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社説:世界の原発 安全へ規制の強化を

 国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会議が、原発の安全対策強化に関する閣僚宣言を採択した。天野之弥事務局長による5項目の安全対策も示された。

 「核の番人」といわれるIAEAは、これまで核兵器の拡散に目を光らせるお目付け役と位置づけられてきた。原発施設の安全については強制力のある権限を持っていない。

 しかし、原発の安全は世界の課題である。世界には米国、フランスを筆頭に全部で約440基の原発がある。中国、インド、ベトナム、アラブ首長国連邦など途上国・資源国を中心に新設計画も数多い。

 大事故がひとたび起きれば、その影響は甚大で、国内だけでなく世界に及ぶ。福島第1原発の事故を教訓に、世界の原発の安全性を高めることが急務であり、国際的な対策を迅速に進めたい。

 閣僚宣言には、事故防止策としてIAEAの役割の強化や、安全基準の見直しなどが盛り込まれた。天野提案では、津波や地震、長期にわたる全電源喪失などを考慮し、安全基準を1年以内に見直すとしている。

 自国の原発の危険と安全性の検証も宣言に盛り込まれた。これはIAEAに促されるまでもない当然のことだ。ただ、自国だけで評価すると甘くなる恐れは否定できず、かといってIAEAがすべてを評価するのも難しい。

 天野提案のように国際的な専門家チームが抜き打ち的に調査を行うのは、客観的な安全確保のために重要な方策だろう。その際には強化された新たな安全基準で評価すべきだ。

 安全基準の強化への対応は各国の思惑により分かれる。原発輸出国のフランスやロシアは積極的だが、新たに原発の導入をめざす途上国は消極的な傾向があるようだ。

 安全基準が厳しくなれば、対策強化による原発のコストがかさむ。途上国にとっては原発導入が難しくなる。先進国でも新設のハードルは高くなるだろう。

 しかし、福島第1原発の事故で明らかになったように、安全よりコストを優先させれば大惨事を招きかねない。国民や近隣諸国の人々の命や健康、生活を脅かすだけでなく、事故対応や賠償のコストははかりしれない。

 IAEAの安全基準は加盟国に順守を義務づけているものではない。しかし、国際的な法的枠組みを強化し、規制に強制力を持たせることが必要ではないか。

 閣僚宣言は福島第1原発の事故について日本とIAEAが透明性のある包括的な評価を示すことを求めている。世界の原発の安全のために真摯(しんし)に対応することは、事故を起こした日本の義務である。

毎日新聞 2011年6月22日 2時30分

 

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