Public/image. | 「Talk Session: 梅沢和木 × tomad」| PUBLIC/IMAGE.SESSION Vol.4
Public-image.orgが企画する対談形式のマンスリートークイベント「Public/image.Session」。 5月29日に行われた第4回には、先日開催された『カオス*ラウンジ 2010』の中 心的作家として注目を集めた梅ラボこと梅沢和木と、インターネット音楽レーべル、 マルチネレコード主宰のTomadが登場。 アートと音楽、アーティストとレーベルオーナーというそれぞれ異なるフィールド/立場にあるふたりが、インターネットというキーワードのもと、さまざまな 議論を交わしてくれました。そのイベントの模様を、ダイジェスト版でお届けします。
Text:原田優輝
「カオス*ラウンジ2010」
「カオス*ラウンジ2010」を終えて、今の率直な感想を教えてください。
梅沢:こんなに面白いものになるとはというのが率直な感想でした。例えば、先日の「破滅ラウンジ」では、高橋コレクション日比谷で展 示した作品を再構成したものも壁に貼りつけてはいたけど、基本的に僕は会場で「ビートマニア」 をしていただけで、自分が快楽的にゲームを消費する様を身体で示していました。僕以外にしても、それぞれが好きなことをやっている人たちの集まりという感 じだったと思うのですが、それを見ている人たちがこんなに楽しんでくれるなんて予想はしていなかったですね。
tomad:僕も「破滅ラウンジ」には参加したのですが、前日くらいに、黒瀬(陽平)さんからサウンドシステムを用意してほしいと言われたんです。それで、うちにある安いスピーカーや デスクトップ用のスピーカーを適当に何台も配置して、あとはDJをしたり、ゴロゴロしながら楽しんでいました。それがこんなにも周りに衝撃を与えるという のは驚きでしたね。
梅沢:DJのようなことをしている人たちをTwitterで集めて、それぞれが同時に好 きなようにやるという感じでしたよね。僕がネット上の画像を再構成して作品を作っているのと同じようなことを、音楽でやっている感じがしました。それは自 分にはできないことだし、面白かったですね。例えば、「DENPA」みたいないま起こっている新し い動きが、また違う形で表現されているような気がしました。そういう意味でも、「カオスラウンジ」では、インターネットの面白い部分が、形を変えてリアル の世界で表現できていたのかなと思います。
『「破滅→再生*ラウンジ」』at Nanzuka Underground 渋谷
tomad:「破滅ラウンジ」で面白かったのは、普通のクラブイベントのように、DJがいて、その周りでお客さんが盛り上がるという 形とは全然違ったことです。みんなPCに向かっているから、誰がDJなのか分からない状態で、それでも音楽は聴こえていて盛り上がるみたいな感覚。そうい う状況は初めてだったし、とても面白いなと思いました。
梅沢:自然な状態でいられる場というのがスゴく良かったんです。普通、クラブとかだと寝っ転がってネットやったりできないけど、個人 的にはクラブとかももっとそういう場所になったらいいなと思うんです。自分が好きなDJのときだけ楽しむみたい感じが、自分には退屈だったりするんですよ ね。そういうときに「ネットができたらいいな」とか「寝っ転がれたらいいな」と思う。PCを使っているときって、ウィンドウをたくさん開いて同時に色々な ことやるというのは普通だったりするし。「カオスラウンジ」は、まさにそんな感じの展示だったと思うんです。クラブカルチャー側からもそういう回答がある と楽しいなと。
tomad:次のイベントでそれに近い企画をしていて。MOGRAで「わくわく大運動会」というイベントをやるんで す。VJがネタ動画とかを流して、演劇グループの快快、ディアステージの (夢眠)ねむちゃんとかを呼んで、さらにライブペイントもやる予定です。PCを持ってくると1000円割 引、iPadがあるとなん と2000円引きです(笑)。
「カオス*ラウンジ2010 in 高橋コレクション日比谷」
ネットとリアル
梅沢:マルチネレコードはイベントをやったり、今後CDを作る予定もあるみたいですけど、やっぱり現実の世界に落としこみたくなるところは あるんですか?
tomad:どうですかね。もともとインターネットレーベルをやっているのも、ネットだとリリースするのにお金がかからなかったり、 みんながすぐ聴いてくれたりするというのが大きいんです。でも、インターネットとリアルの部分が微妙に組み合わさった時に面白いものができるんじゃないか という気はします。
梅沢:今の時点だと、インターネットだけを本気で肯定している人というのはほとんどいないんですよね。みんな程よい感じで両方の要素 をうまく使いつつ活躍していると思います。
Tomad:リアルに存在していないとインターネットはできないわけで、そこは絶対分離できないというか。特に音楽の場合は、ネット とリアルの差ってほとんどないような気もするんです。流通過程でインターネット的な特徴というのはあるかもしれないけど、作品としてインターネット固有の 表現というのはまだ出ていないと思うんですよ。でも、梅ラボさんみたいな平面作品の場合は、そういうこともありそうですよね。
梅沢:例えば、「東方シリーズ」 のオリジナルのシューティングゲームで、画面を埋め尽くすくらいの敵の弾を避けているときや、「ビートマニア」を極限までやって身体が疲れてくるなかでし か得られないプレイ体験というものがあるんです。ゲームのなかに用意されているプログラムや物語は同じもので、言ってみればプレイヤーはそれを再現するだ けなんですが、その体験自体は個人的なものだと思うんです。その感覚を作品を表現したいと思っているところはありますね。今挙げた例はインターネットとい うよりはゲームですけど、「東方」とかはネットでも人気になっているし、操作してるものや使ってるものには、インターネットというイメージがあるんですよ ね。
データとオリジナル
Tomad:絵画の場合は、データとオリジナルの違いや関係性がわかりやすいと思うけど、音楽の場合はその辺が難しいんですよね。CDにし てもMP3にしても、それを再生すると、音のテクスチャというか表面の色合いは、スピーカや空間によって変わってくるんです。だから、どれがオリジナルの 音なのかというのもよくわからないというか。
梅沢:例えば、僕はimoutoidが 大好きなんですが、彼は普通の人では考えられないくらい細かい部分を作り込むために、自分でプログラミングからやっていたんですよね。でも、それをダウン ロードして自分のPCのスピーカーで聴いた場合、そこまではわからないじゃないですか。でも、それはそれでオリジナルのような気もするし……。
tomad:CDとアナログレコードを比べると、エンコード時の劣化の問題とかはあるかもしれないけど、入っているもの自体はほとん ど同じですよね。そう考えたときに、音楽の周辺に付いてくるイメージが取り除かれたMP3データの方が、純粋に音だけを聴けると思うんです。僕がインター ネットレーベルをやっている理由のひとつもそこにあって。例えば、CDの場合だと、ジャケットを見て、中からCDを取り出してプレイヤーに入れて、再生を するという流れがあるけど、DTMで作ったものをサーバーにおいて、各所に配信する方が効率的だと思うんです。データがサーバーにある以 上、反永久的に好きにダウンロードして聴けるから廃盤なんかもない。それが僕にとっては、音楽を届ける上で一番自然な感じがするんです。逆に、例えばアイ ドルを打ち出すときに、タイアップとかで色々経路を作ってから売り出すみたいなやり方があるじゃないですか。そういう場合、どうしてもビジュアル先行に なってしまって、音に注目がいかない。そういうところでの苛立ちみたいのがあるんです。例えば、キックとかスネア自体がキャラクターの構成要素になるとい うか、音をつかってキャラクターを立てて広げていきたいというのはありますね。他のビジュアルに左右されるんじゃなくて、音の表面を中心にしたイメージを 作りたい。
インターネット特有の高揚感
マルチネレコードがアーティストを選ぶときの基準はありますか?
tomad:やっぱり自分と話が合いそうな人とか、インターネットをよくやっていそうな人を中心に(笑)。デモとかが送られてくる と、ブログとかを調べて、「よし、インターネット結構やってるな」みたいな(笑)。もちろん、それと音楽自体を天秤にかけつつですが、音だけで判断しよう としても、まだ発展途上だったりするし、分からない部分も多いですからね。逆にブログで面白いことを書いているような人は、音にも探究心があったりするか ら、面白い方向に行く傾向は強いんですよね。
梅沢:マルチネレコードからリリースしたい人は、ブログをめっちゃ更新しなきゃいけない、みたいな(笑)。音楽以外の諸要素を批判し つつ、選ぶ基準はまた違っていて、そのアンビバレントな感じが面白いですね(笑)。
tomad:もちろん、ピュアに音だけで良いものを作ろうという人もそれなりにいて、そこにはかなわない。でも、そういう部分もあり つつ、インターネットで面白そうなことをやっている人が作っていたら、より多くの人に聴いてもらえる可能性は上がるわけじゃないですか。
「→結論の続き」
梅沢:僕がPixivとかで、メチャクチャ絵が上手い高校生にはかなわな いなと感じることと似ている気がします。でも、ポストポッパーズや カオスラウンジが志向している美意識はそことは違うんですよね。
tomad:ポストポッパーズを初めて知ったときは、いびつな感じで面白そうだなという印象を受けました。ネットで知り合った人たち がグループを作って、何かやろうとしているというところにも共感できたんです。梅ラボさんとか一輪社さ んとかが出てきて、「何なんだこれは?」とインパクトを受けました。インターネットを通してスゴイ勢いで情報を浴びて、それをどうにか形にしようとしてい る感じがしました。
梅沢:インターネット上でしか体感できないアッパーな感じというのがあって、それはクラブイベントで体感する高揚感とも、何かものを 作る過程で得られる高揚感とも違うんですよね。そういうものを作品としてしっかり残せるようになれば、今までになかったものを提示できると思っています。
Artist Profile
梅沢和木
インターネットで集めた画像や映像を自身の表現に結びつける活動をしている美術作家。ニコニコ動画で言うところの「混ぜすぎカオス」や「混ぜるな聴けん」などのタグに代表される諸画像に触発され、2008年頃からインターネットとアートシーンと呼ばれる場所の両方で作品を発表している。大量の無数の意思が作り手と受け手関係なく、一つの映像なり平面に現れる瞬間の魅力を一枚の絵、もしくは空間に落とし込むという制作に挑戦中。
tomad
インターネットレーベル「Maltine Records」主宰。2006年頃からラップトップを使ったDJ活動開始。アニメ×ファッション×ノイズエレクトロイベント「DENPA」や「東京経済大学身体ワークショップ」「TEKNIVAL」に出演する等、主に都内で多方面に活動中。2009年からイベントオーガナイズも行っており、自身主催のイベントではイギリスからエレクトロベースラインの旗手「Kanji Kinetic」を来日させる等こちらも精力的に活動中。