こことは違うどこかの世界、その世界に唇の厚い神様がいました。
神様はその世界の現状を非常に憂れいていました。
「なんや、おもろないなあ…」
何とかして、今の世の中をよい方向に導けないかと悩んでいたのです。
「人間性クイズをやりすぎてもうたんやろか」
「正直者を優遇したろうと思うただけやのに、第五次世界大戦が起こってもうたし…」
「次はどないしよか。荒廃した世界をどげんかせんといかんなあ(笑)」
新しいアイデアが浮かばずに酷く悩んでいましたが、まだ余裕もありそうです。
「なんや、ええヒントでもないやろか」
ふと、地上を見下ろすと、目に入ったのはひとつの風景でした。
とあるビルの屋上、日曜日の長閑な昼下がり。
大勢の家族連れが集い、その中でも子供たちが歓声を上げている。
子供たちは、カラフルな衣装に身を包んだ一団が飛び跳ね、走り回るたびに声援をおくっていた。
「ヒーローショウか…」
「………ええかもしれんなあ」
なにかを思いつきでもしたのか、神様の目は給食のカレーを楽しみにする子供のように純粋に輝き出していました。
「そうと決まったら、早速準備をせんとな」
「ええと、女神ちゃんはどこいったかなあ?」
コツ コツ コツ
近づいてくる足音に気づき神様が振り返ると、そこには美しい女性が神様を見下ろしていました。
流麗な踝まであるブロンドヘアー
彫刻のように、くっきりとした陰影を見せる鎖骨
失われたヴィーナス像の腕かと思わせるかのごとくたおやかに伸びた腕と、白磁器のような指
大き過ぎも小さ過ぎもしないが、上向きに自己主張する張りのよい乳房
すらりと美しくくびれた、腰から太ももにかけたS字ライン
程よく筋肉がつき、しなやかに引き締まった脚
大きく切れ長の目は軽く釣り上がり、秘められた意志の強さを思わせる
すっと綺麗な稜線を描く鼻
熟れたさくらんぼの様に、紅く瑞々しい唇
世界の誰もが振り返り、思わず求婚するであろう美貌
まさに、『女神』としか呼びようのない御姿
だというのに、そんな美貌に蜂蜜をぶちまけるかのように、不機嫌そうに眉間にしわを寄せる女神様。
「おお、女神ちゃん調度ええところに…」
「今度は、何の企み?」
神様の言葉を遮り、嫌そうに問いかける女神様に対して、神様はニヤニヤしながら返答をしました。
「企みなんて酷い言い様やなあ。ただ世界をようしようと努力しとるだけやないか」
「努力?どの口でそんな戯言をいうのよ。神が嘘をつくのはどうかと思うわ。私に面倒ごとほとんど押し付けてるじゃない。」
聞く気のまるでない女神様に神様は真摯に説得を続けました。
きっと、先ほどの案はそれほどよい案だったのでしょう。
「そんなこと言ったかて、わし女神ちゃんおらんかったら何もできへんし、女神ちゃんを信頼して任せてるんやで。きっと女神ちゃんなら何とかしてくれるって」
「…………私を信頼して任せるってのは分ってるわ。」
少し照れながらもそう言った女神様を見て、神様は万引きGメン(中年女性)ような目をしつつ説得を続けました。
「それやったらええやん。わしの新しいアイデア聞いてくれるか?」
一気に攻め込む神様。
「それとこれとは別よ、別。今まで何度同じようなこといって失敗を繰り返してきたのよ。」
しかし、女神差もの壁はまだまだ厚いようです。
どうやら神様は、閃いたことを女神様に実行させては、毎回失敗しているようでした。
「前回は、正直者を優遇しようとして、全世界で人間性を確かめる試練を出したら、国際関係が壊滅したじゃない」
「あれは、プライベートに留めとくべきやったな。ジュネーブでやったのはあかんかった。」
「前々回は、優秀な指導者を生み出すため力が支配する世界を作ろうとしたら、愛の力の前に腕力が負けてしまったのよね」
「あれは、人の愛という力の偉大さを思い知ったわ」
「前々々回は、人間の科学を進歩させるために、強力な魔物を放って人が作った機械に倒させようとしたわよね。結局、人間はほぼ全滅しちゃったて、元の状態に戻すのすごく苦労したのよ!!」
「あれは、魔物が強すぎたし数もやりすぎだったなあ。何事もほどほどにってことを学んだわ」
神様の失敗談をつらつらと述べていく女神様。
そしてトドメに、バッサリと切り捨てました。
「失敗ばかりじゃない」
「…おい、カメラ止めぇ」
~女神様をハタこうとした神様が、カウンターで金的されて悶絶中です。しばらくお待ちください~
30分後、そこには元気に復活した神様の姿が
「でもな、女神ちゃん。前回からわしも人間の作ったゲームやったり、漫画読んだりしていろいろと反省点を理解したんやで」
女神様の責める視線に、「ああ、屈服させて屈辱で満ちた目に変えてやりたいわあ」とS心を刺激されながらも、神様は必死に説得を続けました。
「そないなこと言わんと、聞くだけきいたってや。なっ、お願い。ほんまにお願い」
「ちょっ、ちょっと変なとこ触らないでよ!! あっ、そこ駄目!!」
「なっええやろ、お願い、先っぽだけでええから」
「な、何が先っぽだけなのよ……ぁっ。分った、分ったわよ、話だけでも、んっ!!、聞いて…あげるから手をどかしてよぉ…」
文字通り、神様の縋り付くお願いに女神様も断りきれず、しかたなくアイデアだけでも聞くことになったようでした。
********
「というわけでや、正義の戦隊ヒーローを作ろうと思うんや」
「ハァ…ハァ…… 何が、というわけよ。さっぱり分らないいのだけれど」
神様は、先ほどのビルの屋上風景から思いついた案を、女神様に説明し始めました。
「荒廃した世界を救うんは、やっぱりヒーローやろ?」
「それぐらいは想像付くわよ。でも、そのヒーローに何をさせるの?しかもなんで戦隊ヒーロー?」
女神様のもっともな疑問に理論武装する神様。
「まず、救世のヒーローちゅうたら正義の味方や。そして正義の味方っちゅうたら、子供から大人まで大人気の戦隊ヒーローしかおらへん。 そういった連中が、仲間の友情や愛情、市民を守ろうちゅう勇気が力となって強大な敵を倒すんとかカッコええ」
「まあそれは分るけど、カッコいいってだけで決めるのはどうなのかしら。それに悪の組織なんてあの世界にあるの?」
「こないだみたく、敵が強すぎたらいくらヒーローかて勝たれへんから、相手は人間や。世界の争いの裏で私服を肥やした悪人共を退治するんや」
「仕置人?それは案としてはいいけど少し地味じゃないかしら?」
前回までの失敗を生かしつつ説明する神様に、少しは見直しつつ女神様は疑問をぶつけていきました。
「そこは派手な能力を持たせて見た目も派手にしたらええ。悪人を一方的に蹂躙して溜め込んだ金や食料を、市民に分け与ええるヒーローにするんや。そしたら、噂も早よう広まりるやろうしな」
「噂云々はいいとして、一方的な蹂躙って……」
さすがにマズかったかな、と思いつつ神様は押し切ろうと攻め続けます。
「なんやったか忘れたけど、昔読んだ人間の本にな、『悪人に人権は無い』って格言が有ったん思いだしてなあ。一種の見せしめにもなって悪いことするやつも減るやろうし」
「それだけの理由で蹂躙はどうなの?見せしめってのは分らなくも無いけど」
やはり疑問を抱く女神様。
「正義のヒーローやからな、圧倒的な力で悪を倒すっちゅうのは、様式美みたいなもんやからしゃあないやろ」
独自の(無理矢理な)理論でねじ伏せようとする神様。
そしてついに……
「様式美ねえ……、まあ今までよりは失敗が小さく済みそうだし、有りっちゃ有りなのかしら?」
「おお、決まりや決まりっ!! 早速始めるとしよか」
多少思うところがあるのか、まだ少し悩んでいるものの、女神様の説得に成功したのでした。
神様はホクホクとした顔で、女神様は未だにしばしば唸りながら、戦隊ヒーローの詳細を決めていきました。
「それでその戦隊はどういう風に創るつもりなの?下手に力を与えすぎてもマズいと思うわよ。」
「それについては、人間の力を借りようかと思っとってな。」
「人間の力を?どうやって? 人間なんて何の創造力も無いじゃない。」
「まあ確かに人間には創造力はあらへんけど、想像力には目を見張るもんがあって、文化にはおもろいもんが多いんよ。そやから、想像力豊かそうな人間を戦隊メンバーとして引っ張ってきて、そいつらに戦隊ヒーローの能力案を出させるつもりなんや。」
「ああ、そういうこと。私たちはそれを審査して、実際に与える能力を選ぶって訳ね。貴方にしては悪くない案じゃないの」
「せやろ、せやろっ!!」
女神様に褒められたのがよほど嬉しかったのか、鼻息荒く頷く神様
「……で、成功すると思う?」
「もちろんや。」
「失敗したらどうするの? 今度は貴方が責任とって貰うわよ」
「おお、責任ぐらいいくらでもっとったるわ。指輪は給料3ヶ月分でええか?」
「誰がそんな話したのよっ!! 戦隊達が暴走したら責任とって鎮圧しなさいってことよ!!」
「……なんや、そっちかい。それぐらい指先ひとつダウンさしたるわ」
「まったく、少し褒めたらすぐ調子に乗るんだから」
ため息を吐き、呆れ顔をしながら文句を言う女神様をスルーしつつ、神様はたった今思いついたネーミングを口に出した。
「よしっ、こいつらの名前は『転生戦隊ジュウリンジャイ』で決定や」
「…………センス悪っ」
小さくつぶやいたはずの女神様の声が、やけに大きく響く中、新たな正義のヒーローがたった今誕生したのでした。
某掲示板SSスレでボソリと呟いたのタイトルが意外と好評だったので、内容を暖めていたら、ゴレンジャイクロスという劇薬を思い浮かんだため書いてみたもの。