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3章までは、信号機を中心にお話をしてきましたが、本章では合図器についてご説明します。実はこの「合図」も鉄道運転規則によって、立派に鉄道信号として分類されているのです。
鉄道運転規則第165条
鉄道信号の種類は、次の通りとする。
1.信号 形、色、音等により列車又は車両に対して、一定の区間内を運転するときの
条件を現示するもの。
2.合図 形、色、音等により係員相互間でその相手に対して合図者の意図を表示す
るもの。
3.標識 形、色等により物の位置、方向、条件等を表示するもの。
係員相互間で相手に対して合図者の意図を表示する方法のひとつに、合図器の使用があります。合図器の種類としては、出発合図器、出発指示合図器、ブレーキ試験合図器、移動禁止合図器及び入換合図器等がありますが、ここではアーバンネットワークの駅で使用される機会の多い「移動禁止合図器」についてご紹介します。
列車または車両の検査、修繕、分割、併合作業時には、一時的に車両の部品が取り外されたり、係員が線路上に降りて作業をする為、運転事故や作業員の傷害事故防止の観点から、列車または車両の移動を禁止しなければなりません。その為に、列車または車両の移動禁止とその解除を合図するのが移動禁止合図器で、通常はホームの軒下と先頭車の運転士が確認できる位置に設置されています。JR神戸線では分割併合作業が行われる網干駅や姫路駅の他に、神戸駅でも確認することが出来ます。通常は、プラットホームの屋根から吊されていますが、米原駅の5番線では長浜方の出発信号機にも併設されています。
それでは、ここで米原駅における新快速長浜行の解放作業を例に移動禁止合図器の動作をご説明します。
JR琵琶湖線の坂田、田村、長浜の各駅はホームの有効長が8両分しか無い為、姫路方面から到着した12両編成の新快速長浜行は、米原駅で姫路方4両を解放しなければなりません。12両編成の新快速が米原駅に到着すると、解放位置付近で待機している駅長は、移動禁止合図器操作盤を操作して、「移動禁止」扱いとします。これにより移動禁止を合図する「赤色灯」が点灯します。
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米原駅の移動禁止合図器(赤色灯点灯中) 左の写真は7番線で解放作業中の新快速で、ホーム軒下の移動禁止合図器の赤色灯が点灯しています。右の写真は、5番線で同じく新快速の解放作業中に赤色灯が点灯している移動禁止合図器です。移動禁止合図器は運転士も確認する必要があり、通常は運転席から見える位置にも設けられています。しかし、この米原駅5番線の様に出発信号機に併設されている例は他にあまり見かけません。
この赤色灯が点灯している間は、列車又は車両の移動は一切禁じられます。この間に、客扱いを終えた後部4両には運転士が乗り込み、開放編成のドア扱い終了と共に解放スイッチを扱うと電気連結器の電磁弁が動作して、制御的には一瞬にして2つの編成への分割は終了しますが、全ての解放作業が終了となるのは後部4両が3m程後退した時点となります。
この作業終了を作業者一同で指差唱呼した後に、駅長は再び操作盤で移動禁止扱いを解除します。この操作で、赤色灯が消灯すると同時に、その下の白色灯が一定時間(10秒程度)点灯します。そして、この白色灯の消灯で8両編成となった新快速長浜行は晴れて出発することが出来るのです。
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米原駅の移動禁止合図器(白色灯点灯中) 解放作業中が完了すると、駅長の操作により白色灯が一定時間点灯します。運転士はこの白色灯点灯を確認して出発準備を行います。
米原駅5番線の例でもお判りの様に、移動禁止合図器の赤色灯が点灯状態であっても出発信号機には進行が現示されています。これから判るように、移動禁止合図器は、駅長が単に手動で点灯・消灯を扱って合図しているに過ぎず、出発進路の構成条件には関与していません。
これ迄の説明で度々「駅長」とご説明しましたが、ここで指す「駅長」とは、「駅長に代わって列車又は車両の運転取扱いに関して駅長の業務を行う事を命ぜられた係員」を指します。なお、移動禁止合図器の操作者は駅長ではなく、乗務員(運転士・車掌)が行う場合もあり、各駅・列車毎に操作手順が定められています。例えば、日根野駅における関空快速と紀州路快速の分割併合作業には駅側の社員は一切関与せず、大抵は先着又は先発列車の車掌が操作しています。(女性車掌が操作している風景も見かけます)東京駅における成田エクスプレスでも同様の扱いです。
移動禁止合図器は、分割併合だけではなくホーム上で折り返し整備を行う駅にも、設けられています。新幹線の東京駅はその好例で、上り列車として到着後、そのまま下り列車として折り返す場合には、到着と共に移動禁止合図器の赤色灯(新幹線の場合はオレンジ色も多い)が点灯します。
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東京駅23番線(東北新幹線ホーム)の移動禁止合図器 新幹線の移動禁止合図器は、「移動禁止ではない時」は消灯するのではなく、白色灯(グリーン灯のことも多い)が常時点灯しています。左の写真は、清掃係員が待ち受ける東京駅23番線に上りの「やまびこ」が到着したところで、ホーム軒下の移動禁止合図器のグリーンランプが点灯しています。清掃係員は、到着して移動禁止合図器の赤色灯が点灯したことを指差確認します。(写真右)
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新大阪駅20番線の移動禁止合図器 これはゴミの搬出や給水作業などで、清掃係員が軌道上に降りて作業を行うからです。そして、全ての折り返し整備の終了を確認した後に、整備担当の責任者がホーム先端の操作盤から移動禁止の解除を取り扱うと、赤色灯消灯と入れ替わりに白色灯(新幹線の場合は緑色が多い)が点灯し、これをもって駅長に対し整備が終了したこと伝達します。
新大阪駅20番線の移動禁止合図器操作盤 新幹線の移動禁止合図器は、「整備」と「検査」の2つの設定用操作キーがあり、それぞれの担当責任者が、作業開始時と終了時に個別のキー操作を行っています。在来線の移動禁止合図器は、その理由の如何にかかわらず駅長がスイッチ操作を行っています。
新幹線のホームで、「ひかりXX号にご乗車のお客様お待たせしました。車内清掃が終了しましたので、まもなくドアが開きます。ご乗車口へお進み下さい。業務連絡、**番ドア扱い願います〜」と放送が流れますが、この放送は移動禁止の解除を確認してタイミングで案内しているのです。ですから、放送が流れなくとも移動禁止合図器のランプの色で乗車タイミングを知ることが出来るのです。なお、東北新幹線の福島駅と盛岡駅では、在来線へ直通する「つばさ」と「こまち」の分割併合作業が日常的に行われており、ホーム上には移動禁止合図器も設けられてはいますが、分割併合作業時にこれらの移動禁止合図器は使用されていません。これは新幹線の分割併合作業は作業員が地上に降りることなく、全て運転台からの遠隔操作で行われる為に、その必要性が無いと判断したのではないかと推測しています。
分割併合する駅に移動禁止合図器の設備が無い場合は、移動禁止の合図として手旗信号に用いる赤色旗を禁止対象列車のホーム側に車両に対して直角になる様に掲げています。
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草津線貴生川駅での解放作業風景 移動禁止合図器の設備の無い駅での解結作業には赤色旗を掲示します。 同じ様な例は、網干総合車両所明石支所内で車体の手洗い洗浄を行っている電車に移動禁止を意味する赤旗が掲げられているのを見ることが出来ます。ちなみに、電車区内で赤色旗、つまり移動禁止が合図されている場合は、出区の為の仕業点検を行うことすら禁止されています。(完)
網干総合車両所明石支所の洗浄線で手洗い洗浄中移の207系 洗浄線では、移動禁止を示す赤色旗が掲示されています。