地方の資産持ちで、親族の多くは医者か事業家という旧家の当主が、折々に漏らしていた。「あとはいざという時のため、親類に一人ぐらい弁護士がいてもいい」
弁護士の微妙な位置をうまく言い表した挿話だと思う。いないと困るが、できれば用なしに済ませたい脇役的存在。主役になるのは破産管財人の時くらいでいい。それが社会の健全性というものだろう。
とすると(18日付「近聞遠見」も指摘していたが)、首相官邸中枢(枝野幸男、仙谷由人正副官房長官)や政党党首(自民党・谷垣禎一氏、公明党・山口那津男氏、社民党・福島瑞穂氏)が弁護士だらけの日本政界は、やはりどこか変なのだ。
自民党全盛期は弁護士議員が目立たなかった。引退した長老に訳を尋ねたことがある。「弁護士はすでにある法律を正しく使う仕事。政治家は新たに法律を作って国や社会を導く職業。同じ法律絡みでも方向が逆だ。弁護士は政治家に向かない」
本物の政治家には直感と蛮勇、常識外れの執念が不可欠だ。権力の行使には、悪徳をものみ込む度量が要る。正義と論理で世の中渡ってきた弁護士さんがなろうとしても、どこかに無理が出る気がする。
小沢一郎民主党元代表が偏狭なのは、政界に出るまで司法試験の勉強ばかりしていたせいだ、という説があるけれど、逆に政治家としての才能は、弁護士にならず政界入りしたから開花したとも言えるだろう。
オバマ米、サルコジ仏両大統領も弁護士だが、なったのは20代前半に数年間、地域活動や政治の一線でもまれてからのこと、政治的動物としての素質が違う。
政治が躍動した時代、弁護士議員は脇役で上手に生かす人事の妙が政界に働いていた。仙谷氏の七転八倒には、今一歩政治家になりきれない哀れが漂う。
毎日新聞 2011年6月21日 0時20分
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