注意書き
これは一話読み切りの小説です。実際に起きた事を元にして書いたノンフィクションです。原作やアニメのようにハイテンションな作風にしております。
この作品を見ても実際の遊戯王プレイヤーたちはこんなにハイテンションなプレイングをしないので誤解なさらないでください。
物語の大まかなあらすじ事態はノンフィクションではありますが、人物、団体、施設などは架空のものです。
知り合いにそっくり――――なんて場合もございましょうが、誰がなんと言おうとも架空にモノです。
俺の名前はヤクモ。普通の大学2年生。大学2年となると、学校にも慣れて、友達も出来て、4年間のキャンパスライフの中で最も楽しい時期である。この時期になると、サークルや部活動に精を出す者もいれば、大学生活と言う時間がとても取れる身分を利用して、自分探し等と言う名目で旅行三昧という者もいる。
まあ、それは個人の勝手だし、人がとやかく言う事は無い。確かに楽しい期間には間違いないのだが、現実を直視していないわけでもないし、3年4年になれば就職活動であちこちに飛び回らなければならなくなるのだから。だから、4年のうち1年くらいは遊んでいたって誰も文句は言わないだろう。
ちなみに俺はとても楽しい趣味を見つけている。
それが『遊戯王OCG』である。
遊戯王とは世界で最も売られているカードゲームの名前。その売上数はギネスにも乗るくらい半端じゃなく売れまくっている。
ルールは知らないけど、遊戯王というカードゲームは知っていると言う者は非常に多いのではないだろうか?
と言うか遊戯王を知らない人間はほとんどいないと言っていいほどメジャーなカードゲームなのだ。
カードゲームだけでは無く、それを題材にしたアニメもあるし、つい1年ほど前には『超融合・時を超えた絆』とか言う映画も上映した。そう言えばつい最近、DVDになったらしい。今度買うとしよう。
まあ、遊戯王に関しては知らない人間はほとんどいないと先に言ったのでこれ以上の遊戯王に関する紹介は意味をなさないのでさっさと話を進めようと思う。
遊戯王OCGを始めたきっかけは、ドラマティックでもなんでもない。たぶん誰でもそうじゃないか?なんて思えるほどつまらない理由である。
『友達がやっていたから、自分もやってみた。そしたらいつの間にかその友達以上にのめりこんでいた。』
実につまらない理由ではあるが、大概の人もそうだろう。まあ、その友達にこんな中毒性の高い資金ゲームをハマらせられ、多少の恨みはあるものの、教えてくれた事に関する恩義の方が大きかったりする訳で…………。
とにかく楽しいのだ。『遊戯王OCG』が。
大学生と言う身分のためにバイトや仕送りもしていて自由にできる個人資金に関しては中学生、高校生なんかよりも十分に潤っている。だから流行のデッキとかの試せるし、何回もデュエルしていたためにプレイングセンスも格段に上がったりで………
いつの間にかCSと呼ばれる大型非公認大会でも何回かベスト8以内に入り、デッキレシピと名前をネット内に晒す事が出来たりで………
まあ、自慢話はもういいや。
とにかく俺はそこら辺のプレイヤーなんかよりもずっとずっと強いって事を自負できる位のプレイヤーなのだ。
前書きが長くなってしまったが、これはそんな俺が味わった屈辱のデュエルである。
…………………………………………
……………………
……
日曜日のとあるカードショップ
そこは毎週日曜日には遊戯王OCGの公認大会が始まる。まあどこのカードショップでも同じであろう。別段珍しくもなんともない。それに出場した。
ちなみに遊戯王OCGの大会には、トーナメント式とスイスドロー式の二つのタイプが存在する。トーナメント式はその名の通り、勝ちあがって最後の一人になるまで試合をする勝ち抜き戦。このトーナメント式は負けたらそれ以上試合が出来なくなてしまう。一回負けたら試合終了なので、遊びに来ている子供たちにとってはあんまりよろしくない形式の大会であったりする。
スイスドロー形式は、総当たり戦………とは少し違うな。勝ち抜き戦と総当たり戦の良い所だけを取った形式と言ったら認識的に正しいだろう。初戦に負けても勝ち続ける事が出来たら上位に入賞出来る可能性もあるし、勝とうが負けようが最後までゲームを楽しむ事が出来る。それに勝った者は勝った者どうし、負けた者は負けた者どうしで実力の近い者どうしでゲームが出来たりもする。
勿論デメリットも存在する。店の店員さん。まあ、運営の人だね。その人たちの負担がとてつもなく大きい事だ。無理もない。一人一人、対戦結果の集計をしたり、それによって次の対戦表を作ったりで……。相当ゲームのルールに精通している者でないといろいろと不備が起こるシステムである。
ちなみにこの店はスイスドロー式。まあこの店の店員さんはカードゲームにとても精通している人だし、公平なジャッジもしてくれる良識ある店員さんなので問題は全くと言っていいほど無い。
「それでは遊戯王OCGの公認大会を始めます。」
ジャッジ……店員さんがみんなに声をかけた。スコアシートを渡され、俺たちは席に着いた。対戦相手は宿命のライバル。名前をA‘(エー・ダッシュ)と言う。
どこかの配管工のおっさんのダッシュコマンドではなく、某格闘ゲームの主人公の名前をパロったらしい。名前が何とも読みづらい……いや書きづらいために、この者をこれから『スズキ君』と呼ぶ事にしよう。理由は特にない。あえて言うのなら、スズキと言う名前の人間は星の数ほどいるので都合が良いからである。まあ、とにかくこのスズキ君は俺のライバルであったのだ。戦績はほとんど互角。お金のかからない平和な公認大会ではあるものの、親しい者と当たるとなんだか闘争心みたいなのが芽生える。俺もまだ若いな。
「ふふふ。初戦からお前に当たるとはな、スズキよ。運が良いぜ。不戦勝とはよ~。」
俺はスズキをディスった。遊戯王に限らずカードゲームと言うのは相手との心理戦を楽しむゲーム。
心を揺さぶってやれば思いもよらないプレイングミスをしてくれる場合もある。しかし相手をディすったり、無意味な遅延プレイで相手の精神を揺らがしたりする行為はあまり褒められた行為ではない。
絶対に見知らぬ人にはやってはいけない行為………いや、それ以前に人としてのマナーに反するので決してやらないように。
しかし、俺とスズキは冗談を言い合える間柄なので問題は無い。ようは冗談を言うのなら相手を選べと言う事だ。
「……………」
「おいおい。だんまりかよ?」
スズキの様子がおかしい。普段はちょっと挑発すればすぐに突っかかって来るような単純な奴だったはずなのに……。
「―――ヤクモ。」
「あん?
「―――今日の俺は運が良い。不戦勝だなんてな。」
「な、なんだと!」
まさか、挑発し返してくるとは……!面白い!
「では、対戦相手のサイド、エクストラを確認次第、先行後攻を決めて始めてください。」
ジャッジの開始の合図が出た。
「「決闘(デュエル)!!」」
俺
ライフ8000
スズキ
ライフ8000
「俺の先行!ドロー!」
先行はスズキ。この遊戯王OCGは先行有利がもはや鉄板と化している。この勝負、明らかに不利なのは俺。だが、俺の手札はまさに俺のデッキ最強中の最強の手札。
(ふふふ。これで俺の勝ちは動かない。)
俺の使用デッキは【真六武衆】。
恐らくは現環境において、最強クラスのデッキタイプに間違いない。
その最強クラスのデッキタイプが持ちうる最強の手札が俺の手札に揃っている。
(何をしてきても無駄と言うものだ。)
俺の手札は後攻のために5枚。
《紫炎の狼煙》×2枚
《六武衆の結束》×1枚
《六武の門》×1枚
《ハリケーン》×1枚
の5枚だ。
六武衆使いがこの手札を見れば、チート呼ばわりされてもおかしくない鉄壁必殺の手札である。
次のターンでモンスターを引かなければ、先行ダストシュートは効かなくなる。
どんなに伏せてもハリケーンですべて吹っ飛ばす事が出来る。
戦闘破壊が出来ないモンスターを伏せたとしても、門から《六武衆の露払い》をサーチすれば次のターンで破壊が出来る。
《ライトロードハンター・ライコウ》をセットしたとしても、《真六武衆シエン》の身代わり効果を使えば、シエンの破壊はまのがれる。
《冥府の使者ゴーズ》があるかどうかは相手のプレイングで何となく分かると言うもの。
一番うざったいのはリクルーターであるが、最近の流行デッキでリクルーターモンスターを3枚積みにしているデッキは少ない。精々2枚くらいのものだ。それくらいだったら、六武衆特有の超展開力で無理やり破壊してくれる。
次のドロー次第ではワンターンキルも出来よう。たとえ出来なくても、フィールドに《真六武衆キザン》が2体以上でるのは確実。ならばその2体で《インヴェルズ・ローチ》をエクシーズ召喚すれば、場はさらに強固なものとなる。
まさに鉄壁。
だが鉄壁と言ってもこの状況でライオウを出されてしまえばかなりきつい。
ライオウはデッキからのサーチ行為を出来なくする能力を備わっている。先行で出されたらかなり危うい。しかし、このスズキと言う男、ライオウ等と言うモンスターを出す可能性はほぼゼロと言っても良いのだ。
このスズキと言う男、『遊戯王を楽しむためのデッキ』では無く、『遊戯王を勝つためのデッキ』を使用するタイプの人間なのだ。
ライオウは決して弱くは無い。だがいかんせん、除去カードが豊富な今の環境、一単体モンスターとしての性能だけでは現環境を乗り切る事が出来ない。今の環境はデッキからのサーチ、墓地からの特殊召喚を繰り返してゲームを操る高速デッキが現環境の主流。ライオウは強力なモンスターに違いないが、専用のサーチカードがあるわけでもない。専用の蘇生カードがあるわけでもない。あくまでも単体モンスター。そんなモンスターが次から次へと出てくる現環境を乗り切れるはずが無いのだ。
このカードを使用するのならば、このカードを守りまくるカードを搭載した【メタビートデッキ】、【パーミッションデッキ】でなければならない。だか、これらのデッキは安定性が無く、一度劣勢に追い込まれたら立て直す事が出来ない。一枚のカードで場を巻き返すと言った切り札級のパワーカードが存在しないのだ。
決して弱いデッキでは無いともう一度言っておこう。実際にそれらのデッキに負ける場合もある。
弱いデッキでは無い。だが百戦百勝出来るデッキと言えばそうではない。それは環境が物語っている。スズキが使うデッキは限りなく百戦百勝に近い結果を残す事の出来るデッキ。よってライオウを出す可能性は限りなくゼロなのだ。
「ふふふ。スズキよ。俺の手札は教えても良いくらい最強クラスの手札だぜ。次のドロー次第ではワンターンキルも出来よう。はははは!!」
俺はすでに勝ち誇っていた。顔がニヤけていた。だってそうだろう?誰だって勝利を確信した場合は誰だって等しく油断するはずだ。まあ、油断は言いすぎではあるがな。
「―――ヤクモ。」
「なんだよ♪」
「こう言ってはなんだが………」
「なんだよ。早く言えよ!」
何ともうざったい。こう言う、意味深な事を言っておきながら焦らして話さない奴は基本的にみんなに嫌われると教えておいた方が良いだろうか?
そんな事を思っていた時だった。
「お前は、カードを一枚も引く事なく負ける!確実に!」
「な、なんだって!」
バカな!まだ先行ワンターン目だぞ!
コ●ミは先行ワンターンキルに関しては凄まじいまでの規制をかける。今の環境で先行ワンターンキルを成功させる事の出来るデッキがあるのか!?
「見せてやるぜ!ヤクモ!これが……これが俺のデッキだッッッ……!!俺は魔法カード《封印の黄金櫃》を発動!このカードはデッキからカードを一枚選択し、2ターン後のスタンバイフェイズに俺の手札に加える。」
万能サーチカード!だがしかし、それが手札に来るのは2ターンも後。どのカードを除外するのか分からないが、このターンで俺に勝利する事は出来ない。
そう言えば、少し前に《ネクロフェイス》が準制限で、それと《酒天童子》を組み合わせた【デッキ破壊デッキ】が流行した。しかし、それらのパーツは軒並み規制をかけられて今は構築事態が困難なはず。
ならば一体何を除外すると言うのだ?
「俺はこのカード、《超古深海王シーラカンス》を除外する!」
「な……そのカードはッッ!!」
《超古深海王シーラカンス》
魚族最強のモンスターカード。その特殊能力は、出したら勝ち思わせるほどのパワーを持っている。だがそれはあくまで召喚できたらの話。シーラカンスはレベル7の重量級のモンスター。二体分のリリースが必要なはず。それに除外しただけ。おまけに先行ワンターンではないか。何をする気なのだ!?
「俺はさらに手札を一枚捨てて、装備魔法《D・D・R》を発動!除外されているモンスター一体を自分のフィールドに特殊召喚する!」
「くっッッ!」
まずい。非常にまずい状況だ。
スズキ
ライフ8000
手札3枚
フィールド《超古深海王シーラカンス》
「シーラカンスの効果を発動!手札の《レベル・スティーラー》を墓地に捨てて、可能な限り自分フィールドに魚族モンスターを特殊召喚する!俺はこの四体を特殊召喚するッ!!現れろ!フィッシュボーグ・ガンナー!!オイスターマイスター!!!」
2種類の魚族モンスターが2体ずつスズキのフィールドに特殊召喚された。僅かワンターンで五体ものモンスターを召喚するとは……!
「俺はLv3のオイスターマイスターにLv1のフィッシュボーグ・ガンナーをチューニング!!集いし夢が希望と勝利に手を伸ばす、光さす道となれ!シンクロ召喚!可能性の力!アームズ・エイド!!」
「《アームズ・エイド》……Lv4のシンクロモンスターかッ!!」
「この瞬間、墓地に送られた《オイスターマイスター》の効果が発動。このカードは戦闘以外でフィールド上から墓地へ送られた時、自分フィールドにLv1のオイスタートークンを残す!」
全く相手の場のモンスターが減らない。
「俺は、Lv1のオイスタートークンにLv1のフィッシュボーグ・ガンナーをチューニング!集いし願いが、新たな速度の地平へいざなう!光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力・シンクロチューナー!フォーミュラ・シンクロン!!」
「シンクロチューナー……。」
その名の通り、シンクロモンスターのチューナーだ。
「フォーミュラ・シンクロンの効果発動。このモンスターがシンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを一枚ドロー出来る。まだだ!まだ続くぜ!さらに俺は、このLv2のフォーミュラ・シンクロンにLv3のオイスター・マイスターをチューニング!神海に潜みし竜よ、人魚の謳声を力にし、空をも飲み込む大波を起こせ。シンクロ召喚!逆巻け、神海竜ギシルノドン!そして、墓地に送られたオイスター・マイスターの効果発動。トークンを一体、場に残す。」
「………………」
さすがに声が出てこなくなってきた。
「まだまだ!!俺の場にはLv1のオイスタートークンがいる。俺は手札の《ハリケーン》を墓地に捨てて、墓地のフィッシュボーグを特殊召喚する!Lv5のギシルノドンにLv1のフィッシュボーグをチューニング!氷結の地に眠りし虎王よ! 氷河を砕いて轟き吼えろ! シンクロ召喚! 孤高の魂、氷結界の虎王 ドゥローレン!!」
スズキ
手札2枚
フィールド
Lv7《超古深海王シーラカンス》
Lv4《アームズエイド》
Lv6《氷結界の虎王ドゥローレン》
Lv1《オイスタートークン》
「俺はシーラカンスの効果で墓地に送ったレベル・スティーラーの効果を発動。ドゥローレンのLvを1下げて、墓地から特殊召喚する!そしてドゥローレンの効果を発動!ドゥローレンは自分フィールド上の表側表示で存在するカードを任意の枚数だけ手札に戻し、戻した枚数×500ポイント、攻撃力をUPさせる!俺が戻すのはこの2枚!」
そして、スズキは自分フィールドのレベルスティーラーとアームズエイドの二枚を選択した。
「バカな!レベルスティーラーはともかく、アームズエイドはシンクロモンスターだ!手札に戻す事が出来ないため、ドゥローレンの攻撃力もUPしない。ただのアド損だぞ!」
「忠告ありがとう。しかしこれで良いのさ。もうすでにアームズエイドの役目は終わった……。」
「終わっただと?どういう意味だ!?」
「その答えはこうだ!俺は再び、墓地のフィッシュボーグの効果を発動。先ほど戻したレベルスティーラーを捨て、墓地から特殊召喚!Lv5となったドゥローレンにLv1のフィッシュボーグをチューニング!現れろ!二体目の氷結界の虎王 ドゥローレン!」
「ドゥローレンを素材にして、二体目のドゥローレンだとッ!!?」
「まだだ!俺は再び、墓地のレベルスティーラーの効果を発動!ドゥローレンのLvを1下げ、墓地から復活。そして、再びドゥローレンの効果でレベルスティーラーを手札に戻す!」
「これは……さっきと同じ……!」
「そうだ!墓地のフィッシュボーグの効果を発動。レベルスティーラーを捨てて墓地から特殊召喚。そして、再びLv5となったドゥローレンにLv1のフィッシュボーグをチューニング!現れろ!三体目の氷結界の虎王ドゥローレン!」
「三体目だと……!!」
もはやスズキが何をしたいのか俺には理解できなかった。ただいたずらにループを繰り返すだけ。しかし、ルール上同名カードは3枚以上入れてはいけない。だから、これ以上ドゥローレンを出す事は出来ないはずなのだ。
それにスズキのフィールドはさっきから何も変わっていない。ドゥローレンを三体出した事は驚嘆に値するが、フィールドアドバンテージは何一つ変わっていないのだ。フィールドにいるドゥローレンは一体のみ。
スズキ
手札2枚
フィールド
Lv7《超古深海王シーラカンス》
Lv6《氷結界の虎王ドゥローレン》
Lv1《オイスタートークン》
「俺はシーラカンスのLvを1下げ、墓地からレベルスティーラーを特殊召喚!」
「またかよ!」
「まだまだ続くぜ!そしてドゥローレンの効果!レベルスティーラーを手札に回収!そして、墓地のフィッシュボーグの効果!レベルスティーラーを手札から捨てて特殊召喚。Lv6のドゥローレンにLv1のフィッシュボーグをチューニング!世界の平和を守るため、勇気と力をドッキング!シンクロ召喚!現れろ!!パワーツール・ドラゴン!!」
「パワーツールだと!」
なぜだ。なぜここでパワーツールを出してくる!?
「パワーツールの効果!1ターンに1度、デッキから装備魔法を3枚相手に見せ、その内の一枚を手札に加える事が出来る。俺が見せるのはこの3枚だ!」
そしてスズキはデッキから三枚の装備魔法を俺に見せてきた。それを見た時、俺は愕然とした。
「こ、これは……。」
装備魔法 継承の印
装備魔法 継承の印
装備魔法 継承の印
だった。
「さあ、この3枚の装備魔法からランダムに選ぶがいい!」
「ふざけんな。どれも一緒だろうが!………このカードだ。」
「OK。」
そう言う事か………奴は……スズキは無意味にドゥローレンを三体も出したわけではない。こう言う事だったのか……!
くそ!
【継承の印】
装備魔法
自分の墓地に同名モンスターカードが3枚存在する時に発動する事ができる。
そのモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。
このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。
いわゆる蘇生カードの一つ。今では禁止カードとなっている《早すぎた埋葬》を調整したかのような効果。
このカードの恐ろしい所は、バウンスする事によって無限にモンスターを墓地から蘇らせる事が出来る所。だがそのためには墓地に同名カードを3枚落とさなければならなく、非常に発動条件がきついカード。
しかし、奴の墓地にはドゥローレンが3体。しかもドゥローレンの効果は自分のフィールドに表側表示で存在するカードをバウンスする効果を持っている。
つまり……
ほぼ無限の《死者蘇生》と化したのでる。
「くくく!さあ、一方的な殺戮劇の始まりだぜ。装備魔法、継承の印を発動!墓地に同名カードモンスターが3体いる時のみ発動可能。そのモンスターを墓地より特殊召喚する!俺の墓地には3体の《氷結界の虎王ドゥローレン》がいる。よって、ドゥローレンを特殊召喚!」
また復活した。
「墓地にいるレベルスティーラーの効果を発動。ドゥローレンのLvを1下げ、墓地から特殊召喚!ドゥローレンの効果。《パワーツール》、《継承の印》、《レベル・スティーラ―》を手札に戻す!そしてレベル・スティーラーを捨てて、墓地からフィッシュボーグを特殊召喚!もう一回、レベルスティーラーの効果を発動。Lv5のドゥローレンのLvを1下げて墓地から特殊召喚!Lv4となったドゥローレンにLv1のフィッシュボーグをチューニング!現れろ!TGハイパーライブラリアン!さらに、継承の印を発動!墓地のドゥローレンを復活!」
スズキ
手札2枚
フィールド
Lv5《TGハイパーライブラリアン》
Lv6《氷結界の虎王ドゥローレン》(継承の印装備中)
Lv1《レベル・スティーラー》
Lv1《オイスタートークン》
「ドゥローレンの効果!継承の印とレベル・スティーラーを手札に戻す!そして、スティーラーを捨てて、フィッシュボーグを蘇生!ドゥローレンにフィッシュボーグをチューニング!もう一度現れろ!パワーツール・ドラゴン!ライブラリアン効果により1枚デッキからカードをドロー!」
「こ、これは……」
「気付いたようだな!そうだ!これがハイパーライブラリアンと継承の印とドゥローレンによる無限ドローコンボだ!」
ドゥローレン効果でスティーラー継承の印を手札にスティーラーを捨ててボーグ蘇生し、ボーグとドゥローレンでパワーツールを特殊召喚。そしてライブラリアンの効果でワンドロー。
さらに継承の印を発動しドゥローレン蘇生。パワーツール対象にスティーラードゥローレン効果でパワーツール継承スティーラーを戻す。
完璧な無限ループに入った。
「ははははは!!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー!ドロー…………………!」
何枚も何枚もドローしやがる!まさか奴の狙いはエクゾディア!?いや考えられん!しかし、これでは………
「…………ドロー!………ん?………フン、随分と下の方にいたようだな。」
何を引いたのだ?奴の反応からしてなにかしらのキーカードのようだが………。
スズキ
手札16枚
フィールド
Lv5《TGハイパーライブラリアン》
Lv7《パワーツール・ドラゴン》
Lv6《氷結界の虎王ドゥローレン》(継承の印装備中)
Lv1《オイスタートークン》
「俺は、永続魔法!《エレメントの泉》を発動!このカードは自分フィールド上のカードが手札に戻った時、500ポイントのライフを回復する!」
なぜここでライフ回復のカードを出すのか……奴のプレイングに見とれていた俺はとても大切な事を忘れていた。それを思い出したのは審判の一言。
「あと10分でエクストラターンに突入します。」
「なッッッ!!!」
そ、そうか……そう言う事だったのか!
奴の狙いは………エクストラターンによるエクストラウィン!
「サ、サレンダー!サレンダーだ!俺の負けだ!」
このままではマッチ勝負に負けてしまう!さっさと負けて二戦目から瞬殺するしかない。瞬殺できたら、三戦目は恐らくエクストラターンに入るだろう。その時はマジカルアンドロイドを1ターンで出して、エクストラターンに勝利するしか方法は無い。大丈夫。エクストラデッキにはアンドロイドは入っているし、六武衆ではLv5のシンクロが作りやすい。まだ、なんとかなる。
ところがだ……
奴は……
あのスズキは……
「サレンダー?………そんなの認めるわけねえじゃねえか!ヴァーカ!」
「な、なんだと!」
「遊戯王OCGのルールにサレンダーなんてルールは無いんだぜ?いや、あるにはあるが、対戦相手はこれを拒否する事が出来る。サレンダーしたくば、このマッチ勝負自体にサレンダーするしかないな!?きゃははははは!!!」
「く、くそおおぉぉぉ!!」
確かに遊戯王のルールでサレンダーは拒否する事が出来る。だが……ここまであからさまなTODは………
ん?
そうだ。遊戯王での遅延行為は反則行為とみなされるのだ。このスズキの行為は明らかな遅延行為。時間も時間。ジャッジに報告し、奴を反則負けにするしかない。いや、間違いなく反則なのだ。この勝負は間違いなく俺の勝利だ。
「ジャッジぃぃぃ!」
俺はジャッジを呼んであらかたの説明をした。間違いなくやつの行為は遅延行為なのだ。この審判なら公平な判決を下してくれる。そう信じていた。しかし、返ってきた言葉は………
「これはシロ。反則行為ではありません。」
シロと言いやがった!
「なぜです!奴の行為は明らかに無意味な遅延行為です。なぜ反則では無いのです!?」
当然、俺は審判に喰ってかかった。ところが返ってきた話は、とても普通で当たり前の事であった。
「遅延行為と言うのは無意味に無限ループを繰り返し、時間を潰し事。しかし彼のフィールドを見てごらんなさい。」
「フィールド………?」
「あの永続魔法《エレメントの泉》の事だよ。」
「エレメント………はッッ!!
そうか、…………そう言うことか………
「ライフ回復行為を無意味な遅延行為とみなすわけにはいきません。よってこの判決はシロで続行と言う事になります。」
そのためのエレメントの泉………。ドゥローレンと継承の印による無限バウンスでの無限回復コンボ………そう言う事だったのか。
「ようやく事態が呑みこめたようだな!ははは。さて、時間ももう終わるようだぜ。」
さっきのジャッジに説明していた事で時間がいつの間にか過ぎていた。ジャッジからの俺にとっては死の宣告を言い渡された。
「時間になりました。エクストラターンに突入してください。」
エクストラターン
制限時間の40分を過ぎた時点でマッチの勝利条件を両プレイヤーが満たしておらず、且つデュエルの最中である場合に発生するルール。
1.そのターンの終了までデュエルを継続する。
2.ターン終了時に勝敗が未決の場合、エキストラターンに突入する。
i.相手ターンから数え始めて、3ターン実施する。
ii.3ターンが終了した時点で、ライフポイントが多いプレイヤーをデュエルの勝者とする。
(エキストラターンが終了した時点でお互いのライフポイントが同一ならば、そのまま継続してサドンデスに突入する。
ライフをコストとして支払うケースも含め、ライフポイントの差が発生したとき、多いほうを勝者とする)
遊戯王wiki参照
「さて、このままターンエンドと言っても良いのだが………万が一、いや、億が一の可能性を考えておこう。次のドローでエクゾディアを揃えられたら今までの苦労が無意味になるからな。」
これ以上、何をする気なのか?これ以上止めてくれ。エクゾディアデッキなんかじゃないよ。俺のデッキは六武衆デッキだ。
「俺は、墓地のレベル・スティーラーの効果を発動!ライブラリアンのLv1を1つ下げて墓地から特殊召喚。ドゥローレンの効果でレベルスティーラーを手札に戻す。これでエレメントの泉の効果でライフを500回復。さらにスティーラーを捨てて墓地からフィッシュボーグを特殊召喚!今の今まで生き残っていたオイスタートークンにフィッシュボーグをチューニング!現れろ、フォーミュラ・シンクロン。フォーミュラ・シンクロンの効果は使わない。デッキが危ないんでな。しかしライブラリアンの効果で1枚ドロー!」
何をする気だ!
「Lv4となったハイパーライブラリアンにLv2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング!闇に魅せられた魔術師よ、生命を蝕む魔の嵐を巻き起こせ!シンクロ召喚!現れろ!マジック・テンペスター!!」
「そ、そのカードは……」
「そうさ!マジック・テンぺスターの効果発動!手札を任意の枚数捨てて、捨てた枚数一枚につき魔力カウンターを乗せる事が出来る。そして、魔力カウンターを取り外し、外した数につき、500ポイントのダメージを与える。俺が捨てる枚数は15枚!」
「15枚だと!」
「こいつ自身、シンクロ召喚に成功した時に魔力カウンターを一個のせるのでな。よってこのカードに乗っている魔力カウンターは全部で16個。」
「あ、ああああ………」
「覚悟しろ。マジックテンぺスターの効果を発動!魔力カウンターを外し、外した枚数1つにつき、500ポイントのダメージを与える!俺が外すカウンターは16個!よってお前に9000ポイントのダメージを与える!喰らいやがれ!!」
「ぐあああああぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!!!!!
ヤクモ
ライフ0
敗北
「これで俺とお前の戦績は俺の1勝2分けで俺のマッチ勝利と言う事だ。ふはははは!!」
奴のデッキは、先行ワンターンキルなんかでは無かった……。
先行でマッチ勝負を制する……まさに先行マッチキルデッキ!
「く、くそおおおぉぉぉ!!!!」
……………………………………
…………………
……
あれから幾日かの日々が流れた。
あれから一度も俺はカードを触っていない。一枚もドローせずに敗北した俺はデュエリストとしてのプライドをズタズタにされ、まるでスズキを避けるように行きつけの店を避けるようになった。
だが、これで良かったのかもしれない。
俺ももう大学生。遊戯王は素晴らしいカードゲームいであったが、いつまでも遊んでいる訳にはいかない。
もうすぐ就職活動が始まる。
遊戯王に触れる日々はもうやってこないのかもしれない。
だからこそ……
あの圧倒的な敗北は、俺にとってはある意味において好機であったのだ。
そう自分に言い聞かせ………
俺は遊戯王から卒業した……。
終わり
あとがき
いかがだったでしょうか?店の中でそんな厨ニみたいにシンクロ召喚時にセリフを叫んだり
悲鳴を上げたりはしていませんのであしからず。
それに未だに遊戯王をやってますしね。
このデッキはかなり有名なデッキらしいのですが、自分は知りませんでした。
スズキが使って初めて気付いたくらいです。
恐るべき、魚族デッキ……!
と言うか作った人がヤバい!
大まかな流れ自体はノンフィクションです。
ちなみに作者はCS等の大型非公認に出た事はありますが、ベスト8以内に入った事はありません。
実際の人物、施設。団体はすべてフィクションですがWWW
ここまで読んでくださってありがとうございました。