先月、8日間入院した。初めての手術に初めての全身麻酔。手術台の上で点滴を打たれるとあっという間に意識は遠のき、目覚めると手術は終わっていた。その間、意識はどこにもなく、大げさに言えば、私の命は医師の手の中にあった。
ためらいなくゆだねられるのは、医師たちが積み重ねた「職業倫理」への信頼感あればこそ。そう痛感している時に発覚したのが、佐世保同仁会病院前理事長による養母殺人事件だった。抜糸直後の私は、殺害という事案の重さもさることながら、職権を悪用して病死と偽ったことに、より強い怒りを覚えた。
逮捕から2週間余。事務長によると、病院は平穏を取り戻しつつあり、入院も外来患者も大きく減ってはいないという。それは先代以来の歴史や、事件隠ぺいを許さなかった良心など、無形の財産ゆえだろう。看板の傷は決して浅くはないが、信頼は「患者本位」の積み重ねで取り戻すしかない。コツコツと。【野呂賢治】
〔長崎版〕
毎日新聞 2011年6月23日 地方版