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きょうの社説 2011年6月28日
◎「平泉」世界遺産 文化継承こそ地域の支え
岩手県平泉の世界遺産登録は、被災地復興へ向けた希望の光であるとともに、地方の文
化の豊かさをあらためて示すものといえる。歓喜と高揚感に包まれる地元の人たちの姿は、歴史を経て引き継がれた文化遺産が、地域の誇りとなり、苦難の時には大きな心の支えになることを教えてくれる。北陸に目を移せば、世界遺産登録をめざす一連の運動を通して、加賀藩前田家の遺産を 国史跡や重要伝統的建造物群保存地区などに指定する動きが活発化し、金沢、高岡市の「歴史都市」認定を含め、文化遺産の活用が地域づくりの本流として定着した。ユネスコが世界遺産の新規登録を抑制する姿勢に転じたとはいえ、軌道に乗った歴史・文化継承の取り組みを鈍らせるわけにはいかない。 平泉は中尊寺金色堂や毛越寺(もうつうじ)庭園などで構成され、浄土思想を表わした 建築や庭園が世界遺産にふさわしい「顕著な普遍的価値」を持つと評価された。12世紀に東北一帯を支配した奥州藤原氏は、戦乱犠牲者を供養するために中尊寺を建立した。平泉は平安京に次ぐ高度な文化と栄華を誇り、まさに地方の時代の先駆けといえた。 年代の違いはあれ、地方にはそれぞれ独自の文化が輝いた時代がある。北陸でいえば、 美術工芸、学問などの文化が開花した加賀藩前田家の治世がそれに当たるだろう。そうした地方の底力を過去の物語に閉じこめず、これからの地域づくりに積極的に生かしていくことが、東京一極集中の現状を変え、地方を元気にする道でもある。 政府の復興構想会議がまとめた復興提言では、特区構想や農林水産業の集約化、高台へ の市街地移転などが打ち出された。減災や規制緩和、民間資本活用など前例にとらわれない大胆な発想は大事だが、中央の論理で効率化や大規模化を追求すれば、東北の良さまで失われかねない。 新しい地域づくりを進めるにしても、共同体をつないできた核は必要である。平泉のよ うに長い歳月を経ても輝きを失わない文化遺産は、東北の原点を見つめ直し、地域の未来図を描く大きな手掛かりになる。
◎復興本部人事 「政略」が過ぎはしないか
菅直人首相が、東日本大震災の復興対策担当相に松本龍氏を充てるなどの新閣僚人事を
決めた。復興対策本部の初会合を28日に開き、被災地の復旧・復興の取り組みを加速させる体制を整えるが、復興担当の政務官に自民党の浜田和幸参院議員を起用した首相の政略的な動きは、挙党一致の復興体制に自ら水を差し、野党の反発と猜疑心に油を注ぐものと言わざるを得ない。求心力を失った菅首相を本部長とする復興本部が強い推進力を持ち、文字通り復興のけん引車になるのかどうか、スタートから不安が残る。首相の人事カードは本来、政権浮揚の武器となる。しかし、今回の閣僚人事は岡田克也 民主党幹事長から「最小限に」とクギを刺され、国民新党の亀井静香代表には副総理としての入閣要請を固持された。松本復興担当相も当初、就任を拒んでいた。そもそも退陣の意向を表明した首相が大幅な内閣改造を行うこと自体が理に合わないことで、復興基本法の成立に伴い最小限の人事になったのは、むしろ当然である。 それでも、参院自民党から浜田氏を一本釣りする企ては、人事カードで野党をかき回し 、政権に執着する菅首相の権力意志の強さをうかがわせる。浜田氏を閣内に迎え入れることの大義は、与野党の垣根を越えて復旧・復興に取り組む必要があるということになろうが、自民党の反発は必至であり、与野党の垣根をさらに高くすることにしかならない。意義も効果も疑わしく、民主党内をも困惑させる浜田氏起用は、首相の人事権をもてあそぶようであり、野党に対する嫌がらせの印象も強い。 菅首相は、本格的な復興対策を盛り込む今年度第3次補正予算の土台となる基本方針を 7月中にまとめる考えという。しかし野党側は、退陣表明しながら第3次補正まで手がけようとする首相に一段と不信感を強めている。 復興本部の法的裏付けとなる復興基本法は、自民、公明両党も賛成して成立した。野党 の支持も得て最初から全力運転すべき復興本部が、政局に翻弄(ほんろう)されるような事態は避けてもらいたい。
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