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[28144] ANGEL FEATHER MARCH(新機動戦記ガンダムW×そらのおとしもの)
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/01 23:54
※この作品は平成ガンダム三部作の第二弾、“新機動戦記ガンダムW”と、水無月すう先生原作漫画“そらのおとしもの”のクロスオーバー作品であります。

※時空列はガンダムW側はエンドレスワルツ開始直前、そらおとがカオスが二回目の襲撃を行う直前の話(漫画版)になります。

※ガンダムWのあるキャラが完全にそらおとの空気に触れキャラ崩壊しています。

※他の作品からゲスト出演者有り

※オリキャラあり(主人公じゃないです)

※ある物語の都合上により、ガンダムのデザインはEW基準となっています。


それでもおkな人はご覧ください



[28144] プロローグ「少年達が見た流星」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/01 22:16
LG another episode 01


こんな夢……見た事ないだろうか

夢の中で、会ったこともない少女が傍にいて、何故か俺はその子のことが大好きで、その子も俺のことが大好きで




でも最後はその子が空にさらわれて―――


泣きながら……目が覚める










でも今見ている夢は……いつもと違っていた。

天使を翼を生やした白いロボットが、さらわれたその子を連れ戻してくれるのだ。



その白いロボットは俺とその子が再会するのを見届けると、白い羽根を空に散りばめながら、それより高い場所に帰っていった。



俺は初めて涙を流すことなく……目を覚ました。




プロローグ「少年達が見た流星」


SIDE:智樹
みなさんおはようございます、俺の名前は桜井智樹、しがない普通の学生……でした。

何故過去形なのかというとちょっとこの前、空から降ってきた“UMA”を拾ったからなんです……。
「トモちゃん? さっきから何ぶつぶつ言っているの?」
幼馴染でお隣に住んでいる見月そはらが、俺を起こしに来たついでにとなりで朝ご飯を食べてる、そりゃあんた愚痴りたくもなりますよ、だって俺はごく普通、平穏で平凡な日常を望んでいるというのに……。


「あー! ニンフ先輩が私のウインナーとったー! ひどーい!」
「ふん! 早いもの勝ちよ」
「二人とも、喧嘩はやめて……」


なぜか我が家には“エンジェロイド”という三体もの未確認生物が住みついているのだ、ちなみに一番小さくて幼児体型で青空のような色をした髪をツインテールのようにまとめているのがニンフで、胸に栄養が行くあまり脳が可哀想なことになっている金髪の子がアストレア、そして俺が一番最初に拾った、感情表現があまりうまくなく、どこか抜けているボインちゃんでピンク色の髪の子がイカロスである。

「ずるいずるいずるいー!」
「ああもうしつこい!」
「……いいかげんに……!」

その時、喧嘩を止めないニンフとアストレアに業を煮やしたイカロスが背中の翼を広げ、彼女たちに向って追尾式のレーザー砲……アルテミスを放つ。
「やば!」
「危な!」
しかし二人は事前に危険を察知して横っ跳びで避ける。そして行き場のなくなったエネルギー砲は……俺に直撃した。


チュド―――ン!!!
「ギャ――!!!」


俺は吹き飛ばされ家の屋根を突き破り、そのまま空を飛んでいたジャンボ旅客機に激突して近くの山に墜落した……。

みなさん、これが俺の日常です、ひどいもんでしょう……え? ふざけんなって? 美少女ロボ+ボインな幼馴染に囲まれて生活ってそれなんてエロゲだと? じゃあ代わってくれよ! 二次元の壁を突き破れるならな!



「お前らはなんでいつもいつもそうなんだー!?」
数分後、イカロスに回収され戻ってきた俺は三人のエンジェロイド共に一人一発ずつ拳骨を食らわせ、長い長い説教を食らわせてやった。
「だってー、ニンフ先輩が私の大事にとっておいたウインナーたべるんだもーん」
「嫌いだから残していると思ったのよ、そうならそうと早く言いなさいよねー」
「……」
騒ぎの原因になった二人は全く反省している様子がない、対してイカロスは俺に危害を加えたことを反省しているのか、殴られた頭をさすりながらどこか落ち込んでいる様子だった。
「もう朝ごはんぐらいゆっくり食わせてくれよ! 今日はせっかくの日曜だってのに!」
そう言って俺は二階にある自分の部屋に戻ろうとする、その時……。

――ピンポーン

俺の家のインターホンが来客を告げる、まあ俺んちに用事がある人間なんてなんかの勧誘以外だったらほぼあの人だろう、俺は玄関にむかった。

「おはよう智樹」
「おはよう桜井くーん」
玄関にいたのは俺が通う学校の先輩、メガネビューティーの守形英四郎と、生徒会長の残酷ドS超人五月田根美香子だった、この二人は幼馴染であり、よくこうやって二人で行動しては、俺を非日常に引き込んでいく困った人たちだ。
「どうしたんですか先輩方? こんな日曜の朝から……」
「実はね~、守形君が面白いものを発見したそうなの~」
「少しニンフを借りてもいいか?」


一時間後、俺達は先輩達と一緒に自分たちの通う空美中学校の新大陸発見部の部室にやってきていた。ちなみに新大陸発見部とは守形先輩が発足した新大陸を発見する為の部であり、先輩の突拍子もない普段の行動(例:自分の作ったパラグライダーで屋上から飛び立つ等)のせいで無理やり入部させられた俺達まで変態扱いされているのだ。
「で? 先輩、新しい発見って何なんです?」
「うむ……これを見てくれ」
そう言って先輩は俺達にパソコンのモニターを見せる、そこにはいくつもの地球が宇宙空間に浮かんでいる様子が映し出されていた。
「なんですかこれ? 地球に見えますけど……」
そはらの何のひねりもない感想にこくんと頷く先輩。
「みんな……“パラレルワールド”は知っているか?」
パラレルワールド? 一体何を言い出すんだこの人は?
「パラレルワールド:ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。「四次元世界」、「異世界」、「異界」、「魔界」などとは違い、我々の宇宙と同一の次元を持つ。並行世界・平行世界と訳される。並行宇宙や並行時空といった呼称もよく使われる」
はいイカロスさん説明ありがとう、俺には半分もわからなかったし、この説明ほぼWI○Iのコピペじゃねえか、手抜きすんなよ。
「つまり……この世界のお前はイカロスを拾ったが、並行世界ではイカロスを拾わず普通の日常を送るお前がいるということだ」
マジっすか!? 俺が複数いるってことはおっぱい揉み放題じゃん!
「今トモちゃんエッチなこと考えてた……」
「新大陸のことを調べていくうちにそのパラレルワールドの存在を知ってな……だからお前たちを呼んだ」
「? なんでです?」
そはらはイマイチ状況を把握できていなかったが、俺はこの人との付き合いが長いので何を企んでいるのか解ってしまった。
「ああ……そのパラレルワールドにも新大陸があるのかもしれない、その調査のためお前たちの力で俺をパラレルワールドに連れてってくれ」



その日の夜、俺達は神社そばの大桜に集合した、そこには先輩自作のなんか物々しい巨大な機械が置いてあった。
「せ、先輩……なんですかコレ?」
「これか、これは時空転移装置、イカロスのカードで作ったんだ。」
「うふふ、ほんと守形君は面白いわね~」
いやうふふじゃないですよ会長、あんたも止めてくださいよ巻き込まれるのは俺達なんですから……あ、この人は面白がって絶対止めないだろうな。
「というわけでニンフ、今からこの機械を起動するからサポートを頼む」
「はいはい、はあ……めんどくさいわね……」
ニンフはブチブチ文句を言いながらも、機械に備え付けてあったキーボードをいじり始める。すると機械はゴゴゴとうなり声をあげて起動した。
「よし、それじゃ行ってくる」
藁帽子に荷物の入った風呂敷袋を担いでいるお前それいつの時代の旅人ルックやねんって感じの恰好をした守形先輩は、俺達にびしっと敬礼した後その機械の中に乗り込もうとしていた。
「だ、大丈夫ですか先輩!?」
「失敗したら骨はちゃんと拾ってあげるわ~」
本気で心配するそのらと、半笑いでハンカチを振る五月田根先輩、ほんとこの人ひっでえな……

ボフンッ!

その時、突如機械は煙を上げた後、そのまま機能を停止してしまった。
「む? おかしい……故障したのか?」
「変ねえ、私はちゃんと手順通り起動させたわよ?」
予想外の事態に首を傾げる先輩とニンフ、なんだ? いつもならここからなんかしらの騒動が起こるのに今回はここまで? 作者のあとがきが入るの? いやっほう! それはそれで寂しい気もするがラッキーだぜ!
「マスター」
その時、後ろにいたイカロスが俺に話しかけてくる、どういうわけか彼女は戦闘モードに移行して臨戦態勢をとっていた、隣にいたアストレアも同様である。
「な、なんだよ、まさかまたシナプスが来るのか?」
「いや……なんかちょっと違うみたい、あそこを見て」
俺はアストレアが指を指した方角を見る、そこには空ある一点を中心に捻じれていく光景が広がっていた。
「な、何あれ……!?」
「俺が知るかよ!」
「気を付けてください、何か巨大な物体が……」

その時、その捻じれた空間から人の形をした巨大な何かが落下してくる、そしてそれはズドンと大きな音を立てて誰もいない地面に落下した。
「うわ!」
「あらあら、何かしらねあれ……」
「調べてみましょう!」
イカロス、ニンフ、アストレアはすぐさま翼を広げて飛び立ち、落下してきたロボットのもとに向かう。俺たちもすぐさま階段を下りてグラウンドに向かう。

「アルファ、このロボット……」
「はい、この世界には該当するものが存在しない技術、素材が使われています」
「生命反応もしますよ!? これって人が操縦しています!」
倒れているロボットに近づき解析を始めるイカロス達、そして後からやってきた守形先輩もロボットに直接触れて調査を開始する。
「面白い……これは恐らくシナプスでも使われていない技術だな」
「そこまでわかるんですか!?」
「ああ、あれを見ろ」
先輩の視線の先には、ロボットの手に握られていたライフルのようなごつい銃があった。
「明らかにシナプスの連中とは違う意向で作られている兵器だ」
(じゃあこれもイカロス達みたいな……!?)
俺の頭の中に過去のイカロス達の戦いが次々と浮かんでくる、その時……ロボットの胸が突然開いた。
「!? 誰か出てくる!」
「マスターは下がってください」
イカロスは俺達を自分の後ろに来させると警戒モードを上げる。
そしてハッチの中から……緑のランニングシャツに短パンという格好の、俺と同い年ぐらいの男が出てきた。
「くっ、どこだここは……? 確か俺はゼロを太陽に捨てに……」
その時男は空を飛ぶニンフとアストレアを見て、とっさに持っていた銃を持って構える。
「あ、あの人銃を!?」
「なんだお前たちは、ここはどこだ、俺をここに連れてきたのはお前たちか?」
銃を構えたまま叫ぶ少年、その時……アストレアの後ろにいた守形先輩が一歩前に出た。
「守形先輩! 危ないですよ!」
「大丈夫だ、待っていろ」
そして先輩は銃を持つ少年に話しかける。後ろにいたイカロスに目配せしながら。
「君は何者だ? そのロボットは一体……」
「質問をしているのはこっちだ」
少年は相も変わらず守形先輩に銃を向け続ける、その時……。
「うっ……!」
突如少年は苦しみ出すと、そのまま前のめりに倒れてしまった。
「!? 倒れたぞ!」
ニンフがすぐさま駆け寄り少年の容体をみる。
「どうやら落下の衝撃で軽く脳震盪を起こしているわね」
「た、大変! どこかで休ませてあげないと!」
「それじゃ桜井くんの家でいいんじゃない? ここから近いし……」
「ちょっと!? さらっと俺に厄介事押しつけようとしてません!?」
「仕方がないだろう、とにかく行くぞ」
守形先輩はそう言うと気絶した少年を背負い、俺の家の方へ歩き出した。ああ……また俺の所に得体のしれないものが居候するのか……でもまあ今回のは人間っぽいからマシか。



ふと、俺はこの白いロボットが落ちてきた場所が、かつてイカロスと出会った場所と同じだということに気付いた。あの出会いがあったから今日までの騒がしい日々が始まったんだっけ。
「……不思議な縁だな」
「トモちゃんどうしたの? 早く行こう」
「わかった、ほら行くぞイカロス……イカロス?」







SIDE:イカロス
マスターが少年を家に連れて行こうとした時、ふと私は少年が乗っていた白いロボットを見た。
「白いロボット……………………機械人形…………………………………月光…………………………ロスト…………………………………」
そのロボットのエメラルドグリーンの瞳を見た瞬間、私の中のメモリーの奥底に眠っていた何かが目覚めようとしていた。


――キィィィィィィィン


ノイズが混じった世界、そこで私は巨大な何かと戦っていた。
相手は私なんかじゃ敵わない、圧倒的な戦闘力を有していた。
“それ”は私だけじゃなく、シナプスの本拠地までもその背中から生える蝶の翼で徹底的に破壊していった。
自分たちにはどうすることもできない力に蹂躙され、逃げ惑い泣き叫ぶシナプスの住人達、彼らはとても後悔していた「ああ、我々はなんて愚かなことをしてしまったのだろう、あれは自分たちにどうこうできるものじゃなかった」と。

“それ”は怒りを露わにしていた、いたずらに命を奪い、玩具にしてきた愚かな天使達に対して。
“それ”は怒りを露わにしていた、大量破壊兵器である私に対して。

“それ”はボロボロで動けなくなった私に向かって、何もかも焼いてしまう光の剣を振りおろそうとしている。“それ”は私の存在を消し去ろうとしているのだろう。

私はそれでもよかった……このまま命を奪い続けるぐらいなら、いっそ奪われたほうがいいと思ったから。

そして振り下ろされた光の剣は私を……。





「おーい、どうしたんだイカロス?」
マスターの一言で私は過去の世界から連れ戻される。私の目の前にはいつものようにマスター達が、仲間のエンジェロイドたちが、そして彼らに背負われている意識を失っている白いロボットのパイロットがいた。
「すみません……ボーっとしていました」
「そうか? とにかく早くここから離れるぞ、辺りが大分騒がしくなってきた、警察に説明するのもめんどくさいしなー」
「はい……」
そして私は破片を握りしめ、マスター達と共にその少年を連れて我が家に帰って行った……。










さて、今回はここまで、次回は智樹が少年を連れて大暴走する回です。


スパロボでウィングガンダムのツインバスターライフル(MAP)+祝福にはいつもお世話になってます。
テッカマンブレードも出れたんだしそらのおとしものも参戦できるんじゃないでしょうか? 無理か。



[28144] 第一話「銭湯!!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/06 09:07
 第一話「銭湯!!」


SIDE:智樹
自爆して負傷した少年を保護した俺たちは、とりあえず彼を俺の家で休ませることにした。(俺の意見は無視して)
「あのロボットのステルスコーディングは終わったわ、あれなら現地の人達に見つかる事はないでしょう」
「しっかし何者なんでしょうねコイツ、あんなのに乗って……」
俺たちより少し遅れて帰ってきたニンフとアストレアは、部屋で眠る少年を見て呆れたように溜息をつく。
「銃を扱っていたということはどこかの兵士なのだろう」
「見たことのないロボットにのる少年兵……なんだかアニメの世界みたいですね」
「俺からしてみればこいつらの存在も十分漫画だけどな!」
そう言って俺は隣にいたイカロスの頬をツンツンと突いてやる、相変わらずこいつの肌は柔らかいな
「あららー? 会長いいもの見つけちゃった~」
その時、会長は彼の履いている短パンから一枚のカードを取り出す、どうやら身分証のようだ。俺はその身分証に書かれている名前を声に出して読み上げる。
「なになに……“デュオ・マックスウェル”って名前なのかこいつ」
「デュオ……変わった名前だな」
そう言って守形先輩はさっきからニンフの出した機械をいじくりまわしている、今度は何をしようとしているんだ。


「ぐっ……ん?」
その時、さっきから俺のベッドでグースカ眠っていた少年……デュオがやっと目を覚ました。
「あ! 気がついたみたいだよトモちゃん!」
「ここは……どこだ? 俺は一体どうなったんだ……!?」
「ここは俺の家、お前あのロボットの上で倒れたんだよ、イカロスに感謝しろよ~? こいつがいなかったら死んでいたかもしれないんだからな」
「そうか、俺はまた死にぞこなったのか……」
そう言ってデュオは自分の掌を見つめる、こいつ“また”って言ったけどまさかいつもあんなことを繰り返していたんだろうか。
「ゼロはどうした……?」
「ゼロ? あの白いロボットのこと? それなら私とデルタが隠しておいたわよ」
「そうか、まあそれならそれでいい、あれはもう必要のないものだからな」
「……?」
俺たちはデュオが何を言っているのかよくわからず首をかしげる、その時守形先輩が俺たちの一歩前を出てデュオに質問する。
「なあ、君はどこから来たんだ? そしてあのロボットは一体……」
「…………答えることはできない」
そう言ってデュオは守形先輩から目をそらす。そして先輩はこれまでの顛末をデュオに余すことなく説明した。
「では……お前のその次元を移動する装置とやらの暴走で、俺はこの世界に来てしまったと?」
「そういうことになる、すまない……面倒なことに巻き込んでしまって」
「…………」
デュオは説明を受けて何やら考え事を始める、そして先輩はすくっと立ちあがった。
「俺はあの装置を修理してみる、こうなった以上、お前を元の世界に返すのが俺の役目だ」
「そうですね、デュオ君にも家族とかいるだろうし……」
「というわけでトモ君、それまで彼の世話、よろしく頼んだわよー」
「ちょ!? 俺の家に置いとくんスか!? 会長の家広いんだし会長が引き取ってくださいよ!」
「いいじゃない、居候一人増えたところで変わらないわよ」
「それじゃ智樹、よろしくたのんだぞ」
そう言って先輩、会長、そしてそのらは俺達を置いてさっさと帰宅していった。
「くっそー! 面倒事押しつけやがって!」
「おい……」
「ああ? まあこうなったのも何かの縁だ、先輩の研究が終わるまでぐらいならここにいていいぞ」
「そうじゃない……」
そう言ってデュオは自分の傍でちょこんと座るイカロス達三人のエンジェロイド達を指差した。
「こいつらは何者だ? どう見ても人間では……」
「あそっか、まだ説明してなかったか、こいつらは……」
俺はデュオにイカロス達のことを説明してやった、ついでにこいつらを作ったシナプスのことも。
「アンドロイド……なのか? MDシステムとはまた違うのか……」
「MD? そんな専門用語並べられても解んねえよ」
するとその時、先ほどまで黙っていたイカロスが俺の肩をチョンチョンと突いてきた。
「マスター、そろそろ夕食の時間です」
「あ、もうこんな時間か……冷蔵庫の余りもので何か作ってくれ」
「解りました、デュオさんの分の食器はどうします?」
「そうだな……予備のどんぶりがしまってあった筈だったな、取ってくるか」
そして俺はイカロスと共に台所に向かうのだった。


「……嫌々だった割にはあっさりと俺が暮らすことを受け入れるんだな」
「ま、そこが智樹のいいところなんでしょうけど」
「あいつはただのバカですよ! 深く考えないだけ! ぷすすー!」
「デルタ、アンタ人のこと言えないわよ……」



こうして俺は空から落ちてきた未確認物体の中にいた人間、デュオとしばらく一緒に暮らすことになった、もっとも、デュオが本名じゃないことと、奴が空より高い所から落ちてきたのが判るのはそれからしばらく経った後だが……



次の日、朝食を食べて洗面所で顔を洗ってから居間に戻ると、そこでデュオとイカロスが正座しながら何も言わずじーっと見つめあっていた。
「…………」
「…………」
「? 何やってんだお前ら?」
「…………」
「…………」
「いや……なんか答えろよ」
「…………」
「…………」
「お、おい……」
その時、デュオは表情一つ崩さずイカロスに手を差し出した。
「中々やるな……」
「あなたも……(にやり)」
イカロスは効果音だけで笑っていると表現し、デュオの差し出された手を握り互いの健闘を讃え合った、何の戦いをしているたんだお前等は?

「そうだデュオ、よかったら空美町を案内してやろうか? 今日は振り替え休日で休みなんだ」
「いいだろう……何もすることがないしな」

と、いう訳で俺はデュオとエンジェロイド達を連れて空美町の商店街にまでやって来たのだ。
「ここが空美町の商店街だ、ついでだしお前の身の回りの物も買い揃えたほうがいいかもな」
「……」
デュオは何も言わず俺の後ろをついてくる、こいつホント何を考えているかわからん……。
「マスター、ついでに今晩の夕食の材料も買っておきましょう、何にいたしましょうか?」
「そーだな……デュオ、折角だしお前の好きな物作ってやるよ、何がいい?」
「俺に好物は特にない……好きにしてくれ」
「そうか? じゃあイカロス……今日はカレーにでもするか、前みたいに肉じゃがにするなよー」
「わかりましたマスター」
そして俺達は色々と必要なものをそろえる為、商店街の中をぶらぶらと歩き始めた……




SIDE:イカロス

数分後、マスターは何かを発見したのか私達に買い物を任せてどこかに行ってしまう、きっとまた女の人を追いかけて行ったのでしょう。
「まったくトモキったら……またハメを外しすぎないよう私が付いて監視しておくわ」
「あ! あんなところでとんかつの試食会やってる! ちょっと私行ってきます!」
するとニンフとアストレアもどこかに行ってしまい、私はデュオさんと共に商店街を歩くことになった。
「じゃあ行きましょう……デュオさん」
「ああ」
デュオさんは私の問いに淡泊に答えると、私の後ろにぴったりと付いてきた。

それから一時間、買い物をする私の後ろを、デュオさんは離れることなく付いていた。
なんだか……とても変な気分だ、いつもならマスターやニンフ達がワイワイ騒いでにぎやかなのに、この人は何もしゃべらない、いや……もしかしたら自分から喋るのが苦手なのだろうか?
「おい」
そう考えた矢先、突如デュオさんのほうから私に話しかけてきた。
「どうしたんですか? デュオさん」
「貴様……何の真似だ?」
「何の真似? どういうことでしょう?」
「その翼はなんだ?」
「え?」
その時私は、デュオさんに対して迎撃モードを取っており、アルテミスの標準を彼に定めたままだということに初めて気付いた。
「す、すみません……なんだか私、今日は調子が悪いみたいで……」
私は慌てて迎撃モードを解除し翼を最小限に縮める、しかしデュオさんは私に対し警戒を緩めていなかった。
「……」
「……」
私達の間に重苦しい空気が流れる、その時……いつも聞く能天気なマスターの声がその空気を祓った。
「おーいイカロス! デュオー! ちょっと来てくれー!」

「……マスターが呼んでいます、行きましょう」
「ああ」
そして私達は何事もなかったかのように、マスターの呼ぶ声がした方へ向かった……。

私達はマスターのいる呉服屋にやってくる。
「マスター、私に何の用でしょうか?」
「……あれを見ろ」
マスターが指差す方向には……

「わー、この服可愛くない?」
「絶対似合うってー」
「すみませーん、試着していいですかー?」

女子高生の子達が店の中にある可愛い服を試着しようとしていた。
「ぐむむ……どうにかしてあの娘達の着替えを覗けないだろうか」
「何を言っているんだお前は」
デュオさんが早速ツッコミを入れる、この人もそはらさんと同じでマスターの考えには付いていけないのだろうか。
「バカ野郎! 目の前に着替えようとしている女の子がいるのなら覗かなければ! あの子達に失礼だろうが!」
「そういうものなのか?」
「そんなわけないでしょう、まったくもう……」
ニンフがあきれ返った様子でため息を付いている、その時……デュオさんがぽつりと言葉を漏らした。
「そうか……女に欲情するなど、俺にはよく解らないな」
その瞬間、皆石のように固まりながらデュオさんに視線を集めた。
「あ、アンタまさかそっち系!?」
「そういう系の女子が好きそうな雰囲気を持っているとは思っていたけど、まさか本当に……!?」
「まさか俺の体目当てなのか!? 俺にそんな趣味はないぞ!」
「いや、そうじゃない、俺は……生まれた時から戦ってばかりだから、そういう一般常識には疎いんだ」
勘違いしているマスター達に訳を話すデュオさん、するとニンフとアストレアはちょっと悲しそうな顔をした、多分自分達の事を重ね合わせているんだろう。
「そっか……アンタにも色々あるのね」
「ちょっとまずい事聞いちゃったかな……智樹?」
ふと、皆はマスターがわなわなと震えながら泣いている事に気付く。
「マスター……泣いているのですか?」
「……俺は知らなかった」
「はい?」
「俺は知らなかった! この世界にエロの素晴らしさを知らない男がいたなんて! それは……それはとても不幸なことなんだよ!」
そう言って滝のような涙を流すマスター。
「何その訳のわからない熱血?」
呆れるニンフ達を尻目にマスターはデュオさんの手をとり、ある場所に向かって駆け出した。
「こうしちゃいられねえ……お前にもエロスの素晴らしさというのを教えてやる! ついてこい!」
「おい……」



数分後、私達は町の中にある銭湯にやってきた。
「この公共浴場に一体何の用なんだ?」
「まあ見てなって……ニンフ!」
「はいはい」
そう言ってニンフはモニター付きの機械……量子変換機を取り出した。
「なんだそれは?」
「まあ見ていろよ……変身!」
するとマスターの体は量子変換機の力でみるみるうちに女の子の体になって行く。

「こんにちわー! トモ子どぅえーす!!(CV:藤○咲)

「女になった……だと?」
さすがのデュオさんも量子変換による変身に驚いている、どうやら彼の世界にはそういった技術は無いらしい。
「よっしゃ! 次は貴方の番よデュオ!」
「なんだと?」
するとマスターは量子変換機を操作しているニンフとアイコンタクトをとる、するとデュオさんはマスターと同じように量子の渦に飲まれ……。

「な、なんだコレは……!?(CV:矢島○子)」

完全に女の子になっていた、ちなみに容姿はセミロングの黒髪、胸は私とニンフの間ぐらいのちょうどいいサイズにまで膨らんでおり、タンクトップのシャツから谷間が垣間見えていた。

「やっだー! デュオ子ったら超可愛いー!」
「おいなんだこれは? どういうことだおい」
(珍しく動揺していますね……)
(まあいきなり女にされたらそら誰だって驚くわね)

「だいじょーぶ! すぐ慣れるから! それじゃ行きましょう!」
「行く? 一体どこに?」
「決まっているでしょう……新大陸に!」


数分後、マスターとデュオ子さんは女湯にいました。女の子の体をしているので堂々と中に入れます。ちなみに私はニンフ達と一緒に外でモニタリング中です。

「やっだー、最近胸大きくなったんじゃない?」
「ええそうかなー?」

「どうデュオ子……素晴らしい光景でしょう!?」
マスターはデュオ子さんに女湯にいる方々を見せる。しかしデュオ子さんは理解できないのか首を傾げます。
「素晴らしいと言われても……よくわからん」
「成程、それならば……直接触れ合ってみましょう!」
そう言ってマスターは近くにいたお団子頭の少女……よくマスターをバカにするクラスメイトのそれなりに大きい胸を後ろから揉みます。
「ひゃ!? 何!?」
「あ、ごめんなさーい、知り合いと間違っちゃいましたー(ほら! デュオ子もやるのよ!)」
マスターはアイコンタクトで指示を出し、デュオ子さんは近くにいた文房具屋のマキ子さんの胸を揉みました。
「きゃ!? ちょっと何!?」
「……すまない人違いだ」
デュオ子さんはマキ子さんに謝るとマスターの元に戻る。
「どう!? エロの素晴らしさが判ったかしら!?」
「いや全然」
「くっ! こうなったら手当たり次第に女子と触れ合うのよ! そうすれば貴女にも新世界が見えてくる筈! では突撃ぃ~!」
そう言ってマスターは次々と事故や勘違いと称して女湯にいる人達の体を触り続けました。

――ふにゅん!
「え!? 何!?」
「すみません手が滑りました!」

――さわっ!
「きゃあああ!?」
「足が滑りました!」

――ガシッ!
「んっ……!」
「ああーん、ごめんなさーい!」

マスターはドンドン目的を忘れて自分の欲望を満たす為だけに女の人とふれあい始めました。
「どうデュオ子! 貴女も触っている!?」
そう言ってマスターはデュオ子さんのいる方角を見る、しかしそこにはデュオ子さんはいなく代わりに……。

「とぉーもぉーちぃゃーん……」
阿修羅の如き怒気を纏ったそはらさんがいました。
「げげぇーそはら!? なんでここに!?」
「この前話したよね……? うちのお風呂壊れたって……またここで悪さして……!」
「ま、まってまって! 私はデュオ子にエロスの素晴らしさを伝える為……!」
「んなもん伝えるなああああああ!!!!」
そしてマスターの脳天に、毎度おなじみそはらさんの必殺チョップが直撃し、マスターは床に下半身を沈めた。

「ふん! ふん!」

――ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!

「ま、待ってそはらさっ……! 沈っ……! 生き埋めっ……!」

ドンドン地面に沈んでいくマスターの体、そしてそはらさんは最後にマスターの頭を持ち……。
「ふん!!」

―――ズボッ!

―――ぐるん!

―――ドッゴオ!!

「ごべぶ!!」

地面から引っこ抜いた後、今度はマスターを逆さまにして頭から開けた穴に突っ込みました。

―――ボフンッ

するとマスターの変身が解け、逆さまのままのマスターの息子さんが女湯の人達の前に晒されてた……。(ちゃんと修正はかけてます)


SIDE:その辺にいた女性利用客
「い、○神家よ!」
「私はモータル○ンバットを思い出したわ……!」


SIDE:イカロス
一方、危険を察知してすぐさまその場から離れて難を逃れたデュオ子さんは、服に着替えて私達の元に戻ってきました。
「おい、いい加減元の姿に戻せ」
「はい……」
「別にそのままでいいんじゃない? 似合っているわよ?」
「いいから戻せ」
ものすごい剣幕で迫るデュオ子さん、私はぶーぶー文句を言うニンフとアストレアを尻目に彼を元に戻した。

「あ、イカロスさーん! デュオさーん!」
するとそこにお風呂からあがり服を着たそはらさんがやってきた。
「そはらさん……マスターは?」
「今女湯にいる人達に拷問を受けているよー」


ヒイイイイ! ネジキレルウウウ!!


「何がねじ切れるのかしらね?」
「さあ?」
ニンフとアストレアは女湯から聞こえてくる悲鳴に首を傾げる。
「ごめんねデュオさん、トモちゃんが変な事に巻き込んじゃって……」
そう言ってそはらさんが頭を下げる。
「お前ら、いつもああなのか?」
「まあね、智樹はいわばこの町のトラブルメーカーよ」
「その割には……楽しそうだな」
「そうですねー、あいつといると退屈しませんからー」
ニンフとアストレアの答えを聞いてデュオさんはくるっと私達に背中を向ける。
「そうか……あいつの言うエロとは何なのか全く理解できなかったが……」
「理解できなかったが?」
「あいつと一緒にいると楽しいということは解った」
「デュオさん……」
私達はなんとなく、デュオさんの目がなんだか優しくなっている事に気付く。

「それじゃアイツを回収して家に戻ろう、それとお前達に一つ言っておきたいことがある」
「? 何ですか?」
デュオさんは歩き出そうとした矢先、私達の方を振り向いてこう言った。



「俺の名前はデュオ・マックスウェルじゃない……ヒイロ、ヒイロ・ユイだ」



「「「……はい?」」」
突然の宣言にそはらさん、ニンフ、アストレアは首を傾げた。
私はその時、デュオさん……じゃなくてヒイロさんが、マスターとはまた別の意味で面白い人だと感じました……。










SIDE:????

―――……………………………。

「ほう、目が覚めたようだな」

―――……………………………。

「ふふふ、あの者達も面白い贈り物をしてくれたものだ、おかげで面白いものができた」

―――……………………………。

「お前とあの機体には裏切り者のエンジェロイド達と桜井智樹の抹殺を行ってもらう。

―――………………サクライ……トモキ………。

「頼んだぞ、私の最高傑作……!」

―――……………………………。





―――……………………………エレガントではないな。










本日はここまで、次回は夏祭りですよー、殺戮の宴の開演ですよー。
????が誰かはまだ秘密です。まあバレバレですがね。

会長が見つけた身分証は恐らくヒイロがまたどこかに潜入する時に使おうと思って持っていたものでしょう。



[28144] 第二話「かくれんぼ!!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/09 10:51
 第二話「かくれんぼ!!」


SIDE:智樹
ヒイロ(元デュオ)が空美町にやって来て数日、町では夏祭りが開催されていた。
なんか原作で3巻に一回のペースで夏祭りやっているけど俺達はなんで歳とらないんだろう?

―――それはな……サ○エ時空というのじゃよトモ坊。

じいちゃん! あの世からアドバイスかい!? いつもいつもありがとう!

まあ独り言はこの辺にして、俺はその夏祭りにエンジェロイド三人とそはら、守形先輩、そしてヒイロと共にやって来ていたわけだが……。

「なあ、会長はどこに行ったか知らないか?」
「そう言えば今日はまだ見ていないね」
今日は一度も五月田根会長の姿を見ていない、恐らくまた良からぬ事をたくらんでいるんだろう……!
「トモキー! リンゴ飴買ってー!」
「私も私もー!」
そんな俺の心配をよそに、ニンフとアストレアは出店のリンゴ飴を俺にねだる、するとヒイロが……。
「智樹、リンゴ飴とはなんだ?」
「なんだお前、リンゴ飴知らないのか」
「ここは実際に食べてみた方が早いだろう」
守形先輩の意見を採用して俺はリンゴ飴を三つ買い、ニンフ、アストレア、そしてヒイロに手渡した。
「んー! 甘くておいしい~!」
「久しぶりの甘いものだ~!」
「確かに甘いな……」
リンゴ飴を食べてそれぞれ感想を漏らす三人、するとヒイロは俺の後ろでヨーヨー釣りのヨーヨーをバインバインさせているイカロスに気付く。
「おいお前……それをどこで買った?」
「はい、この先にあるヨーヨー釣りのお店で買いました」
「なんだヒイロ? 欲しいのかヨーヨー?」
「……」
ヒイロは何も答えない、まあヨーヨーの一個ぐらい買ってやってもいいか。
「そんじゃ次はそのヨーヨー釣り屋に行こうぜー」


そして俺達は目的のヨーヨー釣り屋にやってきた、ちなみに看板には……

“ヨーヨー釣り JUDAS”

と書かれていた。


⇒ともき はにげだした!

⇒しかしまわりこまれた!

⇒「ことしもきたぜ、ぼうず」

⇒「ぎゃああああ!」

⇒ともき のめのまえはまっくらになった……。



「はい! というわけで今年もやるわよ~」
数分後、逃げ出そうとした俺はヨーヨー釣り屋のおっちゃん……いつも夏祭りに現れて俺に血を見せてくるテキ屋のおやじに簀巻きにされて捕まる。
「あの男……只者ではないな」
案の定、ヒイロがテキ屋のおやじの並み外れた戦闘力に反応する。
「それで会長……今年は何をするんですか?」
そはらの質問に、会長は歪んだ笑みを浮かべながら答えた。
「そうね……毎年血みどろの戦いっていうのも飽きてきたし、今年はちょっと童心に帰った催しものを企画してみたの」



SIDE:ヒイロ&守形
「……毎年この夏祭りで何をしているんだ?」
「そうだな……実弾混じりのサバイバルゲーム、生死を掛けたプロレス、人間をヨーヨーに見立てた巨大ヨーヨー釣り……この前は鶏育成レースをして街が壊滅した」
「よく生きているなお前ら」



SIDE:アストレア
「今年の夏祭り特別企画は……かくれんぼ大会~」ドンドンパフパフー
そう言って師匠(※アストレアは五月田根会長を師匠と呼んでいる)は“かくれんぼ大会”と書かれた横断幕を部下の人達に広げさせ私達に見せる。
「わーかくれんぼですか、子供のころよくやったな~」
「ルールは簡単、皆はこの空美町のどこかに隠れて、タイムリミットまでに鬼に見つからなければ優勝……ちなみに量子変換機を使ったり空を飛んだりするのは禁止よ~」
「なんだ簡単じゃねえか」
「ちなみに……鬼に見つかった人は……」
そう言って師匠はパチンと指を鳴らす、すると部下の人達がテレビ番組とかでよく見る“?”と書かれた人が10人ぐらい入れそうな巨大な箱を5個ほど持ってくる。
「タイムリミットまでこの中で過ごしてもらいま~す」
すると箱の中から……。


ギョエエエエエアアアア

キィエエエエエエエエ

グギョギョギョギョ

ユニバァァァァス

マサシクアイダアアアア


なんかこの世のものとは思えない生き物の鳴き声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと会長! あの中に何が入っているんですか!!?」
「さあ? 会長解らないわ~、それじゃゲームスタート! いーち、にーぃ……」
そはらの質問を軽く受け流し、師匠はカウントダウンを始める。
「や、やべえ! 皆散れー!」
すると周りの人達も慌てて隠れる場所を求めて辺りに散っていった……。


「とととととにかく隠れる所を探さないとおおお!」
私はちょっと頭が混乱したまま隠れる所を探して町の中を彷徨っていた、すると……。
「デルタ! こっちよ!」
「ニンフ先輩!」
ニンフ先輩が私の手を取り、ある倉庫の中に案内してくれる。
「ちょうどいい感じの樽を二つ見つけたのよ、この中でしばらくやり過ごしましょう」
「はい!」
そう言って私はニンフ先輩が見つけた樽の中に隠れる。

(助かりましたよニンフ先輩ー)
(いいのよ、そう言えばそろそろ鬼が解放された時間かしらね?)

その時、倉庫の外から同じくかくれんぼ大会に参加していた街の人達の悲鳴が聞こえてきた。

ウワァ! ナンダオマエ!? ギャアアアア!!

タ、タスケテ! イノチダケハー!

オカアサーン! ウワアアアア!!!

アハハハハ! アハハハ! オレタチハモウダメナンダー!

(こわ!!? 外で一体何が!!?)
(こ、声出さないでよ! 見つかっちゃうでしょ!)

―――バタンっ!!

((!!?))
その時、私達のいる倉庫が大きな音を立てて開け放たれ、私達は縮こまってしまう。
(きききききたー!?)
(静かにしてってば! 黙っていれば見つからない……!)

―――ギシッ ギシッ ギシッ

真っ暗で何も見えない中、鬼らしき何かの足音が私達の恐怖心を刺激する。
(……!)
(こここ怖くない! 怖くないわよ……!)
すると鬼らしき何かはじわじわと私達が隠れている樽に近づいてくる。
(く、来る!)
(おおお落ち着くのよ! もう何も怖くない! 怖くはない……!)
そして鬼らしき何かはついに私達がいる樽の前に立った。

「……」
(う。動かない!? 何故!?)
(様子を窺っているのかしら……)

「……」
私達は鬼らしき何かが徐々に私達のいる樽に顔を近づけている事に気付く。
(こわ! 暗くてよくわからないけどじっとこっちを見ている!)
(ッ~!!)
もう怖くてちびりそうな私をよそに喋らなくなったニンフ先輩、すると……。
「え、えええい! もう我慢できない! 鬼だろうがなんだろうが私の超音波振動子で……!」
恐怖に耐えきれなくなったのか、ニンフ先輩は木箱から飛び出し、鬼らしき何かと対峙した。
「ひ、ヒィィィィィィ!!?」
するとニンフ先輩は鬼らしき何かを見て悲鳴を上げる、なんで!? 先輩は一体何を見たんですか!?
「い、いや! 助けてデルタ! 智樹! いやああああ……!」
そして先輩はそのまま何処かにズルズルと引き摺られていった。



「こわああああ!!!? 早くここから逃げないと!」
数分後、鬼らしき何かがいなくなったのを確認した私は一刻も早くこの場から逃げたい一心で倉庫から出た……。





SIDE:そはら
かくれんぼが開始されてから一時間後、トモちゃん達とはぐれた私は学校の女子トイレの中に隠れていた。
「だ、大丈夫だよね? 辺りから悲鳴が聞こえてくるけど……!」
その時、私は何者かの足音を聞きトイレの一番奥の個室に隠れた。
「ききききた~!?」
そしてその足音の主は私のいるトイレに入ってくる。

「……」
すると足音の主はまず始めに入り口側の個室をコンコンとノックする、そしてそこにいないと解るとその隣に行きノック、そうやって私のいる個室に少しずつ近づいてきた。
(怖あああああ!!!?)
恐怖のあまり逃げ出したくなるけど、今逃げ出すと確実に見っちゃう、だから私はこの場で息を殺すしかなかった。
(早くどっか行ってよ~!)
そして足音の主はついに私が隠れている個室の前に立ち、扉をノックする


―――コンコン


私は必死に気配を消しながらやり過ごそうとする、しかし足音の主は一向に去ろうとしない、すると……。


―――…………ガチャガチャガチャガチャ!!!


足音の主はものすごい勢いで私のいる個室の扉を開けようとする。
(……! ……!)
私は恐怖のあまり叫びそうになり、口を必死に抑える。


―――ドンドンドンドン!!!


今度はノックというより扉を叩いてくる!


―――ドカッ! ドカッ! ドカッ!


今度は蹴り飛ばしてきた! 私は思わずお母さんが持たせてくれた交通安全のお守りを握りしめる。
(神様お願いします! なんかもう助けて!)

「……」
すると足音の主は私のいるトイレから去って行った。あきらめてくれた……?
「た……助かった~!」
心底ほっとした私は個室から出ようとした、だがその時……頭上から異様な気配を感じ動けなくなってしまう。

上に……誰かいる!

怖くて怖くてしょうがない……! 上を見たら何かとんでもない事が起きる! でも何故か確認しなきゃいけない気がする……!

そして私は勇気を出して上を向く! するとそこには……!


「あ」
「トモ……ちゃん?」


トモちゃんがそこにいた。

「いや違うんだ、ずっと隣の個室にいて、怯えているお前が気になって覗いていたわけだが……決してその瞬間を待ち望んでいたとかやましい心は本当無いんだぞ? だって女の子はフローラルの香りって信じたいじゃないですか、だからそのそはらチョップの構えはやm





SIDE:守形
部室に隠れていた俺は、着信音が鳴る自分の携帯電話を取る。
「智樹か……どうした?」
『せ、先輩助けてください! こ、殺される!』

―――ドゴォォォン!!

『ヒイイイ!!?』
「落ち着け! 一体何が起こっている!? 鬼に追いかけられているのか!?」
『違います! 悪魔が! 悪魔がああああ!!!』
『トォームォーチィヤーン……!!』
「状況を説明しろ! 対策がとれない!」
『そはらが……! そはらが鉈っぽい何かを持って俺を追いかけ……ぎゃあああ! 来たー!!!』
「智樹!? 智樹―!!!」
『ウルオラアアアア!!!』
『……ああ、俺はどうしてこんな所に来てしまったのだろう? 俺はただ、皆との何気ない日常を守りたかっただk


―――グシャ!! プー、プー、プー。


何かがつぶれる音と共に切られる電話、おそらく……電話は智樹と一緒に潰れたのだろう。


どうしてこんなことになったのか俺には解らない、これを見た君、どうか代わりに真相を暴いてくれ、それだけが俺の望みだ……。





SIDE:アストレア
皆が次々と捕まる中、私はニンフ先輩という尊い犠牲を払いながら森の中に逃げ込んだ。
「はあ! はあ! ここまでくれば……!」
しかし後ろから誰かが近づいてくるのを感じ、私は再び走り出した。
「も、もうダメ……捕まる……!」
そう思ってあきらめようとした次の瞬間、突如横から手が伸びて私を草むらの中に引きずり込む。
「むぅっ!?」
(静かにしろ)
その手の主はヒイロのものだった、彼は私を安全な所に連れてきてくれたのだ。
「ひ、ヒイロ?」
(静かにしろと言っている、このままやり過ごそう)
私達はそのまま息を殺して鬼役の人が通り過ぎるのを待つ。

「……どうやら行ったみたいだな」
「は、はあ~! 心臓が止まるかと思った……!」
鬼役の人が立ち去ったのを確認すると、私は急に全身の力が抜けて行くのを感じてため息をついた。
「まったく……ここまで本格的とはな」
「まあ師匠ってちょっと猟奇的な所がありますからねー、それじゃタイムオーバーまでここで隠れていますか」
私の提案にコクンと頷いたヒイロは、ちゃんと草に隠れるようにしゃがみ込んだ。

「……」
「……」
辺りに流れる沈黙、考えてみればヒイロって口数が少ない方だからここは私から話しかけて場を和ませなければ! でもどんな話題を振ろう? あ、そう言えば前から聞いてみたい事があったんだ。
「そ、そう言えばヒイロって大きなロボットに乗ってこの世界に来たけど、アレっていったい何なの?」
私はヒイロがこの世界に来た時に乗っていた白い天使の羽のようなものを生やしたロボット(彼はゼロと呼んでいたっけ?)の事について聞いてみた。
「ウィングゼロの事か……あれは俺のガンダムだ」
「“がんだむ”? 何それ?」
「只の兵器だ……」
「ヒイロがそれに乗っていたって事は、ヒイロはやっぱり軍人だったの? その年齢で?」
「軍人ではないな……いうなればテロリストだった」
「テロリスト……」
まずい事聞いちゃったかな? と思って私は自分の口を手で塞ぐ、しかしヒイロはそんなことを気にする素振りもせずに話を続ける。
「といっても過去の話だ、俺の世界の戦争はもう一年も前に終わっている、だから俺はゼロを捨てに太陽に向かっていたんだ、そしたらこの世界に来てしまって……」
「あのロボットを捨てに? どうして?」
「強すぎる力はまた新たな争いを呼ぶ……前に反乱を起こした男も兵器の力に囚われていた、平和になった世にガンダムは必要ないんだ」
「平和な世界に……兵器はいらない……」
私はふと、ヒイロの言うガンダムという兵器と、自分を含めたエンジェロイド達を重ね合わせてみる。

考えてみれば……私達もまたガンダムのように争いを巻き起こす存在なんだろうな。
いつも私達中心に争いごとが起こっている、智樹達人間にとってはやっぱり、エンジェロイドは脅威でしかないんだろうか……。

するとヒイロは私の様子に気付いたのか、再び話を始めた。
「俺は……エンジェロイドというものはよくわからないが、少なくともお前達は俺の世界の人間達のような間違いは起こさないだろう、もし不要だと思うのなら力を捨てればいい」
「……力を捨てるねえ、私はバカだから解らないよ」
でも何となく、ヒイロの言葉には重みと説得力があって私の心に何かが響いていた。



それから数十分後、かくれんぼ大会の終了を告げるホイッスルが鳴り響いた……。



「というわけで優勝はアストレアちゃんとヒイロ君よ~」
大会終了後、師匠はマイクで私達優勝者の名前を読みあげた。ちなみに後ろにある罰ゲーム用の五つの箱からは……
「ぎゃあああ! なんだこの触手はあああ!!?」
「ひいいい! そこだけはあああ!!」
「だ! ダメ! そんな所に入っちゃ! ひええええ!!」
「やめてくれ! なんだその赤いサングラス……ぐわああああ!!!」
「トモちゃん助けて~!」
「成程、この箱はこんな事になっていたのか……」
箱に入れられたままの人達の悲鳴が聞こえてくる。よく聞くといつの間にか捕まっていたそはらさんや守形の声も聞こえてくる。
そして私の隣には先ほどまで箱に入れられていたニンフ先輩が仮面に陣羽織といった格好で仁王立ちにていた。
「あの……ニンフ先輩?」
「私はニンフではない! ミス・エンジェルと呼べ!」
一体あの箱の中で何が……!!?
「そう言えば智樹がいないが?」
「様子を見に行ったら肉塊に変わっていたわ~」
そはらさんの仕業か……あいつ今度は何をやらかしたの?
「そう言えばイカロス先輩は参加しなかったんですか?」
「参加していました……鬼役で」
そう言ってイカロス先輩は妙に精巧に出来ている鬼の面を付ける。
「私が頼んだの~、イカロスちゃん名演技だったわ~」
「いやー、マジで怖かったですよアレ……」
そして師匠は今回の総まとめに入る。
「さて、大きなイベントは終わったけどお祭りはまだまだこれから、それじゃもうちょっと出店で遊びましょうか」
「そーですね! ヒイロ君行こう!」
「……了解した」
ヒイロはそはらさんにせがまれて祭りの会場に向かい、その後を守形、師匠、そしてイカロス先輩とニンフ先輩も付いて行く。
もちろん私も行きます! 祭りはまだまだこれからだからね!










SIDE:ダイダロス
ここはシナプスにある私の隠れ家……そこで私はトモくん達の様子をモニターで見ていた。
「数日前感知した異様なエネルギー反応……あの子のだったの」
私はモニターに映るヒイロ・ユイという少年を見て、隣にあった端末を操作する、するとある人型起動兵器のの設計図が映っているモニターが出現する。
「XXXG-00W0……? でもあの子が乗っていたのはデザインが違う、後継機? それとも何らかの要素が絡まってああなったのかしら……?」

そして私は、ヒイロ・ユイと一緒にいるトモくんの大切な人達やイカロスらエンジェロイド達の顔を見て、気持ちが沈んでいくのを感じていた。
(どうしてこの世界にガンダムが……やっぱりこの世界も存続させていく価値が無いと判断されたの……?)

そして私はモニターを切りベッドで横になる、私はこれからどんな夢を見るのだろう?全てが無に還ってしまう悪夢かそうじゃないのか、そんな事を考えながら……。










今回はここまで、作中ヒイロが言っていた反乱とはボンボン増刊でときた先生が連載していたエンドレスワルツの前日譚、“新機動戦記ガンダムW BATTLEFIELD OF PACIFIST”に出てきたP3 という組織の事を指しています。何故ヒイロ達がEW冒頭でガンダムを捨てようとしていたのか、五飛が何故マリーメイア軍に入ったのかという理由が明かされるので、見たこと無い人は是非古本屋さんでチェック!

今回はアストレア編、毎回エンジェロイドのうち誰かとヒイロを主軸にして物語を描く方法を取る予定です。
次回はニンフと映画で大活躍するあの子が主役ですのでお楽しみに。



[28144] 第三話「農業!!」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/11 22:35
 第三話「農業!!」


SIDE:ニンフ
ヒイロが来てから一週間ほど経ったある日、私は居間で昼ドラを見ていた。すると智樹が……。
「ニンフー、俺ちょっと出かけてくるからー」
「解ったー」
と言って出掛けて行った、次に……。
「夕飯の買い物に行ってきます」
「はいはい行ってらっしゃい」
アルファが出かけて行った。
(そう言えばデルタは守形の所だっけ……)
そんな事を考えながら私は昼ドラを見続ける、そして一時間後……。
「んー……! 面白かった、さて……夕飯まで時間があるわね」
ドラマが終わり私は立ちあがろうとする、すると私の視界にちゃぶ台にじっと座っているヒイロの姿が映る。
「うわっ!? アンタいたの!?」
「ああ」
ったく……何も言わないからびっくりしちゃったじゃない! それにしてもこいつと二人きりになるのって初めてね……最近デルタはこいつの事気にいっているみたいだし、ちょっとこいつの住んでいる世界っていうのに興味があるわね、そこで私はある提案をヒイロに出した。
「ねえヒイロ、夕飯までまだ時間があるし、私と一緒に散歩に行かない?」
「……? 構わないが」


それから数分後、私とヒイロは空美町の田園地帯をのんびりと歩いていた。
「へえ、アンタの世界って宇宙に人が住んでいるんだ」
「ああ、俺はそこの出身だ……ゼロもコロニーで作られたものだ」
「ふうん、シナプスと比べると技術で劣っている面もあれば、優れている面もあるのね」
ヒイロの世界の人間は空より高い場所へ行く事に情熱を燃やしているらしい、こういうの智樹がよく言っているロマンってやつなのかしら? あの男のいるシナプスには永遠に縁のなさそうな言葉よね……。
それにしてもコイツ、こっちの質問に答えるだけで自分からは全然話し掛けないのね……なんていうか感情がアルファみたいに抑制されているって感じ、立ち振る舞いから見てやっぱり軍人か何かだったのかしら?
「ヒイロは向こうの世界で何をしていたの? 軍人?」
「……コロニーの独立の為に地球軍と戦っていた」
「独立……?」
ヒイロが言うには彼の故郷のコロニーは地球統一連合によって支配されていた、一時期コロニーのある指導者が両者の関係を調停しようとしたが地球軍によって暗殺され失敗、そしてコロニーは自分達の反抗の意志を示す為、子供の頃から兵士として訓練し続けていたヒイロが地球に送り込まれ、地球軍の中心である特殊部隊のOZを破壊し続けたのだという。
「なんかすっごいスケールの大きい話ね……ていうか私に話してよかったの?」
「もう戦争は終わった、それにここは俺のいた世界じゃない……話した所で何も問題は無い」
「ふぅん……」


「あ! ニンフさんこんにちはー」
その時、私達は畑で農作業をしていた少女……風音日和に声を掛けられる。
「あらヒヨリじゃない、相変わらず精が出るわねー」
「はい! ところでそこにいる人はもしかして噂の……?」
「ニンフ、彼女は誰だ? それに背中の翼はもしかして……」
ヒイロはヒヨリの背中に生えている白い翼について私に聞いてくる。
「彼女もエンジェロイドよ、ちょっと境遇が特殊だけど……」
「……深くは聞かないほうがよさそうだな」
「ええ、助かるわ」
まさかヒヨリは元は人間で、シナプスの奴らにエンジェロイドに改造されたなんて言わない方がいいわよね、言ったらどんなリアクションするかちょっと気になるけど……。

「今日は茄子の収穫日なんですよー、終わったら皆さんにもおすそ分けしますね」
「どうする? よかったら手伝う?」
「いえいえ。大丈夫ですよー」
そう言ってヒヨリはすぐそこに重ねてあった茄子が入った段ボール箱のうち一つを重そうに持ち上げる、すると……。

――ドテッ!!
「きゃ!?」

思いっきり転んで茄子を地面にぶちまけた。
「もう、何やっているのよ」
「すみませ~ん」
私とヒイロはヒヨリがぶちまけた茄子を拾い集める。
「はあ、しょうがないわね……私達も手伝うわ、まだ沢山やることあるんでしょ?」
「で、でも……」
「ほらヒイロ! アンタも手伝うのよ!」
「了解した」

こうして私達は半ば無理やりにヒヨリの農作業を手伝う事になった。
「じゃあヒイロさんは畑に水をあげてください」
「わかった」
「ああ、そんなにあげちゃだめですよ、根が腐っちゃいます」
「……すまない」

「随分とおいしそうに実っているわね、スーパーで売っているのよりおいしそう」
「えへへ、ありがとうございます」

「……? なんだこいつは?」
「チュ~」
「ちょ! やだネズミじゃない! こっちに持ってこないでよ!」
「うーん……その辺にポイしちゃってください」


そして一時間後、皆でやったおかげで思ったより早く作業が終わった。
「ニンフさん、ヒイロさん、今日はありがとうございます、コレはお礼です」
そう言ってヒヨリは沢山の野菜が入った段ボールをヒイロに渡した。
「いーのいーの、どうせ暇だったし……もし人手が足りなかったらいつでも言って頂戴、トモキ達も連れてくるから」
「ちょうどいい運動になった、感謝する」
「そうですか……それじゃまた学校で」
ヒヨリは私達に一礼してそのまま去って行った。
「もうこんな時間……それじゃ帰ってアルファにこの野菜で何か作ってもらいましょう」
「解った……」

その帰り道、私はヒイロが隣でヒヨリからもらった野菜をじっと見つめている事に気付く。
「どうしたのヒイロ? 野菜なんかじっと見つめちゃって? アルファじゃあるまいし……」
「いや、さっきの事を考えていた、農作業とは難しいんだな……」
「んー……まあね、ヒヨリはアレを毎日朝から夜までやっているからスゴイわよね」
「俺は……これまで兵士として沢山の命を奪ってきた」
ヒイロが急に重い話を始めて、私はとりあえず口を閉じる。
「俺が引き金を引くだけで沢山の人間が死んでいった、しかしさっきの農作業はそれよりも難しく、手間がすごくかかった、しかし……」
多分だけど……ヒイロは一生懸命野菜の世話をしているヒヨリの顔を思い出していた。
「働いている時の日和の顔はとてもきれいだった、俺達には出来ない表情だ……」
そしてヒイロは段ボールの中にある野菜を一つ取る。
「俺は平和だなんだと言っておきながら、大きな過ちを犯しておきながら……命の尊さを解っていなかったのかもしれない」
「そう……よかったわね、解ることができて」
「ああ、勉強になった」


命の尊さか……私もトモキ達と出会わなければ解らないままだったと思う、きっとヒイロもこの町に来て私のように変わってきているのね……。


そして私達は自分達の家に帰る為茜色に染まる田圃道を歩いて行った……。





SIDE:日和
ニンフさんとヒイロさんと別れた後、私は農具を持って帰宅の路についていた。
「今日は楽しかったな……ヒイロさんか、これからもっとお話できるかな?」
そんな事を考えて歩いていると、私の前方から金髪でサングラスを掛けている外国人っぽい男の人が歩いて来ることに気付く。
(観光の人かな? あ、この羽見たらびっくりしちゃうかな?)
そしてその人とすれ違いそうになった時、彼は急に立ち止まり私に話しかけてきた。
「ふむ……君の羽は美しいな」
「は、はい?」
まさか褒められるとは思わず、私も足を止めて彼の方を向いた。
「あ、あの……この羽を見て驚かないんですか?」
「ははは、君の羽は百本のバラに勝るほどエレガントで美しい、それ以外の感想は無いよ」
「は、はあ……」
なんだかこの人変わっているなあ……そんな事を考えているうちに、その人は何処かに去って行った……。






SIDE:???
シナプスにある王座の間……そこでシナプスの中心的存在である空のマスター(本当の名前は明かされていない)は、とある人物と話をしていた。
「君が持ってきたあのトレーズとかいう男……少々クセが強すぎるな、まさか地上に降りて視察とは」
「いやあすみません、予想以上に行動力があるようで……ですが実力は折り紙つきですよ」
空のマスターと話しているのは黒い長髪を後頭部でゴムで纏めた、軽薄そうな16歳ぐらいの少年だった。
「ふふん、まあいい……君の持ってきたMSの調整はまだかかる、先にセイレーンを出撃させるぞ」
「ははっ、では僕はこれで……」
(無駄だと思うんだけどなあ……先に深海に沈めたあの粗大ゴミをなんとかしろよ、ていうか調整っつったって勝手に解析しているだけだろうが)
そう言って少年は王座の間から去って行った。

「マスター……」
するとその直後、空のマスターの元に彼のエンジェロイド……ハーピー1とハーピー2がやってきた。
「どうしたお前達?」
「マスター……あの者達は何者なんですか? 急に現れて……」
「あんな人間を持ってきて『エンジェロイドに改造してくれ』だなんて……しかもあいつの持ってきたロボットは……!」
「黙れ」
質問ばかりしてくるエンジェロイド達を、空のマスターは一言で黙らせた。
「ふん……心配せずとも無力な人間に我々を出し抜く事などできんさ、お前達は黙って私の言う事を聞けばいいのだ」
「「はっ……」」
そしてエンジェロイド達はそのままどこかに去って行った。


「ふん……“黒歴史の再現者”、か」
空のマスターはそう言って地上にいるヒイロが映っているモニターをじっと眺めていた……。










「ったくなんだあの男、ウザさが全身から滲み出てやがる、典型的な国をダメにする支配者だなありゃ」
一方、空のマスターから分かれた少年は、廊下を歩きながらぶちぶちと悪口を言っていた。

「ヒテン様」
するとそこに銀色のショートヘアで金色の瞳の、少年と同い年ぐらいの美少女が現れた。
「ハルカ~! もう会いたかったよ! んちゅー!」
少年……ヒテンはハルカと呼んだ少女を見るや否や、彼女を抱きよせて思いっきり唇を重ねた。
「んむ……ちゅ……ヒテン様……」
「ああ、可愛いなあハルカは! 世界で二番目にだけど!」
ヒテンは次にハルカの脇腹を撫で始め、彼女は思わず艶やかな声を漏らす。
「んんっ! ひ、ヒテン様……二番目でも私は嬉しいです、貴方に愛されているのですから……」
「ああ……そんな所も可愛いなあ! 流石僕の切り札! その調子であの子達との戦いのときは頼むよ!」
「はい、すべては貴方の為に……あんっ!」
するとハルカは感情が高ぶったのか、背中から黒い羽の翼をバサッと広げた。一方ヒテンは彼女と再び唇を重ねた、しかしその瞳はハルカの方向を向いていなかった。
(ああ、こいつもいいけど早く抱きたいなあ……イカロス、もう滅茶苦茶にしてあげたい……! そしてヒイロ・ユイ、君を倒して僕は勝利者になる……!)










今回はここまで、次回は原作第45話に沿った話になります、メインはイカロスです。



※補足説明:オリキャラについて
今回出したヒテンとハルカのネーミングはは宇宙科学研究所が打ち上げた小惑星探査機のMUSESシリーズの1番目と2番目の工学実験機である“ひてん”と“はるか”が由来になっています。(3番目は去年話題になった“はやぶさ”)
イカロスのネーミングの由来が人工衛星なのでこの二人もそれにならっています。



[28144] 第四話「自由!!(AFM版)」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/14 21:24
 第四話「自由!!(AFM版)」


SIDE:智樹
ある日俺は家にいたイカロスにこう言った。
「……笑いなさい!」
「……(ニヤリッ!)」※カッコの中は効果音です。
「……」
「……(ニヤリッ……?)」
とりあえず俺はハリセンでイカロスの頭を叩いた。

数分後、俺は自分の部屋で考え事をしていた。
「う~ん、にしても笑えるようにならねえなぁイカロス……ニンフやアストレアは笑えるのになぁ……なんでかなー?」

「どうした智樹、ため息なんてついて?」
するとそこにヒイロが俺の様子を見にやってきた。
「……そう言えばお前も笑わないよな」
「何の話だ?」
「ヒイロもイカロスも全然笑わないなーって……お前笑った事あるの?」
「笑った事? あるぞ」
ほう、意外な答えが返ってきた。
「へえ、どんな時に笑うんだ?」
「アレは任務で地球に降りた時……OZのMS部隊と遭遇してな、バスターライフル一発で全滅させた時は笑いが止まらなかった」
「まてよ……!? もしかしてこのインプリンティングが問題なんじゃ……!?」
俺はヒイロの話を聞かなかったことにして、イカロスが笑わないのは彼女が俺をマスターとして認識する証である、鎖の形をしたインプリンティングが問題なのではないかという結論に達し、早速庭で掃除をしているイカロスの元に赴く。
「おーいイカロスぅ~♪」
「マスター? いかがいたしました?」
「インプリンティング解いてくれ!」
「……!!!? え……?」

イカロスは目を見開いて驚いたような素振りを見せるが、マスターである俺の命令に逆らうことなく、インプリンティングを解いた。


それから数分後、俺は居間に集まったニンフやアストレア、そはらや先輩達、そしてヒイロにイカロスが自由になった事を伝えた。
「……え? イカロスちゃんのインプリンティングを解いた……?」
ヒイロを除く皆が驚いた様子で俺の方を見てくる。対して俺は満面の笑みで答えた。
「そーなんですよ! こいつ笑えないでしょ!? 鎖を切って自由になれば笑えるようになると思いましてネ!」
「「……」」
ニンフとそはらが何やら不安そうに顔を合わせる。するとイカロスが声を掛けてきた。
「あの、マスター……」
「コラ!! 違うだろ!? もうマスターじゃなくて『ともき』だ! ホラ!! 呼んでみ!?」
「……! ……」
するとイカロスは何も言わず、悲しそうな顔をして俯いてしまう、そして……。
「ご飯……作ってきます……」
「オ!! イイネご飯~♪」
あいつ照れてんのか? まったく可愛いところあるじゃないか~と思っていた所に、アストレアがズイッと近づいてきて……。
「バーカ!!」
いきなりバカと言い放ち、プイッとそっぽを向いてしまう。
「な……なんだイキナリ!?」
俺は何が何だか分からずうろたえていると……
「バカ……」
ニンフが、
「バカだな……」
守形先輩が、
「バカね~」
会長が、ていうかヒイロを除くみんなが一斉に俺にバカと言ってきた。
「皆まで!? 俺はなっっ!! イカロスに笑ってもらおうと――」
「お待たせしました……ごはんです……」
俺が皆に怒鳴ろうとした時、イカロスがごはんを持って戻ってきた、が……。

――ドザザザザザザ!!
「ギャーッ!?」

雪崩かと思うほどの量の料理に、俺はその中に埋まってしまう。
(な、なんだ~!?)
俺はイカロスの行動が理解できずに怒鳴り散らす。
「おいコライカロス!! お前ナニやって――」
「……ご命令ですか?」
「……は?」
するとイカロスは小声で何か言うので、俺は聞き返した。
「御命令でしたらやめます……御命令ですか?」
こいつ、まだ俺の事をマスターと思っているのか!?
「バッ……命令じゃねえよ!! お前はもう自由なんだからな!」
俺はイカロスが悲しい顔をしている事に気付かず彼女を叱り続ける、すると一部始終を見ていた会長が会話に割って入ってきた。
「ねぇ……桜井くん、そんなこと言わないでもう一回マスターになってあげたら?」
はあ!? 何言ってんだこの人は!? 俺はイカロスにニンフとアストレアのように笑ってもらいたくてインプリンティングを解いたのに、それじゃ意味ないだろうが!?
「は!? なりませんよ! 言ったでしょ!? 鎖を切って自由になればイカロスが笑えるようになるかもって!!」
「そう、仕方ないわね……」
すると会長は紅茶を一口すすり、ある提案を持ちかけてきた。


「じゃあ会長がイカロスちゃんのマスターになるわ~♪」


は……? 何言ってんのこの人? 思わず思考が一時停止してしまったじゃねえか……。
「でね! 最初の命令なんだけど~♪」
そして会長はそんな俺に目もくれずイカロスに命令を下す。


「桜井くんを……どこか深い海にでも捨ててきてくれるかしら~♪」


……何言ってんのこの人? 普段から何考えているか解らない人だったけど……。
「ちょっとソレは予想外でしたナ~……でもいくらイカロスが非常識でもそんな命令――」
「了解」
「え゛ぇ゛え゛え゛え゛ぇ゛え゛!?」
するとイカロスはあろうことか翼を全開放し、俺の首根っこをがっちりつかんで持ち上げてきたのだ!
「ちょっ……正気かイカロス!? 待て!! 待てぇええええ!!」
イカロスは俺を掴んだまま天井を突き破って大空へ勢いよく飛び立っていった……。
「ギャアアアアア……!」





SIDE:ヒイロ
イカロスと智樹が飛び立った後を、守形と美香子はのんびりと眺めていた。
「……やりすぎではないのか……? 美香子……」
「いいのよ、好きな人には縛られたい、そんな女の子もいるってことさえ分からないようなおバカさんはね……」
するとそはらが慌てた様子で美香子に問いかける。
「でっ……でもどうするんですか!? もし本当にイカロスさんがトモちゃんを捨ててきたら――」
「だから、それが狙いなんじゃない」
「え……?」
そはらの言葉を美香子は遮り説明を続ける。
「ホラ、イカロスちゃん普段自分の気持ちをはっきり出せない子でしょ……? それこそ“桜井くんの命の危機”にでもならないかぎりは……ね」
「……そうですね」
そう言ってそはらはニンフとアストレアと顔を合わせ納得したように頷いた。


「……よくわからんな、何故お前達はあんなことをしたのだ?」
そして俺はそんな美香子やイカロスの行動が理解できず、思わず自分の意見を出した。
「「「「「は?」」」」」
案の定、その場にいた全員に不思議そうな顔をされた。
「イカロスを自由にするのは別にいいことじゃないのか? なのに何故お前達は智樹を責める?」
「いや、それは……」
「ふーん、なるほどねー、あんたってコロニーの自由ってやつの為に戦っていたから、アルファや私達の行動を理解できないのね」
「ああ成程……」
俺の過去をある程度知っているニンフとアストレアは俺の意見を理解したようだ。
「でも……誰もが自由を欲しがっているわけじゃないのよ? 中にはアルファみたいな子だっているんだから、強制は良くないと思う」
「……理解できん」
本当にそんな奴がいるのか? 少なくとも俺は今までイカロス以外にそんな奴と出会った事がない、自由の為に戦う奴ばかりだったから……彼女が特別なんじゃないのか?
「ふうん……どうやらヒイロ君は納得出来てないみたいね」
すると美香子が俺の考えている事を読んである提案をしてくる。
「ちょうどいいわ……ならヒイロ君、二人の様子を見に行きなさい、あのロボットは動くんでしょ?」
「一応修理しておいてあるわ」
「なら問題ないわね~」


数分後、俺はゼロを起動させ、そのまま海上の上を飛んでいた。
「イカロスと智樹が飛んで行った方角は……合っているな」
するとモニターにイカロスと彼女に掴まれてじたばたしている智樹の姿が映る。
「いかん……本気で捨てるつもりか!?」
そしてイカロスはそのまま智樹を海面に向かって投げ捨てた、俺はすぐさま助けようとゼロを加速させようとする、しかし……。


―――ギュンッ!


ぶつかる寸前にイカロスが智樹を掴んだ。そしてしばらくしてまた投げ捨てようとするが、動きを止めてしまう。
「一体何をしているんだあいつは……?」
俺は集音マイクを使ってイカロスと智樹の会話を聞きとろうとする、すると、

『マスターのバカ!!』

普段のイカロスからは聞けないような、涙をこらえ振りしぼるような声がコックピットに響き渡った。
(イカロス……?)
よく見ると、イカロスはギュッと目を瞑りながら泣いていた。
『イカロス……?』
『バカ!! バカバカバカ!! ……わから……ない……』
智樹は普段と違って感情を露わにするイカロスに驚いた様子で彼女の話を聞いていた。
『私……自由なんて……わから……ない……』
「……」
『自由なんていらない……! 私はマスターのおそばにいるだけで……!』
イカロスはそのまま、智樹をギュっと抱きしめる。
『捨てないで……お願いです……捨て……ないで……!』
智樹にそんなつもりが無いのは俺にだってわかる、しかしイカロスにとって智樹は……。
『捨てないで……私の……マイ……マスター…………うぇええん……うぇええん……うえぇええん……!』
そしてイカロスは大声で泣き出してしまった、対して智樹は何も言わず、目から一粒の涙を流しながらイカロスとインプリンティングで繋がり、彼女のマスターになった。


「……確かに俺もバカかもな」
そんな二人の様子を見て、俺は美香子達の言っていた言葉をようやく理解した。

自由になるのが幸せという訳じゃない、自由じゃなくてもずっと大切な人の傍にいられるならそれでいい……自由になって一人ぼっちになって寂しい思いをしたくない、そんな考えを持つ奴がいるんだということを……。





SIDE:イカロス
その日の夜、私は裏山に隠してあるウィングゼロを見上げているヒイロさんの元に赴く、彼に少し聞いてみたい事があったから……。
「ヒイロさん」
「イカロスか……どうした?」
「先程は迎えに来てくれてありがとうございます、それと貴方に相談したいことがあるんです、ニンフやアストレア……そはらさんには出来ない事なんです」
「……」
ヒイロさんは何も言わず、腕を組んでウィングゼロに凭れ掛った。


「ヒイロさんは……誰かに特別な感情を持った事がありますか?」


「……特別な感情だと?」
「私は……マスターと一緒にいると、胸の奥が暖かくなる気がします、そしてマスターが……誰か違う女の人と仲良くしていると……胸が締め付けられるように苦しくなります、ヒイロさんはそんな気持ちになった事がありますか?」
自分でもどうしてヒイロさんにこんな質問をしたのか判らなかった、でも彼から返ってきた返事は想定していたものとは違っていた。
「……あるぞ」
「……貴方をそんな気持ちにさせるなんて、どんな人なんですか?」
「彼女は……初めてあった時は任務の妨げになるから殺そうとした、しかし出会いを重ね、彼女の事をドンドン知って行くうちに……殺そうなんて思わなくなった、むしろ彼女がこの先どのように生きて、自分の理想を実現していくのか見たくなった、多分……お前が智樹に抱いている感情と同じなのだろう」
「……」
私はマスターへの思いを指摘自分の顔が熱くなっていくのを感じる、ヒイロさんにそこまで想われる人ってどんな人なんだろう……。
「俺にもこういう感情はよくわからない、カトルなら何か判るかもしれないが……」
「そうですか……」
そしてその場から去ろうとした時、私はヒイロさんに呼び止められた。
「イカロス、ひとつ言っておきたい事がある」
「なんですか?」
「お前は……少し笑う練習をした方がいい、その方が智樹も喜ぶだろう」
「マスターが……喜ぶ……」
マスターが喜んでくれるのなら、頑張ってみようかな……そんな事を考えながら、私はヒイロさんと共にマスターのいる我が家へ帰った……。










SIDE:???
つい先ほどまでイカロス達がいた海上、そこから修道服姿の幼い少女が浮上してきた。
「クスッ……たくさん……愛をあげるの……」
少女は血なまぐさい香りを纏いながら……天に向かって声高らかに笑った。

「たくさんたくさん……あははははははははははははは!!」





「ふうん、目覚めたんだあのカオスってエンジェロイド」
その様子をヒテンとハルカはモニターで観察していた。
「セイレーンは吸収されたようです……どうしますか?」
「うーん……シナプスはアレを廃棄処分にしようとしているつもりだが……もうちょっと見てみよう、きっと面白いものが見られるかもな」
「わかりました……仰せのままに」
そして二人は何もせずにモニターを切って何処かに去っていった……。










今回はここまで、セイレーンは一行も出番が無く退場、ごめんね(笑)
次回は原作46話の話をやります、ただし智樹の役はヒイロにやってもらいます。
2011年6月現在は漫画版カオスがまだこれからどうなるか解りませんが、少なくともここではこの作品独自の未来を用意してあります、その辺もお楽しみに。



[28144] 第五話「愛情!!(AFM版)」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/16 22:08
 第五話「愛情!!(AFM版)」


SIDE:ヒイロ
その日、俺は特にやることがないので空美町の中をブラブラと散歩していた。
「この世界に来てもう大分経つな……」
ふと、俺は住んでいた元の世界にいる仲間達や彼女の事を思い出す、あいつらは今頃どうしているのだろうか……まあ俺が心配しなくてもなんとかやって行けるだろうから問題はないだろうが。
そんな事を考えながら歩いているうちに、俺は近くの公園にやってくる、そして……そこで隅の方でしゃがみこみながら何かをしている修道服を着た少女を発見する。
(……? 何をしているんだ?)
そう思って近づくと、少女の方が俺に気付き振りむいてきた。
「……おにいちゃん知ってる……? 痛いのが愛なんだって……」
「? なんだ急に……」
その時俺は初めて、少女の手に子猫が握られている事に気付き、少女の物凄い握力によって猫が苦しんでいる事に気付いた。
「おにいちゃんにも愛をあげる……」

――ミシッ! ミシミシッ!
「ニャ……! ニャアアア!!」

「クスクス……ネコさん痛い……? 痛い……!?」
俺は少女から発せられる殺気ににも似た異様な雰囲気に圧されてしまう。
「私愛をあげているの……ホラ、これが愛なんだよ……?」

――ミシィッ!
「ニャアアア!!」

「大丈夫だよ、おにいちゃんにもすぐに愛をあげるから……クスクスクス」
ネコは締められすぎて次第にぐったりとしていく。
「痛いのたくさん……愛をたくさん……!! 愛を……愛を……愛を!! 愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を!!!」

「やめろ!!」
ふと俺は正気に戻り、少女からネコを取り上げた。
「おにいちゃん……?」
「やめろ! こいつが苦しんでいるだろう!」
少女は不思議そうな顔で俺を見てくる。
「どうして? 私はネコさんに愛を……痛いのが愛なんだよ!」
「違う、痛いと……死ぬぞ」
「え?」
俺の言葉に少女は首を傾げる。
「死ぬほど痛いのは辛いぞ……俺も何回か死にかけて痛い目にあったが、全然愛なんて感じなかった」
「そうなの……?」
「ああ」
「じゃあ……愛ってなぁに?」
「ん?」
少女の質問に俺はすぐに答える事が出来なかった。
「俺にも判らん」
「じゃあやっぱり痛いのが愛なのね!!?」
「違う」
「えっ? じゃあ愛ってなぁに?」
「俺には判らない……」
「じゃあ痛いのが愛なんだ!」
「だから違う」
話が堂々巡りになってきた、その時俺はふと……少女から取り上げたネコが弱っているのを感じた。
「いかんな……コイツ死ぬぞ」
「え? そうなの?」
「この辺に医者はいないのか……」
そう言って俺は辺りを見回す、すると俺達の元に長い白髪の中性的な顔をした物腰の柔らかそうな青年が近づいてきた。
「どうかしましたか? 大声が聞こえてきたのですが……」
「この辺に医者はいるか? コイツがどうやら弱っているらしいんだ」
「どれどれ……」
その青年は俺からネコを受け取ると、触診して容体を調べた。
「ふむ……ちょっと骨が何本か折れていますね、可哀そうに……」
「私がね! 愛をあげたの!」
すると青年は厳しい口調で少女を叱った。
「コラ、この子が可哀そうじゃないですか、このままでは死んでしまいますよ」
「死ぬ……? 愛をあげたのに?」
「コレは愛じゃありません、只の暴力です、メッ」
そう言って青年は少女にデコピンする。
「痛い……これは愛じゃないの?」
「コレは貴女の間違いを正す為の愛、貴女の先ほどの行動とはまったく別物です、むやみに傷つけるのは愛ではありませんよ」
そして青年は弱ったネコを優しく抱いた、すると彼の手から優しい光が放たれ、ネコはみるみるうちに元気になっていった。
「……! これは……」
「はい、もう悪い子に捕まってはダメですよ」
「ニャー♪」
青年は元気になったネコを逃がし、再び俺達に向き合う。
「さて……では私はこれで」
「まて、お前は何者だ? さっきの力は……」
俺は先ほどの青年の不思議な力を見て何か怪しいと思い、彼を呼びとめる。
「私は只の通りすがりの魔法使いですよ、マイマスター」
「マイマスター?」
「ふふふ、これ以上は内緒です、では……」
そして青年はそのまま俺達の元から去って行った……。

「なんだったんだ奴は……?」
「ねえねえお兄ちゃん」
俺が不思議がっていると、少女は俺のタンクトップを引っ張って話しかけてきた。
「なんだ?」
「結局愛って何なの?」
「……俺にも判らん?」
「そう……」
すると少女は少し落ち込んだ様子で俯いてしまう。
「すまないな、力になれなくて……ん?」
その時俺はふと、少女の足元を見て彼女が素足である事に気付く。
「お前靴がないのか、仕方ない……」
俺はしゃがみこみ、少女に俺におぶさるように促す。
「おにいちゃん?」
「智樹かそはらの家で靴がないか探そう、じゃないと足を怪我するぞ」
「……うん」
少女はしばらく考えてから言うことを理解し、俺の背中におぶさった。
「それじゃ行くか」
「うん(あ、おにいちゃんの背中……暖かい……)
そして俺は少女を背負ったまま智樹の家に向かった……。



SIDE:日和
その日、私は畑で採れた野菜をおすそ分けしようと桜井くんの家に向かっていた、するとその途中で修道服を着た女の子を背負ったヒイロさんとはち合わせた。
「あ、ヒイロさんこんにちはー、その子は?」
「日和か……ついさっき公園で拾った、靴を持っていないようだから智樹の家で何か無いか探しに行くところだ」
「成程―……あれ?」
ふと私はヒイロさんが背負っている少女を見てある事に気付く。
「もしかして貴女……エンジェロイド?」
「そうよ、貴女もお仲間だよね?」
「ん? そうだったのか」
「知らないで連れてきたんですか?」
「異様な雰囲気を纏っていたが……成程」


そして数分後、私達はヒイロさんと一緒に桜井くんの家にやってきた。
「ただいま」
「おかえりなさいヒイロさん……日和さんも」
すると玄関でイカロスさんが出迎えてくれた。
「……? その背中の子は?」
案の定、イカロスさんはヒイロさんの背中にいる少女について聞いて来る。
「公園でちょっとな……何か使ってない靴はあるか?」
「あ、アストレアねえさまだ、こんにちはー」
「!!!?」
イカロスさんは少女の顔を見るや否や一瞬で戦闘態勢に入り、全武装の標準を少女に定めた。
「イカロス? 何をしている?」
「イカロスさん!?」
「その子から離れてくださ! その子は……!」
「な、何の騒ぎですか~!?」
「ちょっとどうしたのよアルファ……ってイプシロン!!?」
すると後から来たアストレアさんとニンフさんもすぐさま戦闘態勢に入った。
「どうしたんですかみなさん!? この子が一体何を……!?」
「ヒイロ! そいつから早く離れて!」
「こいつは危険なんですよ!」
「おい、事情が良くわからないんだが……誰か説明してくれ」

「俺が説明しよう」
すると今度は私達の後ろから、学校帰りの守形先輩、そして桜井くんと月見さんが現れた。
「守形……お前、この子の事を知っているのか?」
「ああ、この子はカオス……シナプスの命令でイカロス達に襲いかかってきたエンジェロイドだ」
「コイツ! トモキに変装して私を騙して……! 絶対に許さない!」
「イカロス先輩が海に沈めた筈なのに! 今度はどんな命令を受けて……!」
「落ち着けお前ら」
一触即発の空気の中、ヒイロさんが一言で皆をなだめた。
「この子は靴を貸す為に俺が連れてきただけだ、何の企みもないと言っていいだろう」
「でもその子は……!」
いまだに警戒を解かないイカロスに、ヒイロさんはある提案を出してくる。
「もし彼女がお前達に危害を加えようとするのなら俺が責任を持って戦う、だから少し落ち着け」
「そうだぞお前ら! 第一ここで暴れてまた家をぶっ飛ばす気か!!?」
「「「う……」」」
桜井くんの一言が決め手になって、イカロスさん達は武装を解いた。
「さて、じゃあ靴だったか? いいの無いか探してくるからそれまで風呂にでも入って待ってろ、なんか潮くさいぞお前」
「それじゃ私、うちに昔使っていたのが無いか探してくるよ!」
そう言って月見さんは隣の自分の家に向かった。
「はいはーい、じゃあ会長がカオスちゃんをお風呂に入れてあげるわ~、英君も一緒にどう?」
「美香子……いたのか」
「……では折角ですし日和さん、お茶でもお出ししますね」
「あ、はい……ありがとうございます」
とりあえず私はイカロスさんのお誘いに従い、桜井くんの家にお呼ばれすることとなった……。



SIDE:美香子
数十分後、私は桜井くんの家の家でカオスちゃんと一緒にお風呂に入っていた。
「カオスちゃんよく見ると一杯汚れているわね~、私が洗ってあげるわ~」
「うん!」
そう言ってカオスちゃんはお風呂の椅子に座る私の膝に座り、大人しく髪を洗われていた。
(よく見ると汚れだけじゃなく、傷とかも沢山ついているわね……)
彼女の体には、恐らくイカロスちゃんやアストレアちゃんとの戦いでついたであろう傷が所々に出来ていた。いくら仕方なかったとはいえちょっと可哀そうね……。
「カオスちゃん……マスターさんはお元気?」
「ますたー? 最近全然会ってないの、今頃どうしているのかなー」
成程、ヒイロ君を信用して正解だったようね。イカロスちゃんは海に沈めたって言っていたけど自力で浮かび上がってきたのかしら? エンジェロイドは泳げないって言っていたけど……。

「……」
その時私はふと、カオスちゃんが何もしゃべらず俯いている事に気付き、試しに話しかけてみる。
「どうしたのカオスちゃん~? 悩みごと?」
「……やっぱり怒っているのかな? おねえさま達……」
どうやらこの子は自分が傷つけたイカロスちゃん達の事を気にしているようだった。
「さっきおにいさんに叱られた時、おでこをデコピンされたの、その痛さを思い出すと……なんだか自分のやってきた事が悪い事だったように思えてモヤモヤするの……」
ふうん、誰だか知らないけどこの子を改心させるなんて中々出来る人のようね……。
「そうね……じゃあカオスちゃんにそのモヤモヤを解消する魔法を教えてあげる」
「魔法? なになに?」
「それはね……」


SIDE:英四郎
美香子がカオスを風呂に入れている間、俺は智樹達と共にカオスの事について話し合っていた。
「俺……直接は会った事なかったけど、あのカオスって子相当強いんですね、イカロス達が圧されるぐらい……」
「俺はイカロス達が戦っている所は見たことないが、すごいのか?」
「ああ、下手をすれば街ひとつが吹き飛ぶほどだな」
「ふむ……」
イカロス達の戦闘力の話を聞いてヒイロは何やら考え込んでいる、どうやらあのガンダムとかいう兵器でイカロス達に勝てるのかどうかシミュレーションをしているのだろう。
「それで……あの子はどうするんだ? すぐにここから追い出すのか?」
「なんだよヒイロ、やけにあの子に御執心だな……もしかしてお前ロリコン?」
「トモちゃん、そんな事言っちゃだめだよ」
「……」
ヒイロは智樹の冗談に反応せず、何やら考え事をしていた、何かあったのだろうか?



SIDE:ヒイロ
(あの時俺が殺してしまった少女も、カオスぐらいの子だったな……)
俺は、かつて任務でOZ軍の基地を爆破した際、関係のない少女とその飼い犬を巻き込んでしまった事を思い出していた。きっと俺はその少女とカオスを重ね合わせているのだろう。
(罪滅ぼしか……そんな事をしても許されるかどうかは分からないがな)



SIDE:英四郎
(MS……ガンダムか……)
俺は考え事をしているヒイロを見ながら、彼が乗っていたウィングゼロカスタムというロボットについて考えていた、彼がこの世界にやってきた理由、初めて遭遇した時のイカロスの反応……アレには気になる事が沢山ある、何かこう……俺達は触れてはいけないものに触れている気がする。
今度何気なくイカロスと……チャンスがあればシナプスにいるダイダロスに聞いてみるか。

「はーい皆~、お待たせ~」
するとそこに風呂から上がってきた美香子とカオスがやってきた。
「おー! きれいさっぱりしたなお前―」
「うん……」
智樹の言葉におぼつかない返事をするカオス、するとそこに別室にいたイカロスとニンフとアストレア、そして日和がやってきた。
「あの……日和さんが持ってきた野菜で野菜炒めを作ってみました」
「おーイイネ野菜炒め~、お前も食べて行くか?」
「……その前に私、おねえさま達に話があるの」
そう言ってカオスは神妙な面持ちのイカロス達の前に立った。
「……何よイプシロン」
(気を付けてください! きっと油断した所にガ~っと襲いかかってくるんですよ!)
「……」
そしてカオスはイカロス達の前で深く頭を下げた。

「その……ひどい事をしてごめんなさい」
「え?」
「へ?」
「え……?」
カオスの予想外の言葉に困惑するイカロス達。
「私がしたことで……おねえさま達が傷ついたって聞いて……悪い事したらごめんなさいって言うのがいいって言われて……」
ほう、美香子の入れ知恵なのか、あいつもたまにはいい事をいうな。
「うふふ、見直した? 私の事見直した英君?」
しつこく言い寄ってくる美香子を放置し、俺はイカロス達の反応を見守る。
「う、うーん……まさか謝られるとは……どうします先輩達? どっちかっていうと先輩達の方がひどい目に遭わされていましたけど……」
「そうねえ……イプシロンのやった事は許せないけど、心の底から反省しているみたいだし……」
「私はマスターに危害を加えないのならそれでいいです」
「おー! えらいゾお前ら! 許す事もまた中々出来ない事だからな! お前ももう悪さすんなよ!」
「うん……」
「よかったねカオスちゃん」
そう言って日和はカオスの頭を優しく撫でた。
「あ……」
日和に頭を撫でられて困惑するカオス、多分初めての体験だったのだろう、その時……一部始終を見ていたそはらがある提案を出してくる。
「ねえねえトモちゃん、折角だしカオスちゃんも引き取っちゃえば?」
「はあ!? 冗談いうなよ! これ以上エンジェロイドを増やしたら何が起こるか……!」
「だがこのままシナプスに戻しても、ニンフや日和みたいにひどい目に遭わされるかもしれないぞ?」
「う……!」
それにシナプスに戻したらカオスは再びイカロス達と戦う事になるかもしれない、それを回避するために彼女はここで保護したほうがいいだろう。
「私達はマスターの指示に従います」
「……はあ、分かりましたよ……この子も俺が保護します、ただし! なんか問題を起こしたら容赦なく追い出すからな!」
「……! うん! ありがとうおにいちゃん!」
カオスは智樹達に受け入れられた事が嬉しかったのか、とてもいい笑顔で笑っていた……。





SIDE:???
数日後、夜の空美町上空、そこに一機のMSが街を見下ろしていた。
「久しぶりだなこの感覚は……そしてあそこにいるのか、ガンダム01……」
『折角シナプスさんが蘇らせてくれたんだ、しっかりと働いてくださいよぉ? “閣下”』
「解っているさ、まあ見ていたまえ」
MSに乗る男はそのまま通信を切り、外の様子を映し出すモニターを見る。するとそこに黒い翼を羽ばたかせたハルカが映っていた。
『まずは私が先制攻撃を掛けます、貴方は万が一向こうのガンダムが出てきた時の対処をお願いします』
「解っているさ……」
そして男はそのMSのブースターをふかし、空美町に急降下する。


「トレーズ・クシュリナーダ……ガンダムアクエリアス! 出る!」










本日はここまで、次回は本格的にヒイロとイカロス達の戦いを描く予定です。
死んだ筈のトレーズが何故生き返ったのか、ヒテンとハルカは何者なのかはこれから明かしていくつもりなのでお楽しみに。



[28144] 第六話「敗北」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/20 21:36
 第六話「敗北」


――時間は、アクエリアスが襲いかかる数時間前に遡る……――

SIDE:イカロス
カオスがマスターの家にやって来てから数日が経っていた。

「あ、ほらカオス、口にケチャップついてるわよ」
「ん……ありがとうニンフお姉さま」
「沢山食べるんですよ~? でないと誰かさんみたいに胸がペッタンコになっちゃいますから~」
「デルタ! 私の事言ってんの?」
「あっれ~? ニンフ先輩なんで怒るんですか~? もしかして自分の胸がペッタンコだってこと自覚しているんですか~?」
「ぐぬぬぬ……! そんなわけないでしょ!」
(ぷっぷー! 怒ってやんの! この前のウィンナーのお返し!)
「おねえさま達楽しそう……」
「喧嘩はダメです」
カオスはすっかり私達になじみ、この家の一員として皆と仲良くしている、やはりマスターの判断は正しかったようだ。
(あの時あのまま追い出していたら、きっと大変な事になっていたかも……それにカオス、とても幸せそう……)
その時、アストレアがある事を思い出し私に質問してくる。
「そう言えば智樹とヒイロどこ行ったんですか? もうお昼だっていうのに……」
「お二人は裏山のウィングゼロの元に行っています、なんでも整備をするとかで……」

「ねえおねえさま、昨日遊んだゲーム楽しかった……また遊びましょう」
「はいはい、まったく……」
妹のような存在が増えてニンフは少し嬉しそうだった。彼女達の間にはもう過去の蟠りは存在していないようだ。そしてアストレアはカオスの良き遊び相手になっている……仲良くしてくれて私も嬉しい。
「じゃあ私、庭のスイカのお世話をしに行きます」
「はーいいってらー」
「よっしゃ! じゃあカオス! 昨日のゲームの続きをするわよ!」
「はい、おねえさま」

こんな穏やかな毎日が永遠に続けばいいのに、そんな事を考えながら私は庭から出た……。



SIDE:智樹
「うひょー! ここがコックピットか! すっげえー! かっけえー!」
その日、俺はヒイロに頼んで裏山に隠してあるウィングゼロのコックピットに乗せてもらっていた。
「あまり周りの機械に触るなよ、誤射でも起こしたら大変な事になるからな」
「解ってるって! ビュンビューン! ドカーン!」
ヒイロの注意を聞き流しながら俺は操縦桿を握りながら発射音を口にする。
「いいなー巨大ロボット! 男が一度は憧れる夢だよなー! ヒイロがうらやましいぜ!」
「そうか」

そして数分後、俺とヒイロはコックピットから降りて下にいた守形先輩の元に集まった。
「いやー、無理言って悪かったなヒイロ! なんか急に乗ってみたくなっちゃってさ!」
「別にいい……もともとコレは太陽に捨てるつもりだったからな」
「争いの火種になるからか……だが万が一の事態に陥った時はどうするんだ? お前の世界にはまだまだ良からぬ考えを持っているのが大勢いるだろう、その時に戦えないとなったら……」
「その時はその時だ……俺達の世界は今兵器の根絶を進めている、戦争の無い世界にする為にな」
守形先輩の問いに迷わず答えるヒイロ、断言したな……それだけ決意は固いってことか。
「もったいねえなあ~、こいつイカロスみたいにきれいな羽持っているのに……」
俺はウィングゼロの背中にある天使のような翼を見てはぁっとため息をつく、その時……。

「おや? おやおや? ここは……どうやら道に迷ったみたいです……」
物腰の柔らかそうなお兄さんが突如草むらから出てきた。
「あん? なんだ兄さん? 迷子?」
「お前は……あの時の?」
「おお! この前のネコの人じゃないですか? 御無沙汰です」
「知っているのかヒイロ?」
「ああ、カオスと出会ったときに色々とな……」
「あの子は元気ですか? いい子にしています?」
「問題ない」
「そうですか~」
な、なんかドンドンと話を進めて行くけど、とりあえず俺はそのお兄さんに話しかけた。
「あの、お兄さん、このロボットの事は……」
「ええ、大切なものなのでしょう? これの事は他言いたしませんので安心してください」
「すまない、話が早くて助かる」
そしてお兄さんは俺の方を向き、さっきまでにこにこしていたのに急に表情を引き締めて話しかけてきた。
「お気を付けて……今夜辺り嵐がきます」
「は? 今夜は雲ひとつ無いって天気予報で……」
「恐らく貴方は今夜……大切なものを失うかもしれません、そうならないよう警戒しておいたほうがいいですよ」
「……?」
俺はお兄さんの言っている事が判らず首を傾げる。大切なものを失う……? 一体何だっていうんだ?
「今は貴方達に協力は出来ない……せめてご武運を祈らせてください、では……」
そう言って去ろうとするお兄さんを、守形先輩は呼び止める。
「待て、お前は一体何者だ? ここに来たのも偶然じゃ……」
「私の名前はウィングです、それでは……マイマスター」
そう言い残してウィングと名乗ったお兄さんは草むらの中に消えて行った……。
「なんだったんだあの人……?」
「ウィング……これと同じ名前か?」
「……」
俺達はこれ以上考えても時間の無駄だと思い、とりあえず家に帰る事にした……。


SIDE:ヒイロ
その日の夜、夕飯を食べ終わった俺は居間で、昼間出会ったウィングと名乗ったあの男の事を考えていた。
(ウィング……何者なんだ? 何故か初めて会った気がしない……)
そんな事を考えていると、カオスが俺の膝にちょこんと乗っかってきた。
「ヒイロおにいちゃんどうしたの? 何か悩み事?」
「……昼間、ネコを治療してくれたあの男と会った」
「あのおにいさんと? ふうん……そう言えばまだお礼を言って無かったなぁ……お礼を言うのも愛?」
「そうなのだろうか……俺にもよくわからん、だがまた会えた時はちゃんとお礼を言ったほうがいい」
「うん……!」
カオスはいまだに愛が何なのか色々と調べて回っている、まあ以前のように暴走して他の誰かに危害が及びそうになっても、イカロス達が何とかするから心配はないだろう。

その時……カオスははっと天井を見上げる。
「どうしたカオス?」
「……! お兄ちゃん逃げて!」
突如大声を張り上げるカオス、すると俺は上空から何か恐ろしいものが襲いかかってくるような気配に気付き、彼女を抱えたままその場を飛び退いた。


―――ドガァァァン!!


すると突然天井が破られ、俺達のいた場所に電柱が突き刺さっていた。
「外したか……流石はガンダムのパイロットという訳か」
そしてそこに銀色のショートヘアに、首から太ももまでをぴっちりした黒いタイツのようなもので纏い、肩まで露出している両腕には金色のガンドレットを装備しており、背中からは黒い羽で出来た翼を生やした俺と同い年ぐらいの少女が降り立った。
「エンジェロイド……!!?」
「おにいちゃん下がって! こいつは……!」
俺はすぐさまそいつがエンジェロイドだと見抜き、何か武器になるようなものを探すがカオスに手で制される。
「懐柔された失敗作か……今はお前に用はない」

するとそこに、騒ぎを聞きつけた智樹とイカロス、ニンフとアストレアがやってくる。
「コラお前ら! 今度は何をした…………!!!?」
「コレは……!?」
「エンジェロイド!!!? シナプスの差し金!!?」
「家の中にまで攻撃してくるなんて……!」
すると少女は現れたイカロスをじっと見つめる。
「……ターゲット確認、これより捕獲作戦に移る」
「何を……ごちゃごちゃと!!」
アストレアは先手必勝と言わんばかりに手元に出現させた剣で切りかかる、しかし……。
「動きが大ぶりすぎる……」


―――ブォン!!


「きゃ!!?」
剣を片手で受け止められ、そのままもう片方の手で投げ飛ばされてしまった。
「デルタ!!?」
「くっ!」
その様子を見てイカロスはすぐに背中からレーザー砲を発射させる、しかし少女はそれを入ってきた天井の穴から家の外に出ることで回避する。
「外に逃げた! 追うわよ!」
「はい!」
「ま、待ってください~!」
「私も行ってくるね?」
そしてイカロス、ニンフ、アストレア、カオスも翼を大きく羽ばたかせて上空に飛び立つ。
「こっ! コラ~! お前らまで天井を壊すなー!!」
「俺達も行くぞ」
俺は怒る智樹の首根っこを掴んで外の様子を見に行った……。



SIDE:日和
たまたま月見さんの家におすそ分けを持って来ていた私は、隣の桜井くんの家で大きな轟音を聞いて外に飛び出す、すると……。
「イカロスさん達が……!? あの黒い羽のエンジェロイドは!!?」
同じく外に出た月見さんが上空で戦っているイカロスさん達と黒い羽のエンジェロイドを発見する。
「と、とにかく桜井くんの家に行ってみましょう!」
「うん!」
私達はすぐさま桜井くんの家に向かう、するとそこで庭から上空の様子を窺っている桜井くんとヒイロさんを発見する。
「どうしたのトモちゃん!!? 家に電柱が突き刺さっているよ!!?」
「お、俺にも何がなんだか……!」
「あのMSは……!」
その時、私達はヒイロさんが上空であるものを発見して驚愕している事に気付く、彼の視線の先には、肩から八本の羽のようなものを生やした赤い二本の角を生やした青いロボットが滞空していた。
「あ、あれもMSなの!? まさかヒイロ君の世界の……!?」
「いや、俺も見たことのないMSだ」
「なんだ!? アレも敵なのか!?」
「わからん、だが……!」
するとヒイロさんは裏山に向かって駆け出そうとする。
「おいヒイロ!? どこ行くんだ!?」
「アレが敵ならば俺が戦わなければならない! ゼロを取ってくる!」
どうやら急がなければいけないようだ、でもここから裏山に行くと大分時間がかかってしまう、ならば私が……!



SIDE:イカロス
「でやー!!」
空中で謎のエンジェロイドと対峙する私達、まずはアストレアが先制攻撃を仕掛ける。

――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!

「成程、超加速型の翼……エンジェロイド一と言われた事はありますね、ですが……」
しかし謎のエンジェロイドはアストレアの高速の剣撃を回避していった。
「動きのパターンが単調です、これなら距離を離すまでもないでしょう」
「くっ!!?」
「アルファ! デルタを援護するわよ!」
「了解……! アルテミス起動」
私達はアストレアを援護するため、援護射撃を開始する、しかし……。
「システムMEPE起動」
謎のエンジェロイドはアストレアから一瞬距離を置くと、分身して私達の攻撃を回避していった。
「反応が増えた!!? 対象を捕えられない!」
「あの残像、質量を持っている……!」
そしてその分身達は私達に向かって、持っていたライフルからビームを出して牽制攻撃を仕掛けてくる。
「きゃ!」
「くうう!!?」
「サシの対戦中に無粋な真似をしないでください」
「よくも先輩達をおおお!!」
アストレアは私達が攻撃された事に怒り大ぶりの攻撃を仕掛ける、すると……。
「遅い!!」
残像を使って攻撃を回避し、背中に回り込んだ。
「なっ!?」
「貴女にはテクニックが無い分スピードとパワーがそれを補っています、しかぁし!!」
謎のエンジェロイドはそのままアストレアの体を担ぎあげ、首と太ももをがっちりつかんでプロレス技のバックブリーカーを掛ける。
「んぎゃああああああ!!!?」
「貴女には圧倒的に“闘魂”が足りない!」
出所不明のパワーによるダメージで絞殺される鶏のような悲鳴を上げるアストレア。
「デルター!!」
「だ、大丈夫です! これぐらい……んおりゃあああああ!!!」
アストレアは持ち前のパワーで技を解こうと腹筋の力を使う。
「ならば……ふぅぅぅん!!!」
すると謎のエンジェロイドは体を回転させて竜巻を起こす。
「わわわわわわ!!?」
「うぉんどりゃあああ!!!」
そしてアストレアを掴んだままそのまま高く飛び上がった後、急降下して……。


――ドゴォォォン!!


クレーターが出来るほどに地面にたたきつけた。
「がっ……ふっ……!」
「3カウントは必要ないですね」
「よくもデルタを! パラダイスソング!」
アストレアがやられてしまい怒ったニンフは超々超音波振動子を謎のエンジェロイドに向かって放つ。
「ほう、コレは避けられない、ですが……」
対して謎のエンジェロイドは右手にラッパを出現させ、吹き出し口に口を付け……。
「パラダイスファンファーレ! ふん!」


―――プブオオオオオオオン!!!


「きゃあああ!!?」
ニンフの超々超音波振動子をそのラッパの音で相殺してしまった。
「超々超音波振動子を使えるのは貴女だけではないのです……む?」
「あはははは!」
突然、カオスが謎のエンジェロイドに奇襲を掛ける、どうやらずっとタイミングを見計らっていたようだ。
「めっ」

――ズビシッ!

「あう!?」
しかし謎のエンジェロイドは奇襲に驚く事なく、カオスのおでこにデコピンした。

「めっ! めっ! めっ!」

――ズビシッ! ズビシッ! ズビシッ!

「はう!? あうっ!? ひうっ!? すごく痛い……これも愛?」
それも何発も、あまりにもおでこを重点的に攻撃されたので、カオスは涙目になって赤くなっている個所をさすった。
「貴女にあげる愛など無い!」
言い切った謎のエンジェロイドはそのままカオスの胸倉をつかみ、竜巻が起こるほど回転し始めた。
「わー?」
「もういっちょうぉんどりゃあああ!!!」
謎のエンジェロイドはそのままカオスを天高く投げ飛ばす、そしてカオスが飛んで行った先には……。

――ドカァ!!

「きゃあ!!?」
「あう!?」
「ニンフ!」
ちょうどニンフがいて、カオスと衝突し地面に墜落していった。
「残るは貴女だけですね、ウラヌス・クイーン」
「……!」
いつの間にか謎のエンジェロイドは飛びあがって手をポキポキ鳴らしながら私の前に対峙していた。
「貴女は我がマスターの一番となる大事な体、ですが抵抗するようなら動けないくらいに痛めつけても構わないと指示されています」
そして彼女は闘気のオーラを纏いながら身構えた。
「空の女王と呼ばれた貴女の実力……見せていただきます!」
「何が何なのかよくわかりませんが……マスター達を傷つけるつもりなら容赦しません」
対して私も背中の翼を大きく開いて戦闘態勢に入った……。



SIDE:ヒイロ
日和の翼でゼロの元に送り届けてもらった俺は、そのままゼロに乗り込んで彼女と共に謎のガンダムとエンジェロイドの元に戻ってきた。
『ヒイロさん! アレ……!』
「イカロスはエンジェロイドと交戦中か……俺はあのMSと通信を試みてみる」
『は、はい!』
俺はずっと宙に浮いたまま動かないMSに通信を試みた。
「聞こえるかそこのMS」
『ああ、聞こえているさ……ヒイロ・ユイ、久しぶりだね』
「俺の名前を……? お前は一体?」
するとゼロのモニターに相手MSのパイロットの顔が映し出される、俺はその顔を見て今まで生きていた中で一番と思えるほど驚いた。
「トレーズ……!? トレーズ・クシュリナーダ!!?」
『ご名答、直接話すのはルクセンブルク以来かな?』
「何故……お前が生きている!? お前はあの時五飛が!」
その時、コックピットに相手MSとは別の所から通信が入る。
『ヒイロ! 聞こえるか!』
「守形か? 何故ここに……」
『騒ぎを聞きつけて美香子と一緒に来たんだ、事情は智樹達から大体聞いたが……そのMSはなんだ!?』
「わからん、だが乗っているのは……」
『初めまして守形英四郎、君の事は空のマスターから聞いている』
『俺の名前を……!?』
「こいつはトレーズ・クシュリナーダ、俺の世界の人間で……死んだ筈の人間だ」
『何だと!?』
(まさかこの人、私みたいな……!?)
守形と日和はトレーズが何故生きているのか心当たりがあるようだ。すると突然……トレーズの乗るMSがドーバーガンを構える。
『すまないがヒイロ・ユイ……私とこのガンダムアクエリアスの戦いに付き合ってもらうぞ、死にたくなければ全力でかかってくるんだ』
「アクエリアス……!? くっ!?」
そしてドーバーガンの銃口からビームが放たれ、俺はゼロを横に移動させてそれを回避する。
「一体何がどうなっている……!? 仕方ない、目標前方の敵機、これより破壊する」
そのまま俺はゼロにビームサーベルを持たせ、アクエリアスと呼ばれたトレーズのMSに直進する。
『ではコレだ』
対してトレーズはアクエリアスの腕に内臓されたヒートロッドを振りまわしてゼロの接近を防いだ。
「ヒートロッドまであるのか……」
『元々はエピオンのサポート機として開発されたものだからねえ、さあ往くぞ戦士よ!』
アクエリアスはゼロの頭部から発射されるマシンキャノンの銃弾をモノともせず、ヒートロッドをこちらに向かって発射した……。



SIDE:日和
『トレーズやめろ! 俺達の戦争はもう終わった筈だ! 何故あのエンジェロイドに手を貸す!?』
『すまないな……私にはどうすることもできんのさ! そういう風に改造されてしまったのだからね!』
あの声……確かあの時私に話しかけてきた男の人? ヒイロさんの世界の人だったなんて、それに死んでいる筈ということは……!
『あの男、どうやら日和と同様にエンジェロイドに改造された恐れがあるな』
守形先輩はヒイロさんのウィングゼロカスタムとトレーズさんのアクエリアスの戦いを見ながら冷静に状況を分析していた、エンジェロイドに改造されているということは、やっぱりあの人はあの時の私のようにインプリンティングで空のマスターに逆らえないの……? その割には自我を保っているみたいだけど……。
『ヒイロ! その男を説得する事は出来ないのか? お前達が闘うと空美町の人達にまで被害が及ぶ』
『可能性は無くは無い、この男は無駄な犠牲を嫌うからな……』
ならば選択肢は一つしかない! 私が皆にしてくれた事を、今度はあの人にしてあげれば……。
「私! ニンフさんを連れてきます!」
「いや、大丈夫よ……私はここにいる」
すると私の目の前に突如、ボロボロの姿のニンフさんが現れた。
「ニンフさん!? ひどい怪我……!」
「大丈夫よ、デルタとイプシロンの方がひどいし……ところで話は聞いたわ、あのロボットの中の男を止めればいいのね?」
『ああ、トレーズには聞かなければならないことがある……殺すのはその後だ』
「物騒ねアンタ……私の力ならインプリンティングを絶つ事が出来るわ、でも直接触れないと……」
「なら私が……ええい!」
私はすぐさま持っていた杖を天高く掲げ雷雨を発生させる、エンジェロイドに改造された私は天候を操る能力を持っている、これなら……!
「ヒイロさん! 高度を下げて!」
『了解!』

――ピシャアアアアン!!!

『おお……! コレはコレは……!』
上手く行った! ウィングゼロが高度を下げて今一番高い所にいるのはアクエリアス……おかげで雷が上手く当たってくれた!
『いい作戦だ、おかげで一瞬怯んでしまったよ』
『はあああ!!』
そしてウィングゼロはそのまま上昇しながらアクエリアスに接近し……。

――スバッ!

『私を切らないようコックピットをビームサーベルで破壊したか』
「今だ!」

――キュィィィィン!!

今度はニンフさんがアクエリアスに接近し、背中の透明な羽を大きく広げ、インプリンティングを解除する為のシステム、アフロディーテを展開する。
「ハッキング開始! システム侵入! ウィルス注入開始!」
『ぐぐ……うぉぉぉ!!』
トレーズさんもある程度もがき抵抗する、しかし……ニンフさんの力が上回っていた。
『もう戦うのはやめろ! トレーズ!』
『うぉぉぉぉぉぉおお!!』


そして数秒後、アクエリアスは機能を停止して地面に落下していく、そしてそれをウィングゼロカスタムは受け止めた。
『生体反応を確認……一時地上に帰還する』
「パイロットは死んでないの? ふふふ……よかった」
ヒイロさんの報告を聞いて安心したニンフさんは、そのままオーバーヒートを起こして意識を失い、地上に落下していった。
「ニンフさん!」
私は慌ててニンフさんを受け止め、彼女が地面に落下するのを防いだ。
『よし、MSの方は片付いたな、後はイカロスのほうか……』



SIDE:智樹
ヒイロ達があのロボットと戦っている一方で、俺とそはらはイカロスと謎のエンジェロイドの戦いを見守っていた。
「い、イカロスさん頑張って!」
「くそ! なんで……なんでなんだよ!」
イカロスは相手のエンジェロイドの圧倒的なパワーに押されていた。砲撃は分身によって回避され、接近戦は手痛いカウンターを喰らう……おかげでイカロスは目に見えるほどダメージを蓄積していった。
「はぁっ! はぁっ……!」
「他愛ない……これが空の女王と呼ばれた者の実力ですか」
「まだ……です……!」
イカロスは自己修復の後翼を大きく広げてアルテミスを起動させる。
無数の追尾弾が謎のエンジェロイドを襲う、しかし彼女は鼻で笑いながらそれを次々とビームで落としていく。
「自分に向かってくるだけ……芸の無い技ですこと、では貴女に芸のある技を見せてあげましょう」
そう言って謎のエンジェロイドは目にも止まらぬ速さでイカロスに接近する。
「あっ……!」
「遅い!」
エンジェロイドはそのままイカロスの体を前から抱え背中で手を繋ぎ、サバ折りの体制を取る。
「くっ……離して……!」
腕も封じられ身動きが取れないイカロスは、足と羽をばたつかせていた。それを見たエンジェロイドは不敵に笑った。
「では……私のハグをご堪能ください」
すると謎のエンジェロイドの体にバリッと電流が流れる、そして電流はドンドン増えていき、捕まったままのイカロスに大量に流れ込んでいった。


―――バリバリバリバリッ!!!


「ああああああああ!!!?」
「い、イカロスー!!!」
数十秒後、大量の電流を流されたイカロスは掴まれたまま天を仰ぎ機能をほぼ停止していた。
「あ……う……」
「これだけやればしばらく動けないでしょう」
「は、早くイカロスさんを助けないと……!」
そう言ってそはらが助けを呼びに行こうとした時、突如空に巨大な魔法陣のようなものが現れた。
「こ、今度はなんだ!?」
そしてその魔法陣の中から、逆さ吊りにした胴体の腰の部分に、大きなヤシの木の葉っぱのような尾を四本生やしたヘンテコなロボットが現れる。
「な、なんだアレ!? あれもMSあのか!?」
「私に聞かれてもわからないよう!」



SIDE:イカロス
私は謎のエンジェロイドに捕えられたまま、突如出現した謎のMSの元に連れて行かれた。
「ヒテン様……イカロス様を連れてきました」
「流石ハルカ! 僕の麗しき剣! よくやってくれた!」
するとMSの中から黒い長髪を後頭部でゴムで纏めたマスターと同い年ぐらいの少年が出てきた。
「君がイカロスかぁ……ああ、生で見ると美しさも段違いだ! その瞳! 髪! 肌! 肢体! すべてが僕のものになるのか!」
この人……一体何を言っているの? 私はマスターの……。
「ハルカ」
「はい」

――バリィ!

「っ!」
突然、ヒテンと呼ばれた少年は私を捕えているエンジェロイド……ハルカに指示を出して私の体に電流を流させる、おかげで私の朦朧としていた意識ははっきりと目を覚ました。
「ふふふっ、痛そうな顔はしないんだね……」
「あなた達、何を……」
「なあに簡単さ、君は僕に……」
するとヒテンは私の腰に手をまわし、もう片方の手で私の顎を支えた。


「すべてを捧げてくれればいいのさ」
「―――!!」
ヒテンはそのまま、私の唇に自分の唇を重ねた。


「ん……んんん!!」
突然唇を奪われ私は抵抗するが、後ろにいるハルカに腕を掴まれ動く事が出来ない、そうしていくうちにヒテンの舌が私の口の中を舐め回していく。
そして互いの唾液が口の中で混じっていき、呼吸するのが困難になって来てからようやく私は口づけから解放された。
「けほっ! こほっ! うっ……ふ……」
「ほら、君のマスターも見ているよ」
「え……!!?」
私はヒテンに言われるがまま地上を見る、するとそこには驚愕した様子でこちらを見ているマスターとそはらさんがいた。
「い、いや! マスター……見ないでください!」
「なんで? もっと一杯見てもらおうよ、ほら」
そう言ってヒテンはもう一度私の髪の毛を掴んで唇を強引に奪った。もう片方の手で私の尻を触りながら。
(やめて……マスターが見ているのに……こんな……!)
私は自分の中の何かがこの男に侵されていくように感じて、瞳をぎゅっと閉じて一筋の涙を流した。その時……。
「イカロスさんを離せ! デメテル起動!」
突如日和さんが衝撃波でヒテンに攻撃を仕掛ける、しかし……。
「その技は効きません! ふん!」

――プァァァァァン!!!

ハルカのパラダイスファンファーレで相殺されてしまった。
「まったくお楽しみの最中だっていうのに、無粋な子だなぁ……君達は儀式が終わった後でちゃんと可愛がってあげるから安心しなよ」
「何を!?」
「ヒテン様……」
「しょうがない、続きはシナプスでしようか」
するとMSの周りに再び魔法陣が現れ、私達はその中に取り込まれていった。
「待ちなさい! イカロスさーん!!」

そして私は……ヒテンによってシナプスに連れていかれてしまった……。










今日は一旦ここで切ります、次回は大体の謎の回収を行う予定です。



[28144] 第七話「破壊」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/06/22 22:43
 第七話「破壊」


SIDE:智樹
イカロスがあのヒテンとハルカってやつらに連れ去られてから一時間後、俺やそはらや日和、守形先輩と会長、そしてヒイロは負傷したアストレア達やあのガンダムアクエリアスってやつに乗っていたトレーズという男を家まで連れて帰り、治療が終わった後居間で話し合いをしていた。
「ニンフさん達エンジェロイドの皆と、あのトレーズって人……とりあえず今は隣の部屋で休んでいるよ」
「そっか、わかった……」
様子を見に行ったそはらからの報告を受けて、ニンフ達が無事だと分かり俺は胸を撫で下ろした。
「トレーズ……何故生きていたんだ、あいつはあの時五飛が……」
「恐らく日和と同じ状況だろう、空のマスターは交通事故で一度死んだ日和をエンジェロイドに改造して生き返らせたことがあるからな……」
「はい、私ちゃんと見ました……トレーズさんの背中にイカロスさんのような羽が生えているのを……」
「まったく、相も変わらずひどい事するわねシナプスは……」
「……」
ひどい事をすると言えばそう、あのヒテンとかいう男だ、あの男は嫌がるイカロスに対し無理やりキスをしたあげく浚っていった、一体何が目的であんな事を……!
「あの二人は何者なんだ!? ハルカってやつはエンジェロイドっぽいけど……!」
「落ち着け智樹、カッカしても事態は好転しないぞ」
「今はトレーズが目を覚ますのを待つんだ、奴から色々と聞き出せるかもしれない」
「くっ……! 判ったよ、ちょっと俺風呂に入ってくる」
俺はモヤモヤした気持ちを晴らす為一人風呂場に向かった。

そして俺は脱衣所で服を脱ぎながら、先ほどのイカロスとヒテンの様子を思い出す。
「くそっ! なんでこんなにイライラするんだ……!? ああもう! こういう時はひとっ風呂浴びて……!」
俺は脱いだ服を脱衣籠に叩きつけて浴室の扉をあける、するとそこには……。


「ん? 先に入っているよ」
トレーズが沢山のバラが入った風呂(お湯:バラ=0:100)につかっていた。赤ワインが入ったグラス片手に。


「ひ、ひとんちの風呂で何やってんだアンタはあああああああ!!?」





「いやあ、君達には助けられたよ、感謝している」
数分後、バスローブを身にまとったトレーズはイカロスが飼っている鶏をブラッシングしながら俺達にお礼を言っていた。
「い、いつの間に目を覚ましたんですか?」
「ああ、つい先ほどね……それでちょっと汗臭かったのでこの家の風呂を借りさせてもらったよ」
「勝手に沸かしたお湯を捨てるな! ていうかあれだけのバラどっから持ってきた!!?」
なんかイカロス達がいないのにいつも以上に疲れるのはなんでだろう……そんな時トレーズの顔見知りであるヒイロが話しかけてきた。
「トレーズ……何故貴様はあいつらと一緒にいた? 一体何があった?」
するとトレーズはイカロスが大事にしていたスイカをキュッキュと磨きながら語り始めた。
「うむ……張 五飛との戦いに敗れた後、私はある研究所で空のマスターと名乗る男に起こされた……そこで私はその男の好奇心の為の実験で生き返された事、インプリンティングと呼ばれる機能でその男に絶対服従をしなければならないことを知った、あの二人に協力したのも空のマスターの命令だったんだ」
「その割には……私の時と違って自我が保たれていたようですけど……」
「どうやら個人差があるらしい、服従しなければならない点は変わらないけどね、でも今はニンフとかいうお嬢さんのおかげで晴れて自由の身だ」
「あの二人について何か知っていないのか!? なんであの二人はイカロスを……!」
俺の質問に対し、トレーズはイカロスのスイカを八等分に切りながら答えた。
「あの二人はヒテンとハルカ……死んだ私を空のマスターに受け渡し、イカロス君を手に入れる為に彼らと協力していたらしい」
「何が目的でそんな事を……」
「……ヒテンはエンジェロイド最強であるイカロス君を自分の中に取り込もうとしているんだ」
「取り込む……? どういう意味だ?」
「ヒテンは人間じゃない、“デビルガンダムJr”というMSが創り出したサイボーグなのさ」
トレーズの話を聞いてヒイロが首を傾げる。
「デビルガンダムJr……? 聞いたことのないMSだな」
「そうだろう、何せアレは私達の世界とは別の“第98管理外世界”という所で作られたMSだからな、あのMSは生身の人間をコアにして初めて完成するらしい、そしてコアになる者が女性で、なおかつ何かしらの力を持って強ければ強い程いいらしいんだ」
「成程、それでイカロスが狙われたのか、イカロスはエンジェロイドの中でも抜きん出て強いらしいからな」
守形先輩が説明を聞いてウンウンと頷き納得する。
その時……俺はふとある不安に駆られ、トレーズに質問する。
「あ、あの……そのデビルガンダムJrが完成したらイカロスはどうなるんだ!?」
「……すまない、私にもそこまでは……彼らの最終的な目的もよく判らない……ただ……」
「ただ?」
「彼は一言……“自分は神になる”と言っていた」
「神……?」





SIDE:イカロス
気がつくと私はどこかの研究室にある培養液の入ったガラス張りのカプセルの中に入れられていた。脱出しようとしても体に力が入らない、機能を停止している間に何かされたのかもしれない……。
「お目覚めかい? 僕の白雪姫」
すると私の目の前にヒテンが現れる、彼は溶媒液に浸かる私の体を舐め回すように見つめていた。
「……!」
「ふふふ、怖い顔だ……燃え上ってしまうじゃないか」
そう言ってヒテンはすぐ傍にあった端末を操作して溶媒液を排出し、私をカプセルから出す。
「くっ……! こ、来ないでください……!」
私は抵抗しようとアルテミスを起動させようとする、しかしその時……私の足元から深緑色の触手のようなものが生えてきて、私の足や腰に絡みついてきた。
「いっ……いや!」
生まれて初めて感じる不快さに私は思わず悲鳴をあげる、それを見てヒテンはうすら笑いを浮かべながら私にじりじりと近づいてきた。
「大丈夫、直に気持ち良くなるから……」
そう言ってヒテンは私に抱きつく、すると彼の手や体がメリメリと根を張るように私と一体化していき、私はそれに気付いて精いっぱいもがいた。
「は、離して……!」
「一生離さない、僕の花嫁さん……」
少しずつ私の体が彼に浸食されていく、私は初めて感じる恐怖で涙を流しながら精いっぱい抵抗する、しかし……力を吸い取られているのか動くことすらできなくなり、少しずつ意識も遠のいていった。

(マス……ター……)



そして私は、ヒテンと一つになった。



SIDE:空のマスター
「ほほう、面白いものだ、アレがDG細胞の特性なのか」
私はヒテンとイカロスが一体化していく様子を王座に座りながらモニターで眺めていた。
「はい、後はあの石を使えばヒテン様はデビルガンダムJrとして完成します、ここまでのご助力、感謝しております」
奴の配下のエンジェロイドであるハルカが頭を垂れる、ふん……心にも無い事を、大体こいつは何なのだ? 私も……恐らくダイダロスも知らないような機能を兼ね備えて、裏切ったとはいえ私の傑作であるイカロスらを倒すなんて……こいつを作った者は一体何者なんだ?
「やあやあ、お待たせいたしました」
するとそこにヒテンが妙につやつやした顔で研究室から戻ってくる。
「……? イカロスはどうした?」
「今僕の本体の中で眠っていますよ、いやあ……普段は仏頂面なのに可愛がると可愛い声を出すんですねえあの子は」
「ふん、いい趣味をしている」
どうもこいつのへらへらした顔は気に食わない……いや、それだけじゃない、こいつがかつて私に苦渋を舐めさせたホワイトドールに似たを使い、私の作ったエンジェロイドに二度目の敗北を与えたのも気に食わない……!
「ヒテン様……もうすぐあの方達に報告を済ませませんと」
「ああ、そうだったね……でももう一つ、僕らにはやることがある」
「やる事? 一体それはなんだ?」
そんな話一度も聞いていないぞ? お前達はイカロスを捕獲出来ればそれでいいのではないのか?
「いや……実はあの方達に追加で命令を受けていましてね……」
そう言ってヒテンは指をパチンと鳴らす、すると……。


―――ゴゴゴゴゴ!!!


「なっ!!?」
私のいる王座の間に、奴の本体であるデビルガンダムJrが押し入ってきたのだ。
「貴様!? コレは一体何の真似だ!?」
「“あの方達”が言うには……我々の技術を見せたアンタを野放しにしておくと、そのうち変なちょっかいを掛けられるかもしれない、だから今のうちに潰しておけとの事」
「「貴様ぁ!!」」
反射的に私の両隣で待機していたハーピー1とハーピー2がヒテンに襲いかかる、しかし……。
「跪け!!! ヒテン様の御前だ!!」


――ググシャ!!


「「がああ!!?」」
ハルカによって片手ずつで頭を掴まれそのまま床に頭から叩きつけられた。
「ふん……ゴミが」
「き、貴様ら……!」
「あはは、どうしたんですかそんな怖い顔して? 狩る側と狩られる側に立場が変わったぐらいで青筋立てないでくださいよ、蝗野郎」
「い、蝗野郎……!!? 無礼な……!」
今までにない侮辱を受け私は青筋を立てる、その時……床からガンダムの頭を付けた巨大な触手……ガンダムヘッドが無数に生えてきた。
「い、いやぁー!?」
「助けてマスターぁぁ!!!」
そのガンダムヘッドは倒れていたハーピー1とハーピー2を咥え、そのまま丸のみしてしまった。
「あ……? あ……?」
信じられない光景に私はその場でへたり込む、するとヒテンはそのまま私の元に近づき、恐怖で引きつる私の顔を嘲笑しながら見下していた。
「アンタは地上の人間を地蟲(ダウナー)と呼んで虐殺していたらしいけど……僕にとっては大事な大事な“労働力”なんだよ? 大切な労働力を減らされちゃたまったもんじゃないんだよ、だからアンタらシナプスは害虫に羽が生えただけの存在なんだよ、ドゥーユーアンダスタン?」
「なん……だと……!?」
「だから僕達は、大事な労働力を守る為に害虫駆除をしてるだけさ、ああ大丈夫、他のエンジェロイドは僕が大事に使うし、今眠っているシナプス人はそのうち駆除しておくから、それじゃ」
「き、貴様ぁぁぁぁ!!!」
激昂した私はヒテンに襲いかかろうとするが、その前に横から襲いかかってきたガンダムヘッドに噛み付かれてしまう。

―――ゴリッ!! バキッ!! ゴリッ!!

「ぎにゃああああああああ!!!!」
「あっはっはっは! ぎにゃあああ!! だって!」
私は自分の体が噛み砕かれる音と、食われる私をあざ笑うヒテンの声を聞きながら意識を失っていった……。





SIDE:ヒイロ
俺達はトレーズからイカロスを浚った奴らの大体の目的を聞き出し、今後どうするか皆で話し合いをしていた。
「と、とにかく……あいつがイカロスを使って良からぬ事を考えているのは確かなんだろう!? なら助けにいかないと!」
「私はトモちゃんに賛成です! 今こうしている間にもイカロスさんがどうなっているか……!」
智樹とそはらはイカロスを助けにいくつもりのようだ、もちろん俺もそうしたいが……。
「奴らの本拠地であるシナプスとはどう行けばいいんだ?」
「普通に上空にあるぞ、降りてきた私が言うんだから間違いない」
「でも磁気嵐がひどいから地上からシナプスを補足するのは容易ではない、ダイブゲームを使って行った方が……」
俺とトレーズの案の代わりを守形が提案してくる、その時……。
「いや……相手はMSっていうのも使うんでしょ? ならヒイロのウィングゼロの力が必要になる……ダイブゲームであれだけの質量を転移させるのは不可能よ」
ニンフ、アストレア、そしてカオスが俺達のいる居間に現れた。
「みなさん! まだ寝てなきゃダメですよ!」
「ありがとう日和……でももう私達は平気! それよりも早くイカロス先輩を助けに行かないと!」
アストレアは気合十分といった様子で鼻息を荒げる。
「私達なら直接シナプスに行く道を知っているよ、ヒイロおにいちゃんの道案内をすればいいんだよね?」
「カオス……いいのか?」
「あの時のイカロスおねえさま……すごく悲しそうだった、あんなの愛じゃないよ」
カオスもまた自分の考えがあって、俺のゼロを使って直接シナプスに向かう案を提案してきた。
「プランが大分固まってきたな……俺は行くつもりだが、皆はどうする?」
守形の質問に、智樹達は次々と答えて行った。
「もちろん行きますよ、一応……俺はイカロスのマスターですからね」
「そうねえ……好きな子がいる女の子に無理やりあんな事するような奴なんて、会長直々に消し去ってくれるわ~」
「私も同じ気持ちですよ会長……! あの人絶対許さない!」

「私達も当然行くわよ、ねえ皆?」
「はい! 今度こそ負けません!」
「私も行きます……桜井くんを悲しませるような人は許しておけません!」
「イカロスおねえさまは私が助けるよ」


皆の決意を聞き、最後に俺はワイングラス片手に話を聞いていたトレーズに質問した。
「トレーズ……お前はどうする?」
「ふふ、君達には自由にしてもらった恩があるからね……私でよければ力を貸そう、アクエリアスの修理もすぐにできるんだろう?」
「コックピットの穴を塞ぐだけだからね……カードの転送装置を使えばすぐに終わるわよ」
「なら問題は無い、私も存分に力を振るおう」



こうして俺達は明日明朝、ゼロとアクエリアスを使ってシナプスに向かう事になった……。





SIDE:ダイダロス
モニターで見るシナプスの様子は……地獄だった。
『ぎゃあああああ!!?』
『う、うわあああ! なんだこいつら!?』
『こっちにきたぞ! 空のマスターは何をやって……ぎゃああああああああああ!!!』
シナプスにいる人々やエンジェロイド達は皆、イカロスをコアにして力を増大させたデビルガンダムJrの餌食になっていた。シナプス人はすべて生きたまま食い散らかされ、エンジェロイド達は後に利用するため丸のみにされる……まさに世の終焉と呼ぶにふさわしい光景だった。
「ひどすぎる……! このままじゃここもいずれ……とにかくドームにいる人達だけでも助けないと!」

―――バコォォォン!!

その時、私の隠れ家の床がガンダムヘッドによって突き破られる。
「もう見つかった!? くっ……!」
私はそのまま壁際まで追いつめられ、今まさにモニターに映っていたシナプス人のように食べられようとしていた。
「っ……! トモ君……!」
私は覚悟を決めて目をギュっと閉じる、その時……私の横に青い魔法陣のようなものが現れた。
「こちらです!」
「え!?」
そしてそこから腕びた腕に掴まれ、私はその中に取りこまれて窮地を脱する事が出来た。
「あ、あの……貴方は?」
木々の生い茂った森にやってきた私は、自分の窮地を救ってくれた青年を見つめる。
「初めましてダイダロスさん……僕はウィング、あなたの味方です」
「ウィング……?」
「ちょっと詳しい話をする暇は無いようです、もうすぐマイスターと智樹さん達が来ます、彼らと合流したほうがいいでしょう」
「は、はあ……」
私は何が何だか分からず、とりあえずウィングと名乗った青年の言うことに大人しく従った……。









今日はここで切ります、次回はウィングゼロとデビルガンダムJrの決戦を描く予定です。


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