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[28497] 調合士と百合は交わらない(異世界ファンタジー)
Name: 跳梁◆b1c7f986 ID:93051e7d
Date: 2011/06/22 22:25

 ~初めに~

 ちょっと行き詰ったので物語を考え直してから再投稿。今回、投稿した分は殆ど変っていません。 
 注)ちょい百合描写あり








 初めまして皆さん。私、ユーネイル・ネシア・ヴィフィールドです。みんなからはユーネと呼ばれています。
 ティエルバリアーク大陸の真ん中にあるティエルに住んでいる十五歳の女の子です。自分で女の子とか言うのは、ちょっと恥ずかしいですが。
 ティエルはティエル国家の中心で、ティエル国家はこの世界に五つある大陸の中で一番大きな大陸、ティエルバリアーク大陸を支配というか、領土とする大きな国家で、領土も国民も沢山。その大きな領土をちょこっと借りて、沢山の国民の一人として、私は住んでいます。
 調合士として。

「ルンルンルーン♪」

 調合士とは、簡単に説明するとある物とある物を調合して新しい一つを生みだす職業です。例えば、とっても良く効く傷薬とか――傷薬とか……えへへっ―。

「煎じたサイリールの葉っぱにノームの土を混ぜて~♪」

 調合士は魔法なんて使えません。つまり、調合は一から五を、零から一を作る事はできないのです。一つの組み合わせで出来る物は一通り。いえ、二通りですね。ゴミか出来るべき物。
 その二通り以外の物は作れません。水と塩からは黄金は造れないという事です。できるのはただの塩水で、それ以外の何も造ることはできません。
 なので、調合はそれほど難しくありません。ちゃんと出来れば算数みたいなものなので、それなりに知識を持ち、それなりの設備を持ち、それなりの器用さがあれば調合士は簡単になれる職業なのですが、その知識を持つ人は希少であり、その知識を記す本も貴重。

「六十度でクツクツに込むー♪」

 今、調合士に関する本を手に入れようとするのならば、探す労力ととても大きな対価を支払わないといけないでしょう。調合に関する知識をまとめた本は少なく、その殆どが数少ない調合士達が独占しているので、探すのも大変で、その価値も高いのです。新しく本を作るにしても調合士達はもう持っている上に、知識は調合士しか持っていない為に本を新しく作るのは困難。
 ならば、もう既に調合士となっている人に弟子入りすれば良い。殆どの人はそう考えるでしょうが元々少ない調合士に弟子入りするのは大変で、誰もが弟子を受け入れるとは限らない。弟子を持たずに果てていこうと考えている人もいるでしょう。
 私の場合、師匠に恵まれたというかなんというか――。

「ふんふんふーん♪」

 ティエルには私と私の師匠以外、調合士はいません。しかも、その師匠はちょっと訳有りで。調合士として過ごす時間がとても短く、自分の家にいる時間もとても短い人なのです。
 だから、余り教わっていないというか、師匠が昔使っていたという調合士のノウハウが記載されている本がもう師匠代わりというか―。

「あとは冷やすだけー♪」

 まだ治療薬しか作れないど素人調合士です。一応、治療薬だけでもお客さんはそこそのいるから良いんだけど―。
 新しい物にもチャレンジしようとは考えています。ですが、調合素材がある場所は魔物がいる場所が多くて危険で―。
 そういう時に傭兵の方を雇えば良いのですが、治療薬の売り上げでは毎日暮らしていくのがやっとの状態。そんな状態で傭兵を雇ったら、何日も知り合いの所でお世話になる事に――。
 傭兵を雇うのには、とってもお金が必要なのです。私の場合、一回だけで生活費の四分の一が飛んでいきます。かなり強い人を長時間雇おうものならば、生活費の一か月分はもちろん、二ヶ月分も飛んでいっちゃうかもしれません。命を落とすかもしれないお仕事なので、料金が高いのは仕方がないと言ったら仕方がないのですが。
 なので、私が調合する物は比較的安全な場所で採れるサイリールの葉っぱと道具屋さんで安値で売っているノームの土で作れる治療薬ばっかりです。
 ああ、そうだ。サイリールの葉っぱというのは日が余り当らず、土が肥えていて、水が豊富な場所に分布しているサイリールの葉です。森の中や、川辺の木の下などに生えています。サイリールの葉っぱは、ほんの少しだけど傷を治癒する成分を含んでいます。でも、根には肌に付けると痒みが止まらなくなる小さな毒が含まれているので気を付けてください。
 次に、ノームの土というのはちょっと不思議な素材で、何かと混ぜるとその物に備わっている治癒効果を飛躍的に高める効果があります。成分など不明な所は多いですが、養分も豊富で肥料としても使え、比較的安価で流通している物です。野菜や果物が大きく、甘く育ってとっても人気な肥料なんですよ。ちなみに、土とは言っていますが実際は土ではなく砂の様な何かです。
 このように、色々な材料があります。それぞれの材料で効力や注意点が沢山あるので憶えきれないというか、回復薬の分しか知りませんが、これから知識は広めようと考えている限りです。
 と、いう訳で―

「でーきた」

 鍋の中で、葉っぱの緑が薄まった様な感じの色をした水が揺れています。小さなスプーンですくってみると、ちょっとしたトロミがあり、スプーンからトローっと落ちていく薄緑色の液体が鍋の中へと戻っていきます。
 これを傷口に付ければ、擦り傷程度なら数時間で治ります。もちろん、限度はありますが結構凄い薬なのですね。でも、使いすぎると皮膚に緑色の色素が移っちゃうので注意です。

「ふんふんふーん♪」

 出来た治療薬を大きな瓶の中へと入れて、コルクで蓋をします。
 治療薬を入れた瓶をテーブルの上へと乗せて、まずは今回使った鍋を洗います。放っておくと鍋の底が緑色になってしまうので、ちょっと見栄えが悪くなるんです。
 鍋の底を掃除し終わったら瓶を布で包んでから、それを持って外へと出ていく。
 今日はとっても良い天気。外に出るとまず迎えてくれたのは空から降り注ぐ太陽光。その元を目で追ってみれば、空に輝くのは眩しい太陽。
 その太陽を目指す様に伸びているのが私達、人が住む家達。レンガや、木造の家が並ぶ中に道が作られ、ずっと向こう側へと続いています。
 布で包んだ瓶を抱えながら歩いていけば、沢山の人とすれ違います。仕事途中で移動している男の人達、買い物帰りのお母様方、元気いっぱいの子供達。それぞれがそれぞれの表情で通り過ぎていく中で感じるのは小さな平和。
 その平和の中で暮らす笑顔の人々。平和だから笑顔なのか、笑顔だから平和なのか。どちらにしても、人々が笑っている姿は心を落ち着かせ、和ませる。

「おっとっと」

 石畳の道に出来た溝に足を引っかけながらも、辿り着いたのは雑貨屋“ナンデモ”。この名前は“うちにはなんでも揃っているよ”という店主の心構えから来たものらしいのですが、さすがにとっても希少で高価な物は取り扱ってはいないわけで。

「こんにちわー」

 開けるとカランカランと音がするドアを開いて、店内に入ると同時に見えるのはたくさんの商品が入った大きなショーケースと、その向こう側に立っている四十代くらいの女性。

「いらっしゃい。ユーネちゃん」

 いつも元気なその女性はこのお店の店主、リディおばさん。いろいろな意味でお世話になっているお互いに常連さんです。

「頼んだ物、出来た?」
「はい。今日もたくさん作りましたよ」

 トンっとショーケースの上に置いた治療薬の入った瓶。包みを広げて、それを手に取ったリディおばさんは頷く。

「うんうん。今日のも上出来みたいだね。ちょっと待ってて」

 包みを畳んで瓶の横へと置くと、リディおばさんは店の奥へ。
 その間に瓶の横に置かれた包みを手に取り、そのまま待っているとすぐにリディおばさんは戻ってきました。

「はい。これ、今回の報酬の三万ティル」
「ありがとう」

 リディおばさんが手渡してくれたのは三枚の金貨。ティエル国家の初代国王の妻であった女王様の顔が彫られており、通貨の単位はティエル国家からとってティル。
 金貨一枚で一万ティル。銀貨一枚で一千ティル。銅貨一枚で百ティル。ここまでが他の大陸の通貨との換金対象となるもので、それより下は鉄で作られたティエル国家でしか使えない細かい硬貨があります。
 治療薬は単価が少し高いので、それなりの量を作ればそれなりの報酬になります。毎日これくらい稼げればよいのですが、飛び込みのお客様を除くお得意様はリディおばさんのお店しかなくて、在庫が減らないと追加注文はもちろんありません。
 結局、発注があるのは一週間に一度あるかどうかくらいでしょうか。

「報酬払ったすぐ後に悪いんだけどさ」
「はい?」
「また、同じ量を作ってもらいたいんだ。報酬は同じで」

 頼まれた物を渡してすぐの注文。これから数日、どうやって節約して過ごそうかと考えていたので、少し驚きました。

「え? でも、まだ渡した物を売ってもいないのに」
「それがね。大量の予約が入ったんだよ。うちはユーネちゃんのおかげでそこらより少し安く売っているから、それが広がって」
「それで、大量の注文が?」
「そういう事。で、どうかな?」

 断る理由はありません。でも、ちょっとだけ問題が。

「あ、あの。材料が切れているので、すぐにというわけには―」

 今現在、サイリールの葉っぱが切れているのです。あれがなくては、治療薬は作れません。

「そこらへんは大丈夫。でも、明日明後日にはできるでしょ?」
「そうですね。今すぐ材料を採りに行けば、明日にも出来ると思います」

 これからの予定は特にないので、すぐに採りに行けばなんとか。でも、帰ってくるときには夜になっているだろうから、調合は明日の朝になりそう。

「悪いね」
「いいえ。どちらかというと、注文が沢山ある方が助かりますから」

 さっそくお仕事ですね。

「それじゃあ、また来ます」
「ええ。お願いね」

 すぐにお店から出て行って、自分の家へと向かいます。
 ちょっとした準備をしに。










 ちょっとした準備というのは、外に出る準備です。外壁の中に存在するこのティエルの外はいつ何が起こってもおかしくはない世界です。外に出たら、もう二度と戻ってこれないのかもしれない。そうならない為の、準備です。

「よしっ」

 腰にポーチを下げて、脇には小さなナイフ。これは両方とも、もらった物です。特にナイフの方は大切にするようにと、言われています。でも、手入れとか良く分からないので小さな鞘に納めたまま保管してありました。
 一度も抜いた事のないその柄を優しく握り、外へと出る扉を開く。
 リディおばさんのお店に行く時とは違う、ちょっと緊張している心臓。その心臓が動く胸に手を当てながら、ゆっくりと深呼吸をする。
 ティエルの外へと出るには外壁の東西南北にある門を通らないといけません。ティエルバリアーク大陸のほぼ中央にティエルはあるので、その東西南北の門で大体どこへと行くのかが分かります。
 今から行くのは南の門。比較的安全地帯へと繋がる門で、そこから出る者の検問もそれなりに緩いです。
 しかし、厳しい面もあってですね。

「何かの理由で、あなたがもし外で死んでしまった場合、ティエル国家はその責任の一切を負いません。気を付けてください」
「はい」

 南門での検問の際、こんな事を言われます。外では自分の身は自分で守れという事ですね。
 一応、外で死んでしまった場合の保険というのがあります。簡単にいえば生命保険ですね。外で魔物に襲われたり、崖から落ちちゃったりして死んでしまった場合にお金が支払われます。
 ですが、私はこの保険というのに加入していませんので何もありません。保険料を払う余裕はありませんし、そんなに危険な場所に行く予定もありませんから。
 しかし、先のとおりで何が起きるか分かりません。南門の下を潜った先は魔物の巣といっても過言ではありませんから。
 南門を出たその先は広い広い草原です。ティエル国家の南部の殆どは草原で、その草原を流れるいくつもの川と、その殆どの川の源流がある小さな森がちょこんと存在するだけ。
 今日はその森に用事があります。森の中にある川の源流が湧き出ている場所にサイリールはよく生息しているのです。
 ティエル国家の南門から、その森までは歩いて二時間程。もう既にお昼は過ぎているので、森の中でサイリールを採取する時間を考えても帰るのは夜。出来るならば、夜になる前にティエルにある自分の家に帰りたいのだけれども、結構急がないと無理みたいです。
 しかし、私は体力がすごくあるわけでもなく、逆に運動不足なので急いでも高が知れています。
 結局、森に着いたのはキッチリ二時間後。急いだつもりだったのですが、もしかしたら、歩く速度が他の人より遅いのかもしれません。
 この森は南の森と呼ばれています。あまり名前を付ける意味がないような名前ですが、この森は小さくて特に何もなく、動物たちもあまり住んでいません。この森の頂点に立つのは小動物たち。なので、比較的安全な森なのです。
 森の中心付近に草原を流れる川の源流の一つがあります。その付近にサイリールは生えているはずなので、森に入らなければなりません。
 数多くの人がこの森へと立ち入った為、森の中には道があります。草が踏み倒され、やがて草が生えなくなって土が露出した整備も何もされていない道です。結局はその道を外れることになるのですが、そこを歩いている間はなぜか少し警戒心が薄くなります。
 木々の葉っぱの間から漏れ落ちる木漏れ日。風が吹いて、葉が揺れるときに葉同士が、枝同士が擦れて奏でる旋律。森を何の警戒もなく歩くことができたのならば、それらを楽しむ余裕もあったでしょう。でも、今はサイリールを採取して早くこの森からでなくてはなりません。
 何があるのか、分からないのですから。

「あったあった」

 しばらく道を行き、その道を外れて五分ほど歩いたところに川の源流があります。
 地下から湧くその水はとても綺麗で、そこには様々な生物が住んでいるけれどもそれを眺めている暇はなく、さっそく湧き出る源流近くの木下に生えていたサイリールを摘み取ります。
 摘み取ったサイリールはポーチの中へ。出来るだけ沢山、でも根こそぎ取るわけじゃなくて半分以上残して。それでもポーチの中はサイリールでいっぱいになって、これならばリディおばさんに頼まれた量はもちろん、次の依頼の分も何とかなりそう。

「さて――」

 満足満足。後は変えるだけ――。

「あっ―あ……」

 くるっと振り返った先。そこに見えたのは私の進行方向をふさぐように群れる犬のような動物の群れ。
 いえ、あれは犬ではありません。犬よりも遥かに体が大きく、鋭い眼光。狼です。西の森に多く住んでいるはずの狼が、こんな所に。

「あ―あ―あっ」

 どうしよう。何をすれば、何をすればここから逃げられるの。狼の数は一匹、二匹……六匹。どうやっても、私が敵う相手と数じゃない。
 私が扱うナイフなんて、何の役にも立たない。こんな時に出来るのは相手を倒す事じゃなくて、隙を作ること。人間は相手を倒す武器だけを作ってきたわけじゃない。

「えっと―えっとっ!」

 ポーチの中のサイリールを掻き分け、奥の方。そこにある丸い球を取り出す。そしてそれを、狼達の眼前へと投げた。
 私の目の前で、ゆっくりと弧を描く球。その球が地面へと落ちるのを見ることはなく、耳を両手で塞ぎ、球と狼達に背を向けて目を閉じる。
 瞬間、パーンという物凄い音と閃光が弾け、背を向けて目を閉じているのにもかかわらず、目の前が真っ白に染まったかのような幻覚が見える。
 少しだけ、クラクラする。だけど、こんな所でその感覚に支配されている暇はない。ゆっくりと意識をシッカリと保ち、振り返る。

「え?」

 振り返った先には平然としている狼の姿があった。あの爆音と閃光の影響を全く受けていないという事なのだろうか、それとも耳は影響を受けてはいるけれども、目だけは閉じて視界が白く染まるのを防いだのか。
 シッカリと目を開いて私を捕らえるその何対もの目がそこにはある。

「そんな……」

 絶体絶命。大体の動物、魔物達はこの閃光玉で怯んで動けなくなるか、逃げ出す。それが狙いで人はこれを作ったわけであり、私もこれを持ってきたわけです。
 でも、目の前のそれらは私をその目で捕らえ、狙っている。

「い、いや――」

 ジリ、ジリっと徐々に近づいてくるその体。決して、狩りを急がず、焦らずに獲物を追い詰める。
 その行動が、私を追い詰める。

「来ないで! 来ないで!」

 地面に落ちている石や枝。投げても、投げてもジリジリと詰め寄るその姿は死神そのもの。
 どうしてこうなってしまったのか。なんで、一人でこんな所に来ちゃったのか。後悔の念が生まれる中、地面に落ちていた石を思いっきり投げる。
 ザンっという大きな音。石が地面に落ちた時に鳴る音とは到底思えないその音は、私と狼達の間に大きな剣を出現させる。

「はいはい。自分達の巣におかえり」

 何が起きたのか分からずに地面に突き刺さる大剣を眺めている私の横を通り過ぎ、大剣の前に立った人。
 その人はゆっくりと地面に突き刺さった大剣を引き抜くと、肩に担いだ。

「ふふっ」

 不敵に笑うと、肩に担いだ大剣を振り上げ、それを思いっきり地面に叩きつける。ドンという音と共に周囲に飛び散る石や土。地面も微かに震えている。
 それを見て怖じ気づいたのか、狼達は唸り声をあげながら後退し、やがて背を向けて逃げていく。
 逃げていく狼達を見て、安堵した私の目は背中に担いだ鞘に大剣を納めるその人の姿を映していました。

「大丈夫かしら?」

 振り返ったその人は女性でした。あの大剣を扱っているのが女性だという事も驚きですが、その服装にも驚きです。なんせ、鎧も何も着ず、ほとんど水着のビキニのような服装だからです。腰に巻いているボロボロの布と手に嵌めているグローブが、水着との違いでしょうか。

「やっぱり女の子ね。後ろ姿が弱弱しくて可愛らしかったわ」

 近づきながら目を細め、私を見る目。なんか、変です。

「ふぅん。後ろ姿だけじゃなくて顔も可愛いわね。決めた」

 私の顎に手を添え、クイッと引き寄せる。

「私の恋人にしてあげる」

 そのまま唇に温かい物が触れました。










































 ~おまけ~


「こんにちは、ユーネイル・ネシア・ヴィフィールドです」
「どーも。えっと、まだ私は本編に名前が出てないわね」
「そうですね。ここでは、本編で出てきた調合の材料の説明や、ちょっとした小話をしていきたいと思います」
「ふふっ、こkはそういうところなのね」
「まずは治療薬についてですね。治療薬は人間の自然治癒力を高め、傷を癒してくれる傷薬のようなものです」
「傭兵の間では重宝されているわ。でも、その効果を過信しすぎちゃいけないの」
「はい。これは自然治癒力を高めるだけの薬なので、大きな傷にはあまり効果がありません。例えば――」
「体に風穴が開くとか、手足とサヨナラするとかね」
「う、うん。造血作用はありませんので、出血多量にも効果がありません。もちろん、死者を蘇らせる効果もありません。」
「そういう物は後々出てくるのよね」
「死者を蘇らすじゃなくて、瀕死の人を回復させるだけですけど」
「サンリールの葉と、ノームの土については作中に説明が出ているわね」
「ええ。なので今日はこれでおしまいですね」
「そう。それじゃあ、さようなら」
「また、今度です」




[28497] 夜中の訪問者
Name: 跳梁◆b1c7f986 ID:93051e7d
Date: 2011/06/22 22:22
 もう何が何だか分からない。唇に触れるその柔らかくて温かいそれはしばらく私のそれを奪い続け、同時に困惑をくれる。
 クルクルと廻る真っ白な考え。クルクルと回っているような感覚がする頭。何をして良いのか、分からない。
 グルグル回る思考の中で、スッと唇の温もりが離れ、女性の顔が再度、視界の中に収まる。

「な、なななななにをするんですかっ!」

 目の前で微笑むその顔。何を考えているか分からないその顔へと、どうしようもない感情を込めた言葉を言う。
 でも、目の前にいるその人は微笑みを見せるだけで―。

「キス」
「そ、そういう事じゃなくて!」

 なぜそうしたのかっていう質問を前に、私の唇を人差し指で触れ―。

「落ち着いて、たかがキスじゃない」

 たかがキスって、私にとってはされどキス―って、そういう事じゃなくて。

「貴方はなんなんですか!?」

 唇に触れている人差し指を退かして、ピッと指をさす。でも、やっぱり相手は余裕の表情で―。

「私? 私はユリア・フォルティ。ただの傭兵よ」

 この人の事を知らないのだから、名前を聞いた所で覚えがないのは当たり前で―それを聞いた所で知りたいというかなんというか、理解したい事は理解できなくて―とにかく、なんだか納得できません。

「あと、レズビアン」

 理解できました。

「わ、私は違います!」
「大丈夫よ。拒絶されるのは慣れているから」

 もし、誰にでもこんな事をしていれば拒絶されるのは当たり前なのではないでしょうか。というか、ド変態です。

「と、とにかく、私にその気はありません」

 とりあえず、自分の意志は伝えておくことにします。勘違いされては、色々と困るので。
 とにかく、今は言わなくてはいけない事が。

「ま、まぁ……とりあえず、先ほどはありがとうございました。」

 助けられたことは事実で、その事に関してはお礼を言わないといけません。もし、この人が助けてくれなかったら私は―。

「別に良いのよ。私は大きな音が聞こえて、すごい光が見えたから来ただけ。それだけよ」

 閃光玉を投げた辺り、黒く焦げた草がある場所へと目を向ける女性。閃光玉は魔物を怯ませる以外に、こんな効果もあるようですね。

「でも、大丈夫? どこか怪我とかはしていない?」
「あ、大丈夫です。怪我はどこも」
「なら良いわ。ところで―」

 スッと顔を近づけて。

「興味ない?」
「興味ありません!」
「そう」

 少し寂しげな表情を見せるその人。でも、決して先程のキスのような強行には出ないようです。

「それじゃあ、帰りましょう。この森に一人で来るっていう事は、貴方はティエルの住人でしょう?」
「え? あっ、はい」
「ちょうど私もティエルに帰る途中なの。夜も近いし、さっさと帰りましょう」

 最初のイメージとはまったく違います。急なキスで強引なイメージを持ったのですが、拒絶の意を示したとたん、サッパリしているというかなんというか、スパッと切り代わってしまったかのようです。

「あのっ」
「なに?」
「ごめんなさい」

 何に対してのごめんなさいのか、自分自身にもよく分かりません。私を助ける手間をかけてしまった事へのごめんなさいなのか、その心に答えられない事へのごめんなさいなのか。
 どちらにしても、ユリアさんは私に言葉に対して少し考えるような素振りを見せ。

「罪悪感からくる愛は好きじゃないわよ」
「それはありません」
「言うことは言う子ね」

 シャンという金属音を鳴らし、ユリアさんが歩き始める。
 私はその後ろ姿に付いていくことしかできず、同時に段々と低くなってきた木漏れ日に目を細める事ができました。









 森から出た私達は、最初は言葉も交わさずに歩いていましたが、相手がレズビアンだという事を抜かせば普通の人―いえ、大剣を振り回している時点で女性として普通じゃありませんね。 
 やり直します。レズビアンだという事を除けば“思考”は普通の女性なので、段々と打ちとけ合う事が出来ました。

「へぇ、貴方調合士なの」
「はい。駆け出しですけど」

 歩きながら話すのは楽しいと素直に感じる事が出来ました。
 だからでしょうか。行きとほぼ同じ歩いて二時間という距離が半分にも、またその半分にも感じました。

「ふぅん。それじゃあ、今度依頼にでも行きましょうか」
「その依頼が、私と恋をしたい以外ならば」
「言ったでしょう。相思相愛でなければ、気持ち良くないのよ」

 気持ち良いとか気持ち悪いとか、なんだかよく分かりませんが、ユリアさんなりのルールがあるみたいで、最初のキスは気に入った相手に直接気持ちを伝える手段としては効率的なんだとか。
 意味が分かりません。

「貴方も、私を雇いたい時は言いなさい。格安で雇わせてあげる」
「ユリアさんの所属は?」
「ティエル・グラウンド」
「え? 国家直属の傭兵なんですか!?」

 傭兵にはそれぞれ会社の様に所属する複数の団体があります。それによって、傭兵は束ねられ、組織的に機能しているわけなのですが、ティエル・グラウンドはその中でも唯一国家直属の組織で、かなりの実力者が揃う傭兵軍団です。
 ちなみに、ちゃんとティエル国家の軍隊は他にあります。しかし、その軍隊だけでは力不足というか、数が足りないという時の為に作られ、国民相手にも商売しているのがティエル・グラウンドなのです。

「えっと……お金がないので止めておきます」
「そう? 私はまだ新人だから安いのよ」
「そうですか。なら、必要になったら―」

 ティエル・グラウンドに所属する傭兵達は強いけれども料金がとても高く、私の生活費が一気に飛んでいってしまうほど。ユリアさんは新人だから安いとは言っていますが、それでも無理だと思います。

「でも、あれね。ティエルで調合士と言えば、一人しかいないと聞いていたけど―」
「あっ、おか――レウィシアさんですね。私の師匠です」
「そう。でも、滅多に調合士の仕事をしない人だと聞いていたから、依頼する人ももういないとか」
「え、ええ。そうですね。もう調合士の仕事はしていませんし、滅多に帰ってくることもありませんね」

 そういえば、一ヶ月くらい会っていません。私が会いに行っていないという理由もあるでしょうが、殆ど他の仕事で外に出ている事が多いのです。

「結局、その所為で調合士たちが作る薬や素材を調達できなくて、輸入に頼っているのよね」
「でも、レウィシアさんは昔、『一人であんな沢山の依頼を引き受けられるか!』って言ってました」
「それもそうね。このティエル国家が一人の調合士に頼りっきりならば、過労死するわ。だから、他国から調合士がやってこないのかも」

 数少ない調合士が重宝されるのは仕方がない事とはいえ、その知識で作られる薬や特殊な素材は貴重で、使い勝手の良い最高の物なのです。
 それを作れる調合士が傍にいるとしたら、無視する事はないでしょう。自分の必要な物を作ってもらえるよう、依頼する。誰もが、みんな。

「貴方も、自分が調合士だと言いふらさない方が良いかもしれないわね」
「大丈夫です。治療薬しか作れませんから」
「――それはそれで問題だと思うのだけれども」

 ティエルの南門が見えてきた頃、もう既に空はオレンジ色に黒が混じった色をしていました。
 それでも安心して外を歩けたのはユリアさんがいたからこそであり、こうして戻ってこれたのもユリアさんのおかげ。

「本当に、ありがとうございました」

 検問を受け、外壁の内側へ入った後、改めてお礼を言いました。

「良いのよ」
「今度、個人的な依頼をしに来てくだされば、その時は無料にします。治療薬しか作れませんけど」
「傭兵には必需品よ。必要になったら、貰いに行くわ」
「はいっ」

 大剣を背負った背中。格好とその性癖は変な人でしたが、それ以外は全く普通で良い人でした。
 でも、なんというかその―いきなりキスは止めておいた方が良いと思います。というか、私のファーストキス……。
 離れていくその背中にはその事は話していません。でも、初めてが女性というのは―複雑です。
 確かに、ユリアさんはとても綺麗な人です。容姿はもちろん、腰のあたりまで伸びるブロンドの髪の毛はサラサラで、綺麗。プロポーションも運動というか、傭兵をしているからか少し筋肉が付いているとはいえ完璧です。できるならば、あんな人になりたい――無理でしょうが。
 そんな人とキスをした――いえいえ、何を考えているのでしょう。
 さて、私も家に帰らないといけません。長く歩いて、あんな事があって、今日はもう疲れてしまいました。帰ったら、すぐに寝ましょう。治療薬を調合するのは、その後でも大丈夫だと思います。この後すぐに調合しても、明日の朝調合しても、明日届けられる事には変わりないのですから。
 夜のティエルは等間隔で建てられている街灯と、家の窓から零れる光が道を照らします。その中を歩くのは、もちろん私だけではありません。よく人とすれ違いますし、家の中や酒場からは楽しそうな声が聞こえてきます。
 外とは違って、ティエルは平和です。だけどちょっとだけ、寂しくなってきました。
 あんな事があったからでしょうか、会いたくなってきました。家族に。心安らぐ場所が、光あふれるあの家が恋しくなってきました。
 いつの間にか、私の足は自分の家ではなく、ある方向へと向かっていました。本来ならば、家に着くまで止まるはずのなかった足が止まったその先にある建物。
 食事処『マンマミーヤ』と書かれた看板。つまり、どこにでもあるお食事処ですね。
 キィっと開くドアを押し、店内に入ると聞こえてくるのは笑い声。店内では一日のお仕事を終えた人達がお酒を飲んでいたり、お食事をしていたり、夜の此処は殆ど居酒屋と変わりませんね。
 こういった光景はもう慣れっこです。特に意識する事もなく、お店の奥、カウンター席へと向かう事にします。

「いらっしゃいませー! あっ、ユーネちゃんじゃない」

 お店の奥から沢山のビールジョッキを持って出てきた女の人。茶髪で茶色い瞳をした笑顔の可愛らしいこのお姉さんはここ、マンマミーヤの従業員の一人で、私とも長い付き合いのシルフィール・フォン・ディティーナさん。私はシルルさんと呼んでいます。

「シルルさん、お久しぶりです」
「うん。久しぶり。ちょっと待ってね、これ置いてくるから」

 カウンターから出て、ある席へとビールジョッキを持っていくシルルさん。その姿を見てから、カウンター席に座ると、フゥっとため息を吐いてしまいました。

「シルちゃん可愛いねー。この後、うちに来ない?」
「いやん。おじさま駄目ですよー。店長に怒られますよ」
「良いって良いって。大丈夫だからさー」
「いやーん」

 後ろから、そんな会話が聞こえてきました。
 振り返ってみれば、シルルさんがビールジョッキを持っていったお客様に腕を掴まれ、誘われています。
 大丈夫なのでしょうか。
 あのお客さん。

「あらーん。お客様~ん」

 カウンターの中から聞こえてきた図太い声を無理やり高くしたかのような声。それが聞こえてきたかと思うと、私の横を通ってタンクトップを着た筋肉モリモリでスキンヘッドの人がシルルさんとその腕を掴んだお客様の方へと向かっていき―。

「駄目ですよ~。お触りはNGですわ~」

 その図太い声を無理やり高くした声と、青い顎とゲジゲジ眉毛が目立つ顔で作った笑顔をお客様へと向けます。

「ああんっ。なんだこのキモイおっさんはぁ!?」

 シルルさんには甘い声を出していたお客さんが怒りました。動物で言うところの威嚇というところですね。でも、相手が悪いと思います。

「お、おっさ――」

 ピクピクッとタンクトップの筋肉モリモリスキンヘッドさんのゲジゲジ眉毛が動きます。
 あーあ、怒っちゃいました。

「おいゴラァ!! 誰に向かって口利いてるんじゃボケェ! ママと呼べチン○スがぁ!」

 シルルちゃんの腕を掴んでいたお客様の腕をガッと掴み、ムキムキな力で腕を握りつぶすような勢いで――。

「イテテテテテテ!」
「テメェはもう! 来店禁止だ!」

 出口の方へと一歩踏み出し、力強い踏み込みで腕だけを掴んだお客さんを出口へと向かって思いっきり投げる。
 まるで、軽い物の様に飛んでいくお客さん。ドガァっとドアを破壊しながら外へと飛んでいき、そのまま道の上で動かなくなってしまいました。

「いぇーい! ママまたやったなー!」
「ははははっ! 俺達のシルルちゃんに手を出すからだぜー!」

 店の中にいる他のお客さん達はその光景に驚く事もなく、さらに盛り上がり始めます。なんせ、こういう事は日常茶飯事なのですから。

「ちっ! シルル! あいつから扉代くすねてきなっ!」
「はい、ママー」

 タンクトップのムキムキさん、実はここの店長なのです。本人はただの店長ではなく、ママ系店長と言っていますが―。

「あら~、ユーネちゃんじゃな~い」

 店長さんが私に気付いてくれました。
 あっ、ちなみに私はママと呼ぶのは抵抗あるので店長さんと呼んでいます。

「お久しぶりです。店長さん」
「ううん。今日も可愛いわね」

 イヤンイヤン言いながら頭を撫でてくる店長さん。
 ハッキリ言って、キモイです。

「でも、ユーネちゃんがここに来るってことは一つしかないわね」
「そう―ですか?」
「ええ。でも残念。今日は夕方上がりなのよ。今頃、家で夕飯じゃないかしら?」

 確かに、店に入った時から今日は少し静かだと感じていました。今でも騒がしいと言ったら騒がしいですが。

「どうする? 行くのかしら?」
「え?」

 会いたい。だからこそ、ここに来た。会いたい。その気持ちは今もある。だけど、私は独り立ちしなくちゃいけない。だからこそ、一人で家を借りて住んでいるわけだし、いつまでも甘えているわけには―。

「ううん。ここでご飯食べて、自分の家に帰ります」
「あらまぁ、でも寂しくなったら行きなさいよ。あの子、いつでも貴方を迎えてくれるから」
「分かっています」

 寂しい。寂しいけれど、これを乗り越えてこそ大人になれる。ずっとずっと、私はお世話になってきたんだから。恩返しは出来なくてもせめて、手の掛からない大人にならないと。

「それじゃあ、何にするのぅ?」
「カレーをください。店長秘伝の」
「分かったわ。ヴィズくーん! ユーネちゃんにヴィズくん特製カレーを作ってあげてー!」
「うるせーよ! オカマじじぃ!」

 店の奥、厨房へと店長さんが呼びかけると、すぐに返ってきた若い男の人の声。姿は見えませんが、ここの厨房で働くヴィズ・フェルディアスさんです。見た目は爽やかな好青年なのですが、なぜか私と話す時は目を合わせてくれないし、少し棘のある話し方をしてきます。
 だから、ちょっとだけ苦手です。

「あぁん! なんつったコラァ!」

 店長さんが鬼の形相で厨房へと入って行きました。

「なんだクソジジィ!」
「てめぇ! 雇い主に向かってなんだその口の利き方はぁ!?」
「うっせーよ! 俺がいなかったらまともに営業できねーくせによ!」
「言ったなこのひよっこがぁ!」
「言ってやったよこのオカマクソジジィ!」

 ガタッゴトッと、厨房の方から嫌な音と罵倒罵声が聞こえてきます。でもこれもやっぱり――。

「おおっ! ママとヴィズがやり始めたぞ!」
「はははっ! 今日はもう店じまいかぁ?」
「ははははっ!」

 日常茶飯事、恒例行事の様なものです。

「あらら、今度はヴィズくんとママかぁ。被害によっては、今日はもう閉店かなぁ」

 扉を壊して外へと吹っ飛んでいたお客さんの下へと行っていたシルルさんが、カウンターの上に、手に持った何かを置きながら小さな溜息を吐きます。

「ユーネちゃんはカレーだったよね? 今日は奢り。ちょっと多めに貰ったからね」

 シルルさんがカウンターの上に置いたのは、男性が好んで持ち運びそうなお財布でした。私はそれに苦笑いを浮かべるしかなく、シルルさんはさも当たり前のようにそれを持って厨房へと入っていきます。
 色々と非日常的というか、非常識というか。ちょっと不思議なこのお店、『マンマミーヤ』。だけど、お客さんは笑顔で、店長さんもシルルさんもヴィズさんも仲良し。ならば、このまま変わらずの営業で良いのでしょう。
 大人は、変わる必要がなくて良いですね。私たち子供は、変わる事を要求される。変わらないといけないと、世間に強制される。
 それがなかったら、私はずっとあの温かな場所で―。









 その後、無事にカレーは出てきたのですが、本来の閉店時間を待たず『マンマミーヤ』は閉店してしまいました。
 まだまだ夜もこれから深まっていくこの時間、『マンマミーヤ』から溢れていく人達がハシゴをする店を探している中、私は家へと真っ直ぐ向かう事にしました。
 家へと近づいていくと同時に、道を歩く人は段々と少なくなっていきます。私の家は、周辺に居酒屋や『マンマミーヤ』の様なお食事処もないので仕方がありませんが、ほんの少し寂しいです。
 そんな道を歩き、やっと自分の家に辿り着くという所で、私の視界に映ったのは家の前の暗闇で蹲る人の姿。
 なぜこんな時間に、しかも私の家の前で人が蹲っているのか。物凄く疑問に思うと同時に、少し怖かったのですが、家の前にいられては中にも入れないし、他に行くところもありません。
 だけど、すぐに声を掛ける事も出来ずにちょっと遠くから観察。
 蹲っている人は闇に溶けるような黒髪をお団子ヘアというのでしょうか、そんな感じで髪の毛を後ろに纏め、水晶のような装飾がある髪留めをしています。それを見ると、女の人のようですが、顔はあまり見えないので断言できません。体付きから、年齢は私くらいでしょうか、これも断言はできません。
 蹲っている人は何度も溜息を吐きながら、夜空を見たり、自分の足元を見たりを繰り返しています。ですが、私の家の前からは動こうとせず、このままじゃずっとあそこにいそう。
 もしかして、酔っ払っているのでしょうか。酔っ払って気分が悪いから、あんな所で蹲っているのでしょうか。
 ならば、声を掛けて介抱してあげないといけません。なので、ゆっくりと近づいて。

「あの、大丈夫ですか?」

 声を掛けてみました。
 すると、地面を見ていたその人の顔がバッとこちらへと向き、綺麗な女の子の顔が見えて―。

「貴方、ユーネイル・ネシア・ヴィフィールド?」

 緑色の瞳。鋭いその瞳に見つめられながらのその質問。少し怖かったですが、一応本人なので―。

「は、はい。そうですが――」

 肯定してみると、その女の子が立ち上がって。

「いつまで待たせれば気が済むの!?」

 いきなり胸倉を掴まれました。





















「こんにちは、ユーネイル・ネシア・ヴィフィールドです」
「どーも。ユリア・フォルティよ」
「今回は、傭兵についてですね」
「それについては私の方が詳しいわ。傭兵はその名の通り、主にお金を貰って一時的に雇い主の用心棒をする様な職業よ」
「個人個人で自分は傭兵だと言って、すぐに成り立つ職業じゃないんですよね」
「有名になればそれで良いかも知れない。でも、新人がそんな事を言っても説得力がないし、自分は強いと言い張るその傭兵を雇って、その傭兵の力不足で死んでしまったら元もこうもない」
「傭兵は、信頼が強くなければいけないんですね」
「ええ。でも、いきなりその信頼を得る事は出来ない。だから、新人はそれぞれの団体に所属するの。そして、団体で力を試され、ランク付けがされる。それによって、それなりの信用を得られるわ。で、それぞれのランクによって仕事が回される。確かティエルでは四つの団体があったわね」
「はい。ティエル・グラウンド、ホーク・スカイ、ウルフ・ウィンド、ヘル・フレアですね」
「それぞれで特性があるの。ティエル・グラウンドは良くも悪くもエリート軍団で、ホーク・スカイは力はもちろんだけど、知的な人が多い。ウルフ・ウィンドは考える事を苦手とし、猪突猛進だけど、まだ話が分かる気の良い人ばかり。つまり、フレンドリー。ヘル・フレアは良く言えば目的一番。悪く言えば目的以外は関係ない人達で、血の気の多い人が多いの」
「興行成績はティエル・グラウンドが一位ですが、以外にも二位はウルフ・ウィンドなんですよね」
「そう。力はティエル・グラウンドとヘル・フレアの二強だけど、ウルフ・ウィンドは人柄が良い人ばかりで、畑仕事とか、そういう事も手伝う時もあるみたい。だから、ティエルの人間に愛されていのね」
「ホーク・スカイの方々は機械の開発にも協力しているとか」
「ええ、彼らは頭が良いから。私達の考え付かない事をする。だけどもう少し、力を付けるべきね」
「ヘル・フレアの人達は……」
「あまり関わらない方が良いわね。でも、ヤバい仕事も軽く引き受けるって噂よ。人殺しとかね」
「―関わり合いになる事はなさそうですね」
「傭兵の仕事は様々だけど、基本的に外に出る人たちの警護。やっぱり物流は途絶えさせる事が出来ないし、一日に何百人もティエルを出入りするのだから、必要不可欠な存在なの」
「その代わり、命がかかわる仕事なので料金は高いんですよね」
「そうね。ちょっと料金は高めだけど、本人の意思で高くしたり、安くしたりできるわ。結局のところ、売り上げの半分を上に納めれば良いだけだから」
「お客さんの数で、お給料が決まっちゃうんですよね」
「一応、基本金は出るわ。だけど、それはギリギリ生活できるレベル。だから、頑張らないとね」
「あっ、ちょっと長くなりましたね」
「そうね。続きは次にしましょう」
「はい。それではまた次回」
「またね」














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