再生可能エネルギーがにわかに脚光を浴びている。太陽光や風力による電気を電力会社が買い上げる法案の成立を、辞任する条件のひとつとして菅直人首相が掲げたからだ。
発電コストが高いうえ、不安定な電源の拡大は電力の質に影響するとして、電力会社は再生可能エネルギーの活用に消極的だった。
しかし、福島での原発事故によって地震国の日本が抱えるリスクを痛感させられた。政府はエネルギー政策を見直すことになり、電力に占める再生可能エネルギーの割合を20年代の早期に20%を超える水準にすると、菅首相は表明した。
原発への依存度を下げ、再生可能エネルギーの活用を進めることは、震災後の日本の課題だ。にもかかわらず、政局を乗り切るための手段として取り上げられている。残念なことで、着実に推進していくべき課題として取り組んでもらいたい。
そのためには、問題点も整理しておかねばならない。現在の太陽光発電の余剰分だけでなく、風力や地熱なども含めた再生可能エネルギーによる発電を全量買い取る。その負担は電気料金に上乗せして回収するというのが、この法案の内容で、これにより太陽光や風力などでの発電が事業化できる。
ただ、この法案の閣議決定は震災直前の3月11日午前のことだった。震災後、原発が相次いで停止し、石油や天然ガスなどでの発電に切り替わり、その分、電気料金の水準が上がるということを想定していない。
脱原発を決定したドイツは、発電の半分を安い石炭に頼っている。日本の発電で石炭火力の比率は低いものの、地球環境問題を考えると、石炭火力をどんどん増やすわけにもいかないという事情もある。ドイツとは状況が異なっている点をきちんととらえ、電力料金の産業に与える影響も十分に考える必要がある。
また、太陽光や風力による電力は不安定なため、導入量は電力ネットワークの規模に左右される。被災地の東北は風力発電に適しているが、東北電力の規模はそれほど大きくない。電力会社の垣根を越えた広域での発電と送電網の運用で、吸収できる量を増やすべきだ。
電力会社以外の発電事業者も、電力会社の送電線を利用せざるを得ないが、送電線を借用する条件と料金を改め、電源の分散化につながる仕組みにしたい。
電気料金の上昇は産業界に厳しいものの、通信と組み合わせた賢い電気の使い方を進めるスマートグリッドなど、電力供給のあり方を変え、新しい産業を育てる面もある。
政局を乗り切るためではなく、将来に責任を持てる仕組みを築いてもらいたい。
毎日新聞 2011年6月25日 東京朝刊