きょうのコラム「時鐘」 2011年6月28日

 ユネスコの世界遺産にしたい宝物を、私たちも持っている。うらやみながら、奥州・平泉の登録決定に拍手を送りたい

平泉を有名にしたのは、ご存じ源義経と松尾芭蕉。2人の力が合わさって、「夏草やつわものどもが夢の跡」の句が生まれた。知名度は抜群。だが、義経の悲劇も俳句の風流も知らない海外に価値を認めさせるには、随分骨が折れたことだろう

今回の認定には大震災が大きな影響を与えたに違いない。被災した人たちが、争いも苦しみもない浄土の風景を誇らしく語る。光を抱いて苦難に耐える。義経を知らない外国人でも心が打たれぬはずはあるまい

観光客が殺到する、とそろばんをはじく声がする。そんな特効薬ではないことは五箇山の合掌集落が教えてくれる。復旧、復興の励みになる、と認定の喜びが語られる。この言葉こそ、耳を傾けたい。誰のための世界遺産か。まず地域の宝として根付くこと。観光商売はその次か

先を越されて悔しいが、平泉の認定は自分たちの宝を大切にすることを教えてくれる。時間をかければ、輝きは増す。長丁場を覚悟の取り組みも、悪くはない。