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社説:論調観測 脱原発というイタリアの選択 分かれた受けとめ方

 外国の重要な政治的選択をどう受けとめればいいのか。難しい問題がいくつも横たわっている。その国の内情を知ることが必要だし、選択に至る過程や背景が見逃せない。日本との共通点と相違点も冷静に考えたい。

 欧州で脱原発の流れが生まれている。ドイツが原子力発電所を全廃することを閣議決定したのに続き、イタリアが国民投票で原発の再開をしないと決めた。圧倒的多数の票は、福島の事故の衝撃がいかに大きかったかをうかがわせた。

 イタリアの選択については、いくつかの背景がある。福島の事故が誇張されて伝わっているという声があるし、ドイツやイタリアは電力が不足すれば、原発大国のフランスなどから輸入できるという面もある。国民投票は、不祥事続きのベルルスコーニ政権への審判の意味合いが強かったし、欧州でも原発を推進している国は少なくない。

 しかし、福島の事故を受け、原発をどうするかという課題に対する、市民の率直な意思表示だという側面もあるだろう。

 各紙は15、16日の社説で、この問題を取り上げた。

 毎日は、脱原発が進めば、電力コストがかさみ、国民負担が増えやすいのを覚悟して、イタリアなどが「安全」を選んだと解説する一方、米国や中国、インドなど、原発推進の姿勢を変えていない国も多いことを指摘した。この世界の分かれ道に際して、事故を起こした日本としては「将来の原発政策を腰を据えて考えたい」と呼びかけた。

 東京は、イタリアの決定には地震多発国という事情も作用したのではないかと問いかけ、「その深層にはイタリア国民の自然への畏怖(いふ)があったと思いたい」と結論づけた。

 朝日は、日本では民主、自民の2大政党とも推進派で、有権者が原発問題と向き合う機会が少なかったとし、国民がもっと議論を重ねて、発言することが大切だと訴えた。

 これに対して、日経はイタリアも日本もエネルギー供給の未来図を描けていないとし、総合的に考える必要性を説いた。

 読売は、イタリア経済の低迷を描き出し、今回の決定が欧州経済への打撃になり、影響は日本にも及んでくると解説した。

 原発推進の立場をはっきりと打ち出しているのは産経だ。脱原発の流れを食いとめるのは日本の責務だと主張した。

 原発の安全性をどう考えるのか。エネルギーの確保やコストの上昇をどうするのか。私たちもさらに議論を深めていく。【論説委員・重里徹也】

毎日新聞 2011年6月19日 東京朝刊

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