模索重ねる平和教育 現場任せの声も

石川高校の生徒たちが観賞したFECの「お笑い米軍基地」の一場面=20日、うるま市石川会館

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2011年6月25日 16時10分このエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(34時間56分前に更新)

 平和教育の模索が続いている。23日の「慰霊の日」前後は、県内の小中高校で講演会や写真展、フィールドワークなどがめじろ押し。語り部の高齢化が進む中、基地を題材にした劇の観賞や原発・震災と絡めた講演会など、趣向を凝らす学校もあった。だが、内容の質は現場任せなのが現状だ。「行事の時間が限られ、平和教育だけに力を入れてられない」「教師のやる気次第」。さまざまな声が聞こえてくる。(渡慶次佐和、儀間多美子)

 「基地、あってもいいんじゃないですか」「沖縄から基地がなくなる可能性ってあるんですか」

 前宜野湾市長の伊波洋一さんに多くの疑問をぶつけたのは、浦添工業高校の生徒ら。22日に同校で開かれた平和講演会で、普天間基地の移設問題について語った伊波さんに、質問が相次いだ。

 伊波さんは戦後、米軍に住民の土地が接収された経緯に触れ「基地をなくし、跡地利用していくことが沖縄の成長につながる。将来を担うのは君たちの世代。声を出す大切さを忘れないでほしい」と訴えた。同校の中川順夫教諭は「基地を絡めて理解を深めることが沖縄の平和につながるはず」と意義を語る。

 石川高校と嘉手納高校は演芸集団FEC主催の「お笑い米軍基地」を全校生徒で観賞。石川高は「戦時の話に偏らず、身近な基地問題から沖縄戦を考える入り口にしたい」。嘉手納高は「基地が隣接し、騒音に悩まされている。去年までは沖縄戦をテーマにした映画観賞だったが、基地のある現状を考えてもらおうと思った」。平和教育に向き合うスタンスはさまざまだ。

 ガマや戦跡、基地周辺のフィールドワークは、クラスの代表2、3人が現地に行き、学校で報告するスタイルが多い。ある教頭は「代表で行けばバス1台で済む。数百人で行くより現実的」。別の学校の教頭は「ことしは講演会のみ。他にやりたくても、時間数がギリギリでできない」と話す。授業数の確保、予算などにも頭を悩ませる。

■手法さまざま

 県高教組はことし、県内81校に12年ぶりにアンケートを実施した。「平和教育委員会の有無」「取り組み内容」など6項目を質問。1998年の調査では証言者の講演が多かったが、今は基地に絡めた講演会や演劇鑑賞が増えてきた。

 玉那覇哲委員長は「証言者も高齢化し、現場教員に戦争体験者はいない。若い先生たちは平和教育に悩んでいるのではないか」と背景を探る。証言者に講演を依頼しても、体調を理由に断られるケースもある。那覇市内の高校教師は「沖縄戦を語ることができ、なおかつ高校生が興味を持って話を聞ける人をどうにかして探さないと」とため息。

 実際、学校の取り組みを左右するのも教師の力だ。30代の中学校教師は「仲間うちで温度差もある。10年ほど前までは『何を平和、平和と騒いでいるのか』という雰囲気さえあった。忙しさで心を病む人も多い学校現場で、自ら企画し、広めるにはパワーがいる」。

 それでも、教科書検定問題に端を発した昨年の県民大会以降は雰囲気が変わった。「さすがに、これではまずいと。平和教育をしっかりやってほしい、という県民の思いも伝わった」

■行政ぐるみで

 「現場任せ」の声に、県はどう関わっているのか。県立学校教育課は、新任教員対象の1年間の初任者研修のうち1日だけ、平和教育の研修を実施。義務教育課は「教員に配布される『指導の手引書』で、平和教育の在り方は周知されている」と説明する。

 多くの住民を巻き込んだ地上戦という、他県に例のない歴史を持つ沖縄。腰を据えた平和教育の取り組みを、行政も一体となって考えていく姿勢が必要だ。

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