1956年の水俣病公式確認から55年を迎えた1日、熊本県水俣市で犠牲者慰霊式(同市など主催)が営まれた。受け付け開始から1年となる、水俣病被害者救済法に基づく国の救済策には、すでに4万人超が申請。3月には最大の訴訟派団体「水俣病不知火患者会」との和解も成立し、未認定患者の救済問題は節目を迎えている。約650人の参列者たちはあらためて犠牲者を悼み「水俣病の経験を忘れず、教訓を次に伝えていかなければならない」と訴えた。
患者・遺族代表の緒方正実さん(53)は「祈りの言葉」で「水俣病から何を学び、何を伝えていかなければならないのか。亡くなった生命から突きつけられている」と述べた。東日本大震災に伴う福島第1原発事故にも触れ「水俣病の教訓がこれまで本当に生かされていたのか」と問い掛けた。
近藤昭一環境副大臣は「救済の措置は一歩一歩前進しているが、これからが大切。医療、福祉の向上に努めてまいります」と、環境相の言葉を代読した。
原因企業チッソは分社化により、被害者補償を担当する本体と、営利事業を担う事業子会社「JNC」に分かれ、JNCは4月から営業開始。チッソの後藤舜吉会長は「JNC水俣製造所を中心に事業計画を確実に実行することで、補償責任を果たせるよう、支えてまいります」と誓った。
式典には96年以降、環境相(環境庁長官)が出席していたが、防災担当兼務の松本龍環境相は東日本大震災への対応のため欠席。昨年は鳩山由紀夫首相(当時)が首相として初めて出席していた。
水俣病被害者に一時金210万円などを支給する国の救済策には3月末現在、熊本、鹿児島両県で計4万2196人が申請。同患者会の訴訟は、原告約3千人の90%以上に一時金を支給するなどの条件で国側と和解が成立した。
=2011/05/02付 西日本新聞朝刊=