(cache) DOD&M - 8 - 電脳狂想曲
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 サイトとギーシュの決闘があってから数日、キュルケを取り巻く環境に少しの変化が見られていた。
一つ。サイトがアンヘルとカイムに懐いた為、よく顔を合わせる様になった事。
二つ。その副産物として、ルイズが出張って来る事。
三つ。タバサが、シルフィードが韻竜だとキュルケに打ち明け、キュルケ達の前でだけは口を開く事を許した事。それにアンヘルと言う存在が大きく関わっているのは、言うまでもないだろう。
と、まぁ、変わったと言えばこんな所だ。
ちなみに、ギーシュはと言うと、少しは性根がマシになったらしく、貴族である事を鼻にかけ、平民をバカにする事が無くなったそうである。最も、浮気癖だけはどうしても治らなかったそうだが。

「にしても暇ねぇ……」

 広場の木陰で寝転びながら、キュルケは誰にともなくそう呟いた。
今日は虚無の曜日である。普段であれば、と言うか、アンヘルとカイムを召喚するまでは、休日と言えば大概男をとっかえひっかえして遊んでいた彼女なのだが、召喚した使い魔に愛着を抱いてしまっている今は、学院の男は目に入らないのであった。
そんな訳で、今日も今日とて、彼女はアンヘルとカイムとの三人で過ごしていた。する事が無くて暇ではあるが、不思議と落ち着くのだ。

「キュルケよ、年頃の女がはしたないとは思わぬのか?」

 無防備な寝転び方をする彼女に、アンヘルは呆れた声で注意を促した。

「ふふん。見たい男には見せてやるだけの事よ」

 歳に似合わぬ妖艶な笑みで答えるキュルケに、アンヘルはやれやれと言うばかり。
そしてカイムは、だらだらするのにも飽きたのか、手慰みとばかりに剣の稽古に勤しんでいた。
力強くも流麗なその剣捌きに、キュルケはうっとりと見惚れる。

「……あの時のサイトも中々だったけど、やっぱり彼よねー」
「何を色ボケておるか。まったく」
「色ボケなんて酷い言い草ねぇ。あら、アンヘルもしかして、あたしの事危険視してたりする?」

 キュルケはニヤニヤと笑いながら、直ぐ傍にあるアンヘルの首元を肘でつんつんと突付く。
ちなみに、アンヘルの性を雌と理解しているのは、契約によって得た繋がりからの知識であるのは、余談だ。

「馬鹿を言うのも程ほどにせよ……我にとって、カイムは……カイムは……」
「ん? 何言葉に詰まってんのよ」
「馬鹿者! おぬし少し黙るがよい!」
「あはっ、怒っちゃやーよ」

 こんな馬鹿なやり取りを、カイムが剣の稽古の合間、横目で不思議そうに見る中、一匹の竜がパタパタと空を飛んでこちらに向かってくるのが見えた。
これもこの数日ですっかり馴染みになった光景だ。飛んできたのは言うまでも無くシルフィードだった。その背には杖を肩にかけ、分厚い本を読んでいるタバサの姿も。

「きゅいきゅい! アンヘルお姉さま。おはようなの! キュルケお姉さまも!」

 朝っぱらからやけにテンションの高いシルフィードに、キュルケは多少げんなりした様子を見せる。この子と話すのは割と疲れるのだ。

「おはよう。シルフィ、それにタバサ」
「今日も来たのか、おぬしら」

 言葉を返したキュルケとアンヘルに、シルフィードはきゅいきゅい鳴き声を上げ、タバサは少しの間本から目を離すと、こちらを見てすっと杖を掲げた。そして、小さな声で「おはよう」と呟く。

「今日は、空のお散歩のお誘いにきたのね」

 早速とばかりに、意気揚々と用件を切り出すシルフィード。それを聞き、キュルケはふむ、と顎に手を添えて考え込む素振りを見せる。まぁ、実際する事が無い為、OKを出すのは確定事項ではあるのだが。
そこで、キュルケはシルフィード達等お構いなしに剣を振り続けるカイムに視線を向け、思い立ったと言う様に手を打った。

「そうねぇ、ついでだし、街にでも行って、カイムの服とか見繕ったりしようかしら。いい?」
「シルフィは全然構わないのね。きゅい」
「…………」

 タバサの方を見れば、こくん、と頷いて返してくれた。ここの所、シルフィードがアンヘル達に頻繁に会いに来るようになってから、タバサも行動的になった傾向が見られ、友人として嬉しさを隠せないキュルケである。
そして、思いがけず、休日の予定が決まり、俄然やる気を出し始めた彼女。いい素材は磨いてこそ輝く。根暗に見えるカイムのイメージチェンジ作戦がキュルケの頭の中で立てられていた。

「あのカイムがめかし込んだ姿か……ふっ、それはそれで面白いやも知れんな」

 アンヘルは目を細めて言う。

「そうと決まれば、早速。善は急げよ! カイムー! これから出かけるからちょっといらっしゃーい!」
「…………?」

 キュルケに言われ、カイムは剣を振るのを中断すると、鞘に剣を収めながらこちらに向かって来る。無口でぶっきらぼうだが、割と素直ではある。
そして、ある程度距離を縮めた後、ぴょんとその身を跳ねさせ、アンヘルの背中に跨った彼は、キュルケよ、早く来い、と言わんばかりに顎をしゃくった。
カイムの行動に苦笑いを浮かべたキュルケも、軽く『フライ』を唱え、アンヘルの背中、カイムの後方に降り立つと、ビシッと上空に指を差して言うのだった。

「さって、それじゃ行くわよー!」
「飛ぶのは我等なのだがな……」
「きゅい、アンヘルお姉さま、野暮な事は言いっこなしなのね」

 そうして飛び立つ一行。
時を同じくして、一頭の馬が、二人の男女を乗せ、キュルケ等と同じ目的地を目指して走り出していた。

「何か嫌な予感がするのよね。何か」
「何かって何だよ。ハッキリしないと気持ち悪いじゃねえか」
「何かは何かなの! ご主人様に口答えしないで!」

 最も、こちらはキュルケ達一行と違い、和気藹々という訳には行かないようだが。

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