2011年5月1日 13時0分
福島第1原発事故に収束の兆しが見えない中、世界で日本産食品への逆風が強まっている。農林水産省によると、日本からの食品輸入を停止したり、放射能検査を課すなどしているのは4月28日現在で37カ国・地域となり、2週間に8カ国・地域増えた。日本で出荷停止されていない品目や地域まで対象とする「過剰防衛」も目立つ。同省は検査態勢を強化するなどして安全性をアピールしているが、焼け石に水の状況だ。【行友弥】
国内でこれまで出荷停止や摂取制限が指示されたのはホウレンソウなど一部の葉菜類とシイタケ、牛乳、コウナゴなど。対象地域は最大で福島、茨城、栃木、群馬の4県と千葉県の一部に及んだが、最近は放射性物質の数値が下がって解除される地域も増えている。しかし、中国は東京、長野、新潟などを含む12都県で生産されたあらゆる食品の輸入を停止。他の産地についても、日本政府が作成した放射能検査の適合証明書と産地証明を要求している。
韓国は出荷停止指示が出た5県のホウレンソウや牛乳を輸入停止とし、1日からは宮城、東京など13都県にも全食品で放射能検査の適合証明や産地証明を添えるよう義務づけた。欧州連合(EU)も中国が停止していたのと同じ12都県の全食品に放射能検査適合証明、その他の道府県には産地証明を課した。台湾は5県からの全食品の輸入を止め、他産地については台湾側で検査している。
こうした過敏な対応をやめるよう、日本政府はさまざまなルートで働きかけている。29日、米ワシントンで開かれた日米外相会談でクリントン国務長官が風評被害で打撃を受けている日本産業を後押しする考えを示した。
だが、これに先立ち24日に東京都内で開かれた日中韓の貿易相会合で、日本側は輸入規制の緩和を求めたが、平行線で終わった。世界貿易機関(WTO)の事務レベル会合でも冷静な対応を呼びかけているが、反応は鈍く、日本支援の動きは一部にとどまっている。
政府は10年に4920億円だった農林水産物輸出を17年までに1兆円に伸ばす目標を掲げており、景気変動で増減はあるものの04年の3609億円からおおむね順調に増えてきた。しかし、今年は急減が避けられず、輸出拡大策にブレーキがかかるのは必至だ。
地域ぐるみで水産物輸出に取り組む長崎県は昨年、4年前の3倍に当たる総額2億4000万円のタイやサバなどを中国で売り上げた。ところが、今年は4月8日以降、輸出がストップ。中国側が求めた放射能検査の適合証明を巡り、水産庁と中国政府の調整が続いているためだ。県の担当者は「早く再開したいが、消費者の日本食離れが進むのが心配」と気をもむ。再開できたとしても、鮮魚は検査する間に鮮度が落ちてしまう問題もある。
福島県喜多方市の会津いいで農協は、昨年収穫したコメを台湾に2トン輸出するはずだったが、半分の1トンで止まってしまった。今年から本格化するはずだった香港向けのアスパラガス輸出も同様。担当者は「海外から見れば日本全体が汚染されているように見えるのだろう。原発の名前に県名が入っているのは福島だけだが名前を変えてほしい」と嘆く。
農水省は、各国が求める放射能検査適合証明の発給に都道府県が応じられるよう、検査機関の情報を提供するなど支援している。ただ、測定機器は大気や海水などの分析にも使われフル稼働状態。「すべての食品に証明を付けるのはとても無理。結局、原発事故が収まるまで根本的な解決はない」(国際部)と、無力感も漂っている。