(cache) DOD&M - 5 - 電脳狂想曲
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 ドラゴンと人間とでは、食生活に大きな隔たりがある。これは誰がどう考えたって当たり前の事である。
アンヘルはともかく、人間のカイムに幻獣に与える食事を施す事は出来ない。これはキュルケのみならず、誰しもが思うことだろう。
その旨は、キュルケは朝一番に厨房のコック長であるマルトーに伝えてある。貴族嫌い、メイジ嫌いと言う彼は、最初はキュルケの訪問に渋い顔を見せた物の、彼女の平民である使い魔に対する処遇に感動したのか、二つ返事でOKサインを出していた。
当初、キュルケはカイムに食堂で一緒に食事を取ろうと申し出ていたのだが、どうやら彼は食堂の様子を見た途端、入りづらい空気を感じたのだろう、それは遠慮する、と言った念をキュルケに送った。
さて、どうしたものか。

「参ったわね。じゃ、あなたどこで食べたい?」
「…………」

 本来なら、彼はアンヘルの元で食事を摂りたいのだろう。それは分かっているし、許可したいのだが、カイムが自分に遠慮しているのが、彼女には分かるのだ。そういう念を受けては、その厚意を無下に扱えるわけが無い。
呼び出した使い魔の内、一人は大型のドラゴンと違い、彼女の傍に侍られる体躯なのだ。主人の護衛が使い魔の働きと言うのなら、出来るだけ常に近くにいた方がいい。もしそれをしなければ、キュルケが使い魔を御しきれない無能な主人と言うレッテルを貼られるやも知れぬ。
出来る限りアンヘルの傍にいたいが、キュルケの株が下がる様な事態も避けたい。
没落したとはいえ、カイムも元王子と言う立場にいたのだ。風評と言う物の恐ろしさは誰よりも良く理解している。その為に、譲歩出来るラインを模索しようと言うのが、カイムの考えであった。

「あら、こんにちは。ミス・ツェルプストー」
「あら? あなた、さっきの」

 間もなく朝食が始まろうという頃合。給仕の仕事をする為に、食堂へと向かってきたシエスタが、入り口で何やら考え込んでいる彼等の前を通りがかったのだ。
先ほどの一件もあった為、声をかけたのだが、彼等のただ事ではない雰囲気にシエスタは首をかしげた。

「どうかなさいましたか?」
「ええと、どう言った物かしらねぇ」
「…………」

 とりあえず、話すだけ話してみるかと考えたキュルケは、カイムが食堂では食事を摂り辛いであろうという事を説明した。

「成る程……確かにあそこの雰囲気では……ええと、そちらの方のお名前は……」

 シエスタはカイムに視線を移し、尋ねる。彼はアンヘルとの契約により言葉を失っている為、話すことが出来ないので、代わりにキュルケが答えを返した。

「彼はカイムよ。その、彼、ちょっとした事情があって喋れないのよ」
「え、あ、すいません。わたし、失礼な事を!」
「知らないんじゃ仕方ないわよ。そんな頭下げないでってば。ちょっと卑屈すぎるわよ? あなた」
「す、すいません……」
「だーかーらー」

 キュルケがそこまで言うと、ようやくシエスタも落ち着きを取り戻した様で、何やら少し考え込む素振りを見せた後、あ、と小さく声を上げて手を打った。

「カイムさん。厨房に来られては如何です? ご案内いたしますよ?」
「え? いいの?」
「ええ。構いませんよ。そう言えば、先ほどマルトーさんも仰ってたんですよ。どうせなら、ここで食えばいいのにーって。だからむしろ丁度いいんです」

 その言葉に感心した、と声を漏らし、キュルケはカイムに言った。

「それでいい? カイム」
「…………」

 返答は小さな頷きだった。

「よし。じゃ、あなた……えっと」
「あ、わたしはシエスタと申します」
「そう、シエスタ。彼をお願いね? カイム。たんと召し上がってらっしゃい」

 そうして、朝食の時間がやって来た為、キュルケは食堂へ向かい、カイムはシエスタに連れられて、厨房の方へと向かうのであった。

 その頃、アンヘルはと言うと。

「ええい、おぬしらあまり寄るでないわ」

 何故か他の使い魔達に懐かれ、身体に纏わり付かれて困り果てる彼女であった。

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