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ハルキョン小説短編 The Sea Glowfly ~ハルヒとキョンの600キロデート~
※ハルキョン大学生カップル設定。
※ぬいぐるみのクレーンゲームの内容は、文章では説明しにくいので実際と少し変えてあります。



うっかり、ハルヒの前で”海ほ○る”の事なんか話題にしたのがまずかった。
海の上に建てられた観光スポットなどと聞いて、ハルヒが黙っているはずが無い。
えっ? 宇宙人や未来人、超能力者などと全く関係ないだろうって?
大学生になってからのハルヒには興味事が一つ増えたんだ。
”恋愛”と言うジャンルだ。

「キョン、あんた車を運転できるんでしょう?」
「おい、ここから片道8時間近くかかるじゃないか」
「大丈夫、あたしと交代しながら走れば5時間じゃない」

おい、何で俺の方が2時間多いんだよ。
まあ、8時間ぶっ続けで運転しろと言わないだけ昔のハルヒに比べたらはるかにマシだが。

「決まっているじゃない、あんたに花を持たせてあげるのよ」

俺の心が読めるのか、ハルヒはそんな事を言い出した。
正直に集中力がそれぐらいしか持たないと言ったらどうだ。

「あたしはね、瞬発力はあるけど持続力はキョンの方が上じゃないの」
「ああ、思いつきで兵庫県から千葉県まで行こうとするやつだからな」
「陸続きなんだから平気よ」

こうしたハルヒの強引さは出会った頃からちっとも変わらん。
ヘンテコな神の力なんぞ使わなくても実現可能な事であるのが救いか。
途中まで新幹線や飛行機で行く、夜行バスで行くなどの案は却下された。

「だってさ、今のうちは高速道路にいくら乗っても1,000円なんでしょう? このチャンスを逃す手は無いじゃない!」
「来週の日曜日を最後に廃止するらしいけどな」

他にも理由はあって、2人きりで色々な場所を寄り道できるからだそうだ。
初めツンツン、後はデレデレと言うのが谷口の言う真のツンデレの意味らしいが、谷口の事だからな、あまり信用していない。
そう言えばあいつは長続きする恋人がどうして出来無いんだろうな。
意地の悪いやつだとは思わないが。

「そんなの決まっているじゃない、理想の虚像を演じ続けようとして痛々しいのよ。要する見栄っ張りで子供だからよ」
「うわっ、バッサリと斬りやがった」

谷口、在りのままのお前を愛してくれる女性がいつか現れてくれる事を祈るぞ。

「谷口の事なんてどうでもいいでしょ、今は”海ほた○”に行く計画を建てるのが先決よ!」
「そうだったな」

片道8時間もかかる行程だ、運転経験の浅い俺達が無理をしないで行くためには千葉県で一泊するのが妥当だと結論が出た。
俺とハルヒが2人きりで泊まりの旅行へ行くなんて初めての事だ。
もちろん、大学生になったのだから親の同意を取るべき事でも無いのだが、俺とハルヒの顔は真っ赤になった。

「なあ、シングルの部屋2つじゃ無くてダブルの部屋1つを取るのが効率的だよな」
「ねえ、あたしとキョンが1つのベッドで寝れば経済的にもならない……?」

待て、そこまではやりすぎだろう。
俺が慌てて首を横に振って否定すると、ハルヒは冗談だと少し残念そうに笑った。
別に俺はハルヒの事が嫌いだからそう言っているわけじゃないぞ。
俺の理性が持つ自信が無いだけだ。
高校卒業の時に告白されてからデートは数え切れないぐらいしたけどな。
しかし、現実的に計画を建てる段階になって俺達はとんでもない事に気が付いた。
車で行くとなったらガソリン代は物凄く掛かりそうだ。
長門に電話をして事情を話して計算してもらった所、とんでもない金額になって俺は悲鳴を上げたくなった。

「こりゃあ、成田か羽田まで飛行機で行った方がいいんじゃないか?」
「それじゃあ、海○たるを通る必要が無くなってしまうじゃない!」

ハルヒは憤慨した顔でそう怒鳴った。
俺に怒られても困るんだが。
しかも、千葉県のホテルに泊まるとなるともっと時間も費用もかかるし、無理があるな。
するとハルヒは俺の部屋の椅子の上に立って、自信満々の笑顔になってこう言い放つ。

「この物語は、フィクションだから細かい事は気にしないって設定にすれば良いのよ!」
「おいっ!」

俺は声に出してツッコミを入れてしまった。
あーっ、もうどうにでもなりやがれ。



そして、ついに迎えてしまった長距離デートの日。
俺達の東海道中の詳細な出来事は省略させて頂く。
連載作品にならなければ語りつくせない程になってしまうだろうからな。
朝早くに家を出た俺達は何だかんだで夜に海ほ○るに着いた。
長時間・長距離運転してきたにもかかわらずハルヒは元気な物だった。
それにしても、左を見回しても、右を見回しても、手を繋いだカップルがいるな。
こうして手を繋いでいる俺とハルヒもそのうちの一組として溶け込んでしまっているけどな。
着いた俺達はまず腹ごしらえをするために5階のレストラン街へ行く事にした。
俺達が選んだのは海が一望できる席があるセルフサービス形式のレストランだ。
カウンターで注文して番号札を貰い、注文の料理が完成したら呼び出し音が鳴るので取りに行く流れなのだが、ハルヒはメニューを見るなり不機嫌になる。

「ただのメニューには興味が無いのよ!」

眺めは申し分ないのだが、ハルヒはカレーやきつねうどんなどの平凡なメニューが多い事が気に食わないらしい。
他に回転寿司屋があったのだが、そこは一皿105円のリーズナブルな店では無く、最低150円もする店だった。
550円する皿もあるぐらいだぞ。
ハルヒが本気で食ったら1万は行きそうな気がするからな、社会人にならともかく大学生の俺の財布には厳しい。
遅刻しての罰金は無くなったが、デートは全て俺がおごりだ。

「ほらほら、せっかくデートに来たんだ。そんな口をとがらせるなよ、可愛い顔が台無しだぞ」
「分かってるわよ」

太陽のような笑顔までは行かないが、何とかハルヒは持ち直してくれたようだ。
こうなれば食事以外の部分で挽回するしかないな。
俺達が4階に降りると、そこにはゲームセンターのような施設があって、クレーンゲームの筐体があった。
中には45センチと大きなサイズのぬいぐるみが入っている。
入口ではマイクを持った係員が盛んに呼び込みをしている。

「面白そうね、みくるちゃんへのお土産にぬいぐるみをゲットして帰りましょうよ!」

俺は笑顔のハルヒに手を引かれてゲームセンターの中へ入った。
サン○オやディ○ニーのキャラクターの大きなサイズのぬいぐるみが窮屈そうに座らされている。
そして、そのぬいぐるみの前には大きな穴が開けられていた。
クレーンはどこにでもある様な通常サイズのようなもので、どうにかしてぬいぐるみを穴に落とせばゲットできるみたいだ。
それにしても、1ゲーム300円、2ゲーム500円と客の心理を巧みについた心憎い値段だ。
俺とハルヒがビッグサイズのぬいぐるみクレーンゲームに苦戦していると、呼び込みをしていた係員が営業スマイルを浮かべて声を掛けて来る。

「大きいぬいぐるみはバランスが重すぎて、アームの力ではつかんで持ち上げる事は出来ないんですよ」

そう言って係員は俺達の目の前でアームを操作し始めた。
アームが大きなぬいぐるみの後頭部を殴るように叩くと、大きなぬいぐるみは転がって頭から穴に落ちた。
その鮮やかな手際を見て、ハルヒは目を輝かせて興奮する。

「キョン、財布にありったけの1000円札を全て100円に両替しなさい!」

まるで全てのぬいぐるみを根こそぎ取ってやると言わんばかりにハルヒはそう宣言した。
俺はため息をつきながら小銭入れを握りしめると両替機へと向かったのだった。
何でもこなすハルヒならすぐにコツをつかむだろうと思って、俺も青ざめる係員の顔を思い浮かべていたんだけどな。

「あーっ、もう止めっ! 悔しいわ、あの係員は一発で取れたって言うのにさ」

結局3000円ほどつぎ込んだが、大きなぬいぐるみは1ミリたりとも体勢を崩していないように見えた、畜生め。
こうなって来ると係員の得意げなスマイルが憎たらしく思えて来たぜ。

「キョン、あたしがぬいぐるみを取れなかった事は内緒だからね。団長としての沽券に関わるから」

やれやれ、そう言えばさっきの係員の立ち振る舞いは何となく古泉に似ている気がしたな。
それでハルヒは古泉に負けたように感じたのかもしれん。
ゲームセンターで負けてしまった俺とハルヒは頭を冷やす事も兼ねて外へ出た。
ライトアップされた景色はきっと俺達を和ませてくれる。
そう思っていたんだが……。

「何よ、東○タワーも、レ○ンボーブリッジも全然光って無いじゃない!」
「あー、そう言えば節電しているんだっけか」

周りを見回しても広がるのは真っ黒な海。
豪華な客船が浮かんでいる様子もない。
俺達のいるこの建物自体にも暗がりが出来ているぐらいだ。
それ幸いに盛り上がっているカップルも居るようだけどな。

「あーあ、何か気が抜けちゃったわね」

ハルヒはそう言って大きな欠伸をした。
無理もない、朝からずっと運転して来たんだ。
眠くもなるさ。
この後俺達は千葉県のホテルで一泊する事になるんだが、そこで起こった出来事については別の機会に話す事にしよう。



ホテルで泊まった後の帰り道。
俺達は早朝の海○たるにやって来ていた。
昨日の夜とは打って変わって、レストランには俺達の他には客が2、3人居るだけだった。
しかもカップルでは無く、高速道路のパーキングエリアに似つかわしいトラックの運転手達だ。
外の通路にはほとんど人が居ない。

「静かなもんね」
「そうだな」

落ち着いた顔で長いポニーテールの髪を潮風にそよがせるハルヒの姿は、100万ワットの元気な笑顔とはまた違った良さがあった。
ハルヒのどちらの表情も独り占めできる俺は何て幸せ者なんだとそう思う。
俺とハルヒはしばらく黙って海を眺めていたのだが、ハルヒは何か面白い事を思いついたのか、表情を100万ワットの笑顔に切り替えて話し始める。

「ねえ、退屈だから王様ゲームでもやらない?」
「何だと?」

ハルヒはそう言うとあのレストランから持って来たのだろう、2本に別れた割り箸を俺の前に差し出した。
どうしても俺はこの笑顔には逆らえない。
俺が引いた割り箸はハズレだったようだ。

「あたしが王様ね!」

参加者が俺とハルヒの2人しか居ないんだからそうなって当然だよな。
それと、お前は自覚していないようだが王様じゃ無くて神様だろう?

「じゃあ1番の人は、王様に大好きと言って抱きしめてキスをする事!」

何だよ、結局それがしたかったのか。
俺はハルヒの言葉を聞くと首を横に振って拒否した。
すると、ハルヒの笑顔は凍りついた。
そして次にハルヒは泣き出しそうな顔になる。

「何よ、王様の命令が聞けないって言うの!」

ああ、久しぶりに見たなハルヒのこの表情は。
大学生になってもハルヒは変わらない部分があるんだな。
おっと、早くフォローを入れないとあの映画撮影の時と同じ事になってしまう。
ハルヒが本気で怒って立ち去る様な事があれば、特大の閉鎖空間で古泉も大慌てだろうしな。

「待てよ、俺は命令だからって言われてキスするのが嫌なんだ」
「な、何よ、紛らわしい事言わないでよ、このアホキョン!」

ハルヒは思いっきり顔を赤くして目をつぶって怒鳴った。
本当にハルヒは表情が豊かで面白いやつだ。
別に俺はハルヒをいじめたいわけじゃないんだが、ハルヒが可愛いからからかいたくなるのさ。
涙に濡れたハルヒの瞳が俺をじっと見上げる。
そのハルヒの顔を見た俺は思わずハルヒの身体を抱き寄せて……耳元で好きだと囁きながらキスをしてしまったのさ。
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