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ユッケだけではない、食のプロが警鐘を鳴らす生食の危険性――樂旬堂坐唯杏、武内剋己さん

Business Media 誠 6月3日(金)12時56分配信

ユッケだけではない、食のプロが警鐘を鳴らす生食の危険性――樂旬堂坐唯杏、武内剋己さん
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 焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」での、牛生肉を使った韓国料理「ユッケ」による食中毒事件発覚から1カ月が経過した。牛生肉に付着した腸管出血性大腸菌O−111に起因するこの事件の被害者は、死者4人、重症者24人、中毒患者数102人(5月8日時点)。地域的にも富山・福井・神奈川の3県に及んだ。

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 振り返ってみれば、日本の「食」の業界は、ここ10年ほど不祥事続きであった。ミスタードーナツ、不二家、ほっかほっか亭、ロイヤルホスト、石屋製菓(白い恋人)、赤福、比内地鶏、船場吉兆、博多っ子本舗(明太子)、日本マクドナルド、JR東海(駅弁)、中国産うなぎ、中国産フグ、ブラジル産鶏、汚染米。牛肉関連では、雪印、日本ハム、ハンナン、ミートホープ、丸明(飛騨牛)。以上20件、すべて偽装事件である。

 こうした、いつ果てるともしれない不祥事発覚を通じて、日本の食品業界に対する社会的信頼はすでに大きく損なわれていたと言って良いだろう。そうした業界不信の時代にあっては、当然、生活者側も用心深くあって当然のようにも思われるのだが、事件は起きてしまった。

 子どもや年配者の犠牲まで出した今回のような痛ましい事件を、なぜ未然に防ぐことができなかったのか。そして、今後、こうした事件から自分や回りの人々の身を守るには、どうしたらよいのだろうか?

 実は、何年も前から、ユッケを含めた肉の生食の危険性について、日本料理の料理人&飲食店経営者という立場から、メルマガやブログ、TwitterやFacebookなどさまざまな方法を通じ、業界内外に対して積極的に発言し、警鐘を鳴らし続けてきた人物がいる。池袋にある「樂旬堂(らくしゅんだいにんぐ)坐唯杏(ざいあん)」の総料理長&CEO武内剋己(かつみ)さん(48歳)だ。

 武内さんは、ホテルの日本料理部門、老舗割烹、鰻割烹、郷土料理店、焼鳥店などで修行を重ね、10年前に独立し、坐唯杏を立ち上げた。現在、スタッフは15人で年商は1億3000万円。店名は、「木の下で何となく口を開けているような気持ちでいらしてください」という意味で、歌手のアン・ルイスさんが命名したという。

 日本料理の伝統に立脚しながらも、それを現代という文脈に則して革新を加えながら手ごろな価格で提供。震災直後の4月の売り上げが対前年同期比で100%を超えるなど、“自粛ブーム”が続く厳しい時期にあっても顧客に支持されているようだ。その彼が鳴らし続ける警鐘とはどのようなものなのだろうか?

●隠された真実

 「今回の事件では、あたかもユッケだけが悪いみたいに言われていますし、それどころか、『事件を起こした焼肉酒家えびす屋と卸業者の大和屋商店だけの責任』という風に問題を矮小化してしまう論調すら見られます。

 その証拠にと言うべきか、ユッケの販売を自粛するだけで事足れりとし、ほかの生肉料理に関しては平然と出し続ける飲食店も多いですし、『うちではちゃんとトリミングをしていますから』と安心・安全を強調してユッケを出し続ける飲食店だってあります」

 ということは、生肉料理はすべて、ユッケ同様に食中毒の危険をはらんでいるということか?

 「もちろんです。そういう意味で、ユッケ食中毒事件に関連したマスコミの報道の在り方には問題があります。そもそも生食できる肉なんて存在しないのだというところから入るべきなのに、それをしていない。焼肉酒家えびす屋と大和屋商店を悪者にして叩きたいだけのように見えます。

 そもそも、トリミングしたから安全などということはありません。表面に付着した菌は中に入っていくと考えるべきだと私は考えています。ですから、生肉は本来、飲食店で出すべきではないし、お客さまも食べるべきではないのです。それでも、どうしても食べたいということであれば、肉の種類によらず、いつかは必ずあたるという覚悟を持って食べることが必要なんですよ」

 事件発覚後、どの段階で病原性の細菌が付着したかをめぐる議論があったが、生産者→加工業者→卸業者→飲食店という流れの中で、どこにどういう危険が存在するのだろうか?

 「例えば、大腸菌などは牛や豚が生きている時から腸管内に存在しています。そのため、食中毒予防の3原則『菌を付けない』『菌を増やさない』『菌を殺す』の中の、最初の『菌を付けない』というのが、そもそも無理なんです。

 体内に大量に存在している細菌ですから、加工業者の解体・加工プロセスで付着してしまう可能性をゼロにするのは難しいのです。そしていったん付着したが最後、その業者の扱う肉全部が汚染されることになります。卸業者も同様で、肉を小分けする時に菌が付着する可能性は少なくないですし、いったん付着したら汚染が広がります。

 加工・卸段階でのこうした回避困難なリスクを踏まえて、飲食店は生肉をメニューに入れるようなマネは避けるべきですし、どうしても出したいなら、そのリスクをお客さまに知らせた上で出すべきなんです」

 ということは、肉の生食全般に付随するリスクについての報道を行わないメディアと、そうしたリスクについての情報開示を怠ったまま、あるいは隠蔽して、平然と生肉料理を出している多くの飲食店の姿勢とが、事件の背景にあるということだろうか?

「私はそう思います」

●プロが教える「この料理やこの食材には気をつけろ!」

 基本的に、生肉料理はすべて危険ということだが、武内さんのこれまでの経験から現代日本の飲食店で特に食中毒の危険性が高いと思われる代表的な料理は何なのだろうか。

 「日本料理屋や居酒屋の定番料理とも言える鶏わさ、鶏の刺身、鶏のたたきなどは、カンピロバクター属菌が付着している可能性があり、感染したらギラン・バレー症候群※を発症する危険があります。また、多くの焼鳥店では、鶏レバーをほとんど生で提供し、それをウリにしていますが、同様に危険です。

※ギラン・バレー症候群……急性・多発性の根神経炎の1つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる。

 牛刺しは、このカンピロバクター属菌や現在問題になっている病原性大腸菌などが付着している危険性があります。多くのホルモン店で出されている生のレバーも、当然危険です。

 それから、豚・猪・鹿などの生肉には肝炎ウイルスが、精力剤として人気が高いスッポンの生血には、寄生虫の危険性があります」

 蛇足ながら、洋食の分野で人気の高い、表面を焼いただけの血のしたたるビーフステーキはもとより、ハンバーグの生焼きが非常に危険であることは言うまでもないだろう。

 今回の事件では生肉だけが槍玉にあがってしまったが、魚の危険性についてはどうなのだろうか。

 「生の魚は、種類によらず腸炎ビブリオに感染する危険があります。魚の中でも特に川魚の生は非常に危険ですね。また、牡蠣は生食が人気で、実際美味ですが、ノロウイルスに感染する危険があります」

 今回、武内さんにご教示いただいたのは、代表的な例のごく一部に過ぎない。食べればおいしいと分かっている料理や食材であっても、それを生で食べるということに関しては、それほどまでにリスクがあるということである。

 武内さんの場合は仕事柄、保健所に頻繁に出かけて情報収集に努めてきたようだが、一般の生活者にそこまで求めるのは現実的ではない。実際、ユッケ集団食中毒事件後、「そんなことを言っていたら、結局、何も食べられなくなる」と言って、従来通りの生食を繰り返す人々は少なくないし、そうした風潮に呼応するかのように飲食店側でも生肉料理を出し続けているところがある。今後、できるだけ危険を避けたいと願う生活者としては、どう対応したらよいのだろうか? 

●危ない店や食べ物から身を守る方法

 自分の身を自分で守るための飲食店選びの方法と、スーパーなど食料品店での買い物の方法について武内さんはこう語る。

 「まず大前提として、生の肉は危険であるという認識に立って、飲食店に行っても肉の生食はしないという姿勢が大切です。そして、それを効果的に実現するためには、事前にWebサイトなどでその店のメニューを確認し、生肉料理を出していない良心的な店を選ぶことが重要です。というのも、せっかく火の通った料理を注文しても、その飲食店のメニューの中に生肉料理があれば、まな板を通じて、細菌に汚染される可能性が高いからです。さらに言えば、しぶきが飛んでいたりします。

 でも、どんなに危険と分かっていても、『好物なので、どうしても生食したい』という人もいることでしょう。おいしいですからね(笑)。そういう人の場合は、いつかは必ず食中毒になるという覚悟をもって臨むこと。そして、その際、抵抗力のない子ども・お年寄り・体の弱い人などを、そうした危険に巻き込まないよう配慮することが必要だと思います。

 店選びという点に関しては、プロフェッショナルな料理人がきちんと『仕事』をしている店を選ぶことは絶対に必要でしょうね。知識のないアルバイトなどがマニュアル通りにやっているだけのところは非常に危ないですから。

 スーパーなど食料品店での買い物の仕方に関しては、例えば刺身の場合、できるだけかたまりの状態のものを買ってきて、自宅で切るのが良いと思います。食料品店で、いろいろと人の手が加われば加わるほど細菌の付着や増殖のリスクが高まるからです。冷凍物だと、解凍前のものを買ってきて、自宅で冷蔵解凍するのが良いです。自然解凍だとその間に細菌が増殖する可能性があります。また、野菜に関しては、もやし・カイワレ・キュウリなどは大腸菌が多く付着していますから、よくよく洗ってから食べるようにした方が良いですね」

●放射線が日本の「食」を救う!?

 細菌や寄生虫などによる食中毒の問題は、人類の歴史と同じくらい古いと言っても過言ではないが、決定打になるような防止法はないのだろうか。

 「実は、決定打になる可能性を秘めた方法が1つ存在するんです。それは『電子線滅菌』です。欧米では広く行われている方法で、例えばイチゴやレタスなど生食用の食材や各種スパイス類の滅菌・殺虫に普通に用いられています。アジアでも韓国などでは、20種類以上の食材で電子線照射が行なわれています。しかし、日本ではジャガイモの発芽防止用の照射しか認められていません。

 この技術を生肉の滅菌に適用できるようになれば、生肉を安全に食べられるようになるのですが、電子線とはすなわち、放射線ですからね。福島第1原発の事故によって、放射線全般に対する警戒感が強まったことで、その実現はさらに遠のいたかなと残念に感じています」

川本産業 電子線滅菌
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=utoCv2rtfQY

 今なお続く飽食の時代にあって、確かに我々生活者の食生活は一見豊かになったようにも思える。しかし、それは同時に、さまざまな細菌や寄生虫が人体に侵入する可能性が大きく拡大したことをも意味していよう。自分の身は自分で守るというのが基本姿勢ではあろうが、電子線滅菌であれ何であれ、1日も早い「決定打」の登場を期待したいものである。

●嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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最終更新:6月6日(月)17時1分

Business Media 誠

 

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