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東日本大震災から3カ月半、菅直人首相がきのうようやく、復興担当相に松本龍防災担当相を任命した。新たに原発事故の担当相も設け、細野豪志首相補佐官を就けた。遅ればせながら、[記事全文]
公立学校の卒業式などで教員を起立させ、君が代斉唱を命じることは、思想・良心の自由を保障した憲法に違反するか。この問題をめぐり、最高裁の三つの小法廷が相次いで判決を言い渡した。小法廷の審理には[記事全文]
東日本大震災から3カ月半、菅直人首相がきのうようやく、復興担当相に松本龍防災担当相を任命した。新たに原発事故の担当相も設け、細野豪志首相補佐官を就けた。
遅ればせながら、復興に向けた政府の体制が整った。そう前向きに評価したいところだが、内実は何とも心もとない。
被災者支援に携わってきた松本氏の起用は、仕事の継続性を重視したといえる。だが、菅政権の震災対応への世論の評価は厳しい。各省を使いこなせず、政策の立案、実行に迅速さを欠いたからだ。松本氏もその内閣の一員だった。
阪神大震災の3日後に地震対策担当相になった自民党の小里貞利氏は著書で、仕事ができた理由として「全大臣の支援と協力」を挙げている。ここは、松本氏にも被災地で陣頭指揮をとり、各省を率いて現場対応を急いでほしい。
そのために、いま首相がなすべきは、松本氏に大胆に権限を渡し、政府一丸で支える体制をつくることだ。与野党の協議機関を整えることも必要だ。
ところが、今回の人事では、首相がそんな政治力を発揮できそうにない現実を改めて示してしまった。
いったん辞意を表明した首相にすれば、求心力回復のきっかけにしたい人事だったろうが、その効果は期待できない。
その象徴が、国民新党の亀井静香代表への副総理での入閣打診と、復興対策本部員となる総務大臣政務官への浜田和幸自民党参院議員の一本釣りだ。党幹部と十分なすりあわせはなく、首相の独走に近かったという。
党執行部からも8月末までの退陣を迫られている首相には、続投を後押ししてくれる亀井氏が、最後の頼りなのだろう。与党が過半数割れしている参院での自民党の切り崩し工作も、亀井氏の助言によるものだった。
だが、その結果の人事で、首相は民主党執行部との隙間を広げ、協力を仰ぐべき野党第1党自民党の反発も招いた。
首相はきのうの記者会見で初めて、退陣の条件としていた「一定のめど」について、第2次補正予算、特例公債法、再生可能エネルギー特別措置法の成立を挙げた。けれども、この人事が与野党の協調をかえって難しくし、この3条件の達成も遠のけたのは明らかだ。
首相が真剣に被災者の身の上を案じているなら、こんな対応ができただろうか。
ここに及んでさらに孤立していく首相に、震災復興への展望は開けそうにない。
公立学校の卒業式などで教員を起立させ、君が代斉唱を命じることは、思想・良心の自由を保障した憲法に違反するか。この問題をめぐり、最高裁の三つの小法廷が相次いで判決を言い渡した。小法廷の審理には加わらない長官を除く計14人の裁判官の見解が出そろった。
うち12人が命令は合憲と判断した。これに対し「精神的自由権に関する問題を、一般人(多数者)の視点からのみ考えることは相当でない」(宮川光治判事)などと、反対意見を明らかにしたのは2人だった。学説の多くが違憲説をとるなか、民主主義社会の基盤である基本的人権の重みを、憲法の番人はどうとらえているのか。疑問と懸念を残す結果となった。
一方で注目すべきは、すべての小法廷が「命令は、思想・良心の自由の間接的な制約となる面がある」と指摘したことだ。一、二審判決の多くが「教員に特定の思想を強制したり、告白を強いたりするものではない」として、比較的あっさりと原告側の主張を退けたのに比べ、ぎりぎりのところでの合憲判断だったことをうかがわせる。
一連の判決では、民事訴訟法の定めなどから、命令に違反した教員に対する処罰の適否は直接の審理対象にならなかった。だが個別意見でこの問題に言及した裁判官が複数いる。
反対意見を書いたもう一人の田原睦夫判事は「処分は慎重であるべきで、命令に違反したからといって直ちに処分すれば裁量権の乱用が問われ得る」と述べ、岡部喜代子判事は命令は合憲としつつ「処分の程度や影響などによっては裁量権の逸脱・乱用になる」と警告した。
ほかにも、合憲とした判事らから、過度の不利益処分を背景に起立斉唱を強制することに危惧を示す見解や、教育行政の担当者に「寛容の精神」を求める意見が示されている。
日の丸・君が代に関しては、戒告処分は社会通念に照らし重すぎるとして取り消した高裁判決と、逆に停職処分を追認した高裁判決があり、ともに最高裁に上告されている。これらの事件の審理では処分のあり方が正面から議論されることになる。今回示された様々な意見を踏まえ、最高裁が次にいかなる判断を下すか、注目したい。
大阪府の橋下徹知事は、起立斉唱命令に複数回違反した者を免職とする条例の制定を唱えている。合憲という多数意見の結論だけでなく、最高裁が発したメッセージの全体を受け止めて行動してほしい。それは他の首長や教育関係者も同様である。