいかに常識外れか、彼女もやっと身にしみてきた。
「でもさ、守鶴に頼めばもっと涼しい所通れるって言ってたじゃん。何とかなるってばよ!」
「でも、そっちもここと同じ位暑いって言ってなかったっけ?」
「・・・うん。」
「超憂鬱なんだけど・・・アタシ、生きて帰れる気がしない。」
熱を溜め込む溶岩石が地層に詰まっているせいで、かの地は夜でも気温が40度を切らない。
その熱気は話によれば地下にも及び、やはり暑いという。
地下は日差しがないだけで、この鉄板の上のような熱気からは逃げられないのだ。
フウは正直に言って、かなり先が思いやられた。


―風影邸―
「灼熱砂漠だと?!」
「が、我愛羅・・・そんなびっくりしなくてもいいってば。」
人払いを済ませた執務室で対面し、ナルトから事情を話して早々のこの反応。
突然の依頼だから驚くだろうとは彼も予想していたものの、実際の我愛羅の反応はそれ以上に大きかった。
「いくら妖魔がついてるからって・・・雷影殿は正気か?俺達でさえ、あそこへ行く依頼は問答無用で却下するぞ。」
「えっ、そうなの?」
「もう聞いてるだろうが、あそこは人間が行ける所じゃない。まったく、何で・・・。」
「だから、守鶴に相談しに来たんだってばよ。何とか出来るって言うからさ。」
ぶつぶつと言い連ねる言葉をさえぎって、ナルトはそう持ちかける。
「でも、かー君居ないね。もしかして奥さんの所行っちゃった?」
広い部屋を軽く見回す磊狢の目には、守鶴の姿は入ってこない。
居ればすぐに分かるはずなのだが、この間彼がさらっと紹介した彼女の元へ行ってしまったのだろうか。
すると、我愛羅が首を横に振った。
「母さんは嫁じゃない。・・・まあ、それはそうと残念ながら今は留守だ。」
『えーっ?!』
ナルトとフウ、ついでに磊狢の口から声が上がった。
「いやー、申し訳ありません。うちの大親分は、この間から木の葉に行ったきりでして。
まだお戻りになられないんですよ~。」
我愛羅の机の近くに控える留守番の砂狸が、困った様子で事情を説明した。
それを聞いたとたん、ナルトの眉が引きつる。
「我~愛~羅~?おれがこの間さぁ、気をつけろって言ったばっかりじゃなかったっけー?」
思わず机に乗り出して、至近距離から半眼で親友をにらむ。これには我愛羅も目が泳いだ。
先日の忠告を無碍にしてしまった以上、彼の立場は劣勢止む無しである。
「お前も人使いが荒いな。あやつがうるさかろうに。」
この所業には狐炎も呆れ、はあっとため息を付いた。
彼は先日の仕事の件は覚えていたが、あれから1週間以上も経ってまだ終わらないような仕事とは思っていなかった。
表向きの立場があるとはいえ、守鶴も良く我慢するものだという感想が湧く。
「いや、ご心配は無用だ。」
「我愛羅はちょっと位気にしろってばよ・・・。まあいいや。いつ帰ってくるわけ?」
「明後日だ。」
不運は続くものである。空気がどんより重くなった。
「・・・またおれ達ってば、泊まり?」
「そうも行かぬ。あまりこちらへの滞在は延ばせぬぞ。そこの狸、主人への取次ぎを頼めるか?」
我愛羅の机のわきで待機している砂狸の男に、狐炎が話を振る。
彼は即座にうなずき、大きな尻尾を緩く揺らす。
「へいっ、ただいま。えーと、ご用件は灼熱砂漠への立ち入り関係だけでしょうかね?」
「あ、後もう1個!玉璽がいるからって言っといてね。」
「灼熱砂漠に玉璽ですか。確かに承りやした。では!」
直後に呪文を唱えた砂狸の姿が周囲の歪みと共に消える。木の葉に居る主人の元へ、すぐに連絡が付く事だろう。
いったんは足止めを予想して落ち込んだ空気も持ち直す。

そうして待つ事ものの10分足らず。先程の砂狸と一緒に、守鶴が現れた。
すぐにやってきてくれたのは嬉しいが、喜ぶのは早計である。
何しろただでさえ傾斜がきつい眉がさらにつり上がり、今にもそこいらのごろつきの胸倉を掴んで締め上げそうな顔だ。
言うまでもなく、機嫌は悪い。うかつな事を言ったら、即火の粉が飛んでくるだろう。
「っとに次から次に面倒事持ってきやがるよな~~ぁ、てめぇらはよ。」
(露骨に機嫌最悪だってばよ・・・!!)
予想はしていたが、鬼のような形相にナルトでさえ引く。
大概怖い物知らずで一言多くなりがちな彼であるが、今は黙って置いた方が賢明と本能で悟る。
「ごめんね~、かー君に恨みはないんだよー。だってさ、雷影おじさんがわがまま言うんだもん。」
「だからっていきなり呼びつけんじゃねぇよ!
こちとら腐れまゆなしのせいで、過重労働強いられてんだぜ?!」
「何してるか知らないけど、そんなに大変なの?」
怒鳴り散らす守鶴に、ある意味ナルト以上の怖い物知らずが首をつっこむ。
しかしこんな時でもフウの性別は幸いし、かっかしていた彼の声音は次の言葉からころっと変わった。
「そうだぜ~。何しろ、こいつのお守りに自分の執務がかぶってくんだ。
ったく、ろくに嫁と愛を語らう暇もねぇってことよ。おかげで加流羅には、寂しい思いをさせちまってなぁ。」
「マジで?狐炎は、そんな事無さそうだってばよ。」
ふざけ半分のこれ見よがしな語り口を差し引いても、
確かに我愛羅からよこされる仕事に加えて、自分の実家の仕事まで来るのでは大変だろう。
しかし、一緒に旅している狐炎や磊狢、鼠蛟にそんな様子はない。ナルトは少し不思議に思った。
「旅暮らしではろくな政務は執れぬ。だから、重要なもの以外の決済は向こうに任せてある。
定期的な報告は来ておるぞ。お前達が休んでいる間にな。」
「うちもナル君達と一緒になってからはそんな感じ。滝隠れに居た時は、ちょこちょこ書類仕事したけどね。
という事で、定住してるかー君は・・・ふう~。」
なるほどそういうからくりかと、疑問を呈したナルトも納得の説明だ。
確かに根無し草状態の主に出来る仕事なんて、あまりなさそうである。
するとここでフウは我愛羅に思うところがあったようで、口を開く。
「アンタさー、さすがにそれって可哀想じゃない?」
『え?』
こいつに可哀想?という疑問で一致した我愛羅とナルトが、声を揃えて聞き返す。
彼女の意見は彼らにとって斬新だった。
「えって何?アタシ変な事言った?」
「いいんだ。どうせこいつは飲む打つ買うの傍若無人。こっちも色々と迷惑を被ってるんだから、相殺だ。」
我愛羅の日常を知らないフウには分からない事だが、守鶴との生活は真面目な彼にとって非常に我慢ならない事も多い。
しかし、具体的な行状を教えたわけではないので、彼女はきょとんとした顔をする。
「そうなの?よく分かんないけど、アンタ達も仲悪いねー。
何か男同士ってだめみたいだけど、ちょっとは仲良くすれば?」
チラッとしか見ておらず判定外の雲隠れの2ペアを除いたら、尾獣と人柱力のコンビは揃いも揃って仲が悪い。
ナルトと狐炎にしろ、老紫と鼠蛟にしろ、日頃相方に飛ぶ文句が罵り文句である。
率直な感想だったのだが、何故か彼女に向けられるナルトと我愛羅の目が妙に優しくなった。
「フウ・・・男には、譲れない価値観って奴があるんだってばよ。」
「そうだ。そこが相容れない相手とは、とても親睦を深められるものじゃない。」
珍しく深い含蓄の匂いさえ漂うナルトの言葉。我が意を得たりと、我愛羅は大いにうなずく。
「だまされんなよ嬢ちゃん。んなご大層なもんじゃねえ。
単に気に入らねえってのを、大げさに言ってるだけだからよ。」
「ちっ・・・。とにかく、用件に戻ろう。
灼熱砂漠での溶岩石採取と、俺の印、それからこいつの玉璽が欲しいって事だったな。」
口喧嘩でのされる前に、我愛羅は素早く話を本題にそらす。
「そうそう。それが雷影おじさんのお願い。」
「しっかし玉璽寄越せかよ。人間如きにしちゃ、ずいぶんご大層な注文じゃねぇか。」
「向こう・・・雲にいたのが、鈴音と皇河でな。皇河め、雷影にわしらの正体を暴きおった。
やり取りを察するに、雷影の身内が奴の器のようだ。」
「なるほど。それで事情を探るためにそんな事を。」
里長が妖魔の事情を知る立場にあったのなら、妖魔の王の印である玉璽を要求する事もうなずける。
雷影は我愛羅がナルト達にどれだけの信用を置いているのか、
人柱力と接触を取れるかという点で量ろうとしているのだろう。
「でさ、やってくれる?」
「印が必要ならいくらでも押そう。それより問題は砂漠だ。
本当にあそこでないと駄目なのか?溶岩石なら死の砂漠辺りでも取れるぞ。あそこもかなり暑いが・・・。」
死の砂漠は灼熱砂漠と同じ方角にある砂漠で、これまた他より暑いという場所だ。
「あいにく、他では質が良くない。かなり奥地に行けば別だが、それでは片道に2日はかかる。」
「そうか・・・それだと、ナルトとフウが一緒だとつらいな。あそこも消耗が激しいところだ。」
死の砂漠は名前の通り、何人もの旅人の命を奪ってきた砂砂漠だ。
ルートを間違えれば、問題の灼熱砂漠に入ってしまう点も恐ろしい。
今回の場合に問題なのは、うろつき回る時間が長くなり、先方が満足できる品の入手に手間がかかってしまうことだ。
「だから、灼熱砂漠の地下道を使いたいんだってばよ。守鶴が知ってるって言うからさ。」
「地下道なら通してやるよ。でなきゃてめぇら人間は、あっと言う間にお陀仏だ。
1里どころか1キロも持たねぇ方に、1万両賭けてもいいぜ。」
「やめろ、縁起でもない。」
ニヤニヤ笑う守鶴に対して狐炎が眉をひそめた。
彼がいったん金を賭けると、博打の要領で一山当てられるからたまった物ではない。
「で、お前に1万両賭けられずに済むには何が要る?」
冷静に我愛羅が問うと、少し考えてから守鶴が口を開く。
「地下に行くから、水は素人がよその砂漠に行く時の3割増し位でいいだろ。
飯はすぐ傷んじまうから、予備の水と一緒に召喚用の印付けて部屋に置いかねぇと。」
「何か大がかりっぽいね。」
食料1つ、水1つの扱いも普段の旅路とは勝手が違っている。
荷物を運ぶ負担や手間を増やさない事が、かなり大事になってくるのだろう。
「当たり前だねー。砂漠って怖いんだよ~。」
「特にそこの2人は、根本的にこの酷暑に耐性がなっておらぬしな。」
温暖な木の葉の里や滝の里で育ったナルトやフウは、砂漠の暑さに不慣れだ。
そんな身で土地の人間も逃げ出す場所へ行こうと言うのだから、案内側も念入りな支度になる。
「うぐぐ・・・そう言うお前らは?」
「この程度の暑さで死にはせぬ。かといって、灼熱砂漠に好んで行きたいとは思わぬがな。」
妖魔は頑強な体なので、気温の高低で生死の心配はまずしない。
ただ、育った環境や種族で得手不得手はある。
火を操るとはいえ、狐炎も直轄地が火の国領土なので、砂漠の極端な環境は好きではない。
「あそこは岩ばっかりだもんね~。あんまり面白くないよー。」
「オレ様達砂狸の聖域に向かって、ずいぶんじゃねぇかあ?おいドMむじな。」
尻馬に乗って悪口を言った磊狢に、また機嫌を悪くした守鶴がすごんできた。
彼の地は文字通りの灼熱地獄だが、守鶴とその眷属にとっては重要な土地なのだ。
「えー、だってぺんぺん草も生えてないじゃーん。」
「あんな軟弱な草が生えるか馬鹿。」
「いや雑草だってばよ、あれ。」
砂漠でも育つ多肉植物に比べれば暑さと乾燥には貧弱だが、気候穏やかな暖地育ちには釈然としない。
とかく常識外に生きていそうな印象の守鶴には、言っても無駄な事かもしれないが。
「ああそうだ、まゆなし。」
「何だ?」
「オメーも連れてくからな。覚悟しとけよ。」
立派な嫌がらせされているはずなのだが、我愛羅は意外にも黙ってうなずいた。
「えっ、何で我愛羅まで?風影の仕事はどうするんだってばよ。」
「仕事は大丈夫だ。もう今日の分は終わっている。それに、お前とフウが心配だからな。」
こいつだけだと、という注釈は賢く省略し、我愛羅は当然と言う態度で答えた。
「だとよ。」
(・・・さては守鶴、長期赴任で力の目減りが気になったな。)
(があ君の反抗期が酷いんだよ・・・。)
ひそひそと妖魔2人が話す。偽体は力の供給源から一定距離離れると、供給が断たれてしまう。
我愛羅と離れる事が多い守鶴は当然対策を講じているだろうが、充填チャンスを逃したくないに違いない。
護衛の都合とも取れるが、それなら留守番を預かるさっきの狸で十分だ。
「えー、でも危ないんでしょ?いいの?」
「ああ。さっき、ナルトに怒られたばかりだしな。」
フウに言われるまでもなく、本来なら里が仕事を請けない危険な場所に、里長自らというのは大胆だ。
確かに一緒に居るようにという意味で叱ったが、しっくり来ない展開である。
「あれは今日限りじゃなくて、ずーっと気をつけて欲しい事だってば。分かってんのか?」
「分かってる。だから、今から実践すると言うわけだ。」
「うーん・・・何かごまかされた気がするってばよ。」
真面目な我愛羅に何かおかしいかと顔で語られてしまったら、ナルトは何となく追及の手が緩んでしまう。
それでも渋い顔をしたまま、ぼやく事は忘れなかった。


一方その頃。木の葉の火影邸の小さな会議室では、不穏な空気が漂っていた。
そこで行われているのは、火影の綱手、相談役のホムラ・コハル、
そして暗部を養成する根という組織の長であるダンゾウを交えた話し合い。
ナルトの件が議題であるが、その途中で相談役から出た提案に綱手の柳眉がつりあがる。
「ふざけるな!追い忍を追加するだと?!」
「そうは言うが、事は人柱力の逃亡じゃ。未だに見つからない以上、仕方ないだろう?」
渋い顔でコハルが諭す。綱手の物分りが悪いと腹を立てているらしく、声が少し荒い。
眉間のしわが深いのは、加齢によるものばかりではないのが明白だ。
「ふざけるな!元々ナルトは逃げたわけじゃない。
戻れない空気を作ったのは里の方だ。だから、身の危険を感じた自来也が逃がしたんだぞ?!
そこにこれ以上追っ手を出すなんて、私は反対だ!」
「だが、表向きはこの通りだ。真実を住民に説明出来ない以上、他に納得させられないぞ。」
ホムラの顔も渋いが、こちらは現状を諦めたという様子だ。
最近の実務で心労が溜まっているのか、あまり顔色が優れない。
「そうだ。ここでしっかりと規範を示さねば、下の失望は避けられん。
大体、よそからもこのように馬鹿にされている。恥ずかしくて仕方ないとは思わんのか。」
これ見よがしにダンゾウが机の上に差し出してきたのは、緋王郷から来た書簡。
冒頭を一見すると内憂に悩む木の葉を見舞っているように読めるが、
全文を要約すると、上も下もろくでもない木の葉からナルトが逃げるのは当然だと言う嫌味が書いてある。
わざわざこんな物をという事で、届いてすぐに綱手以下木の葉の上層部の怒りをあおった代物だ。
「お前達・・・!」
同調したホムラとダンゾウに対し、キッと綱手は鋭い視線でにらみつけた。
「呆れたぞ、姫よ。儂はてっきり、即日で暗部を出したと思っていたのだがな。」
「上忍と中忍の部隊は出したし、砂からも捜索協力は得たさ。」
ダンゾウの嫌味につっけんどんな返事をする。綱手は対外的に必要な初動をおろそかにしたつもりは無かった。
しかし、それで引っ込むならそもそも彼はここでつつかない。
「甘い。少なくとも初動で、暗部を一小隊だけでも出すべきだった。
名目はそれこそ、お前の好きな捜索とやらでもな。」
「だが、それでは結局ナルトへの心ない噂の裏付けになってしまう。
だからその前に、噂を何とかしようと動いた。」
ただの捜索に暗部が出ることは滅多にない。火影が何も言わなくても、里の民はただ事ではないと思うだろう。
綱手はそれを危惧して、先に噂の出所などの調査を優先させた。
「残念だが、それは自来也の単独帰還で台無しになったな。
まあ、暁の下部組織が潜り込んだという件さえなければ、そもそもこんな面倒にならなかった事なら、儂も同意しよう。」
木の葉周辺のみならず、内部にスパイが入り込んでいたら、今後ナルトの身の安全に重大な危機が迫りかねない。
だから師匠の自来也は、自ら徹底的に里と周辺の安全確認に勤しんだ。
ところがその動きは、事情を知らない里の人間の不安をあおってしまった。
不安はいつしか封印が危ないという噂を生み、かえってナルトにとっての脅威を増やしてしまったのだ。
「お前直々の声明も、事態収拾には役立っている気配がない。
もう指名手配もかけているし、早く捕まえねば・・・。」
ダンゾウが言い掛けたところで、ドアを叩く音が聞こえた。
「綱手様。中央より、使者の方がお見えです。」
「通せ。」
声の主は、綱手の側近のシズネだった。中央からの用件とは何だろうか。
「失礼する。」
入ってきたのは、刀を差し鎧をまとった眼光鋭い侍だった。
「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。今回はどういったご用件でありましょう?」
「急に尋ねてきて申し訳ありません。殿の使いで参った次第であります。」
「殿の?」
「はい。火影殿、及び上役の多数の方々は、至急城へ参内をするようにという、殿のご命令が下りました。
これは最優先の命令とし、拒否はまかりなりません。
必ず命令通り参内しなければ、処罰も辞さないとの事でございます。」
「何と・・・そんなに急ぎで、一体何を?」
普通なら必ず日程の調整を打診してくるはずなのに、横暴な言いようだ。
場に居る面々は、聞き返したホムラも含め全員が面食らっていた。
「あなた方木の葉隠れの里の今後に関わる、重要な会議です。これでお分かりでしょう。」
否応無しに場の空気が凍りつく。この説明で呼び出しの理由が分からないものは、ここには居なかった。


しばらくぶりに一尾コンビ登場。我愛羅は狸使いが荒いです(※一部私怨
思ったよりも行くまでが長くなったので、灼熱砂漠の登場は次回持越しですが、
合間に温度差のある木の葉のその頃も入れました。
原作だといまいち仕事してなさそうなお殿様が、ちょっとご機嫌斜めな様子という。
鉄の国以外で侍って国家に雇われているの?という疑問がある方も居るかも知れませんが、
このお話では雇われています。
その辺りは、火の国の体制が伺えるような場面が今後登場するので、その際に侍の扱いも大雑把に説明する予定です。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―22話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2011/04/02 00:50
―22話・炎熱の赤き岩砂漠―

―灼熱砂漠―
じりじりではなく、じゅうじゅうという音が聞こえてきそうな程猛烈な熱波。
ここが国土の調査団さえも途中で引き返し、奥地に向かえば必ず死ぬと噂される灼熱砂漠。
溶岩石を含んだ赤茶の岩肌が切り立ち、大地は同じ色の砂礫で覆われた広大な岩砂漠だ。
吹く風はかまどの熱気のようで、吹き付けるだけで暑さが増した。
まともな人間なら、土地の人間ですら絶対に近寄らないという触れ込みは、真実だと確信させられる。
「あっつい・・・何だってばよ、これ。」
砂の里から直接ここに遥地翔で飛び、一気に何度上がったのだろう。
思考に陽炎がかかり、全身が茹で上がりそうな熱を感じる。これが、我愛羅達風の国の民さえ恐れる炎暑だ。
答案では間違いなくはねられるが、感覚的には「熱い」と書いてちょうどいい。
「っていうか・・・地下道ってこの近くにはないの?」
フウが見回しても、周囲にあるのはほぼ垂直に切り立った階段状の岩壁ばかり。
それらしき入り口はどこにも見当たらない。もっと先の方に進まないと無いのだろうかと、彼女は不安そうにした。
「だったら死ぬが、それはないだろう・・・なあ守鶴。」
「ああ。ちょっと待ってろ。道は今出すからよ。」
「そこ岩じゃん、道なんて――ええっ?!」
守鶴が手をかざして呪文を唱えると、岩壁に突如地下へ続く穴が開いた。
中に照明は無いため、狐炎が術を唱えてたいまつ代わりの黄色い火の玉を作り出す。
浮き行灯という明かり取り専用の妖術で、熱そうに見えるが大した熱はない。
「普段は封印してあるんだよ。勝手に使われちゃわないようにね。」
「これは狸にのみ伝えられるものでな。わしらと言えども解く事は出来ぬ。」
「そんなにすごいの?」
浮き行灯で照らされた広い地下道を先導する守鶴の後を付いて行きながら、ナルトが半信半疑で聞き返す。
同格の仲間にも解けない術と言われても、原理を知らないので即座には信じがたい。
「封印術にも色々あるんだよ。特定の種族だけに扱える奴とかね、そんな感じ。
もし壊したりなんてしたら、一発でかー君ちにばれちゃうって意味でも、解けないかなー。」
「そういうこった。ま、入れたとしてもこの道をまともに使える奴はそうそういねぇけどな。」
「どうして?」
フウが前を行く守鶴に訪ねた。
すると、彼ではなく我愛羅が口を開く。
「砂漠の地下道は複雑な構造をしているから、地図がないとまともに出口にたどり着けない。
運よく地上に出られたとしても、上は目印もろくにない砂漠だ。
だから不慣れな土地に行く時は、必ず案内人を付けるのが鉄則になっている。」
「確かに、すぐに迷子になりそうだってばよ。」
そういう意味もあって、守鶴を頼る事を狐炎達が即決したのだろう。
土地勘のある案内人をつけたいなら、風の国に本拠地を構える彼を頼るのが手っ取り早い。
「でも、何でそこまでしなきゃいけないの?
どーせ人間が来れないんだったら、あんまり関係ないんじゃなくて?」
疑問は1つではすまないので、フウは流れに乗ってもう1つ聞いてみた。
散々人間がまともに入れないと言われたこの砂漠に、どうして地下道を隠すような用心の必要があるのだろうか。
「それがだ。この灼熱砂漠には、今回探しに来た溶岩石の他にもう1つ特殊な鉱石が取れる。」
「何ていう石?」
「灼熱の欠片という宝石だ。砂狸が独占している品で、人間の市場には数えるほどしか流通していない貴重品だ。
これを他の妖魔に持ち出されないように、狸達はここを守っている。」
「へ~。何かすげーの?」
そこまで独り占めにしたがるからには、よほど付加価値が凄いに違いない。
商売感覚のないナルトにも、それ位簡単に予想が付く。
「砂狸の男の子が、彼女とか婚約する女の子にあげるんだよ。
大事な求婚道具だから確保してるってわけ。ちなみに実物はそれねー。」
磊狢が守鶴のピアスを指差す。
逆三角状の透明な金色の石は、持ち主が手をかざして力を込めるとぼんやりした光を放ち始めた。
温かみのある黄色い光が、薄暗い洞窟でよく目立つ。
「うわ~、きれい~・・・。」
「フウも女の子だね~。」
ピアスに羨望の視線を送るフウの目の輝きようは、監視生活育ちで世間知らずの人柱力と言えども、普通の女性と変わらない。
美しい物への憧れは、生き物の本能らしい。
「だけどこれは砂狸専用だから、人間はめったに手に入れられないぞ。
今市中に出ているのは、全部砂狸の恋人だった女が死んでから流れた奴だ。」
人間の間には数えるほどしか出回っていないこの石を手っ取り早く手に入れたかったら、
何よりも砂狸の男を口説き落とす甲斐性が必要である。
「分かってるって。ねえ、やっぱりアンタも奥さんにはそれあげたの?」
「ああもちろん。今の嫁の加流羅も首飾りにして持ってるぜ。」
守鶴は贈った石の大きさを指で作った3,4cmの幅で示して、上機嫌でフウの質問に答えた。
一般の宝石の基準ならかなりの大粒だろう。王の権力の賜物と言うべきか。
「嫁って言うな。撤回しろ。」
心底嫌そうに眉間に深いしわを刻んで、我愛羅が横からすぐに非難の声を上げた。
「我愛羅、言うだけ無駄だってばよ・・・。」
「そうだな。こやつが女の事で他人の話を聞いたためしがない。」
横から入れ物と中身が揃って忠告しているが、腹を立てている我愛羅は全く聞いていない。
彼はこの点に付いては鋼より強固な意志を発揮し、てこでも動かなかった。
(母ちゃん思いなのはいいけど、これじゃマザコンだってばよ・・・。
そりゃ、相手が守鶴じゃおれが我愛羅でも嫌だけどさ~。)
(当たり前だ。色とりどりの美女を囲って、どれも麗しいと本気で言うような男ではな。)
筒抜けを承知で、ナルトと狐炎が声を潜めて守鶴をけなす。
女好きに点が辛いのは、この2人の希少な共通点である。
「おいてめぇら、喧嘩売ってんだろ?」
「まーまー、細かい事を気にしちゃだめだよ、かー君♪」
守鶴の眉間にしわが寄った端から、磊狢が横からうやむやにしにかかってきたので、彼はちっと舌打ち1つで矛を収めた。
そもそも今は急いで用事を果たすのが最優先だ。喧嘩をしている場合ではない。
―マジで後で覚えてろよ・・・てめぇら!―
しかし恨みだけは、しっかり心の備忘録に書きつけておく。
すでに急な呼び出しの件で1つ書きこまれていたところに、追加されたとも言うが。
守鶴の記憶力は、こういう事に関しては決して悪くない。
それを知ってか知らずか、しばらく歩くうちに先程の会話をすっかり忘れた様子で、ナルトが途中立ち止まって声を上げた。
「あ、あそこに水があるってばよ。飲める?」
「試してみろよ。」
守鶴は、彼が見ていないところでにやっとほくそ笑む。
「うっわ不吉・・・しかもぬるっ!何だってばよこれ?!」
ナルトが恐る恐る口に含んだ水は、ぬるい風呂のようだった。地下水とは思えない温度に驚くあまり、つい吐き出しかける。
どうしてだろうとその様子を見て考えたフウが、ふと思いついて手を打った。
「もしかして、溶岩石のせいじゃないの?この辺の地層にぎっしりだったりして。」
「水が温泉になるって・・・うげぇぇぇ。」
そう言えば降りてきたこの地下の気温も、日が差さないにもかかわらず砂の里の周辺と大差が無い。
地上も地下も、赤茶色の溶岩石だらけで地獄の熱気。
それは事前に聞いていたとは言え、地下水までこの有様と知ると戦慄する。
「やれやれ、つくづく非常識な場所だ。守鶴、先を急いでくれ。さっさと帰らないと熱死する。」
地下に居る分には我愛羅は耐えられるが、ナルトとフウが持たないだろう。
彼には人間仲間の体調が気がかりだ。
「んじゃさっさと歩けよ雑魚助共。おっと、嬢ちゃんはばててきたらすぐにドMせっついて乗れよ。」
「えー、おれらがばてたら?」
「置いてくに決まってんだろ。まんま干からびちまえ。」
さっきの恨みか守鶴の態度はとことん冷たい。
そうでなくても彼は異種族の男に氷河よりも冷たいが、実質死ねと言っているのだから手酷いものだ。
「言うと思ってたってばよ!でも差別!!」
「あはははは~。大丈夫だよー、僕の背中に2人ともちゃんと乗っけてあげるから~♪」
けらけら大笑いしつつも、磊狢がしっかり2人の分の安全保障をしてくれた。
「それは助かる。いざという時はよろしく頼む。
まったく、どこかの女狂いと違ってあなたはとても親切だな。」
「そーそー、やっぱSよりMの方が優しいってばよ。わーいドMさんばんざーい。」
「いや~ん、照れるなー♪」
よせばいいのに売られた喧嘩を買って、ここぞとばかりに自分の相方に当てこすりを始めるナルトと我愛羅。
磊狢を称えている暇に、彼らには危機が迫っていた。
「ねえアンタ達、後ろ。」
『ん?』
フウに言われて仲良く振り返ると、当然待っていたのは目が全く笑っていない守鶴と狐炎の顔だった。
「まゆなし。」
「ナルト。」
『地上をのんびり散歩しないか?』
『絶対嫌だ!』
これまた仲のいい異口同音の断り文句。
フウは肺一杯空気を吸い込んでから、それを全部吐き切る深い深いため息を付いた。
「は~~~・・・ばっかみたい。」
「どうしたの~?」
「いつもとメンバー違うはずなのに、何で漫才になるわけ?」
先日と違い、いつもボケをかます老紫が居らず、割と真面目な我愛羅が代わりに入っているはずなのに、
結局妖魔と喧嘩になって締まらない会話の流れになるのは、彼女にとっては解せない話だ。
「それはねー、人柱力と妖魔の宿命って事だよ♪」
「そんな宿命嬉しくない・・・。」
せめて無駄につっかかる喧嘩はやめろとたしなめてもいいはずなのだが、
そこまで面倒を見てやる義理はないという事か、単に暑くてどうでもいいのか、フウはこれ以上両コンビに触れなかった。


その後はフウのうんざり気分が天に届いたのか、
人柱力と妖魔の喧嘩の宿命は幸いにも鳴りを潜め、道も案内のおかげで順調に進んでいた。
そして坂道と直線の道の分岐点に差しかかった時、守鶴がこう言った。
「さて、この道はここまでだ。一回出るぜ。」
「え、何で?あっちは外だってばよ。」
ナルトが指差す坂道の先には、外から差し込む光が見える。
前もった説明がなかったので、彼はてっきりずっと同じ穴の中を進むとばかり思っていた。
「採掘用の穴は、ここから出たら下ってすぐの所にあるんだよ。即入れんだから我慢しやがれ。」
「うー・・・。」
「やだなー・・・。」
我慢しろと言われても、冷房の効いた部屋から外に出るような億劫さはかなりのものだ。
それでも嫌々地上に繋がる坂を上って洞窟を出ると、網膜を焼くようなまぶしい光が目に刺さった。
日差しが強い時間帯なので、まともに太陽の方を見る事なんてとても出来ない。
立ち上る熱気は、砂漠の入り口で感じたものと同じだ。
「まぶしいねー。」
この日差しは妖魔でもきついようで、磊狢が太陽から顔を背けて目を忙しく瞬かせている。
狐炎も袖で顔を隠して、目が慣れるのを待っているそぶりを見せていた。
ただしすぐにまた使うと分かっている浮き行灯の明かりは、灯したままにしている。
「暑い・・・あ。」
「我愛羅?」
「見ろ。すごい景色だ。」
我愛羅に勧められて、ナルトは改めて周囲に目を向ける。そして、息を呑んだ。
「うわーっ・・・。」
そこには、低地だった洞窟の入り口からでは見えなかった砂漠の一面があった。
実は洞窟の出口は高台の中腹のような場所にあり、眺めがなかなかにいい。
切り立つ険しい断崖に、段々畑のような階段状の台地。起伏が大きい複雑な地形が、眼下と周囲に広がっている。
砂漠を一望とは行かないが、この砂漠が遥か遠くまで続いている事は一目瞭然だ。
「すっげー、こんなだったんだ!」
思わず足を止めて、きょろきょろと辺りに目をやる。
不毛な土地ではあるが、濃淡が混じる赤茶の岩が作った自然の造形は、好奇心を十分刺激する。
「いいだろ?日暮れには空も地面も真っ赤に染まってよ、黄昏の風情満点だぜ。
考え事しながらぼーっと見た日もあったな。」
「へー・・・暑さ平気だったら見れんのになー。」
残念そうにナルトが相槌を打つ。絶景自体は素直に楽しむクチなので、暑さに耐性がない我が身が惜しいらしい。
赤い砂漠に沈む夕日は、燃え上がるように雄大な光景だろう。
もっともここでその光景をのんびり眺めるには、頑丈な妖魔の体でもなければ不可能だ。
「こんだけ暑くなければねー・・・。うう、くらくらしてきた。アンタ達、平気?」
「うー、おれはもやもやする。黒こげになるってばよ。」
風景に見とれて暑さから逃避したのも一時的で、すぐに熱気が脳の働きを鈍らせにかかってくる。
情緒も何もあったものではない。
「俺はひたすら暑い。さあ、降りるぞ。」
先ほど守鶴が言っていたと思われる穴は、もう正面方向を見下ろすと口を開けているのが見えるほど近い。
我愛羅に促され、すとんすとんと飛び降りるように大きな段差を下る。
人間は暑さでもうろうとするから、努めて着地には気を使った。
「よし、そこの穴だ。足下はまた坂だから気を付けろよ。」
守鶴に指示された穴に入るため、最後の一段を降りた時。
そこでちょうどよそ見をしたナルトの目に、少し離れた岩陰からはみ出す妙な黒い塊が映った。
「ん?」
黒い塊が気になって、仲間からそれて岩のそばに近寄る。
「ナルト、どこへ行く。」
「変なものが落ちてるんだってばよ。ほら、あそこ。」
咎める狐炎の声で振り返り、気になっている岩陰を指差す。
放っておけばいいかもしれないが、ナルトには妙に気になった。
「あそこに?」
「そうそう。」
こちらにやってきていぶかしげに尋ねてきた我愛羅に、ナルトはうなずく。
流れで全員が件の場所に近づいて確認すると、黒っぽい塊は濃い茶色の布だった。
「どれどれー?」
正体を確かめるべく、磊狢が躊躇なくひょいと動かした。
「うわっ!」
「何これ、人間?」
ナルトがぎょっとして声を上げる。
全身すっぽり濃い茶色の外套で覆っているためわかりにくかったが、横向きにしたら人の顔が付いていた。
しかも、死んで大して経っていない男性の死体である。
「ちょっと見せてくれ。」
我愛羅が割り込んで、男の顔をじっと凝視する。鑑定をするような真剣な目つきだ。
瞬きさえもろくにせず、食い入るように見ている。何か重要人物であるようなので、誰も彼の邪魔はしない。
「見覚えがあるか?」
狐炎が尋ねると、少し間を置いてから彼はうなずいた。
「・・・やっぱり。こいつは明け烏のメンバーだ。」
「明け烏って?」
「暁の下っ端だって噂の連中だな。
こそこそ嗅ぎ回ってやがるのは掴んでたが、こんな所にまで首突っ込んでやがったとはよ。」
ごみでも見るような顔で死体を見ながら、守鶴が説明をした。
自分の領地の中でも大切な場所に侵入されて、かなり面白くないらしい。
「一体何のために?だってここってば、人間が入ってもだめだってんのに。」
いま少し外に居るだけで、のぼせる暑さだ。組織を支援するためといっても、そうそう入る気にはなれない土地だろう。
ここに暁が欲しがるような物があるなら別だが、そんな話は今のところ聞いていない。
「この重装備に、起爆札とつるはし・・・多分、俺達と同じく鉱石採取だろう。
しかも運が悪いなこいつは。見ろ、この傷を。」
我愛羅が示した首筋は、べったりと赤黒いしみが付いている。
傷口は大型の獣の爪で引き裂かれたようになっていて、首の下まで裂けていた。
「あらら~、ばれちゃったんだね。」
「まさか誰も帰ってこないのって・・・。」
傷口の状態と磊狢の口振りで、もう土地に詳しくなくても加害者の正体が分かってしまった。
「たまーに途中まで来るしぶといごうつくばりは、おねんねいただくってこった。
まあ、ほとんどは手を下すまでもねぇけどな。」
「そりゃ砂も断るってばよ・・・。」
炎暑にかろうじて耐えても、砂狸の餌食では報われない。
にやっと口元を歪めた守鶴の笑みに背筋に寒気を感じて、ナルトはぶるりと身を震わせた。
フウも口元が引きつっている。
「・・・国土の調査団って人達、運良かったんじゃない?」
「いい子に測量だけやってたから、子分が見逃してやったんだよ。
地図を作るっていうのは大事な仕事だからな。」
彼の言いようからすると、砂狸達は多分こっそり見張って様子をずっと見ていたのだろう。
地図を作る事を目的に入ってきた調査団は、土地の特徴を調べるためなら多少は岩石の採集もしているだろうが、
あくまで職務に忠実で妙な気を起こさなかった。
故に砂狸達は彼らに危害を加えず、立ち去るまで影からそっと伺うだけで済ませたのだろう。
「うへぇ。ところで、こいつどうするんだってばよ。持って帰って調べなくていいの?」
「んなごみ、身包み剥いで放っとけよ。・・・って、言いたいところだけどな。
死体ばらして分かる情報はまゆなしが入用だろうからよ、拾ってってやるか。」
守鶴はそう言いつつ、死体の懐から金品や身分証明になるものなど、めぼしい物を抜いて自分の懐に収める。
死体本体は、何かの符を貼り付けてそのまま転がした。回収時の目印になるのだろう。
「傍から見ると追いはぎだな。」
「てめぇも身包み剥がれたくなかったら、黙っとけ。」
率直な感想をよこした我愛羅をにらむ。だが、同じような事は他のメンバーも考えていた。
「その金は、賭場を泣かせるための種銭行きか?」
「人聞き悪いぜ。こんなはした金じゃ里の足しにはならねぇし、有効に使ってやるんだよ。」
狐炎に呆れ半分でつっこまれても、守鶴はニヤニヤ笑ってうそぶくだけだ。反省のはの字もない。
予想通り、後で博打錬金術の元手として大金に化けてしまうだろう。
いくら亡き持ち主が犯罪組織の構成員とはいえ、若干哀れである。
「まごう事なき追いはぎだね~、かー君。そういう所もSっ気あって好きだけどー。」
サドではなくがめついのではないかという指摘が入ってもおかしくは無かったが、
人間達の頭の回転が暑さで鈍っているので、それ以上は誰もつっこみを入れなかった。
死体の当面の始末が付いたら、早く本題の洞窟に入らないといけない。
今度こそ洞窟に入ると、そこはなだらかな坂道。
傾斜が緩やかだが足元は暗いので、滑らないように気を付けて降りていく間に、ここも広い空洞があると知れた。
手を伸ばしても、天井には到底手が届かないほど高い。
「ふう、やはり洞窟の方が涼しいな。」
「外よりはね。でも暑いー・・・。」
「きっともう少しだってばよ、頑張ろ。」
フウを励まして、ナルトは自分にも言い聞かせる。もう採掘用の穴なのだから、ここからさらに後半日なんて事はないだろう。
「まあな。後もうちょいだし、水飲みながらもう一踏ん張りだな。」
人間達の体調だけは確認しつつ、適当に景気づく事を口にする。
気休めでもなんでもなく、目的地は本当に後もう少しの場所にあるのだ。


それから休憩を挟みつつ歩いていくと、待望の目的地が現れた。
そこはよく採掘する場所らしく、濃いレンガ色の岩にはたくさん掘った後が残っている。
断面は、道中でも時折見た黄色い石がまだらに混ざって光っている。この部分は灼熱の欠片の原石だ。
「ここにいい石があるわけ?」
「溶岩石も灼熱の欠片も、良質の物は同じところで取れる傾向にあるらしい。
何しろ溶岩石が母岩だからな。関係があるんだろう。」
「で、これをつるはしか何かで掘るわけかー。」
「そんなところだな。ただし、その辺のつるはしじゃ硬くて話にならねぇからな。
こいつを仕掛けるんだよ。」
守鶴がどこからともなく、見慣れない道具を取り出した。
つるはしどころか、手に持って使うにはかなり使いづらそうな三角形のくさびは、先に行くに従って厚みが薄くなっている。
根元に当たる底辺部分には丸い金属の輪があり、ここに紐に結ばれた術式符らしき物が付いていた。
「これ、術式符?」
「・・・というよりも、紙が付いたくさびだな。」
「これは裁断くさびって道具だ。こいつを金槌で打ち込んで、切り出したい範囲を囲え。
その後はくっついてる紙の赤い部分の真ん中に放つの放って書け。そしたら準備は完了だ。
ちょっと離れてから『弾けろ』って叫べばいい。したら後は、勝手に切れてお手軽って寸法だ。」
要するに、妖魔が使う採掘道具の一種という事だ。
便利な道具だから、事前に準備してきてくれたのである。
「あ、最後の掛け声はおれやりたい!」
「えー、アタシだってやりたい!」
締めを争って、にわかにナルトとフウの主張合戦が始まった。
興味がない我愛羅が横で困惑している。
「なら、準備の後にじゃんけんで決めてくれ。俺は別にいいから。」
それほどこだわるところでもないだろうにと彼は首をひねるが、
年齢不相応な落ち着きも持つ我愛羅には分かりにくいだけで、実際は驚くほどの反応でもない。
「・・・こういう事になると、生き生きとしだすな。」
「可愛いよね~。」
「お子様って事だけどな。」
妖魔3人が口々に年長者目線のコメントを残した後、全員総出で準備を始めた。
ちなみにじゃんけんはきちんとくさびを打った後に行われ、三回勝負でナルトが勝った。
「よーし、行くってばよ!『弾けろ』!!」
妖力も霊力もないナルトの威勢のいい掛け声。すると何の力もないただの声が、言霊のようにくさびに作用した。
4つ打ち込んだくさびが光り、開放された妖力が囲まれた範囲で切り取るように直線状に広がる。
後はあっという間で、まるでカッターのように硬い岩が切れてしまった。
「おおっ、すっげー!」
「ほんとに切れちゃった!」
ナルトとフウが子供のように大はしゃぎする。我愛羅も目を丸くして、すっかり感心していた。
「便利だな・・・任務に使えそうだ。」
これだけの切れ味なら使い道があると思った次の瞬間には、色々な案が我愛羅の頭に浮き出し始めた。
後で参考に製法を聞いておこうと決意してから、まずはこの後の片付けに頭を切り替える。
「これだけあれば良かろう。」
「後はこいつを細かくっと・・・おい手伝えドMむじな。」
「はーい。」
切り出したばかりの大きな溶岩石の塊の前に出て、守鶴が磊狢を手招きした。
今度はこの固い岩を細かくする作業が待っている。
「えー、何で細かくするわけ?」
「灼熱の欠片の持ち出し制限だよ。人間如きに、棚ぼたでおいしい思いさせられっか。」
「なるほどね。」
しかしこの説明で、求婚道具ごと持っていかれたら確かに困ってしまうなと納得したのは、人間ではフウだけだった。
「ちぇー。売ればお金持ちになれるかと思ったのに・・・。」
「里の財政の足しになるかと・・・。」
あからさまな金銭欲が、ナルトと我愛羅の口と顔からはっきり漏れている。
用途こそ片や旅費、片や里の資金の違いはあるが、いずれにしろ宝石すなわち多額の現金の元という思考回路に変わりはない。
眼底に書かれた金の文字が表面に透けて見える。
「誰がやるかよ。欲しけりゃ加工前の裸石に20万両、加工賃に4万両払いやがれ。」
「高っ!ぼったくりだってばよ!!」
「人間の末端価格で売りつけるとは・・・さすがエロ狸。隙のない卑怯さだな。」
庶民だったらローンを組まないと買えっこない高価格。
未成年相手に大人げないが、くれてやる気がない事だけはよく分かる。
「ちっくしょ~。あんな事言って、我愛羅の母ちゃんにはどーせ一番いい奴をただで上げたくせに!!」
「へー、今日日の人間の野郎共は、結婚指輪の代金を女からせしめんのか。
しみったれてんなあ~。ああ、そんなんだからてめぇらは女日照りって訳か。」
ナルトが悔し紛れの悪態を付いたせいで、守鶴から入れられた反撃で止めを刺された。
彼女居ない暦イコール生涯のナルトにとって、これは逆上するくらい痛い。
「うっがー!ちょっ、狐炎あいつ殴って!おれの代わりに5回位殴っといてくれってば!!」
見え見えな守鶴のあおりに引っかかって、ナルトは怒髪天を突いた。
ただ、怒っても自分では敵わない事を承知した言い草が、若干の哀愁を帯びるが。
「守鶴、選別が済んだ分はここに入れておくぞ。」
「おう、そうしといてくれ。」
しかし悲しい事に、敵の関心はもう選り分け中の溶岩石に移ってしまっていた。
「シカトかってばよ?!」
「アンタお約束過ぎ。」
呆気に取られるナルトの背中には、とうとうフウからも冷たい一言が付き刺さった。

そしてしばらく。磊狢が術で上手に粉砕したおかげで、大きな岩の塊もさっさと宝石の原石との選別が済んだ。
後に残ったのは、細かくなった溶岩石が入った大きな麻袋2つと、灼熱の欠片の原石が入った小さな袋である。
細かくなった上に宝石と分けたとはいっても、やはり石の麻袋は人間が持ち歩くにはかなり重くかさばる。
仕分け後の袋を見かねた我愛羅が、懐から白紙の巻物と筆記具を取り出した。
「このままだと持ち歩きに不便だな。これを使おう。」
「あ、もしかして口寄せの巻物を作るの?」
「ああ。ただ、1つがこんなに大きな物を封印した事はないから、うまく行くかは保証の限りじゃないけどな。」
そう言いながら、我愛羅は所定の書式で術式を巻物に書き、麻袋の前にそれを置いてから複雑な印を結ぶ。
すると麻袋は2つとも吸い込まれるように巻物に消えて、術式の四角く空けられたスペースに「岩」の文字を浮かばせた。
「さっすが我愛羅、大成功だってばよ!」
「褒めても何も出ないぞ。ほら、持っていろ。」
早々と墨が乾いた巻物をくるくると巻き、ナルトに手渡す。
「おう、サンキュー!あ、なくさないように財布と同じ袋に入れとこ。」
ごそごそと荷物袋を開いたナルトは、すぐに受け取った巻物をしまいこむ。
万一なくしたら困るので、ちゃんとしまった事を覗いて慎重に確認してから口を閉めた。
「ところで、向こうにはすぐに戻るのか?」
「んー、どうする?今日はもう疲れたってばよ。」
まだ夜にはなっていない時間だが、慣れない酷暑のせいで体力の消耗は非常に激しい。
用時が済んだら、出来るだけ涼しい所ですぐに休んでしまいたい気分だ。
そんな人間達の思惑は、もちろん傍で見ていた妖魔にも分かる。狐炎は大して時間をかけずに考えをまとめた。
「そうだな。さすがにこれ以上の強行軍は良くない。今宵は付近にある人間の宿で泊まるつもりだ。」
「あっちには明日行くの?」
「おじさん意地悪したし、遊びに行っちゃってもいいんだけどね~。」
もしおじいちゃん達の方が終わってたらどうすんのよ、馬鹿むじな!」
「や~ん。」
茶々を入れた磊狢が、腹を立てたフウに踏みつけられてふざけた声を上げた。
今はこんなものに構っている場合ではないので、無視して話は進む。
「町の位置は大丈夫だろうなあ?何ならついでだ、後で連れてくまではやってもいいぜ。」
「そうしてもらうとありがたい。この辺りもずいぶん変わっておるだろう。」
ナルト達は砂の里の周囲だけではなく、この辺りの事情にも明るくない。
守鶴の提案は渡りに船であり、非常にありがたかった。
「まあな。この辺は元々でかい町はねぇし、仕方ねぇよ。」
灼熱砂漠の近くは、少し離れた場所でも他より気温が高いせいか、昔から大きな集落が出来たためしがない。
故に小さな村が出来ては消えを繰り返すので、割と頻繁に地図を書き変えないといけないような土地柄なのだ。
「出来ればもーちょっと涼しそうなところがいいってば・・・いや、やっぱいいや。」
遠くまで移動すると、その分守鶴は妖力を消耗する。
すでに今日は無理を重ねて聞いてもらっている事を思い出して、ナルトは願望を引っ込めた。
「疲れたなら気を使う事はない。どうせ移動は術でやる。」
「ったく、人任せだからっていい気なもんだな。唱えるのは誰だと思ってんだ?」
我愛羅の勝手な安請け合いが気に食わず、守鶴が横からちくっと刺す。
もっとも可愛げを地平の彼方に投棄済みの彼は、全くこたえていない。
「本体の傍なんだから、お前だって充電は容易だろう?今夜は丸々非番だしな。」
だから文句を言うなという、気遣いが微塵も感じられない続きが聞こえるのは、恐らく周囲の勘違いではないだろう。
彼の守鶴に対するここまでの態度がそう言っている。
「溜めた端から消耗させやがるてめぇが言うか!ったく、金ドリアンの方が若干マシってどういうこった。」
「うわっ、何か全然褒められた気がしないってばよ・・・。
っていうか、違う意味で大丈夫かな・・・この2人。」
ここに来る前に言った忠告を我愛羅がちゃんと今後守ってくれるのか、ナルトは何となく不安になってきた。
そして、それは狐炎も同じだったようだ。
「・・・鼠蛟はさじを投げるであろうな。間違いなく。」
まさに医者がさじを投げる。
馬鹿に付ける薬がないのはいつもの事だが、守鶴と我愛羅の不仲にも付ける薬はなさそうだった。


後書き
先月中に更新したかったのですが、少し自サイト等で立て混んでいた影響もあってずれ込みました。
ちなみに地震の影響は、関東の内陸部なので幸いさほどでもないです。
さて本編ですが、メンバーが変わってもノリは変わらず。
むしろ局地的にはよりギスギスと喧嘩の確率が上がってすらいます。
次回は場所が変わって、四尾・二尾コンビが向かった山脈方面です。



[4524] はぐれ雲から群雲へ―23話
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:9419f60a
Date: 2011/06/28 22:40
―23話・竜が眠る渓谷―

―白竜谷―
ナルト達が砂隠れの里に到着する少し前。老紫達は、遥地翔によって白竜谷に降り立った。
目に飛び込んできた青々とした雄大な山々は、壮観の一言に尽きる。
目線を少し下の方に向ければ、谷底を縫うように流れる大きな川も見えた。
「おーっ。こりゃ、ちょっとばかし懐かしい景色じゃの!」
山国である故郷の国の景色を思い出して、老紫は感嘆した。
「素晴らしい景色でしょう。ここは古来から、あの谷底の川に竜が宿るとされる霊場です。」
白竜谷は、谷底に流れる曲がりくねった川が生み出す渓谷の美が有名な場所だ。
川の水は澄み切って美しく、名高い滝もある事から、雷の国では景勝地に数えられている。
「で、この谷のどこにその水はあるんじゃ?」
「あの小山を2つ越えたところさ。滝の近くだけど、ちょっと外れたところあたりだったかねえ。
ま、行ってみないことには、始まらないよ。あたしも、きっちり場所を覚えてるわけじゃないからねえ。」
鈴音が指差しているのは、ちょうど北東の方角だ。
山脈の中でもやや小さな山がいくつか連なっているあたりが、確かに確認出来る。
しかしこの言い方だと、山を越えた後は少し探し回る事になりそうだ。
「何じゃ、当てにならんのう姐さん。」
「悪いねえ。あたしみたいに、日頃は政務をやってればお終いの身分やってるとさ、
なかなか採取地の事情には詳しくなれないものだよ。」
「むう、面倒くさいの。」
失礼ながら見た目と口調で判断すると、確かに鈴音は野山を好き好んで歩き回るタイプには見えない。
むしろ、屋内で優雅な趣味をのんびり楽しんでいそうだ。
それを除いても、老紫と一緒に諸国を漫遊する鼠蛟と比べると、なかなか土地の最新情報を拾いにくいのだろう。
「ところで。」
歩き出して間もなく、鼠蛟が先導するユギトと鈴音の背に声をかけた。
歩みを止めないまま、2人が首だけ振り返る。
「何だい?鼠蛟。」
「ユギト。そなたの傷、どうつけられた?」
「傷とは?」
少し怪訝な顔で彼女が聞き返してくる。質問の意図を掴みかねているようだ。
「変な傷があった。」
「どういうやつじゃった?」
「服が裂けずに、肉が裂けていた。」
昨日ユギトの体を見た時、鼠蛟は負傷の仕方が妙な事に気付いていた。
普通、切り傷や刺し傷が出来れば当然服も無事ではすまないはずなのだが、彼女は服が無傷だったのだ。
治療をしながら、彼は密かにその点に首をかしげていた。
「ああ・・・2人組のうち、飛段という男の術です。
攻撃が当たってもいないのにわき腹から血が噴き出て、はっと見ると奴が陣の中で自分の腹を刺していました。」
「意味が分からんぞい。えーと、そいつと姉ちゃんが何故かおそろいの怪我したって事かの?」
状況を見たわけでもないので、老紫には余計に想像が付かない。
ただ、言葉通り解釈すればそういう事になってしまう。
「そうそう。多分、呪術の一種だと思うんだけどねえ。
人間用に限ると、あたしもちょいと心当たりは無いんだけどさ。聞いた事もないよ、自分を贄に呪いなんてねえ。」
「わしもじゃ。しかし、厄介な術じゃのー。
暁とはいずれまたぶつかるぞい。何か対策が必要じゃな。」
老紫は渋い顔でうなった。
陣を用いる他はどういう理屈の術かは不明だが、ユギトの口ぶりからするとなかなか面倒な術に思える。
「妨害役で何とかなる・・・かもな。」
一方的に攻撃を加えて完封出来ればそれに越した事はないが、さすがにそれは難しい。
それなら定石通り、相手の術の妨害に勤しむ役を置いた方が戦いは楽になるだろう。
「そうじゃの。一対多数で袋叩きに限るぞい!」
「はは・・・結局そうなりますね。」
厄介な相手にそう簡単に妙案が出るわけはない。一度敗北を喫したユギトが苦笑いしている。
「その場合、あんた位使える子を揃えないとだけどねえ。」
「む、そうじゃったな。」
ユギトに対する鈴音の言葉で気付いたが、雲隠れの壊滅した砦はまさにその一対多数に近い状況だった。
それでもコテンパンにされたのだから、敵はまったくもって面倒だ。
「いえ、戦いに奇策や裏技は早々あるものではありません。
負けてしまったのは、私達の鍛錬不足です。」
「しかしのー、尾獣化を破るような敵の方が規格外じゃぞ?」
兵器扱いされるだけあって、尾獣化した人柱力は常人の手に負える代物ではない。
手練れの忍者達が束になって掛かっても、まとめて返り討ちにされてしまうという事も珍しくないと言われる。
それをたった2人で打ち破った相手が異常なのだ。
「ええ。ですが、たった2人に負けたのは事実。大事な砦を預かる忍者として、恥ずかしい限りです。」
「あんたは本当に、肩の凝る事ばっかりお言いだねえ。
少しは気を抜いた話し方の1つも出来ないのかえ?」
責任感の強さに感心どころか呆れを覚えた鈴音が、煙たそうな顔をした。
仕事中とはいえ雑談に近い調子の話で、がちがちに堅いのは好みではないようだ。
「放っておいてくれ。私の性格だ。」
きっとにらみつけて、立腹したユギトは心なしか歩調を速めた。
そうこうしているうちに分かれ道にさしかかり、一行は険しい方の山道を伝って尾根に出た。
山と山を繋ぐ細い道は片方が断崖絶壁に近い急斜面で、人が2人すれ違うのもためらうほどだ。
足を滑らせてしまったら、一巻の終わりだろう。
「本当は、あんたに飛んでもらうと早いんだけど、この辺りは下に観光客が多くてねえ。まだるっこしいけど、我慢しておくれよ。」
歩くとどうしても平地より時間がかかる山地は、鼠蛟に乗って空から向かう方が時間の節約になる。
しかし景勝地として知られるこの辺りには、登山客が居る場所も多くあり、
生息していない巨鳥が飛んでいたら目立つ危険はとても高い。
だからこうして、登山道から外れた道を地道に歩いていくしかないのだ。
「なになに、これ位、土の国育ちには慣れっこじゃ!わはははは!」
「・・・嘘つけ。」
この雷の国の港町を出てすぐ、山道で愚痴をこぼしていたのはどこの誰だったか。
鼠蛟はしっかり覚えているので、ぼそっと悪態をついた。老紫が美女の前で見栄を張っているのは見え見えだ。
「それにしても、すっきりしない天気じゃのー。」
「そうだねえ。湿っぽい気がするよ。」
空を薄灰色の雲がまだらに覆っている。晴れ間が半分、曇り半分。
煮え切らない空模様が、山歩きという事もあってとても気になった。
何しろ、山の天気というものは変わりやすい。しかも雲は、西の方にも広がっていた。
「急ぎますか?」
「うーむ・・・ちょっとだけ急ごうかの。」
天気の好転が望めそうもないと判断して、老紫はユギトの問いにそう答えた。
変なところで雨に降られて、足止めを食うのはごめんである。足腰には堪えても、早く用事を済ませた方が何かと得だ。
雨でぬかるんだ山道など、歩きたいものではない。
まして、今歩いている足場の悪い細い道は、まだかなり先まで続いている。
「せめてここを抜けるまでは、天気が持って欲しいですね。2時間は歩きますから。」
「2時間・・・長いのう。」
見栄も張れない数字を聞かされて、老紫はこっそり愚痴をこぼした。

しばらく進んで、尾根から今度は山中の林の道に下る最中の事。
「ん?」
ユギトが不意に険しい表情になり、足を止めた。
「何じゃ?」
(静かに。向こうに、ちょっと気になる一行が居ますので。)
声をひそめた彼女が指差した方向。道から外れた木立の中に、黒っぽい装束の怪しい三人組の男が居た。
一見すると山菜取りにでも来たようにかごやら鎌やらを持っているが、どうもそれと様子が違う。
周囲を警戒し、空気もピリピリとしている。一行は気配を消し、様子を伺いながら距離を詰めていく。
「この辺りか?」
「いや、もう少し奥だ。」
「ったく・・・こんな所で待ち合わせしろなんて、上もどうかしてる。」
目印も何もあったものじゃないと、3人の中で一番若そうな男がぼやいた。
土地勘がないのか、変わり映えのない山中の景色で少しうんざりしているようだ。
「文句を言うな。早くしないと間に合わないぞ。」
リーダーと思われる先頭の男が、文句をたしなめる。
若そうな男の言うとおり、ここは目印に乏しく待ち合わせには不向きな山奥。
こんなへんぴな所で待ち合わせとは、おおっぴらには会えないような用事である可能性が高い。
(怪しいな・・・鈴音。)
(あいよ。)
ユギトに答えた彼女は、すっと紫色の扇を取り出した。
わずかな音と共にさっと広げた扇には、美しい満月と雲が描かれている。
(お?)
風の術でも使うのかと思って、老紫が鈴音の手元に注目する。一体どんな戦い方をするのだろうか。
彼女が妖力を込めて軽く扇ぐと、うっすらと紫がかった霞が立ち、すぐに拡散して三人組を包み込んだ。
「うっ・・・。」
急に気分を悪くして、1人が胸を押さえる。顔を思い切りしかめて、結構苦しそうだ。
急な事に、隣の男が驚く。
「おい、どうした。毒か?」
「何か俺も急に・・・敵はどこだ?」
敵に気付けなかった事への戸惑いからか、3人は浮き足立っていた。
気分の悪さからか、冷静さを欠いていて動きも悪い。そこに、ユギトが投げた特殊な投網が降りかかる。
『!』
霞の力で動きが鈍くなっていた彼らは、あっさり網で捕縛された。時間にして1分もかかっていない。
網の中でもがく男達の前に、ユギトを先頭にした一行が姿を見せた。
「お前達は、指名手配されている犯罪者だな。一体どこから、何のために来た?」
「答えると思ってんのか?このアマ。」
「おや、忠義者だねえ。ふふふ。」
にらんできたリーダー格の男を、鈴音が小馬鹿にして笑った。
ここで相手が意地を張ったところで、後で吐かされるのが目に見えているからだろう。
「強気でいられるのも長くはない。それだけは、覚えておくといいさ。」
定番のやり取りにそう長く時間は割かない。ユギトは男達との問答を打ちきって、相方に目配せする。
「ま、行ってからのお楽しみさ。」
鈴音が嫌味な程にっこり笑って、用意していた背丈20cm程の綺麗な壷を3人の前に置いた。
そして、壷に手をかざして精神集中に入る。少し間を置いて、彼女は呪文を唱え始めた。
「野放図にのさばる由々しき者。天に汝の所行を眺める義理はなく、地に汝を載せる義務はない。
不逞の輩にふさわしきは、掌中に収まる壷の内――壷中牢。」
詠唱が終わると壷の口が淡く輝き、呆気に取られた男達がゆっくりと淡い光になって吸い込まれていった。
「え、何じゃ?壷に入れてしまったんか?」
「そうだよ。ここじゃあすぐには応援が来られないし、置いていったら逃げるしねえ。
だから、あたしの十八番を使ったのさ。」
目をぱちくりさせる老紫に、壷を片付けながら答えた。
彼女はこういった道具を使う小技も得意としている。
「ほー、初めて見る妖術じゃの。馬鹿鳥もついでにしまってくれんか?」
「うふふ、あいにくそれは無理だねえ。
これはじっとしてくれる相手じゃないと失敗するし、そのお人は力が強すぎて、こんな壷すぐに壊しておしまいになるよ。」
「うーむ、投網で巻いといてもだめかの?」
ダメもとで聞いたつもりのはずなのに、いざ出来ないと言われるとどうにかしてやりたくなって、未練がましく質問を重ねる。
気分を害した鼠蛟が、白い目で老紫を見ている。
「投げ返してやる。」
「はいはい。それ位におしよ。」
扇を口元に当てて、くすくす鈴音が笑った。ユギトも横で苦笑いしている。
普段ならもっと相方と口喧嘩をするところだが、
美女の前でまたもやいいところでも見せたいのか、鼠蛟が意外に思うほど老紫はあっさり引いた。
「?」
「何じゃ、その目は。」
「別に。」
言い募られなければそれでもう構わないので、鼠蛟はすぐに身を翻した。
喧嘩第二幕ともならず、至って平和な幕引きだ。老紫が話を引っ張らなければ、案外平和なのかも知れない。
「ところで今の連中、もしかしてどっかの犯罪組織の連中かの?」
「ええ、人相から言って間違いありません。手配状に組織名も載っています。」
「ほー。・・・暁絡みじゃないじゃろうな?」
先日暁と交戦したばかりのせいか、黒っぽい装束を見ると何となく彼らを連想してしまう。
老紫から関連を尋ねられたユギトは、難しい顔をしている。
「そこはまだはっきりしませんが、そうでないとも言いきれませんね。」
「嫌らしいのー。もし暁関係だったら、しつこすぎるぞい。」
「懲りるような小悪党だったら、楽だったんだけどねえ。
ま、連中とは決まった訳じゃあないし、深く考えるのはおよしよ。」
後で調べれば分かる事とあって、鈴音はさっぱりしたものだ。
もっとも、暁と関係している可能性が低くないことは、彼女も承知だろう。
「ところで暁と言えば、奴らの情報はどれ位掴んどったんじゃ?
事件前からちょこちょこあったじゃろう。」
「ええ。近頃、下部組織が国内で活動していたという情報が複数上がってきていました。
それで警戒していた矢先に、あの有様です。今更言っても仕方のないことですが、本当に悔しくて。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。」
事前に情報を掴んで、それなりに備えていたにもかかわらずコテンパンにされてしまっては、プライドも面目も丸潰れだ。
それこそ、地団太を踏みたくなるくらい悔しがっても当然である。
「おかげで昨日は、お偉方がそろって大慌てしていたそうだよ。
『あのユギトの砦が~』ってねぇ。大の男が揃って取り乱してたってさ。」
くすくすと鈴音が笑う。想像すると面白いらしい。
「笑い事じゃない。」
ユギトがむっとして顔をしかめた。
「あんたの所のは、立派な体つきのお人が多いから、どうもおかしくてねえ。」
―確かに、面白い・・・かもな。―
雲隠れの重鎮は、雷影以外にも大柄な人間が多いらしい。
強面で六尺超えの筋肉だるま達が右往左往する様を想像し、鼠蛟はうっかりぶっと吹き出した。
「っ・・・くく。」
「あんた、黙っていきなり吹き出すのはおよし。ぎょっとするじゃないかい。」
「筋肉だるまで・・・つい。」
「そんなに面白いものではないのですが・・・はあ。」
真面目そうな相手にまで笑われたと気落ちしたようで、ユギトのため息は重い。
真剣な話し合いの空気だったのに、それが部外者にさっぱり伝わらなければ、頭も痛いことだろう。
「ともかく、先を急ぎましょう。」
「おっと、そうじゃったな。」
こんな所で妙な道草を食う羽目になったが、まだ肝心の採取は終わっていない。
ついでに見上げた空の天気も相変わらず思わしくなかったので、一行は再び目的地へ急いだ。

林の中の道を抜け、谷底の川伝いに歩き続ける事数時間。
途中小雨に降られながらも、何とか見込んだ時間通りに進んでいた。
川の上流に向かう道を歩いていると、だんだんと川幅が狭くなり、今はちょうどごつごつした岩場に差しかかっていた。
「おー、やたら青い沢じゃの。」
目的の瑠璃の湧き水が漏れ出ているのか、小さな沢が鮮やかな青を帯びている。
「飲めないぞ。」
「飲めんのか・・・むう。」
せっかくの天然水なのにと、普通じゃない水を前にして言うセリフではないぼやきが漏れる。
釘を刺して良かったと、鼠蛟はこっそり確信した。この水は、このまま飲んで体にいい物ではないのだ。
「もうじきつくね。こっちだよ。」
鈴音の案内で、沢沿いの藪にひっそりと口を開けた湿っぽい洞穴に入る。
中はごく浅く、入って何歩も歩かないうちに小さな泉が出迎えた。
入口から射し込む光に照らされた水は、沢よりもずっと深い青をたたえている。
「ほら、これが目的の物さ。」
「どれ位いるんじゃ?」
老紫はがさごそと音を立てながら、出かけに預かった水袋を腰のずだ袋から引っ張り出す。
「そうですね、その水袋に一杯で結構です。」
「よし、これでいいの・・・って、鳥。おぬし何してるんじゃ?」
「採取。」
ユギトの指示通りに老紫が水袋を満タンにしている間に、鼠蛟もちゃっかり自分の分を水筒に確保していた。
後で使う予定があるようだ。
「また変な実験とかする気じゃな・・・。」
人体実験だけは勘弁して欲しいところだが、最近老紫以外にも被験者になりそうなメンバーが居るので、
何かしでかしそうな気がうっすらと彼の脳裏をよぎった。
もっとも用途不明な今の時点で考えた所で、仕方のない事だ。
「ところで、鈴音。」
水筒を締まってから立ち上がった鼠蛟が、一歩引いた所に居た鈴音に声をかける。
「何だい?」
「そなたの所に、他の知り合いの噂は来てるか?」
「それだったら、この上にある雷獣の離宮で聞いてみるかえ?
今日の天気次第じゃ寄るかも知れないって、昨日の内に連絡をしておいたんだよ。」
「おー、そんなところがあるんか!もちろん行くぞい!」
離宮という事は、本人が不在でもその家族や身分が高い部下が居る可能性が高い。
雷獣の長・神疾はまだ仲間になっていない尾獣だから、その情報が少しでも得られれば役立つだろう。
ここで行かない手はないので、老紫は二つ返事で快諾し、鼠蛟もそれに同意した。

―白妙宮―
山中にあるとは思えないしっかりした宮殿。
岩を彫刻したような外観が面白いそれは、里と言うよりも城と言った方がいい作りだ。
「この白妙宮にようこそお越し下さいました。
大したおもてなしも出来ませんが、どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいませ。」
4人を出迎えてくれたのは、男と女の部下を1人ずつ従えた淡い紫の髪の女性。
胸元が開いた、床に着きそうなほど長い水干状の袖の衣装が高貴な身分を示している。
「おや、奥方自らお出迎えとは嬉しいじゃないか。変わり無いようだねえ。」
「猫の主様も、お変わりなくて何よりでございます。」
機嫌よく微笑む鈴音の挨拶に応じる女性は、雷獣の王・神疾の正妻。
見たところは背がやや低く小柄なところが可愛らしくも映るが、気性の荒い雷獣達を夫に代わり取り仕切る女主人である。
急な来客にも動じた様子ではなく、堂々としたものだ。
連れてきた部下達をいったん下がらせてから、こちらに笑みを浮かべて向き直る。
「旦那が不在で、色々苦労してないかえ?」
「王でしたら、喜ばしい事に最近は時折お帰りになられるようになりまして。
わたくし達の事もねぎらって下さっております。」
「神疾は、自由にしているのか?」
「ええ、器からの解放は叶っておりませんが、その方を閉じ込めていた里からお連れになったのです。」
「おやおや。あのお人らしいこと。」
そうだなと、鼠蛟もうなずいた。
神疾の性格は老紫やユギトの知るところではないが、このやり取りだけでじっとしていられる性分でない事だけは分かった。
「帰ってる時以外はどうしてるんじゃ?その辺ほっつき歩いとるんか?」
「そうですわね、長年閉じ込められておいででしたから、地方の視察をなさっている事が多いのです。
都においでになられるのは、月に1度程度ですわ。何か王に御用がありましたら、お伝えいたしましょうか?」
「出来ればすぐに会いたいのだが、無理か?」
鼠蛟が単刀直入に要望を伝えると、王妃は難しい顔をした。
「申し訳ございませんが、もしもそれがお連れの方の所属先のご都合でしたら、お受けいたしかねます。
王は今、とても忍者の来訪を嫌っておいでですので。」
「ああ・・・抜け忍連れでいらっしゃるからですね?」
「左様でございます。何でも忍者の里は、脱走者に多数の追っ手を掛けると聞き及んでおります。
王はそれをまことに忌々しくお思いで、器の噂をかぎ回る忍者を見かけたら、片っ端から始末しておけとの仰せです。」
「ずいぶん用心しとるの。追っ手がしつこいんじゃろう?」
「ええ、帰るたびによくお話になられます。
今月は何人の首を取ったとか・・・小虫の類と思っても、しつこいと本当に困ったものですわね。」
苦笑いしている王妃の言葉はさらっとしているが、内容は結構血生臭い。
彼女の夫は、旅の途中でかなりの追っ手を手にかけたようだ。
別にそんな事では老紫も驚かないが、それでちっとも動じない彼女の姿に、やっぱり妖魔の神経は違うなという感想を持つ。
「・・・そうか。借りていた本を返したかったんだが。」
「本でしたら、代わりにお預かりいたしましょうか?」
「いや、手渡しでないと困るのだ。春本を奥方から渡されるのは、さすがに・・・。」
語尾を言いよどんでみせると、王妃は一瞬目を丸くした後、笑いをこらえて口元に手を添えた。
確かにいくら預かり物といっても、妻からエロ本を渡されたら夫は複雑だろう。
そうならないよう気を使って、直接渡したいと言う要望ももっともである。
「まあまあ、それは失礼をいたしました。では、鼠蛟様がお会いしたいという旨、王にお伝えいたします。」
「何を返すか書くから、これを渡して欲しい。」
鉛筆を使ってささっと手元で書きつけた紙を、折りたたんでそのまま渡す。
「確かに承りました。今日中にお届けいたします。」
「すまないな。」
「いいえ、お気遣いなく。」
「あの・・・こう言っては失礼なのですが。」
「?」
「仮にも一種族の王が、それでよろしいのですか?」
個人的なやり取りに口を挟むのは無粋と知りつつ、ユギトは聞かずにはいられなかった。
いくら趣味とはいえ、エロ本のやり取りとはいかがなものだろうか。
「立場の前に、男だし。」
「あんたは言う事が露骨過ぎだよ。」
先程3人組の男達を無力化した時に使った扇子で、鈴音がこつんと鼠蛟の頭を叩く。
「そりゃ三十路のとうが立った女だけど、少しは遠回しに言ったらどうだい。
歯に衣は着せておくものだよ。」
「そう言っているお前こそ、歯に衣を着せて欲しいんだがな・・・私は。」
人前に居るという意識で怒りをこらえながら、ユギトは相方に毒づいた。
微妙な年頃に対する気遣いこそ彼女には欲しいようだが、あいにく鈴音は優しくなかった。
「おやおや、怒ると眉間のしわが癖になるよ?」
「お前が余計な事さえ言わなければ、癖にならずに済みそうだ。」
反論する彼女の額には、すでに癖になってしまいそうな気配を漂わせる眉間のしわが刻まれている。
声は抑えても、あいにく表情まではままならない。
「まあまあ、猫の主様ったら。それ位になさって下さいませ。お連れの方がお可哀想ですわ。」
「ふふ、大丈夫さ。ちゃんとこれでお終いにしておくよ。」
王妃にやんわりとたしなめられた鈴音が笑う。
横で内心ユギトがほっとしたのは、言うまでもない。

それから一行は、山道を歩いた疲れを少し休んで癒してから、遥地翔で一気に雲隠れの里までとんぼ返りした。


後書き
気がついたら前回更新から2ヶ月以上経過してました。反省。
次回は全員雲隠れに戻って来て、次の目的地とかに向けて動きます。



[4524] 巻末―設定資料集
Name: 始皇帝◆9da6cd08 ID:d262ff0a
Date: 2011/01/16 15:52
※このページは設定集です。
ここでは各キャラクターを登場時期ごとにまとめ、設定集としてご覧いただけます。
一覧性を優先しているため、文字の色変更による反転仕様は使っておりません。
ネタバレが苦手な方は、項目名を参考にご注意下さい。
また、作中で名称のみ判明した尾獣の設定は、
名前・種族・属性のみ掲載しており、その他の設定は登場後の掲載となります。

●なお、利便性・設定公開範囲変更等の都合で、内容は予告無く修正される場合があります。
 ご覧下さった際にお気づきの点やご要望(他に知りたい設定など)があれば、
 可能な限りお答えしたいと思いますので、感想掲示板にお気軽にお願いします。


※尾獣全員に共通の設定
・妖魔の間では「妖魔王」と呼ばれ、各種族を取りまとめる王として君臨している。全員実力は対等。
・桁外れの妖力を持つために不老不死で、その実年齢は数千歳。
・本体は人柱力の中。そのため妖術を使って偽体(生身と同機能の体)を作り、自由に行動する。
・妖魔は森羅万象の氣(エネルギー)を吸収するため、食べ物は基本的に不要。
 食べ物はいわゆる酒・タバコのような嗜好品扱い。
・全員既婚者。長い生涯の間に多くの子供をもうけている。


◆最初から登場・仲間の尾獣

九尾・狐炎
 種族:狐 属性:火 髪:橙色(耳の横のみ赤味の黒) 目:ザクロ色 
 性格:意地悪・皮肉屋・冷静・冷血・抜け目がない
妖魔の中では一番の策士と言われ、ナルトに足りない知識面を完璧にサポートする。
冷静沈着かつ冷徹な皮肉屋で、情に流されない判断を下す。
暁への妨害に、各地の人柱力を仲間に加えることを提案した張本人。
ちなみに下ネタなど、下品なことが大嫌い。
武器は太刀の白粋と短刀の緋迅。二刀流も出来る。

一尾・守鶴(しゅかく)
 種族:狸 属性:風・砂 髪:砂色に青のメッシュ 目:金色(白目は黒)
 性格:短気・自分勝手・大雑把・陽気・女好き・親分肌
非常に口が悪く、笑って相手を殺す残忍な男。惚れた女と子分には優しい。
女たらしで酒豪の上、賭け事は伝説の賭場荒らしの異名を取るほどの凄腕。
普段は我愛羅の私的な護衛と身分を偽っていて、彼の政策にアドバイスすることもある。
幽霊である三兄弟の母・加流羅を愛しているが、我愛羅からは大ひんしゅくを買っている。
知り合いをあだ名で呼ぶが、女性は別として男性に付ける際のセンスがひどい。
武器は暴砂の杖という錫杖で、普段は鉄パイプの姿で携行。


◆10話までに登場の尾獣

四尾・鼠蛟(そこう)
 種族:鳥 属性:毒 髪:群青色(首の両脇の長い部分は銀) 目:深い銀色
 性格:無口・無愛想・思慮深い・マイペース
妖魔の中では医者として名高く、神の翼という異名を取る。
無口で物静かだが、自由気ままなところもある。ちなみに老紫には結構毒舌。
人の方針には基本的に口を出さない反面、放任しておいて欲しがる面も。
妖魔以外の種族も治療でき、ついでに珍しい症例に目が無い。
武器は普通の鎌に似た大きさの斬魂の鎌と、投げナイフ型の短刀の命蝕。

七尾・磊狢(らいば)
 種族:むじな(アナグマ) 属性:土 髪:深緑 目:濃いピンク
 性格:ドM・寂しがり・おしゃべり・明るい・ハイテンション・フレンドリー
子供っぽくいたずら好き。かまいたがりの甘えん坊でドMと、周囲を疲れさせる要素に事欠かない。
仲間はちゃん付けに始まり、妙にかわいい呼び方をする事が多い(例:狐炎→炎ちゃん)
人間姿は小柄で童顔。見かけの年齢や身長はフウと大差ない。
武器は体格と裏腹の大型ハンマー・深緑の槌。


◆10話以降に登場の尾獣
二尾・鈴音(りんね)
 種族:猫 属性:闇 髪:やや明るい澄んだ青 目:黄緑がかったレモン色
 性格:気まま・マイペース・風流人・情が深い・意地悪
色っぽい尾獣の紅一点。風流好みで年下趣味。舞踊や音楽などの芸に長けている。
本人曰く可愛い坊やが好きとの事だが、過去の夫の外見年齢(結婚時)はせいぜい多少年下な程度。
野暮な男が嫌い。ユギトとはよく口げんかしているが、別に心底嫌いなわけではない。
武器は月闇の扇と紫煙の扇。

八尾・皇河(おうが)
 種族:蛇 属性:冥(死霊系) 髪:黒紫 目:氷色
 性格:横柄・傲慢・鬼畜・思い込みが激しい・冷酷
絵に描いたような暴君で、妖魔界最大の嫌われ者。性格は当然かなり悪い。
その一方キラービーにおだてられて気を良くしたり、意外と扱いやすいように見える部分もある。
しかし他の8体と対等に見られるのは大嫌いで、協調性も無い。
人間も当然頭から馬鹿にしているが、キラービーと雷影だけは彼なりに認めている。
武器は天叢剣(あまのむらくものつるぎ)。珍しい両刃の剣。

◆未登場の尾獣

三尾・磯撫(いそなで)
 種族:亀 属性:水

五尾・彭侯(ほうこう)
 種族:狼(犬) 属性:幻(全属性使える)

六尾・神疾(かむと)
 種族:雷獣(いたち) 属性:雷



人柱力の設定
基本的には原作設定寄りですが、
原作・アニメ共に未登場・台詞なしの人柱力は、独自解釈で設定付けしています。


◆最初から登場・仲間の人柱力

ナルト
 出身:木の葉隠れの里
九尾・狐炎の人柱力。
修行の旅を終えて里に帰還するはずが、住民から疑いをかけられてやむを得ず逃亡の身に。
現在は狐炎の提案により、仲間集めと打倒暁に奮闘する。
里からは抜け忍扱いで、指名手配されている。おかげで、最近はサスケどころではない。

我愛羅
 出身:砂隠れの里
一尾・守鶴の人柱力。
上層部の思惑から、異例の若さで風影に選ばれた。
立場上同行出来ないが、里長の立場を使ったサポートに奔走する。
守鶴については母・加流羅の件で気に入らない事が多いながらも、ちゃっかり利用している。
ただし彼に対する態度はかなり大人気ない。


◆10話までに登場の人柱力

老紫
 出身:岩隠れの里
四尾・鼠蛟の人柱力。数十年逃げ回る筋金入りの抜け忍。
漢字が大の苦手で、ついでに自分の名前が嫌いなすっとぼけた老人。
普段は偽名の無花果(むかか)と呼ぶように頼むが、色々あってあまり呼ばれる事はない。
里を離れて長く旅をしていたため、各地の情報に詳しい。


フウ
 出身:滝隠れの里
七尾・磊狢の人柱力。
里で厄介者扱いのため人間不信の気があるが、本来は明るく快活な普通の少女。
友人が居ないため、小さい頃からいつも磊狢と一緒に過ごす。
そのため普段はペット扱いながら、唯一心を開いている彼には何だかんだでべったりなところもある。


◆10話以降に登場の人柱力

ユギト
 出身:雲隠れの里
二尾・鈴音の人柱力。生真面目でお堅い仕事一筋の女性。
人柱力としての実力が非常に高く、それを強みに里の女幹部にまで上り詰めた。
それだけに里への忠誠心は人一倍強く、雷影の命令に忠実に従う。

◆20話以降に登場の人柱力
キラービー
 出身:雲隠れの里 
八尾・皇河の人柱力。楽天的でお調子者ながら、人柱力としてはトップクラス。
が、普段は下手なラップで皇河の不興を買っている。しかしおだて上手で彼の扱いは上手い。
現雷影の弟でもあり、昔から仲の良い兄弟として知られている。



その他の人物
原作でほぼ出番がない・アニメ限定などの理由で知名度が非常に低い人物、
あるいは追加設定が多い人物のみを記載しています。
きりが無いので、基本的に人柱力以外の原作の主要人物(サクラ・サスケ等)は非掲載の予定です。

◆10話までに登場の人物
加流羅
 出身:砂隠れの里
砂の三兄弟の母親。温和で優しく、幽霊になってからもずっと子供達を案じ続けた子供思いの女性。
今では守鶴から偽体を与えられ、子供達と穏やかな関係を築きながら風影邸の奥で静かに暮らす。
戦闘能力はほぼ無いが、苛立っている守鶴をなだめられる貴重な存在。


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