菅直人首相は、辞めると見せかけながら辞めないという「ずるい方法」で衆院の不信任案を乗り切った。首相を辞めさせられるのは衆院の不信任案と総選挙だけである。あくまで理屈だけだが、このまま総選挙をせずに衆院議員の任期満了の2013年8月まで居座りつづけることも可能だ。
こうした菅首相だが、ある人によれば政治手法として小泉純一郎元首相を意識しているふしがあるという。もちろん政策そのものはまったく違う。小泉元首相が市場メカニズムを重視する資本主義的な政策であるのに対して、菅首相は社会的な公正・分配を重視する社会主義的な政策だ。菅首相は小泉改革の成果をまったく評価しておらず、国会の内外で小泉批判を繰り返してきた。
しかし、党内の小沢一郎氏を「抵抗勢力」に仕立て上げる手法や、浜岡原発の停止要請をトップダウンで発表したことなど、小泉流の手法を取り入れているように思えるところもあるという。
ここにきて、小泉元首相がライフワークとしていた郵政民営化で解散したように、菅首相も30年来取り組んでいたといわれる自然エネルギー問題を軸として、「脱原発」をシングルイシューとして解散に打って出るのではないかとの観測も浮上している。それを裏付けるかのように、菅降ろしは菅首相の脱原発つぶしであるとの首相サイドからリークもある。
しかし、菅首相のエネルギー政策の転換は最近菅降ろしが激しくなって、急に言い出した。しかも、口だけで実行できない。発送電分離は、菅政権の東電温存スキームではできない。
自然エネルギー拡大は、もし本気でやりたい政策ならば首相就任直後の所信表明で言わないと実現できない。基本政策の変更には他の関連制度の検討などで時間がかかるからだ。
その点、小泉元首相は郵政民営化にいたる道筋を自ら描いて、そのスケジュール通りに郵政民営化を成し遂げた。菅首相は30年前に考えたことがある程度なのに対して、小泉元首相は30年間考え続けてきたという決定的な差がある。
ちなみに、官僚も菅首相が思いつきで言っていることを知っている。国家戦略室が最近出したエネルギー政策でも、脱原発ではなく、原子力は現状維持になっている。しかも、エネルギー政策ではないが、玄葉光一郎国家戦略担当相(民主党政調会長)は、菅首相が退陣時期を明確にしないなら閣僚を辞任する意向であるという。
最近、永田町で話題になっているジョークがある。小泉元首相が言っているものだが、「私は前に『感動した』といったが、今は『菅、どうした?』だよ」 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)