このごろ同じような原稿の注文とインタビューが続いて(ほとんどは断った)、いい加減うんざりしてきたので、ここで今まで私の述べてきたことを日付順にまとめて、この話題には一区切りつけたい。週刊誌のみなさんは、これを私のコメントとして引用していただいて結構です(週刊誌の取材には原則として応じない)。
  1. 炉心溶融は初期の段階で予想されていた3月12日の記事で、私は官邸の資料の「燃料溶融」という言葉に注意をうながし、炉心が溶けているとすれば事態は深刻だと指摘した。3月14日の記事では、枝野官房長官が「炉心溶融の可能性」に言及したことを紹介し、不用意にこの言葉を使うと混乱すると警告した。

  2. 首都圏への影響はない3月17日のニューズウィークで、福島事故はチェルノブイリのように「死の灰」が広範囲にまき散らされる大災害にはならないと予想した。したがって首都圏の人々が心配することはない。

  3. 原子炉の耐震性は証明された3月19日の「アゴラ」で書いたように、1000年に1度の大地震でも40年前のオンボロ原子炉が緊急停止し、配管も破断しなかった。この点で原子炉本体の耐震性は確かめられたので、今回の事故の原因となった予備電源などを改善すれば原発のリスクは極小化できよう。

  4. 東電は破綻処理すべきだ3月23日の記事では、東電を救済する特別立法に反対し、法的に破綻処理すべきだと論じた。ただ5月25日のJBpressでも書いたように、国の賠償責任もまぬがれないので、東電だけをスケープゴートにして政府が逃げることは許されない。

  5. 原発は火力より相対的には安全だ3月31日の記事では、石炭火力による死者が原発よりはるかに多いというWHOの統計を紹介し、死亡率を基準にすると原子力は火力より安全なエネルギーだと指摘した。

  6. 最大の問題は電力会社の地域独占4月6日のJBpressでは、原発が集中立地していることによるリスクを指摘し、その背景にある地域独占を是正するために発送電の分離が必要だと主張した。これは資源の有効利用やイノベーションを促進するためにも重要だ。

  7. 原子力の研究開発は必要4月21日の記事で紹介したビル・ゲイツの意見に私は賛成だ。原子力は相対的には安全で環境負荷も小さく、イノベーションの余地がもっとも大きい。当面は日本で原発を新設することは無理だろうが、運転は止めるべきではなく、研究開発は続けたほうがいい。

  8. 放射線の影響は誇張されている4月26日の記事でも書いたように、200mSv以下の微量な放射線が人体に与える影響は実証されていない。発癌性という基準では、喫煙のほうがはるかに危険だ。癌を減らすには、脱原発よりタバコを禁止するほうが効果的である。

  9. 「自然エネルギー」は原発の代わりにはならない4月28日のニューズウィークでも書いたように、再生可能エネルギーを推進することには賛成だが、それが原子力の代わりになるというのは幻想だ。それは向こう20年は補助金なしで自立できないエネルギーであり、電力コストを上げる要因になる。

  10. 原発に代わるエネルギーは天然ガス4月30日の記事で書いたように、原子力の欠点は安全性より経済性である。コストだけでいえば石炭が有利だが、大気汚染やCO2などを勘案すると天然ガスが総合的に有利だろう。埋蔵量もシェールガスは200年近くあり、問題ない。

  11. 放射性廃棄物の問題は解決できる5月3日の「アゴラ」に書いたように、放射性廃棄物の問題は、技術的には解決可能である。経産省もモンゴルで進めている。最大の障害は政治的(感情的)な反対だ。

  12. 炉心溶融は致命的な事故ではない5月17日の「アゴラ」に書いたように、福島第一の炉心は1日で溶融していたが、それによって圧力容器が破壊される最悪の事故は起こらなかった。だから事故の重大性を「炉心溶融」で語るのはミスリーディングで、圧力容器や格納容器の状態を基準にすべきだ。
こうみると、私の立場は事故が起こった直後から一貫していると思う。一貫していればいいというものでもないが、福島事故はチェルノブイリとは違うのだ。もちろんまだ原子炉は安定していないので被害が広がるおそれが強いが、それは人身事故ではなく、BPのメキシコ湾事故(被害額3兆円以上)と同程度の史上最大級の環境汚染である。このような事故を二度と起こさないように安全性を高めるべきだが、海底油田をすべてやめろということにはならない。

だから本質的な問題は、原発の代替エネルギーがあるのかということだ。逆にいうと、原発より安いエネルギーがあるなら、安全だろうとなかろうと原発は必要ない。コストでは(少なくとも短期的には)天然ガスが有利なので、残る問題はCO2だけだ。この点では原子力が優等生だが、「温室効果ガスを25%削減する」という国際公約さえ放棄すれば、新設する発電所は天然ガスに転換することが賢明だと思う。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    親子そろって

    夜になってかなりの雨。 ドラマがつまらいことへの抗議かと思うほど。 そろそろ今年も「ゲリラ豪雨」の季節なんだろうか。

コメント一覧

  1. 1.
    • ikedf
    • 2011年06月05日 14:25

    原発報道はテレビや新聞を見る限り比較的冷静な報道を保っているように思えた。これはネットで世界中の専門家の意見を確認できるなど、ネットの存在も大きかったのではないか(ただし原発の専門家ではあるものの放射能の人体への影響などわからない学者が無用な恐怖を煽ったケースもあった)。むかし左翼がメディアを牛耳っているとき原発報道は相当に偏向して、原発組織の些細なミスがあれば鬼の首でもとったかのようにヒステリックで攻撃的な報道が繰り返されていた。あのすさまじい偏向報道が様々な分野の人々の理性を狂わせたり保身に走らせたりして、原発を社会的腫れ物にして原発の真実を逆に国民から覆い隠すことになったのだと私は信じて疑わない。(日本のメディアは、戦前は融和的な内閣を意気地なしと叩きのめし国民のうっぷんを晴らすことで発行部数を伸ばした。好戦気分を煽ったくせに、戦後になるとしゃあしゃあとGHQの権威を背にすると何事もなかったように似非平和主義に転向し次のスケープゴートを見つけ出しては相変わらず大衆を煽った)。最近の海外ニュースではドイツ首相が脱原発とぶちあげたが、結局フランスの原発でつくられた電力を輸入するだけで偽善でないか、原発すべてやめたら24兆円かかり国民一人毎月2000円費用かかるとか指摘され、無責任なことを言っていいのかと批判されている。日本でも天然ガスが注目されているが、ロシアに頼っていいのかという問題もある。原発が推進されたのは、発電コストが安いこと、日本をエネルギー的に外国に依存せず自立する国にするという要因が大きかった。発電コストが安いことは福島事故が起きた後でも通用していると思われるが、その辺の正確な試算データは、その辺の活動家にまかせず、官民共同できちんと試算すべきだ。発電コストが高ければ原発に依存する必要はないだろう

  2. 2.
    • ergodicity
    • 2011年06月05日 18:05


    センター試験の古典を廃止して、「情報リテラシー」「言語認識学」に代替すべきでしょう。あまりにもバカな事をいう日本人が多すぎる。

  3. 3.
    • jestemneko
    • 2011年06月05日 19:57

    LNG火力という代替案をしっかり固めるまでは、池田さんも原発推進派だったように思いますよ。しかし、そんなことはどうでもよいのです。原発とは種類がちがいますが、LNG火力にも大事故の危険があると言いたいです。大事故の危険がもっとも小さい火力発電は石炭火力です。その意味でも石炭火力を強く推進したいと思います。
    もうひとつ。領土問題を地価で語ることができないように、食料問題や資源エネルギー問題を市場価格で語るのもむずかしいと思います。それでもエネルギーについて考えることが経済学者の大きな仕事であるとすれば、これは素人考えですが、コンドラチェフ波のような長期波動説を基準にして考えるしかないでしょう。しかしそういったことは誰もやっていない。それ以上に私が呆れてしまうのは、何千平方メートルという福島の土地がおそらく100年以上使えなくなってしまったというのに、その損失を計算しないで復興がどうこうと言っておられる方が多いということです。

  4. 4.
    • yeelee
    • 2011年06月05日 20:14

    池田先生の考え方に全て賛成です。
    ただ、一貫した考え方を一種の関数だとすれば、その入力情報によって出力結果は180度異なってくる可能性があります。
    推進派も反対派も過去の統計データを確証バイアスまみれで解釈しており、どんなに正しい考え方をしていても元となるデータに疑義があって、私にはどの論にも確信がもてません。
    しかし不幸中の幸いか、この“フクシマ事象”が数年~数十年後に、福島第一原子炉の様々な検証と、検体日本人の人体実験データを、世界にもたらすことになる。事実を完全に隠しきれる時代は終わっているので、結論は、数十年後の現実が下すことになると思います。

  5. 5.
    • worldcomw
    • 2011年06月05日 22:07

    どれも当然の見解ですね。
    追加するとすれば(twitterでも言及されていますが)
    ・原子力発電縮小時にも莫大な管理・廃棄コストが掛かり、
     その総額は全く見込みが立たない
    ですね。この費用をどこに負担させるのか考えてみると、

    1.原発の電気料金に転嫁
     → 原発縮小に伴い負担が急増、結局は税金で処理される
    2.電力会社の電気料金に転嫁
     → ごく普通の案
    3.PPSを含む電力会社の電気料金に転嫁
     → PPSは反発するだろうが、PPSが口出し出来る分
       廃炉のコスト低減が進むかも
    4.税金で処理
     → コスト高い、隠蔽体質、天下り、技術革新なしで最悪
    5.放置、或いは『慎重に検討』
     → 焼け野原になった後、外交カードとして利用
       海洋投棄か、他国に処理費用を負担させる

    意外と5が良いかもしれませんが、情けないので
    私が生きている間は止めてほしいですね。

  6. 6.
    • koshidame
    • 2011年06月06日 01:23

    田原氏や池田氏に賛成。広瀬隆なんか本当最悪。ノストラ本で儲けた詐欺師と変わらない。特に放射能についてはなぜ放射能の危険性だけ抽出して騒ぐのか理解不能。新たなマッチポンプ利権でも狙っているのか。ガイガーカウンターでも大量に製造して輸出すれば、とカラカイたくなる。きっと自然な放射線量でも日本中が心配して大騒ぎ状態。
    あと唯一疑問なのはドイツが原発の全面廃止を宣言したことだ。これは意外な気がする。フランスとドイツが逆なら理解できるのだが。

  7. 7.
    • ikuside5
    • 2011年06月06日 16:55

    私も池田先生の某政治家のネットインタビューを聞いて違和感を覚えたのですが、放射性廃棄物の管理に関して、何万年も先の心配をしてるのは滑稽としか言いようがないですよね。まああれは冗談だったのだと思いますが。

    廃棄物管理に関しては、ここ数十年くらいのスパンで低コストでの管理を可能にすることであり、そこだけを焦点にして議論すべきですよね。それ以外の議論は現実逃避でなければ単なるおバカな議論に過ぎないということになりますね。

    この先100年以上くらいのレベルの話になると、当然に、技術進歩でもっとうまいやり方ができるようになっているに決まっているわけで。廃棄物の地中処理だって永久にそこに置いておくこともないのではないかと思うし。また、人類が滅亡したあとの話をしてもしょうがないわけだし・・・私はど素人だけど、将来的には宇宙処理というのも充分にありえる話だろうと思いますしね。

  8. 8.
    • いわせた
    • 2011年06月06日 22:07

    8はどうかと思います。まだ二例目しかレベル7の事故は起きていません。今回がどのような結果になるかは20年後くらいにしかわかりません。
    ところで池田先生はLNT仮説を取っていないようですが先生なら今の避難範囲をどうしますか?3km程度でいいとお考えでしょうか?

  9. 9.
    • ksmo2011
    • 2011年06月06日 23:05

    本命は、天然ガスという結論。
    その先は燃料電池にお任せ下さい。
    現行システムの、熱効率が倍になれば、CO2は半減します。つまり、無理して自然エネルギーに頼らずとも、25%削減は可能であり、国際公約は実現できます。
     先ず、固体酸化物形で、一般家庭、1000万戸、3000万キロワット、次いで、企業向け、1万キロワット基準で、1万基、1億キロワット。地方都市向けで、10万キロワット規模を1000基。これでどうですか。
     大型のものは、溶融炭酸塩形として、地域冷暖房を組み合わせます。この際、地域冷房は、吸収形冷凍機による冷源供給とします。地域暖房は、既に諸外国では実現されていますね。これで、総合効率、80%を目指します。
     送配電は、公営化し、供給義務を普遍的に実現します。
     これによって、燃料電池を設置できない家庭や、採算の取れない企業は、買電専業者として残置出来ます。更に、全ての燃料電池を系統連携しておくことにより、それぞれの需要家の急激な過不足を系統に一時的に出し入れすることによって、ここの燃料電池は、効率のよい、定出力運転が可能になります。
     以前にも書きましたが、地域では、消費電力と発電電力をゼロサム運転とします。つまり、発電と消費電力のバランスを取ってゼロとするように、自治体運営の大型発電所を運転管理します。これによって、災害である地域が欠損しても、全国的には全く影響を受けることのない、安定した運転が可能になります。分散電源の強みを十分発揮できるのです。
     このシステムの最大の問題点は、旧来の電力会社と、それに連なるあらゆる勢力を敵に回すことです。彼らは、何よりもこのシステムの実現を恐れて居ます。総力をあげて否定しようとするでしょう。
     つまり彼らが何より恐れるのは、今そこにある実現可能な技術だからです。

  10. 10.
    • haha8ha
    • 2011年06月07日 07:50

    発電設備が危険かどうかは、結局は発電量が大きいかどうか、だと思います。
     
     効率的に発電すれば大規模設備になり、当然燃料備蓄も大規模にならざるを得ない。オイルでもガスでも水力でも同じ。
     逆に原子力発電も効率を落として、小型にすれば、例えば燃料棒一本単位ぐらいの発電で、心配なら使い捨てユニットで作れば安全なものは作れるでしょう。

     電池も材料は劇物、劇物だからエネルギーをコンパクトに貯めれるわけでしょう。リチウム、カドミウム、鉛、硫酸。
    電池施設も大規模で効率化すれば危険区域です。

     100%ガスで発電して(回転するものはトルクの一番あるところで一定で回転するのが一番効率的)スマートグリッドで管理っていうのが、正解だと思います。
     飯田さんが、「太陽光は安くなる。」と断言してます。液晶テレビのように投げ売り状態に安くなってからシステムに導入するのが「スマート」でないでしょうか?



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