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■「津波の威力に耐えた“我が家”」 2011/05/20 放送

 今回の大津波では多くの住宅が流され、震災全体での被害は30万戸以上にのぼるといわれています。

 しかし福島県いわき市には、海のすぐそばに建ちながら津波の威力にも耐えた住宅がありました。

 この家が流されなかった訳と残されたあとの「現実」について取材しました。




 福島県いわき市の薄磯地区。
 
 <記者>
 「(家が)全く残ってないですね」

 瓦礫が散乱するこの集落で、ひと際目を引く家があります。

 <記者>
 「カメラさん、ちょっと来てください。1軒だけ(家が)残ってます」

 海のすぐ近くに…

 1軒だけ…

 あの津波に耐えた木造住宅があるのです。

 薄磯地区はおよそ260世帯、760人が暮らす太平洋に面した集落でした。

 遠浅の海岸には、夏になると大勢の海水浴客が訪れていました。

 しかし、津波によって住民の6分の1に近い、およそ120人が亡くなりました。

 海岸沿いに建っていた、およそ30戸の住宅も基礎や土台だけをわずかに残すのみです。

 <薄磯地区で家が流された人>
 「1階だけ流されてて、2階は奥の家にぶつかって止まってた。残った家はすごいで、残ったのあれだけだもん」

 1軒だけ残った家は、5年前に建築された2階建ての木造住宅です。

 丹野茂さんと妻のひでこさん。

 長男と3人でこの家に住んでいました。

 地震当日は全員仕事に出ていて、家の様子を確認しに戻ったのは翌日でした。

 <丹野ひでこさん>
 「瓦礫の中歩いて、それでうちだけ1軒だけ見えたんですよ。『あれ?』って感じでね」
 <丹野茂さん>
 「何とも言えない気持ちだよね」
 <丹野ひでこさん>
 「後ろから見たら住めるのかなと思ったくらい、ちゃんとしてたんでびっくりしたんですよね」

 中に入るとリビングの壁は剥がれ、部屋中に津波によって運ばれてきた漂流物が散乱しています。

 <丹野ひでこさん>
 「うちの物じゃないのが随分、中に入ってる。どこの家のものかわからないものが」

 2階は窓ガラスが割れ、物が散乱しているものの浸水した形跡はありません。

 津波は地表からおよそ3メートルの高さまできたとみられますが、なぜ、この家だけが流されなかったのでしょうか。


 <東京大学木質構造学 安藤直人特任教授>
 「建物の形、変形は少ない」

 木造建築に詳しい東京大学の安藤教授に調査してもらいました。

 水平を図る器具で家の傾きを計測すると・・・。

 <東京大学 安藤直人教授>
 「(傾きは)ほぼゼロですね。まっすぐはそのままです。非常に健全な状態です」

 家は今も垂直に建っていて、補修すれば住むこともできるといいます。

 さらに安藤教授は、周りの家の基礎や土台だけが残っていることに注目しました。

 <東京大学 安藤直人教授>
 「津波の力は(家の)足元から入っているので、柔道のすそ払いのようにその瞬間に家が持ち上がったり流されたりする」

 安藤教授の説明をもとに被害の状況を再現します。

 高さ3メートルの津波では、家の足元に最も力がかかるため基礎より上の木造部分が押し流されます。

 また、一部の家は水に浸かることで浮力が働き、重いコンクリート製の基礎だけを残して流されたと考えられるのです。

 <東京大学 安藤直人教授>
 「土台がまっすぐ抜けてる。土台がまっすぐ抜けてそのまま流されている」

 これに対して丹野さんの家は、あるモノが津波の被害を抑えたといいます。

 <東京大学 安藤直人教授>
 「この金物ですね。これが基礎から柱を引っ張っている。だから柱が上がらないんですよ。これが角々に入っているので、家自体が動くのを相当抑えられた」

 この金具は「ホールダウン金物」と呼ばれるもので、地震で家が倒壊しないように基礎と柱をつなぐものです。

 2000年の建築基準法改正で家の構造によってはこの金具の設置が義務付けられましたが、それ以前の家にはほとんど取り付けられていなかったのです。 

 別の家でも、この金具を後からつけたことで津波の被害は最小限に抑えられていました。

 <小野喜一郎さん>
 「ぴしっと閉まる。隙間、全然ないでしょう」

 この家は17年前に建てられましたが、周りの家が流されたり傾いたりする中、構造部分に被害はなかったのです。

 <小野喜一郎さん>
 「ここに住んでも良かったら、立て直して住もうかなと思ってね。今度は周りがオーシャンビューになっちゃうけどね。周りはほとんど家作らないから」

 津波を耐え抜いた我が家。

 しかし、家には戻れないかもしれないのです。


 津波で多くの住宅が流された、福島県いわき市の薄磯地区。

 海岸沿いに建つ丹野さんの家は、基礎と柱をつなぐ金具が設置されていて、1軒だけ流されずに残っていました。

 金具が津波から守ったのは、家だけではありません。

 <丹野ひでこさん>
 「子供のものが残っていたのが、一番うれしかった。これ(アルバム)は1階に置いてたんですけど、潮でぬれてしまったが流されないであったんです」

 かけがえのない家族の思い出。

 ひでこさんはアルバムなどを家から持ち出し、避難先のアパートで大切に保管しています。

 <丹野ひでこさん>
 「その時、その時の思いを言葉に書いてあるから・・・(涙)。残ってて良かったです、本当にアルバムは」


 専門家は、補修さえすれば十分住めると言いますが、丹野さんは家の解体を決断しました。

 そのワケは・・・。

 <丹野茂さん>
 「建てたらいけない地域になるという話なので、海から数十メートルは。解体するしかない」

 地震の前、薄磯地区の津波被害は砂浜と海岸沿いの住宅地の一部だけと想定されていましたが、今回の津波では集落のほぼ全域が浸水しました。

 海から近い丹野さんの家は、今後の津波被害を避けるため住むことができないエリアになる可能性が高いのです。

 <丹野茂さん>
 「どうしようもないですもんね。何回も何回も見て、帰りに毎日ここを通っている。くやしいです。消えちゃえば心の中もおさまるんですけど、まだ形が残っているうちはどうしても…。切ないですよね」

 津波に耐え、家族の思い出を守った木造住宅。

 丹野さん夫婦は、解体される前に我が家の姿を目に焼き付けておきたいと話しています。




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