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社説:首相退陣条件 延命優先せぬ幕引きを

 やっと「一定のめど」の中身が示された。東日本大震災の政府復興対策本部の発足にあたり、菅直人首相は原発事故担当相に細野豪志首相補佐官を昇格させるなど閣僚人事を行った。首相は人事を終え記者会見にのぞみ、自らの退陣の条件が2次補正予算案、特例公債法案、再生可能エネルギー法案それぞれの成立であることを初めて明言した。

 これまで首相が自らの役割をはっきりさせなかったことが与野党の疑心暗鬼を広げ、無用の混乱を広げてきた。遅きに失したとはいえ、3条件で身を引くのは現状では妥当な線と言える。与野党は合意形成に全力を挙げ、政治の歯車を前に回すべきである。

 閣僚人事では復興担当相に松本龍防災担当相兼環境相が起用された。松本氏は被災者支援、細野氏はこれまで原発事故にそれぞれ対処しており、継続性を重視した人事と言える。初入閣で原発事故収束の責任を負う細野氏の責任は重い。関連する権限をできるだけ一元化するバックアップも必要だろう。

 それ以外の部分で人事問題は迷走した。首相の参謀となっている国民新党の亀井静香代表が進言した大幅な内閣改造は見送られた。その亀井氏に首相は副総理ポストを示し、逆に固辞されてしまった。

 やはり亀井氏の働きかけで自民党の浜田和幸参院議員を離党させ、総務政務官に起用した人事にも首をかしげてしまう。参院のねじれ対策といっても露骨な切り崩しであり、自民党は強く反発し、不信感を強めている。国会を乗り切るうえでは、むしろ逆効果だ。

 いずれにしても、記者会見で首相が何らかの退陣の基準を示さなければ、延長国会は乗り切れない状況だった。とても人事を通じて政権浮揚を図れるような状況などではない。国会は70日延長したが、今回の迷走を通じ、首相も政権延命の限界を感じたというのが実態ではないか。

 ともあれ、首相が条件を示した以上、与野党はこれを率直に受けとめるべきだ。とりわけ再生可能エネルギー法案は内容の見直しも必至であり、自民党には慎重論も強い。首相が「成立」を条件としたことから、新たな延命の布石と受け取る見方も与野党には消えない。

 だが、自然エネルギーを電力会社が買い取るシステムの法制化は、政局と絡めず本来、着実に実現すべきテーマだ。「3条件」の処理に手間取ると、本格的な復興予算である3次補正予算案を誰の手で編成するかも、難しい問題となる。「ポスト菅」に政治を進めるためにも、与野党は延長国会で政策論争に専念し、合意形成に努力してほしい。

毎日新聞 2011年6月28日 2時32分

 

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