関西電力が10日、大企業から一般家庭まで一律に昨夏ピーク比15%の節電を求めたことは、契約者に波紋を広げた。今夏も昨年と同じ猛暑となるのか。どうして一律15%削減なのか。JRや私鉄は首都圏並みの間引き運転となるのか--。関電の説明では疑問は氷解せず、自治体や鉄道会社などは対応に追われた。大阪府の橋下徹知事は「15%削減の根拠が不明。電力が足りないから原発が必要と言っているに過ぎない」と述べるなど、関西の知事らは関電の対応に一斉に反発している。【横山三加子、南敦子、安藤大介】
「現時点で原発の再稼働の時期が明確でない。顧客から節電が必要なら早期に示してほしいと言われた。夏が目前に迫ってきたので苦渋の選択をした」
関電の八木誠社長は会見で、節電要請は原発停止による電力の供給不足であることを強調した。しかし、協力を呼び掛けた節電がどうして首都圏と同じ15%で、時間帯も午前9時から午後8時までと長いのか。会見では記者からの質問が相次いだが、関電から納得のいく説明はなかった。
今回、関電は節電要請に合わせて、今夏の電力需要を昨年並みの「猛暑」の想定に変更し、3138万キロワットに引き上げた。関電が3月に発表した当初の供給計画は「過去10年の気象条件から平均的な夏場を想定してピーク需要を算出」(関電)していたが、猛暑とすることで、需要は当初計画より原発1基分に相当する約100万キロワット増えていた。
八木社長は「昨年のような暑い夏になっても停電しないようにすることが大事だ」と説明したが、これには伏線がある。海江田万里経済産業相が7日にまとめた経産省の内部資料に関電の需要ピークは「猛暑」の想定パターンに引き上げられていた。関係者によると、「関電は経産省から猛暑想定の試算の提出を求められた」という。
直前の猛暑への変更は電力需要が大きくなるため、原発再開のため電力不足を演出しようとする政府の意図が見え隠れする。同じ西日本でも中国電力などは「猛暑」を想定していないからだ。
予想が難しい気候を要素として入れる一方、東日本大震災で関西へ生産が移転することによる電力需要増や、震災でサプライチェーンが寸断する影響で関西企業の生産が減少するなど、実態としての電力需要の増減は「需要の動向を見るのが難しく、見込んでいない」という、大きな矛盾もある。
15%の根拠について、関電は猛暑時の電力不足分6・4%に予備力として5%を足した11・4%に、「さらに余裕を見込んで15%に設定した」という。猛暑に設定変更した上に、さらに余裕をみているというわけだ。今夏が当初想定した「平年並み」の夏であれば、15%もの節電はいらなくなるはずだ。
原発停止で供給力確保を急ぐ関電にとって、痛い誤算もあった。関電は10日、石炭火力発電の舞鶴発電所1号機(京都府舞鶴市)のモーターに不具合が発生し、5月30日から運転を停止していると発表。復旧を急いでいるが、同機の出力90万キロワットが夏場の供給力としてはカウントできない。同機が稼働していれば、当初の需要をほぼ満たす計算だった。
関電の全原発11基が立地する福井県の西川一誠知事は、東京電力の福島第1原発事故を受けた新たな安全基準を国が示さない限りは、定期検査中の原発の運転再開には同意しないと一貫して主張。原発立地自治体も知事の姿勢を支持している。知事は重要施設への地震による影響や高経年(老朽)化原発への対応などが不明と指摘しており、政府と関電の対応が問われる。
関東や東北から関西に生産を移管した企業は戸惑う。TOTOは、システムキッチンや衛生陶器を手がける関東の工場の生産機能の一部を滋賀県の2工場に移管したばかり。「東日本大震災の仮設住宅向けの注文がある。生産力を落とさずに乗り切る方法を考えたい」と苦慮する。
関西企業も対応を模索する。震災後に東日本の3工場に自家発電設備を導入した江崎グリコは急きょ関西の5工場にも自家発電設備の設置などを検討。7月から首都圏の本支店で大型扇風機を設置しエアコン使用を控えているりそな銀行は、関西でも取り入れる予定だ。
液晶パネルや半導体の生産には24時間稼働が必要。このため、シャープは堺工場(堺市)を始め、関電管内の対象工場を節電対象から除外するよう、関電に要請する。
今回の節電要請は関西経済に深刻な影響を与えそうだ。りそな総合研究所の荒木秀之主任研究員は「関西(福井県を含む2府5県)の年間域内総生産が0・5%減少」と試算した。節電要請がない場合は「生産部門の関西シフトを中心に、0・1%増を見込んでいた」という。京阪電気鉄道といった関西の私鉄やJR西日本、地下鉄は間引き運転などの検討を迫られる。市民生活にも影響が及びそうだ。
毎日新聞 2011年6月11日 大阪朝刊