赤木智弘の眼光紙背:第182回
震災への対応はどこへやら、すっかり政局ばかりが報じられる国会で、児童ポルノ禁止法改正案が提出されるという。(*1)
もしこれが本当に提出されるのであれば、ハッキリ言って、震災のどさくさに紛れての提出としかいいようがない。もしかしたら菅政権は、これを国会の会期延長とのバーターとして利用するつもりなのではないか? などと疑ってしまう。
児童ポルノ法改正に対して反対する人は、表現の自由の観点から反発が主であると誤解されがちだが、ゲームやマンガに対する規制であればともかく、実在人物の児童ポルノに対して「児童ポルノも表現の自由だ!」と主張する人というのは、ほとんど聞いた事がない。
ちなみに「児童ポルノ」とは、「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」において定義される「「児童ポルノ」とは、現実の若しくは疑似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう」(*2)を指すものであり、子供のソフトヌードなどを指すものではない。
多くの人が児童ポルノ法改正に反対するのは、主に「単純所持」を禁止した場合に、パソコンのキャッシュなどによる、利用者の意図しない所持までもが罰せられる可能性があることに対する懸念である。また、児童ポルノの定義は上記のとおりであるはずが、その意味をなし崩し的に拡大解釈し、創作物の規制をも児童ポルノ禁止法に含めていこうという動きが、児童ポルノ法改正賛成側にあることなども、もちろん懸念材料の1つである。
そしてなにより、私が懸念材料として考えるのは、この法律が「児童ポルノ」の問題に偏るあまりに、むしろ子供が「搾取」されているという問題が、これまで以上に見えなくなってしまうのではないかという点である。
児童ポルノ法改正に関する議論において、児童からの「性的搾取」という言葉の「性的」の部分は「道徳」、すなわち「けしからんこと」として議論の対象にされてきた、しかしその一方で「搾取」の部分、すなわち「児童福祉」の部分は、ほとんど論じられていないように、私には思える。
児童ポルノ法改正に賛成する人の中には、ジュニアアイドルが小さな水着を着て、男を挑発するようなDVDが流通していることを改正の理由として扱う人もいる。たしかにそうした映像が「子どもの性」を売りにしているのはその通りだが、その一方でそこに存在するはずの「親や業界による子供からの労働搾取」は、全くと言っていいほど問題にされておらず、ただ「子供が性的な存在として利用されている」ことのみが問題であるかのように扱われている。
労働基準法の第56条においては、基本的には15歳未満の労働を禁じているが、その一方で制限付きで15歳未満の労働を許可(*3)しているので、アイドルや子役といった芸能活動は決して違法な労働ではない。ジュニアアイドルもこの範疇に含まれる。
たしかに合法ではあるのだが、子供の芸能活動によって、親や業界が利益を得る構図は、極小ビキニで男を誘うジュニアアイドルも、テレビでスポットライトを浴びるアイドルや子役も、全く同じである。同じであるけれども、片方を問題視して、片方を不問にするに「児童労働」を問題視するのではなく、それが「性的」であることを問題視せざるを得ない。児童ポルノ法改正に賛成する人たちには、そうした芸能業界に対する「配慮」があるのではないかと推測する。
私は「アイドルや子役を規制しろ」と言いたいわけではない。しかし、子供を守るという旗印の議論であれば、そこまで含めてタブーなき議論を構成しなければならないはずだ。それを単に「子供からの“性的”な搾取」のみの問題として考えることは、現在の芸能業界の利益を第一に考え、子供の人権を矮小化しているに過ぎないのではないか?
そうした大人の都合によって議論に線を引く姿勢が子供を守ることに繋がるとは、とてもではないが私には思えないのだ。
*1:児童ポルノ禁止法改正案、自・公が今国会提出へ(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110619-OYT1T00807.htm*2:児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(外務省)
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/treaty/treaty159_13.html*3:労働基準法(総務省)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html