九州新幹線鹿児島ルートの全線開通から12日で3カ月。前日の3月11日に起きた東日本大震災の影響で、久留米・筑後船小屋・新大牟田の筑後地区3駅で予定されていた開業イベントは中止・延期となり「さくら」「つばめ」は静かに滑り出している。久留米駅では一定の効果が出ているようだが、筑後船小屋、新大牟田の2駅は“苦戦”。JR九州から各駅ごとの乗降客数は明らかにされておらず、沿線自治体はやきもきしている状態でもある。
▼久留米駅
「効果は堅調」と話すのは久留米市の吉田秀一・新幹線活用事業推進室長。久留米−熊本間の定期券発行が好調といい「都市の一つのアイテムとして機能しており、定住促進にもつながる」。市は5月、久留米駅の東西自由通路の一日の通行量を調査。「昨年7月時と比べて数千人の増。久留米駅乗降客が従来1万2千人程度だったので増加幅は大きい」。駅構内の観光案内所には前年同月の倍の月2千〜3千人が訪れているという。
一方で「久留米観光の中心となる施設に」と市が約3億7千万円かけて復元整備した「坂本繁二郎生家」は3月、「月間千人超」を目標にスタッフ1人を増員して臨んだものの、結果947人と前月比5%減。その後も822人(4月)、643人(5月)と伸び悩む。市文化財保護課は「団体旅行の問い合わせも増えつつあるので今後に期待したい」としている。
もう一つ、「久大線と連携した観光PR」も効果はまだまだ。うきは市の田篭正規・農商工観光連携係長は「波及効果はほとんど現れていない。やはり新幹線沿線でないと、すぐに影響は出ない」。同市浮羽町でブドウ・柿の観光果樹園を経営する権藤寿さん(58)は「待っているだけでは状況は変わらない。こっちから打って出て(客を)引っ張り込む行動力こそ必要だ」と力を込めた。
▼筑後船小屋駅
「3社の計6台で待機しているけど、1列車当たりのタクシー利用客は1、2人。できれば3、4人はほしいが…」と嘆くのは、当番制で筑後船小屋駅で待機するタクシー運転手の男性。JR羽犬塚駅の利用者からは「(朝夕以外の)特急がなくなり不便」と言われ、「羽犬塚駅のタクシー利用者まで減った」と浮かぬ顔。羽犬塚駅前の商店街関係者は「このままでは共倒れになる」と危機感を抱く。筑後船小屋駅が筑後市南端にあるため「市内の利用者が新幹線で出かける場合、多くが久留米駅に流れている」と分析する。
年間100万人以上が訪れる県内有数の観光地・柳川への動線としての効果も薄い。観光施設の目玉の一つ「北原白秋生家」も5月は昨年同月比で1166人増の8437人が訪れたが「川下りとセットの割引クーポン券や修学旅行の増加が影響したのではないか」と新幹線効果を否定する。川下り業者も「多くが観光バスやマイカー利用。新幹線利用の団体客もいるが全体から見れば数は少ない」と指摘。「(筑後船小屋駅を起点に)バス便を周辺の観光地・八女や大川と結べば、利便性も増し、集客につながる」と注文する。
▼新大牟田駅
市中心部から約7キロ離れた新大牟田駅。新幹線停車は1時間1本。中心部に向かうバスも1時間1本。西鉄とJRの駅が同居する大牟田駅と比べ利便性は格段に落ちる。
大牟田市には新幹線開通後、市民の苦情や不満が寄せられている。在来線に関するものが多い。「福岡市である朝10時の会議に間に合う特急がなくなり、早く家を出なければいけなくなった」「熊本の会社に30分で通勤できていたのに、今は普通列車で1時間かかる」。新大牟田駅についても「午前6時台の新幹線に間に合うバスがない」などの声があるという。
大牟田市は開業前、新大牟田駅の1日の乗降客数を2300人と予測したが、JR九州が4月、市に伝えた数は、平日約600人、休日千人程度。大牟田への移住者を対象に新幹線定期代1万円を補助する制度も始めたが、現段階で応募はなく“肩透かし”の格好だ。
JR九州は「筑後船小屋駅、新大牟田駅、新玉名駅は同じスタートライン。利用状況がダイヤ改正に反映される」との姿勢。基本的なデータが分からなければ対策の打ちようもない−と、大牟田市はJR側に乗降客数を毎月公表するよう求めている。
=2011/06/12付 西日本新聞朝刊=