東日本大震災で大きな被害を受けた福島県いわき市で、住宅地から大量の温泉が湧き出す異変が起きている。地下に広がるかつての炭坑にたまった温泉水が、地殻変動で押し上げられたのが原因とされ、市民生活にも影響が出ている。
同市内郷高坂町のアパート経営、我妻千恵さん(50)は、震度6弱の余震があった4月11日夜、何かが流れるような大きな音に気づいた。停電のため夜明けに確認すると、お湯がアパート敷地の地面から染み出し、雨水を下水に流す管からも大量に流れ出ていた。
独立行政法人「産業技術総合研究所」(茨城県つくば市)が調査したところ、南に約4キロ離れた湯本温泉と同じ泉質の27度の温泉だった。最近は床下の地面からも湧き出し、コンクリート製の階段は温泉の鉄分で変色、滑りやすくなった。
地盤沈下も起き、我妻さんは不安だが、「結構肌に良い」とも思うようになった。たらいに温泉をため、小学3年生の娘と足湯を楽しむことも。原発事故で、地元では海水浴もできないため「近所の子供の遊び場にしてもらいたい」と話す。
地下水系などについて研究している同研究所の風早康平・深部流体研究グループ長によると、アパートから湧き出る湯量は1日200トンを超えた。3月11日の大地震で太平洋側に伸びたいわき市周辺の地殻が、4月の余震で縮み、坑道跡にたまる温泉が地面のひび割れから押し出されたと分析する。
アパートから約10キロ南の同市泉玉露では、転落防止のため旧炭鉱の排気口を囲う円筒形のコンクリート製建造物(高さ3.7メートル、直径10メートル)からほぼ同じ時期に温泉があふれ出た。湯量は多過ぎて計測不能で、温度は約50度。風向き次第で硫黄臭のする湯煙が隣接する住宅街に充満し、苦情も出ているという。
建造物を管理している「常磐興産」は、かつて炭鉱を経営し、閉山後は映画「フラガール」の舞台となった温泉レジャー施設を成功させるなど、炭鉱、温泉とも縁が深いが、初めての現象に戸惑いを隠さない。「現在の湯量は豊富でも、いつ止まるか分からない」(同社)ため開発もできず、地元住民への説明会を開くなどして様子を見守る方針だ。
風早グループ長は「地下の湯量が増えたわけではなく、数カ月で収まるはず」としている。ただ、各地の温泉での湯量の変化や変色は「今回の地震の地殻変動が誘発した」とも指摘。収束まで時間がかかる可能性もあるという。【門田陽介】
毎日新聞 2011年6月21日 12時09分(最終更新 6月21日 12時26分)