核開発に反対する                 
物理研究者の会通信
第42号 2006年12月

日本核武装によるアジア核戦争の恐怖
槌田 敦     
【1.北朝鮮の核実験と日本の大騒ぎ】
 北朝鮮は、10月9日、地下核実験をした。これにより日本では、連日、日本が核攻撃されると大騒ぎした。この議論は見当違いもはなはだしい。
 まず、この「核兵器」は日本を対象にしたものではない。北朝鮮の目的ほ「核兵器」という残酷な兵器を保有する国として国際社会に認知させることである。日本が騒げは騒ぐはど、北朝鮮の思惑どうりになる。
 もしも、北朝鮮が日本を攻撃するのであれば、核兵器など使用する必要はない。中川昭一自民党政調会長が佐賀県での講演(11月3日)で述べたように、日本の原発のどれかをミサイル攻撃すればよいのである。
 運転中の原発の場合、原子炉の入っている格納容器を直接破壊しなくても、付属する建屋の最上階にある制御室を破壊するか、または制御室の床下にある冷却水配管を破断すれば、原子炉の冷却が不可能となって、原子炉は炉心熔融事故を起こし、内蔵する放射能が全量放出されることになる。
 原発に内蔵する放射能の量は原爆とは桁違いに多いから、風で運ばれて日本中放射能だらけになる。その原発が、日本海側に30数基もならんでいるのである。
 原爆攻撃についてのこの中川発言は衝撃的であった。しかし、日本のマスコミは、夕方のテレビではこの「原発攻撃発言」を取り上げたが、夜のテレビと翌朝の新聞(佐賀新聞を含む)では、朝日を除いてこの発言にふれなかった。その朝日も原発ということばをさらりと書いただけである。
 マスコミがこの中川発言を隠す理由は、周辺事態法との関係で深刻な問題となるからである。この法律の発動は、本格的な戦争のきっかけになる。その場合、攻撃されても炉心熔融にならないようにするにほ、すべての原発の運転を止めなければならない。
 このように面倒な問題になることを予感して、マスコミは中川発言を消してしまったものと思える。

【2.失敗した核実験】
 北朝鮮の核実験は、予告した爆発規模の4キロトンに比べて1キロトンと小さいことから技術的には失敗であったことが分かる。技術も経験もない段階で、最初から小さな原爆を作ることは難しい。したがって、今回の核実験は大きな核爆発装置の不完全核爆発であったと思われる。
 核爆発に使用できるプルトニウムには2種類ある。@普通の原子炉で作る原子炉級プルトニウム(Pu239は60%程度)とA特殊な原子炉で作る兵器級プルトニウム(Pu239は96%以上)である。ウラン238に中性子が当たると核分裂可能なPu239ができるが、これに中性子を当てつづけるとPu240、Pu241などの不純物になってしまう。そこで、Pu239を高濃度で得るには、中性子があまり当たらないように工夫する必要がある。
 兵器級Puは、多くの国では黒鉛炉で作る。北朝鮮にも小型の黒鉛炉があるが、熱出力は5千キロワットと小さいから、兵器級Puをごくわずかしか製造できない。北朝鮮がこの貴重な兵器級Puを今回の実験で使い果たしてしまうような馬鹿なことをする筈がない。
 今回程度の不完全な核爆発ならば、兵器級Puを用いる必要はない。比較的多量に得られる原子炉級Puを使えば、小規模の程度の核爆発は可能で、世界を脅すには十分である。日本のマスコミは、まんまと北朝鮮の思惑にはまってしまった。

【3.テロ集団の核爆発】
 原子炉級Puを使う核爆発は簡単である。臨界に関する多少の知識があれば、JCO臨界事故を参考にして、この臨界を核爆発にまで高めればよい。
 まず、プルトニウムを臨界にならない大きさのいくつかに分けて、離しておく。これを火薬の爆発で一気に集めれば臨界に達して核爆発する。ここで核燃料が飛び散れば核爆発は終了するので、この飛散を火薬の爆発圧力で抑えれば、強力な核爆発となる。
 アインシュタインは、ルーズベルト大統領に原爆開発を訴えたが、その手紙には、原爆のイメージが書かれている。この原爆は大きくて、飛行機には積めないかも知れないが、船で運んで港湾を破壊できると書いてある。
 つまり、テロ集団が原子炉級Puを手にいれれば、アインシュタインの提案どおりの船で運べる核爆発装置を作ることができる。だから、アメリカは、兵器級Puはもちろん、原子炉級Puであってもテロの手に渡ることを恐れているのである。
 実際の原爆の構造は図1のようになっている。ウラン原爆では大砲を使った。大砲の底には火薬を積めてウランの円柱を置く、先端にウランの円筒を置き蓋をする。火薬を爆発させるとウランの円柱がウランの円筒にはまり、臨界になって、核爆発する。
 プルトニウム原爆も、最初の設計では大砲型だったという。しかし、大砲の大きさは巨大になってしまう。それだけでなく、プルトニウムの場合は、後に詳しく述べるが、円柱が円筒にしっかりとはまる前に、自発中性子によって事前臨界になり不完全に核爆発してしまう。
 そこで設計が変更されて、図2のように、プルトニウムを中空の球体にし、その周りを火薬で包んで爆発させるという構造になった。しかし、火薬の爆発でプルトニウムを均質に集めることができなければ、不完全な核爆発となって、失敗することになる。
 この核爆発に自信のなかったアメリカは長崎型爆弾と同じ大きさの火薬だけの大型爆弾(5トン)を50個も作って、日本の地方都市にばらまいた。この原爆が失政しても5トン爆弾のひとつとごまかすことにしたのであった。
 この方式は、後に、プルトニウムを臨界にならない大きさの球体にして、これを強力火薬で包み、火薬の爆発圧力でプルトニウムの体積を半分にするまで圧縮して、臨界にする爆縮という方法に変わった。これによりプルトニウム原爆は、爆発力1キロトン以下で、直径15センチ程度の小型原爆ができることになった。
 テロにはこのような爆縮による高性能の小型原爆を作る能力はない。テロが作る爆発装置はやはり大砲型で、プルトニウムを臨界にならない大きさの多数個に分けておき、これを火薬で一気に集めて臨界にして爆発させることになる。しかし、この大砲はとても大きくなってしまう。
 北朝鮮の作った爆発装置はこの程度のもので、おそらく10キロトンを目標にしたが、4キロトンしか出せないかも知れないと考えて、これを予告したのであろう。そして結果は1キロトンだったのである。
 ところで、北朝鮮は住居不明のテロ集団ではない。北朝鮮が今回の実験ような爆発装置を船で運んで外国で使用すれば、直ちに大量報復攻撃されて、北朝鮮政府は崩壊することになる。
 北朝鮮を報復攻撃するには、地上戦争も、核兵器も必要ではない。軍と政府と交通網への通常兵器による集中爆撃だけでよい。イラク戦争でアメリカが電撃的に地上戦争をした理由は、イラクのどこかに隠している筈の大量破壊兵器を見つけだし、またはこれを使用させて、イラクの反社会的意図を明らかにしようとしたからであった。
 したがって、北朝鮮は、得意の地上戦争ならばともかく、集中爆撃による大量報復攻撃には対抗できないから、この大型の核爆発装置を所有しても、安易には使うことができないのである。
 今回、北朝鮮のこのような核実験にあわてふためくことはまったく馬鹿げている。

【4.原子炉級Puでは原爆が作れない理由】
 プルトニウムには5つの同位体がある。そのうち、核分裂する同位体は、奇数の質量数のPu239とPu241である。通常の原子炉で作ると、Pu239は58%、Pu241は11%程度の原子炉級Puが得られる。残りの31%はPu240などの不純物である。
プルトニウム同位体(半減期)
Pu238(86年)
自発核分裂
中性子吸収
Pu239(2万年)
核分裂
Pu240(7千年)
自発核分裂
中性子吸収
Pu241(13年)
核分裂
Pu242(40万年)
自発核分裂
中性子吸収

 そこで仮に、原子炉級Puで核兵器を作ったとしても、これらの不純物同位体によって、次のような7つの本質的欠陥を持つことになる(●印は重要)。
●@
不純物の自発核分裂で発生する中性子により、臨界が早まり、不完全爆発になる
 Puの同位体には、上の表に示したように質量数が偶数Pu238、Pu240、Pu242がある。これらの同位体は自発的に核分裂して、中性子を常時放出している。したがって、原子炉級のPuを使用すると、この自発核分裂の中性子によって予定よりも早く臨界が始まり、不完全に核爆発してしまう。
 これによりPuが飛び散ってしまえば核爆発はそれで終了するから、原子炉級で作った原爆は今回の北朝鮮の核実験のように威力はない。
 A
不純物による中性子吸収で、中性子が消費されるので、大量の核燃料が必要となる
 Pu239に中性子が衝突すると、核分裂して中性子を3個程度発生するが、これが次々と核分裂して連鎖反応になれば臨界状態を経て核爆発となる。しかし、その中性子が不純物の原子核に吸収されて減ることになれば核爆発しない。
 B
巨大になれば、搭載できる巨大爆撃機がない。巨大ミサイルでも運べない
 不純物で中性子が減っても、核燃料を大量に使えば核爆発可能である。しかし、火薬も大量に必要となり、またこれを包む鉄の量も増える。
 したがって、不純物の多いPuで作った原爆は巨大になる。この巨大原爆は巨大ミ サイルでも運べないから、核兵器とは言えない。単なる核爆発装置である。
●C
Pu241は核爆発に使えるが、半減期が短く、すぐに劣化する。
 Pu241は奇数の質量数なので、これも核分裂する。このことは有利に見えるが、半減期は14年でしかない。その結果、すぐに劣化して核爆発しなくなる。原爆は作ってすぐに使う兵器ではないから、これでは役にたたない。
 そこで、保存している原爆が実際に核爆発するのかどうか確かめる必要が生じて、アメリカは核実験を続けたのである。
●D
不純物の出すガンマ線で、制御用電子回路が劣化変質する
 制御用の電子回路が劣化変質したら、不発弾になるだけでなく、貯蔵中に核爆発するかも知れない。
 E
不純物の出すガンマ線で、製造時や運搬時での作業者の被爆
 半減期の短いPu同位体は、ガンマ線を大量に放出する。この被曝問題は兵器としての製造と使用を制限する。
 F
不純物Puが発熱するから、常時冷却する必要がある。
 長崎原爆を手で触った人の印象として、「まるで生きたうさぎのようだ」という記録がある。不純物のプルトニウムの発熱で、火薬に引火すれば保存中の爆発という危険があり、また火薬が早期に爆発して、不完全核爆発の原因にもなる。

 このように多数の欠陥があっては、この核爆発装置を兵器として使うことはできない。事実世界には、原子炉級Puで作った原爆はひとつもない。

【5.兵器級プルトニウムを製造する方法】
 兵器級Puを作ることのできる原子炉は、黒鉛炉、重水炉、高速炉である。
 黒鉛炉は、同位体純度98%の兵器級Puを生産できる。アメリカやロシアなど世界の原爆のほとんどはこの黒鉛炉で作ったプルトニウムを用いている。日本最初の東海原発は、平和目的を大掛かりに宣伝していたが、実はこの原発で作ったプルトニウムはイギリスに売られて、イギリスはそれで原爆を作っていた。
 重水炉も兵器級Puを作ることができる。インドの核実験は、カナダから購入した重水炉で得たプルトニウムを用いたものである。日本はこのカナダの原子炉を買う予定であったが、アメリカの反対でこの原子炉を買うことができなかった。
 高速炉とは、右図のように、炉心に他の原子炉で作った同位体純度60%の原子炉級Puを入れて、高速中性子を発生させ、これを周りに配置した天然ウランのブランケット(毛布)に当てて、同位体純度98%の兵器級Puを製造する原子炉である。つまり、プルトニウム濃縮用の原子炉である。
 フランスは、この高速炉から得た兵器級Puで原爆を作り、ムルロア環礁で核実験した。この核実験はアメリカの所有しない高純度Puによる核実験であったから、アメリカ・エネルギー省はこの核実験に立ち会った。イギリスとドイツはこの核実験の完全なデータを入手した。この核実験は白人諸国の連合実験だったのである。フランスは、高速炉から得たこの兵器級Puで、原爆をすでに400発製造したという。
 フランス原爆製造工場のフラマトムは、ドイツのシーメンスと合併し、また軍隊も統合したから、この原爆はドイツのものでもある。
 ロシアは、アメリカと同様に黒鉛炉で兵器級Puを作ってきたが、高速炉から得られる高性能のPuにも関心を持っていると伝えられる。

【6.増殖炉というもんじゅのウソ】
 高速炉もんじゅでは、Puが1個核分裂すると、1.2個のPuができるから、Puの増殖だという。しかし、こうしてできたPuを再処理して抽出しなければならない。その作業時間を考えると、Puが倍増するまでに、50年〜90年かかってしまう。つまり、この増殖は意味がない。
 そのうえ、プルトニウムは圧倒的に高速炉の使用済み炉心燃料に存在する。しかし、高速炉の炉心には核分裂で貴金属が大量に作られている。これは硝酸では溶けないから、大量のPuは貴金属の中に残渣として残ってしまう。実際には、Puは増殖しないのである。夢の原子炉は夢だったのに、このウソをまだ日本人の多くは信じている。

【7.日本はすでに核兵器製造の準備をしている】
 日本はこの常陽ともんじゅでこの原爆材料をすでに生産している。
 本会(核開発に反対する物理研究者の会)への旧動燃(以下動燃という)の回答(1994年11月4日付FAX、通信第5号)によれば、動燃は、大洗にある常陽において同位体純度99.4%の兵器級Puを22kg生産し、敦賀にあるもんじゅにおいて同位体純度97.5%の兵器級Puを62kg生産し、合計84kgの兵器級プルトニウムを動燃は所有している(資料12頁参照)。
 これを再処理してPuを抽出すれば、ただちに原爆を30発以上作ることができる。そしてこれを抽出するための再処理工場(RETF)の建設もほとんど終わっている。
 マスコミはこの事実を知っている。しかし、一切報道しない。彼らは国民をだますことを何とも思っていない。そして、脱原発運動や原水禁運動の一部指導者も、この事実を隠すことに協力してきた。
 そして、多くの知識人は、原子炉級プルトニウムも核兵器の材料だと言い続けている。有名な日本の物理学者(たとえば池内了氏)もそのようなことを言っている。特にマスコミは一致してプルトニウムならなんでも兵器説をとっている。
 しかし、すでに述べたように、これはまったくのウソである。日本が兵器級プルトニウムを生産し、貯蔵していることを隠蔽するために仕組んだ陰謀に、故意または無知はともかく、この人達は加担してきたのであった。

【8.日本の核兵器工場】
 日本はふたつの高速炉を持っている。常陽は、日本独自で開発した高速炉であるが、アメリカの介入で現在はブランケットを外し、兵器級Puを生産していない。しかし、運転初期には兵器級Puを生産していた。そして、ブランケットを復活すれば、いつでも兵器級Puを生産できる。もんじゅは、約1年運転したところで、ナトリウム漏れ事故(1995年)を起こし、現在運転していないが、復旧作業が進められている。
 この兵器級Puを分離・抽出するため、リサイクル機器試験施設(RETF)という特殊再処理工場が東海再処理工場の付属施設として建設されることになった(1994年)。このようなうさん臭い名前が付けられたところに、この特殊再処理工場の本質がある。しかし、この特殊再処理工場は、建物が完成した段階で建設は停止されている。それは東海再処理工場の爆発事故(1995年)によるものと説明されている。
 そして、常陽の燃料を供給するJCOが、臨界事故(1999年)を起こし、東電、関電、中電で原発事故が頻発し、日本の原子力は信用をすっかり失ってしまった。
 そのうえ、日本の政官財が強く推進してきた核融合装置(ITER)の誘致に失敗(2005年)して、日本でトリチウムの生産ができなくなった。その結果、たとえ、日本で原爆や戦術核が生産できても、水爆や中性子爆弾が作れないことになった。
 もんじゅの最高裁判決後に、もんじゅの修理が再開されることになった。しかし、この修理には1000億円必要としていたが、200億円しか予算が得られなかった。
 もんじゅの建前が兵器級Puを生産する軍用炉であれば、修理費は必要なだけ投入することができる。しかし、電力の生産を建前にしているので、これに比べて修理費という出費をこれ以上増やすことはできない。そのため、ナトリウム配管室の空気から酸素を取り除き、窒素ガスだけにすることさえできなかった。
 もんじゅの事故で、ナトリウム配管内の温度を計るのに水流の温度計を転用するなど、周辺部の設計がお粗末であることが明らかになった。ところが、今回の修理では一部手直ししかできないので、運転再開を強行すればまた事故を起こすことになるだろう。
 このように、日本の核開発計画は頓挫しているし、またその内容もお粗末である。しかし、今回の北朝鮮の核実験で日本の核武装計画は強引に進められることになる。

【9.日本は核武装できないという思い込み】
 平清盛が鎧の上に衣を着て世間をだまそうとしたが、袖から鎧が見えたという故事のように、日本の核武装はその姿をすこしづつ現しはじめた。ところが、この現実を認めたくない人達がいて、政府に代わって日本の核武装計画を否定する。
 アメリカは日本の核を容認する筈がないと言い続ける人達がいる。たしかに昔はそうだった。イギリスから買った最初の原発、東海村の黒鉛炉の使用済み燃料の日本での再処理を許さなかった。
 カーター大統領の時代には、日本がカナダから重水炉を買うことを妨害した。また、常陽のブランケットを外させた。いずれも兵器級Puの製造を日本にさせないためである。
 しかし、最近は違う。アメリカはもんじゅの建設を認めただけでなく、そのブランケットから兵器級Puを抽出する特殊再処理工場(RETF)の建設も認めた。そして、そのための軍用小型遠心抽出器(右図)を動燃に販売した。兵器級Puは臨界条件が厳しくて、普通の再処理工場の抽出器では臨界を超えて核分裂が始まるという心配があるからである。
 動燃にこの事実を確認したところ、動燃はこの遠心抽出器を改良して、アメリカに提供したから、共同開発であると答えた。当時、アメリカは、核兵器製造による大量の放射能の後始末に資金が不足していたのである。そとで、動燃はアメリカ軍に資金と技術で協力し、その代わりにアメリカから軍用技術の提供を受けていたのである。
 そして、このRETFが完成すれば、日本はいつでも核兵器を生産できることになった。日本のマスコミは、この重要な出来事を知っているが、隠している。
 そのため、動燃がわれわれ物理研究者の会に発表した内容も、この通信の範囲でしか知れることはなく、しかも、この事実を知っている筈の知識人もこのことについては、口ごもっている。その深層心理は、日本の国益なのであろうが、理解できない。
 また、日本が核開発すれば、平和利用に限られているウランの購入ができなくなるという人もいる。そして、核拡散防止条約に違反することになる、という人もいる。このような条約は、核兵器を所有してしまえば、何の制約でもない。
 日本では核実験できないという人もいる。日本は太平洋に東京都に所属する小さな島をたくさん持っているから、それを使えばよい。それに、アメリカの属国としての日本が、アメリカの手先として核を使うのであれば、RETFの遠心抽出器と同様に、必要なデータはアメリカから買うこともできる。

【10.アメリカによる残酷兵器の使用を日本が抗議しなかった理由】
 ところで、核兵器は使えない兵器である。ベトナムやチェチェンで何度も使用が計画されたというが、実際には使用できなかった。それは、これが残酷兵器なので、核を持たない国にこの原爆を使用すると世界から非難されるからである。
 では、なぜ、日本はアメリカの残酷な原爆使用に抗議せず、これを許したのか。それは、「戦争を終わらせるために原爆を使った」とアメリカが宣言し、また原爆の悲惨さを悲しんで天皇が降伏を決意したということになっているからである。
 これは、どちらも大掛かりなウソである。アメリカは原爆を投下するために戦争を長引かした。その証拠は、アメリカが日本の軍需工場を本格的に爆撃したのは、長崎への原爆投下の後である。そして、日本の鉄道は敗戦の日も動いていた。アメリカは日本の戦争継続能力を温存していたのである。原爆投下の目的は、人的被害の大きさを試すためであった。
1945年8月9日午前4時(日本時間)、ソ連は、短波放送により対日宣戦を布告し、ソ連軍は満蒙国境を越えて侵入した。北海道への電撃的上陸の心配もある。そこで御前会議が開かれ、天皇が降伏を決意した。アメリカとの戦争にソ連が加わればどのようなことになるかは、分割されたドイツを見れば明らかである。北海道はソ連の支配下にはいる。それだけでなく、天皇制は廃止され、天皇は処刑されることになる。
 そこで、できるだけ早くソ連ではなくアメリカに降伏して、天皇制の推持と天皇戦犯の阻止をはかろうとしたのである。そこで、みじめな降伏の理由付けに原爆投下が使われ、天皇が悲惨な原爆投下を嘆き、降伏を決意したという芝居が演じられたのであった。
 このような事情を知らない日本国民は、すっかり騙されて、正義の原爆投下ということで、残酷兵器を使用したアメリカに抗議することをすっかりあきらめてしまったのであった。

【11.原水爆禁止運動の失敗】
 この原爆投下により戦争が終わったとする天皇の降伏詔書は後の原水爆禁止運動に影響する。ソ連共産党の影響下にあった日本の左翼は、まず原爆を投下したアメリカ軍を解放軍として、原爆投下を黙認した。しかし、朝鮮戦争となって、反米闘争の一環として反原爆運動がなされ、弾圧を受けることになる。
 朝鮮戦争も終わって原水爆禁止運動か復活するが、アメリカによる原爆の使用は議論にならず、単に「原爆は怖い」という運動しかしなかった。そして、ソ連の核実験が頻繁になされることになると、社会主義国の核兵器は人民を守るという前提で、原水爆禁止運動が原水爆擁護運動になっていく。
 このように、残酷兵器の原爆を投下された国民が、アメリカの原爆使用に抗議せず、またソ連の原爆開発を容認する以上、平和を回復するための原爆使用および原爆による社会主義国の防衛は正義ということになってしまった。
 そして、この「原爆は怖い」としか言わない日本原水爆禁止運動の結果、世界中の国々で、そのような「怖い兵器」ならば、国と国民を守るために「その怖い兵器を持とうではないか」という自衛のための兵器になり、世界的な核開発競争にしてしまったのである。日本の原水爆禁止運動は逆効果であった。

【12.核兵器使用の条件】
 このようにして、アメリカは広島・長崎に原爆を使用したことの非難から免れたが、原爆が残酷兵器であることには変わらない。したがって、日本のように投下されても文句を言わない状況にできる可能性がない限り、原爆を持たない国に原爆を使用することはできない。
 しかし、相手が原爆を持っていれば話は変わる。それは、双方にとって、相手に先制攻撃される心配があるからである。この先制攻撃でこちらの原爆が全滅してしまえば、決定的敗北になる。
 これを避ける方法はふたつある。ひとつは、敵の先制攻撃の前に、こちらが先制攻撃することである。もうひとつは、仮に相手に先制攻撃されても、原爆を多数用意しておけば、どれかは残っているだろう。その残りの原爆で相手に同規模以上の被害を与えることができれば、相手はその反撃を恐れて、原爆を使用しないであろう。
 アメリカとソ連は、後者の道を選んだ。双方2万発程度の原爆を所有することになり、地球を何回も破壊できることになった。このいわゆる冷戦によりソ連は経済的に破綻し、アメリカも経済的地位は低下して、日本とドイツに追われることになった。
 そこで、アメリカとソ連は、双方の経済的利益を守るために、原爆を削減しても互いに原爆による先制攻撃ができないように、合意を取り付けたのである。

【13.アジア核戦争の恐怖】
 今回の北朝鮮の核実験とミサイル開発は、日本の核開発とミサイル開発を誘発する。日本の巡航ミサイルは、20キロトン相当の核弾頭の運搬が可能で、射程距離が2,500キロという。このMIRV型(個別誘導多弾頭再突入体)の大陸間弾頭ミサイルは、10個の弾頭を搭載できるという。
 そして、日本が核開発を宣言すれば、中国も核を再開発することになり、韓国も開発するであろう。インドやパキスタンを含め、全アジアの核情勢は混沌化する。
 この状況は、米ソ冷戦のアジア版であって、この使えない核兵器の開発のために、日中両国は経済的に疲弊することになる。
 アメリカは、現在、戦略を見直し、アジアから撤退しようとしている。たとえば、韓国がアメリカに対して、首都ソウルにあるアメリカ司令部の移転を申しいれたところ、アメリカは指定された期日以前に移転すると回答して韓国政府をあわてさせている。
 すでに述べたように、アメリカは日本の核武装を認め、アジアの核を属国日本にまかせて、引き上げようとしている。仮に将来、中国とのいざこざが生じて、アメリカが核を使用すれば、中国の核がアメリカを襲うことになるからでる。アメリカによる核の傘は廃止して、アジアの核はアジアで収めろという訳である。
 しかし、日本がもんじゅと常陽の兵器級Puで核弾頭を多数個作ったとしても、日本は中国に対抗できない。それは、日本が核融合装置ITERの誘致に失敗し、トリチウム(半減期13年)の常時保有態勢がなく、また日本にはトリチウムを作るためのリチウム金属資源もないからである。
 そこで、日本は兵器級Puによる核弾頭製造の実績を背景にして、アメリカから水爆と中性子爆弾を購入することになる。このようにして、アメリカは、アジアの核による安定を日本にまかせて、完全に引き上げることができる。このようにすれば、アメリカは中国からの核攻撃を心配しなくてもよい。

【14.日本の裏切りを許さない】
 ところが、この計画には落とし穴がある。もしも、日本が中国と同盟して、アメリカと対抗することになったら、アメリカにとってとんでもないことになる。戦国時代の日本人には数多くの裏切りの歴史がある。
 そのような昔の話ではなくても、第1次大戦後、日本はアメリカ、イギリスと仲が良く、ドイツとは犬猿の仲だった。その理由は、第1次大戦の最後になって戦争に参加し、ドイツの中国山東省での権益を奪いとったからである。「火事場泥棒」の国、日本である。
 ところが、ドイツがヨーロッパ戦争で勝ちそうになった。そこで日本は、日独伊3国同盟に参加し、アジアでの権益拡大のため、真珠湾を攻撃してしまったのである。
 このような裏切りをふたたび日本にさせないために、アメリカは、ワシントン州にある第一軍団司令部を日本の首都圏の座間に移転して、統合作戦司令部とする。しかも自衛隊司令部もこの座間に呼び寄せることにした。
 この理由について、日本では、アメリカが極東戦略を変えたなどと単純に考えている人が多い。しかし、そのような単純なものではなくて、目的は属国日本の裏切りを監視し、これを防止するためである。
 韓国では外国軍隊の司令部を首都圏から追い出したのに、日本では逆に首都圏に招きいれようとしている。不思議の国の日本は世界の笑い者になるだろう。
 このようにして、日本と中国の間には恐怖の均衡が実現することになる。これにより、両国は経済を犠牲にすることになるが、いったんこの状態になれば、相手が怖くて、核開発は止めたくても止められなくなる。
 そして、突発事件でアジア核戦争が始まるかも知れない。戦争になってしまえば、簡単には止められないから、白人諸国は高みの見物をすることになる。世界への放射能の影響は過去の核実験なみだろうが、これが我慢の限界に達して、ようやく停戦ということになる。
 日本が核を持ったばかりに、不幸な時代を迎えることになるだろう。


【資料】
核開発に反対する物理研究者の会からの質問に対する回答(要旨)

(通信第5号、1994年12月号参照)
1.常陽において
使用済み燃料集合体数と集合体あたりの平均Pu量(平5年12月末現在)
MK−1期において炉心燃料
116体 Pu量は2.0kg/体
径ブランケット
220体 Pu量は0.1kg/体(注)
(注、菊地部長のメモ(平5.3.31)では0.2kg/体)
MK−1期での径ブランケットのプルトニウム240と241の密度分布(%)
Pu−240 0.63%
Pu−241 0.01%以下
2.もんじゅにおいて

炉心燃料集合体   99体
集合体あたりの平均Pu量7.1kg/体
径ブランケット集合体 69体
集合体あたりの平均Pu量0.9kg/体
径ブランケットのプルトニウム240と241の密度分布
Pu−240 2.4%
Pu−241 0.1%以下



この回答から、常陽ブランケットのプルトニウムは、 Pu−239同位体純度99.36%
         もんじゅブランケットでは、                   97.5%
であり、これらは兵器級プルトニウム(同位体純度96%以上)と比べて、最高級の兵器級プルトニウムであることが分かる。
 その量は、常陽では220×0.1=22kg、もんじゅでは69×0.9=62kg、合計は84kgである。原爆を作るのに、兵器級プルトニウムが1発あたり約2.5kg必要とすると、日本はすでに30発分以上の兵器級プルトニウムを所有していることになる。


廃刊のおしらせ

 核開発に反対する物理研究者の会通信は、1994年、日本における核武装疑惑、特にもんじゅに注目して、その危険性を訴えてきました。最近は情報がえられにくくなったこともあり、長く休刊しておりましたが、統一教会・勝共連合系の核武装論者である安倍晋三が内閣総理大臣になったこともあり、このままの休刊でよい筈がありません。
 そこで、物理研究者以外の人々とともに本格的な反核反原発活動とするために、この物理研究者の会通信を廃刊して、広い対象の通信を発行したいと思います。
 物理研究者の会通信の読者で、会費の残っている方には、連絡票が入っていますので、返金とするか、または新しい通信に振り替えるかどうかの連絡をくださるようにお願いします。
核開発に反対する物理研究者の会通信 事務 槌田 敦

【核開発に反対する会(仮称、準備会)の活動】
日本核武装の疑惑を追う講演・討論会
第1回(11月23日)発言者井上澄夫
「核武装論議の好適解禁が私たちに問うもの」


槌田 敦
「日本核武装によるアジア核戦争の恐怖」


山崎久隆
「北朝鮮の核実験は世界の終わりではない」
第2回(12月18日)発言者鈴木まなみ
「核大国化する日本」
第3回(2月4日)発言者藤田裕幸
「日本核武装計画(岸、佐藤兄弟の陰謀)」


発行所 核開発に反対する会(仮称・準備会)
   101−0061東京都千代田区三崎町2−2−13、三崎信愛ビル502