第六話
終業式から月日は経ち、新学期を控えた日の早朝
麻帆良学園郊外の森の中に、二つの影が交差する
一つの影は少女、もう一つの影は青年
少女は野太刀、青年は身の丈よりも大きな大剣をその手に持ち、二,三度切り結ぶとそのまま鍔迫り合いとなる
一瞬のこう着の後、二人は後ろへと距離をとる
しばしお互いの動きを観察していた二人だったが。少女、桜咲刹那が太刀を居合いの形に構えなおし体内で気を練り上げる
青年、伊織順平は刹那から今までより強い力を感じ取り、大剣を握り直す
瞬間、二人は同時に走り出した
「神鳴流奥義 斬岩剣!!」
「オラァ!!」
巨大な鉄の塊が衝突した様音が響き、二人の斬撃はその余波で土煙を上げる
土煙が晴れ、二人の姿が露わになると刹那の握っていた太刀はその手を離れ、傍らに落ちていた
一方、順平はに二撃目の構えを取っている
「……参りました」
「うしっ、今日はこんなもんだろ」
「ありが……とう……ございました」
肩で息をしながら桜咲が礼を言う
実は夜間警備を通して少しながらも打ち解け、自分よりも実力があると思われる順平に休みの間こうして稽古を手伝ってもらっていた
もちろん他のSSのように最初は順平に勝負を挑んだりしたがここでは割愛
「しかしながら伊織さんは相変わらず太刀筋が無茶苦茶ですね」
「まぁ、ちゃんと身に着けたもんでもねぇしな」
息を整え愛刀の夕凪を鞘に収めながら、今日の手合わせで感じた事を伝える
痛いところを突かれたと、苦笑いしながら話す順平を見ながら刹那は
(太刀筋は無茶苦茶だが、独学であそこまで強くなるとは……どれだけの死線をくぐってきたのだろうか……)
「そんなことより、オジョーサマとはどうよ?」
「ひぇっ!?」
思考に没頭していたところに、不意打ちのように声を掛けられ驚きのあまり変な声が出てしまい恥ずかしさからか、頬を赤く染める
「いや、その、あの……」
「あーうん、なんか分かった……」
「すみません……」
なぜこのような会話をしているかと言うと、数日前に遡るが……
茶々丸に買い物を頼まれ、休日の街で片手で紙袋一杯になった荷物を持ち空いているもう片方の手で茶々丸に渡されたメモを見ながら順平が歩いていた
「えーっと……他に買う物は、おっとと」
手元のメモを見ながら歩いていたため、周囲が見えなくなっていたところに小学生くらいの双子が軽くぶつかっていった
「ごめんなさーい!」
「おねえちゃーん!前をちゃんとみるですー!あわわごめんさいー!」
「いいって、いいって。 ほれ、お姉ちゃん行っちゃったぞ? 次は気をつけろよ?」
「ごめんなさいですー!お姉ちゃん待つですー!」
袋から落ちた髭剃りを取りながら、髪を二箇所でかわいらしくまとめた少女に双子の姉と思われるツインテールの子が走り去った事を告げると、最後に軽く誤りながら走り去って行く
(がきんちょは元気がねーとな、天田少年もアレくらい可愛げあってもいいのになー……ん?なんだありゃ?……刹那ちゃんだよな?)
二人の後姿を眺めながら生意気な短パン少年の事を思い出していると、路地裏に身を潜めている刹那を見つけた
「うーっす、何してんだー?」
「ふぇっ! あぁ、伊織さんですか驚かしゃないで下しゃい……」
(噛んだ……)
(噛んだって思われてる……)
静寂が二人を包み、まるで永遠とも思える時間が過ぎた
「コホン! わ、私はお嬢様の警護をしていたところです」
「あ、あぁ……なるほどー(誤魔化した……)で、オジョーサマってどこよ? こんなとこに居んのか?」
路地裏の雰囲気からか、かつて不良に絡まれたときに目にしたいかにもギャルっぽい姿を想像してしまい、だったらやだなーなんて考えていた順平だったが
「いえ、お嬢様はあちらのファミレスにて友人とお食事中です」
刹那が指差した方向を見ると、確かにファミレスで食事をする三人組がかすかに見えたが
肉眼で詳細が見えるほど近くはなく店に丁度その一組しかいなかったためにかろうじて分かるくらいだった
「いや、護衛って遠すぎね? 聞いた話じゃタメで昔からの付き合いなんだろ? 隣にいりゃあ良いじゃ……はっ!」
呆れ気味に素直な感想を告げていた順平だったが、突如何かに気付いたように目を見開く
「も、もしかして!?」
(まさか私の事が気付かれた!? この人もきっと私の事を避けてしまう……)
「嫌いなの? 護衛なんかのせいで私の人生がーって、私の青春返しやがれー! とか思ってたり? はっ!? もしくはいじめられてる!? 実はオジョーサマがリーダー格で、私の半径100メートルに近づくなって言われてるとか!? こえー、女こえー」
「ち、違いますっ!! 私はお嬢様のことをお慕い申し上げていますしっ! お嬢様もこんな私に声をお掛けになってくださいます!」
想像と違う答えに拍子抜けした刹那はついつい声を荒げてしまい、順平はいきなり大声を出された事にビックリして紙袋から果物ナイフが落ちた
「わりーわりー。つかそんなに好きなんだったら、なおさら近くに居ればいいんじゃね?」
「それはっ! できません……」
「……ハーフってやつだからか?」
「!?(なぜそれをっ!)」
無意識に竹刀袋から夕凪をすぐに取り出せるように構える
「わりーな、実は学園長から聞いてたんだわ。 そんで力になって欲しいって言われてな……あんま気にすんなよ、そんなのカンケーねぇって」
「っ!? あなたに何が分かるんですかっ!? 今までずっと異端とされ、迫害されてきた者の気持ちが……化け物の気持ちが貴方には分かるんですかっ!?」
今まで誰かに相談することもできずに一人で抱え込んでいた闇を、最近現れたばかりの男にいきなり気にするなと言われ、刹那は激昂した。
烏族の者からは異端児、不幸の象徴とされ蔑まれ、人間からは穢れた者、醜い生き物と迫害されて生きてきた刹那にとって、その辛さを知らない人に言われたくない事。
偽善の一言、そう感じてしまった。
「わかんねーよ。」
順平はいつもの軽い話し方からトーンを変え、真っ直ぐに刹那を見つめる。
それは刹那を落ち着かせるためだったのかもしれない、だがしかし今の刹那にとってどのような言葉も態度も意味が無い、特大の地雷を踏んでしまったのだから。
「だったら!!」
「でもな……」
そんな事を言うな、と続けようとした刹那の言葉を先ほどよりも一層トーンを落とした、と言うよりも悲しそうな声で順平が遮る
「大事な人を守れなかった、って気持ちは痛いほど知ってんだよ……だから、あんな気持ちは誰にも味合わせたくねぇんだよ……」
悲痛、その時の順平の表情を表すならばこの言葉だろう
付き合いは短いが、見た感じや言動からよくいるチャライ人だろうと思っていた順平の普段とは違う表情。その顔には悲しみだけでなく、後悔や苦悩が入り混じっていた。
そんな順平を見て、もし自分がお嬢様を守れなかったら……そしてその時近くに居れば守れたとしたら……と考えると胸の辺りがズキンと痛んだ
「それに、普通じゃねえってんなら。 オレだってそうだぜ?」
「へ?」
そう言うと先ほど落とした果物ナイフを拾い、パッケージから取り出し大きく頭上に掲げると
自分の手に振り下ろした
「なっ! 何をしてるんですか!? 早く止血を!」
「あー、大丈夫だから落ち着けって。 ほれ、見てみろよ」
「何を呑気に言って……え!?」
突然の行動に驚いて、制服のポケットからハンカチを取り出して止血をしようと順平の手を取った刹那は目の前の現象に目を丸くした
明らかに数針は縫う怪我だったのにもう引っかき傷程度になっている、唖然としている間に傷は消えてしまい、もはや傷跡すら残っていない
「回復の魔法とかです……か?」
今まで見た事のある回復魔法を超える治療速度にまだ衝撃を受けている刹那が問いかけるが順平はいつもの能天気な口調に戻り
「いんや、生まれつきってわけじゃねぇけど体質みてぇなもんだって。 これだって普通の人からすれば異常だろ? でもな、これのおかげで仲間を助けられた時だってあったんだぜ? 刹那ちゃんのハーフがどういうのかは知らねぇけど、大切な人を守るための特別な力なんじゃねぇの?」
「異常では無く、特別な力……ですか」
「そっ! だから前向きに行こうぜ!」
いつもの無邪気な笑顔を見せながらサムズアップする順平
その笑顔を見ながら、普段誰にも言えない悩みを打ち明ける事が出来た刹那は妙に清清しい気分になり、順平に言われた”特別な力”でいつか木乃香を隣で守り抜こうと自分の心に強く誓う
「今すぐには、無理かも知れませんが……また、このちゃんと呼べる日が来るように……私も前に進んでみようと思います!」
「うしっ! 頑張れよ! なんか手伝えるならおれっちも手を貸すからよ!」
「はい! よろしくお願いします!」
時は戻り
「あーうん、なんか分かった……」
「すみません……」
アレだけ見得を切ったのに未だに挨拶を交わせるくらいに、しかも緊張を隠すあまりにそっけない態度になってしまって前よりも若干ぎこちなくなっている。進展してない現状に申し訳なさそうに頭を垂れる刹那だったが、不意に頭の上に何かが置かれたので顔を上げると
「まぁ、気にすんなよ! 刹那ちゃんは刹那ちゃんのペースで進めればいいって」
見上げてみると順平が刹那の頭の上に手を置いて、いわゆるナデナデをしながら優しそうな目で見つめていた
「はっはひっ! が、頑張ります! あっあの! 私、朝食の準備があるので失礼します!」
「おっおう!また後でなー!」
耳まで真っ赤にしながら土煙を巻き上げて物凄い速度で走り去る刹那を見送る順平だったが、自分の腹も悲鳴を上げ始めたので今日の朝食に思いを馳せながら帰宅の準備をすませてエヴァの家へと急ぐのであった
数時間後、学園長室の前にはデザイン性の高いカスタムスーツとネクタイもせずにボタンを数個開けた紺色のシャツ、大きめのバックルつきのベルトにチェーンまで付けた順平が今まさに学園長室に入ろうとしていた
「はよざーっす」
「おお伊織君、おはよう。 今日からよろしく頼むの、今担任の方が向かっておるから待っててくれんかの?」
「うーっす、担任はどんな人なんすか?」
「ふぉふぉふぉ、見てのお楽しみじゃ……きっと驚くぞ?」
片方の眉毛を持ち上げ、楽しそうに笑う学園長を見て何か嫌な予感がした順平が詳しく聞きだそうとした時にドアをノックする音が部屋に響いた
「ほっほ、来たようじゃの」
「ちょお! まだ心の準備が!」
「失礼します。学園長、お呼びになったそうですが?」
順平が慌てているとドアが開き、10歳前後の外国人少年が入って来た
「あんだよ、びっくりさせやがって~」
初等部の生徒が来たのだろうと、ため息を吐きながら深くソファに身を沈める
「いやいや、伊織君。 彼が担任を勤めてくれているネギくんじゃぞ?」
「は? え? まじで? どう見ても小学生じゃ……」
「マジじゃ。10歳じゃが一応、大学卒業程度の語学力があるしの。 それに、記録上ではオックスフォードを飛び級で卒業しておる」
(記録上って……まさか?)
学園長の言葉に引っかかる物があった順平が疑いの目でジーっと学園長を見ると
(うむ、魔法関係者じゃ)
「(いや、そー言う問題か?) 何でもありだな、おい……」
視線を受けて考えてることが分かったのか大きくうなずく学園長、それを見て魔法以上にこの学校の異常性に頭を抱える順平
「あのー学園長、こちらの方は?」
「おお忘れておったの、今日から君のクラスの副担任をしてくれる伊織順平君じゃ。 伊織君、こちら担任の」
「そうだったんですか、ネギ・スプリングフィールドです、ネギと読んでください。至らぬところもあると思いますが宜しくお願いします」
「お……おお、よろしくなオレッチも順平でいいぜ」(これで天田より年下とか……しっかりしすぎだろ最近のがきんちょ。てか……さすがにコイツは復讐とかしねぇよな?)
見た目は子供なのに自分よりもしっかりしているように見えるネギにフェザーマン大好きっ子を重ねてしまい、まさかこうなった原因も一緒じゃねぇよな?等と考えながらも表情には出さずににこやかに握手する。
「ふむ、ネギ君は来てもらって早々で悪いんじゃが。 そろそろHRが始まるのでのう、細かい事は道すがらでも良いかのう?」
「あっ! もうこんな時間でしたね! それでは伊織先生、ご案内しますから着いてきて下さいね」
「さんきゅ、じゃ失礼しましたー」
ネギに先導されながら順平が学園長室から出て行く
「ほっほ、人知れず戦い世界を救った英雄からネギ君は何を学ぶのかのう。 いやはや、まだまだ死ねぬのう」
二人が立ち去り、一人きりになった部屋で誰に聞かせるでもなく子の成長を見守る親のように微笑ながら学園長が呟く
「伊織先生は若く見えますけど、おいくつなんですか?」
「若いって、ネギ少年から見れば大体はオッサンっしょ? つーか、順平でいいって言ってんだろ?」
「あうう、実は今朝失礼な事して怒られたばかりだったから……日本の人は礼儀に厳しいって言うし……」
確かにいきなりパンツ消したり、スカートを捲られたりしたらどんな大和撫子でも怒ると思うが、しかし本人に悪気が無いため、被害に遭っている少女Aもマジギレと言うほどではない……はず
そんな事を思い出して落ち込んでいたら、突如順平に頭を押さえつけられガシガシと乱暴に撫でられた
「んな事気にすんなって、おれっちなんか失敗ばっかよ? オマエぐらいの年だったら、たくさん失敗してその分怒られて成長すりゃいいんだよ」
「う、うん!」
今まで父性というものに触れたことの無いネギにとって、年上の男性からこのような対応をされるのは初めてであり。
子供扱いをされている、ちょっと恥ずかしいなどの様々な感情が入り混じっていたが、何よりも単純に嬉しかったのである。その為……
「ね、ねぇジュンペー……」
「ん?どしたネギ少年?急にモジモジして、トイレか?」
「ちっ違うよ! あ、あのさ……お兄ちゃんって呼んでもいいかな? なんかジュンペーに撫でて貰ったら、もしお父さんやお兄ちゃんが居たらこんな感じなのかなって……嫌だったらやめるけど……」
捨てられた子犬のように潤んだ目で上目遣いで見上げながら、お願いと言う名の脅迫を敢行するネギ
ついうっかりその可愛らしさにキュンとしてしまい、心の中で『違う!オレはノーマルだ!』と魂の戦いを繰り広げる順平だったが、父が居たらと聞いた時に理解してしまった。
ネギがしっかりしている理由はきっとそこにある、かつて天田もそうだったように目の前の少年も孤独に耐えてるのかもしれない。
「いいぜ、いくらでもなってやるよ。 だけどそう呼ぶには学校の外で生徒のいない時にしとけよ? わかったかネギ?」
「わかったよ、お兄ちゃん!」
再び、しかし今度は先ほどとは違い優しく撫でられて全身から喜びを表しながら元気よく答えるネギに、わかってねぇと苦笑いしながらデコピンをお見舞いして廊下を再び歩き出す二人、傍から見ればまさしく仲の良い兄弟にしか見えなかった。
二人はとある教室のドアの前に居た
「それじゃあおに……ジュンペー!僕が呼ぶまでここで待っててね!」
またもや兄と言いそうになるのを訂正したはいいが呼び捨てになってしまうネギ、それもどうなんだと思いながら教室に入って行くネギを見送る
「「「「「「3年!A組!! ネギ先生ーっ!!」」」」」
「おわっ!?」
「えと……改めまして3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから三月までの一年間よろしくお願いします」
「「「はーい! よろしくー!!」」」
「それと今日から副担任の先生が変わります、それじゃあ、おに……伊織先生どうぞー!」
「「「「おぉぉー!!!」」」
「また……私の情報網に引っかからなかった……」
クラスの元気の良さに苦笑いしつつもドアを開き、教室へと足を運ぶ。クラス中の視線が一身に浴びせられ、過去に転校した時に思いっきりすべった事を思い出し、今回は普通に行こうと決意しながら教壇へと進む
「どもども、今年から副担やる事になった伊織順平っす。基本はネギ少年のフォローだけど、わかんない事あったら聞きに来てくれてオッケーだかんな」
普段の言動で三枚目キャラとして扱われているが、顔に関しては美形とは言えないが整っている上に服装には気を使っているために黙っていればそれなりに見える
『かっこいいかもー』とか『えー、あたしはパスかなー』『あの人、どっかで見たですー』『あれ!?この間エヴァちゃんと茶々丸ちゃんといた人じゃない?』等、教室がざわつきはじめたところで一人の少女が立ち上がった
「麻帆良報道部、突撃班!朝倉和美です!質問いいですかー?」
「おっ?どんどん聞いちゃって、おれっちどんどん答えちゃうから」
「じゃあ早速! ウチのクラスのエヴァちゃんと一緒に歩いてる姿が目撃されてますが関係は!?」
「えーっと、遠縁の親戚でな。 家がでかいっつーから世話になってんだ」
事前に打ち合わせしておいた内容を述べる
「ふむふむ、ちょっと怪しいですがいいでしょう。それと目撃情報からおそらく伊織先生だと思うんですが、桜咲さんとの密会はホントですか!?」
「密会て……剣の稽古に付き合ってやっただけだっつーの、ホントそういうのどこから広まるの……なんか怖いー」
順平がふざけながらも剣の稽古と答えた時に数人の生徒がピクッと反応した、その中にはカンフーバカや忍者バカも居たが何時もの事なので割愛
反応した生徒には普段は動じない近衛木乃香とエヴァも入っていた、もっとも二人の理由はまったく違うもので
木乃香は最近になって挨拶するようになったが、よりギクシャクしてしまっている親友が一緒に稽古するほど仲がいいのなら何か知っているかも知れないので今度聞いてみようと思い
エヴァに至っては
(毎朝どこに行くかと思いきや……おのれ桜咲刹那め!このままでは私の計画がずれてしまうではないか!)
実際に見ていれば健全な稽古なのだが、朝が弱いエヴァは居ない事は知っていても後を着けたりなどは出来なかったため、不純な物と決め付けていた
(順平……後で処刑だっ!)
順平が知らないうちに生命の危機が迫っていた
そんな本人はそれ以降も様々な質問が繰り広げられ、過去の失敗談から何故かスリーサイズまで聞き出されてしまいすでに疲労困憊となっていた
「まだあるの? オレ、ガス欠っすー」
「えーっと、次はー女性関係について!彼女とかどうなんですか!?」
「!?」
その質問を受けた瞬間、頭の中で赤髪の少女がフラッシュバックしてした
よく見なくては分からない程だったが、深い悲しみの色にその目が染められる
「ちょっと前にな、色々あって別れちまった……そもそも付き合ってたかも定かじゃねーしな」
あくまで明るく振舞うが、それでも何名かにはその発言が強い悲哀によって紡がれた物だと感じた
一番近くに居た上に、他人の心情の変化に鋭い朝倉がまずい質問をしてしまったかと思った時
「ネギ先生、今日は身体測定ですよ。3-Aのみんなもすぐ準備してくださいね」
「あ、そうでしたここでですか!?」
「うーし、じゃ質問はここまでだな。さっさと着替えちまえよー」
ネギに外に出るぞ、と目配せをして二人で連れ添いながら外に出る
「しっかし元気なクラスだなー、ネギ」
「うん! みんな元気一杯でいい人ばっかりなんだ! お兄ちゃんもすぐに仲良くなるよ!」
キャイキャイと聞こえてくる黄色い声を背に、ドアの前でいかにも疲れましたと言った風にへたり込む順平が両手を振り回してクラスの事を話すネギを見て
やっぱりまだまだ子供なんだなーなどと思っていると、廊下の向こうから少女が走ってきた
「先生ーっ! 大変やーっ! まき絵が…まき絵がー!」
「何!?まき絵がどーしたの!?」
「わあぁぁー!!」
「うおぉぉ!? ゆかりっちより……」
「まき絵が桜通りで倒れてたって! それでさっき保健室に!」
中学生とは思えないなかなかボリュームのある裸体を目の前にして、うろたえてしまう順平だったが倒れたと言う単語を耳にしてやっと現実へと意識を引き戻した
「はっ!?とりあえずこっちはオレが見てるからネギ行ってこい!」
「わ、わかったよお兄ちゃん!」
「ちょっ! ネギ、待ちなさいよ! 私も行くから!」
「のわぁっ!? とりあえず服! 服!」
「へ?」
「あ……」
「あれ?」
「「「「「「……キャーーーーー!!!」」」」」
ネギが保健室へ向かおうとした時に何名かの生徒が一緒に行くと身をさらに乗り出すが、未だに下着姿なのを忘れていたらしく順平に言われワンテンポ遅れて気付く
もしこの場に居たのがネギのように年端もいかぬ者であれば皆も気にしなかったのだが、順平のような年頃の男性に見られるのは恥ずかしいらしくわなわなと体が震え始め、その中にいたツインテールの少女の右ストレートが炸裂した
「ふごうっ!?」
顔面に思い切り拳がめり込み、勢いをそのままに吹き飛ばされ空中で錐揉み回転した後に廊下に顔面から着地しそのまま滑走して行った
「ふっ、いい右だ……グッジョ……ブ」
そう言い残すとネギの走り去る足音をBGMに順平は意識を手放した
~あとがき~
毎度毎度このような駄文をお読みいただきありがとうございます
せっかくなので、順平に新スキル「ナデポ」なるものを継承させてみました
稚拙な文ですがこれからも付き合って頂ければ幸いです