血…
鮮血が舞う…
それを見て、認識している自分に気づく。意識が浮上している?
自分の意識などとうの昔に削除されたとオモッテイタ…
あれからドノクライの時間がナガレた?
3日?
1週間?
1年?
それとも…10年?
…ワカラナイ
痛い…ナニガ?
胸が…ナンデ?
視線を下げると自分の胸に一振りの剣が突き刺さってイタ。
アア…だからか…だから胸が痛くて、血が舞ってイルノカ。
寒い…顔をアゲタ。耳にキレイな音がヒビク。キレイな滝。そして舞い散るユキ…蒼氷の滝。オボエテル…あの日、ミンナデ見た光景…ミンナって?
「ごめんなさい…先生…」
声ガ聞こえル。懐かシイ?聞いたことガアル…?
目の前ニ女がいタ。見渡せばホカニモ人間が沢山イル。
目の前のオンナは剣を握っている。この女に刺サレタ?
ジャア殺サナイト…殺シテヤル
…マテ。このニンゲン、見たことガある?
懐かしい、デモ何かガチガウ…大きさ?記憶の中のアノコより大きくナッテイル…成長…アア…そうカ…
「アリー…ぜ…なの、かい?」
「っ…先生、意識が⁉」
女が驚きの声を上げる。その声に反応して周りの人間も駆け寄ってくる。
不思議なことに目の前の女をアリーゼだと認識した途端、意識がはっきりしてきた。
そのうえで改めて胸の傷を見る。これはもう助かりそうにない。
足の力が唐突に抜ける。自分を支えられず、その場に崩れ落ちる。
「そんな!あり得ない…レックスの人格は消去されている筈よ!だから今回の作戦に踏み切ったのに…これじゃあ、私がレックスを殺…」
「んなこたぁ今はどうでもいい!!先生の意識が戻ったんてんなら、何がなんでも救うんだ!ヤード、お前も来い!」
「はっ、はい!…盟約に応えよ!」
眼鏡の女が取り乱している。金髪の男が叫びながら自分の胸に手を当て何かしている…ストラか。銀髪の男がしているのは、召喚術。
アルディラ…カイル…ヤード。
「ダメです、ストラも召喚術も天使の奇跡すらもうけつけてもらえません!」
「なんで!なんで治療できないの!このままじゃレックスが…」
「心拍数、体温ともに低下が止まりません…もう、数分もちません…」
「クソっ!原因はなんなんだ!それが分からねぇと手の打ちょうがねえ!」
フレイズ、ファリエル、クノン、ヤッファ…
治療の手段を持たない仲間達もなんとか自分を救おうと必死になっている。
でも無駄だよ。
俺が一番よく分かってる。俺はもう助からないよ。
せっかくハッキリした意識が朦朧としてくる。ああもう長くないな。
とうとう座っていることすらできなくなり、その場に横たわる。
それでもみんなの顔を目に焼き付けようと顔を必死に動かし仲間を見ていると、側にアリーゼが腰を落とした。
「ああ…アリーゼ、立派に…なった、ね…とても、綺麗だよ…」
「あれから、20年たったんですよ、先生。もう私のほうが年上です」
そうか、そんなにたっていたんだ。
「軍人にはなれたの、かな…?」
気がかりなのはそれ。まだ教えたかったことは残っていたから…
「いいえ…私は軍人にはなれませんでした」
ああ、ごめん、アリーゼ…俺は先生失格だ。
「私、この島で先生をしているんです。貴方の跡をついで…」
…驚いたな。まさかそんなことになってるなんて…
でも…うん。嬉しいな…それは凄く、嬉しい。
「貴方とっ…ウッ…一緒にぃ、この島で!先生をやりたくて…一生懸命頑張ったんです!」
楽しいだろうな、きっと。
「先生!死なないでぇ!先生の意識が今戻ったのは奇跡なんです!だから!もう一度、奇跡でもなんでもいいから!帰ってきてください!」
アリーゼ、言ってること滅茶苦茶だよ。ああでも、その通りだ。奇跡でもなんでもいいから…
「みんなと一緒に…いたいなぁ」
「っ…」
みんなが辛そうな顔をする。やめてくれよ。みんなのそんな顔が見たくないから、俺は頑張ったのに。
「ああ、そんな顔させたのは…俺かぁ」
「先生…」
少し落ち着いたアリーゼが、手を握ってくれる。
「あったかいよ、アリーゼ」
この温もりを手放したくないなぁ。なんでこんなことになったんだろ?
「どうすれば…よかったんだろ?こんな結末、認めたくないよ…」
「レックス…お前…」
そして思い出す。みんなが言ってくれた言葉を…
でもその時の俺はみんなのその想いを踏みにじっていたんだ。
今なら分かる。どれだけ自分が身勝手なことをしていたか…
これは当然の結末だったんだ。自分一人でみんなを守っているなんて傲慢の、ツケ。
あの時しなければいけなかったのは、一人で無色の派閥を殲滅するこなんかじゃなくて…
「みんなに頼れば…よかったのかぁ…」
「ゴメン…皆。俺が…まちがっ…て、た…よ」