一存で家来を切腹させられた江戸時代の大名だ。だが、その不行跡から重臣らによる“殿様降ろし”にあうこともあった。この時、殿様はお家存続を大義名分に「押込(おしこめ)」と呼ばれる監禁状態に置かれたが、すぐ隠居させられるとは限らなかった▲「再出勤」「御出勤」とは、殿様が押込によって改心し、誓約の上で君位に戻ることを意味する。つまり押込が改心のための強制隠居猶予期間となっていた場合が多いらしい。ただ何しろ殿様だ。復位と共に押込にかかわった家臣に厳しい報復をするケースもあった▲笠谷和比古さんの「主君『押込』の構造」(講談社)の受け売りだが、君臣関係も時には逆転した。ならば現代の与党幹部こぞっての首相降ろしや、首相のクビを材料にしての野党との駆け引きも、別に驚くに当たらない▲先の内閣不信任案での「菅降ろし」の際は、その時期を「一定のめど」との言葉で曖昧にした退任意向表明で即時隠居を免れた菅直人首相だ。今度は首相交代とも内閣改造とも受け取れる「新しい体制」という言葉を誓約に用いて延長国会での「再出勤」を取り付けた▲この殿様、いや首相の粘り腰、近年の無責任な政権放り出しにあきれていた国民には久々に目にする首相の権力への執着だ。しかし今は被災者が将来不安に苦しみ、原発危機収束への必死の作業が続く震災との闘いの真っ最中である。いくら何でもお家騒動は場違いだ▲「めど」やら「新しい体制」やら言葉遊びを繰り返す主君押込騒ぎである。どう言葉を解釈しようと、目前の問題は何一つ解決しない。この国の政治の現実対応能力はどこまで低落するのか。
毎日新聞 2011年6月23日 0時20分
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