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第一話 雪の日の誓い
「いよいよ、明日使徒が来るのか……どんなやつなんだろうな……」

エヴァンゲリオン新参号機パイロットのキョンはそう言って身を震わせた。

そんなキョンの様子を見て、新弐号機パイロットであるハルヒはからかうような笑みを浮かべる。

「使徒と戦う事が怖くて震えてるのかなー? いまさらおじけづいて、情けないわね!」

「そうじゃない、俺は寒くて震えているんだ」

季節は冬。

シンジ達の戦いの最後に起こったサードインパクトと呼ばれる現象によって、10年前から日本にも四季が戻っていた。

キョンの言葉を聞いたハルヒはわざとらしく溜息をついて、キョンの隣に近づき、自分のマフラーを首にかけたまま、キョンの首にもマフラーを掛ける。

「ほら、こうすれば寒くないじゃない」

「おい……こんな所で……」

照れ臭くなったキョンはハルヒを止めようとしたが、ハルヒの体も震えている事に気がついた。

キョンは真剣な眼差しになってハルヒを見つめる。

「やっぱり、ハルヒも……」

自分の体の震えを指摘されたハルヒは慌てて首を振って否定する。

「こ、これは武者震いなんだからね! キョンとは違うのよ!」

ハルヒはそう叫んでキョンの手を握ってブンブンと振り回す。

「手と手を繋いだら向かうトコ無敵なのよ!」

「目を輝かせながら言うなよ、恥ずかしい……」

キョンのぼやきの通り、周りの生徒からクスクスと笑い声が起きていた。

近くに居たキョンやハルヒの友人である谷口、国木田、ミクル達もニヤニヤと笑いを浮かべている。

「……あなたたちは死なないわ。私が守るもの」

そう言って二人に声を掛けたのは、新初号機パイロットであるユキ。

「私は使徒と戦うためにここにいる。それ以外の役目は無い」

ユキがそう言うと、キョンやハルヒは溜息をついた。

周りに居た生徒達も同様だ。

「ユキ、まだそんなこと言ってるの? いい、使徒が居なくなったって生きる目的が全くないわけじゃないのよ。むしろそれからが長門ユキとしての人生の始まりじゃない」

ハルヒがそう言うと、ユキはコクリと頷く。

「わかった……レイさんもそう言っている」

「……長門、生きて帰ろうな」

「アスカとシンジに鍛えてもらったこの一年を信じるのよ。あたしたちは絶対に使徒に負けない!」

ハルヒの言葉に周りの生徒達も色めき立つ。

「そうだそうだー」

「三人とも、頑張ってね」

みんなの声援に見送られて、ハルヒとキョンとユキの三人は学校の最寄りの駅からネルフ本部に直通する専用列車に乗りこんで行った。

ハルヒはキョンの隣で小さくなって行く見送りの生徒達の姿を静かに眺めていたが、不思議そうに首をかしげてキョンに呟くように尋ねる。

「ねえ、キョン? 昨日アスカとシンジが言っていた『白雪姫』ってどういう意味? それが最終兵器ってどういうこと?」

シンジから本当の意味を聞いていたキョンは気まずそうに視線を反らしてすっとぼける。

「さ、さあな。どんな意味なんだろうな……」



その頃、ネルフ本部の会議室では明日の一度きりの作戦に備えて、作戦の最終確認に入っていた。

総司令の席にはミサトが座っていて、堂々とした様子に見える。

側には付き添うようにマコトが立っていた。

この二人は積極的に発言をせず、会議の中心的人物である三人の姿をじっと見守っているようだ。

ネルフの作戦部長であるシンジ。

作戦部長の副官であり、メインオペレータを務めるアスカ。

技術部の新鋭部員であり、サブオペレータを務めるレイ。

レイはリツコの後を継いでネルフ技術部の長となったマヤの手助けを今でも受けているものの、立派に成長していた。

シンジに聞かれた技術的な質問にも的確に答えるレイ。

アスカの武装についての質問に対してもレイはしっかりと返した。

会議は問題無く終了し、参加したメンバー達は気合を入れ直して引き締まった表情で準備へと向かって行った。

一つ山を越えたアスカ達三人は少し安心したように表情を緩め溜息をもらした。

そして、アスカは会議室の壁の真ん中に貼られている集合写真に視線を向けた。

自分達を含むネルフのスタッフ達が全員写っていて、中心にはまだ固い表情をしたハルヒ、キョン、ユキの三人が写っている。

「しかし、恋愛は病気だってぬかしていたハルヒが、まさかあんなになるなんてね……」

アスカのぼやきを聞いたシンジは苦笑していた。

三人はのんびりとして居たかったが、明日の決戦に備えて急いでやらなければならない仕事が山ほど残っている。

「あの子達のためにも、私達ができるだけ助けてあげないといけないわ」

レイがそう言って席を立つと、アスカとシンジも弾かれたようにそれぞれの部署に向かおうとする。

「シンジ!」

アスカは叫んでシンジの背中を呼び止めた。

「なに?」

「ううん、何でもない……ただ、声を掛けただけ」

アスカの言葉にシンジはクスリと笑う。

「そっか……きっと明日、全て終わってからなら、いくらでも時間はあるよ」

シンジはそう言って手を振りながら走り去って行く。

アスカも笑顔で手を振り返し、シンジの姿が見えなくなると、穏やかな笑顔でお腹をゆっくりとなでる。

「……絶対に負けられないのよ!」

そう呟くアスカの蒼い瞳はとても力強いものだった。

夜にかけて雪はしんしんと降り注ぎ、決戦の地である第三新東京市を白く染めて行った……。
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