必要な情報を記憶し、不要な情報を忘却する脳の二つの神経活動を再現する新型の「人工シナプス(神経細胞のつなぎ目)」を、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)などの研究チームが世界で初めて開発した。人間の脳のように、過去の経験に基づいた直感的な判断ができる「脳型コンピューター」づくりに役立つという。英国科学雑誌ネイチャー・マテリアルズの電子版に27日掲載された。
人間の脳は、情報の入力頻度が高いほど記憶が確実になり、頻度が低ければ記憶があいまいになったり忘れてしまう。記憶の強弱は、脳の神経回路でのシナプスの結合の強さに比例するとされる。
研究チームは、人工シナプスを構成する二つの電極に電圧をかけて信号を入力。入力頻度に応じ電極間を結びつける銀原子で形成される架橋の強さを制御することに成功した。
従来の人工シナプスでは複雑な回路などで設計した通りの動作しかできなかったが、新型は動作設計なしに活動することができる。
物材機構の長谷川剛主任研究者は「将棋やチェスで、短時間にすべての手を計算するコンピューターと人間が対等に勝負できるのは、過去の経験に基づく直感で判断をしているから。直感に基づく脳型コンピューターの基本動作の実証を目指したい」と話している。【安味伸一】
毎日新聞 2011年6月27日 2時01分